難民の地位に関する条約 抄



【法令番号 】昭和五十六年十月十五日条約第二十一号
【施行年月日】昭和五十七年一月一日外務省告示第三百五十九号

  第一章 一般規定
第一条(「難民」の定義) A この条約の適用上、「難民」とは、次の者をいう。
 (1)千九百二十六年五月十二日の取極、千九百二十八年六月三十日の取極、千九百三十三年十月二十八日の条約、千九百三十八年二月十日の条約、千九百三十九年九月十四日の議定書又は国際避難民機関憲章により難民と認められている者
  国際避難民機関がその活動期間中いずれかの者について難民としての要件を満たしていないと決定したことは、当該者が(2)の条件を満たす場合に当該者に対し難民の地位を与えることを妨げるものではない。
 (2)千九百五十一年一月一日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であつて、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であつて、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの
  二以上の国籍を有する者の場合には、「国籍国」とは、その者がその国籍を有する国のいずれをもいい、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するという正当な理由なくいずれか一の国籍国の保護を受けなかつたとしても、国籍国の保護がないとは認められない。
 B (1)この条約の適用上、Aの「千九百五十一年一月一日前に生じた事件」とは、次の事件のいずれかをいう。
 (a)千九百五十一年一月一日前に欧州において生じた事件
 (b)千九百五十一年一月一日前に欧州又は他の地域において生じた事件
  各締約国は、署名、批准又は加入の際に、この条約に基づく自国の義務を履行するに当たつて(a)又は(b)のいずれの規定を適用するかを選択する宣言を行う。
 (2)(a)の規定を適用することを選択した国は、いつでも、(b)の規定を適用することを選択する旨を国際連合事務総長に通告することにより、自国の義務を拡大することができる。
 C Aの規定に該当する者についてのこの条約の適用は、当該者が次の場合のいずれかに該当する場合には、終止する。
 (1)任意に国籍国の保護を再び受けている場合
 (2)国籍を喪失していたが、任意にこれを回復した場合
 (3)新たな国籍を取得し、かつ、新たな国籍国の保護を受けている場合
 (4)迫害を受けるおそれがあるという恐怖を有するため、定住していた国を離れ又は定住していた国の外にとどまつていたが、当該定住していた国に任意に再び定住するに至つた場合
 (5)難民であると認められる根拠となつた事由が消滅したため、国籍国の保護を受けることを拒むことができなくなつた場合
  ただし、この(5)の規定は、A(1)の規定に該当する難民であつて、国籍国の保護を受けることを拒む理由として過去における迫害に起因するやむを得ない事情を援用することができるものについては、適用しない。
 (6)国籍を有していない場合において、難民であると認められる根拠となつた事由が消滅したため、常居所を有していた国に帰ることができるとき。
  ただし、この(6)の規定は、A(1)の規定に該当する難民であつて、常居所を有していた国に帰ることを拒む理由として過去における迫害に起因するやむを得ない事情を援用することができるものについては、適用しない。
 D この条約は、国際連合難民高等弁務官以外の国際連合の機関の保護又は援助を現に受けている者については、適用しない。
これらの保護又は援助を現に受けている者の地位に関する問題が国際連合総会の採択する関連決議に従つて最終的に解決されることなくこれらの保護又は援助の付与が終止したときは、これらの者は、その終止により、この条約により与えられる利益を受ける。
 E この条約は、居住国の権限のある機関によりその国の国籍を保持することに伴う権利及び義務と同等の権利を有し及び同等の義務を負うと認められる者については、適用しない。
 F この条約は、次のいずれかに該当すると考えられる相当な理由がある者については、適用しない。
 (a)平和に対する犯罪、戦争犯罪及び人道に対する犯罪に関して規定する国際文書の定めるこれらの犯罪を行つたこと。
 (b)難民として避難国に入国することが許可される前に避難国の外で重大な犯罪(政治犯罪を除く。)を行つたこと。
 (c)国際連合の目的及び原則に反する行為を行つたこと。
第二条(一般的義務) すべての難民は、滞在する国に対し、特に、その国の法令を遵守する義務及び公の秩序を維持するための措置に従う義務を負う。
第三条(無差別) 締約国は、難民に対し、人種、宗教又は出身国による差別なしにこの条約を適用する。
第四条(宗教) 締約国は、その領域内の難民に対し、宗教を実践する自由及び子の宗教的教育についての自由に関し、自国民に与える待遇と少なくとも同等の好意的待遇を与える。
第五条(この条約に係わりなく与えられる権利) この条約のいかなる規定も、締約国がこの条約に係わりなく難民に与える権利及び利益を害するものと解してはならない。
第六条(「同一の事情の下で」の意味) この条約の適用上、「同一の事情の下で」とは、その性格上難民が満たすことのできない要件を除くほか、ある者が難民でないと仮定した場合に当該者が特定の権利を享受するために満たさなければならない要件(滞在又は居住の期間及び条件に関する要件を含む。)が満たされていることを条件として、ということを意味する。
第七条(相互主義の適用の免除)1 締約国は、難民に対し、この条約が一層有利な規定を設けている場合を除くほか、一般に外国人に対して与える待遇と同一の待遇を与える。
2 すべての難民は、いずれかの締約国の領域内に三年間居住した後は、当該締約国の領域内において立法上の相互主義を適用されることはない。
3 締約国は、自国についてこの条約の効力が生ずる日に相互の保証なしに難民に既に認めている権利及び利益が存在する場合には、当該権利及び利益を引き続き与える。
4 締約国は、2及び3の規定により認められる権利及び利益以外の権利及び利益を相互の保証なしに難民に与えることの可能性並びに2に規定する居住の条件を満たしていない難民並びに3に規定する権利及び利益が認められていない難民に対しても相互主義を適用しないことの可能性を好意的に考慮する。
5 2及び3の規定は、第十三条、第十八条、第十九条、第二十一条及び第二十二条に規定する権利及び利益並びにこの条約に規定していない権利及び利益のいずれについても、適用する。
第八条(例外的措置の適用の免除) 締約国は、特定の外国の国民の身体、財産又は利益に対してとることのある例外的措置については、形式上当該外国の国民である難民に対し、その国籍のみを理由としてこの措置を適用してはならない。前段に定める一般原則を適用することが法制上できない締約国は、適当な場合には、当該難民について当該例外的措置の適用を免除する。
第九条(暫定措置) この条約のいかなる規定も、締約国が、戦時に又は他の重大かつ例外的な状況において、特定の個人について国の安全のために不可欠であると認める措置を暫定的にとることを妨げるものではない。もつとも、当該特定の個人について真に難民であるか難民でないか又は当該特定の個人について当該不可欠であると認める措置を引き続き適用することが国の安全のために必要であるか必要でないかを当該締約国が決定するまでの間に限る。
第十条(居住の継続)1 第二次世界戦争中に退去を強制されていずれかの締約国の領域に移動させられ、かつ、当該領域内に居住している難民は、この滞在を強制された期間合法的に当該領域内に居住していたものとみなす。
2 難民が第二次世界戦争中にいずれかの締約国の領域からの退去を強制され、かつ、居住のため当該領域にこの条約の効力発生の日前に帰つた場合には、この強制された退去の前後の居住期間は、継続的な居住が必要とされるいかなる場合においても継続した一の期間とみなす。
第十一条(難民である船員) 締約国は、自国を旗国とする船舶の常傭の乗組員として勤務している難民については、自国の領域における定住について好意的考慮を払うものとし、特に他の国における定住を容易にすることを目的として、旅行証明書を発給し又は自国の領域に一時的に入国を許可することについて好意的考慮を払う。

