Tuesday, October 6, 1998

Prof. Cohen Seminar第2回/100345

Prof. Cohenは、IMFWorld Bankの制度改革に議論を進めた。まずIMFの制度が運営されている実態を説明した。それはBoard of Governorsにより運営されることになっているが、実際にはそのExecutive Directorsが決定を支配する。それはアメリカや日本など9カ国の代表(石油の富によりサウジ・アラビアが、また中国とロシアも含む)と、特定の諸国が作るグループConstituency(地域や宗教、まるで切り張り細工の集団、など)が指名した代表からなる。年6回の理事会?と、年に一度の総会を開く。昨年の総会は香港であり、自由化を賛美していた。今年の大会はワシントンである。他に、G-10(実際には12カ国からなる先進諸国グループ)やG-77(第三世界・発展途上諸国)、G-22(最近できた、工業諸国のグループ。新興工業emerging諸国を含む)などのロビー集団が形成されている。

国際通貨・金融危機は、IMFの財源を枯渇させてしまった。それでも危機は収拾できていない。IMF総会では、二つのことが議論されている。一つは、今何をなすべきか? もう一つは、将来に向けて国際通貨制度をどのように構築し直せば良いか? その場合も、短期的にはBrazilの危機が問題である。

Brazilに対しては、ワシントンが緊急の救済パッケージをまとめた。Cardosoの再選が決まるまで、この融資で安定化を維持できるだろう。そして再選されれば、財政政策を使って不均衡を解消するに違いない。ここ数日で決まる。(それでも緊急融資が必要であったことに驚いた。投機圧力の大きさ。アメリカの決意と行動力。IMFの無力。アメリカ経済への反動の大きさ。)しかし、短期救済策も国際合意を欠いている。タイからインドネシア、韓国、ロシア、ブラジルへと、Fire Wallは機能していない。

通貨危機への今後考えられる長期的対応として、4つのケースを説明した。

1)情報開示と透明性Transparencyの確保1982年のラテン・アメリカ債務危機に対して有効な対策として強調されてきた。「保守的な」対策。

2)資本規制・管理:中国やマレーシアが採用している。これは資本逃避には有効かもしれない。(しかし、資本流入には有害)「ラディカルな」対策。

3)危機管理の秩序形成:アメリカ破産法11条の国際的活用。P. Krugman, J. Sachsなども注目し始めた。私は早くから主張してきたが、残念ながらSanta Barbaraの教授の主張では注目されないようだ、と冗談にも悔しがる。(中間的な改革策?

4)さらに、フランスが主張する「根源的なIMFの強化」:公的権限の委譲。超国家権力。しかし、実態は不明。

Lauraが、銀行倒産の保険Insurance について質問した。(内容は理解できなかった。預金保険のことか、と思ったが異なる。どの通貨当局が破産した金融機関の債務処理に責任を持つか、と言う国際合意のことであったかもしれない。) Prof. Cohenは、それが3)に含まれている、と述べた。199812月のAustraliaの会議で決まる、と聞いたが、良く分からなかった。

Xu教授は、それでも、機能しないだろうと言い張った。考え方philosophical(?)に無理がある、と。 Prof. Cohenは、破産法はすでに200年以上前から有効に機能してきたし、これからも活用できる、と主張して、New York市の例を挙げた。(都市が破産しても、債権者が集まって資産の管理、債権回収と財政的な支出に協力して互いに交渉を纏め上げる妥協を行えた。国家の破産も、新しい市場型の債券発行・流通型に変わったが、破産法による法律的な管理体制が有効であろう、と言いたいようであった。)もちろん、国際的な法の執行を強制する主体の問題、法の及ぶ範囲・管轄権jurisdictionの問題などは残されているが。

重要なことは、国際収支表は政策担当者にとって現在の判断に利用できない、ということだ。(早くても3ヶ月遅れて、もしくは9〜12ヶ月遅れて発表される。歴史的な実証以外には役に立たない。)例えば、タイの通貨危機でも、その時点では貿易赤字や資本流出についての統計を利用して判断できなかった。それはしかも、単一の指標ではなく、解釈が分かれる(?)。

