武力紛争の際の文化財の保護に関する条約

締約国は、

文化財が近年の武力紛争において重大な損傷を受けてきたこと及び戦闘技術の発達により文化財が増大する破壊の危険にさらされていることを認識し、

各人民が世界の文化にそれぞれ寄与していることから、いずれの人民に属する文化財に対する損傷も全人類の文化遺産に対する損傷を意味するものであることを確信し、

文化遺産の保存が世界のすべての人民にとって極めて重要であること及び文化遺産が国際的な保護を受けることが重要であることを考慮し、

千八百九十九年のハーグ条約、千九百七年のハーグ条約及び千九百三十五年四月十五日のワシントン条約に定める武力紛争の際の文化財の保護に関する諸原則に従い、

このような保護は、そのための国内的及び国際的な措置が平時においてとられない限り、効果的に行われ得ないことを認め、

文化財を保護するためにあらゆる可能な措置をとることを決意して、

次のとおり協定した。

第一章 保護に関する一般規定

第一条 文化財の定義

この条約の適用上、「文化財」とは、出所又は所有者のいかんを問わず、次に掲げるものをいう。

(a) 各人民にとってその文化遺産として極めて重要である動産又は不動産。例えば、次のものをいう。

建築学上、芸術上又は歴史上の記念工作物(宗教的なものであるか否かを問わない。)

考古学的遺跡

全体として歴史的又は芸術的な関心の対象となる建造物群

芸術品

芸術的、歴史的又は考古学的な関心の対象となる手書き文書、書籍その他のもの

学術上の収集品、書籍若しくは記録文書の重要な収集品又はこの(a)に掲げるものの複製品の重要な収集品

(b) (a)に規定する動産の文化財を保存し、又は展示することを主要な及び実際の目的とする建造物。例えば、次のものをいう。

博物館

大規模な図書館及び記録文書の保管施設

武力紛争の際に(a)に規定する動産の文化財を収容するための避難施設

(c) (a)及び(b)に規定する文化財が多数所在する地区(以下「記念工作物集中地区」という。)

第二条 文化財の保護

この条約の適用上、文化財の保護は、文化財の保全及び尊重から成る。

第三条 文化財の保全

締約国は、適当と認める措置をとることにより、自国の領域内に所在する文化財を武力紛争による予見可能な影響から保全することにつき、平時において準備することを約束する。

第四条 文化財の尊重

1 締約国は、自国及び他の締約国の領域内に所在する文化財、その隣接する周囲並びに当該文化財の保護のために使用されている設備を武力紛争の際に当該文化財を破壊又は損傷の危険にさらすおそれがある目的のために利用することを差し控えること並びに当該文化財に対する敵対行為を差し控えることにより、当該文化財を尊重することを約束する。

2 1に定める尊重する義務は、軍事上の必要に基づき当該義務の免除が絶対的に要請される場合に限り、免除され得る。

3 締約国は、いかなる方法により文化財を盗取し、略奪し、又は横領することも、また、いかなる行為により文化財を損壊することも禁止し、防止し、及び必要な場合には停止させることを約束する。締約国は、他の締約国の領域内に所在する動産の文化財の徴発を差し控える。

4 締約国は、復仇(きゆう)の手段として行われる文化財に対するいかなる行為も差し控える。

5 締約国は、他の締約国が前条に定める保全の措置を実施しなかったことを理由として、当該他の締約国についてこの条の規定に従って自国が負う義務を免れることはできない。

第五条 占領

1 他の締約国の領域の全部又は一部を占領しているいずれの締約国も、被占領国の文化財の保全及び保存に関し、被占領国の権限のある当局をできる限り支援する。

2 占領地域内に所在する文化財であって軍事行動により損傷を受けたものを保存するための措置をとることが必要である場合において、被占領国の権限のある当局が当該措置をとることができないときは、占領国は、できる限り、かつ、当該当局と緊密に協力して、最も必要とされる保存のための措置をとる。

