他地域との比較その1
他地域との比較その1
「京都企業の優秀なDNAを探る」と、「京都と他地域との比較」とには深い因果関係があることは自明である。そして、他の方々が作成された発表資料を簡略的にまとめると、「京都の持つ独特さが優秀な京都企業を育てる要因である」ということができると思っている。
そこで、その「京都らしさ」とは何か、ということについて、他地域との比較をしながら検討していきたいと思う。
Ⅰ.産業の構成
…京都では、ものづくりの産業(ただし大型のものをのぞく)が発展している、という仮説の下、資料を集めてこの仮説の立証を試みた。
①国勢調査による京都府の事業所構成の特徴
具体的に数字(割合など)で表わすと以下の通りである。
産業大分類別に事業所数をみると、最も多い産業は「卸売・小売業」で全体の27.1 %を占めています。次いで「サービス業(他に分類されないもの)」の17.3 %、「飲食店,宿泊業」の14.1%、「製造業」の13.4 %の順となっており、この4産業で全体の71.9 %を占めています。従業者数についても、「卸売・小売業」が全体の22.1 %を占め、次いで「製造業」の17.7 %、「サービス業(他に分類されないもの)」の13.7 %、「医療,福祉」の10.5 %、「飲食店,宿泊業」の9.7 %の順となっており、先の4産業で63.2 %を占めています。(http://www.pref.kyoto.jp/tokei/cycle/jigyosyo/jigyosyofiles/jigyosyo2006gaiyo02.pdfを引用)
②全国との比較
京都府の産業動向と全国平均と其れとを比較する。
まず、全国の産業大分類別事業所数の構成比(平成13年、18年)のグラフを以下に掲載すると以下の通りであった(グラフ1)。次に京都府の産業大分類別事業所数の構成比(平成13年、18年)を掲載する(グラフ2)。
次に、全国・及び京都府の産業大分類別従業者数の構成比(平成13年、18年)について掲載する(グラフ3、及びグラフ4)。
ここより、前述の傾向が視覚的に理解できるだろう。
京都府では全国よりも事業所数、従業者数ともに製造業、の割合が高いが、事業所数割合の全国比の差に比べ従業者数割合の全国比の差は小さくなっている。ここから、京都に製造業に関して中小企業が多く存在するかがわかる。
反対に、卸売・販売業には、その事業所数に関して全国平均と同一か、もしくは少ない割合か、というところであるが、従業員数に関しては全国平均を上回る割合を示している。ここから、京都の卸売・販売業については、従業員数の多い会社が多いのではないか、という解釈をすることができる。
●まとめ●
→①京都では「製造業」の事業所数が比較的多く、各製造業事業所における従業員数の割合は少ない。
→②京都では「卸売・小売業」の事業所数は平均的に位置する反面、従事する従業員数の産業別割合は高い。
≒伝統を継承する小規模な「製造業」の存在・商業の街
グラフ1.全国の産業大分類別事業所数の構成比(平成13年、18年)
グラフ3.全国の産業大分類別従業者数の構成比(平成13年、18年)
グラフ2.京都府の産業大分類別事業所数の構成比(平成13年、18年)
グラフ4.京都府の産業大分類別従業者数の構成比(平成13年、18年)
(http://www.pref.kyoto.jp/tokei/cycle/jigyosyo/jigyosyofiles/jigyosyo2006gaiyo02.pdf http://www.pref.kyoto.jp/tokei/cycle/jigyosyo/jigyosyofiles/jigyosyo2006gaiyo03.pdf
http://www.stat.go.jp/data/jigyou/2006/kakuhou/gaiyou/02.htmを参照)
①東京及び大阪との比較
それでは、他地域の事業所の構成はどのようになっているのであろうか。ここでは、京都企業人が比較対象とする都市として東京、近隣都市として大阪を挙げることにする。また、
ⅰ)東京都の事業所・従業者数
事業所数・従業者数ともに全国1位の東京都。
事業所数構成比は、「卸売・小売業」の割合が全国比に比べ最も高く、全事業所数のうち25.5%を占める。次いで「サービス業(他に分類されないもの)」19.9%、「飲食店・宿泊業」14.6%…と続く。東京都では主に大三次産業が進展し、産業活動を支えている。
