核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約
この条約の締約国は、
国際の平和及び安全の維持並びに善隣主義、諸国間の友好関係及び諸国間の協力の促進に関する国際連合憲章の目的及び原則に留意し、
千九百九十五年十月二十四日の国際連合五十周年記念宣言を想起し、
平和的目的のために原子力を開発し、及び応用するすべての国の権利並びに原子力の平和的応用から得られる潜在的な利益に対するすべての国の正当な権利を認め、
千九百八十年の核物質の防護に関する条約に留意し、
あらゆる形態のテロリズムの行為が世界的規模で増大していることを深く憂慮し、
国際連合加盟国がテロリズムのあらゆる行為、方法及び実行(諸国及び諸国民の間の友好関係を害し、並びに国の領土保全及び安全を脅かすものを含む。)を、行われた場所及び行った者のいかんを問わず、犯罪であり、かつ、正当化することができないものとして無条件に非難することを特に厳粛に再確認する千九百九十四年十二月九日の国際連合総会決議第六十号(第四十九回会期)に附属する国際的なテロリズムを根絶するための措置に関する宣言を想起し、
また、同宣言が諸国に対し、問題のすべての側面に関する包括的な法的枠組みが存在することを確保するため、あらゆる形態のテロリズムの防止、抑止及び根絶に関する既存の国際的な法規の範囲を早急に見直すことを奨励していることに留意し、
千九百九十六年十二月十七日の国際連合総会決議第二百十号(第五十一回会期)及び同決議に附属する千九百九十四年の国際的なテロリズムを根絶するための措置に関する宣言を補足する宣言を想起し、
また、国際連合総会決議第二百十号(第五十一回会期)に基づき、関連する既存の国際文書を補完するため、核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約等を作成するために特別委員会が設置されたことを想起し、
核によるテロリズムの行為が最も重大な結果をもたらすおそれがあり、並びに国際の平和及び安全を脅かすおそれがあることに留意し、
また、既存の多数国間条約の規定がこれらの攻撃について十分に対処していないことに留意し、
このようなテロリズムの行為の防止並びにこのような行為を行った者の訴追及び処罰のための効果的かつ実行可能な措置を立案し、及び講ずるに当たって諸国間の国際協力を強化することが急務であることを確信し、
国の軍隊の活動がこの条約の枠組みの範囲外にある国際法の規則によって規律されること及びこの条約の適用範囲から一定の行為が除外されることが不法な行為を容認し、又は合法化するものではなく、かつ、他の法規によって訴追することを妨げるものではないことに留意して、
次のとおり協定した。
第一条
この条約の適用上、
1 「放射性物質」とは、核物質その他の放射線を放出する物質であって、自発的な壊変(アルファ粒子、ベータ粒子、中性子、ガンマ線等の一又は二以上の種類の電離放射線の放出を伴う作用をいう。)が起こる核種を含み、かつ、その放射線の特性又は核分裂の特性により死、身体の重大な傷害又は財産若しくは環境に対する著しい損害を引き起こし得るものをいう。
2 「核物質」とは、プルトニウム(プルトニウム二三八の同位体濃度が八十パーセントを超えるものを除く。)、ウラン二三三、同位元素ウラン二三五又は二三三の濃縮ウラン、ウランの同位元素の天然の混合率から成るウラン(鉱石又は鉱石の残滓(さい)の状態のものを除く。)及びこれらの物質の一又は二以上を含有している物質をいう。
「同位元素ウラン二三五又は二三三の濃縮ウラン」とは、同位元素ウラン二三五若しくは二三三又はこれらの双方を含有しているウランであって、同位元素ウラン二三八に対するこれらの二同位元素の合計の含有率が、天然ウランにおける同位元素ウラン二三八に対する同位元素ウラン二三五の率より大きいものをいう。
3 「原子力施設」とは、次のものをいう。
(a) 原子炉(船舶、車両、航空機又は宇宙物体を推進するためのエネルギー源としての使用その他の目的のため、船舶、車両、航空機又は宇宙物体に設置された炉を含む。)
(b) 放射性物質の製造、貯蔵、処理又は輸送に使用されている工場又は輸送機関
4 「装置」とは、次のものをいう。
(a) 核爆発装置
(b) 放射性物質又は放射線を発散させる装置であって、その放射線の特性により、死、身体の重大な傷害又は財産若しくは環境に対する著しい損害を引き起こし得るもの
5 「国又は政府の施設」には、国の代表者、政府、立法機関若しくは司法機関の構成員、国その他公の当局若しくは団体の職員若しくは被用者又は政府間機関の被用者若しくは職員がその公務に関連して使用し、又は占有する常設又は臨時の施設及び輸送機関を含む。
