国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約
【法令番号 】昭和六十二年六月十八日条約第三号
【施行年月日】昭和六十二年七月八日外務省告示第三百二十七号
この条約の締約国は、
国際の平和の維持並びに諸国間の友好関係及び協力の促進に関する国際連合憲章の目的及び原則に留意し、
外交官その他の国際的に保護される者に対する犯罪であつてこれらの者の安全を害するものが、諸国間の協力のために必要である正常な国際関係の維持に対する重大な脅威を生じさせることを考慮し、
このような犯罪が行われることは国際社会にとつて重大な関心事であることを信じ、
このような犯罪の防止及び処罰のための適当かつ効果的な措置を緊急にとる必要があることを確信して、
次のとおり協定した。
第一条
この条約の適用上、
1 「国際的に保護される者」とは、次の者をいう。
(a)国の元首(当該国の憲法に基づき元首の任務を遂行する団体の構成員を含む。)、政府の長及び外務大臣であつて外国にあるもの並びにこれらの者に同行している家族
(b)国の代表者又は職員及び政府間国際機関の職員又は委託を受けた者であつて、これらの者又はその公的施設、個人的施設若しくは輸送手段に対する犯罪が行われる時及び場所において、国際法に基づき、身体、自由又は尊厳に対するあらゆる侵害からの特別の保護を受ける権利を有するもの並びにその世帯に属する家族
2 「容疑者」とは、次条に定める一若しくは二以上の犯罪を行い又はこれに加担したと一応判断するに十分な証拠のある者をいう。
第二条 1 締約国は、自国の国内法により、故意に行う次の行為を犯罪とする。
(a)国際的に保護される者を殺し又は誘拐すること及びその者の身体又は自由に対するその他の侵害行為
(b)国際的に保護される者の公的施設、個人的施設又は輸送手段に対する暴力的侵害行為であつて、その者の身体又は自由を害するおそれのあるもの
(c)これらの行為を行うとの脅迫
(d)これらの行為の未遂
(d)これらの行為に加担する行為
2 締約国は、1の犯罪について、その重大性を考慮した適当な刑罰を科することができるようにする。
3 1及び2の規定は、いかなる意味においても、国際的に保護される者の身体、自由又は尊厳に対するその他の侵害を防止するためすべての適当な措置をとるという国際法に基づく締約国の義務を免れさせるものではない。
第三条 1 締約国は、次の場合において前条に定める犯罪についての自国の裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
(a)犯罪が自国の領域内で又は自国において登録された船舶若しくは航空機内で行われる場合
(b)容疑者が自国の国民である場合
(c)犯罪が、自国のために遂行する任務に基づき第一条に定義する国際的に保護される者としての地位を有する者に対して行われる場合
2 締約国は、容疑者が自国の領域内に所在し、かつ、自国が1のいずれの締約国に対しても第八条の規定による当該容疑者の引渡しを行わない場合において前条に定める犯罪についての自国の裁判権を設定するため、同様に、必要な措置をとる。
3 この条約は、国内法に従つて行使される刑事裁判権を排除するものではない。
第四条 締約国は、特に次の方法により、第二条に定める犯罪の防止について協力する。
(a)自国の領域内又は領域外で行われる犯罪の自国の領域内における準備を防止するためあらゆる実行可能な措置をとること。
(b)犯罪を防止するため、適当な場合には、情報を交換し及び行政上の措置その他の措置を調整すること。
第五条 1 第二条に定める犯罪のいずれかが自国において行われた締約国は、容疑者が自国の領域から逃亡したと信ずるに足りる理由がある場合には、当該犯罪に関するすべての関連事実及び当該容疑者の特定に関するすべての入手可能な情報を、直接に又は国際連合事務総長を通じて他のすべての関係
国に通報する。
2 国際的に保護される者に対して第二条に定める犯罪のいずれかが行われた場合には、この被害者及び当該犯罪の状況に関する情報を有する締約国は、当該者が任務をそのために遂行していた締約国に対し、自国の国内法に規定する条件に従い、十分かつ速やかに当該情報を伝達するよう努める。
第六条 1 容疑者が領域内に所在する締約国は、状況によつて正当であると認める場合には、訴追又は引渡しのために当該容疑者の所在を確実にするため、自国の国内法により適当な措置をとる。この措置は、直接に又は国際連合事務総長を通じて次の国及び機関に遅滞なく通報する。
(a)犯罪が行われた国
(b)容疑者の国籍国又は容疑者が無国籍者である場合には当該容疑者が通常居住している国
(c)当該国際的に保護される者の国籍国及び当該国際的に保護される者が任務をそのために遂行していた国
(d)その他のすべての関係国
(e)当該国際的に保護される者がその職員又は委託を受けた者である国際機関
2 いずれの者も、自己について1の措置がとられている場合には、次の権利を有する。
(a)当該者の国籍国その他当該者の権利を保護する資格を有する国又は当該者が無国籍者である場合には当該者の要請に応じてその権利を保護する意思を有する国の最寄りの適当な代表と遅滞なく連絡を取る権利
(b)(a)の国の代表の訪問を受ける権利