3 いずれの締約国も、その政府が抵抗運動団体の構成員により正当な政府であると認められている場合において、可能なときは、文化財の尊重に関するこの条約の規定を遵守する義務について当該抵抗運動団体の構成員の注意を喚起する。

第六条 文化財の識別のための表示

第十六条の規定に従い、文化財には、その識別を容易にするために特殊標章を付することができる。

第七条 軍事的な措置

1 締約国は、平時において軍事上の規則又は命令にこの条約の遵守を確保するための規定を含めること並びに自国の軍隊の構成員についてすべての人民の文化及び文化財に対する尊重の精神を育成することを約束する。

2 締約国は、平時に、自国の軍隊において、文化財の尊重を確保すること及び文化財の保全について責任を有する軍当局以外の当局と協力することを目的とする機関若しくは専門官の設置を計画すること又はこれらを設置することを約束する。

第二章 特別の保護

第八条 特別の保護の付与

1 武力紛争の際に動産の文化財を収容するための限定された数の避難施設、限定された数の記念工作物集中地区及びその他の特に重要な不動産の文化財は、これらの避難施設等が次の(a)及び(b)の条件を満たす場合に限り、特別の保護の下に置くことができる。

(a) 大規模な工業の中心地又は攻撃を受けやすい地点となっている重要な軍事目標(飛行場、放送局、国家の防衛上の業務に使用される施設、比較的重要な港湾又は鉄道停車場、幹線道路等)から十分な距離を置いて所在すること。

(b) 軍事的目的のために利用されていないこと。

2 動産の文化財のための避難施設は、いかなる状況においても爆弾による損傷を受けることがないように建造されている場合には、その所在地のいかんを問わず、特別の保護の下に置くことができる。

3 記念工作物集中地区は、軍事上の要員又は資材の移動のために利用されている場合(通過の場合を含む。)には、軍事的目的のために利用されているものとみなす。軍事行動、軍事上の要員の駐屯又は軍需品の生産に直接関連する活動が記念工作物集中地区内で行われる場合についても、同様とする。

4 1に規定する文化財の警備について特に権限を与えられた武装した管理者が当該文化財の警備を行うこと又は公の秩序の維持について通常責任を有する警察が当該文化財の付近に所在することは、当該文化財の軍事的目的のための利用には該当しないものとする。

5 1に規定する文化財のいずれかが1に規定する重要な軍事目標の付近に所在する場合であっても、特別の保護を要請する締約国が武力紛争の際に当該軍事目標を使用しないこと及び特に港湾、鉄道停車場又は飛行場について当該港湾等を起点とするすべての運送を他に振り替えることを約束するときは、当該文化財を特別の保護の下に置くことができる。この場合においては、その振替は、平時において準備するものとする。

6 特別の保護は、文化財を「特別の保護の下にある文化財の国際登録簿」に登録することにより、当該文化財に対して与えられる。この登録は、この条約の規定に従って、かつ、この条約の施行規則に定める条件に従ってのみ行う。

第九条 特別の保護の下にある文化財に関する特別な取扱い

締約国は、前条6に規定する国際登録簿への登録の時から、特別の保護の下にある文化財に対する敵対行為を差し控えること及び同条5に規定する場合を除くほか当該文化財又はその周囲の軍事的目的のための利用を差し控えることにより、当該文化財に関する特別な取扱いを確保することを約束する。

第十条 識別及び管理

特別の保護の下にある文化財は、武力紛争の間、第十六条に規定する特殊標章によって表示するものとし、この条約の施行規則に定める国際的な管理の下に置かれる。

第十一条 特別な取扱いの停止

1 締約国の一が特別の保護の下にあるいずれかの文化財に関して第九条の規定に基づく義務に違反する行為を行う場合には、敵対する紛争当事国は、そのような違反行為が継続する限り、当該文化財に関する特別な取扱いを確保する義務を免れる。ただし、当該敵対する紛争当事国は、可能なときはいつでも、まず、合理的な期間内に当該違反行為を中止するよう要請するものとする。

