テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約
前文
この条約の締約国は、
国際の平和及び安全の維持並びに善隣主義、諸国間の友好関係及び諸国間の協力の促進に関する国際連合憲章の目的及び原則に留意し、
あらゆる形態のテロリズムの行為が世界的規模で増大していることを深く憂慮し、
千九百九十五年十月二十四日の国際連合五十周年記念宣言(国際連合総会決議第六号(第五十回会期))を想起し、
また、千九百九十四年十二月九日の国際連合総会決議第六十号(第四十九回会期)並びにその附属書である国際的なテロリズムを廃絶するための措置に関する宣言であって、国際連合加盟国が、テロリズムのあらゆる行為、方法及び実行(諸国及び諸国民の間の友好関係を害し並びに国の領土保全及び安全を脅かすものを含む。)を、行われた場所及び行った者のいかんを問わず、犯罪でありかつ正当化することができないも
のとして無条件に非難することを厳粛に再確認したものを含むこの問題についての関連するすべての国際連合総会決議を想起し、
また、国際的なテロリズムを廃絶するための措置に関する宣言が諸国に対し、この問題のすべての側面に関する包括的な法的枠組みが存在することを確保するため、あらゆる形態のテロリズムの防止、抑止及び廃絶に関する既存の国際的な法規の範囲を早急に見直すことを奨励していることに留意し、
千九百九十六年十二月十七日の国際連合総会決議第二百十号(第五十一回会期)3( f )の規定、すなわち、テロリスト及びテロリストの組織に対する資金供与について、これが直接的なものであるか、慈善的、社会的若しくは文化的な目的を有し若しくは有すると主張する組織又は武器の不正取引、薬物の取引、恐喝等の不法な活動(テロリストの活動に対する資金供与のための人の搾取を含む。)を行う組織を通じた間接的なものであるかを問わず、適当な国内措置により防止し及び対処するための措置をとること、並びに特に、正当な資本の移動の自由を何ら妨げることなく、テロリストの目的のために意図されている疑いのある資金の移動を防止し及びこれに対処するための規制措置をとることを適当な場合には考慮し、かつ、そのような資金の国際的な移動に関する情報の交換を強化することを国際連合総会がすべての国に要請した規定を想起し、
また、千九百九十六年十二月十七日の国際連合総会決議第二百十号(第五十一回会期)3(a)から( f )までに定める措置の実施を特に考慮することを国際連合総会が諸国に要請した千九百九十七年十二月十五日の国際連合総会決議第百六十五号(第五十二回会期)を想起し、
さらに、千九百九十六年十二月十七日の国際連合総会決議第二百十号(第五十一回会期)によって設置された特別委員会が、関連する既存の国際文書を補完するためにテロリストのための資金供与の防止に関する国際条約案を作成すべきであることを国際連合総会が決定した千九百九十八年十二月八日の国際連合総会決議第百八号(第五十三回会期)を想起し、
テロリズムに対する資金供与が国際社会全体にとって重大な関心事であることを考慮し、国際的なテロリズムの行為の数及び重大性はテロリストが得る資金に依存することに留意し、
また、既存の多数国間の法的文書がそのような資金供与につき明示的に取り扱っていないことに留意し、
テロリズムに対する資金供与を防止し、特にこのような行為を行った者の訴追及び処罰によってこれを防止するための効果的な措置を立案し及びとるに当たって諸国間の国際協力を強化することが急務であること
を確信して、
次のとおり協定した。
第一条
この条約の適用上、
1 「資金」とは、有形であるか無形であるか、動産であるか不動産であるか及び取得の方法のいかんを問わず、あらゆる種類の財産及びこれらの財産に関する権原又は権利を証明するあらゆる形式の法律上の書類又は文書(電子的な又はデジタル式のものを含む。)をいう。これらの書類又は文書には、少なくとも銀行信用状、旅行小切手、銀行小切手、為替証書、株券、有価証券、債券、手形及び信用状を含む。
2 「国又は政府の施設」とは、国の代表者、政府、立法機関若しくは司法機関の構成員、国その他公の当局若しくは団体の職員若しくは被用者又は政府間機関の被用者若しくは職員がその公務に関連して使用し又は占有する常設又は臨時の施設及び輸送機関をいう。
3 「収益」とは、第二条に定める犯罪の実行により生じ又は直接若しくは間接に得られた資金をいう。
第二条
1 その全部又は一部が次の行為を行うために使用されることを意図して又は知りながら、手段のいかんを問わず、直接又は間接に、不法かつ故意に、資金を提供し又は収集する行為は、この条約上の犯罪とする。
(a)附属書に掲げるいずれかの条約の適用の対象となり、かつ、当該いずれかの条約に定める犯罪を構成する行為
