3.国際投資の政治学
国際投資を行う理由
(a)より多くの利益を得るために投資するとしたら、貿易とどう違うのか?
:ある国が要素賦存の違いから部門間で異なる利益をあげる場合、より多くの利益が得られる部門が拡大し、その財が輸出される。
:国によって法律や取引慣行が異なることで、貿易による利益には障害がある?
(b)企業が競争して売上を伸ばすことを目指している中で、輸出と直接投資とは何が違うのか?
:企業は必ずしも短期的な利潤極大化を追求するのではない。
(c)個人が国際投資に参加するには、彼らが利用できる国際金融メカニズムが重要な役割を果たす。
(d)政治的に見て(国家は)、国際投資を歓迎するか、あるいは抑制するか?
:Liberalsは歓迎するだろう。すべての市場取引は相互の利益を増大させる。しかし、Realistsは抑制を求めるだろう。Marxistsも国際投資がもたらす貿易や分業のパターンを批判する。
投資の形態
国際取引や国境を超える企業の営業活動には、国内と異なるリスクがともなう。互いに異なった通貨の価値が変化するし、政府は外国企業への課税や資産の没収に、国内企業よりも、容易に手をつける。また、企業の地理的に分散した活動を、どうやって監視し、協力させるか?
:家族企業:例)オランダ企業のバルチック地域やイギリスとの取引。
:重商主義政策・国家による制限と支援:例)ハドソン湾商会。東インド会社。
:パートナーシップ(無限責任)から株式会社(有限責任)へ:リスクの分散と資金調達を容易にする。:所有と経営の分離、により、証券投資が可能になり、また専門の経営技術者が雇用できるようになった。
証券(ポートフォリオ)投資
証券投資もしくは間接投資とは、企業の経営を目的としておらず、資産選択による自己の保有する有価証券(ポートフォリオ)からの利回りとリスクを、投資家が最適に管理しようとするものである。
:例)17世紀にオランダ市民が広くイギリスの債券を購入し保有したのは、1688年のイギリス名誉革命で、オランダのオレンジ公をイギリス議会が新しい国王ウィリアム3世として招き、英蘭間の政治同盟を確立したからであった。
:ポートフォリオ投資は、国際間の競争や対立よりも、異なる国の投資家に利益の共有関係をもたらす。投資国と受入国との友好・協調維持にも役立つだろう。
国際投資が、結局はそれに利回りを加えた資金を払い戻すにもかかわらず、行われたのは、受入国で生産的に投資されることでより大きな利益と経済発展をもたらしたからである。
<国際投資と貿易>
1. イギリスは投資国への資本財輸出を増加させた。
2. しかし次第に、イギリスからの投資によって促された後発国の工業化が、イギリス産業の競争相手として世界市場を奪い合うようになる。
3. その後も、イギリスは金融や保険・輸送サービスからの収益によって、貿易赤字を超える利益を確保し、蓄積された対外資産からの収益も再投資して、国際金本位体制と自由貿易を管理した。
多国籍企業
第一次世界大戦の後、国際金融はイギリス・Londonとアメリカ・New Yorkとが共同で管理するようになった。
:特に、イギリス政府は戦費を賄うために海外資産を売却し、アメリカの銀行から借り入れた。これがアメリカの最初の大規模な国際証券投資となった。
:第二次世界大戦で、イギリス政府はアメリカ政府から直接に多くの融資を受け、また主要国政府が経済を刺激するために財政赤字を出すようになった。
:これに対して、主にアメリカの民間投資だけが国際的な資本を供給できた。アメリカで支配的であった企業による投資が国際金融メカニズムにも反映され、直接投資(FDI)が中心となった。外国の企業活動が、直接にアメリカの本社と結び付けられた。Robert Gilpin
直接投資は、証券投資と比べて、各国の企業を直接に国際競争へと向かわせ、それを支援する政府間にも摩擦と政治的対立をもたらす。
なぜ企業は多国籍化するか?