2 1に規定する場合を除くほか、特別の保護の下にある文化財に関する特別な取扱いは、やむを得ない軍事上の必要がある例外的な場合にのみ、かつ、当該軍事上の必要が継続する間に限り、停止される。当該軍事上の必要は、師団に相当する規模の兵力又は師団よりも大きい規模の兵力の指揮官のみが認定することができる。事情が許すときはいつでも、敵対する紛争当事国は、特別な取扱いが停止される旨の決定について合理的な期間内に事前に通報を受ける。

3 特別な取扱いを停止する紛争当事国は、この条約の施行規則に規定する文化財管理官に対し、理由を明示した書面により、できる限り速やかにその旨を通報する。

第三章 文化財の輸送

第十二条 特別の保護の下における輸送

1 専ら文化財の移動を行う輸送は、一の領域内で行うか又は他の領域に向けて行うかを問わず、関係締約国の要請により、この条約の施行規則に定める条件に従って特別の保護の下で行うことができる。

2 特別の保護の下における輸送については、この条約の施行規則に定める国際的な監視の下で行うものとし、第十六条に規定する特殊標章を表示する。

3 締約国は、特別の保護の下における輸送に対するいかなる敵対行為も差し控える。

第十三条 緊急の場合における輸送

1 締約国は、特に武力紛争が開始された時に、特定の文化財の安全のため当該文化財の移動が必要であり、かつ、事態が緊急であるために前条に定める手続をとることができないと認める場合には、当該文化財について同条に定める特別な取扱いの要請がかつて行われ、拒否されたことがない限り、当該文化財の輸送について、第十六条に規定する特殊標章を表示することができる。この移動については、できる限り、敵対する紛争当事国に対して通報を行うべきである。ただし、他の国の領域への文化財の輸送については、特別な取扱いが明示的に認められていない場合には、特殊標章を表示することができない。

2 締約国は、1に規定する輸送であって特殊標章を表示しているものに対する敵対行為を避けるため、できる限り、必要な予防措置をとる。

第十四条 押収、拿(だ)捕及び捕獲からの免除

1 次の(a)及び(b)については、押収、拿(だ)捕及び捕獲からの免除が与えられる。

(a) 第十二条又は前条に定める保護を受ける文化財

(b) 専ら(a)に規定する文化財の移動のために用いられる輸送手段

2 この条の規定は、臨検及び捜索の権利を制限するものではない。

第四章 要員

第十五条 要員

安全保障上の利益に合致する限りにおいて、文化財の保護に従事する要員は、文化財の保護のために尊重され、また、敵対する紛争当事国の支配下に置かれた場合においても、当該要員が責任を有する文化財が同様に当該敵対する紛争当事国の支配下に置かれたときは、自己の任務を引き続き遂行することが認められる。

第五章 特殊標章

第十六条 条約の標章

1 この条約の特殊標章は、先端が下方に向き、かつ、青色と白色とで斜め十字に四分された盾(一角がその盾の先端を形成する紺青色の正方形、当該正方形の上方に位置する紺青色の三角形及び当該三角形の両側を占める白色の三角形から成るもの)の形をしたものとする。

2 特殊標章は、次条に定める条件に従い、一個のみで、又は三個を三角形の形(一個の盾を下方に置く。)に並べて用いる。

第十七条 標章の使用

1 三個を並べて用いる特殊標章は、次のものを識別する手段としてのみ使用することができる。

(a) 特別の保護の下にある不動産の文化財

(b) 第十二条及び第十三条に定める条件に従って行われる文化財の輸送

(c) この条約の施行規則に定める条件に従って設置される臨時の避難施設

2 一個のみで用いる特殊標章は、次のものを識別する手段としてのみ使用することができる。

(a) 特別の保護の下に置かれていない文化財

(b) この条約の施行規則に従って管理の任務について責任を有する者

(c) 文化財の保護に従事する要員

(d) この条約の施行規則に定める身分証明書

3 武力紛争の間、特殊標章の使用は、1及び2の場合を除くほか、いかなる場合においても禁止するものとし、特殊標章に類似する標識の使用は、その目的のいかんを問わず禁止する。

