演習A<秋>2001-2

1.論争とパラダイムの展開

国際関係論の起源

第一次世界大戦の政治・経済的影響:それまでの外交史と国際法を超える

;科学的方法

;戦争を終わらせるための戦争;戦争の原因を研究

リアリスト対アイデアリストの論争

古典的アイデアリズム(理想主義・観念論)

1.完全な人間性を前提(追求)

2.人々や国家間で利益は調和する。

3.戦争は争いの正しい解決策ではない。:利益の調和を示し、強調する。

4.正しい法律と制度が人々・国家を正しく行動させる。

;なぜ(国内・社会では)法律が守られるのか?:人々がそれに従って行動するからである。国際法によって、より平和な社会からなる国家を創り出せる。

;ユートピアン、もしくは理想主義者

;目的論・規範的命題

歴史家の批判:POWER強制力・権力・軍事力の重要性、国家行動の連続性、不完全な人間性

E. H. Carrの批判

国際連盟の失敗と第二次世界大戦

古典的リアリズム

1.人間は生きる意志を持ち、それゆえ、利己的・自分本位である。

2.生きる意志は、自分の環境を支配し、それゆえ、他者を支配する意志である。

3.支配を競うことから、Power権力が追求される。

;他国との外交政策を論じる際に、道徳性を前提できない。ナチ・ドイツやソヴィエトとの交渉。:1940年代・50年代初めの世界史

リアリズムと冷戦

ソヴィエト連邦とのイデオロギーと軍備拡張における競争が他の問題を圧倒する。

;アイデアリズムという対抗者を失ったリアリズムは、それ自体の有効性に自ら疑問を示し始める。

Kenneth Waltzによる批判:人間性は重要ではない。

;状況に応じて、人間は良い目的のためにも、邪悪な目的のためにも、行動する。

大論争再来:行動主義とリアリズム

研究方法:伝統的な歴史学(事例研究)と、統計的な行動主義

主権概念によるリアリズムの転換:国家が法律を制定し、自分以外の政治的権威をもたない。

;二つの主権国家が対立した場合、それらはどうやって問題を解決するのか?

国家が国際関係の一次的な主体であり、それらが合理的で、それぞれの効用を追求する場合、こうした国際システムを「アナーキー(無政府状態)」と呼ぶ。

;国家を支配する(世界)政府が存在しないこと。;国家は常に脅威にさらされており、自己の利益を守るためにも、権力を追求する必要がある。

;国際システムの構造が、国家を規定する。

<構造の変化>→<国家間関係の変化>→<新しい結果:現実>

;構造とは、@序列、A差別化、B能力、によって規定される。:@階層的か、無政府的か、A機能は特化しているか、B能力の競合・格差

1648年、ウェストファリア講和条約以前と以後の世界。:以前は、国家と教会が並存した秩序を保つ。以前は、領土ではなく個人(国王)に権力が集中。

;非常に大きく変わったのは、Bである。それゆえWaltzは権力の配分を構造的リアリズムの因果関係における重要な変数(国際システムの決定因)とみなす。

構造的リアリズム

1.国家は、国際関係の最も重要な主体である。(唯一ではない)

2.国家は功利的・合理的である。

3.国際システムはアナーキーである。

4.国家は、自己の利益を守るために、権力を最大化しようとする。

;「安全保障のジレンマ」:アナーキーな世界では、各国家はその安全や利益に対する潜在的な脅威に直面しており、軍備の増強に励む。しかし、これは連鎖反応を引き起こし、各国が競争的な軍備拡張に走る結果、どの国家も安全を確保できない。

;「安全」や「利益」を定義することは難しい。;リアリストは、その回答を避けて、生存が脅かされると言う問題に限定する。その場合、他の目標は無視される。

;政府は、市民が求める多くの目標を追求している。Power権力・軍事力だけでは、達成できない。:効用最大化・国家

ネオ・リアリズム

1.2.3.は同じ。

4.国家はその効用を最大化する。(安全・生存だけではない)

リアリズムへの対抗者

Hedlley Bullは、行動を支配する共通のルールに従う国家の集団が存在することを、システムと定義した。

;アナーキー(無政府状態)であっても、社会の他の属性は存続しうる。:コミュニティーや相互作用が行動を規制する。

システムを分析したのは、特にラディカルであった。

;国家は互いに敵対(戦争)するだけでなく、貿易する。;国際分業・特化が進む。

Karl Marxは、国家の国際的役割について、Waltzに同意するが、国内の分業は階級分化をもたらした、として批判する。

古典的マルクス主義

1.社会階級こそ、政治の最も重要な主体である。

2.階級は物質的利益に従って行動する。

3.剰余価値の収奪は、(階級的)搾取である。(国家の生存ではなく、これが最も重要な問題だ。)