製造業の対全事業所構成割合は8%であり、京都の13.4%を下回る。
また、従業者数構成比については「卸売・小売業」が21.3%、次いで「サービス業(他に分類されないもの)」18.8%、「製造業」10.3%と続いており、この上位3つの産業で全体の50.4%を占めている。
また、製造業の事業所割合と従業者数割合について比較すると、東京都にいかに大規模な製造業を営む企業が多いかが理解できる。
グラフ5.東京都の産業大分類別事業所数の構成比(平成13年、18年)
グラフ6.東京都の産業大分類別従業者数の構成比(平成13年、18年)
(http://www.toukei.metro.tokyo.jp/jigyou/2006/jg06tf0402.pdf参照)
ⅱ)大阪府の事業所・従業者数
東京都に次ぎ、事業所数・従業者数ともに全国2位である。
まず、事業所数構成比から見ていく。「卸売・小売業」が盛んで、全事業所数の27.4%を占める。次いで「サービス業(他に分類されないもの)」が17.3%、「飲食店・宿泊業」が14.4%を占める。
また、従業者数構成比は、「卸売・小売業」が22.9%と最も多く、次いで「製造業」16.6%、「サービス業(他に分類されないもの)」15.4%、「医療,福祉」9.4%の順となっている。
→ここまではおおよそ東京都と似た傾向を示すことがわかる。
しかし、製造業事業所数構成比に関して着目すると大阪府の産業別事業所構成は、やや東京都よりも京都府に近いといえる。大阪府の製造業の対全事業所構成割合は12.6%と、「飲食店・宿泊業」京都の13.4%に近い値を示しており、全国平均より3.3%多く占めている。
グラフ8.大阪府の産業大分類別従業者数の構成比(平成13年、18年)
(http://www.pref.osaka.jp/toukei/pdf/jigyosho/jg06k000.pdf、 http://www.stat.go.jp/data/jigyou/2006/kakuhou/gaiyou/02.htm参照)
これらの統計を比較すると、京都府の産業は全国平均よりも大阪寄りに存在することがわかる。しかし、大阪府に比べ京都府内の製造業は小規模な経営が多い。
全国規模でみると、中小企業が廃業などに追いこまれ少なくなっていくはずではあるが、京都府に関しては他地域よりも中小企業の力が強く根付いていることがわかる。
つまり、京都府は何らかの要因で中小企業が育つ土地柄となっているといえる。この要因については、他のメンバーが触れている内容にもつながってきそうである。
Ⅱ他地域からの「京都観・東京観・大阪観」
同志社大学ビジネス研究科教授の林廣茂先生の報告をまとめた本がある(人文研ブックレット 京都商法をきくー新しいビジネスモデルを求めてー)。この本の中で林先生は、他地域から見た京都観、および東京観、大阪観の違いについて述べている(1050名にアンケート調査した結果)。京都観に特に的をしぼり、おおよその要約をすると、京都企業は文化や歴史の発展により「京都ならでは」に特化した事業を展開できるといった点が、他地域よりも優位であり、しかし不利な点としては、京都は日本文化の象徴であるということは京都府民及び日本中で共通の認識であるのに、その文化の広報をおこなう事業京都で発展しておらず、その事業は東京都の企業によっておこなわれているという点、そして、(京都府民は気付かないことが多いそうだが、)京都企業の技術力・経済力は他地域に比べ低い状況にある、といった点が挙げられる、といった内容が記してある。
ここでいう、京都の歴史・文化に立脚した強みを最大限に生かした企業というのが私たちが見学に行った企業の共通項そのものではないだろうか。
Ⅲ京都という土地の持つウイークな部分
京都は観光資源に恵まれ、また、学生が住みやすい街であるといわれている。決して不便ではない。東京まで2時間と少し、大阪まで40分である。
しかし、大都市(東京・大阪・愛知・福岡・仙台…等)に比べて明らかにウイークなポイントがある。それは、空港がないこと、そして県庁所在地(ここでは都道府県内で最も発展した土地だと定義する)が海に面していないことである。