4 特殊標章は、締約国の権限のある当局が正当に日付を記入し、かつ、署名した許可書が同時に表示されない限り、いかなる不動産の文化財にも付することができない。

第六章 条約の適用範囲

第十八条 条約の適用

1 この条約は、平時に効力を有する規定を除くほか、二以上の締約国の間に生ずる宣言された戦争又はその他の武力紛争の場合について、当該締約国の一又は二以上が戦争状態を承認するか否かを問わず、適用する。

2 この条約は、また、締約国の領域の一部又は全部が占領されたすべての場合について、その占領が武力抵抗を受けるか否かを問わず、適用する。

3 紛争当事国の一がこの条約の締約国でない場合にも、締約国である紛争当事国は、その相互の関係においては、この条約によって引き続き拘束される。さらに、締約国である紛争当事国は、締約国でない紛争当事国がこの条約の規定を受諾する旨を宣言し、かつ、この条約の規定を適用する限り、当該締約国でない紛争当事国との関係においても、この条約によって拘束される。

第十九条 国際的性質を有しない紛争

1 締約国の一の領域内に生ずる国際的性質を有しない武力紛争の場合には、各紛争当事者は、少なくとも、この条約の文化財の尊重に関する規定を適用しなければならない。

2 紛争当事者は、特別の合意により、この条約の他の規定の全部又は一部を実施するよう努める。

3 国際連合教育科学文化機関は、その役務を紛争当事者に提供することができる。

4 1から3までの規定の適用は、紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない。

第七章 条約の実施

第二十条 条約の施行規則

この条約を適用するための手続は、この条約の不可分の一部を成す施行規則に定める。

第二十一条 利益保護国

この条約及びその施行規則は、紛争当事国の利益の保護について責任を有する利益保護国の協力を得て適用する。

第二十二条 調停手続

1 利益保護国は、文化財の保護のために有益と認めるすべての場合、特に、この条約又はその施行規則の適用又は解釈に関して紛争当事国たる締約国の間で意見の相違がある場合には、あっせんを行う。

2 このため、各利益保護国は、一の締約国若しくは国際連合教育科学文化機関事務局長からの要請により又は自己の発意により、紛争当事国たる締約国に対し、それぞれの代表者、特に文化財の保護について責任を有する当局が、適当と認められる場合には適切に選ばれた中立の地域において、会合するよう提案することができる。紛争当事国たる締約国は、自国に対してなされた会合の提案に従わなければならない。利益保護国は、紛争当事国たる締約国に対し、その承認を求めるため、中立国に属する者又は同事務局長から提示された者であって当該会合に議長の資格で参加するよう招請されるものを提案する。

第二十三条 国際連合教育科学文化機関による援助

1 締約国は、自国の文化財の保護に関する業務の遂行について、又はこの条約若しくはその施行規則の適用から生ずるその他のあらゆる問題について、国際連合教育科学文化機関に技術上の援助を要請することができる。同機関は、その計画及び資力の範囲内で当該援助を与える。

2 国際連合教育科学文化機関は、その発意により、締約国に対し1の事項に関する提案を行うことができる。

第二十四条 特別の協定

1 締約国は、別個に規定を設けることを適当と認めるすべての事項について、特別の協定を締結することができる。

2 この条約が文化財及びその保護に従事する要員に与える保護の程度を弱めることとなる特別の協定は、締結することができない。

第二十五条 条約の周知

締約国は、平時において武力紛争の際と同様に、自国において、できる限り広い範囲においてこの条約及びその施行規則の本文の周知を図ることを約束する。特に、締約国は、この条約の原則をすべての住民、特に軍隊及び文化財の保護に従事する要員に周知させるため、軍事教育及び可能な場合には非軍事教育の課目に、この条約についての学習を取り入れることを約束する。

