国際連合の特権及び免除に関する条約(国連特権免除条約)
署名一九四六年二月一三日
国際連合総会第一回会期
効力発生一九四六年九月一七日
日本国一九六三年三月二二日国会承認、四月五日内閣決定、四月一八日加入書寄託、同日公布(条約第一二号)、効力発生

国際連合憲章第一〇四条は、この機構がその任務の遂行及び目的の達成のために必要な法律上の能力を各加盟国の領域において享有すると規定しているので、
また、
国際連合憲章第一〇五条は、この機構がその目的の達成に必要な特権及び免除を加盟国の領域において享有し、これと同様に、国際連合加盟国の代表者及びこの機構の職員がこの機構に関連する自已の任務を独立に遂行するために必要な特権及び免除を享有すると規定しているので、
よって、総会は、一九四六年二月三日に採択した決議により、次の条約を承認し、かつ、国際連合の各加盟国による加入のために提案する。

第一条(法人格)
第一項 国際連合は、法人格を有し、次の能力を有する。
(a)契約すること。
(b)不動産及び動産を取得し、及び処分すること。
(c)訴えを提起すること。

第二条(財産、基金及び資産)
第二項 国際連合並びに、所在地及び占有者のいかんを問わず、その財産及び資産は、免除を明示的に放棄した特定の場合を除き、あらゆる形式の訴訟手続の免除を享有する。もっとも、免除の放棄は、執行の措置には及ばないものと了解される。

第三項 国際連合の構内は、不可侵とする。国際連合の財産及び資産は、所在地及び占有者のいかんを問わず、執行上、行政上、司法上又は立法上の措置のいずれかによる捜索、徴発、没収、収用その他の形式の干渉を免除される。

第四項 国際連合の記録及び一般に国際連合が所有し、又は保管する文書は、所在のいかんを問わず、不可侵とする。

第五項 国際連合は、財政上のいかなる種類の管理、規制又はモラトリアムによっても制限されることなく、
(a)基金、金又はいかたる通貨をも保持し、及びいかなる通貨の勘定をも設けることができる。
(b)基金、金又は通貨を一国から他国へ又は一国内において移動し、及びその保持する通貨を他の通貨と交換することができる。

第六項 国際連合は、第五項の規定に基づく権利を行使するに当たっては、加盟国政府の申入れに対して、国際連合の利益を害することなくこの申入れを実施することができると考える限り、妥当な考慮を払わなければならない。

第七項 国際連合及びその資産、収入その他の財産は、
(a)すべての直接税を免除される。もっとも、国際連合は、事実上公益事業の使用料に過ぎない税の免除は要求しないものと了解される。
(b)国際連合がその公用のために輸入し、又は輸出する物品に関しては、関税並びに輸入及び輸出に対する禁止及び制限を免除される。もっとも、この免除を受けて輸入した物品は、輸入された国の政府と合意した条件によるのでなければ、その国では売却しないものと了解される。
(c)国際連合の刊行物に関しては、関税並びに輸入及び輸出に対する禁止及び制限を免除される。

第八項 国際連合は、原則として消費税並びに動産及び不動産の売却に対する税でその価格の一部をなすものの免除を要求しない。もっとも、加盟国は、国際連合が公用のために財産の重要な購入を行なうに際しこれに前記の税を課し、又は課することができる場合には、可能な限り税額の減免又は還付のため適当な行政的措置を執るものとする。

第三条 (通信に関する便益)
第九項 国際連合は、その公用通信に関して、各加盟国の領域において、郵便、海底線電報、有線電報、無線電報、写真電報、電話その他の通信に対する優先権、料金及び課金について、並びに新聞及びラジオの情報のための報道料金について、その加盟国の政府が他の国の政府(外交使節団を含む。)に与える待遇よりも不利でない待遇を享有する。国際連合の公用信書その他の公用通信は、検閲してはならない。

第一〇項 国際連合は、暗号を使用し、かつ、その信書を伝書使又は封印袋により発送し、及び接受する権利を有する。伝書使及び封印袋は、外交伝書使及び外交封印袋と同一の免除及び特権を有する。