  第二章 法的地位
第十二条(属人法)1 難民については、その属人法は住所を有する国の法律とし、住所を有しないときは、居所を有する国の法律とするものとする。
2 難民が既に取得した権利であつて属人法に基づくもの特に婚姻に伴う権利は、難民が締約国の法律に定められる手続に従うことが必要な場合にはこれに従うことを条件として、当該締約国により尊重される。ただし、この権利は、当該難民が難民でないとした場合においても、当該締約国の法律により認められるものでなければならない。
第十三条(動産及び不動産) 締約国は、難民に対し、動産及び不動産の所有権並びに動産及び不動産についてのその他の権利の取得並びに動産及び不動産に関する賃貸借その他の契約に関し、できる限り有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
第十四条(著作権及び工業所有権) 難民は、発明、意匠、商標、商号等の工業所有権の保護並びに文学的、美術的及び学術的著作物についての権利の保護に関しては、常居所を有する国において、その国の国民に与えられる保護と同一の保護を与えられるものとし、他のいずれの締約国の領域においても、当該難民が常居所を有する国の国民に対して当該締約国の領域において与えられる保護と同一の保護を与えられる。
第十五条(結社の権利) 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、非政治的かつ非営利的な団体及び労働組合に係る事項に関し、同一の事情の下で外国の国民に与える待遇のうち最も有利な待遇を与える。
第十六条(裁判を受ける権利)1 難民は、すべての締約国の領域において、自由に裁判を受ける権利を有する。
2 難民は、常居所を有する締約国において、裁判を受ける権利に関連する事項(法律扶助及び訴訟費用の担保の免除を含む。)につき、当該締約国の国民に与えられる待遇と同一の待遇を与えられる。
3 難民は、常居所を有する締約国以外の締約国において、2に規定する事項につき、当該常居所を有する締約国の国民に与えられる待遇と同一の待遇を与えられる。

