2.国際通貨の政治学

通貨秩序の特徴

貨幣の基本的機能:@価値の基準(計算単位)、A交換手段、B価値の保蔵手段

国際市場でも貨幣は必要である。しかし、世界政府は存在しないために、公共財の過少供給問題に直面する。

国際通貨体制の三つの論点(R.Cooper):@為替レート、A準備、B資本取引自由化

(為替レート):固定制か、変動制か? 貨幣供給による政策的な変更は可能。

(準備):商品準備(金)か、国民通貨(主要国の外国為替)か? それとも国際機関が発行する人工貨幣か?

(資本自由化):国際的な金融統合と資本取引の自由化を選択する。

:各国には、2×3×2=12タイプの選択肢となる制度がある。

国際通貨システムが成功するための条件(W.M.Scammell

@     安定した国際通貨:国際交換の手段

A     各国金融制度の円滑な統合・融合

B     国際間の収支不均衡が調整される手段

C     国際通貨システムの共通の問題を解決する協調行動

:他にも、J.WilliamsonR.MacKinnonによる分類が重要である。

為替レート:固定制と変動制

為替レートは、外国為替市場における需要と供給で決まる。

:為替レートの変化は、各国の財の相対価格を変化させ、貿易収支に影響する。

:為替レートが時とともに変化するのは、各国の金利が変化するからである。金利が高いほど、その通貨(建資産)に対する需要が増える。

:ある国の通貨の需要と供給は、多くの要因によって変化する。大きな国ほど安定しており、特定の取引に依存する小国は為替レートが不安定になりやすい。

:政府の通貨政策の目標として、為替レートも変更される。政府は、金利や為替レートの変化を通じて、国内経済の活動水準に影響を与えようとする。政府・中央銀行が外国為替市場に介入して為替レートを変化させる変動制を「ダーティー・フロート」と呼ぶ。それは外国との通貨摩擦になる場合も多い。

貿易収支・通貨政策(金利)・為替レート、が互いに結び付いて変化する仕組みを理解することが、対外経済政策の基本である。

国際収支

国際収支はある国の会計記録である。

貸方(プラス)・借方(マイナス)による差額で、資金の流出入と対外資産の増加(対外投資)もしくは減少(対内投資)を示し、その国の富の(国際取引による)増減が分かる。

:まず国際収支を経常勘定と資本勘定とに分ける。前者は財やサービスの取引、後者は資本の取引を記載する。

:貿易収支は国際収支の一部でしかない。他にも、投資やその収益、政府による財・サービスの購入や売却、海外援助などがある。

:経常収支は国民所得を変化させる。他方で、資本取引はこれと区別されて資本収支になる。資本収支は長期と短期、あるいは間接(証券)投資と直接投資に分かれる。

:以上の民間取引に比べて、公的準備の増減は民間取引の差額を調整する結果であるが、同時に為替市場への介入など、政府による国際取引への関与を示す。

:国際収支は、必ずしもその国の評価を意味しない。特に、国際的な比較・競争で、赤字国が悪く・弱く、黒字国が良い・強い、という意味はない

不均衡の調整問題

国際収支はその国が外国からどれくらい利益を得ているか、また対外的な資産や債務がどれくらいあるかを示している。それは、通商政策や国内の貯蓄率など、さまざまな経済力の変化によって決まる。

国際収支の調整問題とは、ある国が債務を支払う方法、国際間で何を行うべきか、という問題である。赤字国は、@公的な準備(主要国の通貨や金)を使って支払う。A輸出を増やして支払う。

:どのように輸出を増やすかについては、a)国際的なルールによって関係国が協力する場合もあれば、b)一国で経済政策を変更する場合もある。

:あるいは、公的な準備は無限に無い。そこで、両者を含めて、@借入れDebt、A切り下げDevaluation/Depreciation、B引き締め策Depression、あるいはCデフォルトDefault、が選択される。