この2点から、京都は他の都市に比べて対外的な物流を行う手段を持っておらず、大型機械類等を製造していても即時に移動させにくい、という性質を持っていることがわかる。
このデメリットをメリットに変える産業として卸売・販売業が発展することは理解できるであろう。京都という、地理的に閉鎖的な土地で京都の人々、そして観光客がお金を消費するのである。
つまり、京都の人々は、卸売・販売業という業種の観点からすると、他地域より府内でお金を移動させる手段を確立しているといえるであろう。
しかし、製造業である。製造業は他地域と比べ事業所数が多く、従業者数が少ない。製造業が京都でどのような特徴を持って発展したのだろうか。
例えば、東京や愛知、大阪…といった土地では、特に愛知にいえるが大型な物体(自動車など)を製造し、諸外国含め輸送する。大阪に関しては、近隣に神戸港なども存在し、「商業のまち」といわれるように、京都で製造されたものに関しても大阪から流通がなされていたり…と物流そのものに関して強い力を持つ。物流に関して強い力を持つのは東京も同様であるといえるが、歴史の古さに違いがあるといえよう。
このような、サムコ辻社長がおっしゃっていたように、京都という土地のデメリットから、京都では気軽に持ち運びができるものの製造が発展したりするのであろう。
加えて、私は考えた。このように用意に貿易ができない、物流の途絶えた土地である京都であるからこそ、他の土地からの影響を比較的受けずに受けずに人々は仕事に集中することができ、様々な「オンリーワン・ラストワン」な商品やサービス、そして「オンリーワン・ラストワン」な企業を確立することができるのではないか。
日本の産業は競争社会によって成り立ち、ある会社が新製品を開発すれば、同業者はそれを追って類似商品を提案、販売する…といったシステムが確立している。例えば液晶テレビの開発、自動車の販売(エコカーなど)、飲料(ドライ革命?や、発泡酒など、この分野の競争はより顕著に見れる)食品…など、どの分野に関してもこの傾向はみられ、また、この傾向をうまく利用して各企業は相互に発展を試みるのである。
しかし、この日本企業特有の流れについていかないのが京都企業の特徴であろう。
まず情報発信力については、東京や大阪などの巨大都市に比べかなり弱いポイントである。発信手段が大都市に比べ、物流に劣ることから土地的にウイークである。現に、京都が世界を魅了する観光都市であるにもかかわらず、諸外国の観光都市に比べ非常に観光サービス分野で劣っているという事実がある。この点をカバーしてきたのが東京の得意な出版業であったり、通信業、サービス業であった。
加えて京都文化の特有性。京都人も、そして京都人でない人々も承知であるが京都は日本文化の象徴であり、これらは継承していかなければならない、という観点でとらえられる。まち全体がその理念を基に機能するので「伝統保護」の観点から、他地域で常識としてとらえられている流行をも抑制しなければならない、という事実が存在する(ビルは何階までしか建ててはならない、看板の色は景観になじむ妥当なものしか許されない、等)。他の大都市よりも文化保護による制約が厳しいのである。しかし大阪や東京に関しては、景観保護などが必死で呼びかけられている昨今ではあるが、常に諸外国と対等な位置に存在できるような大都市の景観を持つべきであり、それには海外からの情報も必要であるし、結局は情報をいちはやく手に入れる手段を所有し、最大限に生かす必要性がでてくるのである。
つまり、様々な観点から見て、総じて京都は他地域からの先端の流行などを取り入れにくい土地柄へと発展しているといえる。この点が産業にも影響を及ぼすのではないだろうか。
●まとめ●
京都は他地域に比べ、様々な観点から見て非常に他地域文化を取り入れる手段に欠けているが、その点が上手く作用することにより、独自の文化を発展させることができる。
→「京都にいる・来た人々」に(京都というブランドを有効利用して)「京都でつくった」ものを販売、利益にすることができる。
→他地域の動向からの影響を受けず、独自の観点から事業を確立、じわじわと有効性が他地域に認められるという形態をとり安定することができる。流行には乗らないが非常にアイディア力に優れ、他地域が便乗できないような産業を確立する。
グラフ7.大阪府の産業大分類別事業所数の構成比(平成13年、18年)