(b)文民又はその他の者であって武力紛争の状況における敵対行為に直接に参加しないものの死又は身体の重大な傷害を引き起こすことを意図する他の行為。ただし、当該行為の目的が、その性質上又は状況上、住民を威嚇し又は何らかの行為を行うこと若しくは行わないことを政府若しくは国際機関に対して強要することである場合に限る。
2(a)附属書に掲げるいずれかの条約の締約国でない締約国は、批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託に際し、この条約の自国についての適用上、当該いずれかの条約が1(a)に規定する附属書に含まれないものとみなすことを宣言することができる。その宣言は、当該いずれかの条約が当該締約国について効力を生じた後直ちに効力を失う。当該締約国は、この事実を寄託者に通報する。
(b)締約国は、附属書に掲げるいずれかの条約の締約国でなくなる場合には、当該いずれかの条約について、この条に定める宣言を行うことができる。
3 1に定める行為が犯罪を構成するためには、資金が1(a)又は(b)に定める犯罪を実行するために実際に使用されたことを要しない。
4 1に定める犯罪の未遂も、犯罪とする。
5 次の行為も、犯罪とする。
(a)1又は4に定める犯罪に加担する行為
(b)1又は4に定める犯罪を行わせるために他の者を組織し又は他の者に指示する行為
(c)共通の目的をもって行動する人の集団が1又は4に定める犯罪の一又は二以上を実行することに対して寄与する行為。ただし、故意に行われ、かつ、次のいずれかに該当する場合に限る。
( i )当該集団の犯罪活動又は犯罪目的の達成を助長するために寄与する場合。もっとも、当該犯罪活動又は犯罪目的が1に定める犯罪の実行に関係するときに限る。
(ii)1に定める犯罪を実行するという当該集団の意図を知りながら寄与する場合
第三条
この条約は、犯罪が単一の国において行われ、容疑者が当該国の国民であり、当該容疑者が当該国の領域内に所在し、かつ、他のいずれの国も第七条1又は2の規定に基づいて裁判権を行使する根拠を有しない場合には、適用しない。ただし、第十二条から第十八条までの規定は、適当なときはこれらの場合についても適用する。
第四条
締約国は、次のことのために必要な措置をとる。
(a)第二条に定める犯罪を自国の国内法上の犯罪とすること。
(b)(a)の犯罪について、その重大性を考慮した適当な刑罰を科することができるようにすること。
第五条
1 締約国は、自国の領域内に所在しており又は自国の法令の下で組織された法人の経営又は管理に責任を有する者がその資格において第二条に定める犯罪を行った場合には、自国の法的原則に従い、当該法人が責任を負うことを可能とするために必要な措置をとる。当該責任は、刑事上、民事上又は行政上のものと
することができる。
2 1の責任を負うことは、犯罪を行った個人の刑事上の責任に影響を及ぼすものではない。
3 締約国は、特に、1の規定に従って責任を負う法人に対し、効果的な、均衡がとれたかつ抑止力のある刑事上、民事上又は行政上の制裁が科されることを確保する。当該制裁には、金銭的制裁を含めることができる。
第六条
締約国は、この条約の適用の対象となる犯罪行為が政治的、哲学的、思想的、人種的、民族的、宗教的又は他の同様の考慮によっていかなる場合にも正当化されないことを確保するため、必要な措置(適当な場合には、国内立法を含む。)をとる。
第七条
1 締約国は、次の場合において第二条に定める犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
(a)犯罪が自国の領域内で行われる場合
(b)犯罪が、当該犯罪の時に自国を旗国とする船舶内又は自国の法律により登録されている航空機内で行われる場合
(c)犯罪が自国の国民によって行われる場合
2 締約国は、次の場合において第二条に定める犯罪についての自国の裁判権を設定することができる。
(a)犯罪が、同条1(a)若しくは(b)に定める犯罪であって自国の領域内で若しくは自国の国民に対して行われるものの実行のために行われ、又は当該実行をもたらした場合(b)犯罪が、同条1(a)若しくは(b)に定める犯罪であって国外にある自国の国若しくは政府の施設(自国の外交機関及び領事機関の公館を含む。)に対して行われるものの実行のために行われ、又は当該実行をもたらした場合(c)犯罪が、同条1(a)若しくは(b)に定める犯罪であって何らかの行為を行うこと若しくは行わないことを自国に対して強要する目的で行われるもののために行われ、又は当該犯罪をもたらした場合(d)犯罪が自国の領域内に常居所を有する無国籍者によって行われる場合(e)犯罪が自国の政府の運航する航空機内で行われる場合
3 締約国は、この条約を批准し、受諾し若しくは承認し又はこの条約に加入する際、2の規定に従って設定した裁判権について国際連合事務総長に通報する。当該裁判権の変更を行った締約国は、その旨を同事務総長に直ちに通報する。
