高精度変位計測用光集積デバイス

(大阪大学工学部電子工学科西原研究室に在籍していた頃(1984-1990)の研究です)

 本デバイスは、変位の高精度計測に用いられる2周波直交偏光ヘテロダイン干渉計の、光源と光検出器を除いた部分を、ニオブ酸リチウム結晶基板上に集積化したものです。

 全長45mmの基板上にTi拡散法によって幅3ミクロンの単一モード導波路を作製し、所望の部分にSiO2バッファ層、Al電極、Al偏光子を形成しました。導波路パターンのフォトレジストへの露光には、西原研究室で開発したレーザビーム直接描画装置を用いました。

 本デバイスの大きな特徴は、結晶のZ軸に沿って導波光を伝搬させていることです。このようにすると、位相変調のための電気光学効果が小さくなるのでデバイス長は長くなりますが、光損傷に伴うDCドリフトが低減し、波長の短いレーザ(測定分解能が高くなる)を光源に用いることができます。また、TEとTM導波モードの実効屈折率がほぼ等しくなるので、温度ドリフトが極めて小さくなる、複雑な櫛形構造の電極を用いなくても容易にTE-TMモード変換素子(バルク光学部品の波長板に対応)が実現できる、といった特長があります。

 実験では波長633nmのHe-Neレーザを用い、PZT上に貼り付けた鏡の変位を±3nmの直線性で計測しました(右図)。

 検討の結果、導波路端面での不要な反射や、TE-TMモード間のクロストークなどによって直線性が制限されることを明らかにしました。

 このような計測用光集積デバイスは、従来のバルク光学系に比べて超小型、アライメントフリー、温度変化や振動のような外乱に強い、高速応答が可能、といった特長があり、ファクトリーオートメーションや医療分野など、様々な方面への応用が期待できます。

デバイス動作の説明

 波長633nmのHe-Neレーザ光(周波数f0)を、中央の導波路にTE導波モードが励起されるように偏光を調整して入射します。励起したTE導波モードを、TE-TMモード変換素子MC1とセロダイン形周波数シフタ(鋸歯状波で駆動した位相変調素子)PMからなる2周波直交偏光発生素子で、周波数f1=f0+fRのTEモードと周波数f2=f0-fRのTMモードに変換します。実験ではfR=100kHzとしました。カップラC1で上の導波路に導かれたTEおよびTMモードを、端面のAl蒸着鏡Mで反射させ、TE-TMモード変換素子MC2で合波した後、Al偏光子PでTEモードだけ選択します。デバイスを出てフォトダイオードPD1で検出すると、周波数2fR=200kHzのビート(Reference beat)が検出されます(下図上のトレース)。

 一方、カップラC1を直進したTEおよびTMモードは、TE-TMモードスプリッタMSで分離されます。TEモードは下の導波路に導かれ、端面のAl蒸着鏡Mで反射します。TMモードは直進してデバイス右端から出射し、レンズでコリメート後、1/4波長板を介して被測定物体であるPZT上に照射します。PZTにはAl蒸着鏡が取り付けられていて、ここで反射した光は再びデバイス中央導波路に戻りますが、1/4波長板を往復することになりますのでTEモードとなり、TE-TMモードスプリッタで下の導波路に導かれます。両TEモードをカップラC4で合波し、フォトダイオードPD2で検出すると、周波数2fR=200kHzのビート(Signal beat)が検出されます(右図下のトレース)。Signal beatのReference beatに対する位相はPZT変位に比例します。ユニバーサルカウンタで両ビートの位相差を測定し、ペンレコーダで記録しました。


文献

H. Nishihara, M. Haruna and T. Suhara, "Optical integrated circuits," New York: McGraw-Hill, 1989, pp. 354-355.
R. G. Hunsperger, "Integrated optics: theory and technology - 4th editon-," Berlin, New York: Springer-Verlag, 1995, pp. 316-318.
R. C. Quenelle and L. J. Wuerz, "New microcomputer-controlled laser dimensional measurement and analysis system," Hewlett Packard Journal, vol. 34, no. 4, pp. 3-13 (1983).
H. Toda, M. Haruna and H. Nishihara, "Integrated-optic heterodyne interferometer for displacement measurement," IEEE/OSA Journal of Lightwave Technology, vol. 9, no. 5, pp. 683-687 (1991).(abstract)


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