6 「国の軍隊」とは、国の防衛又は安全保障を主たる目的としてその国内法に基づいて組織され、訓練され、及び装備された国の軍隊並びにその正式な指揮、管理及び責任の下で当該軍隊を支援するために行動する者をいう。
第二条
1 不法かつ故意に行う次の行為は、この条約上の犯罪とする。
(a) 次のいずれかの意図をもって、放射性物質を所持し、又は装置を製造し若しくは所持すること。
(i) 死又は身体の重大な傷害を引き起こす意図
(ii) 財産又は環境に対する著しい損害を引き起こす意図
(b) 次のいずれかの意図をもって、放射性物質若しくは装置を使用すること(方法のいかんを問わない。)又は放射性物質を放出する方法若しくは放出するおそれのある方法で原子力施設を使用し若しくは損壊すること。
(i) 死又は身体の重大な傷害を引き起こす意図
(ii) 財産又は環境に対する著しい損害を引き起こす意図
(iii) 特定の行為を行うこと又は行わないことを自然人若しくは法人、国際機関又は国に対し強要する意図
2 次の行為も、犯罪とする。
(a) 脅迫が確かなものであることを示唆する状況の下で、1(b)に定める犯罪を行うとの脅迫をすること。
(b) 脅迫が確かなものであることを示唆する状況の下で脅迫し、又は暴行を用いて、不法かつ故意に放射性物質、装置又は原子力施設を要求すること。
3 1に定める犯罪の未遂も、犯罪とする。
4 次の行為も、犯罪とする。
(a) 1、2又は3に定める犯罪に加担する行為
(b) 1、2又は3に定める犯罪を行わせるために他の者を組織し、又は他の者に指示する行為
(c) 共通の目的をもって行動する人の集団が1、2又は3に定める犯罪の一又は二以上を実行することに対し、その他の方法で寄与する行為。ただし、故意に、かつ、当該集団の一般的な犯罪活動若しくは犯罪目的の達成を助長するため又は当該犯罪の一若しくは二以上を実行するという当該集団の意図を知りながら、寄与する場合に限る。
第三条
この条約は、犯罪が単一の国において行われ、容疑者及び被害者が当該国の国民であり、当該容疑者が当該国の領域内で発見され、かつ、他のいずれの国も第九条1又は2の規定に基づいて裁判権を行使する根拠を有しない場合には、適用しない。ただし、第七条、第十二条及び第十四条から第十七条までの規定は、適当なときはそのような場合についても適用する。
第四条
1 この条約のいかなる規定も、国際法(特に国際連合憲章の目的及び原則並びに国際人道法)に基づいて国及び個人が有する他の権利、義務及び責任に影響を及ぼすものではない。
2 国際人道法の下で武力紛争における軍隊の活動とされている活動であって、国際人道法によって規律されるものは、この条約によって規律されない。また、国の軍隊がその公務の遂行に当たって行う活動であって、他の国際法の規則によって規律されるものは、この条約によって規律されない。
3 2の規定は、不法な行為を容認し、又は合法化するものと解してはならず、また、他の法規によって訴追することを妨げるものと解してはならない。
4 この条約は、いかなる意味においても、国による核兵器の使用又はその威嚇の合法性の問題を取り扱うものではなく、また、取り扱うものと解してはならない。
第五条
締約国は、次のことのために必要な措置を講ずる。
(a) 第二条に定める犯罪を自国の国内法上の犯罪とすること。
(b) (a)に規定する犯罪について、その重大性を考慮した適当な刑罰を科することができるようにすること。
第六条
締約国は、この条約の適用の対象となる犯罪行為、特に一般公衆又は人若しくは特定の人の集団に恐怖の状態を引き起こすことを意図し、又は計画して行われる犯罪行為が政治的、哲学的、思想的、人種的、民族的、宗教的な考慮その他これらに類する考慮によっていかなる場合にも正当化されないこと及び当該犯罪行為についてその重大性に応じた刑罰が科されることを確保するため、必要な措置(適当な場合には、国内立法を含む。)を講ずる。
第七条
1 締約国は、次の方法により協力する。
(a) 自国の領域内又は領域外で行われる第二条に定める犯罪の自国の領域内における準備を防止し、及びこれに対処するため、必要な場合には国内法を適合させることを含むあらゆる実行可能な措置(同条に定める犯罪の実行について助長し、扇動し若しくは組織し、事情を知りながら当該犯罪の実行のために資金若しくは技術上の援助若しくは情報を提供し、又は当該犯罪を実行する個人、集団及び団体が行う不法な活動を自国の領域内において禁止する措置を含む。)を講ずること。
