線形モデルは被説明変数を説明変数の線形関数で表現するモデルである。本稿では、線形モデル以外のモデルを非線形モデルと呼ぶことにする。
非線形回帰分析には、説明変数や被説明変数に何らかの変換を施し、線形関係に置き換え線形回帰分析を行う方法、非線形の関数を当てはめる方法、加法モデル、樹木モデル、ニューラルネットワーク法など多数の方法が提案されている。
線形モデルは被説明変数を説明変数の線形関数で表現するモデルである。本稿では、線形モデル以外のモデルを非線形モデルと呼ぶことにする。
非線形回帰分析には、説明変数や被説明変数に何らかの変換を施し、線形関係に置き換え線形回帰分析を行う方法、非線形の関数を当てはめる方法、加法モデル、樹木モデル、ニューラルネットワーク法など多数の方法が提案されている。
非線形回帰分析の方法の最も基本的な方法は、非線形の関数式を用いてデータを当てはめる方法である。
Rには、自由に関数式を指定することができる非線形回帰分析の関数 nls がある。関数 nls の簡単な書き式を次に示す。
引数 formula の書き式は、関数 lm や glm と若干異なる。関数 lm と glm では非説明変数と説明変数のみを指定すればよかったが、関数 nls では被説明関数と説明変数との関係式を具体的に書く必要がある。
例えば、データに関数 を当てはめる非線形回帰分析の場合は fourmula の書き式は次のように関係式を書く。
この fourmula の中の a、b、c が求める回帰係数 (パラメータ) である。
関数 nls では、線形回帰分析の場合と同じく、被説明変数の実測値と予測値 (あるいは推測値) との差を最小とする最小2乗法で係数 (パラメータ) を求めている。
関数 nls では、パラメータの名前とその初期値を指定する必要がある。初期値の指定は、引数 start で設定した方が良い。上記の formula に対応する start の記述例を次に示す。
初期値は、データ解析者の勘と経験に頼るのが殆どである。
trace はパラメータの計算の過程を返すか否かを指定する引数である。計算過程の結果を返す場合は、TRUE(あるいはT)を指定する。デフォルトはFALSEになっている。
非線形回帰分析は、線形回帰分析より計算が難しいため、係数パラメータを求める際に、数値解がうまく求められず、プログラム実行が失敗する場合がしばしばある。その際には、モデルを換えて試行錯誤しなければならない。
ここでは一般化線モデルを説明する際に用いた日本におけるカラーテレビの普及率 (先月の号を参照) の例を用いて非線形回帰関数 nls の使用方法を説明する。
このような普及率、成長率のデータは、通常ロジスティック関数が多く用いられている。ここでは、次に示すロジスティック関数を用いてみよう。
上記に説明した手順で、次のように指定して実行するとエラメッセージが返される。
これは、関係式の中の exp (年度) が非常に大きな値になってしまったのが原因である。
そこで、説明変数1966〜1984を1〜19に置き換えて実行してみよう。
3.905671 : |
1 1 -1 |
||
2.387674 : |
0.9824052 | 0.4300442 | -0.1029666 |
1.743185 : |
0.8872618 | 0.8264732 | -0.2623701 |
0.7740847 : |
0.9841109 | 2.3123040 | -0.2310466 |
0.5578214 : |
0.9271411 | 7.5149748 | -0.5270324 |
0.09229084 : |
1.0001338 | 17.1134434 | -0.4350728 |
0.06874581 : |
0.9606817 | 40.3886048 | -0.6606493 |
0.01653944 : |
0.9826601 | 75.9510234 | -0.7160221 |
0.003486704 : |
0.9806949 | 110.6878664 | -0.7509771 |
0.001959816 : |
0.9804580 | 123.8500804 | -0.7565368 |
0.001949770 : |
0.9806034 | 123.8048180 | -0.7553703 |
0.001949752 : |
0.9806268 | 123.6621023 | -0.7551686 |
0.001949752 : |
0.9806279 | 123.6609507 |
このようにパラメータの計算過程が返され、パラメータ a、b、c の最終推定値はそれぞれ0.9807489、123.54058867、-0.7549528となっている。関数 summary で回帰の要約が返される。
Estimate | Std. Error | t value | Pr(>|t|) | ||
a | 0.98063 | 0.00384 | 255.401 | < 2e-16 | *** |
b | 123.66095 | 13.56739 | 9.115 | 9.82e-08 | *** |
c | -0.75516 | 0.01742 | -43.347 | < 2e-16 | *** |
--- |
a | b | |
b | -0.2950 | |
c | 0.3967 | -0.9709 |
予測値は関数 lm の場合と同じく関数 fitted で返される。
