化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約
前文
この条約の締約国は、厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小(あらゆる種類の大量破壊兵器の禁止及び廃棄を含む。)に向けての効果的な進展を図ることを決意し、国際連合憲章の目的及び原則の実現に貢献することを希望し、国際連合総会が、千九百二十五年六月十七日にジュネーヴで署名された窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及び細菌学的手段の戦争における使用の禁止に関する議定書(以下「千九百二十五年のジュネーヴ議定書」という。)の原則及び目的に反するすべての行為を繰り返し非難してきたことを想起し、この条約は、千九百二十五年のジュネーヴ議定書並びに千九百七十二年四月十日にロンドン、モスクワ及びワシントンで署名された細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約の原則及び目的並びに同議定書及び同条約に基づく義務を再確認するものであることを認識し、
細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約第九条に規定する目標に留意し、全人類のため、千九百二十五年のジュネーヴ議定書に基づく義務を補完するこの条約の実施によって化学兵器の使用の可能性を完全に無くすことを決意し、戦争の方法としての除草剤の使用の禁止が関連する協定及び国際法の原則において定められていることを認識し、化学の分野における成果は人類の利益のためにのみ使用されるべきであることを考慮し、すべての締約国の経済的及び技術的発展を促進するため、この条約によって禁止されていない目的のために、化学に関する活動の分野における国際協力並びに科学的及び技術的情報の交換並びに化学物質の自由な貿易を促進することを希望し、化学兵器の開発、生産、取得、貯蔵、保有、移譲及び使用の完全かつ効果的な禁止並びに廃棄が、これらの共通の目的を達成するために必要な措置であることを確信して、次のとおり協定した。
第一条 一般的義務
1 締約国は、いかなる場合にも、次のことを行わないことを約束する。
(a) 化学兵器を開発し、生産その他の方法によって取得し、貯蔵し若しくは保有し又はいずれかの者に対して直接若しくは間接に移譲すること。
(b) 化学兵器を使用すること。
(c) 化学兵器を使用するための軍事的な準備活動を行うこと。
(d) この条約によって締約国に対して禁止されている活動を行うことにつき、いずれかの者に対して、援助し、奨励し又は勧誘すること。
2 締約国は、この条約に従い、自国が所有し若しくは占有する化学兵器又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器を廃棄することを約束する。
3 締約国は、この条約に従い、他の締約国の領域内に遺棄したすべての化学兵器を廃棄することを約束する。
4 締約国は、この条約に従い、自国が所有し若しくは占有する化学兵器生産施設又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器生産施設を廃棄することを約束する。
5 締約国は、暴動鎮圧剤を戦争の方法として使用しないことを約束する。
第二条 定義及び基準
この条約の適用上、
1 「化学兵器」とは、次の物を合わせたもの又は次の物を個別にいう。
(a) 毒性化学物質及びその前駆物質。ただし、この条約によって禁止されていない目的のためのものであり、かつ、種類及び量が当該目的に適合する場合を除く。
(b) 弾薬類及び装置であって、その使用の結果放出されることとなる(a)に規定する毒性化学物質の毒性によって、死その他の害を引き起こすように特別に設計されたもの
(c) (b)に規定する弾薬類及び装置の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置
2 「毒性化学物質」とは、生命活動に対する化学作用により、人又は動物に対し、死、一時的に機能を著しく害する状態又は恒久的な害を引き起こし得る化学物質(原料及び製法のいかんを問わず、また、施設内、弾薬内その他のいかなる場所において生産されるかを問わない。)をいう。
(この条約の実施上、検証措置の実施のために特定された毒性化学物質は、化学物質に関する附属書の表に掲げる。)
3 「前駆物質」とは、毒性化学物質の生産(製法のいかんを問わない。)のいずれかの段階で関与する化学反応体をいうものとし、二成分又は多成分の化学系の必須成分を含む。
(この条約の実施上、検証措置の実施のために特定された前駆物質は、化学物質に関する附属書の表に掲げる。)
4 「二成分又は多成分の化学系の必須成分」(以下「必須成分」という。)とは、最終生成物の毒性を決定する上で最も重要な役割を果たし、かつ、二成分又は多成分の化学系の中で他の化学物質と速やかに反応する前駆物質をいう。
5 「老朽化した化学兵器」とは、次のものをいう。
(a) 千九百二十五年より前に生産された化学兵器
(b) 千九百二十五年から千九百四十六年までの間に生産された化学兵器であって、化学兵器として使用することができなくなるまでに劣化したもの
6 「遺棄化学兵器」とは、千九百二十五年一月一日以降にいずれかの国が他の国の領域内に当該他の国の同意を得ることなく遺棄した化学兵器(老朽化した化学兵器を含む。)をいう。
7 「暴動鎮圧剤」とは、化学物質に関する附属書の表に掲げていない化学物質であって、短時間で消失するような人間の感覚に対する刺激又は行動を困難にする身体への効果を速やかに引き起こすものをいう。
8 「化学兵器生産施設」とは、
(a) 千九百四十六年一月一日以降のいずれかの時に、次の(i)に該当するものとして又は次の(ii)のために設計され、建造され又は使用された設備及びこれを収容する建物をいう。
(i) 化学物質の生産段階(「技術の最終段階」)の一部であって、当該設備が稼働している時に物質の流れが次のいずれかの化学物質を含むもの
(1) 化学物質に関する附属書の表1に掲げる化学物質
(2) 化学兵器のために使用され得る他の化学物質であって、締約国の領域内又はその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所において、この条約によって禁止されていない目的のためには年間一トンを超える用途がないもの
(ii) 化学兵器の充填(てん)(特に、化学物質に関する附属書の表1に掲げる化学物質の弾薬類、装置又はばらの状態で貯蔵するための容器への充填(てん)、組立て式の二成分型弾薬類及び装置の部分を構成する容器への充填(てん)、組立て式の単一成分型弾薬類及び装置の部分を構成する化学物質充填(てん)子爆弾弾薬類への充填(てん)並びに充填(てん)された容器及び化学物質充填(てん)子爆弾弾薬類の弾薬類及び装置への搭載を含む。)
(b) もっとも、次のものを意味するものではない。
(i) (a)(i)に規定する化学物質を合成するための生産能力を有する施設であって当該能力が一トン未満のもの
(ii) (a)(i)に規定する化学物質をこの条約によって禁止されていない目的のための活動の不可避の副産物として生産し又は生産した施設。ただし、当該化学物質が総生産量の三パーセントを超えないこと並びに当該施設が実施及び検証に関する附属書(以下「検証附属書」という。)に従って申告及び査察の対象となることを条件とする。
(iii) この条約によって禁止されていない目的のために化学物質に関する附属書の表1に掲げる化学物質を生産する検証附属書第六部に規定する単一の小規模な施設
9 「この条約によって禁止されていない目的」とは、次のものをいう。
(a) 工業、農業、研究、医療又は製薬の目的その他の平和的目的
(b) 防護目的、すなわち、毒性化学物質及び化学兵器に対する防護に直接関係する目的
(c) 化学兵器の使用に関連せず、かつ、化学物質の毒性を戦争の方法として利用するものではない軍事的目的
(d) 国内の暴動の鎮圧を含む法の執行のための目的
10 「生産能力」とは、関係する施設において実際に使用されている技術的工程又はこの工程がまだ機能していない場合には使用される予定の技術的工程に基づいて特定の化学物質を一年間に製造し得る量をいう。生産能力は、標示された能力又はこれが利用可能でない場合には設計上の能力と同一であるとみなす。標示された能力は、生産施設にとっての最大量を生産するための最適な条件の下における生産量であって、一又は二以上の実験によって証明されたものとする。設計上の能力は、標示された能力に対応する理論的に計算された生産量とする。
11 「機関」とは、第八条の規定に基づいて設立する化学兵器の禁止のための機関をいう。
12 第六条の規定の適用上、
(a) 化学物質の「生産」とは、化学反応により化学物質を生成することをいう。
(b) 化学物質の「加工」とは、化学物質が他の化学物質に転換することのない物理的な工程(例えば、調合、抽出、精製)をいう。
(c) 化学物質の「消費」とは、化学物質が化学反応により他の化学物質に転換することをいう。
第三条 申告
1 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、機関に対して申告を行うものとし、当該申告において、
(a) 化学兵器に関し、
(i) 自国が化学兵器を所有するか否か若しくは占有するか否か又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に化学兵器が存在するか否かを申告する。
(ii) 検証附属書第四部(A)の1から3までの規定に従い、自国が所有し若しくは占有する化学兵器又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器の正確な所在地、総量及び詳細な目録を明示する。ただし、(iii)に規定する化学兵器を除く。
(iii) 検証附属書第四部(A)4の規定に従い、他の国が所有し及び占有し、かつ、他の国の管轄又は管理の下にある場所に存在する化学兵器であって、自国の領域内にあるものを報告する。
(iv) 千九百四十六年一月一日以降自国が直接又は間接に化学兵器を移譲したか否か又は受領したか否かを申告し、及び検証附属書第四部(A)5の規定に従って化学兵器の移譲又は受領について明示する。
(v) 検証附属書第四部(A)6の規定に従い、自国が所有し若しくは占有する化学兵器又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器の廃棄のための全般的な計画を提出する。
(b) 老朽化した化学兵器及び遺棄化学兵器に関し、
(i) 自国の領域内に老朽化した化学兵器を有するか否かを申告し、及び検証附属書第四部(B)3の規定に従ってすべての入手可能な情報を提供する。
(ii) 自国の領域内に遺棄化学兵器が存在するか否かを申告し、及び検証附属書第四部(B)8の規定に従ってすべての入手可能な情報を提供する。
(iii) 他の国の領域内に化学兵器を遺棄したか否かを申告し、及び検証附属書第四部(B)10の規定に従ってすべての入手可能な情報を提供する。
(c) 化学兵器生産施設に関し、
(i) 千九百四十六年一月一日以降のいずれかの時に、自国が化学兵器生産施設を所有し若しくは占有するか否か若しくは所有し若しくは占有していたか否か又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に化学兵器生産施設が存在するか否か若しくは存在していたか否かを申告する。
(ii) 検証附属書第五部1の規定に従い、千九百四十六年一月一日以降のいずれかの時に、自国が所有し若しくは占有し若しくは所有していた若しくは占有していた化学兵器生産施設又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在し若しくは存在していた化学兵器生産施設を明示する。ただし、(iii)に規定する化学兵器生産施設を除く。
(iii) 検証附属書第五部2の規定に従い、千九百四十六年一月一日以降のいずれかの時に、他の国が所有し及び占有し又は所有していた及び占有していた化学兵器生産施設であって、他の国の管轄又は管理の下にある場所に存在し又は存在していたもの(自国の領域内にあるものに限る。)を報告する。
(iv) 千九百四十六年一月一日以降自国が直接又は間接に化学兵器の生産のための設備を移譲したか否か又は受領したか否かを申告し、及び検証附属書第五部の3から5までの規定に従って当該設備の移譲又は受領について明示する。
(v) 検証附属書第五部6の規定に従い、自国が所有し若しくは占有する化学兵器生産施設又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器生産施設の廃棄のための全般的な計画を提出する。
(vi) 検証附属書第五部1(i)の規定に従い、自国が所有し若しくは占有する化学兵器生産施設又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器生産施設の閉鎖のためにとるべき措置を明示する。
(vii) 検証附属書第五部7の規定に従い、自国が所有し若しくは占有する化学兵器生産施設又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器生産施設を一時的に化学兵器の廃棄施設に転換する場合には、そのための全般的な計画を提出する。
(d) 他の施設に関し、自国が所有し若しくは占有する施設又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する施設であって、千九百四十六年一月一日以降主に化学兵器の開発のために設計され、建設され又は使用されたものの正確な所在地並びに活動の性質及び全般的な範囲を明示する。この申告には、特に、実験施設及び試験評価場を含める。
(e) 暴動鎮圧剤に関し、暴動の鎮圧のために保有する化学物質の化学名、構造式及びケミカル・アブストラクツ・サービス(以下「CAS」という。)登録番号が付されている場合には当該番号を明示する。この申告は、その内容に変更が生じた後三十日以内に改定する。
2 この条の規定及び検証附属書第四部の関連規定は、千九百七十七年一月一日前に締約国の領域内に埋められた化学兵器であって引き続き埋められたままであるもの又は千九百八十五年一月一日前に海洋に投棄された化学兵器については、当該締約国の裁量により適用しないことができる。
第四条 化学兵器
1 この条の規定及びその実施のための詳細な手続は、締約国が所有し若しくは占有するすべての化学兵器又はその管轄若しくは管理の下にある場所に存在するすべての化学兵器について適用する。ただし、検証附属書第四部(B)の規定が適用される老朽化した化学兵器及び遺棄化学兵器を除く。
2 この条の規定を実施するための詳細な手続は、検証附属書に定める。
3 1に規定する化学兵器が貯蔵され又は廃棄されるすべての場所は、検証附属書第四部(A)の規定に従い、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証の対象とする。
4 締約国は、現地査察を通じた申告の体系的な検証のため、前条1(a)の規定に基づく申告を行った後直ちに1に規定する化学兵器へのアクセスを認める。締約国は、その後、当該化学兵器のいずれも移動させてはならないものとし(化学兵器の廃棄施設への移動を除く。)、体系的な現地検証のため、当該化学兵器へのアクセスを認める。
5 締約国は、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証のため、自国が所有し若しくは占有する化学兵器の廃棄施設及びその貯蔵場所又は自国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器の廃棄施設及びその貯蔵場所へのアクセスを認める。
6 締約国は、検証附属書並びに合意された廃棄についての比率及び順序(以下「廃棄の規律」という。)に従い、1に規定するすべての化学兵器を廃棄する。廃棄は、この条約が自国について効力を生じた後二年以内に開始し、この条約が効力を生じた後十年以内に完了する。締約国は、当該化学兵器をより速やかに廃棄することを妨げられない。
7 締約国は、次のことを行う。
(a) 検証附属書第四部(A)29の規定に従い、1に規定する化学兵器の廃棄のための詳細な計画を各年の廃棄期間の開始の遅くとも六十日前までに提出すること。その詳細な計画には、当該年の廃棄期間中に廃棄するすべての貯蔵されている化学兵器を含めるものとする。
(b) 1に規定する化学兵器の廃棄のための自国の計画の実施状況に関する申告を毎年、各年の廃棄期間の満了の後六十日以内に行うこと。
(c) 廃棄の過程が完了した後三十日以内に、1に規定するすべての化学兵器を廃棄したことを証明すること。
8 締約国は、6に規定する十年の廃棄のための期間が経過した後にこの条約を批准し又はこの条約に加入する場合には、1に規定する化学兵器をできる限り速やかに廃棄する。当該締約国のための廃棄の規律及び厳重な検証の手続については、執行理事会が決定する。
9 化学兵器に関する冒頭申告の後に締約国がその存在を知った化学兵器については、検証附属書第四部(A)の規定に従って、報告し、保全し及び廃棄する。
10 締約国は、化学兵器の輸送、試料採取、貯蔵及び廃棄に当たっては、人の安全を確保し及び環境を保護することを最も優先させる。締約国は、安全及び排出に関する自国の基準に従って、化学兵器の輸送、試料採取、貯蔵及び廃棄を行う。
11 締約国は、他の国が所有し若しくは占有する化学兵器又は他の国の管轄若しくは管理の下にある場所に存在する化学兵器を自国の領域内に有する場合には、この条約が自国について効力を生じた後一年以内にこれらの化学兵器が自国の領域から撤去されることを確保するため、最大限度の努力を払う。これらの化学兵器が一年以内に撤去されない場合には、当該締約国は、機関及び他の締約国に対し、これらの化学兵器の廃棄のために援助を提供するよう要請することができる。
12 締約国は、二国間で又は技術事務局を通じて化学兵器の安全かつ効率的な廃棄のための方法及び技術に関する情報又は援助の提供を要請する他の締約国に対して協力することを約束する。
13 機関は、この条の規定及び検証附属書第四部(A)の規定に従って検証活動を行うに当たり、化学兵器の貯蔵及び廃棄の検証に関する締約国間の二国間又は多数国間の協定との不必要な重複を避けるための措置を検討する。
このため、執行理事会は、次のことを認める場合には、当該二国間又は多数国間の協定に従って実施する措置を補完する措置に検証を限定することを決定する。
(a) 当該二国間又は多数国間の協定の検証に関する規定がこの条及び検証附属書第四部(A)の検証に関する規定に適合すること。
(b) 当該二国間又は多数国間の協定の実施によってこの条約の関連規定の遵守が十分に確保されること。
(c) 当該二国間又は多数国間の協定の締約国がその検証活動について機関に対し常時十分な情報の提供を行うこと。
14 執行理事会が13の規定に従って決定する場合には、機関は、13に規定する二国間又は多数国間の協定の実施を監視する権利を有する。
15 13及び14のいかなる規定も、締約国が前条、この条及び検証附属書第四部(A)の規定に従って申告を行う義務に影響を及ぼすものではない。
16 締約国は、自国が廃棄の義務を負う化学兵器の廃棄の費用を負担する。また、締約国は、執行理事会が別段の決定を行う場合を除くほか、当該化学兵器の貯蔵及び廃棄の検証の費用を負担する。執行理事会が13の規定に従い機関の検証措置を限定することを決定した場合には、機関が行う補完的な検証及び監視の費用については、第八条7に規定する国際連合の分担率に従って支払う。
17 この条の規定及び検証附属書第四部の関連規定は、千九百七十七年一月一日前に締約国の領域内に埋められた化学兵器であって引き続き埋められたままであるもの又は千九百八十五年一月一日前に海洋に投棄された化学兵器については、当該締約国の裁量により適用しないことができる。
第五条 化学兵器生産施設
1 この条の規定及びその実施のための詳細な手続は、締約国が所有し若しくは占有するすべての化学兵器生産施設又はその管轄若しくは管理の下にある場所に存在するすべての化学兵器生産施設について適用する。
2 この条の規定を実施するための詳細な手続は、検証附属書に定める。
3 1に規定するすべての化学兵器生産施設は、検証附属書第五部の規定に従い、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証の対象とする。
4 締約国は、閉鎖のために必要な活動を除くほか、1に規定する化学兵器生産施設におけるすべての活動を直ちに停止する。
5 いかなる締約国も、化学兵器の生産又はこの条約によって禁止されているその他のすべての活動のため、新たな化学兵器生産施設を建設してはならず、又は既存の施設を変更してはならない。
6 締約国は、現地査察を通じた申告の体系的な検証のため、第三条1(c)の規定に基づく申告を行った後直ちに1に規定する化学兵器生産施設へのアクセスを認める。
7 締約国は、次のことを行う。
(a) この条約が自国について効力を生じた後九十日以内に1に規定するすべての化学兵器生産施設を検証附属書第五部の規定に従って閉鎖し、その旨を通報すること。
(b) 1に規定する化学兵器生産施設の閉鎖の後、当該施設が引き続き閉鎖されていること及びその後に廃棄されることを確保するため、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証のために当該施設へのアクセスを認めること。
8 締約国は、検証附属書並びに合意された廃棄についての比率及び順序(以下「廃棄の規律」という。)に従い、1に規定するすべての化学兵器生産施設並びに関連する施設及び設備を廃棄する。廃棄は、この条約が自国について効力を生じた後一年以内に開始し、この条約が効力を生じた後十年以内に完了する。締約国は、当該化学兵器生産施設並びに関連する施設及び設備をより速やかに廃棄することを妨げられない。
9 締約国は、次のことを行う。
(a) 1に規定する化学兵器生産施設の廃棄のための詳細な計画を各施設の廃棄の開始の遅くとも百八十日前までに提出すること。
(b) 1に規定するすべての化学兵器生産施設の廃棄のための自国の計画の実施状況に関する申告を毎年、各年の廃棄期間の満了の後九十日以内に行うこと。
(c) 廃棄の過程が完了した後三十日以内に、1に規定するすべての化学兵器生産施設を廃棄したことを証明すること。
10 締約国は、8に規定する十年の廃棄のための期間が経過した後にこの条約を批准し又はこの条約に加入する場合には、1に規定する化学兵器生産施設をできる限り速やかに廃棄する。当該締約国のための廃棄の規律及び厳重な検証の手続については、執行理事会が決定する。
11 締約国は、化学兵器生産施設の廃棄に当たっては、人の安全を確保し及び環境を保護することを最も優先させる。締約国は、安全及び排出に関する自国の基準に従って化学兵器生産施設を廃棄する。
12 1に規定する化学兵器生産施設は、検証附属書第五部の18から25までの規定に従って化学兵器の廃棄のために一時的に転換することができる。転換した施設については、化学兵器の廃棄のために使用しなくなった場合には速やかに、いかなる場合にもこの条約が効力を生じた後十年以内に廃棄しなければならない。
13 締約国は、やむを得ず必要となる例外的な場合には、この条約によって禁止されていない目的のために1に規定する化学兵器生産施設を使用するための承認を要請することができる。締約国会議は、検証附属書第五部Dの規定に従い、執行理事会の勧告に基づき、当該要請を承認するか否かを決定し、及び承認のための条件を定める。
14 化学兵器生産施設は、工業、農業、研究、医療又は製薬の目的その他の平和的目的のために使用する施設であって、化学物質に関する附属書の表1に掲げる化学物質に関係しないものよりも、化学兵器生産施設に再転換する可能性が高くならないように転換する。
15 すべての転換した施設は、検証附属書第五部Dの規定に従い、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証の対象とする。
16 機関は、この条の規定及び検証附属書第五部の規定に従って検証活動を行うに当たり、化学兵器生産施設及びその廃棄の検証に関する締約国間の二国間又は多数国間の協定との不必要な重複を避けるための措置を検証する。
このため、執行理事会は、次のことを認める場合には、当該二国間又は多数国間の協定に従って実施する措置を補完する措置に検証を限定することを決定する。
(a) 当該二国間又は多数国間の協定の検証に関する規定がこの条及び検証附属書第五部の検証に関する規定に適合すること。
(b) 当該二国間又は多数国間の協定の実施によってこの条約の関連規定の遵守が十分に確保されること。
(c) 当該二国間又は多数国間の協定の締約国がその検証活動について機関に対し常時十分な情報の提供を行うこと。
17 執行理事会が16の規定に従って決定する場合には、機関は、16に規定する二国間又は多数国間の協定の実施を監視する権利を有する。
18 16及び17のいかなる規定も、締約国が第三条、この条及び検証附属書第五部の規定に従って申告を行う義務に影響を及ぼすものではない。
19 締約国は、自国が廃棄の義務を負う化学兵器生産施設の廃棄の費用を負担する。また、締約国は、執行理事会が別段の決定を行う場合を除くほか、この条の規定に基づく検証の費用を負担する。執行理事会が16の規定に従い機関の検証措置を限定することを決定した場合には、機関が行う補完的な検証及び監視の費用については、第八条7に規定する国際連合の分担率に従って支払う。
第六条 この条約によって禁止されていない活動
1 締約国は、この条約に従い、この条約によって禁止されていない目的のため毒性化学物質及びその前駆物質を開発し、生産その他の方法によって取得し、保有し、移譲し及び使用する権利を有する。
2 締約国は、毒性化学物質及びその前駆物質が、自国の領域内又は自国の管轄若しくは管理の下にあるその他の場所において、この条約によって禁止されていない目的のためにのみ開発され、生産その他の方法によって取得され、保有され、移譲され及び使用されることを確保するために必要な措置をとる。このため及びこれらの活動がこの条約に規定する義務に適合していることを検証するため、締約国は、化学物質に関する附属書の表1から表3までに掲げる毒性化学物質及びその前駆物質並びにこのような化学物質に関係する施設及び検証附属書に規定するその他の施設であって、自国の領域内又は自国の管轄若しくは管理の下にあるその他の場所に存在するものを検証附属書に規定する検証措置の対象とする。
3 締約国は、化学物質に関する附属書の表1に掲げる化学物質(以下「表1の化学物質」という。)を検証附属書第六部に規定する生産、取得、保有、移譲及び使用の禁止の対象とする。締約国は、検証附属書第六部の規定に従い、表1の化学物質及び同附属書第六部に規定する施設を現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証の対象とする。
4 締約国は、検証附属書第七部の規定に従い、化学物質に関する附属書の表2に掲げる化学物質(以下「表2の化学物質」という。)及び検証附属書第七部に規定する施設を資料による監視及び現地検証の対象とする。
5 締約国は、検証附属書第八部の規定に従い、化学物質に関する附属書の表3に掲げる化学物質(以下「表3の化学物質」という。)及び検証附属書第八部に規定する施設を資料による監視及び現地検証の対象とする。
6 締約国は、検証附属書第九部22の規定に従って締約国会議が別段の決定を行う場合を除くほか、同附属書第九部の規定に従い、同附属書第九部に規定する施設を資料による監視及び最終的には現地検証の対象とする。
7 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、検証附属書に従い、関連する化学物質及び施設に関する冒頭申告を行う。
8 締約国は、検証附属書に従い、関連する化学物質及び施設に関する年次申告を行う。
9 締約国は、現地検証のため、検証附属書に従って査察員に対して施設へのアクセスを認める。
10 技術事務局は、検証活動を行うに当たり、この条約によって禁止されていない目的のための締約国の化学に関する活動に対する不当な干渉を回避し、及び特に、秘密情報の保護に関する附属書(以下「秘密扱いに関する附属書」という。)に定める規定を遵守する。
11 この条の規定については、締約国の経済的又は技術的発展及びこの条約によって禁止されていない目的のための化学に関する活動の分野における国際協力(この条約によって禁止されていない目的のための化学物質の生産、加工又は使用に関する科学的及び技術的情報、化学物質並びに装置の国際的な交換を含む。)を妨げないように実施する。
第七条 国内の実施措置
一般的約束
1 締約国は、自国の憲法上の手続に従い、この条約に基づく自国の義務を履行するために必要な措置をとる。締約国は、特に、次のことを行う。
(a) 自国の領域内のいかなる場所又は国際法によって認められる自国の管轄の下にあるその他のいかなる場所においても、自然人及び法人がこの条約によって締約国に対して禁止されている活動を行うことを禁止すること(当該活動に対する罰則を規定する法令を制定することを含む。)。
(b) 自国の管理の下にあるいかなる場所においても、この条約によって締約国に対して禁止されている活動を認めないこと。
(c) 自国の国籍を有する自然人が行った活動(場所のいかんを問わない。)であってこの条約によって締約国に対して禁止されているものに対し、国際法に従い、(a)の規定に従って制定する罰則を規定する法令を適用すること。
2 締約国は、1の規定に基づく義務の履行を容易にするため、他の締約国と協力し、及び適当な形態の法律上の援助を与える。
3 締約国は、この条約に基づく自国の義務を履行するに当たっては、人の安全を確保し及び環境を保護することを最も優先させるものとし、適当な場合にはこの点に関して他の締約国と協力する。
締約国と機関との関係
4 締約国は、この条約に基づく自国の義務を履行するため、機関及び他の締約国との効果的な連絡のための国内の連絡先となる国内当局を指定し又は設置する。締約国は、この条約が自国について効力を生ずる時に自国の国内当局を機関に通報する。
5 締約国は、この条約を実施するためにとる立法措置及び行政措置を機関に通報する。
6 締約国は、この条約の実施に関連して機関から秘密のものとして受領する情報及び資料を秘密情報として取り扱い、並びに当該情報及び資料に対し特別の取扱いを行う。締約国は、当該情報及び資料を、この条約に基づく自国の権利及び義務との関連においてのみ利用するものとし、秘密扱いに関する附属書に定める規定に従って取り扱う。
7 締約国は、機関のすべての任務の遂行に当たって機関に協力すること及び特に技術事務局に対する援助を提供することを約束する。
第八条 機関
A 一般規定
1 締約国は、この条約の趣旨及び目的を達成し、この条約の規定(この条約の遵守についての国際的な検証に関する規定を含む。)の実施を確保し並びに締約国間の協議及び協力のための場を提供するため、この条約により化学兵器の禁止のための機関を設立する。
2 すべての締約国は、機関の加盟国となる。締約国は、機関の加盟国としての地位を奪われることはない。
3 機関の本部の所在地は、オランダ王国ヘーグとする。
4 機関の内部機関として、締約国会議、執行理事会及び技術事務局をこの条約により設置する。
5 機関は、できる限り干渉の程度が低く、かつ、検証活動の目的の適時の及び効果的な達成に合致する方法で、この条約に規定する検証活動を行う。機関は、この条約に基づく自己の責任を果たすために必要な情報及び資料のみを要請する。機関は、この条約の実施を通じて知るに至った非軍事上及び軍事上の活動及び施設に関する情報の秘密を保護するためにすべての措置をとるものとし、特に、秘密扱いに関する附属書に定める規定を遵守する。
6 機関は、その検証活動を行うに当たり、科学及び技術の進歩を利用するための措置を検討する。
7 機関の活動に要する費用は、国際連合と機関との間の加盟国の相違を考慮して調整される国際連合の分担率に従い並びに第四条及び第五条に定めるところにより、締約国が払う。準備委員会に対する締約国の財政的負担については、適当な方法により、機関の通常予算に対する当該締約国の分担金から控除する。機関の予算は、運営費その他の費用に関連するもの及び検証の費用に関連するものの二の別個の項目から成る。
8 機関に対する分担金の支払が延滞している機関の加盟国は、その未払の額が当該年に先立つ二年の間に当該加盟国から支払われるべきであった分担金の額に等しい場合又はこれを超える場合には、機関において投票権を有しない。ただし、締約国会議は、支払の不履行が当該加盟国にとってやむを得ない事情によると認めるときは、当該加盟国に投票を許すことができる。
B 締約国会議
構成、手続及び意思決定
9 締約国会議(以下「会議」という。)は、機関のすべての加盟国により構成する。各加盟国は、会議において一人の代表を有するものとし、その代表は、代表代理及び随員を伴うことができる。
10 会議の第一回会期は、この条約が効力を生じた後三十日以内に寄託者が招集する。
11 会議は、別段の決定を行う場合を除くほか、毎年通常会期として会合する。
12 会議の特別会期は、次のいずれかの場合に開催される。この場合において、(d)に規定する場合を除くほか、開催の要請において別段の明示がない限り、技術事務局の事務局長がその要請を受領した後三十日以内に開催される。
(a) 会議が決定する場合
(b) 執行理事会が要請する場合
(c) いずれかの加盟国が要請し、かつ、加盟国の三分の一が支持する場合
(d) 22の規定に従ってこの条約の運用について検討する場合
13 会議は、また、第十五条2の規定に従って改正会議として開催される。
14 会議の会期は、会議が別段の決定を行う場合を除くほか、機関の所在地で開催される。
15 会議は、その手続規則を採択する。会議は、各通常会期の始めに、議長及び他の必要な役員を選出する。これらの者は、次の通常会期において新たな議長及び他の役員が選出されるまで在任する。
16 会議の定足数は、機関の加盟国の過半数とする。
17 機関の各加盟国は、会議において一の票を有する。
18 会議は、出席しかつ投票する加盟国の単純多数による議決で手続事項についての決定を行う。実質事項についての決定は、できる限りコンセンサス方式によって行うべきである。決定に当たりコンセンサスが得られない場合には、議長は、いかなる投票も二十四時間延期し、この間にコンセンサスの達成を容易にするためのあらゆる努力を払い、及び当該二十四時間の終了の前に会議に対して報告する。当該二十四時間の終了の時にコンセンサスが得られない場合には、会議は、この条約に別段の定めがある場合を除くほか、出席しかつ投票する加盟国の三分の二以上の多数による議決で決定を行う。実質事項であるか否かについて問題が生ずる場合には、会議が実質事項についての決定に必要な多数による議決で別段の決定を行わない限り、実質事項として取り扱う。
権限及び任務
19 会議は、機関の主要な内部機関であり、この条約の範囲内のいかなる問題又は事項(執行理事会及び技術事務局の権限及び任務に関するものを含む。)も検討する。会議は、締約国が提起し又は執行理事会が注意を喚起するこの条約に関するいかなる問題又は事項についても、勧告及び決定を行うことができる。
20 会議は、この条約の実施を監督し、並びにその趣旨及び目的を推進するために行動する。会議は、この条約の遵守状況を検討する。会議は、執行理事会及び技術事務局の活動も監督するものとし、この条約に従いこれらのいずれの内部機関に対してもその任務の遂行に関し指針を与えることができる。
21 会議は、次のことを行う。
(a) 執行理事会が提出する機関の報告、計画及び予算を通常会期において検討し及び採択し並びに他の報告を検討すること。
(b) 7の規定に従って契約国が支払う分担金の率につき決定すること。
(c) 執行理事会の理事国を選出すること。
(d) 技術事務局の事務局長(以下「事務局長」という。)を任命すること。
(e) 執行理事会が提出する執行理事会の手続規則を承認すること。
(f) この条約に従い会議がその任務を遂行するために必要と認める補助機関を設置すること。
(g) 平和的目的のために、化学に関する活動の分野における国際協力を促進すること。
(h) この条約の運用に影響を及ぼし得る科学的及び技術的発展を検討すること。このため、事務局長がその任務の遂行に当たり会議、執行理事会又は締約国に対してこの条約に関連する科学及び技術の分野における専門的な助言を行うことができるようにするために、科学諮問委員会を設置することを事務局長に指示すること。科学諮問委員会は、会議が採択する付託事項に従って任命される独立した専門家で構成する。
(i) 第一回会期において、準備委員会が作成する協定案、規則案及び指針案を検討し及び承認すること。
(j) 第一回会期において、第十条の規定による援助のための任意の基金を設置すること。
(k) 第十二条の規定に従い、この条約の遵守を確保し並びにこの条約に違反する事態を是正し及び改善するため、必要な措置をとること。
22 会議は、この条約が効力を生じた後五年及び十年が経過した後一年以内に並びに会議が決定する場合にはその期間内の他の時期に、この条約の運用について検討するため特別会期を開催する。その検討においては、関連する科学的及び技術的発展を考慮する。その後は、別段の決定が行われる場合を除くほか、同様の目的を有する会議の特別会期は、五年ごとに開催される。
C 執行理事会
構成、手続及び意思決定
23 執行理事会は、四十一の理事国により構成する。締約国は、輪番の原則に従い、理事国としての任務を遂行する権利を有する。理事国は、二年の任期で会議が選出する。特に、衡平な地理的配分、化学産業の重要性並びに政治上及び安全保障上の利益に十分な考慮を払い、この条約が効果的に機能することを確保するため、執行理事会の構成は、次のとおりとする。