第四条(加盟国の代表者)
第一一項 国際連合の主要機関及び補助機関に対する加盟国の代表者並びに国際連合が招集した会議に対する加盟国の代表者は、その任務の遂行中及び会合地への往復の旅行中、次の特権及び免除を享有する。
(a)身柄の逮捕又は抑留及び手荷物の押収の免除並びに、代表者としての資格で行なった口頭又は書面による陳述及びすべての行動に関して、あらゆる種類の訴訟手続の免除
(b)すべての書類及び文書の不可侵
(c)暗号を使用し、及び伝書使又は封印袋により書類又は信書を接受する権利
(d)自己及び配偶者に関して、その任務の遂行のため入国し、又は通過する国において、出入国制限、外国人登録又は国民的服役義務の免除
(e)通貨又は為替の制限に関して、一時的な公的任務を有する外国政府の代表者に与えられる便益と同一の便益
(f)手荷物に関して、外交使節に与えられる免除及び便益と同一の免除及び便益
(e)外交使節が享有するその他の特権、免除及び便益で前各号の規定に矛盾したいもの。ただし、輸入貨物(手荷物の一部としての輸入貨物を除く。)に対する関税又は消費税若しくは取引税の免除を要求する権利は、有しない。

第一二項 国際連合の主要機関及び補助機関に対する加盟国の代表者並びに国際連合が招集した会議に対する加盟国の代表者に完全な言論の自由及び任務の遂行に当たっての完全な独立を保障するために、任務の遂行に当たって行なった口頭又は書面による陳述及びすべての行動に関する訴訟手続の免除は、それらの者が加盟国の代表者でなくたった場合にも、引き続き与えたければならない。

第一三項 なんらかの形式の課税上の取扱いが居住を条件とする場合には、国際連合の主要機関及び補助機関に対する加盟国の代表者並びに国際連合が招集した会議に対する加盟国の代表者がその任務の遂行のために一国に滞在する期間は、居住期間と認めない。

第一四項 特権及び免除は、加盟国の代表者個人の一身上の便宜のために与えられるものではなく、国際連合に関連する任務を独立して遂行することを保障するために与えられるものである。したがって、加盟国は、自国の代表者に与えられる免除が裁判の進行を阻害するものであり、かつ、免除が与えられる目的を害することなくこれを放棄することができると判断する場合には、その免除を放棄する権利を有するばかりでなく、これを放棄する義務を負う。


第一五項 第一一項、第一二項及び第一三項の規定は、代表者とその代表者が国民である国又はその代表者が代表する若しくは代表した国の当局との間には、適用しない。
第二八項 この条において「代表者」とは、代表団のすべての代表、代表代理、顧問、技術専門家及び書記を含むものとする。

第五条(職員)
第一七項 事務総長は、この条及び第七条の規定の適用を受ける職員の種類を定める。事務総長は、この種類を総会に提出する。この種類は、その後、すべての加盟国の政府に通知される。この種類に含まれる職員の氏名は、随時加盟国の政府に通知される。

第一八項 国際連合の職員は、
(a)公的資格で行なった口頭又は書面による陳述及びすべての行動に関して、訴訟手続を免除される。
(b)国際連合が支払った給料及び手当に対する課税を免除される。
(c)国民的服役義務を免除される。
(d)配偶者及び扶養親族とともに、出入国制限及び外国人登録を免除される。
(e)為替の便益に関して、当該国政府に派遣されている外交使節団に属する外交官で自已の地位と同等のものに与えられる特権と同一の特権を与えられる。
(f)配偶者及び扶養親族とともに、国際的危機の場合に外交使節に与えられる帰国の便益と同一の便益を与えられる。
(g)当該国で最初にその地位につく際に家具及び携帯品を無税で輸入する権利を有する。

第一九項 第一八項に定める免除及び特権のほか、事務総長及びすべての事務次長は、自己、配偶者及び未成年の子に関して、国際法に従って外交使節に与えられる特権、免除及び便益を与えられる。

第二〇項 特権及び免除は、国際連合の利益のために職員に与えられるものであって、職員個人の一身上の便宜のために与えられるものではない。事務総長は、職員に与えられる免除が裁判の進行を阻害するものであり、かつ、国際連合の利益を害することなくこれを放棄することができると判断する場合には、その免除を放棄する権利及び義務を有する。事務総長の場合には、安全保障理事会がその免除を放棄する権利を有する。

第二一項 国際連合は、裁判の正当な運営を容易にし、警察法令の遵守を確保し、並びにこの条に掲げる特権、免除及び便益に関連する濫用の発生を防止するために、加盟国の関係当局と常に協力しなければならない。