  第三章 職業
第十七条(賃金が支払われる職業)1 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、賃金が支払われる職業に従事する権利に関し、同一の事情の下で外国の国民に与える待遇のうち最も有利な待遇を与える。
2 いかなる場合にも、締約国が国内労働市場の保護のため外国人又は外国人の雇用に関してとる制限的措置は、当該締約国についてこの条約の効力が生ずる日に既にそれらの措置の適用を免除されている難民又は次の条件のいずれかを満たす難民については、適用しない。
 (a)当該締約国に三年以上居住していること。
 (b)当該難民が居住している当該締約国の国籍を有する配偶者があること。難民は、その配偶者を遺棄した場合には、この(b)の規定による利益を受けることができない。
 (c)当該難民が居住している当該締約国の国籍を有する子があること。
3 締約国は、賃金が支払われる職業に関し、すべての難民、特に、労働者募集計画又は移住者受入計画によつて当該締約国の領域に入国した難民の権利を自国民の権利と同一のものとすることについて好意的考慮を払う。
第十八条(自営業) 締約国は、合法的にその領域内にいる難民に対し、独立して農業、工業、手工業及び商業に従事する権利並びに商業上及び産業上の会社を設立する権利に関し、できる限り有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
第十九条(自由業)1 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民であつて、当該締約国の権限のある機関が承認した資格証書を有し、かつ、自由業に従事することを希望するものに対し、できる限り有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
2 締約国は、自国が国際関係について責任を有する領域(本土地域を除く。)内に1に規定する難民が定住することを確保するため、自国の憲法及び法律に従つて最善の努力を払う。

  第四章 福祉
第二十条(配給) 難民は、供給が不足する物資の分配を規制する配給制度であつて住民全体に適用されるものが存在する場合には、当該配給制度の適用につき、国民に与えられる待遇と同一の待遇を与えられる。
第二十一条(住居) 締約国は、住居に係る事項が法令の規制を受け又は公の機関の管理の下にある場合には、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、住居に関し、できる限り有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
第二十二条(公の教育)1 締約国は、難民に対し、初等教育に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。
2 締約国は、難民に対し、初等教育以外の教育、特に、修学の機会、学業に関する証明書、資格証書及び学位であつて外国において与えられたものの承認、授業料その他の納付金の減免並びに奨学金の給付に関し、できる限り有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
第二十三条(公的扶助) 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、公的扶助及び公的援助に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。
第二十四条(労働法制及び社会保障)1 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、次の事項に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。
 (a)報酬(家族手当がその一部を成すときは、これを含む。)、労働時間、時間外労働、有給休暇、家内労働についての制限、雇用についての最低年齢、見習及び訓練、女子及び年少者の労働並びに団体交渉の利益の享受に係る事項であつて、法令の規律を受けるもの又は行政機関の管理の下にあるもの
 (b)社会保障(業務災害、職業病、母性、疾病、廃疾、老齢、死亡、失業、家族的責任その他国内法令により社会保障制度の対象とされている給付事由に関する法規)。ただし、次の措置をとることを妨げるものではない。
 (i)当該難民が取得した権利又は取得の過程にあつた権利の維持に関し適当な措置をとること。
 (ii)当該難民が居住している当該締約国の国内法令において、公の資金から全額支給される給付の全部又は一部に関し及び通常の年金の受給のために必要な拠出についての条件を満たしていない者に支給される手当に関し、特別の措置を定めること。
2 業務災害又は職業病に起因する難民の死亡について補償を受ける権利は、この権利を取得する者が締約国の領域外に居住していることにより影響を受けない。
3 締約国は、取得された又は取得の過程にあつた社会保障についての権利の維持に関し他の締約国との間で既に締結した協定又は将来締結することのある協定の署名国の国民に適用される条件を難民が満たしている限り、当該協定による利益と同一の利益を当該難民に与える。
4 締約国は、取得された又は取得の過程にあつた社会保障についての権利の維持に関する協定であつて非締約国との間で現在効力を有し又は将来効力を有することのあるものによる利益と同一の利益をできる限り難民に与えることについて好意的考慮を払うものとする。