第二十六条 訳文及び報告

1 締約国は、国際連合教育科学文化機関事務局長を通じて、この条約及びその施行規則の公定訳文を相互に送付する。

2 締約国は、また、この条約及びその施行規則を実施するために自国政府がとり、準備し、又は計画する措置に関する情報であって適当と認めるすべてのものを提供する報告を、少なくとも四年に一回国際連合教育科学文化機関事務局長に提出する。

第二十七条 会合

1 国際連合教育科学文化機関事務局長は、同機関の執行委員会の承認を得て、締約国の代表の会合を招集することができる。同事務局長は、締約国の少なくとも五分の一が要請する場合には、そのような会合を招集しなければならない。

2 この会合は、この条約及びその施行規則によって与えられる他の任務のほか、この条約及びその施行規則の適用に関する問題を研究し、並びに当該問題に関する勧告を行うことを目的とする。

3 この会合は、また、締約国の過半数が代表を出席させている場合には、第三十九条の規定に従い、この条約又はその施行規則の改正を行うことができる。

第二十八条 制裁

締約国は、この条約に違反し、又は違反するよう命じた者について、国籍のいかんを問わず、訴追し、及び刑罰又は懲戒罰を科するため、自国の通常の刑事管轄権の枠組みの中で、必要なすべての措置をとることを約束する。

最終規定

第二十九条 用語

1 この条約は、ひとしく正文である英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語により作成する。

2 国際連合教育科学文化機関は、同機関の総会のその他の公用語によるこの条約の訳文を作成するための措置をとる。

第三十条 署名

この条約は、千九百五十四年五月十四日の日付を有するものとし、千九百五十四年四月二十一日から五月十四日までハーグで開催された会議に招請されたすべての国による署名のために千九百五十四年十二月三十一日まで開放しておく。

第三十一条 批准

1 この条約は、署名国により、それぞれ自国の憲法上の手続に従って批准されなければならない。

2 批准書は、国際連合教育科学文化機関事務局長に寄託する。

第三十二条 加入

この条約は、その効力発生の日から、第三十条に規定する国であってこの条約に署名していないすべてのもの及び国際連合教育科学文化機関の執行委員会によりこの条約に加入するよう招請される他のすべての国による加入のために開放しておく。加入は、同機関事務局長に加入書を寄託することによって行う。

第三十三条 効力発生

1 この条約は、五の国の批准書が寄託された後三箇月で効力を生ずる。

2 この条約は、その後は、各締約国について、その批准書又は加入書の寄託の後三箇月で効力を生ずる。

〔平成一九年九月外務告五二二号により、平成一九・一二・一〇から日本国について発効〕

3 第十八条又は第十九条に規定する事態において、紛争当事国が敵対行為又は占領の開始前又は開始後に行った批准又は加入は、直ちに効力を生ずる。この場合には、国際連合教育科学文化機関事務局長は、第三十八条に規定する通報を最も速やかな方法で送付する。

第三十四条 効果的な適用

1 この条約の効力発生の日にこの条約の締約国である国は、当該効力発生の日の後六箇月以内に、この条約の効果的な適用を確保するため必要なすべての措置をとる。

2 1に規定する期間は、この条約の効力発生の日の後に批准書又は加入書を寄託する国については、批准書又は加入書の寄託の日の後六箇月とする。

第三十五条 条約の適用地域

いずれの締約国も、批准若しくは加入の際に又はその後いつでも、国際連合教育科学文化機関事務局長にあてた通告により、自国が国際関係について責任を有する領域の全部又は一部にこの条約を適用することを宣言することができる。この通告は、その受領の日の後三箇月で効力を生ずる。