第六条(国際連合のための任務を行なう専門家)
第二二項 国際連合のための任務を遂行する専門家(第五条の範囲に属する職員を除く。)は、その任務に関連する旅行に費やす時間を含めて、任務の期間中、任務を独立して遂行するために必要な特権及び免除を与えられる。この専門家は、特に、次の特権及び免除を与えられる。
(a)一身柄の逮捕又は抑留及び手荷物の押収の免除
(b)任務の遂行中に前記の者が行なった口頭又は書面による陳述及び行動に関して、あらゆる種類の訴訟手続の免除。この訴訟手続の免除は、その者が国際連合の任務に従事しなくなった場合にも、引き続き与えなければならない。
(c)すべての書類及び文書の不可侵
(d)国際連合との通信のために、暗号を使用し、及び伝書使又は封印袋により書類又は信書を接受する権利
(e)通貨又は為替の制限に関して、一時的た公的任務を有する外国政府の代表者に与えられる便益と同一の便益
(f)手荷物に関して、外交使節に与えられる免除及び便益と同一の免除及び便益

第二三項 特権及び免除は、国際連合の利益のために専門家に与えられるものであって、専門家個人の一身上の便宜のために与えられるものではない。事務総長は、専門家に与えられる免除が裁判の進行を阻害するものであり、かつ、国際連合の利益を害することなくこれを放棄することができると判断する場合には、その免除を放棄する権利及び義務を有する。

第七条(国際連合通行証)
第二四項 国際連合は、その職員に対し国際連合通行証を発給することができる。加盟国の当局は、第二五項の規定を考慮し、この通行証を有効な旅行証明書と認める。

第二五項 国際連合通行証の所持者から国際連合の用務で旅行しているという証明書を添附して査証の申請(その必要がある場合)があったときは、なるべくすみやかに処理しなげればならない。さらに、この所持者には、すみやかに旅行することができるよう便益を与えなければならない。

第二六項 専門家その他の者で、国際連合通行証を所持していないが国際連合の用務で旅行しているという証明書を有するものには、第二五項に定める便益と同様の便益を与えなければならない。

第二七項 国際連合の用務で国際連合通行証を携帯して旅行する事務総長、事務次長及び部長は、外交使節に与えられる便益と同一の便益を与えられる。

第二八項 この条の規定は、国際連合憲章第六三条の規定に基づいて連携関係のために締結された協定が規定する場合には、専門機関の同等の地位にある職員に適用することができる。

第八条(紛争の解決)
第二九項 国際連合は、次の紛争の適当な解決方法について定めなければならない。
(a)契約から生ずる紛争又は他の私法的性格を有する紛争で、国際連合を当事者とするもの
(b)公的地位により免除を享有する国際連合の職員に関する紛争。ただし、事務総長がその免除を放棄していない場合に限る。

第三〇項 この条約の解釈又は適用から生ずるすべての紛争は、当事者が他の解決方法によることを合意する場合を除き、国際司法裁判所に付託する。紛争が国際連合と加盟国との間に生じた場合には、紛争に含まれる法律問題については、国際連合憲章第九六条及び国際司法裁判所規程第六五条の規定に従って勧告的意見を要請する。裁判所が与えた意見は、関係当事者により最終的なものとして受諾される。

最終条項
第三一項 この条約は、国際連合のすべての加盟国に対し加入のため提案する。

第三二項 加入は、国際連合事務総長に加入書を寄託することにより行なう。この条約は、各加盟国の加入書が寄託された日にその加盟国について効力を生ずる。

第三三項 事務総長は、各加入書の寄託を国際連合のすべての加盟国に通報する。

第三四項 加入書が加盟国のために寄託されたときは、その加盟国は、自国の法令に基づいてこの条約の規定を実施することができるものと了解される。

第三五項 この条約は、国際連合と加入書を寄託したすべての加盟国との間で、同加盟国が国際連合加盟国である限り、又はこの条約の改正が総会により承認され、かつ、同加盟国がその改正条約の当事国となるまで、引き続き効力を有する。

第三六項 事務総長は、この条約の規定を調整する補足的協定を一又は二以上の加盟国との間に、これらの加盟国に関する限りにおいて、締結することができる。この補足的協定は、各場合に総会の承認を受けなければならない。