(b) 自国の国内法並びにこの条約に定める方法及び条件に従って正確な、かつ、確認された情報を交換すること並びに第二条に定める犯罪を探知し、防止し、抑止し、及び捜査するため並びに当該犯罪を行った疑いのある者に対して刑事訴訟手続を開始するために適宜講ずる行政上の措置その他の措置を調整すること。特に、締約国は、同条に定める犯罪が行われたこと及び自国が知った当該犯罪を行うための準備について、第九条に規定する他の国に遅滞なく通報するため及び適当な場合には国際機関に通報するため、適当な措置を講ずる。
2 締約国は、他の締約国からこの条約に基づき、又はこの条約の実施のために行われる活動に参加することにより、秘密のものとして受領する情報の秘密性を保護するため、自国の国内法に適合する範囲内で適当な措置を講ずる。締約国は、国際機関に対し情報を秘密のものとして提供する場合には、当該情報の秘密性が保護されることを確保するため、措置を講ずる。
3 締約国は、この条約により、国内法上伝達が認められていない情報及び関係国の安全保障又は核物質の防護を害する情報の提供を要求されるものではない。
4 締約国は、国際連合事務総長に対し、この条に規定する情報の送付及び受領について責任を有する自国の権限のある当局及び連絡先を通報する。同事務総長は、すべての締約国及び国際原子力機関に対し、これらの権限のある当局及び連絡先に関する情報を送付する。これらの権限のある当局及び連絡先は、常に連絡が可能でなければならない。
第八条
この条約上の犯罪を防止することを目的として、締約国は、国際原子力機関の関連する勧告及び任務を考慮しつつ、放射性物質の防護を確保するための適当な措置を講ずるためにあらゆる努力を払う。
第九条
1 締約国は、次の場合において第二条に定める犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置を講ずる。
(a) 犯罪が自国の領域内で行われる場合
(b) 犯罪が、当該犯罪の時に自国を旗国とする船舶内又は自国の法律により登録されている航空機内で行われる場合
(c) 犯罪が自国の国民によって行われる場合
2 締約国は、次の場合には、第二条に定める犯罪について自国の裁判権を設定することができる。
(a) 犯罪が自国の国民に対して行われる場合
(b) 犯罪が国外にある自国の国又は政府の施設(大使館その他外交機関及び領事機関の公館を含む。)に対して行われる場合
(c) 犯罪が自国の領域内に常居所を有する無国籍者によって行われる場合
(d) 犯罪が、何らかの行為を行うこと又は行わないことを自国に対して強要する目的で行われる場合
(e) 犯罪が自国の政府の運航する航空機内で行われる場合
3 締約国は、この条約を批准し、受諾し若しくは承認し、又はこの条約に加入する際、自国の国内法により2の規定に従って設定した裁判権について国際連合事務総長に通報する。当該裁判権の変更を行った締約国は、その旨を同事務総長に直ちに通報する。
4 締約国は、自国の領域内に容疑者が所在し、かつ、1又は2の規定に従って裁判権を設定したいずれの締約国に対しても当該容疑者の引渡しを行わない場合には、第二条に定める犯罪について自国の裁判権を設定するため、同様に、必要な措置を講ずる。
5 この条約は、締約国が自国の国内法に従って設定した刑事裁判権の行使を排除するものではない。
第十条
1 自国の領域内で第二条に定める犯罪が行われた若しくは行われつつあるとの情報又は当該犯罪を行った者若しくはその疑いのある者が自国の領域内に所在している可能性があるとの情報を受領した締約国は、それらの情報に含まれている事実について調査するため、自国の国内法により必要な措置を講ずる。
2 犯人又は容疑者が所在する締約国は、状況によって正当であると認める場合には、訴追又は引渡しのために当該犯人又は容疑者の所在を確実にするため、自国の国内法により適当な措置を講ずる。
3 いずれの者も、自己について2に規定する措置が講じられている場合には、次の権利を有する。
(a) 当該者の国籍国その他当該者の権利を保護する資格を有する国又は当該者が無国籍者である場合には当該者が常居所を有する国の最寄りの適当な代表と遅滞なく連絡を取る権利
(b) (a)に規定する国の代表の訪問を受ける権利
(c) (a)及び(b)に定める自己の権利について告げられる権利
4 3に定める権利は、犯人又は容疑者が所在する国の法令に反しないように行使する。当該法令は、3に定める権利の目的とするところを十分に達成するようなものでなければならない。
5 3及び4の規定は、前条1(c)又は2(c)の規定に従って裁判権を設定した締約国が、赤十字国際委員会に対し容疑者と連絡し、又は容疑者を訪問するよう要請する権利を害するものではない。