Jerryは、こうして外国為替市場の重要性を導き出した。今起こっていることを伝えているのは、外国為替市場である。

Brazil大統領Cardosoの抱える問題が説明された。Brazilは選挙前であるから、インフレが進んでいても引締め政策は採れないだろう、と市場参加者は予想する。すると、外貨準備が減っているから切り下げるしかない。切り下げ期待が強まって、通貨レアルはますます売られる。それはインフレを加速し、さらに切り下げが避けられなくなっている。Brazilはラテン・アメリカのもっとも大きな市場であり、自由貿易協定で周辺の諸国と結ばれている。それゆえ、Brazil通貨の危機はラテン・アメリカ全体の不況とアメリカ経済への影響が深刻となる。

赤字を削る(通貨危機を回避するため)には、ワシントンの求めるような緊縮政策(増税など)しかないのだろうか? 調整を回避する場合、他の手段としては、融資(もしくは国際流動性)がある。借入れの能力は、国際流動性、政府間・中央銀行間融資、で決まる。市場からの調達は、格付け会社の評価が決定的であるから、 Moody’sをアメリカと並ぶ超大国Superpowerとして扱った者もいる。

さらに、その他の選択肢としては、新しい為替レートの設定がある。固定制において通貨当局が新しい公定レートを引き上げることを通貨の切り下げdevaluationと言う。もしくは、単純に変動相場制へ移行し、為替レートを市場の取引に任せて上昇させるdepreciation

もう一つの可能性は、市場からの離脱、資本移動規制・為替管理を行うことである。「私は市場が気に入らない。それはあまりに変動し過ぎて好ましくない。」そして、政府が経常収支に伴う為替の取引のみを認め、それ以外は禁止する。

中央銀行はもはや、自動的に民間市場の差額を埋めるために介入する残余項目でなくなる。逆に、中央銀行(外貨を管理するもの)は非常に強い権力を持つだろう。誰がこの外貨を利用するか、を決めることができる。それゆえ国内政治に結びつきやすく(政治家の身内だけが投資を増やす)、通貨制度が政治的な影響を受けやすい。為替管理を行う国の通貨は市場で交換性を持たず(過少需要しかない)、闇市場が成立する(大幅に割り引かれる)。

なぜ中国は為替管理を維持できるのか(そして通貨危機を免れているのか)? と言う質問があった。中国の為替管理も、原理的には全く同じである。通貨危機によって、最近では、一層厳しい管理を行っている。資本規制により、資本勘定の取引が禁止された(あるいは許可制になった)。中国市場は大きく、まだ貿易部門はその極一部であるから、極端な規制によっても経済全体への歪みは生じないのだ、と言う説明がなされたように思う。

それに付け加えて、IMFの資本規制に関する態度の変化を指摘した。IMFの当初の協定では、経常収支の規制をなくすことが求められただけで、資本収支の規制は各国の判断で維持されてきた。それは1930年代の通貨危機を経験した政治指導者達の意識を前提に、KeynesWhiteがまとめたものだ。その後、急速に金融自由化が進み、14条国から8条国に移行する場合、資本勘定の自由化も求めるように協定を改正するはずのIMF総会が、今回の通貨危機で資本規制を再検討しているのは大きな皮肉である。結局、この資本勘定自由化を義務づける改正案は、決して実現しないだろう。と。

資本規制に依存して、結局、中国やマレーシアの方が比較的上手く通貨危機を乗り切っている。

資本移動による為替レートの浮動性は、経済活動に大きな不確実性をもたらし、厚生を低めているだろう。金融市場と言うのは、一般的な商品の市場と異なる点がある。資本市場は将来への期待によって大きく変化し、しかも各人は投資の将来的な収益を実際に計算しているのではなく、他の投資家の行動を予想して動いているに過ぎない。そのため、金融市場では、同時にいくつもの均衡点を持つmultiple equilibrium状態が、わずかなニュースに反応して一つの均衡値から他の均衡値へとすばやくジャンプする。そして、市場全体が極端な楽観euphoriaから悲観へと大きく転換し、繰り返しバブルを生んできた。