(a) アフリカ地域の締約国が指名する九のアフリカの締約国。この指名の基礎として、これらの九の締約国のうち、三の国は、原則として、国際的に報告され及び公表されている資料によって当該地域において最も重要であると決定される国内化学産業を有する締約国とするものとする。更に、当該地域の集団は、これらの三の理事国を指名するに当たり、他の地域的要素も考慮することに同意する。
(b) アジア地域の締約国が指名する九のアジアの締約国。この指名の基礎として、これらの九の締約国のうち、四の国は、原則として、国際的に報告され及び公表されている資料によって当該地域において最も重要であると決定される国内化学産業を有する締約国とするものとする。更に、当該地域の集団は、これらの四の理事国を指名するに当たり、他の地域的要素も考慮することに同意する。
(c) 東欧地域の締約国が指名する五の東欧の締約国。この指名の基礎として、これらの五の締約国のうち、一の国は、原則として、国際的に報告され及び公表されている資料によって当該地域において最も重要であると決定される国内化学産業を有する締約国とするものとする。更に、当該地域の集団は、この一の理事国を指名するに当たり、他の地域的要素も考慮することに同意する。
(d) ラテン・アメリカ及びカリブ地域の締約国が指名する七のラテン・アメリカ及びカリブの締約国。この指名の基礎として、これらの七の締約国のうち、三の国は、原則として、国際的に報告され及び公表されている資料によって当該地域において最も重要であると決定される国内化学産業を有する締約国とするものとする。更に、当該地域の集団は、これらの三の理事国を指名するに当たり、他の地域的要素も考慮することに同意する。
(e) 西欧及び他の国の地域の締約国が指名する十の西欧及び他の国の地域の締約国。この指名の基礎として、これらの十の締約国のうち、五の国は、原則として、国際的に報告され及び公表されている資料によって当該地域において最も重要であると決定される国内化学産業を有する締約国とするものとする。更に、当該地域の集団は、これらの五の理事国を指名するに当たり、他の地域的要素も考慮することに同意する。
(f) アジア地域並びにラテン・アメリカ及びカリブ地域の締約国が連続して指名する更に一の締約国。この指名の基礎として、当該締約国は、両地域から交互に選出されるものとする。
24 執行理事会の第一回の選挙においては、23に規定する定められた理事国の数の割合に十分な考慮を払い、選出される理事国のうち二十の理事国の任期を一年とする。
25 第四条及び第五条の規定が完全に実施された後、会議は、執行理事会の理事国の過半数の要請により、執行理事会の構成を規律する23に規定する原則に関係する進展を考慮し、その構成を再検討することができる。
26 執行理事会は、その手続規則を作成し、承認のためこれを会議に提出する。
27 執行理事会は、その議長を理事国より選出する。
28 執行理事会は、通常会期として会合するほか、通常会期と通常会期との間においては、その権限及び任務の遂行のため必要に応じて会合する。
29 執行理事会の各理事国は、一の票を有する。執行理事会は、この条約に別段の定めがある場合を除くほか、すべての理事国の三分の二以上の多数による議決で実質事項についての決定を行う。執行理事会は、すべての理事国の単純多数による議決で手続事項についての決定を行う。実質事項であるか否かについて問題が生ずる場合には、執行理事会が実質事項についての決定に必要な多数による議決で別段の決定を行わない限り、実質事項として取り扱う。
権限及び任務
30 執行理事会は、機関の執行機関である。執行理事会は、会議に対して責任を負う。執行理事会は、この条約によって与えられる権限及び任務並びに会議によって委任される任務を遂行する。執行理事会は、これらを遂行するに当たり、会議の勧告、決定及び指針に従って行動し、並びにこれらの勧告、決定及び指針の適切かつ継続的な実施を確保する。
31 執行理事会は、この条約の効果的な実施及び遵守を促進する。執行理事会は、技術事務局の活動を監督し、締約国の国内当局と協力し、並びに締約国の要請に応じて締約国間の協議及び協力を促進する。
32 執行理事会は、次のことを行う。
(a) 機関の計画案及び予算案を検討し及び会議に提出すること。
(b) この条約の実施に関する機関の報告案、執行理事会の活動に関する報告及び執行理事会が必要と認める特別報告又は会議が要請する場合には当該要請による特別報告を検討し及び会議に提出すること。
(c) 会議の会期のための準備(議題案の作成を含む。)を行うこと。
33 執行理事会は、会議の特別会期の開催を要請することができる。
34 執行理事会は、次のことを行う。
(a) 会議が事前に承認することを条件として、機関に代わって国及び国際機関と協定又は取決めを締結すること。
(b) 第十条の規定に関連して機関に代わって締約国と協定を締結し及び同条に規定する任意の基金を監督すること。
(c) 技術事務局が締約国と交渉する検証活動の実施に関する協定又は取決めを承認すること。
35 執行理事会は、その権限の範囲内のいかなる問題又は事項であってこの条約及びその実施に影響を及ぼすもの(この条約の遵守についての懸念及び違反を含む。)も検討し並びに、適当な場合には、締約国に通報し及び当該問題又は事項について会議の注意を喚起する。
36 執行理事会は、この条約の遵守についての疑義又は懸念及び違反(特に、この条約に規定する権利の濫用を含む。)を検討するに当たり、関係締約国と協議し及び、適当な場合には、当該締約国に対し、一定の期間内に事態を是正するために措置をとるよう要請する。執行理事会は、更に行動が必要であると認める場合には、特に、次の一又は二以上の措置をとる。
(a) すべての締約国に対し問題又は事項を通報する。
(b) 問題又は事項について会議の注意を喚起する。
(c) 事態を是正し及びこの条約の遵守を確保するための措置に関して会議に対し勧告を行う。
執行理事会は、特に重大かつ緊急な場合には、問題又は事項(関連する情報及び判断を含む。)につき、直接に、国際連合総会及び国際連合安全保障理事会の注意を喚起する。執行理事会は、同時に、すべての締約国に対しこの措置を通報する。
D 技術事務局
37 技術事務局は、会議及び執行理事会が任務を遂行するに当たり、会議及び執行理事会を補佐する。技術事務局は、この条約に規定する検証措置を実施する。技術事務局は、この条約によって与えられるその他の任務並びに会議及び執行理事会によって委任される任務を遂行する。
38 技術事務局は、次のことを行う。
(a) 機関の計画案及び予算案を作成し及び執行理事会に提出すること。
(b) この条約の実施に関する機関の報告案及び会議又は執行理事会が要請する場合には他の報告を作成し及び執行理事会に提出すること。
(c) 会議、執行理事会及び補助機関に対し、運営上及び技術上の援助を提供すること。
(d) この条約の実施に関する事項につき、機関に代わり、締約国に対し通報し及び締約国からの通報を受けること。
(e) この条約の実施に当たり、技術上の援助及び評価(化学物質に関する附属書の表に掲げる化学物質及び掲げていない化学物質の評価を含む。)を締約国に対して提供すること。
39 技術事務局は、次のことを行う。
(a) 執行理事会が承認することを条件として、検証活動の実施に関する協定又は取決めにつき締約国と交渉すること。
(b) この条約が効力を生じた後百八十日以内に、第十条7の(b)及び(c)の規定に基づき、締約国による緊急の及び人道上の援助の常設的な備蓄の設置及び維持について調整すること。技術事務局は、常備されている援助が使用に供し得ることを検査することができる。常備されるべき援助の一覧表は、21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
(c) 第十条に規定する任意の基金を管理し、締約国が行う申告を取りまとめ及び、要請がある場合には、同条の規定の実施のために締約国間で締結する二国間協定又は締約国と機関との間で締結する協定を登録すること。
40 技術事務局は、任務の遂行に関連して生じた問題(検証活動の実施に当たり知るに至ったこの条約の遵守についての疑義、あいまいな点又は不確かな点であって、当該締約国との間の協議により解消することができなかったものを含む。)を執行理事会に通報する。
41 技術事務局は、技術事務局の長でありかつ首席行政官である事務局長、査察員及び科学要員、技術要員その他の必要な人員により構成する。
42 査察部は、技術事務局の一の組織であり、事務局長の監督の下で行動する。
43 事務局長は、執行理事会の勧告に基づき四年の任期で会議が任命する。その任期は、一回に限り更新することができる。
44 事務局長は、技術事務局の職員の任命、組織及び任務の遂行につき会議及び執行理事会に対して責任を負う。職員の雇用及び勤務条件の決定に当たっては、最高水準の能率、能力及び誠実性を確保することの必要性に最大の考慮を払う。締約国の国民のみが、事務局長が、査察員並びに他の専門職員及び事務職員となる。できる限り広範な地理的基礎に基づいて職員を採用することが重要であることについて、十分な考慮を払う。職員の採用に当たっては、技術事務局の責任を適切に遂行するために職員を必要な最小限度に保つという原則を指針とする。
45 事務局長は、21(h)に規定する科学諮問委員会の組織及び任務について責任を負う。事務局長は、締約国と協議の上、個人の資格において職務を遂行する科学諮問委員会の委員を任命する。当該委員は、この条約の実施に関連する特定の科学の分野における専門的知識に基づいて任命する。事務局長は、また、適当な場合には、科学諮問委員会の委員と協議の上、特定の問題について勧告を行うための科学専門家の暫定的な作業部会を設置することができる。これに関連して、締約国は、事務局長に対して専門家の名簿を提出することができる。
46 事務局長及び査察員その他の職員は、その任務の遂行に当たって、いかなる政府からも又は機関外のいかなるところからも指示を求め又は受けてはならない。これらの者は、会議及び執行理事会に対してのみ責任を有する国際公務員としての立場に影響を及ぼすおそれのあるいかなる行動も慎まなければならない。
47 締約国は、事務局長及び査察員その他の職員の責任の専ら国際的な性質を尊重するものとし、これらの者が責任を果たすに当たってこれらの者を左右しようとしてはならない。
E 特権及び免除
48 機関は、締約国の領域内又はその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所において、機関の任務の遂行のために必要な法律上の能力並びに特権及び免除を享受する。
49 締約国の代表、その代表代理及び随員並びに執行理事会のために任命された代表、その代表代理及び随員並びに事務局長及び機関の職員は、機関に関連する自己の任務を独立して遂行するために必要な特権及び免除を享受する。
50 この条に規定する法律上の能力、特権及び免除については、機関と締約国との間の協定及び機関と機関の本部が所在する国との間の協定で定める。これらの協定は、21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
51 48及び49の規定にかかわらず、検証活動が行われている間事務局長及び技術事務局の職員が享受する特権及び免除については、検証附属書第二部Bに定める。
第九条 協議、協力及び事実調査
1 締約国は、この条約の趣旨及び目的又は実施に関連して問題が生ずる場合には、当該問題について、締約国間で直接に又は機関を通じて若しくは他の適当な国際的手続(国際連合の枠内で及び国際連合憲章に従って行われる手続を含む。)により、協議し及び協力する。
2 締約国は、この条約の遵守について疑義を引き起こす問題又はあいまいと認められる関連する事項について懸念を引き起こす問題を、まず締約国間の情報交換及び協議により明らかにし及び解決するため、可能なときはいつでもあらゆる努力を払うべきである。もっとも、すべての締約国の申立てによる査察を要請する権利は害されない。締約国は、このような疑義又は懸念を引き起こすと他の締約国が認める問題を明らかにするよう当該他の締約国から要請される場合には、できる限り速やかに、いかなる場合にも当該要請の後十日以内に、当該他の締約国に対し、提起された疑義又は懸念に答えるために十分な情報を提供し、及びその情報がどのようにして当該問題を解決するかについての説明を行う。この条約のいかなる規定も、二以上の締約国が、遵守について疑義を引き起こす問題又はあいまいと認められる関連する事項について懸念を引き起こす問題を明らかにし及び解決するため、相互の合意により締約国間で査察その他の手続について取り決める権利に影響を及ぼすものではない。このような取決めは、この条約の他の規定に基づく締約国の権利及び義務に影響を及ぼすものではない。
事態を明らかにするための説明を要請する手続
3 締約国は、あいまいと認められる事態又は他の締約国によるこの条約の違反の可能性について懸念を引き起こす事態を明らかにするに当たって援助するよう執行理事会に要請する権利を有する。執行理事会は、このような懸念に関連する自己の保有する適当な情報を提供する。
4 締約国は、あいまいと認められる事態又は他の締約国によるこの条約の違反の可能性について懸念を引き起こす事態を明らかにするための説明を当該他の締約国から得るよう執行理事会に要請する権利を有する。この場合において、次の規定を適用する。
(a) 執行理事会は、事務局長を通じ、説明の要請の受領の後二十四時間以内に当該他の締約国に対しこれを送付する。
(b) 説明の要請を受けた締約国は、できる限り速やかに、いかなる場合にも要請の受領の後十日以内に、執行理事会に説明を行う。
(c) 執行理事会は、(b)の規定に従って行われた説明に留意し、当該説明の受領の後二十四時間以内に、説明の要請を行った締約国に対しこれを送付する。
(d) 説明の要請を行った締約国が(b)の規定に従って行われた説明が十分でないと認める場合には、当該締約国は、説明の要請を受けた締約国から更に説明を得るよう執行理事会に要請する権利を有する。
(e) (d)の規定により更に説明を得るため、執行理事会は、事務局長に対し、懸念を引き起こす事態に関連するすべての利用可能な情報及び資料を検討するために、技術事務局の職員により構成される専門家の会合又は技術事務局において適当な職員を利用することができない場合には技術事務局の職員以外の専門家の会合を設置するよう要請することができる。専門家の会合は、その検討結果に基づく事実関係についての報告を執行理事会に提出する。
(f) 説明の要請を行った締約国が(d)及び(e)の規定に基づいて得た説明が十分でないと認める場合には、当該締約国は、執行理事会の理事国でない関係締約国が参加することのできる執行理事会の特別会期を要請する権利を有する。執行理事会は、当該特別会期において、この問題を検討し、及び事態を解決するために適当と認める措置を勧告することができる。
5 締約国は、また、自国についてあいまいと認められた事態又は自国によるこの条約の違反の可能性について懸念を引き起こした事態について明らかにするよう執行理事会に要請する権利を有する。執行理事会は、これに対し、適当と認める援助を提供する。
6 執行理事会は、この条に規定する説明の要請について締約国に通報する。
7 締約国は、この条約の違反の可能性について自国が提起した疑義又は懸念が、説明の要請を執行理事会に提出した後六十日以内に解消されなかった場合又はこのような疑義が緊急な検討を正当化するに足りるものであると信ずる場合には、前条12(c)の規定に基づき、会議の特別会期を要請することができる。もっとも、申立てによる査察を要請する当該締約国の権利は害されない。会議は、当該特別会期において、この問題を検討し、及び事態を解決するために適当と認める措置を勧告することができる。
申立てによる査察のための手続
8 締約国は、この条約の違反の可能性についての問題を明らかにし及び解決することのみを目的として他の締約国の領域内又は他の締約国の管轄若しくは管理の下にあるその他の場所におけるいかなる施設又は区域に対しても申立てによる現地査察を要請する権利並びにこの査察がいかなる場所においても事務局長が指名する査察団により遅滞なく、かつ、検証附属書に従って行われることを求める権利を有する。
9 締約国は、査察の要請をこの条約の範囲内で行う義務を負い、及びこの条約の違反の可能性について懸念を引き起こす基礎となったすべての適当な情報を検証附属書に従って当該査察の要請の中で提供する義務を負う。締約国は、濫用を避けるために注意を払い、根拠のない査察の要請を慎まなければならない。申立てによる査察は、この条約の違反の可能性に関係する事実を決定することのみを目的として行う。
10 この条約の遵守の検証のため、締約国は、技術事務局が8の規定に従い申立てによる現地査察を行うことを認める。
11 被査察締約国は、施設又は区域に対する申立てによる査察の要請及び検証附属書に規定する手続に従い、次の権利を有し、又は義務を負う。
(a) 自国によるこの条約の遵守を証明するためにあらゆる合理的な努力を払う権利及び義務並びにこのために査察団がその査察命令を遂行することができるようにする権利及び義務
(b) 専らこの条約の違反の可能性についての懸念に関連する事実を確認することを目的として、要請される施設又は区域内へのアクセスを認める義務
(c) この条約に関係しない機微に係る設備を保護し並びにこの条約に関係しない秘密の情報及び資料の開示を防止するための措置をとる権利
12 オブザーバーについては、次の規定を適用する。
(a) 要請締約国は、被査察締約国の同意を得て、自国又は第三の締約国のいずれか一方の国民である代表者を申立てによる査察の実施に立ち会わせるために派遣することができる。
(b) (a)の場合において、被査察締約国は、検証附属書に従ってオブザーバーに対してアクセスを認める。
(c) 被査察締約国は、原則として、提案されたオブザーバーを受け入れる。ただし、被査察締約国が拒否する場合には、その事実は、最終報告に記録される。
13 要請締約国は、執行理事会に対し申立てによる現地査察のための査察の要請を行い、また、速やかな手続の開始のために同時に事務局長に対して当該要請を行う。
14 事務局長は、直ちに、査察の要請が検証附属書第十部4に定める要件を満たすことを確認し及び、必要な場合には、要請締約国が当該要件に従って査察の要請を行うことを援助する。査察の要請が当該要件を満たす場合には、申立てによる査察のための準備を開始する。
15 事務局長は、被査察締約国に対し、査察団の入国地点への到着予定時刻の少なくとも十二時間前までに、査察の要請を伝達する。
16 執行理事会は、査察の要請を受領した後、当該要請に基づいて事務局長がとる措置に留意するものとし、査察が行われている間を通じてこの問題を検討する。ただし、執行理事会の検討は、査察を遅滞させるものであってはならない。
17 執行理事会は、査察の要請が根拠がなく、権利を濫用するものであり又は8に定めるこの条約の範囲を明らかに超えると認める場合には、査察の要請を受領した後十二時間以内に、執行理事会のすべての理事国の四分の三以上の多数による議決で、申立てによる査察の実施に反対することを決定することができる。その決定には、要請締約国及び被査察締約国は参加してはならない。執行理事会が申立てによる査察について反対することを決定する場合には、査察のための準備は停止され、査察の要請に基づく新たな措置はとられず、及び関係締約国に対しその旨の通報が行われる。
18 事務局長は、申立てによる査察の実施のための査察命令を与える。査察命令は、8及び9に規定する査察の要請を遂行するためのものであり、かつ、査察の要請に適合するものとする。
19 申立てによる査察は、検証附属書第十部の規定に従い又は化学兵器の使用若しくは戦争の方法としての暴動鎮圧剤の使用の疑いがある場合には同附属書第十一部の規定に従って行う。査察団は、できる限り干渉の程度が低く、かつ、任務の効果的な及び適時の遂行に合致する方法で申立てによる査察を行うとの原則を指針とする。
20 被査察締約国は、申立てによる査察が行われている間を通じて、査察団を援助し、及びその任務の遂行を容易にする。被査察締約国は、検証附属書第十部Cの規定に従い、この条約の遵守を証明するための措置であって十分かつ包括的なアクセスに代わるものを提案する場合には、この条約の遵守を証明することを目的として事実を確認する方法について合意に達するため、査察団との協議を通じてあらゆる合理的な努力を払う。
21 最終報告には、事実関係の調査結果並びに申立てによる査察の十分な実施のために認められたアクセス及び協力の程度及び性質についての査察団による評価を含める。事務局長は、要請締約国、被査察締約国、執行理事会及び他のすべての締約国に対し、査察団の最終報告を速やかに送付する。事務局長は、更に、執行理事会に対し、要請締約国及び被査察締約国による評価並びに評価のため他の締約国の見解が事務局長に提出される場合には当該見解を速やかに送付し、その後これらをすべての締約国に送付する。
22 執行理事会は、その権限及び任務に従い、査察団の最終報告が提出された後直ちに当該最終報告を検討し、及び次の事項について検討する。
(a) 違反があったか否か。
(b) 査察の要請がこの条約の範囲内で行われたか否か。
(c) 申立てによる査察を要請する権利が濫用されたか否か。
23 執行理事会は、その権限及び任務に従い、22の規定に関して更に措置が必要となるとの結論に到達する場合には、事態を是正し及びこの条約の遵守を確保するための適当な措置(会議に対する具体的な勧告を含む。)をとる。要請する権利が濫用された場合には、執行理事会は、要請締約国が申立てによる査察の財政的負担の一部を負うべきであるか否かについて検討する。
24 要請締約国及び被査察締約国は、22に規定する検討に参加する権利を有する。執行理事会は、このような検討の結果につき、締約国に対し及び次の会期において会議に対し報告する。
25 執行理事会が会議に対して具体的な勧告を行った場合には、会議は、第十二条の規定に従って措置を検討する。
第十条 援助及び化学兵器に対する防護
1 この条の規定の適用上、「援助」とは、化学兵器に対する防護(特に、探知装置及び警報装置、防護機具、除染装置及び除染剤、解毒剤及び治療並びにこれらの防護手段に関する助言を含む。)につき調整し及び締約国に対しその防護を提供することをいう。
2 この条約のいかなる規定も、締約国が、この条約によって禁止されていない目的のため化学兵器に対する防護手段を研究し、開発し、生産し、取得し、移譲し又は使用する権利を妨げるものと解してはならない。
3 締約国は、化学兵器に対する防護手段に関する装置、資材並びに科学的及び技術的情報を可能な最大限度まで交換することを容易にすることを約束し、また、その交換に参加する権利を有する。
4 締約国は、防護目的に関係する自国の計画の透明性を増進するため、第八条21(i)の規定に基づき会議が検討し及び承認する手続に従い、毎年、当該計画に関する情報を技術事務局に提供する。
5 技術事務局は、要請する締約国の使用に供するため、化学兵器に対する各種の防護手段に関する自由に入手可能な情報及び締約国が提供する情報から成るデータバンクをこの条約が効力を生じた後百八十日以内に設置し及び維持する。
技術事務局は、また、その利用可能な資源の範囲内で、かつ、締約国の要請に応じ、締約国が化学兵器に対する防護能力の開発及び向上のための計画をいかなる方法で実施することができるかについて特定するに当たり、当該締約国に専門的な助言を行い、及び援助する。
6 この条約のいかなる規定も、締約国が、二国間で援助を要請し及び提供する権利並びに援助の緊急な調達に関して他の締約国と個別の協定を締結する権利を妨げるものと解してはならない。
7 締約国は、機関を通じて援助を提供すること及びこのため次の一又は二以上の措置を選択することを約束する。
(a) 会議の第一回会期において設置される援助のための任意の基金に拠出すること。
(b) この条約が自国について効力を生じた後できる限り百八十日以内に、要請に基づく援助の調達に関して機関と協定を締結すること。
(c) この条約が自国について効力を生じた後百八十日以内に、機関の要請に応じ提供することのできる援助の種類を申告すること。締約国は、その後、申告した援助を提供することができなくなった場合にも、引き続き、この7の規定に従って援助を提供する義務を負う。
8 締約国は、次のことを認める場合には、援助及び化学兵器の使用又は使用の脅威に対する防護を要請し並びに9から11までに規定する手続に従ってこれらを受ける権利を有する。
(a) 自国に対し化学兵器が使用されたこと。
(b) 自国に対し暴動鎮圧剤が戦争の方法として使用されたこと。
(c) 自国が、いずれかの国の措置又は活動であって、第一条の規定によって締約国に対し禁止されているものにより脅威を受けていること。
9 8の要請については、当該要請を裏付ける関連する情報を付して事務局長に対して行うものとし、事務局長は、当該要請を直ちに執行理事会及びすべての締約国に伝達する。事務局長は、当該要請を、7の(b)及び(c)の規定に従い、化学兵器の使用又は戦争の方法としての暴動鎮圧剤の使用の場合においては緊急の援助、化学兵器の使用又は戦争の方法としての暴動鎮圧剤の使用の重大な脅威の場合においては人道上の援助を要請の受領の後十二時間以内に関係締約国に提供することを自発的に申し出た締約国に対し、直ちに伝達する。事務局長は、当該要請の受領の後二十四時間以内に、更にとるべき措置のための基礎を提供するために調査を開始する。事務局長は、七十二時間以内に調査を完了し、執行理事会に対し報告を提出する。調査を完了するために追加の期間を必要とする場合には、当該七十二時間以内に中間報告を提出する。調査に必要な当該追加の期間は、七十二時間を超えてはならない。ただし、同様の期間により更に一回又は二回以上の期間の追加をすることができる。各追加の期間の終了の時に執行理事会に報告を提出する。調査は、適当な場合には、要請及び要請に付された情報に従い、要請に関係する事実並びに必要とされる追加的な援助及び防護の種類及び範囲を確定する。
10 執行理事会は、調査の報告の受領の後二十四時間以内に事態を検討するために会合するものとし、技術事務局に対し追加的な援助を提供するよう指示するか否かを次の二十四時間以内に単純多数による議決で決定する。技術事務局は、すべての締約国及び関係国際機関に対し、当該報告及び執行理事会の決定を直ちに送付する。執行理事会が技術事務局に対し追加的な援助を提供するよう指示することを決定する場合には、事務局長は、直ちに援助を提供する。このため、事務局長は、要請した締約国、他の締約国及び関係国際機関と協力することができる。締約国は、援助を提供するために可能な最大限度の努力をする。
11 化学兵器の使用による犠牲者が存在すること及び速やかな措置が不可欠であることが実施中の調査又は他の信頼し得る情報源からの入手可能な情報により十分に明らかとなる場合には、事務局長は、すべての締約国に通報するものとし、会議がこのような事態のために事務局長の利用に供した資源を用いて援助のための緊急措置をとる。事務局長は、この11の規定に従ってとる措置を常時執行理事会に通報する。
第十一条 経済的及び技術的発展
1 この条約は、締約国の経済的又は技術的発展及びこの条約によって禁止されていない目的のための化学に関する活動の分野における国際協力(この条約によって禁止されていない目的のための化学物質の生産、加工又は使用に関する科学的及び技術的情報、化学物質並びに装置の国際的な交換を含む。)を妨げないように実施する。
2 締約国は、この条約の規定に従うことを条件として、かつ、国際法の諸原則及び適用のある国際法の諸規則を害することなく、
(a) 単独で又は共同して、化学物質を研究し、開発し、生産し、取得し、保有し、移譲し及び使用する権利を有する。
(b) この条約によって禁止されていない目的のための化学の開発及び利用に関係する化学物質、装置並びに科学的及び技術的情報を可能な最大限度まで交換することを容易にすることを約束し、また、その交換に参加する権利を有する。
(c) 工業、農業、研究、医療又は製薬の目的その他の平和的目的のための化学の分野における貿易並びに科学的及び技術的知識の開発及び促進を妨げる制限(国際協定による制限を含む。)であって、この条約に基づく義務に反するものは、締約国間で維持してはならない。
(d) この条約に規定され又はこの条約が認める措置以外の措置を実施するための根拠としてこの条約を利用してはならず、及びこの条約に適合しない目的を追求するために他のいかなる国際協定も利用してはならない。
(e) この条約の趣旨及び目的に適合したものにすることを目的として、化学物質の貿易の分野における既存の国内法令を検討することを約束する。
第十二条 事態を是正し及びこの条約の遵守を確保するための措置(制裁を含む。)
1 会議は、この条約の遵守を確保し並びにこの条約に違反する事態を是正し及び改善するため、2から4までに規定する必要な措置をとる。会議は、この1の規定に基づく措置を検討するに当たり、問題に関し執行理事会が提出するすべての情報及び勧告を考慮する。
2 締約国が、自国によるこの条約の遵守に関して問題を引き起こしている事態を是正する措置をとることを執行理事会により要請され、かつ、一定の期間内に当該要請に応ずることができなかった場合には、会議は、特に、執行理事会の勧告に基づき、当該締約国がこの条約に基づく義務に従うための必要な措置をとるまでの間、この条約に基づく当該締約国の権利及び特権を制限し又は停止することができる。
3 この条約の趣旨及び目的に対する重大な障害がこの条約(特に第一条の規定)によって禁止されている活動から生ずる可能性のある場合には、会議は、締約国に対して国際法に適合する集団的な措置を勧告することができる。
4 会議は、特に重大な場合には、問題(関連する情報及び判断を含む。)につき、国際連合総会及び国際連合安全保障理事会の注意を喚起する。
第十三条 他の国際協定との関係
この条約のいかなる規定も、千九百二十五年のジュネーヴ議定書並びに千九百七十二年四月十日にロンドン、モスクワ及びワシントンで署名された細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約に基づく各国の義務を限定し又は軽減するものと解してはならない。
第十四条 紛争の解決
1 この条約の適用又は解釈に関して生ずる紛争は、この条約の関連規定に従い及び国際連合憲章の規定によって解決する。
2 この条約の解釈又は適用に関して二以上の締約国間で又は一若しくは二以上の締約国と機関との間で紛争が生ずる場合には、関係当事者は、交渉又は当該関係当事者が選択するその他の平和的手段(この条約に規定する適当な内部機関に対し提起すること及び合意により国際司法裁判所規程に従って国際司法裁判所に付託することを含む。)によって紛争を速やかに解決するため、協議する。関係締約国は、いかなる措置がとられるかについて常時執行理事会に通報する。
3 執行理事会は、執行理事会が適当と認める手段(あっせんを提供すること、紛争当事国である締約国に対し当該締約国が選択する解決のための手続を開始するよう要請すること及び合意された手続に従って解決するための期限を勧告することを含む。)によって紛争の解決に貢献することができる。
4 会議は、締約国が提起し又は執行理事会が注意を喚起する紛争に関係する問題を検討する。会議は、必要と認める場合には、第八条21(f)の規定に従い、これらの紛争の解決に関連して補助機関を設置し又は補助機関に任務を委託する。
5 会議及び執行理事会は、それぞれ、国際連合総会が許可することを条件として、機関の活動の範囲内において生ずる法律問題について勧告的意見を与えるよう国際司法裁判所に要請する権限を与えられる。このため、機関と国際連合との間の協定を第八条34(a)の規定に基づいて締結する。
6 この条の規定は、第九条の規定又は事態を是正し及びこの条約の遵守を確保するための措置(制裁を含む。)に関する規定を害するものではない。
第十五条 改正
1 いずれの締約国も、この条約の改正を提案することができるものとし、また、4に規定するこの条約の附属書の修正を提案することができる。改正のための提案は、2及び3に規定する手続に従う。4に規定する修正のための提案は、5に規定する手続に従う。
2 改正案については、すべての締約国及び寄託者に対して回章に付するため事務局長に提出する。改正案は、改正会議においてのみ検討する。改正会議は、改正案の回章の後三十日以内に、三分の一以上の締約国が改正案を更に検討することを支持する旨を事務局長に通報する場合に開催される。改正会議は、改正案の検討を要請する締約国が早期の開催を要請する場合を除くほか、会議の通常会期の後直ちに開催される。いかなる場合にも、改正会議は、改正案の回章の後六十日を経過するまで開催されない。
3 改正は、次の(a)及び(b)の要件が満たされる場合には、(b)に規定するすべての締約国が批准書又は受諾書を寄託した後三十日で、すべての締約国について効力を生ずる。
(a) 改正会議において、いかなる締約国も反対票を投ずることなく、すべての締約国の過半数の賛成票により採択されること。
(b) 改正会議において賛成票を投じたすべての締約国が批准し又は受諾すること。
4 この条約の実行可能性及び実効性を確保するため、附属書の規定は、修正案が運営上の又は技術的な性質の事項にのみ関連する場合には、5の規定に従って行われる修正の対象とする。化学物質に関する附属書のすべての修正は、5の規定に従って行われる。秘密扱いに関する附属書のA及びCの規定、検証附属書第十部の規定並びに検証附属書第一部に規定する定義であって申立てによる査察にのみ関係するものは、5の規定に従って行われる修正の対象としない。
5 4に規定する修正については、次の手続に従って行う。
(a) 修正案は、必要な情報と共に事務局長に送付する。すべての締約国及び事務局長は、当該修正案を評価するための追加の情報を提供することができる。事務局長は、すべての締約国は、執行理事会及び寄託者に対し、当該修正案及び情報を速やかに通報する。
(b) 事務局長は、修正案の受領の後六十日以内に、この条約の規定及び実施に及ぼし得るすべての影響を把握するために当該修正案を評価するものとし、その結果についての情報をすべての締約国及び執行理事会に通報する。
(c) 執行理事会は、すべての入手可能な情報に照らして修正案を検討する(当該修正案が4に定める要件を満たすか否かについての検討を含む。)。執行理事会は、当該修正案の受領の後九十日以内に、適当な説明を付して、執行理事会の勧告を検討のためにすべての締約国に通報する。締約国は、十日以内にその受領を確認する。
(d) 執行理事会がすべての締約国に対し修正案を採択することを勧告する場合において、いずれの締約国もその勧告の受領の後九十日以内に異議を申し立てないときは、当該修正案については、承認されたものとみなす。執行理事会が修正案を拒否することを勧告する場合において、いずれの締約国もその勧告の受領の後九十日以内に異議を申し立てないときは、当該修正案については、拒否されたものとみなす。
(e) 執行理事会の勧告が(d)の規定に従って締約国によって受け入れられない場合には、会議は、次の会期において実質事項として修正案の承認についての決定(当該修正案が4に定める要件を満たすか否かについての判断を含む。)を行う。
(f) 事務局長は、この5の規定に基づく決定をすべての締約国及び寄託者に通報する。
(g) この5に定める手続に従って承認された修正は、他の期間を執行理事会が勧告し又は会議が決定する場合を除くほか、すべての締約国につき、事務局長が当該承認を通報した日の後百八十日で効力を生ずる。
第十六条 有効期間及び脱退
1 この条約の有効期間は、無期限とする。
2 締約国は、この条約の対象である事項に関係する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する。この権利を行使する締約国は、他のすべての締約国、執行理事会、寄託者及び国際連合安全保障理事会に対しその九十日前にその旨を通告する。その通告には、自国の至高の利益を危うくしていると認める異常な事態についても記載する。
3 この条約からの締約国の脱退は、国際法の関連規則、特に千九百二十五年のジュネーブ議定書に基づく義務を引き続き履行することについての国の義務に何ら影響を及ぼすものではない。
第十七条 附属書の地位
附属書は、この条約の不可分の一部を成す。「この条約」というときは、附属書を含めていうものとする。
第十八条 署名
この条約は、効力を生ずる前はすべての国による署名のために開放しておく。
第十九条 批准
この条約は、署名国により、それぞれ自国の憲法上の手続に従って批准されなければならない。
第二十条 加入
この条約が効力を生ずる前にこの条約に署名しない国は、その後はいつでもこの条約に加入することができる。
第二十一条 効力発生
1 この条約は、六十五番目の批准書が寄託された日の後百八十日で効力を生ずる。ただし、いかなる場合にも、署名のための開放の後二年を経過するまで効力を生じない。
2 この条約が効力を生じた後に批准書又は加入書を寄託する国については、その批准書又は加入書の寄託の日の後三十日目の日に効力を生ずる。
第二十二条 留保
この条約の本文については、留保は付することができない。この条約の附属書については、この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は付することができない。
第二十三条 寄託者
国際連合事務総長は、ここに、この条約の寄託者として指名されるものとし、特に、次のことを行う。
(a) すべての署名国及び加入国に対し、各署名の日、各批准書又は各加入書の寄託の日、この条約の効力発生の日及びその他の事項に係る通告の受領を速やかに通報すること。
(b) この条約の認証謄本をすべての署名国政府及び加入国政府に送付すること。