;ヨーロッパの帝国主義と国家間の対立;V. I. Leninは、国家がその国の資本家階級の利益を代表して対立・戦争に至る、と考えた。

機能的国家マルクス主義

1.2.3.は同じ。

4.国家は、その国の資本家階級の利益に従って行動する。

;その後、国家は利潤最大化に従う以外の政策も発達させた。:たとえば、ヴェトナム戦争は、アメリカの資本家の利益にとって重要ではなかった。

構造的マルクス主義

1.2.3.は同じ。

4.国家は、資本家階級の利益に短期的には逆らっても、資本主義を維持するために行動する。

近代世界システム論

I. Wallerstein は、資本主義の誕生が(世界帝国ではない)国際経済をもたらした、と主張する。;他にもF. Braudel, A. G. Frank

;国際政治経済の歴史的展開

近代世界システム論

1.世界は構造的な全体であり、唯一の分析単位である。

2.システムの各部分は、国際分業によって、互いに機能的に関係する。

3.国家と市場とは、ともに社会的ダイナミズム(すなわち階級対立)の産物である。

;国際システムは階層的であり、政治・経済権力が集中した中核国家が存在する。そこでは経済が発展し、資本が高度の集中している。

;社会を分業関係に還元し、階級対立を軽視している、と批判される。

マルクス主義の本来の敵:リベラリズム

マルクスは、産業革命を工業労働者階級の形成とみなし、彼らの利益は実現されない、と考えた。

;リベラリズムの敵は、絶対主義であった。:重商主義政策への批判

Adam Smith, David Ricardo;個人を政治的にも、経済的にも、国家から自由にする。

;自由貿易論:さまざまな政治理論に影響する。

古典的リベラリズム

1.個人(家計・企業)が、最も重要な主体である。

2.個人は合理的で、明らかに功利的である。

3.個人はその効用を最大化する。

4.すべてが交換可能(商品)である。

5.個人の無差別曲線を集計したものが、社会的無差別曲線である。

;リベラリズムは、国内の社会対立よりも、国際政治経済に関心を持った。

;自由主義的通商体制:Richard Cobden, Sir Norman Angell, Cordell Hull

;もしどの国家も、貿易無しに生存できないような工業経済を持つとしたら、さまざまな資源を確保しなければならない。:ドイツや日本は軍事的な征服を進めた。しかし戦争に代わって、自由な交換に従って、円滑に機能する国際経済があれば良い。

通商的リベラリズム

1.2.3.4.は同じ。

5.貿易が、協力と平和をもたらす。

共和国リベラリズム

政治的なリベラリズムは、Immanuel Kantに由来し、Woodrow Wilsonが主張した共和国リベラリズムである。

;共和国は国内の政治原理である。しかし、個人が政策を選択できるなら、共和国は平和と豊かさを追求するだろう。二国以上の共和国が国際的コミュニティーを形成し、互いに戦争することを放棄する。

;近代的民主主義国家は互いに戦争しない。

共和国リベラリズム

1.2.3.は同じ。

4.個人が選択を行える国では、国家の自決権が国際平和と相互理解をもたらす。

;現代においても、アイデアリズムはなくならない。

複雑化した相互依存:アイデアリストの継承

経済的な統合化が進んだことで、国家を独立した実体とみなすリアリストよりも、国家間の連携や協調を重視するアイデアリストが復活した。Robert Keohane, Joseph Nye

;特に、技術進歩の性格

;相互依存と政策の相互制約:リアリストの「安全保障のジレンマ」を反駁。

;利益の調和。国家以外の主体。超国家的・多国間機関。

;理論的な曖昧さ。

(複雑化した)相互依存論

1.国家は、必ずしも国際関係の最も重要な主体ではない。

2.国家は、合理的・功利的な主体ではなく、多くの異なった集団・官僚・個人・企業の集まりである。

3.国家は、その生存を維持する以外に多くの目標を課せられ、権力Powerが必ずしも最も重要な目標ではない。

国際政治経済学の開花

国際関係分析における経済学と政治学の分離から再統合へ。

;市場と政府の政策とが衝突する。:為替レートに関して、国民の利益は一致しない。:OPECによる市場の政治的利用。

Raul Prebischは、国際経済関係への介入・市場の矯正、を主張した。:従属論。国連決議。

国際レジーム論:アメリカの覇権が衰退しても、アナーキーにはならない。

;原理・ルール・規範、および意思決定の手続きに関して、各主体の期待が一致していること。その場合、覇権は必要ない。

1970年代前半のレジームの不安定化。

国際レジームの転換:制度派

リアリストの考えでは、国際システムにおいて権力が集中していなければ、安定は維持できない。:覇権安定論Hegemonic Stability Theory

Robert Keohane は、レジームが有益な目的を達成するものであれば、参加者が支持することで維持できる、と主張した。:制裁を科す覇権国は必要ない。

;協調行動の実現を阻む問題点:@共同利益:特殊利益を優先する。A共同回避:特殊事例を優先的に回避したがる。:それゆえ、共同行動を開始し、維持するために、制度が重要である。

;権力は相対的な関係であるから、「ゼロ・サム」(利益と損失の総和がゼロ)であるが、貿易の拡大なども国家の目標に含めれば、「ポジティブ・サム」(総和がプラス)の分野が増える。:相互の利益によってレジームが合意される。

;戦略的な相互作用。競争だけでなく協調も。

合理的インスティテューショナリズム(制度派)

1.各主体は、利己的・合理的に、利益の最大化を行う。

2.国際レジームは、主体間の合意を促す。

3.各主体は、必ずしもゼロ・サムでない目標を追求する。

;さらに「反映型」(社会学的)アプローチが発達した。:制度や規範は、主体の選好に影響し、それを形成する。

;レジームは合理的設計できるのではなく、歴史的に形成される。:個別主体による利益最大化は重要性を失う。

もう一つの「反映型」パラダイム:コンストタクティヴィズム(構成主義)

アイデア(理念・理想・概念)が重要な原因となる。

Alexander Wendtは、構造と過程を分離することはできない、と主張する。:構造(あるいは制度)と過程の同時決定を理解する。

コンストタクティヴィズム(構成主義)

1.利益や選好は社会的に構成される。それゆえ永続するものではなく、弾力的に変化する。

2.アイデアは、選好やアイデンティティーを決める上で重要である。

3.合理性は、常に、状況次第である。

;未来は多様である。:今は不可能であることも、アイデアを変化させることで、現実も変化する可能性があるから。

;主体は変化しうる。