次のコマンドで、実測値と非線形回帰関数 nls による予測値をグラフで示す。図1から、予測値は実測値に非常によく近似していることが分かる。
図1 テレビの普及率の実測値と予測値
残差は関数 resid で返され、関数 plot で予測値対標準化された残差の散布図が作成される。
Rには頻繁に使用されている関数式が用意されているものもある。関数 nls では、その関数式をリンクして、非線形回帰分析を行うことができる。用意されている関数をリンクして回帰分析を行う際には、その関数の具体的な関数式を記述する必要がなく、関数のオブジェクトの名前を引数として用いる。例えば、ロジスティック関数のオブジェクトの名前は SSlogis、ワイブール関数は SSweibull となっている。
カラーテレビの普及率のデータをロジスティック関数 SSlogis を用いる場合は、次のような書き式で非線形回帰分析ができる。
上記の具体的な関係式を記述して求めた予測値とロジスティック関数 SSlogis を用いて求めた予測値を次に示す。異なる両方法で得られた予測値は非常によく近似している。
fitted.fm | fitted.fm1 | |
1 |
0.01660369 | 0.01660370 |
2 |
0.03466288 | 0.03466289 |
<中略> |
||
18 |
0.98059694 | 0.98059694 |
19 |
0.98067744 | 0.98067745 |
関数 nls による非線形回帰分析の説明のため、人工データを用いた例を次に示す。まず次のような人工データを作成し、そのデータの散布図を図2に示す。
図2 3次多項式の人口データ
データの散布図から縦軸 y と横軸 x の関係は3次多項式の関係であることが分かる。
3次多項式の一般式は y = a + bx + cx 2 + dx3 である。この式を用いた nls は次ぎのように記述する。
20490809 : |
1 1 1 1 |
|||
1089805 : |
-20.576319 | 24.692240 | 1.206357 | 8.678613 |
Estimate | Std. Error | t value | Pr(>|t|) | ||
a | -20.5763 | 15.8218 | -1.301 | 0.19651 | |
b | 24.6922 | 9.0471 | 2.729 | 0.00754 | ** |
c | 1.2064 | 1.3875 | 0.869 | 0.38674 | |
d | 8.6786 | 0.5421 | 16.011 | < 2e-16 | *** |
a | b | c | |
b | 8.778e-09 | ||
c | -7.454e-01 | -3.082e-09 | |
d | -2.804e-08 | -9.166e-01 | 2.545e-08 |
返された結果に基づいた多項式回帰モデルを次に示す。
読者が同じ方法で上記の操作を行っても本稿と同じ結果が得られないのは、間違いではなく、人工データを作成する際に正規乱数を生成して用いたためである。
統計モデルを作成する際には、パラメータの数を少なくするのが良い。そこで、簡潔な3次式 y = a + bx 3 を用いて同じデータについて非線形回帰分析を行ってみよう。
20715546 : |
1 1 |
|
1181990 : |
-10.32228 | 10.03462 |
a | b |
-10.32228 | 10.03462 |
返された結果のモデルは y = - 10.322 + 10.035x 3 となる。この異なる2つの多項式モデルによる AIC 値を次に示す。
AIC の値には大きな差がないことから、両モデルによる当てはめの良さには明らかな差がないことが分かる。
視覚的に考察するため、両モデルによる予測値を図2に加えるコマンドとその結果を図3に示す。
図3から分かるように、両モデルの予測値には差がほとんど見られない。
図3 人工データの実値と両モデルの予測値
初期値は大まかなものであるので、多少異なってもプログラムは作動する。初期値の設定に左右されるのは計算量である。
このような多項式による回帰分析は、線形回帰関数 lm を次のように記述することで等価の回帰モデルを求めることができる。
上記の書き式の中の poly(x,3) は、3次多項式 (Polynomial) のリンクに関する記述である。
関数 lm、glm、nls が対応できない、より複雑なデータにおける回帰モデルの説明のため、次の人工データを用いる。
上記のコマンドで生成された x1 を横軸、y1 を縦軸とした散布図を図4に示す。データ y1 を被説明変数、x1 を説明変数とした非線形回帰モデル考える場合、散布図から思い付くのは多項式回帰モデルであろう。
次の3種類の多項式回帰モデルのコマンドとその回帰モデルによる予測値を散布図に加えるコマンドを示す。
図4から分かるように、このデータにおいては、多項式によるモデルの当てはめの精度が良いとは言いがたい。
図4 3種類の多項式回帰モデルの予測値
このように複雑に変化する被説明変数を推定する方法として平滑化回帰の方法が提案されている。平滑化回帰を詳しく説明する紙面がないので、ここではRで提供している関数 smooth.spline、ksmooth、supsmu、lowess を用いた平滑化された回帰曲線を図5に示す。
図5 平滑化の例
パッケージ fields の中の関数 sreg を用いると平滑化スプライン (smoothing spline) 回帰を行うことができる。