自動触発海底水雷ノ敷設ニ関スル条約

独逸皇帝普魯西国皇帝陛下･･･ハ各国民ニ対シテ開放セラレタル海路ノ自由ノ原則ニ鑑ミ現時ノ状態ニ於テハ自動触発海底水雷ノ使用ヲ禁止スルコト能ハストスルモ戦争ノ禍害ヲ軽減シ且戦争ノ存在ニ拘ラス為シ得ル限平和的航海ニ対シテ其ノ当然主張シ得ヘキ安全ヲ付与セムカ為之カ使用ヲ制限シ且之ニ付規定ヲ設クルノ必要ナルコトヲ考慮シ本件ハ之ニ関スル利害関係ニ対シ一切ノ望マシキ保障ヲ与フル様規定スルコトハ之ヲ後日ニ期待シ之カ為条約ヲ締結スルニ決シ各左ノ全権委員ヲ任命セリ

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因テ各全権委員ハ其ノ良好妥当ナリト認メラレタル委任状ヲ寄託シタル後左ノ条項ヲ協定セリ

第一条　左ノ事項ハ之ヲ禁止ス

一　敷設者ノ監理ヲ離レテヨリ長クトモ一時間以内ニ無害ト為ルノ構造ヲ有スルモノヲ除クノ外無繋維自動触発水雷ヲ敷設スルコト

二　繋維ヲ離レタル後直ニ無害ト為ラサル繋維自動触発水雷ヲ敷設スルコト

三　命中セサル場合ニ無害ト為ラサル魚形水雷ヲ使用スルコト

第二条　単ニ商業上ノ航海ヲ遮断スルノ目的ヲ以テ敵ノ沿岸及港ノ前面ニ自動触発水雷ヲ敷設スルコトヲ禁ス

第三条　繋維自動触発水雷ヲ使用スルトキハ平和的航海ヲ安全ナラシムル為一切ノ為シ得ヘキ予防手段ヲ執ルヘシ

交戦者ハ為シ得ル限右水雷ヲシテ一定ノ期間経過後ハ無害タラシムルノ装置ヲ施スヘキコト及右水雷ニシテ監視セラレサルニ至リタルトキハ軍事ノ必要上差支ナキ限速ニ航海者ニ対スル告示ヲ以テ其ノ危険区域ヲ指示スヘキコトヲ約定ス右告示ハ外交上ノ手続ニ依リ之ヲ各国政府ニ通告スヘキモノトス

第四条　中立国ニシテ其ノ沿岸ノ前面ニ自動触発水雷ヲ敷設スルモノハ交戦者ト同一ノ規定ニ遵拠シ且同一ノ予防手段ヲ執ルコトヲ要ス

中立国ハ予メ告示ヲ以テ自動触発水雷ヲ敷設セムトスル区域ヲ航海者ニ知ラシムルコトヲ要ス右告示ハ外交上ノ手続ニ依リ至急之ヲ各国政府ニ通知スヘキモノトス

第五条　締約国ハ戦争終了シタルトキハ各自其ノ敷設シタル水雷ヲ引上クル為施シ得ヘキ総テノ手段ヲ尽スヘキコトヲ約定ス

交戦国ノ一方カ他ノ交戦国ノ沿岸ニ敷設シタル繋維自動触発水雷ニ関シテハ之ヲ敷設シタル国ハ其ノ敷設面ヲ他ノ国ニ通告シ各国ハ最短期限内ニ自国ノ水域中ニ在ル敷設水雷ヲ引上クルノ手段ヲ執ルヘシ

第六条　締約国ニシテ未タ本条約ニ規定スルカ如キ完全ナル敷設水雷ヲ有セス従テ現ニ第一条及第三条ニ定メタル規則ニ準拠スルコト能ハサルモノハ前記規定ニ適応セシムル為其ノ水雷材料ヲ速ニ改良スヘキコトヲ約定ス

