200861

 

「立場の交換」で相互理解を深めよ

(厳善平)

 

.1985年来日して23年目を迎える。人生の半々は中国と日本で過ごすことになる。仕事の関係で両国間を行き来する機会が多く、両国のことをある程度理解している立場にある。本日は経済学者としてではなく、両国での生活体験を持つ1人の生活者として、日頃感じている日中関係について話す。門外漢の余談になる部分が多く、間違いがあったら、ご容赦頂きたい。

 

.本日は日中関係の今に焦点を絞って話す。進行形の日中関係は非常に複雑だ。小泉政権の5年間に日中関係は「政冷経熱」といわれたが、安倍前首相の電撃訪中、温家宝総理の昨春の「溶氷之旅」、昨年末の福田首相の訪中、そして、先月の胡錦濤国家主席の訪日によって、両国関係は政府レベルでは正常な形に回帰したといえよう。そして、経済関係では日中貿易が急速に拡大し、長年首位を占めてきた日米貿易は一昨年に日中に取って代わられた。戦略的互恵関係の構築に向けて両国政府は様々な努力を払っているように思う。

 

.ところが、両国民の間には相互不信が根強く存在する。外務省の調査では「中国に親しみを感ずる」と答えた人の割合はここ数年3割程度に留まっている。他方、中国人の日本に対する感情の悪化も大きく改善されずにいる。

 

. 物、人、金の交流が未曾有の状況に達し、相互依存関係が確実に進展しているのに、なぜ両国民間の相互不信が解けないのか。@歴史認識問題、B台湾問題、B東シナ海の油田開発問題、C冷凍餃子の毒物混入問題、Dチベット問題、などと多くの難題が日中間に横たわっているからだろう。

 

.問題解決のために交流が欠かせないが、すべてのことについてそうともいえない。人間同士の付き合いには4つのパターンがあろう。

@話さなくても(相手の意を察して)分かるよう努力する。背景:表面はともかく、内心では相手のことを認め、主従関係の存在を黙認する場合(日米関係にはそういう側面が見られる)、あるいは、親友や家族の間に存在する以心伝心のような関係。

A話せば分かるもの:誤解や勘違いに起因した不信の場合。解決の手段は勉強と交流。ただ、謙虚な態度で対等に意見交換が必要。

B話しても分からないもの:歴史認識や領有権のような本当に難しい問題。不毛に陥ってしまう議論が多く、議論すればするほど、逆効果が生ずる場合もある。解決の方法は時間の経過をまつのみ。

C話しても分かろうとしない、または、分かっているのに分からない振りをして「小題大作」=小さな問題を大きくするパターン。例えば、冷凍餃子の毒物混入事件、チベット騒乱、北京オリンピックの聖火リレー妨害。背景:先入観、偏見・傲慢・独善、優越感、自己中心。

 

.国と国の付き合いは基本が人間同士の付き合いだ。個人間の相互理解や信頼醸成に必要なのは、「立場の交換」すなわち相手の立場に立って考えることである。相手の喜びや悩みを共有できることは友人たる者同士の基本だろう。日本語には「思いやり」という素晴らしい言葉がある。立場を置き換えて相手のことを考えて行動することができるかは日中両国民の感情を規定する重要な要素になる。512日四川大地震以来、日本では官民を問わず中国に対する物的人的支援が行われている。「他人事ではない」とはいうものの、このような善意は我々中国人に大きな感動、感激を与えている。また、胡主席が訪日する際、上野動物園に2頭のパンダを貸し出すことが表明され、日本の国民に好感されていた。こうした動きは仲良くなろうという両国民の思いがあるからだろう。

 

.ところが、日中間に依然多くの未解決の問題がある。国交正常化以前から日中関係の行方は首脳外交に大きく依存してきた。これは今後しばらくの間も大きく変わらないだろう。話さなくても相手の意を察して付き合うことは日中間ではまだ難しい。話しても分からない問題はやはり時間の経過に委ねたほうがよい。話して分かる問題を中心に真摯に話し合っていくことは今の日中関係にとって最も大切だ。例えば、日中が共通の経済的利益を追求しウィンウィンの関係を築いていくことが挙げられる。分かろうとしない、あるいは、分かっているのに分からない振りをして相手を貶すことだけはやめるべきだ。日本の中国報道では、興味本位のものが多く、中国を歪曲するものも散見される。それでは市民レベルの相互理解は難しい。もちろん、中国の日本報道にも似通う問題がある。

 

.中国は経済規模では世界第3位だが、1人当たりでは日本との間に15倍の所得格差もある途上国である。中国人は「面子」を重んずる。自国の経済水準が低く、様々な問題もあることは自分が一番よく分かっている。それでも意地を張って見栄えを重視する。北京オリンピックにあわせて多くの面子プロジェクトをやっている。それを知っていながら、面子プロジェクトを取り上げ、恥を曝すような報道がある。これは中国では「不給面子」に当たり、無礼になる。

 

9.敵は元々存在せず、友もそうだ。どちらも作られるものだ。友人を作るのに時間がかかり、苦労も多い。しかし、敵を作るのは簡単だ。中国と日本は永遠の隣人であり、敵対的な関係があってはならない。共存共栄を目標に「小異」を残して「大同」を求めていけるような普通の友人関係が望まれる。