  第五章 行政上の措置
第二十五条(行政上の援助)1 難民がその権利の行使につき通常外国の機関の援助を必要とする場合において当該外国の機関の援助を求めることができないときは、当該難民が居住している締約国は、自国の機関又は国際機関により同様の援助が当該難民に与えられるように取り計らう。
2 1にいう自国の機関又は国際機関は、難民に対し、外国人が通常本国の機関から又は本国の機関を通じて交付を受ける文書又は証明書と同様の文書又は証明書を交付するものとし、また、その監督の下にこれらの文書又は証明書が交付されるようにする。
3 2の規定により交付される文書又は証明書は、外国人が本国の機関から又は本国の機関を通じて交付を受ける公文書に代わるものとし、反証のない限り信用が与えられるものとする。
4 生活に困窮する者に対する例外的な取扱いがある場合には、これに従うことを条件として、この条に規定する事務については手数料を徴収することができるが、その手数料は、妥当な、かつ、同種の事務について国民から徴収する手数料に相応するものでなければならない。
5 この条の規定は、第二十七条及び第二十八条の規定の適用を妨げるものではない。
第二十六条(移動の自由) 締約国は、合法的にその領域内にいる難民に対し、当該難民が同一の事情の下で一般に外国人に対して適用される規制に従うことを条件として、居住地を選択する権利及び当該締約国の領域内を自由に移動する権利を与える。
第二十七条(身分証明書) 締約国は、その領域内にいる難民であつて有効な旅行証明書を所持していないものに対し、身分証明書を発給する。
第二十八条(旅行証明書)1 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、国の安全又は公の秩序のためのやむを得ない理由がある場合を除くほか、その領域外への旅行のための旅行証明書を発給するものとし、この旅行証明書に関しては、附属書の規定が適用される。締約国は、その領域内にいる他の難民に対してもこの旅行証明書を発給することができるものとし、特に、その領域内にいる難民であつて合法的に居住している国から旅行証明書の発給を受けることができないものに対して旅行証明書を発給することについて好意的考慮を払う。
2 従前の国際協定の締約国が当該国際協定の定めるところにより難民に対して発給した旅行証明書は、この条約の締約国により有効なものとして認められ、かつ、この条の規定により発給されたものとして取り扱われる。
第二十九条(公租公課)1 締約国は、難民に対し、同様の状態にある自国民に課している若しくは課することのある租税その他の公課(名称のいかんを問わない。)以外の公課を課してはならず、また、租税その他の公課(名称のいかんを問わない。)につき同様の状態にある自国民に課する額よりも高額のものを課してはならない。
2 1の規定は、行政機関が外国人に対して発給する文書(身分証明書を含む。)の発給についての手数料に関する法令を難民について適用することを妨げるものではない。
第三十条(資産の移転)1 締約国は、自国の法令に従い、難民がその領域内に持ち込んだ資産を定住のために入国を許可された他の国に移転することを許可する。
2 締約国は、難民が入国を許可された他の国において定住するために必要となる資産(所在地のいかんを問わない。)につき当該難民から当該資産の移転の許可の申請があつた場合には、この申請に対し好意的考慮を払う。
第三十一条(避難国に不法にいる難民)1 締約国は、その生命又は自由が第一条の意味において脅威にさらされていた領域から直接来た難民であつて許可なく当該締約国の領域に入国し又は許可なく当該締約国の領域内にいるものに対し、不法に入国し又は不法にいることを理由として刑罰を科してはならない。ただし、当該難民が遅滞なく当局に出頭し、かつ、不法に入国し又は不法にいることの相当な理由を示すことを条件とする。
2 締約国は、1の規定に該当する難民の移動に対し、必要な制限以外の制限を課してはならず、また、この制限は、当該難民の当該締約国における滞在が合法的なものとなるまでの間又は当該難民が他の国への入国許可を得るまでの間に限つて課することができる。締約国は、1の規定に該当する難民に対し、他の国への入国許可を得るために妥当と認められる期間の猶予及びこのために必要なすべての便宜を与える。
第三十二条(追放)1 締約国は、国の安全又は公の秩序を理由とする場合を除くほか、合法的にその領域内にいる難民を追放してはならない。
2 1の規定による難民の追放は、法律の定める手続に従つて行われた決定によつてのみ行う。国の安全のためのやむを得ない理由がある場合を除くほか、1に規定する難民は、追放される理由がないことを明らかにする証拠の提出並びに権限のある機関又はその機関が特に指名する者に対する不服の申立て及びこのための代理人の出頭を認められる。
3 締約国は、1の規定により追放されることとなる難民に対し、他の国への入国許可を求めるのに妥当と認められる期間の猶予を与える。締約国は、この期間中必要と認める国内措置をとることができる。
第三十三条(追放及び送還の禁止)1 締約国は、難民を、いかなる方法によつても、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならない。
2 締約国にいる難民であつて、当該締約国の安全にとつて危険であると認めるに足りる相当な理由があるもの又は特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとつて危険な存在となつたものは、1の規定による利益の享受を要求することができない。
第三十四条(帰化) 締約国は、難民の当該締約国の社会への適応及び帰化をできる限り容易なものとする。締約国は、特に、帰化の手続が迅速に行われるようにするため並びにこの手続に係る手数料及び費用をできる限り軽減するため、あらゆる努力を払う。