@企業の垂直・水平統合。A寡占市場の維持・拡大。B市場取引されない資産を保護し、その優位を利用する(内部化論)。
:企業は、その投入物の安定的な供給を確保するために垂直統合を目指すことがある。たとえば、アルミニウム生産企業がボーキサイト鉱山を所有するために直接投資する。
:また、特定の財で世界市場を支配するために水平統合を目指すこともある。
プロダクト・サイクル説
Raymond Vernonは、特に電機産業に顕著な、製品のライフ・サイクルに注目した。
(1) 新製品開発:先進国の豊かな消費者。企業は独占的利益を得る。
(2) 国内市場の飽和と輸出:規模の経済も利用でき、製品価格を下げて市場を拡大できる。
(3) 製品成熟化とFDI:輸出相手国で模造品が生産され、信用を維持し市場を確保するためにFDIを開始する。
(4) 価格競争:価格競争が、立地やマーケッティングから、次第に賃金などのコスト削減も強いるようになる。
(5) 海外生産拠点からの逆輸入:企業は、本社を残して生産拠点を海外に移転する。
:例)カラーTVはアメリカでの生産をすべて放棄した。
FDIの他の経済的説明
1.取引費用説:ブランドやマーケッティングの情報・知識などは市場取引で価格が付けにくい。高額の宣伝費用。劣悪な類似品による信用問題。そこで、ブランドを利用させて生産を許すより、FDIによって外国市場を直接に支配することを望む(内部化する)。特に国際的な寡占市場で。
2.規模の経済:寡占の背景には規模の経済が作用する。
3.水平・垂直統合と生産多様化:ともにリスク回避と安定化を求める行動であるが、さらに情報収集や新しい投資機会への迅速な対応などもアメリカ向けFDIの理由となっている。
FDIの収益とは何か?
多国籍企業はしばしば収益の劣る子会社を維持するし、本社がその赤字を補填することもある。このようなことは証券投資では考えられない。
:他方、FDIも証券投資も、受入国に資本や追加的な需要、それゆえ雇用をもたらすが、FDIに対する政治的な反発はより強い。それは証券投資が経営に直接関与しないのに比べて、FDIは地元企業との競争においてナショナリスティックな反発をもたらすからであろう。
:ただし、通貨危機においては、この評価が逆転している。なぜならFDIより証券投資のほうが不安定な動きを示すから。
国家vs.多国籍企業(MNCs)?
(論争)多国籍企業と国民国家との関係:国家は経済的な単位に過ぎず、ますます多国籍企業に権力が移ってしまうのか?
:Kindleberger やGeorge Ballはそう考えた。しかしRealistsは反対する。しかし、Sam Huntingtonは「国家の死滅」を宣言するのは時期尚早であり、MNCsの権力と国家とはゼロ・サム・ゲームではない、という。
: Waltz(1979)「今から100年経っても残っているのは誰か? アメリカ、ソ連、フランス、タイ、ウガンダか? それとも、Ford、IBM、シェル、ユニリーバ、マッシー=ファーガソンか? 私は国家に賭ける。たとえウガンダでも。」
国家がMNCsを危惧する理由は、その移動性mobilityである。
:MNCsと本国政府との関係:アメリカによる東芝・ココム違反への制裁
:政府による影響力の拡大か、政府の支配力縮小か?:反トラスト法。課税回避地(Tax Haven)。
:国際協調行動の限界=「囚人のジレンマ」:どの国も自国だけが免税や補助金を与えて優良企業を誘致したい。
:例)アメリカは世紀転換期に各州による規制や課税の不統一と企業による回避行動、企業誘致競争を防ぐために、連邦政府が産業規制を統一した。
証券投資の復活
1960年代・70年代に証券投資は復活した。特に低利の融資が利用できるようになって、多くの発展途上国は直接投資を閉め出すようになった。
:ユーロ・ダラー市場の発達:政府に規制されない民間のドル預金・融資市場が成立した。:例)ソ連政府・OPEC諸国政府
:ユーロ市場では銀行の準備率規制が存在せず、過当競争によって融資を危険なまでに拡大した。
:オイル・ダラーのリサイクリング問題を民間商業銀行の融資拡大で解決したが、それがますます発展途上国に貸し出された。80年代の累積債務問題となる。
国際投資体制の歴史的変化
国際投資体制や国際投資の水準が歴史的に変化する理由はなにか?
:Liberalsは国際投資のパターンと増大を経済学で予測する。しかし、Realistsは覇権安定論を重視する。覇権国の盛衰が投資のパターンや水準を決める上でより重要である。Marxistsも強国が弱国を支配すると考えるが、そのパターンは覇権国が交代しても歴史的に長く維持される(資本主義である限り変わらない)。
:他の多くの要因に加えて、最近の国際投資は技術の急速な変化に関係している。
国際投資の機会と問題点
国際投資の急速な増加と移動性は、政府の政策に影響を及ぼしている。
:例)為替レートの変更に対してMNCsは対抗する多くの情報と手段を利用できるから、政策の実施を難しくする。
:MNCsは、技術や知識、専門技術者、市場アクセスなど、世界の生産的資源を組織的に支配している。MNCsは政府にとっての脅威であるとともに、MNCsを介してこうした資源を利用できる機会でもある。
:その場合も、北側の豊かな国はMNCsとの交渉を有利に進めるが、南の貧しい国は不利であろう。(グローバリゼーションをめぐる論争)
:税収や雇用を確保する点で各国は類似した目標を追及するが、所得水準や政治的目標、開発政策など、国によるFDI政策の違いがある。
要約
異なる分野の決定が互いに影響する過程を、歴史的な事例で解明する必要がある。