第七条 容疑者が領域内に所在する締約国は、当該容疑者を引き渡さない場合には、いかなる例外もなしに、かつ、不当に遅滞することなく、自国の法令による手続を通じて訴追のため自国の権限のある当局に事件を付託する。
第八条 1 第二条に定める犯罪は、締約国間の現行の犯罪人引渡条約に引渡犯罪として掲げられていない場合には、当該条約における引渡犯罪とみなされる。締約国は、相互間で将来締結されるすべての犯罪人引渡条約に同条に定め
る犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。
2 条約の存在を犯罪人引渡しの条件とする締約国は、自国との間に犯罪人引渡条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合において引き渡すことを決定するときは、この条約を第二条に定める犯罪に関する犯罪人引渡しのための法的根拠とみなすことができる。この犯罪人引渡しは、請求を受けた国の法令に定める手続規定及びその他の条件に従う。
3 条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は、犯罪人引渡しの請 求を受けた国の法令に定める手続規定及びその他の条件に従い、相互間で、第二条に定める犯罪を引渡犯罪と認める。
4 第二条に定める犯罪は、締約国間の犯罪人引渡しに関しては、当該犯罪が発生した場所のみでなく、第三条1の規定に従つて裁判権を設定しなければならない国の領域内においても行われたものとみなされる。
第九条 いずれの者も、自己につき第二条に定める犯罪のいずれかに関して訴訟手続がとられている場合には、そのすべての段階において公正な取扱いを保障される。
第十条 1 締約国は、第二条に定める犯罪についてとられる刑事訴訟手続に関し、相互に最大限の援助(当該訴訟手続に必要であり、かつ、自国が提供することができるすべての証拠の提供を含む。)を与える。
2 1の規定は、他の条約に規定する司法上の相互援助に関する義務に影響を及ぼすものではない。
第十一条 容疑者を訴追した締約国は、訴訟手続の確定的な結果を国際連合事務総長に通報する。同事務総長は、当該情報を他の締約国に伝達する。
第十二条 この条約は、その採択の日に効力を有する庇護に関する諸条約の当事国 間における当該諸条約の適用に影響を及ぼすものではない。もつとも、この条約の締約国は、当該諸条約の当事国でない他の締約国に対して当該諸条約を援用することができない。
第十三条 1 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で交渉によつて解決されないものは、いずれかの紛争当事国の要請により、仲裁に付される。仲裁の要請の日から六箇月以内に仲裁の組織について紛争当事国が合意に達しない場合には、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判所規程に従つて国際司法裁判所に紛争を付託することができる。
2 締約国は、この条約の署名若しくは批准又はこの条約への加入の際に、1の規定に拘束されない旨を宣言することができる。他の締約国は、そのような留保を付した締約国との関係において1の規定に拘束されない。
3 2の規定に基づいて留保を付した締約国は、国際連合事務総長に対する通告により、いつでもその留保を撤回することができる。
第十四条 この条約は、千九百七十四年十二月三十一日まで、ニュー・ヨークにある国際連合本部において、すべての国による署名のために開放しておく。
第十五条 この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託する。
第十六条 この条約は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書は、 国際連合事務総長に寄託する。
第十七条 1 この条約は、二十二番目の批准書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後三十日目の日に効力を生ずる。
2 二十二番目の批准書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し又はこれに加入する国については、この条約は、その批准書又は加入書の寄託の後三十日目の日に効力を生ずる。
第十八条 1 いずれの締約国も、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。
2 廃棄は、国際連合事務総長が1の通告を受領した日の後六箇月で効力を生ずる。
第十九条 国際連合事務総長は、すべての国に対し、特に次の事項を通報する。
(a)第十四条から第十六条までの規定によるこの条約の署名及び批准書又は加入書の寄託並びに前条の規定による通告
(b)第十七条の規定によりこの条約が効力を生ずる日
第二十条 中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。同事務総長は、その認証謄本をすべての国に送付する。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けて、千九百七十三年十二月十四日にニュー・ヨークで署名のために開放されたこの条約 に署名した。