4 締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、自国が1又は2の規定に従って裁判権を設定したいずれの締約国に対しても当該容疑者の引渡しを行わない場合において第二条に定める犯罪についての自国の裁判権を設定するため、同様に、必要な措置をとる。
5 二以上の締約国が第二条に定める犯罪についての裁判権を主張する場合には、関係締約国は、特に訴追の条件及び法律上の相互援助の方法に関して適切に行動を調整するよう努力する。
6 この条約は、一般国際法の規範が適用される場合を除くほか、締約国が自国の国内法に従って設定した刑事裁判権の行使を排除するものではない。
第八条
1 締約国は、自国の法的原則に従い、第二条に定める犯罪の実行を目的として使用され又は配分されたあらゆる資金及び当該犯罪から生じた収益について、没収を行い得るようにするために特定し、発見し及び凍結し又は押収するための適当な措置をとる。
2 締約国は、自国の法的原則に従い、第二条に定める犯罪の実行を目的として使用され又は配分された資金及び当該犯罪から生じた収益を没収するための適当な措置をとる。
3 関係締約国は、この条に規定する没収から生じた資金を定期的に又は個々の場合に応じて他の締約国との間で配分することについて協定を締結することを考慮することができる。
4 締約国は、この条に規定する没収から生じた資金を第二条1(a)若しくは(b)に定める犯罪の被害者又はその家族に対する補償のために使用する仕組みを確立することを考慮する。
5 この条の規定は、善意の第三者の権利を害することなく実施する。
第九条
1 第二条に定める犯罪を行った者又はその疑いのある者が自国の領域内に所在している可能性があるとの情報を受領した締約国は、その情報に含まれている事実について調査するため、自国の国内法により必要な措置をとる。
2 犯人又は容疑者が領域内に所在する締約国は、状況によって正当であると認める場合には、訴追又は引渡しのために当該犯人又は容疑者の所在を確実にするため、自国の国内法により適当な措置をとる。
3 いずれの者も、自己について2の措置がとられている場合には、次の権利を有する。
(a)当該者の国籍国その他当該者の権利を保護する資格を有する国又は当該者が無国籍者である場合には当該者が領域内に常居所を有する国の最寄りの適当な代表と遅滞なく連絡を取る権利
(b)(a)の国の代表の訪問を受ける権利
(c)(a)及び(b)に定める自己の権利について告げられる権利
4 3に定める権利は、犯人又は容疑者が領域内に所在する国の法令に反しないように行使する。当該法令は、3に定める権利の目的とするところを十分に達成するようなものでなければならない。
5 3及び4の規定は、第七条1(c)又は2(d)の規定に従って裁判権を設定した国が、赤十字国際委員会に対し容疑者と連絡を取り又は容疑者を訪問するよう要請する権利を害するものではない。
6 いずれの締約国も、この条の規定に基づいていずれかの者を抑留した場合には、第七条1又は2の規定に従って裁判権を設定した締約国及び適当と認めるときは利害関係を有するその他の締約国に対し、直接又は国際連合事務総長を通じて、当該者が抑留されている事実及びその抑留が正当とされる事情を直ちに通報する。1の調査を行った国は、その結果をこれらの締約国に対して速やかに通報し、かつ、自国が裁判権を行使する意図を有するか否かを明らかにする。
第十条
1 容疑者が領域内に所在する締約国は、第七条の規定が適用される場合において、当該容疑者を引き渡さないときは、犯罪が自国の領域内で行われたものであるか否かを問わず、いかなる例外もなしに、かつ、不当に遅滞することなく、自国の法令による手続を通じて訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託する義務を負う。その当局は、自国の法令に規定する他の重大な犯罪の場合と同様の方法で決定を行う。
2 締約国は、自国の国内法が、引渡しの請求に係る裁判又は手続の結果科された刑に服するために自国民が自国に送還されるとの条件下においてのみ当該自国民の引渡しを認める場合において、当該引渡しの請求を行う国との間でそのような方法をとること及び他の適当と認める条件について合意するときは、そのような条件付の引渡しによって1に規定する義務を履行することができる。
第十一条
1 第二条に定める犯罪は、この条約が効力を生ずる前に締約国間に存在する犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、相互間でその後締結されるすべての犯罪人引渡条約に同条に定める犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。
2 条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合には、随意にこの条約を第二条に定める犯罪に関する犯罪人引渡しのための法的根拠とみなすことができる。この犯罪人引渡しは、請求を受けた国の法令に定める他の条件に従う。