  第六章 実施規定及び経過規定
第三十五条(締約国の機関と国際連合との協力)1 締約国は、国際連合難民高等弁務官事務所又はこれを承継する国際連合の他の機関の任務の遂行に際し、これらの機関と協力することを約束するものとし、特に、これらの機関のこの条約の適用を監督する責務の遂行に際し、これらの機関に便宜を与える。
2 締約国は、国際連合難民高等弁務官事務所又はこれを承継する国際連合の他の機関が国際連合の権限のある機関に報告することのできるよう、要請に応じ、次の事項に関する情報及び統計を適当な様式で提供することを約束する。
 (a)難民の状態
 (b)この条約の実施状況
 (c)難民に関する現行法令及び難民に関して将来施行される法令
第三十六条(国内法令に関する情報) 締約国は、国際連合事務総長に対し、この条約の適用を確保するために制定する法令を送付する。
第三十七条(従前の条約との関係) この条約は、締約国の間において、千九百二十二年七月五日、千九百二十四年五月三十一日、千九百二十六年五月十二日、千九百二十八年六月三十日及び千九百三十五年七月三十日の取極、千九百三十三年十月二十八日及び千九百三十八年二月十日の条約、千九百三十九年九月十四日の議定書並びに千九百四十六年十月十五日の協定に代わるものとする。ただし、第二十八条2の規定の適用を妨げない。

  第七章 最終条項
第三十八条(紛争の解決) この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争であつて他の方法によつて解決することができないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、国際司法裁判所に付託する。
第三十九条から第四十一条まで (省略)
第四十二条(留保)1 いずれの国も、署名、批准又は加入の際に、第一条、第三条、第四条、第十六条1、第三十三条及び第三十六条から第四十六条までの規定を除くほか、この条約の規定について留保を付することができる。
2 1の規定に基づいて留保を付した国は、国際連合事務総長にあてた通告により、いつでも当該留保を撤回することができる。
第四十三条 (省略)
第四十四条(廃棄)1 いずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた通告により、いつでもこの条約を廃棄することができる。
2 廃棄は、国際連合事務総長が1の通告を受領した日の後一年で当該通告を行つた締約国について効力を生ずる。
3 第四十条の規定に基づいて宣言又は通告を行つた国は、その後いつでも、国際連合事務総長にあてた通告により、同条の規定に基づく宣言又は通告により指定した領域についてこの条約の適用を終止する旨の宣言を行うことができる。当該宣言は、国際連合事務総長がこれを受領した日の後一年で効力を生ずる。
第四十五条(改正)1 いずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた通告により、いつでもこの条約の改正を要請することができる。
2 国際連合総会は、1の要請についてとるべき措置があるときは、その措置を勧告する。
第四十六条 (省略)

(末文及び署名略)
附属書 (省略)