第三十六条 従前の条約との関係

1 千八百九十九年七月二十九日又は千九百七年十月十八日の陸戦の法規及び慣例に関するハーグ条約(第四ハーグ条約)及び千九百七年十月十八日の戦時海軍力をもってする砲撃に関するハーグ条約(第九ハーグ条約)によって拘束される国であってこの条約の締約国であるものの間の関係においては、この条約は、第九ハーグ条約及び第四ハーグ条約に附属する規則を補足するものとし、この条約及びその施行規則において特殊標章を使用することが定められている場合については、第十六条に規定する標章をもって第九ハーグ条約第五条に規定する標章に代える。

2 千九百三十五年四月十五日の芸術上及び科学上の施設並びに歴史上の記念工作物の保護に関するワシントン条約(レーリッヒ条約)によって拘束される国であってこの条約の締約国であるものの間の関係においては、この条約は、レーリッヒ条約を補足するものとし、この条約及びその施行規則において特殊標章を使用することが定められている場合については、第十六条に規定する標章をもってレーリッヒ条約第三条に規定する識別旗に代える。

第三十七条 廃棄

1 締約国は、自国について、又は自国が国際関係について責任を有する領域について、この条約を廃棄することができる。

2 廃棄は、国際連合教育科学文化機関事務局長に寄託する文書により通告する。

3 廃棄は、廃棄書の受領の後一年で効力を生ずる。ただし、廃棄を行う締約国がこの期間の満了の時において武力紛争に巻き込まれている場合には、廃棄は、敵対行為の終了の時又は文化財の返還に関する業務が完了する時のいずれか遅い時まで効力を生じない。

第三十八条 通報

国際連合教育科学文化機関事務局長は、第三十条及び第三十二条に規定する国並びに国際連合に対し、第三十一条、第三十二条及び次条に規定するすべての批准書、加入書及び受諾書の寄託並びに第三十五条、前条及び次条に規定する通告及び廃棄を通報する。

第三十九条 条約及び施行規則の改正

1 いずれの締約国も、この条約又はその施行規則の改正を提案することができる。改正案は、国際連合教育科学文化機関事務局長に通報するものとし、同事務局長は、これを締約国に送付し、かつ、次のいずれかのことを表明する回答を四箇月以内に行うよう要請する。

(a) 改正案を審議するため会議を招集することを希望すること。

(b) 会議を開催することなく改正案を採択することに賛成すること。

(c) 会議を開催することなく改正案を拒否することに賛成すること。

2 国際連合教育科学文化機関事務局長は、1の規定により受領した回答をすべての締約国に送付する。

3 所定の期間内に国際連合教育科学文化機関事務局長に対し自国の意見を表明したすべての締約国が、1(b)の規定に従い、会議を開催することなく改正案を採択することに賛成することを同事務局長に通告する場合には、同事務局長は、前条の規定に従い、すべての締約国による採択の決定を通報する。改正は、この通報の日から九十日の期間が満了した時にすべての締約国について効力を生ずる。

4 国際連合教育科学文化機関事務局長は、三分の一を超える締約国から要請があったときは、改正案を審議するための締約国会議を招集する。

5 4の規定に基づいて取り扱われるこの条約又はその施行規則の改正は、締約国会議に代表を出席させた締約国が全会一致で採択し、かつ、各締約国が受諾した後においてのみ効力を生ずる。

6 4及び5に規定する締約国会議で採択されたこの条約又はその施行規則の改正の締約国による受諾は、正式の文書を国際連合教育科学文化機関事務局長に寄託することによって行う。

7 この条約又はその施行規則の改正が効力を生じた後は、改正された条約又は施行規則のみを批准又は加入のために開放しておく。

第四十条 登録

この条約は、国際連合教育科学文化機関事務局長からの要請により、国際連合憲章第百二条の規定に従って、国際連合事務局に登録する。

以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。

千九百五十四年五月十四日にハーグで、本書一通を作成した。本書は、国際連合教育科学文化機関に寄託するものとし、その認証謄本は、第三十条及び第三十二条に規定するすべての国並びに国際連合に送付する。