3 条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は、犯罪人引渡しの請求を受けた国の法令に定める条件に従い、相互間で、第二条に定める犯罪を引渡犯罪と認める。
4 第二条に定める犯罪は、締約国間の犯罪人引渡しに関しては、必要な場合には、当該犯罪が発生した場所のみでなく、第七条1又は2の規定に従って裁判権を設定した国の領域内においても行われたものとみなされる。
5 締約国間のすべての犯罪人引渡条約及び犯罪人引渡取極は、第二条に定める犯罪について、この条約と両立しない限度において当該締約国間で修正されたものとみなされる。
第十二条
1 締約国は、第二条に定める犯罪について行われる捜査、刑事訴訟又は犯罪人引渡しに関する手続について、相互に最大限の援助(これらの手続に必要であり、かつ、自国が所持する証拠の収集に係る援助を含む。)を与える。
2 締約国は、銀行による秘密の保持を理由としては、法律上の相互援助の要請を拒否することができない。
3 要請を行った締約国は、当該要請を受けた締約国が提供した情報又は証拠を、当該要請を受けた締約国の事前の同意なしに、当該要請において明記された捜査、訴追又は司法手続以外のもののために送付し又は利用してはならない。
4 締約国は、第五条の規定に従って刑事上、民事上又は行政上の責任を確立するために必要な情報又は証拠を他の締約国との間で共有する仕組みを確立することを考慮することができる。
5 締約国は、相互間に法律上の相互援助又は情報の交換に関する条約又は他の取極が存在する場合には、当該条約又は他の取極に合致するように、1及び2に規定する義務を履行する。締約国は、そのような条約又は取極が存在しない場合には、国内法に従って相互に援助を与える。
第十三条
第二条に定める犯罪は、犯罪人引渡し又は法律上の相互援助に関しては、財政に係る犯罪とみなしてはならない。したがって、締約国は、財政に係る犯罪に関係することのみを理由として、犯罪人引渡しの請求又は法律上の相互援助の要請を拒否することはできない。
第十四条
第二条に定める犯罪は、犯罪人引渡し又は法律上の相互援助に関しては、政治犯罪、政治犯罪に関連する犯罪又は政治的な動機による犯罪とみなしてはならない。したがって、政治犯罪、政治犯罪に関連する犯罪又は政治的な動機による犯罪に関係することのみを理由として、同条に定める犯罪を根拠とする犯罪人引渡しの請求又は法律上の相互援助の要請を拒否することはできない。
第十五条
この条約のいかなる規定も、第二条に定める犯罪に関する犯罪人引渡しの請求又は法律上の相互援助の要請を受けた締約国がこれらの請求若しくは要請が人種、宗教、国籍、民族的出身若しくは政治的意見を理由としてこれらの請求若しくは要請の対象となる者を訴追し若しくは処罰するために行われたと信じ又はこれらの請求若しくは要請に応ずることにより当該者の地位がこれらの理由によって害されると信ずるに足りる実質的な根拠がある場合には、引渡しを行い又は法律上の相互援助を与える義務を課するものと解してはならない。
第十六条
1 一の締約国の領域内において抑留され又は刑に服している者については、当該者が確認、証言その他援助であって第二条に定める犯罪の捜査又は訴追のための証拠の収集に係るものの提供のために他の締約国において出頭することが要請された場合において、次の条件が満たされるときは、移送することができる。
(a)当該者が事情を知らされた上で任意に同意を与えること。
(b)双方の国の権限のある当局がこれらの国の適当と認める条件に従って合意すること。
2 この条の規定の適用上、
(a)1に定める者が移送された国は、当該者を移送した国が別段の要請を行わず又は承認を与えない限り、移送された当該者を抑留する権限を有し及び義務を負う。
(b)1に定める者が移送された国は、自国及び当該者を移送した国の双方の権限のある当局による事前又は別段の合意に従い、移送された当該者をその移送した国による抑留のために送還する義務を遅滞なく履行する。
(c)1に定める者が移送された国は、当該者を移送した国に対し、当該者の送還のために犯罪人引渡手続を開始するよう要求してはならない。
(d)移送された者が移送された国において抑留された期間は、当該者を移送した国における当該者の刑期に算入する。
3 移送された者は、この条の規定に従って当該者を移送する締約国が同意しない限り、その国籍のいかんを問わず、当該者を移送した国の領域を出発する前の行為又は有罪判決につき、当該者が移送された国の領域内において、訴追されず若しくは抑留されず、又は身体の自由についての他のいかなる制限も課せられない。
第十七条
いずれの者も、この条約に従って抑留され又は他の措置若しくは手続がとられている場合には、公正な取扱い(当該者が領域内に所在する国の法令及び国際人権法を含む国際法の関係規定に基づくすべての権利及び保障の享受を含む。)を保障される。
