「第1セッション 中国の社会」の参加記

 

 本セッションでは、以下の3報告が行われた。

第1報告「中国における産業集積の立地パターン――江蘇省の郷鎮レベルの分析を中心に」(東北大学 日置史郎会員)、第2報告「中国銀行業の経営構造――確率的費用関数による4大国有銀行と株式制商業銀行の比較分析 (一橋大学大学院 竹康至・ハスビリギ・黄鶴会員)、第3報告「中国内陸地域における小農経営の実態に関する一考察」(筑波大学大学院 範丹会員)。以下、各報告の概要を整理する。

日岡報告では、2004年経済センサスの集計データ(江蘇省)を用いて、産業集積の立地類型を計量的に明らかにすることを研究課題とした。実証分析に当たって、地理的集中度と空間的自己相関度という統計指標を併用し、計測された結果を組み合わせることで4パターンの産業集積があることを見出した。オーソドックスな分析手法で難しい課題を分かりやすく説明し、深い感銘を受けた報告であった。ただし、分析結果の政策的意味合いやどうしてこのような集積が形成されたかについては、一層深い検討、分析が必要と思われる。

 竹他報告では、中国の4大国有銀行と株式商業銀行が質的に全く異なっているにもかかわらず、それを区別せずに議論する先行研究が多い事実を踏まえ、確率的費用関数を計測し、4大銀行と株式銀行の相違点を明らかにすることを研究課題としている。中国銀行業史や銀行経営の諸指標から両者の違いを析出し、先行研究における中国銀行業の捉え方が正しくない側面を指摘し、そのうえ、計量モデルによる実証分析が行われた。経済学における実証研究の手続きを踏み、有益な分析結果が得られている。常識的にそうだろうと思われていることを厳密な計量分析で裏付けようとする研究者の魂が強く感じられた。

 範報告は四川省で行った独自の農家調査資料を用いて小農経営の実態を分析し、今後の課題を検討するものであった。土地が少なく労働力が多い中国の内陸農村では、農家の過剰就業が多い。そのため、生産性が低く所得も低いという小農の抱える構造的問題がある。改革開放以降、経済的条件の良い地域では農家の兼業化が進み、商品作物の経営も増える一方、貧しい地域では農村から都市への出稼ぎが拡大し続けている。その結果、農家経済は食糧の基本自給と現金収入の農外依存という2本立ての構造になっているという。興味深いミクロ・データに基づいた分析だが、調査方法や分析の理論的枠組みについては改善する余地が大いにある。

(桃山学院大学 厳善平)