(c) 国際連合憲章第百二条の規定に従ってこの条約を登録すること。
第二十四条 正文
この条約は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とし、国際連合事務総長に寄託する。
以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。
千九百九十三年一月十三日にパリで作成した。
化学物質に関する附属書
目次
A 化学物質の表のための指針
B 化学物質の表
A 化学物質の表のための指針
表1のための指針
1 ある毒性化学物質又は前駆物質を表1に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。
(a) これらの物質が第二条に定義する化学兵器として開発され、生産され、貯蔵され又は使用されたことがあるか否か。
(b) (a)の基準に該当しない場合において、これらの物質が次の一又は二以上の条件を満たすことによりこの条約によって禁止されている活動に使用される可能性が高いため、この条約の趣旨及び目的に対し高度の危険をもたらすものであるか否か。
(i) これらの物質が表1に掲げる他の毒性化学物質の化学構造と密接に関係する化学構造を有しているため、当該毒性化学物質と同等の特性を有すること又は有することが予想されること。
(ii) これらの物質が、当該物質を化学兵器として使用することを可能とする致死の又は機能を著しく害する毒性その他の特性を有すること。
(iii) これらの物質が表1に掲げる毒性化学物質の生産における技術の単一の最終段階において前駆物質として使用されるものであること(当該最終段階が施設内、弾薬内その他のいかなる場所において生ずるものであるかを問わない。)。
(c) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために使用されることがほとんど又は全くないか否か。
表2のための指針
2 表1に掲げていない毒性化学物質又は表1若しくは表2Aに掲げる化学物質の前駆物質を表2に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。
(a) これらの物質が、当該物質を化学兵器として使用することを可能とし得る致死の又は機能を著しく害する毒性その他の特性を有するため、この条約の趣旨及び目的に対し相当な危険をもたらすものであるか否か。
(b) これらの物質が表1又は表2Aに掲げる化学物質の生成の最終段階における化学反応の一において前駆物質として使用されるものであるか否か。
(c) これらの物質が表1又は表2Aに掲げる化学物質の生産において重要であるため、この条約の趣旨及び目的に対し相当な危険をもたらすものであるか否か。
(d) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために商業上多量に生産されるものでないか否か。
表3のための指針
3 表1及び表2に掲げていない毒性化学物質又は前駆物質を表3に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。
(a) これらの物質が化学兵器として生産され、貯蔵され又は使用されたことがあるか否か。
(b) (a)の基準に該当しない場合において、これらの物質が、当該物質を化学兵器として使用することを可能とする可能性がある致死の又は機能を著しく害する毒性その他の特性を有するため、この条約の趣旨及び目的に対し危険をもたらすものであるか否か。
(c) これらの物質が表1又は表2Bに掲げる一又は二以上の化学物質の生産において重要であるため、この条約の趣旨及び目的に対し危険をもたらすものであるか否か。
(d) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために商業上多量に生産されるものであるか否か。
B 化学物質の表
次の表には、毒性化学物質及びその前駆物質を掲げる。この条約の実施上、これらの表は、検証附属書に従って検証措置を実施するために化学物質を特定する。これらの表は、第二条1(a)に規定する化学兵器の定義を構成するものではない。
(括弧内にアルキル基を掲げるジアルキル化化合物類については、その括弧内のアルキル基の可能なすべての組合せにより考えられる可能なすべての化学物質は、明示的に除外されない限り、それぞれの表に掲げられたものとみなす。表2Aにおいて(*)が付されている化学物質については、検証附属書第七部の規定に従って申告及び検証のための特別な基準の対象とする。)
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表1 (CAS登録番号) |
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A 毒性化学物質 |
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(1) O―アルキル(炭素数十以下のもの。シクロアルキルを含む。)=アルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホノフルオリダート類 |
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例えば、 |
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サリン O―イソプロピル=メチルホスホノフルオリダート |
(一〇七―四四―八) |
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ソマン O―ピナコリル=メチルホスホノフルオリダート |
(九六―六四―〇) |
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(2) O―アルキル(炭素数十以下のもの。シクロアルキルを含む。)=N・N―ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホルアミドシアニダート類 |
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例えば、 |
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タブン O―エチル=N・N―ジメチルホスホルアミドシアニダート |
(七七―八一―六) |
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(3) O―アルキル(水素又は炭素数十以下のもの。シクロアルキルを含む。)=S―二―ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエチル=アルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホノチオラート類及びこれらのアルキル化塩類又はプロトン化塩類 |
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例えば、 |
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VX O―エチル=S―二―ジイソプロピルアミノエチル=メチルホスホノチオラート |
(五〇七八二―六九―九) |
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(4) 硫黄マスタード類 |
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二―クロロエチルクロロメチルスルフィド |
(二六二五―七六―五) |
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マスタードガス ビス(二―クロロエチル)スルフィド |
(五〇五―六〇―二) |
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ビス(二―クロロエチルチオ)メタン |
(六三八六九―一三―六) |
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セスキマスタード 一・二―ビス(二―クロロエチルチオ)エタン |
(三五六三―三六―八) |
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一・三―ビス(二―クロロエチルチオ)ノルマルプロパン |
(六三九〇五―一〇―二) |
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一・四―ビス(二―クロロエチルチオ)ノルマルブタン |
(一四二八六八―九三―七) |
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一・五―ビス(二―クロロエチルチオ)ノルマルペンタン |
(一四二八六八―九四―八) |
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ビス(二―クロロエチルチオメチル)エーテル |
(六三九一八―九〇―一) |
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O―マスタード ビス(二―クロロエチルチオエチル)エーテル |
(六三九一八―八九―八) |
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(5) ルイサイト類 |
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ルイサイト一 二―クロロビニルジクロロアルシン |
(五四一―二五―三) |
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ルイサイト二 ビス(二―クロロビニル)クロロアルシン |
(四〇三三四―六九―八) |
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ルイサイト三 トリス(二―クロロビニル)アルシン |
(四〇三三四―七〇―一) |
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(6) 窒素マスタード類 |
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HN一 ビス(二―クロロエチル)エチルアミン |
(五三八―〇七―八) |
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HN二 ビス(二―クロロエチル)メチルアミン |
(五一―七五―二) |
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HN三 トリス(二―クロロエチル)アミン |
(五五五―七七―一) |
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(7) サキシトキシン |
(三五五二三―八九―八) |
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(8) リシン |
(九〇〇九―八六―三) |
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B 前駆物質 |
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(9) アルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホニルジフルオリド類 |
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例えば、 |
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DF メチルホスホニルジフルオリド |
(六七六―九九―三) |
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(10) O―アルキル(水素又は炭素数十以下のもの。シクロアルキルを含む。)=O―二―ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエチル=アルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホニット類及びこれらのアルキル化塩類又はプロトン化塩類 |
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例えば、 |
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QL O―エチル=O―二―ジイソプロピルアミノエチル=メチルホスホニット |
(五七八五六―一一―八) |
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(11) クロロサリン O―イソプロピル=メチルホスホノクロリダート |
(一四四五―七六―七) |
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(12) クロロソマン O―ピナコリル=メチルホスホノクロリダート |
(七〇四〇―五七―五) |
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表2 (CAS登録番号) |
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A 毒性化学物質 |
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(1) アミトン O・O―ジエチル=S―〔二―(ジエチルアミノ)エチル〕ホスホロチオラート |
(七八―五三―五) |
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及びそのアルキル化塩類又はプロトン化塩類 |
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(2) PFIB 一・一・三・三・三―ペンタフルオロ―二―(トリフルオロメチル)―一―プロペン |
(三八二―二一―八) |
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(3) BZ 三―キヌクリジニル=ベンジラート(*) |
(六五八一―〇六―二) |
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B 前駆物質 |
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(4) 一のメチル、エチル又はプロピル(ノルマル又はイソ)と結合しているが、その結合以外に炭素原子とは結合していないりん原子を含有する化学物質(表1に掲げる物質を除く。) |
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例えば、 |
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メチルホスホニルジクロリド |
(六七六―九七―一) |
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ジメチル=メチルホスホナート |
(七五六―七九―六) |
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ただし、次のものを除く。 |
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ホノホス O―エチル=S―フェニル=エチルホスホノチオロチオナート |
(九四四―二二―九) |
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(5) N・N―ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホルアミディック=ジハリド類 |
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(6) ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)=N・N―ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)ホスホルアミダート類 |
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(7) 三塩化砒(ひ)素 |
(七七八四―三四―一) |
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(8) 二・二―ジフェニル―二―ヒドロキシ酢酸 |
(七六―九三―七) |
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(9) キヌクリジン―三―オール |
(一六一九―三四―七) |
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(10) N・N―ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエチル―二―クロリド類及びこれらのプロトン化塩類 |
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(11) N・N―ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエタン―二―オール類及びこれらのプロトン化塩類 |
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ただし、次に掲げるものを除く。 |
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N・N―ジメチルアミノエタノール |
(一〇八―〇一―〇) |
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及びそのプロトン化塩類 |
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N・N―ジエチルアミノエタノール |
(一〇〇―三七―八) |
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及びそのプロトン化塩類 |
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(12) N・N―ジアルキル(メチル、エチル、ノルマルプロピル又はイソプロピル)アミノエタン―二―チオール類及びこれらのプロトン化塩類 |
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(13) チオジグリコール ビス(二―ヒドロキシエチル)スルフィド |
(一一一―四八―八) |
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(14) ピナコリルアルコール 三・三―ジメチルブタン―二―オール |
(四六四―〇七―三) |
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表3 (CAS登録番号) |
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A 毒性化学物質 |
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(1) ホスゲン 二塩化カルボニル |
(七五―四四―五) |
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(2) 塩化シアン |
(五〇六―七七―四) |
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(3) シアン化水素 |
(七四―九〇―八) |
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(4) クロロピクリン トリクロロニトロメタン |
(七六―〇六―二) |
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B 前駆物質 |
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(5) オキシ塩化リン |
(一〇〇二五―八七―三) |
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(6) 三塩化リン |
(七七一九―一二―二) |
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(7) 五塩化リン |
(一〇〇二六―一三―八) |
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(8) 亜リン酸トリメチル |
(一二一―四五―九) |
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(9) 亜リン酸トリエチル |
(一二二―五二―一) |
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(10) 亜リン酸ジメチル |
(八六八―八五―九) |
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(11) 亜リン酸ジエチル |
(七六二―〇四―九) |
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(12) 一塩化硫黄 |
(一〇〇二五―六七―九) |
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(13) 二塩化硫黄 |
(一〇五四五―九九―〇) |
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(14) 塩化チオニル |
(七七一九―〇九―七) |
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(15) エチルジエタノールアミン |
(一三九―八七―七) |
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(16) メチルジエタノールアミン |
(一〇五―五九―九) |
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(17) トリエタノールアミン |
(一〇二―七一―六) |
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実施及び検証に関する附属書(「検証附属書」)
目次
第一部 定義
第二部 検証の一般規則
A 査察員及び査察補の指名
B 特権及び免除
C 共通の措置
入国地点
不定期飛行に使用する航空機の利用に関する措置
管理上の措置
承認された装置
D 査察の事前の活動
通告
被査察締約国又は接受国の領域への入国及び査察施設への移動
査察の事前の説明
E 査察の実施
一般規則
安全
通信
査察団及び被査察締約国の権利
試料の採取、取扱い及び分析
査察期間の延長
査察の事後の説明
F 出国
G 報告
H 一般規則の適用
第三部 第四条、第五条及び第六条3の規定に基づく検証措置に関する一般規定
A 冒頭査察及び施設協定
B 共通の措置
C 査察の事前の活動
第四部(A) 第四条の規定に基づく化学兵器の廃棄及びその検証
A 申告
化学兵器
第三条1(a)(iii)の規定に基づく化学兵器の申告
過去における移譲及び受領の申告
化学兵器の廃棄のための全般的な計画の提出
B 貯蔵施設を保全するための措置及び貯蔵施設における準備
C 廃棄
化学兵器の廃棄のための原則及び方法
廃棄の規律
廃棄の中間の期限の変更
廃棄の完了の期限の延期
廃棄のための詳細な年次計画
廃棄に関する年次報告
D 検証
化学兵器の申告の現地査察による検証
貯蔵施設の体系的な検証
査察及び訪問
化学兵器の廃棄の体系的な検証
化学兵器の廃棄施設内の化学兵器の貯蔵施設
化学兵器の廃棄施設における体系的な現地検証のための措置
第四部(B) 老朽化した化学兵器及び遺棄化学兵器
A 総則
B 老朽化した化学兵器のための制度
C 遺棄化学兵器のための制度
第五部 第五条の規定に基づく化学兵器生産施設の廃棄及びその検証
A 申告
化学兵器生産施設の申告
第三条1(c)(iii)の規定に基づく化学兵器生産施設の申告
過去における移譲及び受領の申告
廃棄のための全般的な計画の提出
廃棄のための年次計画及び廃棄に関する年次報告の提出
B 廃棄
化学兵器生産施設の廃棄に関する一般原則
化学兵器生産施設の閉鎖に関する原則及び方法
化学兵器生産施設の廃棄の前に行われる当該施設の技術的な保守
化学兵器生産施設の化学兵器の廃棄施設への一時的な転換に関する原則及び方法
化学兵器生産施設の廃棄に関する原則及び方法
廃棄の規律
廃棄のための詳細な計画
詳細な計画の検討
C 検証
化学兵器生産施設の申告の現地査察による検証
化学兵器生産施設及びその活動の終了の体系的な検証
化学兵器生産施設の廃棄の検証
化学兵器生産施設の化学兵器の廃棄施設への一時的な転換の検証
D この条約によって禁止されていない目的のための化学兵器生産施設の転換
転換を要請する手続
決定が行われるまでの間の措置
転換のための条件
執行理事会及び会議の決定
転換のための詳細な計画
詳細な計画の検討
第六部 第六条に規定するこの条約によって禁止されていない活動(表1の化学物質及びこれに関係する施設のための制度)
A 一般規定
B 移譲
C 生産
生産に関する一般原則
単一の小規模な施設
他の施設
D 申告
単一の小規模な施設
10及び11に規定する他の施設
E 検証
単一の小規模な施設
10及び11に規定する他の施設
第七部 第六条に規定するこの条約によって禁止されていない活動(表2の化学物質及びこれに関係する施設のための制度)
A 申告
国内の集計された資料の申告
表2の化学物質を生産し、加工し又は消費する事業所の申告
化学兵器のための過去における表2の化学物質の生産に関する申告
締約国に対する情報
B 検証
総則
査察の目的
冒頭査察
査察
査察手続
査察の通告
C この条約の締約国でない国に対する移譲
第八部 第六条に規定するこの条約によって禁止されていない活動(表3の化学物質及びこれに関係する施設のための制度)
A 申告
国内の集計された資料の申告
表3の化学物質を生産する事業所の申告
化学兵器のための過去における表3の化学物質の生産に関する申告
締約国に対する情報
B 検証
総則
査察の目的
査察手続
査察の通告
C この条約の締約国でない国に対する移譲
第九部 第六条に規定するこの条約によって禁止されていない活動(他の化学物質を生産する施設のための制度)
A 申告
他の化学物質を生産する施設の一覧表
技術事務局の援助
締約国に対する情報
B 検証
総則
査察の目的
査察手続
査察の通告
C Bの規定の実施及び検討
実施
検討
第十部 第九条の規定に基づく申立てによる査察
A 査察員及び査察補の指名及び選定
B 査察の事前の活動
通告
被査察締約国又は接受国の領域への入国
最終外縁の代替的な決定
査察施設の所在地の検証
査察施設の保全(退去の監視)
査察の事前の説明及び査察のための計画
外縁における活動
C 査察の実施
一般規則
管理されたアクセス
オブザーバー
査察期間
D 査察の事後の活動
出国
報告
第十一部 化学兵器の使用の疑いがある場合における調査
A 総則
B 査察の事前の活動
調査の要請
通告
査察団の選任
査察団の派遣
説明
C 査察の実施
アクセス
試料の採取
査察施設の拡大
査察期間の延長
面談
D 報告
手続
内容
E この条約の締約国でない国
第一部 定義
1 「承認された装置」とは、査察団の任務の遂行に必要な装置及び機器であって、第二部27の規定によって技術事務局が作成する規則に従って技術事務局が認証したものをいう。承認された装置には、査察団が使用する運営用備品又は記録用資材を含めることができる。
2 第二条の化学兵器生産施設の定義に規定する「建物」は、特別な建物及び標準的な建物から成る。
(a) 「特別な建物」とは、次のものをいう。
(i) 生産又は充填(てん)のための特別な設備が配置されている建物(地下の工作物を含む。)
(ii) この条約によって禁止されていない化学物質の生産又は充填(てん)のために通常使用される建物とは明確に異なる特徴を有する建物(地下の工作物を含む。)
(b) 「標準的な建物」とは、第二条8(a)(i)に規定する化学物質又は腐食性の化学物質を生産しない施設のための産業用の一般的な規格に従って建設される建物(地下の工作物を含む。)をいう。
3 「申立てによる査察」とは、第九条の8から25までの規定に基づく他の締約国の要請により、締約国の領域内又はその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所における施設又は区域に対して行われる査察をいう。
4 「識別可能な有機化学物質」とは、炭素化合物(炭素の酸化物及び硫化物並びに金属炭酸塩を除く。)から成るすべての化学物質であって、化学名、構造式が判明している場合には当該構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号によって識別することができるものをいう。
5 第二条の化学兵器生産施設の定義に規定する「設備」は、特別な設備及び標準的な設備から成る。
(a) 「特別な設備」とは、次のものをいう。
(i) 一連の主要な生産設備(生成物の合成、分離又は精製のための反応器又は設備、技術の最終段階(例えば、反応工程、生成物の分離工程)において熱移転のために直接使用された設備及び同条8(a)(i)に規定する化学物質と接触していたか又は化学兵器生産施設が操業する場合に当該化学物質と接触することとなる他の設備を含む。)
(ii) 化学兵器の充填(てん)のための機器類
(iii) 化学兵器生産施設としての施設(同条8(a)(i)に規定する化学物質又は腐食性の化学物質を生産しない施設のための産業用の一般的な規格に従って建設される施設とは異なるもの)の操業のために特別に設計され、建造され又は設置された他の設備(例えば、高ニッケル合金又は他の特別な耐食性材料から作られた設備、廃棄物の管理若しくは処理、空気のろ過又は溶剤の回収のための特殊な設備、特別な隔離設備及び安全用遮蔽(へい)体、化学兵器のために毒性化学物質の分析に使用される標準的でない実験設備、特別に設計された工程制御盤、特別な設備のための専用の予備品)
(b) 「標準的な設備」とは、次のものをいう。
(i) 化学産業において一般的に使用される生産設備であって、特別な設備の類型には含まれないもの
(ii) 化学産業において通常使用される他の設備(例えば、消火設備、警備及び安全監視設備、医療施設、実験施設、通信設備)
6 第六条の規定において「施設」とは、次の産業施設(「事業所」、「工場」及び「設備単位」)のいずれかをいう。
(a) 「事業所」(例えば、工業所、製作所)とは、中間的な管理組織を有する一又は二以上の工場が地域的に統合されたものであって、単一の運営管理の下にあり、かつ、共通の基盤的施設(例えば、次の(i)から(viii)までに掲げるもの)を有するものをいう。
(i) 管理事務所その他の事務所
(ii) 修理及び保守のための作業場
(iii) 医療センター
(iv) 光熱・用水設備
(v) 中央分析実験施設
(vi) 研究開発実験施設
(vii) 排水及び廃棄物中央処理場
(viii) 貯蔵倉庫
(b) 「工場」(例えば、生産施設、作業所)とは、補助的な及び付随する基盤的施設(例えば、次の(i)から(vi)までに掲げるもの)を有する一又は二以上の設備単位を含む敷地、工作物又は建物であって相対的に独立したものをいう。
(i) 小規模な管理組織
(ii) 原料及び生成物の貯蔵及び取扱いのための場所
(iii) 排水又は廃棄物の取扱い及び処理のための場所
(iv) 制御及び分析のための実験施設
(v) 救急医療及び関係する医療組織
(vi) 申告された化学物質及びその原料又は当該化学物質から生成される生成物の当該工場への、当該工場の周辺における及び当該工場からの移動に関する記録
(c) 「設備単位」(例えば、生産の設備単位、加工の設備単位)とは、化学物質の生産、加工又は消費に必要な設備の組合せ(槽及び槽に付随する設備を含む。)をいう。
7 「施設協定」とは、第四条から第六条までの規定に従って現地検証の対象となる特定の施設に関する締約国と機関との間の協定又は取決めをいう。
8 「接受国」とは、この条約に従って査察の対象となる他の締約国の施設又は区域が自国の領域内にある国をいう。
9 「国内の同行員」とは、査察団の国内滞在期間中、当該査察団に同行し及び当該査察団を援助するために、被査察締約国が希望するとき及び適当な場合において接受国が希望するときに、これらの国によって指定される個人をいう。
10 「国内滞在期間」とは、査察団が入国地点に到着してから入国地点から出国するまでの期間をいう。
11 「冒頭査察」とは、第三条から第六条までの規定及びこの附属書に従って行われる申告を検証するために施設に対して行われる最初の現地査察をいう。
12 「被査察締約国」とは、自国の領域内若しくはその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所においてこの条約に基づいて査察が行われる締約国又は接受国の領域内にある自国の施設若しくは区域が査察の対象となる締約国をいう。ただし、第二部21に規定する締約国を含まない。
13 「査察補」とは、査察又は訪問に当たって査察員を補佐するため、第二部Aの規定に従って技術事務局が指名する個人(例えば、医療、警備及び管理のための要員、通訳)をいう。
14 「査察命令」とは、個別の査察の実施のために事務局長が査察団に対して与える指示をいう。
15 「査察手引書」とは、技術事務局が作成する査察の実施のための追加的な手続を取りまとめたものをいう。
16 「査察施設」とは、査察が行われる施設又は区域であって、それぞれの施設協定、査察の要請(代替外縁又は最終外縁によって拡大されたものを含む。)又は査察命令において具体的に定められるものをいう。
17 「査察団」とは、個別の査察を行うために事務局長が選任する査察員及び査察補の集団をいう。
18 「査察員」とは、この条約に基づいて査察又は訪問を行うため、第二部Aに規定する手続に従って技術事務局が指名する個人をいう。
19 「モデル協定」とは、この附属書の検証に関する規定を実施するため、締約国と機関との間で締結する協定のための一般的な形式及び内容を定める文書をいう。
20 「オブザーバー」とは、申立てによる査察に立ち会う要請締約国又は第三の締約国の代表者をいう。
21 「外縁」とは、申立てによる査察について、地理上の座標又は地図上の記述のいずれかによって定められる査察施設の外側の境界をいう。
(a) 「要請外縁」とは、第十部8の規定に従って指定される査察施設の外縁をいう。
(b) 「代替外縁」とは、要請外縁に代えて被査察締約国が指定する査察施設の外縁をいう。代替外縁については、第十部17に定める要件を満たすものとする。
(c) 「最終外縁」とは、第十部の16から21までの規定に従って査察団と被査察締約国との間の交渉において合意される最終の査察施設の外縁をいう。
(d) 「申告外縁」とは、第三条から第六条までの規定に従って申告された施設の外側の境界をいう。
22 第九条の規定の適用上、「査察期間」とは、査察団が査察施設へのアクセスを認められてから当該査察施設を出発するまでの期間をいう。ただし、検証活動の事前又は事後に行われる説明のための時間を除く。
23 第四条から第六条までの規定の適用上、「査察期間」とは、査察団が査察施設に到着してから当該査察施設を出発するまでの期間をいう。ただし、検証活動の事前又は事後に行われる説明のための時間を除く。
24 「入国地点」又は「出国地点」とは、この条約に基づく査察のために査察団が国内に到着し又はその任務の完了の後出国するために指定された場所をいう。
25 「要請締約国」とは、第九条の規定に基づいて申立てによる査察を要請した締約国をいう。
26 「トン」とは、メートル・トン、すなわち、千キログラムをいう。
第二部 検証の一般規則
A 査察員及び査察補の指名
1 技術事務局は、この条約が効力を生じた後三十日以内に、すべての締約国に対し、指名のために提案する査察員及び査察補の氏名、国籍、地位、資格及び職業上の経験を書面によって通報する。
2 締約国は、自国に対して指名のために提案された査察員及び査察補の名簿の受領を直ちに確認するものとし、当該名簿の受領の確認の後三十日以内に、技術事務局に対し、各査察員及び査察補の受入れを書面によって通報する。締約国が当該名簿の受領の確認の後三十日以内に書面により受け入れない旨を宣言する場合を除くほか、当該名簿に含まれる査察員及び査察補は、指名されたものとみなす。締約国は、その反対する理由を当該宣言に含めることができる。
受け入れられない場合には、提案された査察員又は査察補は、受け入れない旨を宣言した締約国の領域内又はその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所において、検証活動に従事せず又は参加しない。技術事務局は、必要な場合には、当初の名簿に追加して更に提案を行う。