第十八条
1 締約国は、自国の領域内又は領域外で行われる第二条に定める犯罪の自国の領域内における準備を防止し及びこれに対処するため、必要な場合には国内法令を適合させることを含むあらゆる実行可能な措置をとることにより、当該犯罪の防止について協力する。これらの措置には、次のものを含む。
(a)事情を知りながら当該犯罪の実行について助長し、扇動し若しくは組織し又は当該犯罪を実行する個人及び団体が行う不法な活動を自国の領域内において禁止する措置
(b)金融機関その他金融取引に関係する職業に従事する者に対し、その通常又は臨時の顧客及び口座を開設している顧客の身元を確認するために利用し得る最も効率的な措置をとること並びに通常と異なる又は疑わしい取引に対して特別な注意を払い及び犯罪活動から生じた疑いのある取引を報告することを要求する措置。このため、締約国は、次のことを考慮する。
( i )名義人若しくは受益者が確認されていない又はこれらを確認することのできない口座の開設を禁止する規則を定めること、及び当該機関が当該開設に係る取引についての真の権利者の身元を確認することを確保する措置をとること。
(ii)法人の身元の確認に関し、必要な場合には、法人の設立の証拠(当該法人である顧客の名称、法的形態、所在地、取締役及び当該法人を拘束する権限を規律する規定に関する情報を含む。)を公の登録簿若しくは当該法人である顧客から又はこれらの双方から得ることにより、当該法人である顧客の法的な存在及び構成を確認する措置をとることを金融機関に要求すること。
(iii)金融機関に対し、明白な、かつ、経済的又は明らかに合法的な目的を有しないすべての複雑な、通常と異なるかつ大規模な取引及び通常と異なる取引の形態を権限のある当局に速やかに報告する義務を課する規則を定めること。金融機関は、善意によりその疑いを報告する場合には、情報の開示に関するいかなる制限の違反についても、刑事上又は民事上の責任を問われない。
(iv)金融機関に対し、取引(国内取引及び国際取引の双方)に関するすべての必要な記録を少なくとも五年間保持するよう要求すること。
2 締約国は、次の措置を考慮することにより、第二条に定める犯罪の防止について更に協力する。
(a)送金に係るすべての機関を監督するための措置(例えば許可制度を含む。)
(b)現金及び持参人による譲渡可能な証書の物理的に国境を越える輸送を発見し又は監視するための実行可能な措置。ただし、情報の適正な使用を確保するための厳格な保障を条件とし、かつ、資本の自由な移動を何ら妨げないものとする。
3 締約国は、自国の国内法に従って正確なかつ確認された情報を交換し、かつ、第二条に定める犯罪を防止するために適宜とる行政上の措置その他の措置を調整すること、特に次のことにより、当該犯罪の防止について更に協力する。
(a)当該犯罪のすべての側面に関する情報の確実かつ迅速な交換を促進するため、権限のある機関相互間の連絡の経路を設け及び維持すること。
(b)当該犯罪について次の事項に関する照会を行うに当たり、相互に協力すること。
( i )当該犯罪に関係しているとの十分な疑いがある者の特定、所在及び活動
(ii)当該犯罪の実行に関連する資金の移動
4 締約国は、国際刑事警察機構を通じて情報を交換することができる。
第十九条
容疑者を訴追した締約国は、自国の法令又は関係手続に従い、訴訟手続の確定的な結果を国際連合事務総長に通報する。同事務総長は、その情報を他の締約国に伝達する。
第二十条
締約国は、国の主権平等及び領土保全の原則並びに国内問題への不干渉の原則に反しない方法で、この条約に基づく義務を履行する。
第二十一条
この条約のいかなる規定も、国際法、特に国際連合憲章の目的、国際人道法及び他の関連条約に基づいて国及び個人が有する他の権利、義務及び責任に影響を及ぼすものではない。
第二十二条
この条約のいかなる規定も、締約国に対し、他の締約国の領域内において、当該他の締約国の当局がその国内法により専ら有する裁判権を行使する権利及び任務を遂行する権利を与えるものではない。
第二十三条
1 附属書は、次の要件を満たす関連条約を加えることによる改正を行うことができる。
(a)すべての国に開放されていること。
(b)効力を生じていること。
(c)この条約の締約国のうち少なくとも二十二の国が批准し、受諾し、承認し又は加入していること。
2 いずれの締約国も、この条約が効力を生じた後は、1の改正を提案することができる。改正のための提案については、寄託者に対し書面により送付する。寄託者は、1の要件を満たす提案をすべての締約国に通報し、提案された改正を採択すべきかどうかについて締約国の見解を求める。
3 提案された改正は、その通報の後百八十日以内に締約国の三分の一が書面による通告を行うことによって反対しない限り、採択されたものとする。