第七条　本条約ノ規定ハ交戦国カ悉ク本条約ノ当事者ナルトキニ限締約国間ニノミ之ヲ適用ス

第八条　本条約ハ成ルヘク速ニ批准スヘシ

批准書ハ海牙ニ寄託ス

第一回ノ批准書寄託ハ之ニ加リタル諸国ノ代表者及和蘭国外務大臣ノ署名シタル調書ヲ以テ之ヲ証ス

爾後ノ批准書寄託ハ和蘭国政府ニ宛テ且批准書ヲ添附シタル通告書ヲ以テ之ヲ為ス

第一回ノ批准書寄託ニ関スル調書、前項ニ掲ケタル通告書及批准書ノ認証謄本ハ和蘭国政府ヨリ外交上ノ手続ヲ以テ直ニ之ヲ第二回平和会議ニ招請セラレタル諸国及本条約ニ加盟スル他ノ諸国ニ交付スヘシ前項ニ掲ケタル場合ニ於テハ和蘭国政府ハ同時ニ通告書ヲ接受シタル日ヲ通告スルモノトス

第九条　記名国ニ非サル諸国ハ本条約ニ加盟スルコトヲ得

加盟セムト欲スル国ハ書面ヲ以テ其ノ意思ヲ和蘭国政府ニ通告シ且加盟書ヲ送付シ之ヲ和蘭国政府ノ文庫ニ寄託スヘシ

和蘭国政府ハ直ニ通告書及加盟書ノ認証謄本ヲ爾余ノ諸国ニ送付シ且右通知書ヲ接受シタル日ヲ通知スヘシ

第十条　本条約ハ第一回ノ批准書寄託ニ加リタル諸国ニ対シテハ其ノ寄託ノ調書ノ日附ヨリ六十日ノ後又其ノ後ニ批准シ又ハ加盟スル諸国ニ対シテハ和蘭国政府カ右批准又ハ加盟ノ通告ヲ接受シタルトキヨリ六十日ノ後ニ其ノ効力ヲ生スヘキモノトス

第十一条　本条約ハ第一回批准書寄託ノ日以後第六十日ヨリ七年間有効ナルモノトス

本条約ハ廃棄アルニ非サレハ右期間満了後引続キ効力ヲ有ス

廃棄ハ書面ヲ以テ和蘭国政府ニ通告スヘシ和蘭国政府ハ直ニ通告書ノ認証謄本ヲ爾余ノ諸国ニ送付シ且右通告書ヲ接受シタル日ヲ通知スヘシ

廃棄ハ其ノ通告カ和蘭国政府ニ到達シタルトキヨリ六月ノ後右通告ヲ為シタル国ニ対シテノミ効力ヲ生スルモノトス

第十二条　締約国ハ自動触発水雷使用ノ問題カ前条第一項ノ期間満了ヨリ六月前ニ於テ第三回平和会議ニ由リテ審議決定セラレサリシ場合ニハ右六月前ニ於テ該問題ヲ審議セムコトヲ約定ス

締約国ニ於テ敷設水雷使用ニ関スル新条約ヲ締結スルトキハ本条約ハ其ノ実施ノ時ヨリ之ヲ適用セス

第十三条　和蘭国外務省ハ帳簿ヲ備ヘ置キ第八条第三項及第四項ニ依リ為シタル批准書寄託ノ日並加盟（第九条第二項）又ハ廃棄（第十一条第三項）ノ通告ヲ接受シタル日ヲ記入スルモノトス

各締約国ハ右帳簿ヲ閲覧シ且其ノ認証抄本ヲ請求スルコトヲ得

右証拠トシテ各全権委員本条約ニ署名ス

千九百七年十月十八日海牙ニ於テ本書一通ヲ作リ之ヲ和蘭国政府ノ文庫ニ寄託シ其ノ認証謄本ヲ外交上ノ手続ニ依リ第二回平和会議ニ招請セラレタル諸国ニ交付スヘキモノトス