第4回/5月5日

今日は学生の中間報告だ。まず予定されたCommentorが趣旨を要約し、問題点を指摘する。全員からも意見を聞き、執筆者がそれに答える。

Jeffは、ChileとIndonesiaについて金融自由化を調べていた。市場統合というとき、貿易の拡大か、金融市場の自由化か、が区別されてなかった。 Prof. Cohenは、貿易市場統合が国内主体の選好を変え、それが金融市場統合を拒む場合のコストを増加させる、という仮説を提案した。統合の程度も、アメリカは常に自由貿易を推進してきたが、かつてよりも対外依存度は増大していること(5-6%から15-16%へ)、日本と比べる非常に自由だが、ドイツの方が貿易依存度は高いこと(しかしドイツがアメリカよりもopenだろうか)、工業諸国の問題は(発展途上諸国から)区別されること、などが論じられた。

Amauryは、Brazilの経済改革と資本移動について報告した。昨夜送った私のコメントに対して丁寧に礼を述べてくれた。Alanも隣に座っていたので礼を言ってくれた。さて、問題はBrazilの経済改革に資本移動性がどのような影響を与えたのか、ということだった。 Prof. Cohenも、資本移動性がどのような違いを生じさせたと証明できるのか、と指摘した。財政政策も制約される、と考えられる。そこで、(Brazilの国内改革も)二つのタイプの財政政策を選択しなければならない。規模が大きければ資本移動に対抗して独自の政策を選択できる。しかし、資本移動に順応する政策が選択されることが多くなるだろう。国内の政治主体を選択する根拠も問題だ。一方では、理論モデルに依拠して主体を選ぶが、他方では(Brazilの場合)特定の政策に対して主体が選ばれる。

Jesseは、Henningのモデルを異なる3カ国(スイス、スウェーデン、カナダ)に適応している。Lauraのコメントは経済のタイプをもっと異なった視点、異なった要因から分ける可能性を指摘していた。3カ国を選んだ理由や、比較する時期time-frameが議論された。Jesseの発音は聞き取れない。

Alanは、アジア通貨危機を説明する変数として、独自にJay-Drew Valuesを紹介した。これは外貨準備と経常収支(黒字はプラス)とを関係づけたもので、これにより通貨危機の前後で成長率が変化した各国への影響を説明する。Jesseなどのコメントはほとんど聞き取れず、議論のポイントは掴めなかった。 Prof. Cohenが変数を関連付ける膨大な論文の山を紹介し、J-D値の理論的根拠や政治的意味を要請した。また、外貨準備は注意して扱わなければ、意味の無い数値になると警告した。例として、タイの通貨当局が、民間銀行や先物市場を利用して為替市場に大量に介入したため、外貨準備の正確な大きさは長く秘密にされていたが、それが一層、資本逃避につながったことを紹介した。

なぜ韓国には投資が戻ったのか、という問いに対して、株式市場が開放されたから、というLauraの回答に、 Prof. Cohenも肯いた。これは成長率の低下を防いだ可能性がある、そういう政策対応もあり得る(そうすべきだ?)、ということか。

Lauraの報告は意欲的だが、一般論に流れたようだ。韓国、インドネシア、タイ、を比較する。いろいろな理由を説明するが、決定的なものはない。国際政治経済学と比較政治学の基本問題だ。国、主体、時期など、何を比較するのか? Prof. Cohenは国家を二つの手法、主体として、また、公共選択として、指摘した。Lauraは制度の重要性を指摘するが、それはGarret & Langeの考えを受けてだった。

Mortenの報告をAlanがコメントした。Mortenは世代間の政府債務負担・転嫁問題を国際債務に適応したようだ。 Prof. Cohenは明確にR. Barroの中立命題を説明した。政府債務の水準を説明する経済理論はない、という点と、国際債務の水準決定とを結び付けたいようだ。 Prof. CohenはMortenの議論が、政府債務だけについて(実際の国際債務は民間だが)、しかも国際的な債務について、である点を確認し、政治的な分析を行うこと、も要求した。

最後に、 Prof. Cohenが各自にコメントを渡したが、それはA4用紙数枚に渡ってびっしり書かれていた。

学生の報告は、それほど感心できるものではない。時間が無く、しかも浅いという印象だ。 Prof. Cohenの議論は十分に伝わっていないと思う。通貨の領土制とその覇権争いについて、報告の焦点にしたものはいなかった。金融政策や財政政策の有効性、金融自由化と通貨危機への対応、といったことを、各国の独自な政治状況から説明する、という共通の図式が流れている。

しかし、自分が日本の対外通貨政策を分析するとしたらどうか?