3 この条約に基づく検証活動は、指名された査察員及び査察補のみによって行われる。
4 締約国は、いつでも、既に指名されている査察員又は査察補の受入れに反対する権利を有する。ただし、5の規定が適用される場合は、この限りでない。当該締約国は、書面により、受入れに反対する旨を技術事務局に通報するものとし、反対する理由をその通報に含めることができる。当該締約国による反対は、技術事務局による通報の受領の後三十日で効力を生ずる。技術事務局は、査察員又は査察補の指名の撤回を当該締約国に直ちに通報する。
5 査察の通告を受けた締約国は、当該査察のための査察団の名簿に掲げられている指名された査察員又は査察補を当該査察団から除外することを求めてはならない。
6 締約国により受け入れられ、当該締約国について指名される査察員又は査察補の数は、適切な数の査察員及び査察補の利用及び交替を可能にするのに十分なものでなければならない。
7 事務局長は、提案した査察員又は査察補が受け入れられないことにより、十分な数の査察員又は査察補の指名が妨げられる等技術事務局の任務の効果的な遂行が阻害されると認める場合には、この問題を執行理事会に送付する。
8 査察員及び査察補の名簿の修正が必要であるか又は要請される場合にはいつでも、当初の名簿について定められた方法と同様の方法で代替の査察員及び査察補を指名する。
9 他の締約国の領域内に存在する締約国の施設の査察を行う査察団の構成員については、被査察締約国及び接受国である締約国(以下「接受締約国」という。)の双方にこの附属書に定める手続を適用して指名する。
B 特権及び免除
10 締約国は、査察員及び査察補の名簿又はその変更の通報の受領を確認した後三十日以内に、各査察員又は査察補が査察活動を行う目的で自国の領域内に入国し及び滞在することができるように数次の出入国査証又は通過査証その他の文書を提供する。これらの文書は、技術事務局に提供した後少なくとも二年間は有効なものとする。
11 査察員及び査察補は、その任務を効果的に遂行するため、次の(a)から(i)までに規定する特権及び免除を与えられる。特権及び免除は、この条約のために査察団の構成員に対して与えられるものであり、当該構成員の個人の一身上の便宜のために与えられるものではない。特権及び免除は、被査察締約国又は接受国の領域内に到着してから当該領域を出発するまでの全期間にわたって当該構成員に対して与えられ、その後は、当該構成員の公の任務の遂行に当たって既に行われた行為に関して与えられる。
(a) 査察団の構成員は、千九百六十一年四月十八日の外交関係に関するウィーン条約第二十九条の規定に基づいて外交官が享受する不可侵を与えられる。
(b) この条約に基づいて査察活動を行う査察団の住居内及び事務所の構内は、外交関係に関するウィーン条約第三十条1の規定に基づいて外交官の住居に与えられる不可侵及び保護を与えられる。
(c) 査察団の書類及び通信(記録を含む。)は、外交関係に関するウィーン条約第三十条2の規定に基づいて外交官のすべての書類及び通信に与えられる不可侵を享受する。査察団は、技術事務局と通信するために暗号を使用する権利を有する。
(d) 査察団の構成員が携行する試料及び承認された装置は、この条約に定めるところに従って不可侵とし、及びすべての関税を免除される。有害な試料は、関連規則に従って輸送する。
(e) 査察団の構成員は、外交関係に関するウィーン条約第三十一条の1から3までの規定に基づいて外交官に与えられる免除を与えられる。
(f) この条約に基づく活動を行う査察団の構成員は、外交関係に関するウィーン条約第三十四条の規定に基づいて外交官に与えられる賦課金及び租税の免除を与えられる。
(g) 査察団の構成員は、いかなる関税又は関係する課徴金も支払うことなく、個人的な使用のための物品を被査察締約国又は接受締約国の領域内に持ち込むことを許可される。ただし、輸出入が法律によって禁止されており又は検疫規則によって規制されている物品を除く。
(h) 査察団の構成員は、一時的な公の任務を有する外国政府の代表者に与えられる通貨及び為替に関する便益と同一の便益を与えられる。
(i) 査察団の構成員は、被査察締約国又は接受国の領域内で個人的な利得を目的とするいかなる職業活動又は商業活動にも従事してはならない。
12 査察団の構成員は、被査察締約国でない締約国の領域を通過する場合には、外交関係に関するウィーン条約第四十条1の規定に基づいて外交官が享受する特権及び免除を与えられる。当該査察団の構成員が携行する書類及び通信(記録を含む。)、試料並びに承認された装置に関しては、11の(c)及び(d)に規定する特権及び免除が与えられる。
13 査察団の構成員は、その特権及び免除を害されることなく、被査察締約国又は接受国の法令を尊重する義務を負い、及び査察命令と両立する限度においてこれらの国の国内問題に介入しない義務を負う。被査察締約国又は接受締約国がこの附属書に規定する特権及び免除の濫用があったと認める場合には、濫用があったか否かを決定するため、及び濫用があったと決定するときはこれが繰り返されることを防止するため、当該被査察締約国又は接受締約国と事務局長との間で協議を行う。
14 事務局長は、査察団の構成員に対する裁判権からの免除が正義の実現を阻害するものであり、かつ、この条約の実施を害することなくこれを放棄することができると認める場合には、当該免除を放棄することができる。放棄は、常に明示的に行わなければならない。
15 オブザーバーは、このBの規定に基づいて査察員に対して与えられる特権及び免除と同一の特権及び免除を与えられる。ただし、11(d)の規定に基づいて与えられる特権及び免除は、この限りでない。
C 共通の措置
入国地点
16 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に入国地点を指定し、及び技術事務局に対し必要な情報を提供する。当該入国地点については、査察団が少なくともいずれかの入国地点からいかなる査察施設へも十二時間以内に到着することができるようなものとする。技術事務局は、すべての締約国に対し入国地点の所在地に関する情報を提供する。
17 締約国は、技術事務局に通報することにより、入国地点を変更することができる。その変更は、すべての締約国に対し適切な通報が行われるようにするため、技術事務局が変更の通報を受領した後三十日で効力を生ずる。
18 技術事務局は、入国地点の数が査察の適時の実施のために不十分であり又は締約国が提案する入国地点の変更の結果査察の適時の実施が妨げられると認める場合には、このような問題を解決するために当該締約国と協議を行う。
19 被査察締約国の施設若しくは区域が接受締約国の領域内に存在する場合又は入国地点から査察の対象となる施設若しくは区域へのアクセスが認められるために他の締約国の領域を通過することが必要となる場合には、当該被査察締約国は、この附属書に従って、当該査察に関する権利を行使し及び義務を履行する。当該接受締約国は、これらの施設又は区域の査察を容易にし、及び査察団がその任務を適時のかつ効果的な方法で遂行することができるようにするため必要な援助を提供する。被査察締約国の施設又は区域の査察を行うためにその領域を通過することが必要とされる締約国は、その通過を容易にする。
20 被査察締約国の施設又は区域がこの条約の締約国でない国の領域内に存在する場合には、当該被査察締約国は、これらの施設又は区域の査察がこの附属書に従って行われることを確保するために必要なすべての措置をとる。締約国は、この条約の締約国でない国の領域内に一又は二以上の施設又は区域を有する場合には、自国について指名された査察員及び査察補の受入れがその接受国によって行われることを確保するために必要なすべての措置をとる。被査察締約国がアクセスを確保することができない場合には、当該被査察締約国は、アクセスを確保するために必要なすべての措置をとったことを証明する。
21 査察の対象となる施設又は区域が、締約国の領域内であり、かつ、この条約の締約国でない国の管轄又は管理の下にある場所に存在する場合には、当該締約国は、これらの施設又は区域の査察がこの附属書に従って行われることを確保するため、被査察締約国及び接受締約国に対して求められることとなる必要なすべての措置をとる。当該締約国は、これらの施設又は区域へのアクセスを確保することができない場合には、アクセスを確保するために必要なすべての措置をとったことを証明する。この21の規定は、当該査察の対象となる施設又は区域が当該締約国の施設又は区域である場合には、適用しない。
不定期飛行に使用する航空機の利用に関する措置
22 査察団は、定期の商業上の輸送を利用することによって適時に移動することができない場合には、第九条の規定に基づく査察その他の査察のため、技術事務局が所有し又は借り上げる航空機を利用することを必要とすることがある。締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、査察施設が存在する領域へ及び当該領域から査察団及び査察に必要な装置を輸送する不定期飛行に使用する航空機のために常に有効な外交上の許可番号を技術事務局に通報する。指定される入国地点への往復の航空路は、外交上の許可を与えるための基礎として締約国と技術事務局との間で合意した確立された国際航空路に沿うものとする。
23 技術事務局は、不定期飛行に使用する航空機を利用する場合には、査察施設が存在する国の空域に入る前の最終の飛行場から入国地点までの当該航空機の飛行計画を、当該飛行場からの出発予定時刻の少なくとも六時間前までに、国内当局を通じて被査察締約国に提出する。当該飛行計画は、民間航空機について適用される国際民間航空機関の手続に従って提出する。技術事務局は、その所有し又は借り上げる航空機に関し、各飛行計画の備考欄に常に有効な外交上の許可番号及びその航空機が査察のための航空機であることを示す適当な注釈を含める。
24 被査察締約国又は接受締約国は、査察団が到着予定時刻までに入国地点に到着することができるようにするため、査察が行われる国の空域に入る前の最終の飛行場からの当該査察団の出発予定時刻の少なくとも三時間前までに、23の規定に従って提出される飛行計画が承認されることを確保する。
25 被査察締約国は、技術事務局が査察団の利用する航空機を所有し又は借り上げる場合には、入国地点において、技術事務局が要請する当該航空機のための駐機場、警備上の保護、役務及び燃料を提供する。当該航空機は、着陸料、出国税及びこれらに類する課徴金を免除される。技術事務局は、このような燃料、警備上の保護及び役務の費用を負担する。
管理上の措置
26 被査察締約国は、査察団が必要とする便宜(例えば、通信手段、面談その他の任務の遂行のために必要な範囲内の通訳、輸送、作業場所、宿泊、食事、医療)を提供し又はそのための措置をとる。この点に関し、被査察締約国が査察団のために負担した費用については、機関が償還する。
承認された装置
27 29の規定が適用される場合を除くほか、被査察締約国は、28の規定に従って承認された装置であって、技術事務局が査察を行うために必要であると決定したものを査察団が査察施設に持ち込むことにつき、いかなる制限も課してはならない。技術事務局は、このような目的のために必要とされる承認された装置の一覧表及びこれらの装置を規律する規則であってこの附属書に適合するものを作成し及び、必要に応じ、改定する。技術事務局は、承認された装置の一覧表及び当該規則を作成するに当たり、承認された装置が使用される可能性のあるすべての種類の施設の安全が十分に考慮されることを確保する。承認された装置の一覧表については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
28 技術事務局は、装置を保管し、指定し、検査し及び承認する。技術事務局は、可能な範囲内で、求められる査察の特定の種類に合わせて特別に設計された装置を選定する。指定され及び承認された装置については、許可なしに変更されることのないように特別に保護する。
29 被査察締約国は、定められた時間的な枠組みを害することなく、入国地点において査察団の構成員の立会いの下に、装置を検査する権利、すなわち、自国若しくは接受国の領域内に持ち込まれ又はこれらの領域から撤去される装置を識別するために点検する権利を有する。技術事務局は、その識別を容易にするため、当該装置が指定され及び承認されたものであることを認証する書類及び標識を添付する。また、装置の検査に当たっては、被査察締約国は、当該装置が特定の種類の査察のために承認された装置に適合することを十分確認する。被査察締約国は、承認された装置に適合しない装置又は認証のための書類及び標識が添付されていない装置を排除することができる。装置の検査のための手続は、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
30 査察団が、現地において入手可能な装置であって技術事務局に属しないものを使用することが必要であると認める場合において、当該装置を使用することができるよう被査察締約国に要請するときは、当該被査察締約国は、可能な範囲内でその要請に従う。
D 査察の事前の活動
通告
31 事務局長は、査察団の入国地点への予定される到着の前に及び定められた時間的な枠組みがある場合には当該時間的な枠組みの範囲内で、査察を行う意向を締約国に通告する。
32 事務局長が行う通告には、次の事項に関する情報を含める。
(a) 査察の種類
(b) 入国地点
(c) 入国地点への到着の日及び予定時刻
(d) 入国地点への到着の手段
(e) 査察を行う施設
(f) 査察員及び査察補の氏名
(g) 適当な場合には特別な飛行のための航空機の利用の許可
33 被査察締約国は、査察を行う意向についての技術事務局の通告の受領の後一時間以内に、当該通告の受領を確認する。
34 締約国の施設であって他の締約国の領域内に存在するものの査察を行う場合には、双方の締約国は、31及び32の規定に従って同時に通告を受ける。
被査察締約国又は接受国の領域への入国及び査察施設への移動
35 査察団の到着の通告を受けた被査察締約国又は接受締約国は、その領域への査察団の即時の入国を確保するものとし、国内の同行員を通じて又は他の手段により、入国地点から査察施設を経由して出国地点に至るまでの間、査察団並びにその装置及び備品の安全な移動を確保するため権限の範囲内で可能なすべてのことを行う。
36 被査察締約国又は接受締約国は、必要に応じ、入国地点への到着の後十二時間以内に査察団が査察施設に到着するよう援助する。
査察の事前の説明
37 査察団は、査察施設への到着に際して査察の開始の前に、当該査察施設の代表者から、適宜地図その他の文書を用いて、当該査察施設、当該査察施設において行われている活動、安全上の措置並びに査察のために必要な管理上の及び受入れに関する措置に関して説明を受ける。説明に費やす時間については、必要な最小限度に制限するものとし、いかなる場合にも三時間を超えてはならない。
E 査察の実施
一般規則
38 査察団の構成員は、この条約、事務局長が定める規則及び締約国と機関との間で締結する施設協定に従ってその任務を遂行する。
39 査察団は、事務局長の査察命令を厳格に遵守するものとし、この命令を逸脱する活動を慎む。
40 査察団の活動は、その任務の適時の、かつ、効果的な遂行を確保するよう並びに被査察締約国又は接受国にとっての不便及び査察を行う施設又は区域に対する障害ができる限り少なくなることを確保するように行う。査察団は、施設の操業を不必要に妨げ又は遅滞させること及び施設の安全に影響を及ぼすことを回避する。特に、査察団は、いかなる施設も稼働してはならない。査察員は、その査察命令を遂行するため施設において具体的な稼働が行われる必要があると認める場合には、査察を行う施設の指名された代表者に対し具体的な稼働を行うよう要請する。当該代表者は、可能な範囲内でその要請に応ずる。
41 査察団の構成員は、被査察締約国又は接受国の領域内でその任務を遂行するに当たり、当該被査察締約国が要請する場合には、当該被査察締約国の代表者の同行を受け入れる。ただし、そのために査察団の任務の遂行が遅滞させられ又は妨げられてはならない。
42 査察の実施のための詳細な手続については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する指針を考慮して、技術事務局が作成し、査察手引書に記載する。
安全
43 査察員及び査察補は、その活動を行うに当たり、査察施設において定められている安全に関する規則(施設内の管理区域の保護及び人の安全のための規則を含む。)を遵守する。この義務の履行のため、会議は、第八条21(i)の規定に従って適当な詳細な手続を検討し及び承認する。
通信
44 査察員は、国内滞在期間中、技術事務局の本部と通信する権利を有する。このため、査察員は、自己の所有する承認された装置であって正当な認証を受けたものを使用することができるものとし、被査察締約国又は接受締約国に対し他の電気通信手段へのアクセスを認めるよう要請することができる。査察団は、外縁を巡視する要員と査察団の他の構成員との間で自己の所有する双方向の無線通信システムを使用する権利を有する。
査察団及び被査察締約国の権利
45 査察団は、この条約の関連する本文及び附属書、施設協定並びに査察手引書に定める手続に従い、阻害されることなく査察施設へのアクセスが認められる権利を有する。査察を行う物件は、査察員が選定する。
46 査察員は、関連する事実を確認するため被査察締約国の代表者の立会いの下に施設の要員と面談する権利を有する。査察員は、査察の実施のために必要な情報及び資料のみを要請するものとし、被査察締約国は、要請に応じて情報を提供する。施設の要員に対する質問が査察に関連のないものと認められる場合には、被査察締約国は、当該質問に対し異議を申し立てる権利を有する。査察団長が更にこれに異議を申し立て及び査察に関連のあることを表明する場合には、当該質問については、回答を得るため書面により被査察締約国に提出する。査察団は、査察の報告の被査察締約国の協力についての記述において、面談又は質問への回答が許可されなかったこと及び行われた説明について注記することができる。
47 査察員は、その任務の遂行に関連すると認める文書及び記録を検査する権利を有する。
48 査察員は、その要請により被査察締約国又は査察を行う施設の代表者に写真を撮影させる権利を有する。瞬間現像による写真の撮影が認められる。査察団は、写真が要請したものに合致するか否かを決定するものとし、合致しない場合には、再度写真を撮影させる。査察団及び被査察締約国は、すべての写真の写しを一枚ずつ保有する。
49 被査察締約国の代表者は、査察団が行うすべての検証活動に立ち会う権利を有する。
50 被査察締約国は、その要請に基づいて、技術事務局が自国の施設について収集した情報及び資料の写しを受領する。
51 査察員は、査察が行われている間に生ずるあいまいな点に関し、説明を要請する権利を有する。その要請については、被査察締約国の代表者を通じて速やかに行う。被査察締約国の代表者は、査察が行われている間に、あいまいな点を解消するために査察団に対し必要な説明を行う。査察施設内に存在する物体又は建物に関する問題が解決されない場合において、要請があるときは、当該物体又は建物の性質及び機能を明らかにするために当該物体又は建物の写真の撮影が行われる。査察が行われている間にあいまいな点を解消することができない場合には、査察員は、直ちに技術事務局に通報する。査察員は、このような解決されなかった問題、関連する説明及び撮影された写真の写しの一枚を査察報告に含める。
試料の採取、取扱い及び分析
52 被査察締約国又は査察が行われる施設の代表者は、査察団の要請により、査察員の立会いの下に、試料を採取する。被査察締約国又は査察が行われる施設の代表者との間で事前に合意がある場合には、査察団は、自ら試料を採取することができる。
53 可能な場合には、試料の分析については、現地において実施する。査察団は、自己が持ち込んだ承認された装置を使用して現地における試料の分析を実施する権利を有する。被査察締約国は、査察団の要請により、合意される手続に従って現地における試料の分析のために援助を提供する。このことに代えて、査察団は、その立会いの下に現地における適当な分析が実施されるよう要請することができる。
54 被査察締約国は、採取されたすべての試料の一部又は採取された試料と同一のものを保有する権利及び現地において試料を分析する時に立ち会う権利を有する。
55 査察団は、必要と認める場合には、現地外における分析のために、機関が指定する実験施設に試料を移送する。
56 事務局長は、試料の警備、保全及び保存について並びに現地外における分析のために移送する試料の秘密を保護することを確保することについて主要な責任を負う。事務局長は、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する手続であって査察手引書に記載されるものによってこれを行う。事務局長は、次のことを行う。
(a) 試料の採取、取扱い、移送及び分析を規律する厳重な制度を確立すること。
(b) 指定される実験施設について、種々の分析を実施するための認証を行うこと。
(c) 指定される実験施設における設備及び手続の標準化並びに移動式の分析用装置及び関連する手続の標準化を監督し、並びにこれらの実験施設、移動式装置及び手続の認証について質の管理及び総合的な水準を監視すること。
(d) 指定される実験施設の中から、特定の調査に関係して分析を行い又はその他の役割を果たすものを選定すること。
57 現地外における分析を実施する場合には、試料は、少なくとも二の指定された実験施設において分析する。技術事務局は、分析の速やかな処理を確保する。試料については、技術事務局が責任を負うものとし、使用されなかった試料又はその一部は、技術事務局に返還される。
58 技術事務局は、実験施設における試料の分析の結果であってこの条約の遵守に関連するものを取りまとめ、これを査察の最終報告に含める。技術事務局は、指定された実験施設が使用した設備及び用いた方法に関する詳細な情報を査察の最終報告に含める。
査察期間の延長
59 査察期間は、被査察締約国の代表者との合意により延長することができる。
査察の事後の説明
60 査察団は、査察が完了した後、査察団のとりあえずの調査結果を検討し及びあいまいな点を解消するため、被査察締約国の代表者及び査察施設について責任を有する者と会合する。査察団は、被査察締約国の代表者に対し、試料の一覧表、収集した書面による情報の写し及び収集した資料の写し並びに現地外に持ち出すその他の資料を付してとりあえずの調査結果を書面により標準様式に従って提供する。この文書には、査察団長が署名する。被査察締約国の代表者は、その内容について知らされたことを示すため、当該文書に連署する。この会合については、査察の完了の後二十四時間以内に完了する。
F 出国
61 査察団は、査察の事後の手続が完了した後、被査察締約国又は接受国の領域からできる限り速やかに退去する。
G 報告
62 査察員は、査察の後十日以内に、自己の行った活動及び調査結果に基づく事実関係についての最終報告を作成する。最終報告には、査察命令に定めるところにより、この条約の遵守に関連する事実のみを含める。最終報告は、また、被査察締約国の査察団に対する協力の態様に関する情報を提供する。異なる見解を有する査察員がある場合には、当該見解を最終報告に添付することができる。最終報告は、秘密のものとして取り扱う。
63 最終報告は、被査察締約国に直ちに提出する。被査察締約国がその調査結果に関して直ちに書面による意見を表明する場合には当該意見を最終報告に添付する。最終報告は、被査察締約国が表明した意見を付して、査察の後三十日以内に事務局長に提出する。
64 最終報告が不確かな点を含む場合又は国内当局と査察員との間の協力が求められる水準に達していない場合には、事務局長は、関係締約国に対し説明を求める。
65 不確かな点が解消されない場合又は確認された事実がこの条約に基づく義務が履行されなかったことを示唆する場合には、事務局長は、遅滞なく執行理事会に通報する。
H 一般規則の適用
66 この部の規定は、この条約に基づいて行われるすべての査察について適用する。ただし、この部の規定が第三部から第十一部までにおいて特定の種類の査察について定める規定と異なる場合を除く。この場合には、当該特定の種類の査察について定める規定が優先する。
第三部 第四条、第五条及び第六条3の規定に基づく検証措置に関する一般規定
A 冒頭査察及び施設協定
1 第四条、第五条及び第六条3の規定に従って現地査察の対象となる申告された施設は、当該施設の申告の後速やかに冒頭査察を受ける。当該冒頭査察は、提供された情報を検証し、当該施設における将来の検証活動(現地査察及び現地に設置する機器による継続的な監視を含む。)を計画するために必要な追加の情報を入手し及び施設協定を準備することを目的とする。
2 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後に、定められた時間的な枠組みの範囲内で、技術事務局がすべての施設において申告を検証し及び体系的な検証措置を開始することができることを確保する。
3 締約国は、第四条、第五条及び第六条3の規定に従って現地査察の対象となる申告された各施設につき、機関との間で施設協定を締結する。
4 施設協定は、この条約が締約国について効力を生じた後又は施設が最初に申告された後百八十日以内に、締結する。ただし、5から7までの規定を適用する化学兵器の廃棄施設を除く。
5 この条約が締約国について効力を生じた後一年を経過した後に操業を開始する化学兵器の廃棄施設については、施設協定は、その廃棄施設の操業の開始の少なくとも百八十日前までに締結する。
6 この条約が締約国について効力を生じた時に操業している化学兵器の廃棄施設又はその後一年以内に操業を開始する化学兵器の廃棄施設については、施設協定は、この条約が当該締約国について効力を生じた後二百十日以内に締結する。ただし、執行理事会が、第四部(A)51の規定に従って承認する検証の経過措置(経過的な施設協定、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた検証のための措置並びに経過措置の実施のための時間的な枠組みを含む。)が十分であると決定する場合を除く。
7 6に規定する施設であってこの条約が締約国について効力を生じた後二年以内に操業を停止するものについては、執行理事会は、第四部(A)51の規定に従って承認する検証の経過措置(経過的な施設協定、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた検証のための措置並びに経過措置の実施のための時間的な枠組みを含む。)が十分であると決定することができる。
8 施設協定は、モデル協定に基づくものとし、各施設における査察を規律する詳細な措置を規定する。モデル協定は、将来の技術的発展を考慮に入れた規定を含むものとし、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
9 技術事務局は、冒頭査察の後の査察において参照するための写真、図面その他の情報を入れる封印された容器を各施設において保有することができる。
B 共通の措置
10 技術事務局は、適当な場合には、この条約の関連規定及び締約国と機関との間の施設協定に基づき、継続的な監視のための機器及びシステム並びに封印を設置させ及び使用する権利を有する。
11 被査察締約国は、合意される手続に従い、査察団が使用し又は設置する機器を検査し及び自国の代表者の立会いの下で試験を行わせる権利を有する。査察団は、被査察締約国が化学兵器の廃棄の技術的工程を監視するために設置した機器を使用する権利を有する。このため、査察団は、被査察締約国が設置した機器であって化学兵器の廃棄の検証のために自己が使用することを意図する機器を検査する権利及び自己の立会いの下で当該機器の試験を行わせる権利を有する。
12 被査察締約国は、継続的な監視のための機器及びシステムを設置するために必要な準備及び援助を提供する。
13 11及び12の規定を実施するため、会議は、第八条21(i)の規定に従って適当な詳細な手続を検討し及び承認する。
14 監視のための機器が設置されている施設において監視システムに影響を及ぼすおそれのある事態が発生し又は発生するおそれがある場合には、被査察締約国は、直ちに技術事務局に通報する。被査察締約国は、必要な場合には、できる限り速やかに監視システムの機能を回復し及び暫定的な措置をとるため、技術事務局とその後の措置を調整する。
15 査察団は、それぞれの査察が行われている間に、監視システムが正確に機能していること及び施した封印に手が触れられていないことを検証する。更に、装置の必要な保守若しくは交換を実施し又は必要に応じて監視システムの監視範囲を調整するため、監視システムを維持することを目的とした訪問が必要とされることがある。
16 監視システムが異常を示す場合には、技術事務局は、これが装置の故障に起因するものであるか又は施設における活動に起因するものであるかを決定するため、直ちに措置をとる。このような検討の後問題が解決されない場合には、技術事務局は、必要に応じ施設の現地査察又は訪問を直ちに行うことにより、現状を直ちに確認する。技術事務局は、異常の発見の後直ちに問題を被査察締約国に報告するものとし、当該被査察締約国は、問題の解決について援助する。
C 査察の事前の活動
17 被査察締約国は、18に規定する場合を除くほか、査察団の入国地点への到着予定時刻の少なくとも二十四時間前までに査察の通告を受ける。
18 被査察締約国は、査察団の入国地点への到着予定時刻の少なくとも七十二時間前までに冒頭査察の通告を受ける。
第四部(A) 第四条の規定に基づく化学兵器の廃棄及びその検証
A 申告
化学兵器
1 第三条1(a)(ii)の規定に従って締約国が行う化学兵器の申告には、次の事項を含める。
(a) 申告する各化学物質の総量
(b) 次の事項によって明示する化学兵器の貯蔵施設の正確な所在地
(i) 名称
(ii) 地理上の座標
(iii) 化学兵器の貯蔵施設の詳細な図面(境界地図並びに施設内の掩(えん)蔽(ぺい)壕(ごう)及び貯蔵場所の位置を含む。)
(c) 化学兵器の各貯蔵施設についての次の事項を含む詳細な目録
(i) 第二条の規定に従って化学兵器として定義される化学物質
(ii) 化学兵器として定義される弾薬類、子爆弾弾薬類及び装置であって充填(てん)されていないもの
(iii) (ii)に規定する弾薬類、子爆弾弾薬類又は装置の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置
(iv) (ii)に規定する弾薬類、子爆弾弾薬類又は装置の使用に直接関連して使用するように特別に設計された化学物質
2 1(c)(i)の化学物質の申告については、次の規定を適用する。
(a) 化学物質については、化学物質に関する附属書の表に従って申告する。
(b) 化学物質に関する附属書の表に掲げていない化学物質については、当該化学物質を適当な表に掲げるために必要となる情報(純粋な化合物の毒性を含む。)を提供する。前駆物質については、主要な最終反応生成物の毒性及びその識別についての情報を提供する。
(c) 化学物質は、国際純正・応用化学連合(IUPAC)の最新の命名法に基づく化学名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号によって識別する。前駆物質については、主要な最終反応生成物の毒性及びその識別についての情報を提供する。
(d) 二以上の化学物質の混合物である場合には、各化学物質を識別し、各化学物質の百分率を提供し、及び当該混合物を各化学物質のうち最も毒性の強い化学物質の種類に応じて申告する。二成分型化学兵器の一の成分が二以上の化学物質の混合物から成る場合には、各化学物質を識別し、及び各化学物質の百分率を提供する。
(e) 二成分型化学兵器は、16に規定する化学兵器の種類に応じて、関連する最終生成物に基づいて申告する。二成分型弾薬類及び装置のそれぞれにつき、次の補足的な情報を提供する。
(i) 毒性最終生成物の化学名
(ii) 成分の化学的組成及び各成分の量
(iii) 各成分の実際の重量比
(iv) 必須成分と認められる成分
(v) 百パーセントの収率を仮定した場合に必須成分から化学量論的に計算される毒性最終生成物の予定量。個別の毒性最終生成物の必須成分の申告量(トン)は、百パーセントの収率を仮定した場合に化学量論的に計算される当該毒性最終生成物の量(トン)に相当するものとみなす。
(f) 多成分型化学兵器の申告は、二成分型化学兵器について定める申告と同様に行う。
(g) 化学物質の貯蔵の形態(例えば、弾薬類、子爆弾弾薬類、装置、ばらの状態で貯蔵するための容器その他の容器)を申告する。その申告には、次の事項に関する情報を含める。
(i) 種類
(ii) 大きさ又は口径
(iii) 数量
(iv) 容器ごとの充填(てん)化学物質の名目重量
(h) 貯蔵施設において現存する化学物質ごとの総重量を申告する。
(i) 更に、ばらの状態で貯蔵される化学物質については、判明している場合には、百分率による純度を申告する。
3 1(c)(ii)に規定する充填(てん)されていない弾薬類、子爆弾弾薬類又は装置のそれぞれの種類についての申告には、次の事項に関する情報を含める。
(a) 数量
(b) 個別の名目充填(てん)量
(c) 充填(てん)予定の化学物質
第三条1(a)(iii)の規定に基づく化学兵器の申告
4 第三条1(a)(iii)の規定に基づく化学兵器の申告には、1から3までに規定するすべての情報を含める。自国の領域内に当該化学兵器が存在する締約国は、申告が行われることを確保するために他の国と適当な措置をとる責任を有する。自国の領域内に当該化学兵器が存在する締約国は、この4の規定に基づく義務を履行することができない場合には、その理由を表明する。
過去における移譲及び受領の申告
5 千九百四十六年一月一日以降に化学兵器を移譲し又は受領した締約国は、移譲し又は受領した各化学物質の量がばらの状態又は弾薬の形態で一年当たり一トンを超える場合には、第三条1(a)(iv)の規定に従ってその移譲又は受領について申告する。この申告は、1及び2に規定する目録の様式に従って行う。この申告は、また、供給国及び受領国、移譲又は受領の日並びに移譲された化学兵器のできる限り正確な最新の所在地を示す。締約国は、千九百四十六年一月一日から千九百七十年一月一日までの間における化学兵器の移譲又は受領について求められる情報が必ずしもすべて入手可能でない場合には、入手可能なすべての情報を申告し、及び完全な申告を行うことができない理由についての説明を行う。
化学兵器の廃棄のための全般的な計画の提出
6 第三条1(a)(v)の規定に従って提出される化学兵器の廃棄のための全般的な計画は、化学兵器の廃棄のための締約国の計画の全体の概要及びこの条約に規定する廃棄に関する義務を履行するために締約国が払う努力に関する情報を提供する。その計画は、次の事項を明示する。
(a) 廃棄の全般的な日程(既存の及び可能な場合には計画されている化学兵器の廃棄施設について、各年の廃棄期間中に廃棄する予定の化学兵器の種類及びおよその量を含む。)
(b) 既存の又は廃棄のための期間中に操業する予定の化学兵器の廃棄施設の数
(c) 既存の又は計画されている化学兵器の廃棄施設について、
(i) 名称及び所在地
(ii) 廃棄する化学兵器の種類及びおよその量並びに廃棄する充填(てん)化学物質の種類(例えば、神経剤、びらん剤)及びおよその量
(d) 化学兵器の廃棄施設の操業のための要員を訓練するための計画
(e) 化学兵器の廃棄施設が満たさなければならない安全及び排出に関する自国の基準
(f) 化学兵器を廃棄するための新たな方法の開発及び既存の方法の改善に関する情報
(g) 化学兵器を廃棄するための費用の見積り
(h) 廃棄のための計画に悪影響を及ぼすおそれのある問題
B 貯蔵施設を保全するための措置及び貯蔵施設における準備
7 締約国は、化学兵器の申告を行う時までに、自国の貯蔵施設を保全するために適当と認める措置をとるものとし、廃棄のために移動する場合を除くほか、自国の化学兵器の当該貯蔵施設外への移動を防止する。
8 締約国は、37から49までの規定に基づく検証のために速やかなアクセスが可能となるように自国の貯蔵施設において化学兵器が配置されることを確保する。
9 化学兵器の貯蔵施設外への移動(廃棄のための移動を除く。)を防止するために当該貯蔵施設が閉鎖されている間、締約国は、当該貯蔵施設において標準的な保守活動(化学兵器の標準的な保守、安全の監視及び警備活動並びに化学兵器の廃棄のための準備を含む。)を継続することができる。
10 化学兵器の保守活動には、次の事項を含めない。
(a) 化学物質又は弾殻の取替え
(b) 弾薬類又はその部品若しくは構成物質の当初の性質の変更
11 すべての保守活動は、技術事務局による監視の対象とする。
C 廃棄
化学兵器の廃棄のための原則及び方法
12 「化学兵器の廃棄」とは、化学物質を実質的に不可逆的に化学兵器の生産に適しないものに転換する過程並びに弾薬類及び他の装置を不可逆的に使用することができないようにする過程をいう。
13 締約国は、化学兵器の廃棄の方法を決定する。ただし、水中に投棄する方法、地中に埋める方法又は野外において焼却する方法を用いてはならない。締約国は、特別に指定され、適切に設計され及び設備が適切に整えられた施設においてのみ化学兵器を廃棄する。
14 締約国は、自国の化学兵器の廃棄施設が化学兵器を確実に廃棄することができるように建設され及び操業していること並びに廃棄の過程がこの条約に基づいて検証されることを確保する。
廃棄の規律