:実際、赤字国における準備の減少は、金融引締めと物価下落、貿易収支の改善を促す取決めが国際的に行われた時期もある。(他方、黒字国は金融緩和とインフレ)

赤字国のデフレ政策が、不況と保護主義により、世界経済に好ましくない影響を及ぼすことを回避するために、IMFは赤字国への融資機関として設立された。国際収支の調整は、関係諸国の対応・経済政策と通貨制度の性質によって異なる。

基軸通貨国の利益

ある国の通貨が国際通貨として使用されることを、基軸通貨(制度)、と呼ぶ。それは基軸通貨国となった主要国に、特別な利益とコストをもたらす。

(基軸通貨の利益)

1.国際通貨を支配することで、他国に対する強い交渉力を得る。

2.世界のサービス取引に占める割合が増えて、見えざる収益を増やす。

3.主要な金融機関が基軸国の金融センターに集まり、国際金融ビジネスが栄える。

4.対外的な支払いについて短期的には通貨の増発でも賄える。(シニョレッジ

:自国通貨の国際化、貿易金融の利益、為替リスクの回避、金融市場の効率性が改善され、金融サービスの競争力が増す、資産市場の需要拡大と金利抑制、なども指摘されます。

(基軸通貨のコスト・制約)

1.固定レート制の下で対外債務が増えると、公的な準備を超えてしまう。その結果通貨不安が起きれば、国内の通貨政策が制約され、金利を下げられない

2.他国が基軸通貨に固定しているため、赤字の解消策として通貨価値の切り下げが行えない

3.基軸通貨としての安定を維持するために対外投資を促すことが、国内経済や輸出部門の競争力を損なう恐れがある。

:通貨価値の長期的な増大傾向、対外短期債務に対する利払い、非居住者による資産のスイッチングによる為替レートの変動拡大、金融ビジネスへの過度の資源集中による弊害、なども。

国際通貨システムの条件:信認と流動性

国内金融システムと違って、国際金融システムには世界中央銀行が無い。そのため、通貨への信頼を維持しながら、十分な流動性を供給する明確な管理主体やメカニズムが無い。国内通貨のように独占的発行や法的な強制通用力が無い。

:貨幣は多く供給されすぎると価値が低下する危険がある。しかし、貨幣が少なすぎると支払いや決済に支障をきたし、金融不安にも対応できない。

:特に、自国通貨が国際通貨となれば、国内の通貨政策の必要性と国際通貨としての条件が対立するかもしれない。

覇権安定論と通貨体制

覇権安定論者によれば、安定した国際通貨や自由貿易体制は国際的な公共財であり、覇権国が供給しなければ過少供給に陥ります。

:しかし、リアリストやマルキストは、覇権国家は自国の利益のために世界を支配している、と考えます。

リベラリストやコンスティテューショナリスト(構成主義者)は、覇権国家による国際体制の理念や規範が、覇権国家の衰退した後まで機能する、と主張します。

マルキストや従属論者は、通貨体制が国際分業体制の拡大と維持に役立っており、それが世界的な投資や貿易パターンの一部である、と考えます。

通貨体制の比較

<古典的金本位制>の4つの特徴:

1.各国通貨と金の一定量が交換されることを政府が保証する。それゆえ、通貨間の為替レートも固定される。

2.が唯一の公的準備である。

3.金は各国間を公的な国際収支の調整として、また民間の資本移動として、利用された。

4.イングランド銀行が、世界の主要貿易国の中央銀行として、また国際投資家たちの主要銀行として、金本位制を管理した。

国際通貨制度の現状(messy

:@主要国間の介入をともなう変動制(ダーティー・フロート)。ただし国により、地域によって、少数の固定制が残る。A外国為替と金・銀との並存。B主要国の金融当局による政策協調。(そして、調整方法は不明?)

要約:通貨政策に占める国内政治と国際関係

ある国の通貨政策は、常に多くの異なった利害に関係し、外国の政策目標や国際的な条件とも一致しない。