6 いずれの締約国も、この条の規定に基づいていずれかの者を抑留した場合には、前条1又は2の規定に従って裁判権を設定した締約国及び適当と認めるときは利害関係を有するその他の締約国に対し、直接に又は国際連合事務総長を通じて、当該者が抑留されている事実及びその抑留が正当とされる事情を直ちに通報する。1の調査を行った国は、その結果をこれらの締約国に対して速やかに通報し、かつ、自国が裁判権を行使する意図を有するか否かを明らかにする。
第十一条
1 容疑者が所在する締約国は、第九条の規定が適用される場合において、当該容疑者を引き渡さないときは、犯罪が自国の領域内で行われたものであるか否かを問わず、いかなる例外もなしに、かつ、不当に遅滞することなく、自国の法令による手続を通じて訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託する義務を負う。その当局は、自国の法令に規定する他の重大な犯罪の場合と同様の方法で決定を行う。
2 締約国は、自国の国内法が、引渡しの請求に係る裁判又は手続の結果科された刑に服するために自国民が自国に送還されるとの条件下においてのみ当該自国民の引渡しを認める場合において、当該引渡しの請求を行う国との間でそのような方法をとること及び他の適当と認める条件について合意するときは、そのような条件付の引渡しによって1に規定する義務を履行することができる。
第十二条
いずれの者も、この条約に従って抑留され、又は他の措置若しくは手続がとられている場合には、公正な取扱い(当該者が所在する国の法令及び人権に関する国際法を含む国際法の関係規定に基づくすべての権利及び保障の享受を含む。)を保障される。
第十三条
1 第二条に定める犯罪は、この条約が効力を生ずる前に締約国間に存在する犯罪人引渡条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、相互間でその後締結されるすべての犯罪人引渡条約に同条に定める犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。
2 条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合には、随意にこの条約を第二条に定める犯罪に関する犯罪人引渡しのための法的根拠とみなすことができる。この犯罪人引渡しは、請求を受けた国の法令に定める他の条件に従う。
3 条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国の相互間では、犯罪人引渡しの請求を受けた国の法令に定める条件に従い、第二条に定める犯罪を引渡犯罪と認める。
4 第二条に定める犯罪は、締約国間の犯罪人引渡しに関しては、必要な場合には、当該犯罪が発生した場所のみでなく、第九条1又は2の規定に従って裁判権を設定した国の領域内においても行われたものとみなされる。
5 締約国間のすべての犯罪人引渡条約及び犯罪人引渡取極は、第二条に定める犯罪について、この条約と両立しない限度において当該締約国間で修正されたものとみなされる。
第十四条
1 締約国は、第二条に定める犯罪について行われる捜査又は刑事訴訟若しくは犯罪人引渡しに関する手続について、相互に最大限の援助(これらの手続に必要であり、かつ、自国が提供することができる証拠の収集に係る援助を含む。)を与える。
2 締約国は、相互間に法律上の相互援助に関する条約又は他の取極が存在する場合には、当該条約又は他の取極に合致するように、1に規定する義務を履行する。締約国は、そのような条約又は取極が存在しない場合には、国内法に従って相互に援助を与える。
第十五条
第二条に定める犯罪は、犯罪人引渡し又は法律上の相互援助に関しては、政治犯罪、政治犯罪に関連する犯罪又は政治的な動機による犯罪とみなしてはならない。したがって、政治犯罪、政治犯罪に関連する犯罪又は政治的な動機による犯罪に関係することのみを理由として、同条に定める犯罪に関する犯罪人引渡しの請求又は法律上の相互援助の要請を拒否することはできない。
第十六条
この条約のいかなる規定も、第二条に定める犯罪に関する犯罪人引渡しの請求又は法律上の相互援助の要請を受けた締約国がこれらの請求若しくは要請が人種、宗教、国籍、民族的出身若しくは政治的意見を理由としてこれらの請求若しくは要請の対象となる者を訴追し若しくは処罰するために行われたと信じ、又はこれらの請求若しくは要請に応ずることにより当該者の地位がこれらの理由によって害されると信ずるに足りる実質的な根拠がある場合には、引渡しを行い、又は法律上の相互援助を与える義務を課するものと解してはならない。
第十七条
1 いずれかの締約国の領域内において抑留され、又は刑に服している者については、当該者が証言、確認その他援助であってこの条約に基づく犯罪の捜査又は訴追のための証拠の収集に係るものの提供のために他の締約国において出頭することが要請された場合において、次の条件が満たされるときは、移送することができる。