15 化学兵器の廃棄の規律は、第一条及び他の条に定める義務(体系的な現地検証に関する義務を含む。)を基礎とするものである。廃棄の規律は、廃棄のための期間中に安全保障が損なわれないことについての締約国の利害、廃棄の初期の段階における信頼の醸成及び化学兵器を廃棄する過程において漸進的に得られる経験を考慮し、並びに貯蔵されている化学兵器の実際の構成及び化学兵器の廃棄のために選択される方法のいかんにかかわらず当該廃棄の規律を適用することを考慮したものである。廃棄の規律は、平準化の原則を基礎とするものである。
16 締約国が申告する化学兵器は、廃棄のため次の三の種類に分類する。
種類1 表1の化学物質を基礎とする化学兵器並びにその部品及び構成物質
種類2 他のすべての化学物質を基礎とする化学兵器並びにその部品及び構成物質
種類3 充填(てん)されていない弾薬類及び装置並びに化学兵器の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置
17 締約国は、
(a) この条約が自国について効力を生じた後二年以内に種類1の化学兵器の廃棄を開始し、この条約が効力を生じた後十年以内に廃棄を完了する。締約国は、次の廃棄の期限に従い化学兵器を廃棄する。
(i) 第一段階 この条約が効力を生じた後二年以内に、最初の廃棄施設の試験を完了する。この条約が効力を生じた後三年以内に、種類1の化学兵器の一パーセント以上を廃棄する。
(ii) 第二段階 この条約が効力を生じた後五年以内に、種類1の化学兵器の二十パーセント以上を廃棄する。
(iii) 第三段階 この条約が効力を生じた後七年以内に、種類1の化学兵器の四十五パーセント以上を廃棄する。
(iv) 第四段階 この条約が効力を生じた後十年以内に、種類1の化学兵器のすべてを廃棄する。
(b) この条約が自国について効力を生じた後一年以内に種類2の化学兵器の廃棄を開始し、この条約が効力を生じた後五年以内に廃棄を完了する。種類2の化学兵器は、廃棄のための期間を通じて毎年均等の割合で廃棄する。この場合において、種類2の化学兵器の比較の基礎は、当該化学兵器に含まれる化学物質の重量とする。
(c) この条約が自国について効力を生じた後一年以内に種類3の化学兵器の廃棄を開始し、この条約が効力を生じた後五年以内に廃棄を完了する。種類3の化学兵器は、廃棄のための期間を通じて毎年均等の割合で廃棄する。充填(てん)されていない弾薬類及び装置の比較の基礎は名目充填(てん)量(立方メートル)とし、設備の比較の基礎はその数とする。
18 二成分型化学兵器の廃棄については、次の規定を適用する。
(a) 廃棄の規律の適用上、個別の毒性最終生成物の必須成分の申告量(トン)は、百パーセントの収率を仮定した場合に化学量論的に計算される当該毒性最終生成物の量(トン)に相当するものとみなす。
(b) 二成分型弾薬類及び装置において必須成分の一定の量を廃棄するに当たっては、他方の成分について、当該二成分型弾薬類及び装置の種類についての成分の実際の重量比に対応する量を廃棄する義務を伴う。
(c) 成分の実際の重量比に基づいて(b)の他方の成分が必要とされる量を超えて申告される場合には、超過量は、廃棄作業の開始の後の最初の二年間に廃棄する。
(d) その後は、廃棄のための期間中の各年の終了の時に、締約国は、申告した他方の成分につき、二成分型弾薬類及び装置の種類についての成分の実際の重量比に基づいて決定される量を保有することができる。
19 多成分型化学兵器の廃棄の規律は、二成分型化学兵器について定める廃棄の規律と同様のものとする。
廃棄の中間の期限の変更
20 執行理事会は、特に15から19までに定める廃棄の規律との適合性を評価するため、第三条1(a)(v)の規定及び6の規定に従って提出される化学兵器の廃棄のための全般的な計画を検討する。執行理事会は、自国の計画が廃棄の規律に適合しない締約国と、当該計画を廃棄の規律に適合したものとすることを目的として協議する。
21 締約国は、やむを得ない例外的な事情により、種類1の化学兵器の廃棄の規律の第一段階、第二段階又は第三段階に定める廃棄の水準を達成することができないと認める場合には、当該水準の変更を提案することができる。その提案については、この条約が効力を生じた後百二十日以内に行わなければならず、かつ提案理由についての詳細な説明を含める。
22 締約国は、21の規定に基づいて変更された17(a)に定める廃棄の期限による種類1の化学兵器の廃棄を確保するため、すべての必要な措置をとる。ただし、当該締約国は、廃棄の中間の期限までに廃棄することが求められている割合の種類1の化学兵器の廃棄を確保することができないと認める場合には、その期限を遵守する義務の猶予を与えることを会議に対して勧告するよう執行理事会に要請することができる。その要請については、廃棄の中間の期限の少なくとも百八十日前までに行わなければならず、かつ、当該要請の理由についての詳細な説明及び次の廃棄の中間の期限を遵守する義務の履行を確保するための計画を含める。
23 期限の延期が認められる場合においても、締約国は、次の廃棄の期限までに累積される廃棄の義務を履行する。20からこの23までの規定に基づいて認められる期限の延期は、この条約が効力を生じた後十年以内に種類1の化学兵器のすべてを廃棄する締約国の義務を何ら変更するものではない。
廃棄の完了の期限の延期
24 締約国は、この条約が効力を生じた後十年以内に種類1の化学兵器のすべての廃棄を確保することができないと認める場合には、当該化学兵器の廃棄の完了の期限の延期について執行理事会に対し要請を行うことができる。当該要請については、この条約が効力を生じた後九年以内に行わなければならない。
25 24の要請には、次の事項を含める。
(a) 延長しようとする期間
(b) 延期の理由についての詳細な説明
(c) 延長期間及び当初の十年の廃棄のための期間の残余の期間における廃棄のための詳細な計画
26 会議は、次の会期において、執行理事会の勧告に基づいて24の要請に関する決定を行う。期限の延期は、必要な最小限度とし、締約国がすべての化学兵器の廃棄を完了する期限については、いかなる場合にも、この条約が効力を生じた後十五年を超えて延期してはならない。執行理事会は、期限の延期を認めるための条件(必要と認められる具体的な検証措置及び自国の廃棄のための計画における問題を克服するために締約国がとるべき具体的な措置を含む。)を定める。延長期間中の検証の費用については、第四条16の規定に従って割り当てる。
27 期限の延期が認められた場合には、締約国は、その後のすべての期限を遵守するために適当な措置をとる。
28 締約国は、種類1の化学兵器のすべてを廃棄するまでの間、29の規定に従って廃棄のための詳細な年次計画及び36の規定に従って種類1の化学兵器の廃棄に関する年次報告を引き続き提出する。更に、締約国は、延長期間中の各九十日における自国の廃棄活動についての報告を当該九十日が経過する日までに執行理事会に提出する。執行理事会は、廃棄の完了に向けての進捗(ちよく)状況を検討し、この進捗(ちよく)状況を文書により記録するために必要な措置をとる。延長期間中の廃棄活動に関するすべての情報については、要請に応じ、執行理事会が締約国に提供する。
廃棄のための詳細な年次計画
29 廃棄のための詳細な年次計画は、第四条7(a)の規定に従って各年の廃棄期間の開始の少なくとも六十日前までに技術事務局に提出するものとし、次の事項を明示する。
(a) 各廃棄施設において廃棄される化学兵器の具体的な種類ごとの量及び化学兵器の具体的な種類ごとの廃棄の完了に係る日程
(b) 化学兵器の各廃棄施設の詳細な図面及び以前に提出した図面に変更がある場合には当該変更
(c) 当該各年における化学兵器の各廃棄施設の活動の詳細な日程(当該廃棄施設の設計、建設又は変更、設備の設置及び点検、要員の訓練並びに化学兵器の具体的な種類ごとの廃棄作業に必要な時間並びに活動を休止する予定の期間を明らかにするもの)
30 締約国は、自国のそれぞれの化学兵器の廃棄施設につき、技術事務局が当該廃棄施設における使用のためにとりあえずの査察手続を作成することを援助するため、施設の詳細な情報を提供する。
31 化学兵器の各廃棄施設の詳細な情報には、次の事項に関する情報を含める。
(a) 名称、住所及び位置
(b) 施設の詳細な図面(注釈が付されたもの)
(c) 施設の設計図、工程図並びに配管及び計器の配置の図面
(d) 弾薬類、装置及び容器からの充填(てん)化学物質の除去、取り出された充填(てん)化学物質の一時的な貯蔵、化学物質の廃棄並びに弾薬類、装置及び容器の廃棄に必要な設備についての詳細な技術的な説明(設計図及び機器の仕様を含む。)
(e) 廃棄の工程についての詳細な技術的な説明(物質の流量、温度及び圧力並びに設計上の廃棄の効率を含む。)
(f) 化学兵器の具体的な種類ごとの廃棄施設の設計上の能力
(g) 廃棄による生成物及びその最終的な処理方法についての詳細な説明
(h) この条約に基づく査察を容易にするための措置についての詳細な技術的な説明
(i) 廃棄施設における一時的な保管場所であって当該廃棄施設に化学兵器を直接供給するために使用されるものについての詳細な説明(当該保管場所の図面及び当該廃棄施設において廃棄される化学兵器の具体的な種類ごとの貯蔵能力に関する情報を含む。)
(j) 廃棄施設において実施されている安全及び医療のための措置についての詳細な説明
(k) 査察員の住居及び作業場所についての詳細な説明
(l) 国際的な検証のために提案する措置
32 締約国は、自国のそれぞれの化学兵器の廃棄施設につき、工場の操業のための手引書、安全及び医療のための計画、実験施設の活動及び質の管理のための手引書並びに取得された環境基準に係る許可を提出する。ただし、既に提出した場合は、この限りでない。
33 締約国は、自国の化学兵器の廃棄施設における査察活動に影響を及ぼすおそれのある事態について、速やかに技術事務局に通報する。
34 30から32までに規定する情報の提出の期限は、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
35 技術事務局は、化学兵器の廃棄施設の詳細な情報を検討した後、必要が生ずる場合には、締約国の化学兵器の廃棄施設が化学兵器を確実に廃棄するように設計されることを確保し、検証措置の実施について事前に計画することを可能にし、及び検証措置の実施が施設の正常な操業に適合しかつ施設の操業が適切な検証を可能にすることを確保するため、関係締約国と協議を行う。
廃棄に関する年次報告
36 化学兵器の廃棄のための計画の実施状況に関する情報は、第四条7(b)の規定に従って各年の廃棄期間の満了の後六十日以内に技術事務局に提出されるものとし、化学兵器の各廃棄施設において当該各年において廃棄された化学兵器の実際の量を明示する。廃棄の目標が達成されなかった場合には、その理由を表明すべきである。
D 検証
化学兵器の申告の現地査察による検証
37 化学兵器の申告の検証は、第三条の規定に従って行われる申告が正確であることを現地査察によって確認することを目的とする。
38 査察員は、申告が行われた後速やかにこの検証を行う。査察員は、特に、化学物質の量及び識別並びに弾薬類及び装置の種類及び数を検証する。
39 査察員は、適当な場合には、各貯蔵施設における化学兵器の在庫を正確に確認することを容易にするため、定められた封印、標識その他の在庫の管理手続を使用する。
40 査察員は、在庫の確認を行うに当たり、貯蔵されていた化学兵器が移動されているか否かを明確に示し及び在庫の確認を行う間貯蔵施設の保全を確保するため、定められた封印を必要に応じて施す。当該封印については、別段の合意がある場合を除くほか、在庫の確認の完了の後撤去する。
貯蔵施設の体系的な検証
41 貯蔵施設の体系的な検証は、当該貯蔵施設からの化学兵器の移動が常に明らかにされていることを確保することを目的とする。
42 体系的な検証は、化学兵器の申告が行われた後できる限り速やかに開始し、すべての化学兵器が貯蔵施設から移動されるまで継続する。体系的な検証は、施設協定に従い、現地査察及び現地に設置する機器による監視を組み合わせたものとする。
43 すべての化学兵器が貯蔵施設から移動された時に、技術事務局は、その旨の締約国の申告を確認する。技術事務局は、その確認の後、貯蔵施設の体系的な検証を終了するものとし、査察員が設置した監視のための機器を速やかに撤去する。
査察及び訪問
44 査察が行われる具体的な貯蔵施設については、査察が行われる正確な時期が予知されることのないように技術事務局が選定する。体系的な現地査察の頻度を決定するための指針については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する勧告を考慮して、技術事務局が作成する。
45 技術事務局は、体系的な査察又は訪問のための査察団の貯蔵施設への到着予定時刻の四十八時間前に、当該貯蔵施設の査察又は訪問を行う旨の決定を被査察締約国に通告する。緊急の問題を解決するために査察又は訪問が行われる場合には、この期間を短縮することができる。技術事務局は、査察又は訪問の目的を明示する。
46 被査察締約国は、査察員の到着のために必要な準備を行うものとし、査察員の入国地点から貯蔵施設までの速やかな輸送を確保する。施設協定は、査察員のための管理上の措置を明示する。
47 被査察締約国は、査察団が査察を行うために貯蔵施設に到着する時に、当該貯蔵施設に関する次の資料を提供する。
(a) 貯蔵用の建物及び場所の数
(b) 貯蔵用の各建物及び各場所につき種類及び識別番号又は名称を示した貯蔵施設の図面
(c) 貯蔵施設における貯蔵用の各建物及び各場所につき、化学兵器の具体的な種類ごとの数及び二成分型弾薬類の一部を構成しない容器については各容器の充填(てん)化学物質の実際の量
48 査察員は、利用可能な時間内に在庫を確認するに当たり、次のことを行う権利を有する。
(a) 次のいずれかの査察の方法を用いること。
(i) 貯蔵施設において貯蔵されているすべての化学兵器の在庫の確認
(ii) 査察員が選定する貯蔵施設の具体的な建物又は場所において貯蔵されているすべての化学兵器の在庫の確認
(iii) 貯蔵施設において貯蔵されている化学兵器であって査察員が選定する一又は二以上の具体的な種類のもののすべての在庫の確認
(b) 確認した在庫と合意された記録とを照合すること。
49 査察員は、施設協定に基づき、次の権利を有する。
(a) 阻害されることなく貯蔵施設のすべての部分(当該貯蔵施設におけるすべての弾薬類、装置、ばらの状態で貯蔵するための容器その他の容器を含む。)へのアクセスが認められること。査察員は、その活動を行うに当たり、当該貯蔵施設における安全規則を遵守する。査察を行う物件は、査察員が選定する。
(b) 貯蔵施設の冒頭査察及びその後の査察に際して、試料を採取する弾薬類、装置及び容器を指定し並びに独特の目印(除去され又は変更されようとした場合にそれが明らかになるようなもの)を当該弾薬類、装置及び容器に付すること。試料は、廃棄のための計画に従って実行可能な限り速やかに、いかなる場合にも廃棄作業が終了するまでに、化学兵器の貯蔵施設又は廃棄施設において当該目印が付された物件から採取する。
化学兵器の廃棄の体系的な検証
50 化学兵器の廃棄の検証は、次のことを目的とする。
(a) 廃棄されることとなる貯蔵されている化学兵器の識別及び量を確認すること。
(b) (a)の化学兵器が廃棄されたことを確認すること。
51 この条約が効力を生じた後の三百九十日の間の化学兵器の廃棄作業については、検証の経過措置によって規律する。この経過措置(経過的な施設協定、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた検証のための措置並びに経過措置の実施のための時間的な枠組みを含む。)は、機関と被査察締約国との間で合意する。この経過措置については、31の規定に従って提供される廃棄施設の詳細な情報の評価及び当該廃棄施設への訪問に基づいて技術事務局が行う勧告を考慮して、この条約が当該被査察締約国について効力を生じた後六十日以内に執行理事会が承認する。執行理事会は、その第一回会期において、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する勧告に基づき、この経過措置のための指針を定める。検証の経過措置は、全経過期間を通じて、50に規定する目的に従って化学兵器の廃棄の検証が行われるように、かつ、実施中の廃棄作業が阻害されないように作成する。
52 53から61までの規定は、この条約が効力を生じた後三百九十日を経過した後に開始する化学兵器の廃棄作業について適用する。
53 技術事務局は、この条約、廃棄施設の詳細な情報及び場合に応じ従前の査察の経験に基づき、各廃棄施設における化学兵器の廃棄の査察のための計画案を作成する。当該計画案については、この条約に従って廃棄施設が廃棄作業を開始する少なくとも二百七十日前までにその作成を完了するものとし、意見を求めるために被査察締約国に提出する。技術事務局と被査察締約国との間の意見の相違は、協議によって解決されるべきである。解決されない問題は、この条約の完全な実施を促進することを目的として、適切な措置のために執行理事会に送付される。
54 技術事務局は、化学兵器の廃棄施設に精通し及び査察のための計画の妥当性を評価するため、被査察締約国の各廃棄施設がこの条約に従って廃棄作業を開始する少なくとも二百四十日前までに当該各廃棄施設に対して冒頭訪問を行う。
55 化学兵器の廃棄作業が既に開始されている既存の施設については、被査察締約国は、技術事務局が冒頭訪問を行う前に当該施設の除染を行うことを必要としない。冒頭訪問の期間は、五日を超えてはならず、また、訪問の要員数は、十五人を超えてはならない。
56 合意された検証のための詳細な計画は、技術事務局による適当な勧告を付して、執行理事会に対し検討のために送付される。執行理事会は、この条約に基づく検証の目的及び義務に従って承認することを目的として、当該計画を検討する。執行理事会は、また、廃棄の検証のための計画が検証の目的に合致すること及び効果的かつ実際的であることを確認すべきである。この検討は、廃棄期間の開始の少なくとも百八十日前までに完了すべきである。
57 執行理事会の理事国は、検証のための計画の妥当性に関する問題について技術事務局と協議することができる。執行理事会のいずれの理事国も異議を申し立てない場合には、当該計画は、実施に移される。
58 問題がある場合には、執行理事会は、当該問題について調整するために締約国と協議を開始する。問題が解決されない場合には、当該問題は、会議に提起される。
59 化学兵器の廃棄施設に関する詳細な施設協定は、その廃棄施設の具体的な特性及びその操業の方式を考慮して、次の事項を明示する。
(a) 現地査察の詳細な手続
(b) 現地に設置する機器による継続的な監視を通じた検証及び査察員自身による検証のための措置
60 査察員は、この条約に基づく化学兵器の廃棄施設における廃棄の開始の少なくとも六十日前までに各廃棄施設へのアクセスを認められる。当該アクセスは、査察のための装置の設置を監督し、その装置を検査し及びその装置の稼働の試験を行うこと並びに当該廃棄施設についての最終的な工学上の検討を行うことを目的とする。化学兵器の廃棄作業が既に開始されている既存の廃棄施設については、廃棄作業は、査察のための装置の設置及び試験のため、六十日を超えない範囲で必要な最小限度の期間停止する。締約国及び技術事務局は、試験及び検討の結果に基づき、廃棄施設に関する詳細な施設協定への追加又は変更について合意することができる。
61 被査察締約国は、化学兵器の貯蔵施設から廃棄施設への化学兵器の輸送につき、その出発の少なくとも四時間前までに、化学兵器の廃棄施設に所在する査察団長に対し書面により通報する。その通報は、貯蔵施設の名称、出発及び到着の予定時刻、輸送される化学兵器の具体的な種類及び量、目印が付された物件が搬出されているか否か並びに輸送の方法を明示する。その通報には、二以上の輸送の通報を含めることができる。この情報について変更がある場合には、査察団長は、当該変更について書面により速やかに通報を受ける。
化学兵器の廃棄施設内の化学兵器の貯蔵施設
62 査察員は、廃棄施設に化学兵器が到着したこと及び当該化学兵器が貯蔵されることを検証する。査察員は、化学兵器の廃棄に先立ち、施設の安全規則に適合する合意された手続を使用して、各輸送についての目録を検証する。査察員は、廃棄に先立ち化学兵器の目録を正確に確認することを容易にするため、適当な場合には、定められた封印、標識その他の目録の管理手続を使用する。
63 化学兵器の廃棄施設内の化学兵器の貯蔵施設は、化学兵器が当該貯蔵施設に搬入された後直ちに及び当該貯蔵施設において貯蔵されている間、施設協定に従って体系的な検証の対象とする。
64 査察員は、実際の廃棄作業の終了のたびごとに、廃棄のために貯蔵施設から搬出された化学兵器の目録を作成する。査察員は、62に規定する目録の管理手続を使用して、残存する化学兵器の目録が正確であることを検証する。
化学兵器の廃棄施設における体系的な現地検証のための措置
65 査察員は、実際の廃棄作業が行われている間を通じて、化学兵器の廃棄施設及び当該廃棄施設内の化学兵器の貯蔵施設において活動を行うためのアクセスを認められる。
66 査察員は、化学兵器の各廃棄施設において、いかなる化学兵器も転用されていないこと及び廃棄の過程が完了したことを確認するため、当該査察員自身により及び現地に設置する機器による監視を通じ、次の事項について検証する権利を有する。
(a) 当該廃棄施設における化学兵器の受領
(b) 化学兵器の一時的な保管場所並びにその保管場所に貯蔵される化学兵器の具体的な種類及び量
(c) 廃棄される化学兵器の具体的な種類及び量
(d) 廃棄の工程
(e) 廃棄の最終生成物
(f) 金属の部分の切断
(g) 廃棄の過程及び当該廃棄施設全体の保全
67 査察員は、試料の採取のため、化学兵器の廃棄施設内の一時的な保管場所に存在する弾薬類、装置又は容器に目印を付する権利を有する。
68 廃棄施設の日常的な操業に際して得られる情報については、適当な資料の裏付けがある場合には、査察の要請を満たす範囲内で査察の目的のために使用する。
69 技術事務局は、各廃棄期間の満了の後、定められた量の化学兵器の廃棄が完了したことを報告する締約国の申告を確認する。
70 査察員は、施設協定に基づき、
(a) 阻害されることなく化学兵器の廃棄施設及び廃棄施設内の化学兵器の貯蔵施設のすべての部分(これらの施設におけるすべての弾薬類、装置、ばらの状態で貯蔵するための容器その他の容器を含む。)へのアクセスが認められる権利を有する。査察を行う物件は、被査察締約国が合意し、かつ、執行理事会が承認した検証のための計画に従って査察員が選定する。
(b) 廃棄の過程において、現地における試料の体系的な分析を監視する。
(c) 必要な場合には、化学兵器の廃棄施設又は廃棄施設内の化学兵器の貯蔵施設に存在する装置、ばらの状態で貯蔵するための容器その他の容器から当該査察員の要請によって採取された試料を受領する。
第四部(B) 老朽化した化学兵器及び遺棄化学兵器
A 総則
1 老朽化した化学兵器については、Bの規定に従って廃棄する。
2 遺棄化学兵器(第二条5(b)の定義に該当するものを含む。)については、Cの規定に従って廃棄する。
B 老朽化した化学兵器のための制度
3 締約国は、自国の領域内に第二条5(a)に定義する老朽化した化学兵器を有する場合には、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、すべての入手可能な関連する情報(可能な範囲内で、老朽化した化学兵器の所在地、種類、量及び現状に関する情報を含む。)を技術事務局に提出する。
同条5(b)に定義する老朽化した化学兵器については、締約国は、第三条1(b)(i)の規定に基づく申告(可能な範囲内で、第四部(A)の1から3までに規定する情報を含む。)を技術事務局に対して行う。
4 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後に老朽化した化学兵器の存在を知った場合には、その後百八十日以内に、3に規定する情報を技術事務局に提出する。
5 技術事務局は、3及び4の規定に従って提出される情報を検証し並びに特に化学兵器が第二条5の老朽化した化学兵器の定義に該当するか否かを決定するため、冒頭査察及び必要に応じてその後の査察を行う。千九百二十五年から千九百四十六年までの間に生産された化学兵器について化学兵器として使用することができるか否かを決定するための指針は、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
6 締約国は、技術事務局が第二条5(a)の定義に該当すると確認した老朽化した化学兵器については毒性廃棄物として取り扱う。当該締約国は、自国の法令に従って、当該老朽化した化学兵器を毒性廃棄物として廃棄し又はその他の方法によって処分するためにとる措置を技術事務局に通報する。
7 3から5までの規定に従うことを条件として、締約国は、技術事務局が第二条5(b)の定義に該当すると確認した老朽化した化学兵器を第四条及び第四部(A)の規定に従って廃棄する。ただし、執行理事会は、締約国の要請に基づき、この条約の趣旨及び目的に危険をもたらさないと認める場合には、当該老朽化した化学兵器の廃棄の期限及び廃棄の規律に関する規定の適用を変更することができる。当該要請には、規定の適用の変更に関する具体的な提案及び変更を提案する理由についての詳細な説明を含める。
C 遺棄化学兵器のための制度
8 自国の領域内に遺棄化学兵器が存在する締約国(以下「領域締約国」という。)は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、遺棄化学兵器に関するすべての入手可能な情報を技術事務局に提出する。この情報には、可能な範囲内で、遺棄化学兵器の所在地、種類、量及び現状並びに遺棄に関する情報を含める。
9 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後に遺棄化学兵器の存在を知った場合には、その後百八十日以内に、当該遺棄化学兵器に関するすべての入手可能な情報を技術事務局に提出する。この情報には、可能な範囲内で、遺棄化学兵器の所在地、種類、量及び現状並びに遺棄に関する情報を含める。
10 他の締約国の領域内に化学兵器を遺棄した締約国(以下「遺棄締約国」という。)は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、遺棄化学兵器に関するすべての入手可能な情報を技術事務局に提出する。この情報には、可能な範囲内で、所在地、種類、量、遺棄に関する情報及び遺棄化学兵器の状態を含める。
11 技術事務局は、8から10までの規定に従って提出されるすべての利用可能な情報を検証し及び第四部(A)の41から43までの規定に基づく体系的な検証が必要であるか否かを決定するため、冒頭査察及び必要に応じてその後の査察を行う。技術事務局は、必要な場合には、遺棄化学兵器の出所を検証し、並びに遺棄に関する証拠及び遺棄国を特定する証拠を示す。
12 技術事務局の報告は、執行理事会、領域締約国及び遺棄締約国又は化学兵器を遺棄したことを領域締約国によって申告され若しくは技術事務局によって特定された締約国に提出される。直接関係する締約国のいずれかが当該報告に満足しない場合には、当該締約国は、この条約に従ってこの問題を解決する権利又は速やかに解決するためにこの問題を執行理事会に提起する権利を有する。
13 領域締約国は、第一条3の規定に基づき、8から12までの規定に従って遺棄締約国として特定された締約国に対し、当該領域締約国と協力して遺棄化学兵器を廃棄するために協議を行うよう要請する権利を有する。当該領域締約国は、その要請を直ちに技術事務局に通報する。
14 相互に合意する廃棄のための計画の作成を目的とする領域締約国と遺棄締約国との間の協議については、技術事務局が13に規定する要請について通報を受けた後三十日以内に開始する。相互に合意した廃棄のための計画については、技術事務局が13に規定する要請について通報を受けた後百八十日以内に、技術事務局に送付する。執行理事会は、遺棄締約国及び領域締約国の要請に基づき、相互に合意する廃棄のための計画の送付の期限を延期することができる。
15 遺棄締約国は、遺棄化学兵器の廃棄のため、すべての必要な資金、技術、専門家、施設その他の資源を提供する。領域締約国は、適切な協力を行う。
16 遺棄国を特定することができない場合又は遺棄国が締約国でない場合には、領域締約国は、遺棄化学兵器の廃棄を確保するため、当該遺棄化学兵器の廃棄について援助を提供するよう機関及び他の締約国に要請することができる。
17 8から16までの規定に従うことを条件として、第四条及び第四部(A)の規定は、遺棄化学兵器の廃棄についても適用する。遺棄化学兵器が第二条5(b)の老朽化した化学兵器の定義に該当する場合において、執行理事会がこの条約の趣旨及び目的に危険をもたらさないと認めるときは、執行理事会は、領域締約国の単独の要請又は遺棄締約国との共同の要請に基づき、廃棄に関する規定の適用を変更し又は例外的な状況において停止することができる。遺棄化学兵器が同条5(b)の老朽化した化学兵器の定義に該当しない場合において、執行理事会がこの条約の趣旨及び目的に危険をもたらさないと認めるときは、執行理事会は、領域締約国の単独の要請又は遺棄締約国との共同の要請に基づき、例外的な状況において廃棄の期限及び廃棄の規律に関する規定の適用を変更することができる。この17に規定する要請には、規定の適用の変更に関する具体的な提案及び変更を提案する理由についての詳細な説明を含める。
18 締約国は、締約国間で遺棄化学兵器の廃棄に関する協定又は取決めを締結することができる。執行理事会は、当該協定又は取決めが17に規定する遺棄化学兵器の廃棄を確保するものであると認める場合には、領域締約国の単独の要請又は遺棄締約国との共同の要請に基づき、当該協定又は取決めの特定の規定がこのCの規定に優先することを決定することができる。
第五部 第五条の規定に基づく化学兵器生産施設の廃棄及びその検証
A 申告
化学兵器生産施設の申告
1 第三条1(c)(ii)の規定に従って締約国が行う化学兵器生産施設の申告には、各化学兵器生産施設についての次の事項を含める。
(a) 当該施設の名称、その所有者の名称及び千九百四十六年一月一日以降当該施設を運営した又は運営している会社又は企業の名称
(b) 当該施設の正確な所在地(住所、複合体の所在地及び複合体内の当該施設の位置(建物及び工作物の特定の番号がある場合には、これを含む。)を含む。)
(c) 化学兵器として定義される化学物質の製造のための施設であるか否か若しくは化学兵器の充填(てん)のための施設であるか否か又はその双方であるか否かについての説明
(d) 当該施設の建設が完了した日及び当該施設の生産過程の性質を著しく変更するような変更(新たな設備又は改善された設備の設置を含む。)が行われた時期
(e) 当該施設において製造した化学物質であって化学兵器として定義されるものに関する情報、当該施設において充填(てん)した弾薬類、装置及び容器に関する情報並びにこのような製造又は充填(てん)の開始及び終了の日に関する情報
(i) 当該施設において製造した化学物質であって化学兵器として定義されるものについては、これらの情報は、製造された化学物質の具体的な種類(国際純正・応用化学連合の最新の命名法に基づく化学名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号を表示する。)及び各化学物質の量(トンの単位によって表示する重量)によって明示する。
(ii) 当該施設において充填(てん)した弾薬類、装置及び容器については、これらの情報は、充填(てん)した化学兵器の具体的な種類及び一つ当たりの充填(てん)化学物質の重量によって明示する。
(f) 当該施設の生産能力
(i) 化学兵器を製造した施設については、生産能力は、当該施設において実際に使用された技術的工程又は技術的工程が実際に使用されていない場合には使用が予定されていた技術的工程に基づいて特定の化学物質を一年間に製造し得る量によって明示する。
(ii) 化学兵器を充填(てん)した施設については、生産能力は、当該施設が化学兵器の具体的な種類ごとに一年間に充填(てん)し得る化学物質の量によって明示する。
(g) 廃棄されていない化学兵器生産施設については、次の事項を含む当該施設の説明
(i) 当該施設の図面
(ii) 当該施設の工程の流れの図面
(iii) 当該施設における建物、当該施設における特別な設備及びその予備の部品についての目録
(h) 次の事項を含む当該施設の現状
(i) 化学兵器が当該施設において最後に生産された日
(ii) 当該施設が廃棄されたか否か(廃棄の日及び廃棄の方法を含む。)。
(iii) この条約が効力を生ずる前に、当該施設が化学兵器の生産に関係しない活動のために使用されたか否か又は当該施設に当該活動のための変更が行われたか否か。使用され又は変更が行われた場合には、当該変更の内容、化学兵器の生産に関係しない活動が開始された日及び当該活動の性質に関する情報(可能な場合には、生成物の種類を示す。)
(i) 当該施設の閉鎖のために締約国がとった措置の詳細及び当該施設の活動を終了させるために締約国がとった又はとる措置の説明
(j) 活動を終了した当該施設における安全及び警備のための通常の活動の説明
(k) 化学兵器の廃棄のために当該施設が転換されるか否かについての説明及び転換される場合にはその転換の日
第三条1(c)(iii)の規定に基づく化学兵器生産施設の申告
2 第三条1(c)(iii)の規定に基づく化学兵器生産施設の申告には、1に規定するすべての情報を含める。自国の領域内に当該施設が存在し又は存在していた締約国は、申告が行われることを確保するために他の国と適当な措置をとる責任を有する。自国の領域内に当該施設が存在し又は存在していた締約国は、この2の規定に基づく義務を履行することができない場合には、その理由を表明する。
過去における移譲及び受領の申告
3 千九百四十六年一月一日以降に化学兵器の生産のための設備を移譲し又は受領した締約国は、第三条1(c)(iv)及び5の規定に従ってその移譲及び受領について申告する。締約国は、同日から千九百七十年一月一日までの間における当該設備の移譲及び受領について求められる情報が必ずしもすべて入手可能でない場合には、入手可能なすべての情報を申告し、及び完全な申告を行うことができない理由についての説明を行う。
4 3に規定する化学兵器の生産のための設備とは、次のものをいう。
(a) 特別な設備
(b) 化学兵器の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置の生産のための設備
(c) 化学兵器である弾薬類の化学物質以外の部分を生産するためにのみ設計され又は使用された設備
5 化学兵器の生産のための設備の移譲及び受領に関する申告は、次の事項を明示する。
(a) 当該設備を受領し又は移譲した者
(b) 当該設備の特定
(c) 移譲又は受領の日
(d) 判明している場合には当該設備が廃棄されたか否か。
(e) 判明している場合には現在の所在地
廃棄のための全般的な計画の提出
6 締約国は、各化学兵器生産施設について次の事項に関する情報を提供する。
(a) とられる措置に関する予定される時間的な枠組み
(b) 廃棄の方法
7 締約国は、自国が一時的に化学兵器の廃棄施設に転換することを意図する各化学兵器生産施設について次の事項に関する情報を提供する。
(a) 廃棄施設への転換に関する予定される時間的な枠組み
(b) 化学兵器生産施設を化学兵器の廃棄施設として使用することに関する予定される時間的な枠組み
(c) 新たな施設の説明
(d) 特別な設備の廃棄の方法
(e) 転換された化学兵器生産施設を化学兵器の廃棄のために使用した後に廃棄するための時間的な枠組み
(f) 転換された化学兵器生産施設の廃棄の方法
廃棄のための年次計画及び廃棄に関する年次報告の提出
8 締約国は、各廃棄年の開始の少なくとも九十日前までに廃棄のための年次計画を提出する。当該年次計画は、次の事項を明示する。
(a) 廃棄される生産能力
(b) 廃棄が行われる施設の名称及び所在地
(c) 各施設において廃棄される建物及び設備の一覧表
(d) 計画されている廃棄の方法
9 締約国は、各廃棄年の終了の後九十日以内に廃棄に関する年次報告を提出する。当該年次報告は、次の事項を明示する。
(a) 廃棄された生産能力
(b) 廃棄が行われた施設の名称及び所在地
(c) 各施設において廃棄された建物及び設備の一覧表
(d) 廃棄の方法
10 第三条1(c)(iii)の規定に従って申告される化学兵器生産施設が自国の領域内に存在し又は存在していた締約国は、当該施設について6から9までに規定する申告が行われることを確保するために適当な措置をとる責任を有する。自国の領域内に当該施設が存在し又は存在していた締約国は、この10の規定に基づく義務を履行することができない場合には、その理由を表明する。
B 廃棄
化学兵器生産施設の廃棄に関する一般原則
11 締約国は、第五条及びこの部に規定する原則に従い、化学兵器生産施設の廃棄について適用する方法を決定する。
化学兵器生産施設の閉鎖に関する原則及び方法
12 化学兵器生産施設の閉鎖は、当該施設の活動を終了させることを目的とする。
13 締約国は、化学兵器生産施設の具体的な性質に十分な考慮を払い、閉鎖のための合意される措置をとる。当該措置には、特に次の事項を含める。
(a) 合意される活動を除くほか、当該施設の特別な建物及び標準的な建物の使用の禁止
(b) 化学兵器の生産に直接関係する設備(特に、工程制御設備及び光熱・用水設備を含む。)の分離
(c) 当該施設の操業上の安全のためにのみ使用する防護機器及び設備の使用の停止
(d) 化学兵器として定義される化学物質の合成、分離若しくは精製のための工程用の特別な設備、貯蔵槽若しくは化学兵器の充填(てん)のための機器への化学物質の注入又はこれらの設備、貯蔵槽若しくは機器からの化学物質の除去を防止し及びこれらの設備、貯蔵槽又は機器に対する加熱、冷却又は電気その他のエネルギーの供給を防止するための閉そく板その他の装置の設置