4 採択された附属書の改正は、当該改正についての二十二番目の批准書、受諾書又は承認書が寄託された後三十日で、これらの文書を寄託したすべての締約国について効力を生ずる。当該改正についての二十二番目の批准書、受諾書又は承認書が寄託された後に当該改正を批准し、受諾し又は承認する締約国については、当該改正は、その批准書、受諾書又は承認書を当該締約国が寄託した後三十日目の日に効力を生ずる。
第二十四条
1 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で合理的な期間内に交渉によって解決することができないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、仲裁に付される。仲裁の要請の日から六箇月以内に仲裁の組織について紛争当事国が合意に達しない場合には、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判所規程に従って請求を行うことにより、国際司法裁判所に紛争を付託することができる。
2 各国は、この条約の署名、批准、受諾若しくは承認又はこの条約への加入の際に、1の規定に拘束されない旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような留保を付した締約国との関係において1の規定に拘束されない。
3 2の規定に基づいて留保を付したいずれの国も、国際連合事務総長に対する通告により、いつでもその留保を撤回することができる。
第二十五条
1 この条約は、二千年一月十日から二千一年十二月三十一日まで、ニュー・ヨークにある国際連合本部において、すべての国による署名のために開放しておく。
2 この条約は、批准され、受諾され又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、国際連合事務総長に寄託する。
3 この条約は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。
第二十六条
1 この条約は、二十二番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後十日目の日に効力を生ずる。
2 二十二番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し、受諾し若しくは承認し又はこれに加入する国については、この条約は、その批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の後三十日目の日に効力を生ずる。
第二十七条
1 いずれの締約国も、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。
2 廃棄は、国際連合事務総長が1の通告を受領した日の後一年で効力を生ずる。
第二十八条アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。同事務総長は、その認証謄本をすべての国に送付する。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けて、二千年一月十日にニュー・ヨークにある国際連合本部で署名のために開放されたこの条約に署名した。
附属書
1 航空機の不法な奪取の防止に関する条約(千九百七十年十二月十六日にヘーグにおいて作成)
2 民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(千九百七十一年九月二十三日にモントリオールにおいて作成)
3 国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約(千九百七十三年二月十四日に国際連合総会において採択)
4 人質をとる行為に関する国際条約(千九百七十九年十二月十七日に国際連合総会において採択)
5 核物質の防護に関する条約(千九百八十年三月三日にウィーンにおいて採択)
6 民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約を補足する国際民間航空に使用される空港における不法な暴力行為の防止に関する議定書(千九百八十八年二月二十四日にモントリオールにおいて作成)
7 海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(千九百八十八年三月十日にローマにおいて作成)
8 大陸棚に所在する固定プラットフォームの安全に対する不法な行為の防止に関する議定書(千九百八十年三月十日にローマにおいて作成)
9 テロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約(千九百九十七年十二月十五日に国際連合総会において採択)