(a) 当該者が事情を知らされた上で任意に同意を与えること。
(b) 双方の国の権限のある当局がこれらの国の適当と認める条件に従って合意すること。
2 この条の規定の適用上、
(a) 1に定める者が移送された国は、当該者を移送した国が別段の要請を行わず、又は承認を与えない限り、当該者を抑留する権限を有し、及び義務を負う。
(b) 1に定める者が移送された国は、自国及び当該者を移送した国の双方の権限のある当局による事前又は別段の合意に従い、当該者をその移送した国による抑留のために送還する義務を遅滞なく履行する。
(c) 1に定める者が移送された国は、当該者を移送した国に対し、当該者の送還のために犯罪人引渡手続を開始するよう要求してはならない。
(d) 移送された者が移送された国において抑留された期間は、当該者を移送した国における当該者の刑期に算入する。
3 移送された者は、この条の規定に従って当該者を移送する締約国が同意しない限り、その国籍のいかんを問わず、当該者を移送した国の領域を出発する前の行為又は有罪判決につき、当該者が移送された国の領域内において、訴追されず若しくは抑留されず、又は身体の自由についての他のいかなる制限も課せられない。
第十八条
1 締約国は、第二条に定める犯罪が行われた後に放射性物質、装置又は原子力施設を押収し、又はその他の方法で管理下に置いた場合には、これらを保有するに当たり、次のことを行う。
(a) 当該放射性物質、装置又は原子力施設を無害化するための措置を講ずること。
(b) いかなる核物質も、適用される国際原子力機関の保障措置に従って保有されることを確保すること。
(c) 国際原子力機関が公表する核物質の防護に係る勧告並びに保健上及び安全上の基準に考慮を払うこと。
2 いかなる放射性物質、装置又は原子力施設も、関係締約国との間の協議(特に、返還及び貯蔵の方法に関するもの)を行った上で、第二条に定める犯罪に関連する手続の完了後又は国際法により必要とされる場合には当該手続の完了前に、当該放射性物質、装置若しくは原子力施設の帰属する締約国、これらを所有する自然人若しくは法人が自国の国民若しくは居住者である締約国又は自国の領域からこれらが盗取され若しくはその他の方法で不法に取得された締約国に返還される。
3(a) 締約国が放射性物質、装置若しくは原子力施設を返還すること若しくは受領することを国内法若しくは国際法によって禁止されているとき、又は関係締約国が合意するときは、(b)の規定に従うことを条件として、当該放射性物質、装置又は原子力施設を保有している締約国は、1に定める措置を講ずることを継続する。この場合には、当該放射性物質、装置又は原子力施設は、平和的目的のためにのみ使用される。
(b) 放射性物質、装置又は原子力施設を保有している締約国は、自国によるこれらの保有が合法的でない場合には、当該放射性物質、装置又は原子力施設の無害化のため、これらの保有が合法的である国であって適当なときは自国との協議により1に定める要件を満たす保証を与えたものにより、できる限り速やかにこれらが保有されることを確保する。この場合には、当該放射性物質、装置又は原子力施設は、平和的目的のためにのみ使用される。
4 1及び2に規定する放射性物質、装置又は原子力施設が、いずれの締約国若しくは締約国の国民若しくは居住者にも帰属せず若しくは締約国の領域から盗取され若しくはその他の方法で不法に取得されたものでない場合又はいずれの国もこれらを3の規定により受領する意思を有しない場合には、3(b)の規定に従うことを条件として、関係国と関係国際機関との間の協議を経て、これらの処分について別途の決定が行われる。
5 1から4までの規定の適用に当たり、放射性物質、装置又は原子力施設を保有している締約国は、他の締約国(特に、関係締約国)及び関係国際機関(特に、国際原子力機関)の援助及び協力を要請することができる。締約国及び関係国際機関は、この5の規定に従って、可能な最大限度まで援助を提供することを奨励される。
6 この条の規定に従って放射性物質、装置又は原子力施設の処分又は保有に関与した締約国は、国際原子力機関事務局長に対し、これらが処分され、又は保有された態様について通報する。同事務局長は、その情報を他の締約国に伝達する。
7 第二条に定める犯罪に関連していかなる発散が生ずる場合においても、この条の規定は、原子力損害に関する損害賠償責任について規律する国際法の規則又はその他の国際法の規則に何ら影響を及ぼすものではない。
第十九条
容疑者を訴追した締約国は、自国の国内法又は関係手続に従い、訴訟手続の確定的な結果を国際連合事務総長に通報する。同事務総長は、その情報を他の締約国に伝達する。