(e) 合意される活動のために必要なものを除くほか、当該施設への重量物の輸送のための鉄道、道路その他の輸送路の遮断
14 化学兵器生産施設が閉鎖されている間、締約国は、当該施設において安全及び警備に関する活動を継続することができる。
化学兵器生産施設の廃棄の前に行われる当該施設の技術的な保守
15 締約国は、安全上の理由のためにのみ化学兵器生産施設における標準的な保守活動(目視による検査、予防的な保守及び日常の修理を含む。)を行うことができる。
16 計画されているすべての保守活動は、廃棄のための全般的及び詳細な計画において明示する。保守活動には、次の事項を含めない。
(a) 工程用の設備の取替え
(b) 化学工程に関する設備の性質の変更
(c) すべての種類の化学物質の生産
17 すべての保守活動は、技術事務局による監視の対象とする。
化学兵器生産施設の化学兵器の廃棄施設への一時的な転換に関する原則及び方法
18 化学兵器生産施設の化学兵器の廃棄施設への一時的な転換に関する措置については、化学兵器の廃棄施設に一時的に転換される施設のための制度が転換されていない化学兵器生産施設のための制度と同様に厳重であることを確保するものとする。
19 この条約が効力を生ずる前に化学兵器の廃棄施設に転換された化学兵器生産施設については、化学兵器生産施設として申告する。
当該廃棄施設は、査察員による冒頭訪問の対象とするものとし、査察員は、当該廃棄施設についての情報が正確であることを確認する。また、当該廃棄施設への転換が化学兵器生産施設として操業することができないように行われたことを検証することが必要であり、その検証については、この条約が効力を生じた後九十日以内に操業できないようにすることとされている施設について規定する措置の枠内で行う。
20 化学兵器生産施設の転換を行うことを意図する締約国は、この条約が自国について効力を生じた後又は一時的な転換のための決定を行った後三十日以内に、技術事務局に対し当該施設の転換のための全般的な計画を提出し、その後は年次計画を提出する。
21 この条約が自国について効力を生じた後に閉鎖した化学兵器生産施設を追加的に化学兵器の廃棄施設に転換する必要がある場合には、締約国は、その転換の少なくとも百五十日前までに技術事務局にその旨を通報する。技術事務局は、当該締約国と協力して当該廃棄施設がその転換の後に化学兵器生産施設として操業することができないようにするために必要な措置がとられることを確保する。
22 化学兵器の廃棄のために転換される施設は、閉鎖中で保守が行われている化学兵器生産施設よりも化学兵器の生産の再開に適したものであってはならない。当該転換される施設の生産の再開に必要な時間は、閉鎖中で保守が行われている化学兵器生産施設の活動を再開するのに必要な時間以上のものとなるようにしなければならない。
23 転換される化学兵器生産施設については、この条約が効力を生じた後十年以内に廃棄する。
24 化学兵器生産施設を転換するための措置は、当該施設にとって特有のものであり、当該施設の独自の性質に依存するものとする。
25 化学兵器生産施設を化学兵器の廃棄施設に転換するためにとる一連の措置は、この条約が締約国について効力を生じた後九十日以内に他の化学兵器生産施設が操業することができないようにするための一連の措置を下回るものであってはならない。
化学兵器生産施設の廃棄に関する原則及び方法
26 締約国は、化学兵器生産施設の定義に規定する設備及び建物を次のとおり廃棄する。
(a) すべての特別な設備及び標準的な設備は、物理的に廃棄する。
(b) すべての特別な建物及び標準的な建物は、物理的に廃棄する。
27 締約国は、充填(てん)されていない化学兵器である弾薬類及び化学兵器を使用するための装置を生産する施設を次のとおり廃棄する。
(a) 化学兵器である弾薬類の化学物質以外の部分又は化学兵器の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置を生産するためにのみ使用される施設を申告し及び廃棄する。廃棄の過程及びその検証については、化学兵器生産施設の廃棄を規律する第五条及びこの部の規定に従って行う。
(b) 化学兵器である弾薬類の化学物質以外の部分を生産するためにのみ設計され又は使用されるすべての設備については、物理的に廃棄する。特別に設計された鋳型及び金属加工金型を含む当該設備については、廃棄のための特別な場所に運ぶことができる。
(c) 当該弾薬類及び装置の生産のために使用されるすべての建物及び標準的な設備については、廃棄し、又はこの条約によって禁止されていない目的のために転換するものとし、その廃棄又は転換については、必要な場合には、第九条の規定に基づく協議及び査察によって確認する。
(d) この条約によって禁止されていない目的のための活動は、廃棄又は転換が行われる間継続することができる。
廃棄の規律
28 化学兵器生産施設の廃棄の規律は、第一条及び他の条に定める義務(体系的な現地検証に関する義務を含む。)を基礎とするものである。廃棄の規律は、廃棄のための期間中に安全保障が損なわれないことについての締約国の利害、廃棄の初期の段階における信頼の醸成及び化学兵器生産施設を廃棄する過程において漸進的に得られる経験を考慮し、並びに化学兵器生産施設の実際の性質及びその廃棄のために選択される方法のいかんにかかわらず当該廃棄の規律を適用することを考慮したものである。廃棄の規律は、平準化の原則を基礎とするものである。
29 締約国は、化学兵器生産施設の各廃棄期間につき、いずれの化学兵器生産施設を廃棄するかを決定し、並びに各廃棄期間の満了の時に化学兵器生産施設が30及び31に規定するものよりも多く残存しないように廃棄を行う。締約国は、当該施設をより速やかに廃棄することを妨げられるものではない。
30 表1の化学物質を生産する化学兵器生産施設については、次の規定を適用する。
(a) 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後一年以内に当該施設の廃棄を開始し、この条約が効力を生じた後十年以内に廃棄を完了する。この条約が効力を生じた時に締約国である国については、全体の期間を三の廃棄期間、すなわち、二年目から五年目まで、六年目から八年目まで及び九年目から十年目までに分割する。この条約が効力を生じた後に締約国となる国については、廃棄期間は、28及び29の規定を考慮して、調整される。
(b) 当該施設については、生産能力を比較の基礎とする。生産能力については、二成分型化学兵器のために定める規則を考慮して、トンの単位によって表示する化学物質の重量により明示する。
(c) この条約が効力を生じた後の八番目の年の終了の時の生産能力について合意される適当な水準を定める。当該水準を超える生産能力については、最初の二の廃棄期間中均等の割合で廃棄する。
(d) 定められる量の生産能力を廃棄する義務については、当該施設に供給した他のすべての化学兵器生産施設又は当該施設で生産された表1の化学物質を弾薬類若しくは装置に充填(てん)した他のすべての化学兵器生産施設にも同様に課する。
(e) 化学兵器の廃棄のために一時的に転換された化学兵器生産施設については、引き続き、この30の規定に従って生産能力を廃棄する義務を負う。
31 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後一年以内に、30の規定の対象となっていない化学兵器生産施設の廃棄を開始し、この条約が効力を生じた後五年以内に廃棄を完了する。
廃棄のための詳細な計画
32 締約国は、化学兵器生産施設の廃棄の開始の少なくとも百八十日前までに、当該施設の廃棄のための詳細な計画を技術事務局に提出する。当該計画には、特に次の事項に関する33(f)に規定する廃棄の検証のための措置についての提案を含める。
(a) 廃棄する施設において査察員自身が検証を行う時期
(b) 申告した目録に記載された各物件について実施する措置の検証のための手続
33 化学兵器生産施設の廃棄のための詳細な計画には、次の事項を含める。
(a) 廃棄の過程の詳細な日程
(b) 当該施設の配置図
(c) 工程の流れの図面
(d) 廃棄する設備、建物その他の物件の詳細な目録
(e) 目録に記載された各物件について実施する措置
(f) 検証のために提案する措置
(g) 当該施設の廃棄が行われている間に遵守されるべき警備上及び安全上の措置
(h) 査察員に提供する作業及び居住の条件
34 締約国は、化学兵器生産施設を一時的に化学兵器の廃棄施設に転換することを意図する場合には、転換のための活動を行う少なくとも百五十日前までに、技術事務局に通報するものとし、その通報には、次の事項を含める。
(a) 化学兵器生産施設の名称、住所及び位置
(b) 化学兵器の廃棄に関係するすべての工作物及び場所を示す施設の図面並びに化学兵器生産施設において一時的に転換するすべての工作物の特定
(c) 廃棄する化学兵器の種類並びに充填(てん)化学物質の種類及び量
(d) 廃棄の方法
(e) 生産工程及び特別な設備のいずれの部分を化学兵器の廃棄のために転換するかを示す工程の流れの図面
(f) 適当な場合には、転換によって影響を受ける可能性がある封印及び査察のための装置
(g) 設計、化学兵器生産施設の一時的な転換、設備の設置及び点検、廃棄作業並びに閉鎖に割り当てる時間を明らかにする日程
35 化学兵器の廃棄のために一時的に転換した施設の廃棄については、32及び33の規定に従って情報を提供する。
詳細な計画の検討
36 技術事務局は、締約国が提出する廃棄のための詳細な計画及び検証のために提案する措置並びに従前の査察の経験に基づき、当該締約国と密接に協議の上、化学兵器生産施設の廃棄の検証のための計画を作成する。適当な措置に関する技術事務局と当該締約国との間の意見の相違は、協議によって解決されるべきである。解決されない問題は、この条約の完全な実施を促進することを目的として、適切な措置のために執行理事会に送付される。
37 第五条及びこの部の規定の実施を確保するため、廃棄及び検証のための統合された計画が執行理事会と締約国との間で合意される。当該計画は、廃棄の開始の予定の少なくとも六十日前までに合意されるべきである。
38 執行理事会の理事国は、廃棄及び検証のための統合された計画の妥当性に関する問題について技術事務局と協議することができる。執行理事会のいずれの理事国も異議を申し立てない場合には、当該計画は、実施に移される。
39 問題がある場合には、執行理事会は、当該問題について調整するために締約国と協議を開始する。問題が解決されない場合には、当該問題は、会議に提起される。廃棄の方法に関する意見の相違の解決は、廃棄のための計画の受入れ可能な他の部分の実施を遅滞させてはならない。
40 執行理事会との間で検証について合意されない場合又は承認された検証のための計画を実施することができない場合には、廃棄の検証については、現地に設置する機器による継続的な監視を通じて及び査察員自身によって行う。
41 廃棄及び検証については、合意された計画に従って行う。検証は、廃棄の過程を不当に妨げないものとし、現地において査察員自身によって行われる。
42 必要な検証又は廃棄の活動が計画どおりに行われない場合には、すべての締約国は、その旨の通報を受ける。
C 検証
化学兵器生産施設の申告の現地査察による検証
43 技術事務局は、この条約が各締約国について効力を生じた後九十日から百二十日までの間に、化学兵器生産施設の冒頭査察を行う。
44 冒頭査察は、次のことを目的とする。
(a) この条約に従い化学兵器の生産が停止し及び化学兵器生産施設の活動が終了したことを確認すること。
(b) 化学兵器生産施設において化学兵器の生産の停止のためにとられた措置について技術事務局が精通することができるようにすること。
(c) 査察員が一時的な封印を施すことができるようにすること。
(d) 査察員が建物及び特別な設備の目録を確認することができるようにすること。
(e) 化学兵器生産施設における査察の活動(手が触れられていないことを示す封印その他の合意される装置であって、当該施設に関する詳細な施設協定に従って設置するものを使用することを含む。)を計画するために必要な情報を取得すること。
(f) 化学兵器生産施設における査察手続に関する詳細な協定について予備的な討議を行うこと。
45 査察員は、適当な場合には、各化学兵器生産施設において申告された物件の目録を正確に確認することを容易にするため、定められた封印、標識その他の目録の管理手続を使用する。
46 査察員は、化学兵器の生産が再開され又は申告された物件が移動された場合にこれを表示するために必要な装置であって合意されたものを設置する。査察員は、被査察締約国による閉鎖のための活動を妨げないよう必要な注意を払う。査察員は、当該装置を保守し及び当該装置が保全されていることを検証するために訪問することができる。
47 事務局長は、冒頭査察に基づき、この条約に従って化学兵器生産施設の活動を終了させるための追加の措置が必要であると認める場合には、この条約が被査察締約国について効力を生じた後百八十日以内に当該措置を実施するよう、この条約が当該被査察締約国について効力を生じた後百三十五日以内に当該被査察締約国に要請することができる。当該被査察締約国は、その裁量により、当該要請を満たすことができる。当該被査察締約国が当該要請を満たさない場合には、当該被査察締約国及び事務局長は、問題を解決するため協議する。
化学兵器生産施設及びその活動の終了の体系的な検証
48 化学兵器生産施設の体系的な検証は、化学兵器の生産の再開又は申告された物件の移動を当該施設において探知することを目的とする。
49 化学兵器生産施設に関する詳細な施設協定は、次の事項を明示する。
(a) 詳細な現地査察手続(次の事項を含めることができる。)
(i) 目視による検査
(ii) 封印その他の合意される装置の点検及び保守
(iii) 試料の採取及び分析
(b) 探知されることなく当該施設の活動が再開されることを防止するための封印(手が触れられていないことを示すもの)その他の合意される装置を使用する手続であって、次の事項を明示するもの
(i) 当該封印その他の合意される装置の種類、配置及び設置のための措置
(ii) 当該封印その他の合意される装置の保守
(c) その他合意される措置
50 化学兵器生産施設の査察のための措置に関する詳細な協定において規定する封印その他の承認された装置は、この条約が締約国について効力を生じた後二百四十日以内に設置する。査察員は、当該封印その他の承認された装置を設置するため、当該施設を訪問することができる。
51 技術事務局は、各化学兵器生産施設について一暦年に四回を限度として査察を行うことができる。
52 事務局長は、体系的な査察又は訪問のための査察団の化学兵器生産施設への到着予定時刻の四十八時間前に、当該施設の査察又は訪問を行う旨の決定を被査察締約国に通告する。緊急の問題を解決するために査察又は訪問が行われる場合には、この期間を短縮することができる。事務局長は、査察又は訪問の目的を明示する。
53 査察員は、施設協定に基づき、阻害されることなく化学兵器生産施設のすべての部分へのアクセスが認められる権利を有する。査察を行う物件は、申告された目録に記載された物件から査察員が選定する。
54 体系的な現地査察の頻度を決定するための指針については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。査察が行われる具体的な化学兵器生産施設については、査察が行われる正確な時期が予知されることのないように技術事務局が選定する。
化学兵器生産施設の廃棄の検証
55 化学兵器生産施設の廃棄の体系的な検証は、当該施設がこの条約に基づく義務に従って廃棄されること及び申告された目録に記載された物件が合意された廃棄のための詳細な計画に従って廃棄されることを確認することを目的とする。
56 申告された目録に記載されたすべての物件が廃棄された時に、技術事務局は、その旨の締約国の申告を確認する。技術事務局は、その確認の後、化学兵器生産施設の体系的な検証を終了するものとし、査察員が設置したすべての装置及び監視のための機器を速やかに撤去する。
57 56の確認が行われた後、締約国は、化学兵器生産施設が廃棄されたことを申告する。
化学兵器生産施設の化学兵器の廃棄施設への一時的な転換の検証
58 化学兵器生産施設を一時的に転換する意図についての最初の通報の受領の後九十日以内に、査察員は、提案された一時的な転換について精通し及び転換が行われている間必要となる査察のための措置を研究するため、当該施設を訪問する権利を有する。
59 技術事務局及び被査察締約国は、58の訪問の後六十日以内に、一時的な転換のための期間における新たな査察のための措置を定める経過協定を締結する。当該経過協定は、転換の過程において化学兵器のいかなる生産も行われていないことを確認できるような査察手続(封印及び監視のための機器の使用並びに査察の実施を含む。)を明示する。当該経過協定は、一時的な転換のための活動の開始から化学兵器生産施設が化学兵器の廃棄施設として操業を開始するまでの間効力を有する。
60 被査察締約国は、経過協定が締結されるまでの間、化学兵器生産施設のいかなる部分も移動し若しくは転換してはならず、又は封印その他の合意された査察の装置がこの条約に従って設置されていた場合には当該封印その他の合意された査察の装置を移動し若しくは変更してはならない。
61 化学兵器生産施設が化学兵器の廃棄施設として操業を開始した後は、当該廃棄施設は、化学兵器の廃棄施設について適用される第四部(A)の規定に従う。操業を開始する前の期間における措置については、経過協定によって規律する。
62 査察員は、廃棄作業が行われている間、一時的に転換された化学兵器生産施設のすべての部分(化学兵器の廃棄に直接関係しない部分を含む。)へのアクセスを認められる。
63 化学兵器の廃棄のために化学兵器生産施設を一時的に転換する作業が当該施設において開始される前及び当該施設が化学兵器の廃棄施設としての機能を停止した後は、当該施設は、化学兵器生産施設について適用されるこの部の規定に従う。
D この条約によって禁止されていない目的のための化学兵器生産施設の転換
転換を要請する手続
64 この条約によって禁止されていない目的のために化学兵器生産施設を使用するための要請については、締約国が当該目的のためにこの条約が当該締約国について効力を生ずる前に既に使用している施設又は当該目的のために使用することを計画している施設について行うことができる。
65 この条約が締約国について効力を生ずる時にこの条約によって禁止されていない目的のために使用されている化学兵器生産施設については、64の要請は、この条約が当該締約国について効力を生じた後三十日以内に事務局長に提出される。当該要請には、1(h)(iii)の規定に従って提出する資料のほか、次の事項に関する情報を含める。
(a) 当該要請が必要とされる詳細な理由
(b) 次の事項を明示する当該施設の転換のための全般的な計画
(i) 当該施設において行われる活動の性質
(ii) 計画されている活動が化学物質の生産、加工又は消費に関係する場合には、化学物質の名称、当該施設の工程の流れの図面及び計画されている年間の生産量、加工量又は消費量
(iii) 使用が予定されている建物又は工作物及び変更が予定されている場合には当該変更の内容
(iv) 廃棄された建物若しくは工作物又は廃棄が予定されている建物若しくは工作物及び廃棄が予定されている場合には当該廃棄のための計画
(v) 当該施設において使用される設備
(vi) 移動され若しくは廃棄された設備又は移動若しくは廃棄が予定されている設備及び廃棄が予定されている場合には当該廃棄のための計画
(vii) 適当な場合には転換のために予定されている日程
(viii) 当該施設が存在する地域において操業している他の施設の活動の性質
(c) (b)に規定する措置及び締約国が予定しているその他の措置が当該施設において化学兵器の生産能力が維持されないことをどのように確保するかについての詳細な説明
66 この条約が締約国について効力を生ずる時にこの条約によって禁止されていない目的のために使用されていない化学兵器生産施設については、64の要請は、転換の決定の後三十日以内に、いかなる場合にもこの条約が当該締約国について効力を生じた後四年以内に、事務局長に提出される。当該要請には、次の事項に関する情報を含める。
(a) 当該要請が必要とされる詳細な理由(経済的な必要性を含む。)
(b) 次の事項を明示する当該施設の転換のための全般的な計画
(i) 当該施設において行われることが計画されている活動の性質
(ii) 計画されている活動が化学物質の生産、加工又は消費に関係する場合には、化学物質の名称、当該施設の工程の流れの図面及び計画されている年間の生産量、加工量又は消費量
(iii) 引き続き維持することが予定されている建物又は工作物及び変更が予定されている場合には当該変更の内容
(iv) 廃棄された建物若しくは工作物又は廃棄が予定されている建物若しくは工作物及び廃棄が予定されている場合には当該廃棄のための計画
(v) 当該施設において使用が予定されている設備
(vi) 移動又は廃棄が予定されている設備及び廃棄が予定されている場合には当該廃棄のための計画
(vii) 転換のために予定されている日程
(viii) 当該施設が存在する地域において操業している他の施設の活動の性質
(c) (b)に規定する措置及び締約国が予定しているその他の措置が当該施設において化学兵器の生産能力が維持されないことをどのように確保するかについての詳細な説明
67 締約国は、その要請の中で、信頼を醸成するために適当と認めるその他の措置を提案することができる。
決定が行われるまでの間の措置
68 会議によって決定が行われるまでの間、締約国は、この条約が自国について効力を生ずる前にこの条約によって禁止されていない目的のために使用していた化学兵器生産施設を引き続き当該目的のために使用することができる。ただし、当該締約国が、その要請の中で、いかなる特別な設備又は特別な建物も使用していないこと並びに13に規定する方法により特別な設備及び特別な建物の活動を終了させたことを証明する場合に限る。
69 要請が行われた施設がこの条約が締約国について効力を生ずる前にこの条約によって禁止されていない目的のために使用されていなかった場合又は68の規定により必要となる証明が行われない場合には、当該締約国は、第五条4の規定に従ってすべての活動を直ちに停止する。当該締約国は、この条約が自国について効力を生じた後九十日以内に、13の規定に従って当該施設を閉鎖する。
転換のための条件
70 この条約によって禁止されていない目的のために化学兵器生産施設を転換する条件として、当該施設におけるすべての特別な設備については、廃棄しなければならず、また、この条約によって禁止されていない目的のために通常使用され、かつ、表1の化学物質に関係しない建物及び工作物と当該施設の建物及び工作物とを区別する特別な特徴については、除去しなければならない。
71 転換された施設は、次の活動のために使用してはならない。
(a) 表1又は表2の化学物質の生産、加工又は消費に関係する活動
(b) 毒性の高い化学物質(毒性の高い有機リン化学物質を含む。)の生産又は毒性若しくは腐食性の高い化学物質を取り扱うための特殊な設備を必要とするその他の活動。ただし、執行理事会が、毒性、腐食性及び適当な場合にはその他の技術的な要素のための基準(第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認するもの)を考慮して、このような生産又は活動がこの条約の趣旨及び目的に危険をもたらさないと決定する場合は、この限りでない。
72 化学兵器生産施設の転換は、この条約が効力を生じた後六年以内に完了する。
72の二 理事会は、72に規定する六年の転換のための期間が経過した後に、いずれかの国が、この条約を批准し又はこの条約に加入する場合には、二回目以降の通常会期において、この条約によって禁止されていない目的のために化学兵器生産施設を転換するための要請の提出の期限を定める。75の規定に従って当該要請を承認するための会議の決定は、転換の完了のため実行可能な最も早い期限を定める。転換は、できる限り速やかに、いかなる場合にもこの条約が当該締約国について効力を生じた後六年以内に完了する。この72の二の規定によって修正された場合を除くほか、この部のDのすべての規定を適用する。
執行理事会及び会議の決定
73 技術事務局は、事務局長が64の要請を受領した後九十日以内に、化学兵器生産施設の冒頭査察を行う。この査察は、当該要請において提供された情報が正確であることを確認し、転換が予定されている施設の技術的な性質に関する情報を取得し及びこの条約によって禁止されていない目的のための使用を承認するための条件を評価することを目的とする。事務局長は、執行理事会、会議及びすべての締約国に対し、この条約によって禁止されていない目的のために当該施設を転換するために必要な措置及び転換された施設がこの条約によって禁止されていない目的のためにのみ使用されることを保証するために必要な措置に関する事務局長の勧告を含む報告を速やかに提出する。
74 化学兵器生産施設が、この条約が締約国について効力を生ずる前にこの条約によって禁止されていない目的のために使用され、かつ、引き続き操業している場合において、68の規定に従って証明のために必要となる措置がとられなかったときは、事務局長は、直ちに執行理事会に通報する。執行理事会は、適当と認める措置の実施、特に、当該施設の活動の停止、特別な設備の移動及び建物又は工作物の変更を要請することができる。執行理事会は、これらの措置の実施のための期限を定めるものとし、これらの措置が十分に実施されるまでの間、64の要請に関する検討を停止する。当該施設は、これらの措置が実施されたか否かを確認するため、当該期限の満了の後速やかに査察を受ける。これらの措置が実施されなかった場合には、当該締約国は、当該施設のすべての操業を完全に停止しなければならない。
75 会議は、事務局長の報告の受領の後できる限り速やかに、執行理事会の勧告に基づき、当該報告及び締約国が表明する見解を考慮して、64の要請を承認するか否かを決定し、及び承認のための条件を定める。いずれかの締約国が当該要請の承認及びこれに伴う条件に異議を申し立てる場合には、相互に受入れ可能な解決を求めるため、九十日を限度として関係締約国の間で協議を行う。当該要請及びその承認に伴う条件並びにこれらについて提案される変更に関する決定については、実質事項として、当該協議の期間が経過した後できる限り速やかに行う。
76 施設協定は、64の要請が承認される場合には、その承認の決定が行われた後九十日以内に締結する。当該施設協定には、施設の転換及び使用が認められる条件(検証のための措置に関するものを含む。)を含める。転換については、当該施設協定を締結する前に開始してはならない。
転換のための詳細な計画
77 締約国は、化学兵器生産施設の転換の開始の予定の少なくとも百八十日前までに、当該施設の転換のための詳細な計画を技術事務局に提出する。当該計画には、特に次の事項に関する転換の検証のための措置についての提案を含める。
(a) 転換する施設において査察員自身が検証を行う時期
(b) 申告した目録に記載された各物件について実施する措置の検証のための手続
78 化学兵器生産施設の転換のための詳細な計画には、次の事項を含める。
(a) 転換の過程の詳細な日程
(b) 転換の前における及び転換の後における当該施設の配置図
(c) 転換の前における及び適当な場合には転換の後における当該施設の工程の流れの図面
(d) 廃棄する設備、建物、工作物その他の物件並びに変更する建物及び工作物の詳細な目録
(e) 目録に記載された各物件について措置を実施する場合には当該措置
(f) 検証のために提案する措置
(g) 当該施設の転換が行われている間に遵守されるべき警備上及び安全上の措置
(h) 査察員に提供する作業及び居住の条件
詳細な計画の検討
79 技術事務局は、締約国が提出する転換のための詳細な計画及び検証のために提案する措置並びに従前の査察の経験に基づき、当該締約国と密接に協議の上、化学兵器生産施設の転換の検証のための計画を作成する。適当な措置に関する技術事務局と当該締約国との間の意見の相違については、協議によって解決する。解決されない問題は、この条約の完全な実施を促進することを目的として、適切な措置のために執行理事会に送付される。
80 第五条及びこの部の規定の実施を確保するため、転換及び検証のための統合された計画が執行理事会と締約国との間で合意される。当該計画については、転換の開始の予定の少なくとも六十日前までに合意する。
81 執行理事会の理事国は、転換及び検証のための統合された計画の妥当性に関する問題について技術事務局と協議することができる。執行理事会のいずれの理事国も異議を申し立てない場合には、当該計画は、実施に移される。
82 問題がある場合には、執行理事会は、当該問題について調整するために締約国と協議を開始すべきである。問題が解決されない場合には、当該問題は、会議に提起されるべきである。転換の方法に関する意見の相違の解決は、転換のための計画の受入れ可能な他の部分の実施を遅滞させるべきでない。
83 執行理事会との間で検証について合意されない場合又は承認された検証のための計画を実施することができない場合には、転換の検証については、現地に設置する機器による継続的な監視を通じて及び査察員自身によって行う。
84 転換及び検証については、合意された計画に従って行う。検証は、転換の過程を不当に妨げないものとし、転換を確認するために査察員自身によって行われる。
85 事務局長が転換の完了を確認した後十年間、締約国は、いかなる時にも、阻害されることなく転換した施設へのアクセスが認められる権利を査察員に与える。査察員は、当該施設におけるすべての場所、活動及び設備を監視する権利を有する。査察員は、当該施設における活動が執行理事会及び会議がこのDの規定に基づいて定める条件に合致していることを検証する権利を有する。査察員は、表1の化学物質、その安定した副産物及び分解生成物並びに表2の化学物質が存在しないことを検証し並びに当該施設における活動が執行理事会及び会議がこのDの規定に基づいて定める化学に関する活動についての他の条件に合致していることを検証するため、第二部Eの規定に基づき、当該施設のいかなる場所から採取された試料も受領し及び分析する権利を有する。査察員は、また、第十部Cの規定に基づき、当該施設が所在する事業所に対し管理されたアクセスが認められる権利を有する。十年の期間中、締約国は、転換した施設における活動に関し毎年報告する。当該十年の期間の満了の後、執行理事会は、技術事務局の勧告を考慮して、継続する検証措置の性質を決定する。
86 転換した施設の検証の費用は、第五条19の規定に従って分担される。
第六部 第六条に規定するこの条約によって禁止されていない活動(表1の化学物質及びこれに関係する施設のための制度)
A 一般規定
1 締約国は、この条約の締約国の領域外で表1の化学物質を生産し、取得し、保有し又は使用してはならない。締約国は、また、他の締約国に対して移譲する場合を除くほか、当該化学物質を自国の領域外に移譲してはならない。
2 締約国は、次の(a)から(d)までの要件が満たされる場合を除くほか、表1の化学物質を生産し、取得し、保有し、移譲し又は使用してはならない。
(a) 化学物質が研究、医療、製薬又は防護の目的に利用されるものであること。
(b) 化学物質の種類及び量が(a)の目的を正当化することのできる種類及び量に厳重に限定されていること。
(c) (a)の目的のための化学物質の総量がいかなる時にも一トン以下であること。
(d) 締約国が生産、貯蔵されている化学兵器からの回収及び移譲によって取得する(a)の目的のための総量がいかなる年にも一トン以下であること。
B 移譲
3 締約国は、他の締約国に対してのみ、かつ、2に規定する研究、医療、製薬又は防護の目的に限り、表1の化学物質を自国の領域外に移譲することができる。
4 移譲された化学物質は、第三国に対して再移譲してはならない。
5 他の締約国に対する移譲の少なくとも三十日前までに、締約国及び当該他の締約国は、技術事務局に当該移譲について通報する。
6 締約国は、前年における移譲に関し、詳細な年次申告を行う。当該年次申告については、前年の終了の後九十日以内に行うものとし、移譲された表1の各化学物質についての次の事項に関する情報を含める。
(a) 化学名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(b) 他の国から取得した量又は他の締約国に対して移譲した量。個別の移譲について、量、受領者及び目的を含める。
C 生産
生産に関する一般原則
7 締約国は、8から12までの規定に基づく生産に当たっては、人の安全を確保し及び環境を保護することを最も優先させる。締約国は、安全及び排出に関する自国の基準に従って当該生産を行う。
単一の小規模な施設
8 締約国は、研究、医療、製薬又は防護の目的のために表1の化学物質を生産する場合には、10から12までに規定する場合を除くほか、自国が承認する単一の小規模な施設においてその生産を行う。
9 単一の小規模な施設における生産は、継続的な稼働のために配置されたものでない生産工程の中の反応器内で行う。各反応器の容量は、百リットルを超えてはならず、五リットルを超える容量を有するすべての反応器の総容量は、五百リットルを超えてはならない。
他の施設
10 防護目的のための表1の化学物質の生産については、単一の小規模な施設以外の一の施設においてその総量が年間十キログラムを超えない範囲内で行うことができる。この施設は、締約国が承認する。
11 研究、医療又は製薬の目的のための施設当たり年間百グラムを超える表1の化学物質の生産については、施設当たりの年間の総量が十キログラムを超えない範囲内で単一の小規模な施設以外の施設において行うことができる。これらの施設は、締約国が承認する。
12 防護目的のためでなく、研究、医療又は製薬の目的のための表1の化学物質の合成であって施設当たりの年間の総量が百グラム未満のものについては、実験施設において行うことができる。これらの実験施設は、D及びEに規定する申告及び検証に関連する義務の対象とならない。
D 申告
単一の小規模な施設
13 締約国は、単一の小規模な施設の操業を計画する場合には、当該施設の正確な所在地に関する情報及び詳細な技術的な説明(設備の目録及び詳細な図面を含む。)を技術事務局に提供する。既存の施設については、この条約が当該締約国について効力を生じた後三十日以内に冒頭申告を行う。新たな施設に関する冒頭申告については、操業の開始の少なくとも百八十日前までに行う。
14 締約国は、予定される変更であって冒頭申告に関係するものについて技術事務局に事前に通報する。その通報については、当該変更が行われる少なくとも百八十日前までに行う。
15 締約国は、単一の小規模な施設において表1の化学物質を生産する場合には、前年における当該施設の活動に関して詳細な年次申告を行う。当該年次申告については、前年の終了の後九十日以内に行うものとし、次の事項を含める。
(a) 当該施設の特定
(b) 当該施設において生産し、取得し、消費し又は貯蔵した表1の各化学物質については、次の事項に関する情報
(i) 化学名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(ii) 使用された方法及び生産量
(iii) 表1の化学物質の生産のために使用した前駆物質であって化学物質に関する附属書の表1、表2又は表3に掲げるものの名称及び量
(iv) 当該施設における消費量及び消費目的
(v) 自国内で他の施設から受領した量又は他の施設に対して移譲した量。各移譲については、量、受領者及び目的を含めるべきである。
(vi) 前年における最大貯蔵量
(vii) 前年の終了時における貯蔵量
(c) 既に提出した当該施設の詳細な技術的な説明(設備の目録及び詳細な図面を含む。)の変更であって前年中に当該施設において生じたものに関する情報
16 締約国は、単一の小規模な施設において表1の化学物質を生産する場合には、翌年の当該施設の予定される活動及び予想される生産に関して詳細な年次申告を行う。当該年次申告については、翌年の開始の少なくとも九十日前までに行うものとし、次の事項を含める。
(a) 当該施設の特定
(b) 当該施設において生産し、消費し又は貯蔵することが予想される表1の各化学物質については、次の事項に関する情報
(i) 化学名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(ii) 予想される生産量及び生産目的
(c) 既に提出した当該施設の詳細な技術的な説明(設備の目録及び詳細な図面を含む。)の変更であって翌年中に当該施設において生ずることが予想されるものに関する情報
10及び11に規定する他の施設
17 締約国は、10及び11に規定する各施設について、技術事務局の要請に応じ、その名称及び所在地に関する情報並びに当該施設又はその一部の詳細な技術的な説明を技術事務局に提供する。防護目的のために表1の化学物質を生産する施設については、その旨を具体的に明示する。既存の施設については、この条約が当該締約国について効力を生じた後三十日以内に冒頭申告を行う。新たな施設に関する冒頭申告については、操業の開始の少なくとも百八十日前までに行う。
18 締約国は、予定される変更であって冒頭申告に関係するものについて技術事務局に事前に通報する。その通報については、当該変更が行われる少なくとも百八十日前までに行う。
19 締約国は、10及び11に規定する各施設について、前年における当該施設の活動に関して詳細な年次申告を行う。当該年次申告については、前年の終了の後九十日以内に行うものとし、次の事項を含める。
(a) 当該施設の特定
(b) 表1の各化学物質については、次の事項に関する情報