第二十条
締約国は、この条約の効果的な実施を確保するため、必要に応じて国際機関の支援を得つつ、直接に又は国際連合事務総長を通じて、相互に協議する。
第二十一条
締約国は、国の主権平等及び領土保全の原則並びに国内問題への不干渉の原則に反しない方法で、この条約に基づく義務を履行する。
第二十二条
この条約のいかなる規定も、締約国に対し、他の締約国の領域内において、当該他の締約国の当局がその国内法により専ら有する裁判権を行使する権利及び任務を遂行する権利を与えるものではない。
第二十三条
1 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で合理的な期間内に交渉によって解決することができないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、仲裁に付される。仲裁の要請の日から六箇月以内に仲裁の組織について紛争当事国が合意に達しない場合には、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判所規程に従って請求を行うことにより、国際司法裁判所に紛争を付託することができる。
2 各国は、この条約の署名、批准、受諾若しくは承認又はこの条約への加入の際に、1の規定に拘束されない旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような留保を付した締約国との関係において1の規定に拘束されない。
3 2の規定に基づいて留保を付したいずれの国も、国際連合事務総長に対する通告により、いつでもその留保を撤回することができる。
第二十四条
1 この条約は、二千五年九月十四日から二千六年十二月三十一日まで、ニューヨークにある国際連合本部において、すべての国による署名のために開放しておく。
2 この条約は、批准され、受諾され、又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、国際連合事務総長に寄託する。
3 この条約は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。
第二十五条
1 この条約は、二十二番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後三十日目の日に効力を生ずる。
2 二十二番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し、受諾し若しくは承認し、又はこれに加入する国については、この条約は、その批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の後三十日目の日に効力を生ずる。
〔平成一九年八月外務告四五七号により、平成一九・九・二から日本国について発効〕
第二十六条
1 締約国は、この条約の改正を提案することができる。改正案は、寄託者に提出するものとし、寄託者は、これをすべての締約国に対し、直ちに送付する。
2 締約国の過半数が寄託者に対し改正案の審議のための会議の招集を要請した場合には、寄託者は、当該会議に出席するようすべての締約国を招請するものとし、当該会議は、招請状の発送から三箇月以後に開催される。
3 2の会議は、改正がコンセンサス方式により採択されることを確保するため、あらゆる努力を払う。コンセンサス方式による採択が可能でない場合には、改正は、すべての締約国の三分の二以上の多数による議決で採択する。寄託者は、この会議において採択された改正をすべての締約国に対し速やかに送付する。
4 3の規定に従って採択された改正は、その批准書、受諾書、加入書又は承認書を寄託した締約国について、締約国の三分の二がこれらの文書を寄託した日の後三十日目の日に効力を生ずる。その後は、改正は、これらの文書を寄託するいずれの締約国についても、その寄託の日の後三十日目の日に効力を生ずる。
第二十七条
1 いずれの締約国も、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。
2 廃棄は、国際連合事務総長が1の通告を受領した日の後一年で効力を生ずる。
第二十八条
アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。同事務総長は、その認証謄本をすべての国に送付する。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けて、二千五年九月十四日にニューヨークにある国際連合本部で署名のために開放されたこの条約に署名した。
(右条約の英文)〔省略〕