(i) 化学名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(ii) 生産量及び防護目的のための生産については使用された方法
(iii) 表1の化学物質の生産のために使用した前駆物質であって化学物質に関する附属書の表1、表2又は表3に掲げるものの名称及び量
(iv) 当該施設における消費量及び消費目的
(v) 自国内で他の施設に移譲した量。各移譲については、量、受領者及び目的を含めるべきである。
(vi) 前年における最大貯蔵量
(vii) 前年の終了時における貯蔵量
(c) 既に提出した当該施設の詳細な技術的な説明の変更であって前年中に当該施設又はその一部において生じたものに関する情報
20 締約国は、10及び11に規定する各施設について、翌年の当該施設の予定される活動及び予想される生産に関して詳細な年次申告を行う。当該年次申告については、翌年の開始の少なくとも九十日前までに行うものとし、次の事項を含める。
(a) 当該施設の特定
(b) 表1の各化学物質については、次の事項に関する情報
(i) 化学名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(ii) 予想される生産量、生産が行われることが予想される時期及び生産目的
(c) 既に提出した当該施設の詳細な技術的な説明の変更であって翌年中に当該施設又はその一部において生ずることが予想されるものに関する情報
E 検証
単一の小規模な施設
21 単一の小規模な施設における検証活動は、表1の化学物質の生産量が正確に申告されていること及び特にその総量が一トンを超えないことを検証することを目的とする。
22 単一の小規模な施設は、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証の対象とする。
23 具体的な施設に対する査察の回数、程度、期間、時期及び方法については、化学物質、当該施設の性質及び当該施設において行われる活動の性質がこの条約の趣旨及び目的に対してもたらす危険に基づいて定める。適当な指針については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
24 冒頭査察は、施設に関して提供された情報を検証すること(9に規定する反応器に関する制限について検証することを含む。)を目的とする。
25 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後百八十日以内に、モデル協定に基づき、施設に関する詳細な査察手続を規定する施設協定を機関との間で締結する。
26 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後に単一の小規模な施設を作ることを計画する場合には、当該施設の操業の開始又は使用の前に、モデル協定に基づき、当該施設に関する詳細な査察手続を規定する施設協定を機関との間で締結する。
27 モデル協定については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
10及び11に規定する他の施設
28 10及び11に規定する施設における検証活動は、次のことを検証することを目的とする。
(a) 当該施設が表1の化学物質(申告された化学物質を除く。)の生産のために使用されていないこと。
(b) 表1の化学物質の生産量、加工量又は消費量が、正確に申告されていること及び申告された目的のために必要なものに合致していること。
(c) 表1の化学物質が他の目的に転用され又は使用されていないこと。
29 10及び11に規定する施設は、現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証の対象とする。
30 具体的な施設に対する査察の回数、程度、期間、時期及び方法については、化学物質の生産量、当該施設の性質及び当該施設において行われる活動の性質がこの条約の趣旨及び目的に対してもたらす危険に基づいて定める。適当な指針については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
31 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後百八十日以内に、モデル協定に基づき、施設に関する詳細な査察手続を規定する施設協定を機関との間で締結する。
32 締約国は、この条約が効力を生じた後に10及び11に規定する施設を作ることを計画する場合には、当該施設の操業の開始又は使用の前に、機関との間で施設協定を締結する。
第七部 第六条に規定するこの条約によって禁止されていない活動(表2の化学物質及びこれに関係する施設のための制度)
A 申告
国内の集計された資料の申告
1 第六条の7及び8の規定に従って締約国が行う冒頭申告及び年次申告には、前暦年における表2の化学物質の生産量、加工量、消費量、輸入量及び輸出量に関する国内の集計された資料並びに相手国ごとの輸入量及び輸出量の明示を含める。
2 締約国は、次の申告を行う。
(a) この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に1の規定に従って行う冒頭申告
(b) 冒頭申告を行った年の翌暦年から開始する年次申告(前暦年の終了の後九十日以内に行う。)
表2の化学物質を生産し、加工し又は消費する事業所の申告
3 冒頭申告及び年次申告については、次に掲げるいずれかの量を超える化学物質を、前三暦年のいずれかの年において生産し、加工し若しくは消費した一若しくは二以上の工場又は翌暦年において生産し、加工し若しくは消費することが予想される一若しくは二以上の工場を有するすべての事業所について必要とする。
(a) 化学物質に関する附属書の表2Aにおいて(*)が付されている化学物質については一キログラム
(b) 化学物質に関する附属書の表2Aに掲げる化学物質((*)が付されているものを除く。)については百キログラム
(c) 化学物質に関する附属書の表2Bに掲げる化学物質については一トン
4 締約国は、次の(a)の申告並びに当該申告を行った年の翌暦年から開始する(b)及び(c)の申告を行う。
(a) この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に3の規定に従って行う冒頭申告
(b) 前暦年の終了の後九十日以内に行う過去の活動に関する年次申告
(c) 予想される活動に関する年次申告(翌暦年の開始の遅くとも六十日前までに行う。)。当該年次申告を行った後に新たに計画する活動については、当該活動の開始の遅くとも五日前までに申告する。
5 3の規定に基づく申告は、表2の化学物質を低濃度で含有する混合物については、一般的に必要とされない。当該申告は、指針に従い、当該混合物からの表2の化学物質の分離が容易であること及び当該化学物質の総量が、この条約の趣旨及び目的に対し危険をもたらすと認められる場合にのみ、必要とされる。当該指針については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
6 3の規定に基づく事業所の申告には、次の事項を含める。
(a) 当該事業所の名称、その所有者の名称及び当該事業所を運営する会社又は企業の名称
(b) 当該事業所の正確な所在地(住所を含む。)
(c) 当該事業所内の工場であって第八部の規定に従って申告するものの数
7 3の規定に基づく事業所の申告には、当該事業所内に所在し、かつ、3に定める要件を満たす各工場についての次の事項に関する情報を含める。
(a) 当該工場の名称、その所有者の名称及び当該工場を運営する会社又は企業の名称
(b) 当該工場の事業所内の正確な位置(建物又は工作物の具体的な番号がある場合には、これを含む。)
(c) 当該工場の主要な活動
(d) 当該工場が、
(i) 申告する表2の化学物質の生産、加工又は消費のいずれを行っているか。
(ii) (i)に規定する活動のみを行っているか又は当該活動以外の活動も行っているか。
(iii) 申告する表2の化学物質に関して(i)に規定する活動以外の活動を行っているか否か。行っている場合には、その活動(例えば、貯蔵)を特定する。
(e) 申告する表2の各化学物質についての当該工場の生産能力
8 申告に関する基準を超える表2の各化学物質についての3の規定に基づく事業所の申告には、次の事項に関する情報を含める。
(a) 化学名、施設において使用されている一般名又は商品名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(b) 冒頭申告については、前三暦年の各年における事業所の生産、加工、消費、輸入及び輸出の総量
(c) 過去の活動に関する年次申告については、前暦年における事業所の生産、加工、消費、輸入及び輸出の総量
(d) 予想される活動に関する年次申告については、翌暦年における事業所の生産、加工又は消費の予想される総量(生産、加工又は消費が行われることが予想される期間を含む。)
(e) 次に掲げるもののうちいずれのものを目的として、化学物質の生産、加工又は消費が行われたか又は行われるか。
(i) 現地における加工及び消費(該当する場合には生成物の種類の明示を含む)
(ii) 締約国の領域内における又はその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所への販売又は移譲(該当する場合には他の産業、販売業者又はその他の仕向先のいずれに対する販売又は移譲であるかの明示及び可能な場合には最終生成物の種類の明示を含む。)
(iii) 直接の輸出(該当する場合には関係国の明示を含む。)
(iv) その他の目的(該当する場合には目的の明示を含む。)
化学兵器のための過去における表2の化学物質の生産に関する申告
9 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、千九百四十六年一月一日以降のいずれかの時に化学兵器のために表2の化学物質を生産した工場を有するすべての事業所を申告する。
10 9の規定に基づく事業所の申告には、次の事項を含める。
(a) 当該事業所の名称、その所有者の名称及び当該事業所を運営する会社又は企業の名称
(b) 当該事業所の正確な所在地(住所を含む。)
(c) 当該事業所内に所在し、かつ、9に定める要件を満たす各工場については、7の(a)から(e)までに規定する事項に関する情報
(d) 化学兵器のために生産された表2の各化学物質については、
(i) 化学名、事業所において化学兵器の生産のために使用された一般名又は商品名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(ii) 化学物質が生産された日及び生産量
(iii) 化学物質が送られた場所及び判明している場合には当該場所において生産された最終生成物
締約国に対する情報
11 このAの規定に従って申告された事業所の一覧表については、6、7(a)、7(c)、7(d)(i)、7(d)(iii)、8(a)及び10の規定に従って提供された情報と共に、要請に応じ、締約国に対し技術事務局が送付する。
B 検証
総則
12 第六条4に規定する検証については、申告された事業所であって、次に掲げるいずれかの量を超える化学物質を、前三暦年のいずれかの年において生産し、加工し若しくは消費した一若しくは二以上の工場又は翌暦年において生産し、加工し若しくは消費することが予想される一若しくは二以上の工場を有するものにおいて、現地査察を通じて行う。
(a) 化学物質に関する附属書の表2Aにおいて(*)が付されている化学物質については十キログラム
(b) 化学物質に関する附属書の表2Aに掲げる化学物質((*)が付されているものを除く。)については一トン
(c) 化学物質に関する附属書の表2Bに掲げる化学物質については十トン
13 第八条21(a)の規定に従って会議が採択する機関の計画及び予算には、このBの規定に基づく検証のための計画及び予算を別個の項目として含める。第六条の規定に基づく検証のために利用可能な資金の割当てに当たり、技術事務局は、この条約が効力を生じた後の三年間においては、Aの規定に従って申告される事業所の冒頭査察を優先する。その後、資金の割当てについては、得られた経験を基礎として検討する。
14 技術事務局は、15から22までの規定に従って冒頭査察及びその後の査察を行う。
査察の目的
15 査察は、活動がこの条約に基づく義務に従っていること及び申告において提供された情報に合致していることを検証することを一般的な目的とする。Aの規定に従って申告された事業所における査察は、特に次のことを検証することを目的とする。
(a) 第六部の規定に従う場合を除くほか表1の化学物質が存在しないこと(特にその生産が行われていないこと)。
(b) 表2の化学物質の生産、加工又は消費の水準が申告に合致していること。
(c) 表2の化学物質がこの条約によって禁止されている活動のために転用されていないこと。
冒頭査察
16 12の規定に従って査察が行われる事業所については、この条約が効力を生じた後できる限り速やかに、望ましくは三年以内に冒頭査察を行う。この期間が経過した後に申告される事業所については、生産、加工又は消費が最初に申告された後一年以内に冒頭査察を行う。冒頭査察のための事業所の選定については、事業所の査察が行われる正確な時期が予知されることのないように技術事務局が行う。
17 冒頭査察に際しては、被査察締約国及び技術事務局が必要としないことを合意する場合を除くほか、事業所に関する施設協定案を作成する。
18 査察員は、冒頭査察に際して、その後の査察の頻度及び程度に関連して、特に次の基準を考慮して、化学物質、事業所の性質及び当該事業所において行われる活動の性質がこの条約の趣旨及び目的に対してもたらす危険を評価する。
(a) 化学物質に関する附属書の表に掲げる化学物質の毒性及び当該化学物質を使用して生産される最終生成物がある場合には当該最終生成物の毒性
(b) 化学物質に関する附属書の表に掲げる化学物質であって査察が行われる事業所において一般に貯蔵されているものの量
(c) 化学物質に関する附属書の表に掲げる化学物質の原料となる化学物質であって査察が行われる事業所において一般に貯蔵されているものの量
(d) 表2の化学物質を扱う工場の生産能力
(e) 査察が行われる事業所において毒性化学物質の生産、貯蔵又は充填(てん)を開始するための能力及びそのための転換の可能性
査察
19 12の規定に従って査察が行われる事業所は、冒頭査察を受けた後、その後の査察の対象とする。
20 技術事務局は、査察のために具体的な事業所を選定し並びに査察の頻度及び程度を決定するに当たり、各施設協定並びに冒頭査察及びその後の査察の結果を踏まえて、化学物質、事業所の性質及び当該事業所において行われる活動の性質がこの条約の趣旨及び目的に対してもたらす危険に十分な考慮を払う。
21 技術事務局は、査察が行われる正確な時期が予知されることのないように査察を行う具体的な事業所を選定する。
22 いかなる事業所も、このBの規定による査察を一暦年に二回を超えて受けない。ただし、このことは、第九条の規定に基づく査察を制限するものではない。
査察手続
23 合意される指針、この附属書の他の関連規定及び秘密扱いに関する附属書のほか、24から30までの規定を適用する。
24 申告された事業所に関する施設協定は、被査察締約国及び技術事務局がこれを必要としないことを合意する場合を除くほか、冒頭査察の完了の後九十日以内に被査察締約国と機関との間で締結する。当該施設協定は、モデル協定に基づくものとし、申告された事業所における査察の実施について規律する。当該施設協定は、査察の頻度及び程度並びに25から29までの規定に適合する詳細な査察手続を明示する。
25 査察については、申告された事業所内の申告された工場であって表2の化学物質を扱うものを中心に行う。査察団が当該事業所の他の部分へのアクセスを認めることを要請する場合には、第二部51の規定に基づく説明を行う義務に従い及び施設協定又は施設協定がないときは第十部Cに規定する管理されたアクセスの規則に従い、当該他の部分へのアクセスを認める。
26 記録へのアクセスは、適当な場合には、申告された化学物質が転用されなかったこと及び生産が申告に合致していたことを保証するために認められる。
27 試料の採取及び分析は、化学物質に関する附属書の表に掲げる化学物質であって申告されていないものが存在しないことを点検するために行う。
28 査察が行われる区域には、次のものを含めることができる。
(a) 原料となる化学物質(反応体)を搬入し又は貯蔵する場所
(b) 反応器に注入する前に反応体に対し処理を施す場所
(c) 適当な場合には(a)又は(b)の場所から反応器へ通ずる仕込配管(弁類、流量計等を含む。)
(d) 反応器の外面及び附属設備
(e) 反応器から、長期間若しくは短期間貯蔵するための場所又は申告された表2の化学物質を更に加工するための設備へ通ずる配管
(f) (a)から(e)までのいずれかに関連する制御設備
(g) 廃棄物及び排水の取扱いのための設備及び場所
(h) 規格外の化学物質の処分のための設備及び場所
29 査察期間は、九十六時間を超えてはならない。ただし、査察団と被査察締約国との間の合意により延長することができる。
査察の通告
30 締約国は、技術事務局により、査察が行われる事業所に査察団が到着する少なくとも四十八時間前までに査察の通告を受ける。
C この条約の締約国でない国に対する移譲
31 表2の化学物質については、専ら、締約国に対して移譲し、又は締約国から受領する。このような義務は、この条約が効力を生じた後三年で効力を生ずる。
32 締約国は、31の三年の暫定的な期間中、この条約の締約国でない国に対する表2の化学物質の移譲について、以下に規定する最終用途に関する証明書を要請する。締約国は、当該移譲に関し、移譲する化学物質がこの条約によって禁止されていない目的のためにのみ使用されることを確保するため、必要な措置をとる。特に、締約国は、受領国に対し、移譲する化学物質について、次のことを表明する証明書を要請する。
(a) この条約によって禁止されていない目的のためにのみ使用すること。
(b) 再移譲しないこと。
(c) 種類及び量
(d) 最終用途
(e) 最終使用者の名称及び住所
第八部 第六条に規定するこの条約によって禁止されていない活動(表3の化学物質及びこれに関係する施設のための制度)
A 申告
国内の集計された資料の申告
1 第六条の7及び8の規定に従って締約国が行う冒頭申告及び年次申告には、前暦年における表3の化学物質の生産量、輸入量及び輸出量に関する国内の集計された資料並びに相手国ごとの輸入量及び輸出量の明示を含める。
2 締約国は、次の申告を行う。
(a) この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に1の規定に従って行う冒頭申告
(b) 冒頭申告を行った年の翌暦年から開始する年次申告(前暦年の終了の後九十日以内に行う。)
表3の化学物質を生産する事業所の申告
3 冒頭申告及び年次申告については、三十トンを超える表3の化学物質を前暦年において生産した一若しくは二以上の工場又は翌暦年において生産することが予想される一若しくは二以上の工場を有するすべての事業所について必要とする。
4 締約国は、次の(a)の申告並びに当該申告を行った年の翌暦年から開始する(b)及び(c)の申告を行う。
(a) この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に3の規定に従って行う冒頭申告
(b) 前暦年の終了の後九十日以内に行う過去の活動に関する年次申告
(c) 予想される活動に関する年次申告(翌暦年の開始の遅くとも六十日前までに行う。)。当該年次申告を行った後に新たに計画する活動については、当該活動の開始の遅くとも五日前までに申告する。
5 3の規定に基づく申告は、表3の化学物質を低濃度で含有する混合物については、一般的に必要とされない。当該申告は、指針に従い、当該混合物からの表3の化学物質の分離が容易であること及び当該化学物質の総量が、この条約の趣旨及び目的に対し危険をもたらすと認められる場合にのみ、必要とされる。当該指針については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
6 3の規定に基づく事業所の申告には、次の事項を含める。
(a) 当該事業所の名称、その所有者の名称及び当該事業所を運営する会社又は企業の名称
(b) 当該事業所の正確な所在地(住所を含む。)
(c) 当該事業所内の工場であって第七部の規定に従って申告するものの数
7 3の規定に基づく事業所の申告には、当該事業所内に所在し、かつ、3に定める要件を満たす各工場についての次の事項に関する情報を含める。
(a) 当該工場の名称、その所有者の名称及び当該工場を運営する会社又は企業の名称
(b) 当該工場の事業所内の正確な位置(建物又は工作物の具体的な番号がある場合には、これを含む。)
(c) 当該工場の主要な活動
8 申告に関する基準を超える表3の各化学物質についての3の規定に基づく事業所の申告には、次の事項に関する情報を含める。
(a) 化学名、施設において使用されている一般名又は商品名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(b) 前暦年における化学物質のおよその生産量又は予想される活動に関する申告については翌暦年において予想される生産量を次の範囲で明示するもの。三十トン超二百トン以下、二百トン超千トン以下、千トン超一万トン以下、一万トン超十万トン以下及び十万トン超
(c) 化学物質の生産がいかなる目的で行われたか又は行われるか。
化学兵器のための過去における表3の化学物質の生産に関する申告
9 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、千九百四十六年一月一日以降のいずれかの時に化学兵器のために表3の化学物質を生産した工場を有するすべての事業所を申告する。
10 9の規定に基づく事業所の申告には、次の事項を含める。
(a) 当該事業所の名称、その所有者の名称及び当該事業所を運営する会社又は企業の名称
(b) 当該事業所の正確な所在地(住所を含む。)
(c) 当該事業所内に所在し、かつ、9に定める要件を満たす各工場については、7の(a)から(c)までに規定する事項に関する情報
(d) 化学兵器のために生産された表3の各化学物質については、
(i) 化学名、事業所において化学兵器の生産のために使用された一般名又は商品名、構造式及びCAS登録番号が付されている場合には当該番号
(ii) 化学物質が生産された日及び生産量
(iii) 化学物質が送られた場所及び判明している場合には当該場所において生産された最終生成物
締約国に対する情報
11 このAの規定に従って申告された事業所の一覧表については、6、7(a)、7(c)、8(a)及び10の規定に従って提供された情報と共に、要請に応じ、締約国に対し技術事務局が送付する。
B 検証
総則
12 第六条5に規定する検証については、申告された事業所であって、三十トンの申告に関する基準を超える表3の化学物質の生産の総量が、前暦年において二百トンを超え又は翌暦年において二百トンを超えると予想されるものにおいて、現地査察を通じて行う。
13 第八条21(a)の規定に従って会議が採択する機関の計画及び予算には、第七部13の規定を考慮して、このBの規定に基づく検証のための計画及び予算を別個の項目として含める。
14 技術事務局は、このBの規定に基づく査察については、次の考慮すべき要素を基礎として、適当な仕組み(例えば、特別に設計されるコンピュータ・ソフトウェアの利用)により、査察を行う事業所を無作為に選定する。
(a) 査察の衡平な地理的配分
(b) 申告された事業所に関する技術事務局が入手可能な情報であって、化学物質、当該事業所の性質及び当該事業所において行われる活動の性質に関係するもの
15 いかなる事業所も、このBの規定による査察を年二回を超えて受けない。ただし、このことは、第九条の規定に基づく査察を制限するものではない。
16 技術事務局は、このBの規定に基づく査察を行う事業所を選定するに当たり、この部及び第九部の規定に従って締約国が一暦年において受ける査察の合計の回数に関する次の制限を遵守する。当該回数は、この部及び第九部の規定に従って締約国が申告する事業所の総数の五パーセントに三を加えた数又は二十のうちいずれか低い方の数を超えてはならない。
査察の目的
17 Aの規定に従って申告された事業所においては、査察は、活動が申告において提供された情報に合致していることを検証することを一般的な目的とする。当該査察は、特に、第六部の規定に従う場合を除くほか表1の化学物質が存在しないこと(特にその生産が行われていないこと)を検証することを目的とする。
査察手続
18 合意される指針、この附属書の他の関連規定及び秘密扱いに関する附属書のほか、19から25までの規定を適用する。
19 施設協定は、被査察締約国が要請する場合を除くほか、締結しない。
20 査察については、申告された事業所内の申告された工場であって表3の化学物質を扱うものを中心に行う。査察団が第二部51の規定に基づいてあいまいな点を解消するため当該事業所の他の部分へのアクセスを認めることを要請する場合には、当該アクセスの範囲は、査察団と被査察締約国との間で合意する。
21 査察団及び被査察締約国が記録へのアクセスが査察の目的を達成するために役立つことを一致して認める場合には、査察団は、当該アクセスを認められる。
22 試料の採取及び現地における分析は、化学物質に関する附属書の表に掲げる化学物質であって申告されていないものが存在しないことを点検するために行うことができる。あいまいな点が解消されない場合には、試料については、被査察締約国との合意に従い、指定された現地外の実験施設において分析することができる。
23 査察が行われる区域には、次のものを含めることができる。
(a) 原料となる化学物質(反応体)を搬入し又は貯蔵する場所
(b) 反応器に注入する前に反応体に対し処理を施す場所
(c) 適当な場合には(a)又は(b)の場所から反応器へ通ずる仕込配管(弁類、流量計等を含む。)
(d) 反応器の外面及び附属設備
(e) 反応器から、長期間若しくは短期間貯蔵するための場所又は申告された表3の化学物質を更に加工するための設備へ通ずる配管
(f) (a)から(e)までのいずれかに関連する制御設備
(g) 廃棄物及び排水の取扱いのための設備及び場所
(h) 規格外の化学物質の処分のための設備及び場所
24 査察期間は、二十四時間を超えてはならない。ただし、査察団と被査察締約国との間の合意により延長することができる。
査察の通告
25 締約国は、技術事務局により、査察が行われる事業所に査察団が到着する少なくとも百二十時間前までに査察の通告を受ける。
C この条約の締約国でない国に対する移譲
26 締約国は、この条約の締約国でない国に対して表3の化学物質を移譲する場合には、移譲する化学物質がこの条約によって禁止されていない目的のためにのみ使用されることを確保するため、必要な措置をとる。特に、締約国は、受領国に対し、移譲する化学物質について、次のことを表明する証明書を要請する。
(a) この条約によって禁止されていない目的のためにのみ使用すること。
(b) 再移譲しないこと。
(c) 種類及び量
(d) 最終用途
(e) 最終使用者の名称及び住所
27 会議は、この条約が効力を生じた後五年を経過した時に、この条約の締約国でない国に対する表3の化学物質の移譲に関して他の措置をとる必要性について検討する。
第九部 第六条に規定するこの条約によって禁止されていない活動(他の化学物質を生産する施設のための制度)
A 申告
他の化学物質を生産する施設の一覧表
1 第六条7の規定に従って締約国が行う冒頭申告には、次のいずれかに該当するすべての事業所の一覧表を含める。
(a) 化学物質に関する附属書の表に掲げていない識別可能な有機化学物質を前暦年において二百トンを超えて合成により生産した事業所
(b) 化学物質に関する附属書の表に掲げていない識別可能な有機化学物質であって、りん、硫黄又はふっ素の元素を含むもの(以下「PSF化学物質」という。)を前暦年において三十トンを超えて合成により生産した一又は二以上の工場(以下「PSF工場」という。)を有する事業所
2 1の規定に従って提出する他の化学物質を生産する施設の一覧表には、火薬類又は炭化水素類のみを生産する事業所を含めない。
3 締約国は、この条約が自国について効力を生じた後三十日以内に、他の化学物質を生産する施設の一覧表を1の規定に従って自国の冒頭申告の一部として提出するものとし、翌暦年の及びその後の各暦年の開始の後九十日以内に、当該一覧表を改定するために必要な情報を毎年提供する。
4 1の規定に従って提出する他の化学物質を生産する施設の一覧表には、各事業所についての次の事項に関する情報を含める。
(a) 当該事業所の名称、その所有者の名称及び当該事業所を運営する会社又は企業の名称
(b) 当該事業所の正確な所在地(住所を含む。)
(c) 当該事業所の主要な活動
(d) 当該事業所において1に規定する化学物質を生産する工場のおよその数
5 1(a)の規定に従って掲げる事業所の一覧表には、当該事業所についての化学物質に関する附属書の表に掲げていない識別可能な有機化学物質の前暦年におけるおよその総生産量を次の範囲で明示する情報を含める。千トン未満、千トン以上一万トン以下及び一万トン超
6 1(b)の規定に従って掲げる事業所の一覧表には、当該事業所内のPSF工場の数を明示し、及び各PSF工場が前暦年において生産したPSF化学物質のおよその総量を次の範囲で明示する情報を含める。二百トン未満、二百トン以上千トン未満、千トン以上一万トン以下及び一万トン超
技術事務局の援助
7 締約国は、1の規定に従って化学物質を生産する施設の一覧表を作成するに当たり、事務的な理由により援助を要請することが必要であると認める場合には、援助を提供するよう技術事務局に要請することができる。当該一覧表を完全なものとすることに関する問題については、その後、当該締約国と技術事務局との間の協議により解決する。
締約国に対する情報
8 1の規定に従って提出された他の化学物質を生産する施設の一覧表については、4の規定に従って提供された情報と共に、要請に応じ、締約国に対し技術事務局が送付する。
B 検証
総則
9 第六条6に規定する検証については、Cの規定に従って次に掲げる事業所において現地査察を通じて行う。
(a) 1(a)の規定に従って一覧表に掲げられた事業所
(b) 1(b)の規定に従って一覧表に掲げられた事業所であって、PSF化学物質を前暦年において二百トンを超えて生産した一又は二以上のPSF工場を有するもの
10 第八条21(a)の規定に従って会議が採択する機関の計画及び予算には、このBの規定に基づく検証のための計画及び予算をその検証の実施が開始された後別個の項目として含める。
11 技術事務局は、このBの規定に基づく査察については、次の考慮すべき要素を基礎として、適当な仕組み(例えば、特別に設計されるコンピュータ・ソフトウェアの利用)により、査察を行う事業所を無作為に選定する。
(a) 査察の衡平な地理的配分
(b) 他の化学物質を生産する施設の一覧表に掲げられた事業所に関する技術事務局が入手可能な情報であって、当該事業所の性質及び当該事業所において行われる活動に関係するもの
(c) 25の規定に従って合意する基準に基づいて締約国が行う提案
12 いかなる事業所も、このBの規定による査察を年二回を超えて受けない。ただし、このことは、第九条の規定に基づく査察を制限するものではない。
13 技術事務局は、このBの規定に基づく査察を行う事業所を選定するに当たり、第八部及びこの部の規定に従って締約国が一暦年において受ける査察の合計の回数に関する次の制限を遵守する。当該回数は、第八部及びこの部の規定に従って締約国が申告する事業所の総数の五パーセントに三を加えた数又は二十のうちいずれか低い方の数を超えてはならない。
査察の目的
14 Aの規定に従って他の化学物質を生産する施設の一覧表に掲げられた事業所においては、査察は、活動が申告において提供された情報に合致していることを検証することを一般的な目的とする。当該査察は、特に、第六部の規定に従う場合を除くほか表1の化学物質が存在しないこと(特にその生産が行われていないこと)を検証することを目的とする。
査察手続
15 合意される指針、この附属書の他の関連規定及び秘密扱いに関する附属書のほか、16から20までの規定を適用する。
16 施設協定は、被査察締約国が要請する場合を除くほか、締結しない。
17 査察については、査察のために選定された事業所において1に規定する化学物質を生産する工場、特に、1(b)の規定に従って一覧表に掲げられたPSF工場を中心に行う。被査察締約国は、第十部Cに規定する管理されたアクセスの規則に従い、これらの工場へのアクセスを管理する権利を有する。査察団が第二部51の規定に基づいてあいまいな点を解消するため当該事業所の他の部分へのアクセスを認めることを要請する場合には、当該アクセスの範囲は、査察団と被査察締約国との間で合意する。
18 査察団及び被査察締約国が記録へのアクセスが査察の目的を達成するために役立つことを一致して認める場合には、査察団は、当該アクセスを認められる。
19 試料の採取及び現地における分析は、化学物質に関する附属書の表に掲げる化学物質であって申告されていないものが存在しないことを点検するために行うことができる。あいまいな点が解消されない場合には、試料については、被査察締約国との合意に従い、指定された現地外の実験施設において分析することができる。
20 査察期間は、二十四時間を超えてはならない。ただし、査察団と被査察締約国との間の合意により延長することができる。
査察の通告
21 締約国は、技術事務局により、査察が行われる事業所に査察団が到着する少なくとも百二十時間前までに査察の通告を受ける。
C Bの規定の実施及び検討
実施
22 Bの規定については、会議がこの条約が効力を生じた後の三番目の年における通常会期において別段の決定を行う場合を除くほか、この条約が効力を生じた後の四番目の年の開始の時から実施する。
23 事務局長は、この条約が効力を生じた後の三番目の年における会議の通常会期のため、第七部、第八部及びこの部のAの規定の実施に当たって得られた技術事務局の経験の概要を記載した報告を作成する。
24 会議は、この条約が効力を生じた後の三番目の年における通常会期において、事務局長の報告に基づき、Bの規定に基づく検証のために利用可能な資金をPSF工場と他の化学物質を生産する施設との間にどのように配分するかについて決定することができる。会議がその決定を行わない場合には、この配分は、技術事務局の専門的意見にゆだねられるものとし、11の考慮すべき要素に加えられる。
25 会議は、この条約が効力を生じた後の三番目の年における通常会期において、執行理事会の助言により、11に規定する選定の過程における考慮すべき要素として締約国がいかなる基準(例えば、地域)に基づいて査察についての提案を行うべきであるかを決定する。
検討
26 この部の規定については、第八条22の規定に従って開催される会議の第一回特別会期において、得られた経験を基礎として、化学産業の検証制度全般(第六条の規定及び第七部からこの部までの規定)の広範な検討に照らして再検討する。会議は、その後、検証制度をより効果的なものにするため勧告を行う。
第十部 第九条の規定に基づく申立てによる査察
A 査察員及び査察補の指名及び選定
1 第九条の規定に基づく申立てによる査察は、この任務のために特別に指名される査察員及び査察補のみによって行われる。事務局長は、同条の規定に基づく申立てによる査察のための査察員及び査察補を指名するため、通常の査察活動のための査察員及び査察補の中から査察員及び査察補を選定することにより、提案する査察員及び査察補の名簿を作成する。当該名簿は、査察員及び査察補の利用可能性並びにこれらの者の交替が必要であることを考慮して、査察員の選定を柔軟に行うことができるように必要な資格、経験、技術及び訓練を有する十分な数の査察員及び査察補によって構成する。できる限り広範な地理的基礎に基づいて査察員及び査察補を選定することが重要であることについても、十分な考慮を払う。査察員及び査察補の指名については、第二部Aに規定する手続に従う。
2 事務局長は、具体的な要請の事情を考慮して、査察団の規模を決定し、及びその構成員を選定する。査察団の規模については、査察命令を適正に遂行するために必要な最小限度に保つ。要請締約国又は被査察締約国の国民は、査察団の構成員となることはできない。
B 査察の事前の活動
3 締約国は、申立てによる査察のための査察の要請を行う前に、技術事務局が当該要請に応じて直ちに措置をとることができることの確認を事務局長に求めることができる。事務局長は、当該確認を直ちに与えることができない場合には、確認を求められた順序に従ってできる限り早い機会に当該確認を行う。事務局長は、また、当該要請に応じて直ちに措置をとることができる時期についての見込みを当該締約国に常時通報する。事務局長は、要請に応じて適時の措置をとることができないとの結論に達する場合には、将来において事態を改善するための適当な措置をとるよう執行理事会に求めることができる。
通告
4 執行理事会及び事務局長に対して行う申立てによる査察の要請には、少なくとも、次の事項に関する情報を含める。
(a) 査察が行われる締約国及び適当な場合には接受国
(b) 使用される入国地点
(c) 査察施設の規模及び種類
(d) この条約の違反の可能性についての懸念(当該懸念に関係するこの条約の規定の明示、可能性のある違反の性質及び状況の明示並びに当該懸念を引き起こす基礎となったすべての適当な情報を含む。)
(e) 要請締約国のオブザーバーの氏名
要請締約国は、必要と認める追加の情報を提出することができる。
5 事務局長は、一時間以内に要請締約国に対しその要請の受領を確認する。
6 要請締約国は、査察団の入国地点への到着予定時刻の少なくとも十二時間前までに事務局長が被査察締約国に対し査察施設の所在地に関する情報を提供することができるように、適当な時に査察施設の所在地を事務局長に通報する。
7 査察施設については、地理上の座標(可能な場合には最も近い秒を明示する。)を付した施設の図面を提供することにより、要請締約国ができる限り具体的に指定する。要請締約国は、また、可能な場合には、査察施設の概略を付した地図及び査察施設の要請外縁をできる限り正確に明示する図面を提供する。
8 要請外縁は、
(a) 建物又はその他の工作物から外側に少なくとも十メートルの距離を置くものとする。
(b) 既存の警備用の囲いを横切ってはならない。
(c) 要請締約国が要請外縁の中に含めることを意図する既存の警備用の囲いから外側に少なくとも十メートルの距離を置くものとする。
9 要請外縁が8の規定に適合しない場合には、当該要請外縁については、8の規定に適合するように査察団が変更する。
10 事務局長は、査察団の入国地点への到着予定時刻の少なくとも十二時間前までに、7に規定する査察施設の所在地について執行理事会に通報する。
11 事務局長は、10の規定に従って執行理事会に通報すると同時に、査察の要請(7に規定する査察施設の所在地を含む。)を被査察締約国に伝達する。この通告には、第二部32に規定する情報も含める。
12 査察団の入国地点への到着の時に、被査察締約国は、査察団により査察命令について通報を受ける。
被査察締約国又は接受国の領域への入国
13 事務局長は、第九条の13から18までの規定に従い、査察の要請を受領した後できる限り速やかに査察団を派遣する。査察団は、10及び11の規定に適合して、かつ、最小限度の時間内に、査察の要請に明示される入国地点に到着する。
14 被査察締約国が要請外縁を受け入れることができる場合には、要請外縁は、できる限り速やかに、いかなる場合にも査察団の入国地点への到着の後二十四時間以内に、最終外縁として指定される。被査察締約国は、査察団を査察施設の最終外縁に輸送する。被査察締約国が必要と認める場合には、その輸送の開始の時刻については、最終外縁の指定のためにこの14に定める期限の十二時間前を限度として早めることができる。その輸送については、いかなる場合にも査察団の入国地点への到着の後三十六時間以内に完了する。
15 すべての申告された施設については、次の(a)及び(b)の手続を適用する(この部の規定の適用上、「申告された施設」とは、第三条から第五条までの規定に従って申告されたすべての施設をいう。第六条の規定に関しては、「申告された施設」とは、第六部の規定に従って申告された施設並びに第七部の7及び10(c)の規定並びに第八部の7及び10(c)の規定による申告によって明示された工場のみをいう。)。
(a) 要請外縁が申告外縁に含まれ又は一致する場合には、申告外縁を最終外縁と認める。ただし、最終外縁は、被査察締約国が合意する場合には、要請締約国の要請する外縁に一致するように縮小することができる。
(b) 被査察締約国は、実行可能な限り速やかに最終外縁に査察団を輸送するものとし、いかなる場合にも査察団の入国地点への到着の後二十四時間以内に当該査察団が最終外縁に到着することを確保する。
最終外縁の代替的な決定
16 被査察締約国は、要請外縁を受け入れることができない場合には、入国地点において、できる限り速やかに、いかなる場合にも査察団の入国地点への到着の後二十四時間以内に、代替外縁を提案する。意見の相違がある場合には、被査察締約国及び査察団は、最終外縁に関して合意に達するために交渉を行う。
17 代替外縁は、8の規定に従ってできる限り具体的に指定されるべきである。代替外縁は、要請外縁の全体を包含するものとし、自然の地形の特徴及び人工の境界を考慮して、原則として要請外縁と密接な関係を有するものとすべきである。代替外縁については、周囲に警備用障壁が存在する場合には、通常、これに近接するものとすべきである。被査察締約国は、次に掲げる要件のうち少なくとも二のものを満たすことにより、これらの外縁の間にこの17に定める関係を確立することに努めるべきである。
(a) 代替外縁を要請外縁の区域より著しく大きい区域に拡大しないこと。
(b) 代替外縁を要請外縁から短い一様の距離に保つこと。
(c) 要請外縁の少なくとも一部が代替外縁から目で見えるものとすること。
18 査察団が代替外縁を受け入れることができる場合には、代替外縁は、最終外縁となるものとし、査察団は、入国地点から最終外縁に輸送される。被査察締約国が必要と認める場合には、その輸送の開始の時刻については、代替外縁の提案のために16に定める期限の十二時間前を限度として早めることができる。その輸送については、いかなる場合にも査察団の入国地点への到着の後三十六時間以内に完了する。
19 最終外縁について合意されない場合には、外縁についての交渉は、できる限り速やかに完了するものとし、いかなる場合にも査察団の入国地点への到着の後二十四時間を超えて継続してはならない。合意に達しない場合には、被査察締約国は、査察団を代替外縁上の地点に輸送する。当該被査察締約国が必要と認める場合には、その輸送の開始の時刻については、代替外縁の提案のために16に定める期限の十二時間前を限度として早めることができる。その輸送については、いかなる場合にも査察団の入国地点への到着の後三十六時間以内に完了する。
20 19の代替外縁上の地点への到着の後、被査察締約国は、最終外縁についての交渉及び合意並びに最終外縁内へのアクセスを促進するため、代替外縁への速やかなアクセスを査察団に認める。
21 19の代替外縁上の地点への査察団の到着の後七十二時間以内に合意に達しない場合には、当該代替外縁が最終外縁として指定される。
査察施設の所在地の検証
22 査察団は、査察団が輸送された査察施設が要請締約国の指定する査察施設に一致することを確かめるため、所在地の確認のための装置であって承認されたものを使用し及び自己の指示により当該装置を設置させる権利を有する。査察団は、地図上において識別される地域的な目標によって査察施設の所在地を検証することができる。被査察締約国は、この作業において査察団を援助する。
査察施設の保全(退去の監視)
23 被査察締約国は、査察団の入国地点への到着の後十二時間以内に、要請外縁のすべての出口(陸路、空路及び水路を利用するすべての輸送機関のためのもの)からのすべての輸送機関による退去について事実関係の情報の収集を開始する。被査察締約国は、査察団が代替外縁又は最終外縁のうち最初に到着する外縁への到着の時に査察団に対しこの情報を提供する。
24 23に規定する義務については、輸送の記録、写真撮影若しくはビデオ録画又は査察団が退去を監視するために提供する化学的証拠の検知用装置によって得られる資料によって事実関係の情報を収集することにより、履行することができる。これに代えて、被査察締約国は、査察団の一又は二以上の構成員が独自に、輸送の記録を作成し、写真を撮影し、退去のための輸送のビデオ録画を作成し若しくは化学的証拠の検知用装置を使用すること又は当該被査察締約国と査察団との間で合意する他の活動を行うことを認めることによっても、当該義務を履行することができる。
25 査察団が代替外縁又は最終外縁のうち最初に到着する外縁への到着の時に、査察施設の保全(査察団による退去の監視の手続)を開始する。
26 25の手続は、査察団による輸送機関のための出口の特定並びに、当該出口及びそれを利用する輸送に関し、査察団による記録の作成、写真撮影及びビデオ録画の作成を行うことを含むものとする。査察団は、査察施設から退去するための輸送が他に行われないことを点検するため同行員を伴い外縁の他のいかなる場所にも赴く権利を有する。
27 退去の監視のための追加的な手続であって査察団及び被査察締約国が合意するものには、特に、次の事項を含めることができる。
(a) 感知器の使用
(b) 無作為の選定によるアクセス
(c) 試料の分析
28 査察施設の保全及び退去の監視は、すべて、外縁から外側五十メートルを超えない幅の地帯内で行う。
29 査察団は、管理されたアクセスの範囲内で、査察施設からの輸送機関による退去について査察を行う権利を有する。被査察締約国は、査察の対象となる輸送機関であって査察団が十分なアクセスを認められないものが、査察の要請において提起されたこの条約の違反の可能性についての懸念と関係する目的のために使用されていないことを査察団に対して証明するため、あらゆる合理的な努力を払う。
30 査察施設に入る施設の要員及び輸送機関並びに査察施設を退去する施設の要員及び個人の乗用の輸送機関は、査察の対象とならない。
31 退去の監視の手続については、査察が行われている間継続することができる。ただし、査察施設の正常な操業を不当に妨げ又は遅滞させてはならない。
査察の事前の説明及び査察のための計画
32 査察のための計画の作成を容易にするため、被査察締約国は、査察団にアクセスを認めるのに先立ち、安全上の措置及び受入れに関する措置についての説明を当該査察団に対して行う。
33 査察の事前の説明は、第二部37の規定に従って行う。被査察締約国は、査察の事前の説明において、査察団に対し、機微に係るものでありかつ申立てによる査察の目的に関係しないと認める設備、文書又は場所を示すことができる。更に、査察施設について責任を有する要員は、当該査察施設の物理的な配置及び他の特徴について査察団に説明する。査察団は、当該査察施設のすべての工作物及び主要な地理的な特徴を示す縮尺された地図又は略図の提供を受ける。査察団は、また、施設の要員及び記録の利用可能性について説明を受ける。
34 査察団は、査察の事前の説明の後、自己にとって利用可能かつ適当な情報に基づき、自己が行う活動(査察施設においてアクセスを望む具体的な場所を含む。)を明示する査察のための最初の計画を作成する。当該計画は、また、査察団を小集団に分割するか否かを明示する。当該計画については、被査察締約国及び査察施設の代表者に提供する。当該計画の実施は、Cの規定(アクセス及び活動に関する規定を含む。)に適合したものとする。
外縁における活動
35 査察団は、最終外縁又は代替外縁のうち最初に到着する外縁への到着の時に、このBに規定する手続に従って直ちに外縁における活動を開始し及び申立てによる査察が完了するまでこれらの活動を継続する権利を有する。
36 査察団は、外縁における活動を行うに当たり、次のことを行う権利を有する。
(a) 第二部の27から30までの規定に従って監視のための機器を使用すること。
(b) ふき取りにより試料を採取すること及び空気、土壌又は排水の試料を採取すること。
(c) 自己と被査察締約国との間で合意する追加的な活動を行うこと。
37 査察団の外縁における活動は、外縁から外側五十メートルを限度とする幅の地帯内で行うことができる。査察団は、また、被査察締約国が合意する場合には、当該地帯内の建物又は工作物に対するアクセスを認められる。すべての指向性を有する監視については、外縁の内側に向ける。申告された施設については、被査察締約国の裁量により、当該地帯は、申告外縁の内側、外側又は双方の側に設けることができる。
C 査察の実施
一般規則
38 被査察締約国は、要請外縁内又は要請外縁が最終外縁と異なる場合には最終外縁内でのアクセスを認める。これらの外縁内での具体的な場所へのアクセスの程度及び性質については、管理されたアクセスを基礎として査察団と被査察締約国との間で交渉を行う。
39 被査察締約国は、査察の要請において提起されたこの条約の違反の可能性についての懸念を解消するため、できる限り速やかに、いかなる場合にも査察団の入国地点への到着の後百八時間以内に、要請外縁内でのアクセスを認める。
40 被査察締約国は、査察団の要請に応じ、査察施設への空中からのアクセスを認めることができる。
41 被査察締約国は、38に規定するアクセスを認めるに当たり、財産権又は捜索及び押収に関して当該被査察締約国が有する憲法上の義務を考慮して、最大限度のアクセスを認める義務を負う。被査察締約国は、管理されたアクセスにより、国家の安全保障を保護するために必要な措置をとる権利を有する。この41の規定は、この条約によって禁止されている活動を行ってはならないとの義務の回避を隠すために被査察締約国が援用することはできない。
42 被査察締約国は、場所、活動又は情報への十分なアクセスを認めない場合には、申立てによる査察を引き起こしたこの条約の違反の可能性についての懸念を解消するための代替的な手段を提供するため、あらゆる合理的な努力を払う義務を負う。
43 第四条から第六条までの規定に従って申告された施設の最終外縁への到着の後、査察の事前の説明及び査察のための計画についての討議に引き続いてアクセスが認められる。この場合において、当該説明及び討議は、必要な最小限度に限られるものとし、いかなる場合にも三時間を超えてはならない。第三条1(d)の規定に従って申告された施設については、最終外縁への到着の後十二時間以内に、交渉を行い、及び管理されたアクセスを開始する。
44 査察団は、査察の要請に従って申立てによる査察を行うに当たり、この条約の違反の可能性についての懸念を解消するのに十分な関連する事実を提供するために必要な方法のみを使用するものとし、当該懸念の解消に関連しない活動を慎む。査察団は、被査察締約国によるこの条約の違反の可能性に関係する事実を収集し及び記録するものとし、被査察締約国が明示的に要請する場合を除くほか、明らかに関係のない情報を求め又は記録してはならない。収集された資料であって収集後に関連しないことが判明したものについては、保有してはならない。
45 査察団は、できる限り干渉の程度が低く、かつ、任務の効果的な及び適時の遂行に合致する方法で申立てによる査察を行うとの原則を指針とする。査察団は、できる限り、自己が受入れ可能と認める手続のうち最も干渉の程度が低い手続からとるものとし、自己が必要と認める場合にのみ、より干渉の程度が高い手続に移行する。
管理されたアクセス
46 査察団は、化学兵器に関係しない機微に係る設備、情報又は場所の保護を確保するため、被査察締約国が行う査察のための計画の変更の提案その他の提案(事前の説明の段階を含め査察のいかなる段階で行われるかを問わない。)を考慮する。
47 被査察締約国は、アクセスのために使用される外縁に出入りするための地点を指定する。査察団及び被査察締約国は、48の規定による最終外縁内及び要請外縁内の具体的な場所へのアクセスの程度、査察団が行う具体的な査察活動(試料の採取を含む。)、被査察締約国による具体的な活動の実施並びに被査察締約国による具体的な情報の提供について交渉する。
48 被査察締約国は、秘密扱いに関する附属書の規定に従い、化学兵器に関係しない機微に係る設備を保護し並びに化学兵器に関係しない秘密の情報及び資料の開示を防止するための措置をとる権利を有する。当該措置には、特に、次のことを含めることができる。
(a) 機微に係る文書を事務所内から撤去すること。
(b) 機微に係る表示、貯蔵品及び設備を覆うこと。
(c) 設備の機微に係る部品(例えば、コンピュータ又は電子系統)を覆うこと。
(d) コンピュータ・システムのオンライン接続を終了し及びデータ表示装置の使用を終了すること。
(e) 化学物質に関する附属書の表1から表3までに掲げる化学物質又は適当な分解生成物が存在するか否かについての試料の分析を制限すること。
(f) 無作為の選定に基づくアクセスの方法を採用すること。当該方法を採用する場合には、査察員は、査察を行う特定の割合又は数の建物を任意に選定することを要請される。同様の方法は、機微に係る建物の内部及び当該建物内にある物について適用することができる。
(g) 例外的な場合には、査察施設の特定の場所へのアクセスを個々の査察員にのみ与えること。
49 被査察締約国は、査察団が十分なアクセスを認められず又は48の規定に従って保護された物件、建物、工作物、容器又は輸送機関が、査察の要請において提起されたこの条約の違反の可能性についての懸念と関係する目的のために使用されていないことを査察団に対して証明するため、あらゆる合理的な努力を払う。
50 49の規定については、特に、覆い又は環境を保護するための遮蔽(へい)物を被査察締約国の裁量により部分的に撤去する方法、囲われている場所の入口からその内部を目視によって査察する方法その他の方法により、達成することができる。
51 第四条から第六条までの規定に従って申告された施設については、次の規定を適用する。
(a) 施設協定を締結した施設については、最終外縁内のアクセス及び活動は、当該施設協定によって定められる境界内において阻害されない。
(b) 施設協定を締結していない施設については、アクセス及び活動についての交渉は、この条約に定める査察のための一般的な指針によって規律される。
(c) 第四条から第六条までの規定に基づく査察のために認められるアクセスを超えるアクセスは、このCに定める手続に従って管理される。
52 第三条1(d)の規定に従って申告された施設については、被査察締約国は、47及び48に規定する手続により、化学兵器に関係しない場所又は工作物への十分なアクセスを認めなかった場合には、当該場所又は工作物が査察の要請において提起されたこの条約の違反の可能性についての懸念と関係する目的のために使用されていないことを査察団に対して証明するため、あらゆる合理的な努力を払う。
オブザーバー
53 要請締約国は、申立てによる査察におけるオブザーバーの参加に関する第九条12の規定に従い、オブザーバーが査察団の到着の時から合理的な期間内に査察団と同一の入国地点に到着するよう調整するため、技術事務局と連絡を保つ。
54 オブザーバーは、査察期間中、被査察締約国若しくは接受国に所在する要請締約国の大使館又は大使館が存在しない場合には要請締約国と連絡を取る権利を有する。被査察締約国は、オブザーバーに対し通信手段を提供する。
55 オブザーバーは、査察施設の代替外縁又は最終外縁のうち査察団が最初に到着する外縁に到着する権利及び被査察締約国により当該査察施設へのアクセスが認められる権利を有する。オブザーバーは、査察団に対し勧告を行う権利を有するものとし、査察団は、適当と認める範囲内でその勧告を考慮する。査察団は、査察が行われている間を通じて査察の実施及び調査結果についてオブザーバーに常時通報する。
56 国内滞在期間を通じて、被査察締約国は、オブザーバーが必要とする便宜(例えば、通信手段、通訳、輸送、作業場所、宿泊、食事、医療)を提供し又はそのための措置をとる。被査察締約国又は接受国の領域内におけるオブザーバーの滞在に係るすべての費用については、要請締約国が負担する。
査察期間
57 査察期間は、被査察締約国との合意により延長する場合を除くほか、八十四時間を超えてはならない。
D 査察の事後の活動
出国
58 査察団及び要請締約国のオブザーバーは、査察施設における査察の事後の手続が完了した後速やかに入国地点に赴くものとし、最小限度の時間内に被査察締約国の領域から退去する。
報告
59 査察の報告については、査察団が行った活動及び査察団による事実関係の調査結果(特に、申立てによる査察の要請において示されたこの条約の違反の可能性についての懸念に関するもの)を概括的に要約するものとし、この条約に直接関係する情報のみを含める。当該報告には、また、査察員に対して認められたアクセス及び協力の程度及び性質並びに当該アクセス及び協力が査察団が査察命令を遂行することをどの程度可能にしたかについての当該査察団による評価を含める。申立てによる査察の要請において示されたこの条約の違反の可能性についての懸念に関係する詳細な情報は、最終報告の附属として提出され、及び機微に係る情報を保護するための適当な保護措置の下で技術事務局内で保有される。
60 査察団は、その主要な勤務地に戻った後七十二時間以内に、特に、秘密扱いに関する附属書17の規定を考慮し、査察のとりあえずの報告を事務局長に提出する。事務局長は、当該報告を要請締約国、被査察締約国及び執行理事会に速やかに送付する。
61 査察の最終報告案については、申立てによる査察の完了の後二十日以内に被査察締約国に提供する。被査察締約国は、化学兵器に関係しない情報及び資料であって、その秘密性のため技術事務局の外部に送付されるべきでないと認めるものを特定する権利を有する。技術事務局は、当該報告案の変更について被査察締約国が行う提案を検討し、及び裁量により、可能な限り当該提案を採用する。その後、査察の最終報告については、申立てによる査察の完了の後三十日以内に、第九条の21から25までの規定に従って行われる配布及び検討のため、事務局長に提出する。
第十一部 化学兵器の使用の疑いがある場合における調査
A 総則
1 化学兵器の使用又は戦争の方法としての暴動鎮圧剤の使用の疑いがある場合に第九条又は第十条の規定に従って開始される調査については、この附属書及び事務局長が定める詳細な手続に従って行う。
2 化学兵器の使用の疑いがある場合に必要な具体的な手続は、次の追加的な規定によるものとする。
B 査察の事前の活動
調査の要請
3 事務局長に提出する化学兵器の使用の疑いがある場合の調査の要請には、可能な範囲内で、次の事項に関する情報を含めるべきである。
(a) その領域内で化学兵器が使用された疑いのある締約国
(b) 入国地点又はアクセスのための他の安全な経路についての提案
(c) 化学兵器が使用された疑いのある場所の所在地及び性質
(d) 化学兵器が使用された疑いのある時期
(e) 使用されたと思われる化学兵器の種類
(f) 疑いのある化学兵器の使用の程度
(g) 使用された可能性のある毒性化学物質の性質
(h) 人、動物及び植物に対する影響
(i) 適当な場合には具体的な援助の要請
4 調査を要請した締約国は、必要と認める追加の情報をいつでも提出することができる。
通告
5 事務局長は、調査を要請した締約国に対しその要請の受領を直ちに確認し、並びに執行理事会及びすべての締約国に通報する。
6 事務局長は、適当な場合には、その領域内において調査を行うことが要請された締約国に通告する。事務局長は、また、調査が行われている間他の締約国の領域へのアクセスが必要となる可能性がある場合には、当該他の締約国に通告する。
査察団の選任
7 事務局長は、資格を有する専門家であって特定の分野におけるその専門的知識が化学兵器の使用の疑いがある場合の調査において必要となるものの名簿を作成し及びこれを常時改定する。当該名簿については、この条約が効力を生じた後三十日以内及び当該名簿が改定されるごとに、各締約国に対し書面により通報する。当該名簿に掲げる資格を有する専門家は、各締約国が当該名簿の受領の後三十日以内に書面により受け入れない旨を宣言する場合を除くほか、指名されたものとみなす。
8 事務局長は、具体的な要請の事情及び特性を考慮して、申立てによる査察のために既に指名されている査察員及び査察補の中から査察団長及び査察団の構成員を選定する。更に、具体的な調査の適切な実施のために必要とされる専門的知識が既に指名されている査察員からは得られないと事務局長が認める場合には、査察団の構成員は、資格を有する専門家の名簿の中から選定することができる。
9 事務局長は、査察団に対する説明に際し、査察が最も効果的かつ速やかに行われることを確保するため、調査を要請した締約国又はその他の者が提供した追加の情報を当該説明に含める。
査察団の派遣
10 事務局長は、化学兵器の使用の疑いがある場合の調査の要請を受領した後直ちに、関係締約国との連絡を通じ、査察団の安全な受入れのための措置を要請し及び確認する。
11 事務局長は、査察団の安全を考慮して、できる限り早い機会に当該査察団を派遣する。
12 調査の要請の受領の後二十四時間以内に査察団が派遣されなかった場合には、事務局長は、その遅滞の理由について執行理事会及び関係締約国に通報する。
説明
13 査察団は、到着の時に及び査察が行われている間はいつでも、被査察締約国の代表者から説明を受ける権利を有する。
14 査察団は、査察の開始の前に、特に事務的な措置及び安全上の措置の基礎となる査察のための計画を作成する。当該査察のための計画については、必要に応じて改定する。
C 査察の実施
アクセス
15 査察団は、使用された疑いのある化学兵器により影響を受ける可能性のあるすべての場所へのアクセスが認められる権利を有する。査察団は、また、当該化学兵器の使用についての効果的な調査に関連すると認める病院、難民の収容施設その他の場所へのアクセスが認められる権利を有する。これらのアクセスについては、査察団は、被査察締約国と協議する。
試料の採取
16 査察団は、必要と認める種類及び量の試料を採取する権利を有する。査察団が必要と認め、かつ、要請する場合には、被査察締約国は、査察員又は査察補の監督の下に、試料の採取を援助する。被査察締約国は、また、化学兵器が使用された疑いのある場所に隣接する区域及び査察団が要請する他の区域から適当な対照試料を採取することを許可し、並びにその採取に協力する。
17 使用の疑いがある場合の調査における重要な試料には、毒性化学物質、弾薬類及び装置、弾薬類及び装置の残滓(し)、環境に関する試料(例えば、空気、土壌、植物、水、雪)並びに人又は動物の生物医学上の試料(例えば、血液、尿、排せつ物、組織)を含める。
18 採取された試料と同一のものを入手することができず、かつ、試料の分析が現地外の実験施設において実施される場合において、要請があるときは、その分析の完了の後、残りの試料は、すべて被査察締約国に返還される。
査察施設の拡大
19 査察団が査察が行われている間に隣接する締約国に調査を拡大する必要があると認める場合には、事務局長は、当該締約国に対し、その領域へのアクセスの必要性について通告し、並びに査察団の安全な受入れのための措置を要請し及び確認する。
査察期間の延長
20 査察団が調査に関連する具体的な場所への安全なアクセスが可能でないと認める場合には、調査を要請した締約国に直ちに通報する。必要な場合には、安全なアクセスが認められ及び査察団がその任務を完了するまで査察期間を延長する。
面談
21 査察団は、使用された疑いのある化学兵器により影響を受けた可能性のある者と面談し及び当該者を検査する権利を有する。査察団は、また、当該化学兵器の使用の目撃者及び当該化学兵器の使用により影響を受けた可能性のある者を治療した又は当該者と接触した医療要員その他の者と面談する権利を有する。査察団は、利用可能な場合には、当該化学兵器の使用により影響を受けた可能性のある者の医療歴へのアクセスを認められ、及び適宜検死に参加することを許可される。
D 報告
手続
22 査察団は、被査察締約国の領域への到着の後二十四時間以内に、事務局長に対し状況報告を送付するものとし、更に、調査が行われている間を通じて、必要に応じ、経過報告を送付する。
23 査察団は、その主要な勤務地に戻った後七十二時間以内に、とりあえずの報告を事務局長に提出する。最終報告については、査察団がその主要な勤務地に戻った後三十日以内に事務局長に提出する。事務局長は、執行理事会及びすべての締約国に対し、とりあえずの報告及び最終報告を速やかに送付する。
内容
24 状況報告には、援助を緊急に必要としていることその他の関連する情報を記載する。経過報告には、援助が更に必要であることが調査の過程において明らかになった場合には、その旨を記載する。
25 最終報告は、特に調査の要請において示された使用された疑いのある化学兵器の使用についての事実関係の調査結果を要約したものとする。更に、当該使用に関する調査報告には、調査の過程についての説明(調査の各種の段階に応じたもの)であって特に次の事項に言及したものを含める。
(a) 試料の採取及び現地における分析が行われた場所及び時期
(b) 裏付けとなる証拠(例えば、面談の記録、医療上の検査及び科学的な分析の結果、査察団が調査した文書)
26 査察団が、その調査の過程において、特に、実験施設における採取した試料の分析を通じて不純物その他の物質を識別することによって、使用された化学兵器の出所を識別するために役立つ可能性のある情報を得た場合には、当該情報を報告に含める。
E この条約の締約国でない国
27 化学兵器がこの条約の締約国でない国に関係して又は締約国の管理の下にない領域内において使用された疑いがある場合には、機関は、国際連合事務総長と密接に協力する。機関は、要請がある場合には、その資源を同事務総長の利用に供する。
秘密情報の保護に関する附属書(「秘密扱いに関する附属書」)
目次
A 秘密情報の取扱いに関する一般原則
B 技術事務局の職員の雇用及び行為
C 現地における検証活動を行うに際し機微に係る設備を保護し及び秘密の資料の開示を防止するための措置
D 秘密の扱いに関する違反又は当該違反の疑いがある場合の手続
A 秘密情報の取扱いに関する一般原則
1 秘密情報を保護する義務は、非軍事上及び軍事上の活動及び施設の検証について適用する。機関は、第八条に規定する一般的な義務に従って次のことを行う。
(a) この条約に基づく機関の責任を適時、かつ、効果的に果たすために必要な最小限度の量の情報及び資料のみを要請すること。
(b) 査察員及び技術事務局のその他の職員が最高水準の能率、能力及び誠実性を満たすことを確保するために必要な措置をとること。
(c) この条約を実施するために協定及び規則を作成し並びに締約国により機関に対してアクセスが認められる情報をできる限り正確に明示すること。
2 事務局長は、秘密情報の保護を確保することについて主要な責任を負う。事務局長は、次の指針に従って、技術事務局による秘密情報の取扱いを規律する厳重な制度を確立する。
(a) 情報は、次のいずれかの場合には、秘密情報と認める。
(i) 当該情報を提供した締約国であって当該情報に関係するものが秘密情報として指定する場合
(ii) 認められていない情報の開示が、当該情報に関係する締約国又はこの条約の実施の枠組みに対し、損害を引き起こすことが合理的に予想されると事務局長が判断する場合
(b) 技術事務局が取得したすべての資料及び文書については、秘密情報を含むか否かを判断するため、技術事務局の適当な組織が評価する。締約国が他の締約国によるこの条約の継続的な遵守を確認するために必要であるとして要請する資料については、定期的に当該締約国に提供する。当該資料は、次のものを含む。
(i) 第三条から第六条までの規定及び検証附属書に従って締約国が行う冒頭報告、冒頭申告、年次報告及び年次申告
(ii) 検証活動の結果及びその実効性についての一般的な報告
(iii) この条約に従ってすべての締約国に提供される情報
(c) この条約の実施に関連して機関が取得したいかなる情報も、次のいずれかに該当する場合を除くほか、公表してはならず、又はその他の方法で提供してはならない。
(i) この条約の実施に関する一般的な情報については、会議又は執行理事会の決定に従い、取りまとめ、公開することができる。
(ii) いかなる情報も、当該情報に関係する締約国の明示の同意を得て提供することができる。
(iii) 秘密情報として分類された情報については、当該情報がこの条約の必要とするところに完全に一致する場合に限って提供されることを確保する手続によってのみ、機関が提供する。当該手続については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
(d) 秘密の資料又は文書に係る機微の水準については、当該資料又は文書の適切な取扱い及び保護を確保するために一律に適用される基準に基づいて定める。このため、この条約の作成過程における関連する作業を考慮して、情報を秘密の程度に関する適当な区分に分類すること及び情報の秘密性が維持される正当な期間を定めることを確保するための明確な基準を有する分類制度を導入する。当該分類制度は、その実施に当たって必要な柔軟性を維持しつつ、秘密情報を提供する締約国の権利を保護するものとする。当該分類制度については、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する。
(e) 秘密情報は、機関の構内で確実に保管する。資料又は文書の一部は、締約国の国内当局に保管することもできる。具体的な施設の査察のためにのみ必要となる機微に係る情報(特に、写真、図面その他の文書)については、当該施設において施錠の上、保管することができる。
(f) 情報については、技術事務局が、この条約の検証に関する規定の効果的な実施に最大限度適合するようにしつつ、当該情報が関係する施設を直接特定することができない方法で取り扱い及び保管する。
(g) 施設から持ち出す秘密情報の量については、この条約の検証に関する規定の適時の、かつ、効果的な実施のために必要な最小限度に保つ。
(h) 秘密情報へのアクセスについては、当該秘密情報の分類に従って規律する。機関内の秘密情報の配布については、知る必要がある場合にのみ配布するとの基準に厳重に従う。
3 事務局長は、技術事務局による秘密情報の取扱いを規律する制度の実施状況について、毎年、会議に報告する。
4 締約国は、機関から受領する情報をその情報に関して定められた秘密の水準に従って取り扱う。締約国は、要請に応じ、機関が締約国に提供する情報の取扱いの詳細を提供する。
B 技術事務局の職員の雇用及び行為
5 職員の雇用条件については、秘密情報へのアクセス及び秘密情報の取扱いがAの規定に従って事務局長が定める手続に適合することを確保するようなものとする。
6 技術事務局における職務上の地位に基づき秘密情報へのアクセスが必要である場合には、当該地位については、アクセスが認められる範囲を明示した正式の職務規則によって規律する。
7 事務局長及び査察員その他の職員は、その職を退いた後も、その公的任務の遂行に際して知るに至った秘密情報を権限のない者に開示してはならない。事務局長及び査察員その他の職員は、いずれかの締約国に関係する自己の活動に関連してアクセスが認められた情報を、いかなる国若しくは団体に対しても又は技術事務局外のいかなる個人に対しても提供してはならない。
8 査察員は、その任務を遂行するに当たり、その査察命令を遂行するために必要な情報及び資料のみを要請する。査察員は、随伴的に収集した情報であって、この条約の遵守についての検証に関係しないものの記録は作成しない。
9 職員は、個々に、その雇用期間中及び雇用期間の終了の後五年間に適用される秘密の保護に関する契約を技術事務局と締結する。
10 査察員その他の職員は、不当な開示を避けるため、警備上考慮すべきことにつき適切に助言を受け、及び不当に開示した場合に課される制裁につき適切に注意を喚起される。
11 締約国の領域内又はその管轄若しくは管理の下にあるその他の場所における活動に関する秘密情報へのアクセスが職員に対して認められる少なくとも三十日前までに、当該締約国は、当該職員に対して認められる予定のアクセスについて通報を受ける。ただし、査察員については、当該査察員の指名の提案のための通報をもって足りるものとする。
12 査察員その他の技術事務局の職員の任務の遂行を評価するに当たっては、秘密情報の保護に関する当該職員の記録について特別の注意を払う。
C 現地における検証活動を行うに際し機微に係る設備を保護し及び秘密の資料の開示を防止するための措置
13 締約国は、秘密を保護するために必要と認める措置をとることができる。ただし、この条約の本文及び検証附属書に従いこの条約を遵守していることを証明する義務を履行することを条件とする。締約国は、査察を受ける時に、査察団に対し、機微に係るものでありかつ査察の目的に関係しないと認める設備、文書又は場所を示すことができる。
14 査察団は、できる限り干渉の程度が低く、かつ、任務の効果的な及び適時の遂行に合致する方法で現地査察を行うとの原則を指針とする。査察団は、化学兵器に関係しない機微に係る設備又は情報の保護を確保するため、査察を受ける締約国が行う提案(査察のいかなる段階で行われるかを問わない。)を考慮する。
15 査察団は、査察の実施を規律するこの条約の本文及び附属書の規定を厳格に遵守する。査察団は、機微に係る設備を保護し及び秘密の資料の開示を防止するための手続を十分に尊重する。
16 検証に係る措置及び施設協定を作成するに当たり、秘密情報を保護する必要に十分な考慮を払う。個々の施設のための査察手続に関する協定には、施設において査察員がアクセスを認められる場所の確定、現地における秘密情報の保管、合意される区域における査察活動の範囲、試料の採取及びその分析、記録へのアクセス並びに機器及び継続的な監視のための設備の使用に関する具体的かつ詳細な措置を含める。
17 査察の後に作成する報告には、この条約の遵守に関連する事実のみを含める。当該報告については、機関が定める秘密情報の取扱いを規律する規則に従って取り扱う。必要な場合には、報告に含まれる情報については、技術事務局及び被査察締約国の外部に送付する前に、機微の程度の低いものとするための処理をする。
D 秘密の扱いに関する違反又は当該違反の疑いがある場合の手続
18 事務局長は、第八条21(i)の規定に従って会議が検討し及び承認する勧告を考慮して、秘密の扱いに関する違反又は当該違反の疑いがある場合にとられる必要な手続を定める。
19 事務局長は、秘密の保護に関する個々の契約の実施を監督する。事務局長は、秘密情報の保護に関する義務の違反が生じたとの十分な根拠があると判断する場合には、速やかに調査を開始する。事務局長は、締約国が秘密の扱いに関する違反を申し立てる場合にも、速やかに調査を開始する。
20 事務局長は、秘密情報を保護する義務に違反した職員に対し、適当な懲戒処分を行う。重大な違反の場合には、事務局長は、裁判権からの免除を放棄することができる。
21 締約国は、事務局長が秘密の扱いに関する違反又は当該違反の疑いを調査し及び違反が確かめられた場合に適当な措置をとるに当たり、可能な範囲内で協力し及び支援する。
22 機関は、技術事務局の構成員による秘密の扱いに関する違反について損害賠償責任を負わない。
23 締約国及び機関の双方に関係する違反については、会議の補助機関として設置する「秘密の扱いに関係する紛争の解決のための委員会」が検討する。同委員会は、会議が設置する。同委員会の構成及び運営手続を規律する規則については、第一回会期において会議が採択する。
(右条約の英文)〔省略〕