武力紛争の際の文化財の保護に関する条約の施行規則

第一章 管理

第一条 国際的な名簿

国際連合教育科学文化機関事務局長は、この条約が効力を生じたときは、文化財管理官の任務を遂行する能力を有する者として締約国が指名するすべての者から成る国際的な名簿を作成する。この名簿は、同事務局長の発意により、締約国が行う要請に基づき定期的に改定する。

第二条 管理のための機関

いずれかの締約国が、条約第十八条の規定の適用を受ける武力紛争に巻き込まれたときは、

(a) 当該締約国は、自国の領域内に所在する文化財についての代表者一人を直ちに任命するものとし、他の国の領域を占領している場合には、その占領している領域内に所在する文化財についての特別の代表者一人を直ちに任命する。

(b) 当該締約国と紛争状態にあるいずれかの国に代わって行動する利益保護国は、次条の規定に従い、当該締約国に派遣する代表を直ちに任命する。

(c) 一人の文化財管理官が、第四条の規定に従い、当該締約国のために直ちに任命される。

第三条 利益保護国の代表の任命

利益保護国は、自国の外交職員若しくは領事職員の中から又は派遣先の国の承認を得てその他の者の中から、その代表を任命する。

第四条 文化財管理官の任命

1 文化財管理官は、当該文化財管理官の派遣先の国及びこれと敵対する紛争当事国に代わって行動する利益保護国の合意により、第一条に規定する国際的な名簿から選定する。

2 1に規定する国は、文化財管理官の選定に関する討議の開始の日から三週間以内に合意に達することができなかった場合には、国際司法裁判所長に対し文化財管理官を任命するよう要請するものとし、当該文化財管理官は、自己の派遣先の国がその任命を承認するまでは、任務を開始してはならない。

第五条 利益保護国の代表の任務

利益保護国の代表は、この条約に違反する行為に留意し、自己の派遣先の国の承認を得てそのような違反行為が行われた事情について調査し、当該違反行為の中止を確保するために現地で申入れを行い、及び必要な場合には当該違反行為について文化財管理官に通報する。利益保護国の代表は、その活動を文化財管理官に常時通報する。

第六条 文化財管理官の任務

1 文化財管理官は、自己の派遣先の国の代表者及び関係する利益保護国の代表と協力して、この条約の適用に関して付託されるすべての事項を取り扱う。

2 文化財管理官は、この施行規則に定める場合において、決定及び任命を行う権限を有する。

3 文化財管理官は、自己の派遣先の国の同意を得て、調査を命じ、又は自ら調査を行う権利を有する。

4 文化財管理官は、紛争当事国又はその利益保護国に対し、この条約の適用について有用と認める申入れを行う。

5 文化財管理官は、この条約の適用について必要な報告書を作成し、並びにこれを関係国及びその利益保護国に送付する。文化財管理官は、この報告書の写しを国際連合教育科学文化機関事務局長に送付するものとし、同事務局長は、その技術的内容のみを利用することができる。

6 文化財管理官は、利益保護国がない場合には、条約第二十一条及び第二十二条に定める利益保護国の任務を遂行する。

第七条 査察員及び専門家

1 文化財管理官は、必要と認めるときはいつでも、関係する利益保護国の代表の要請により又は当該代表との協議の後に、当該文化財管理官の派遣先の国に対し、その承認を得るため、特定の任務を有する文化財のための査察員を推薦する。査察員は、文化財管理官に対してのみ責任を負う。

2 文化財管理官、利益保護国の代表及び査察員は、専門家の役務を利用することができるものとし、当該専門家についても、1に規定する派遣先の国に対し、その承認を得るために推薦される。

第八条 管理の任務の遂行

文化財管理官、利益保護国の代表、査察員及び専門家は、いかなる場合にも、その権限を超えてはならない。特に、これらの者は、自己の派遣先の締約国の安全上の必要を考慮するものとし、また、あらゆる場合において、当該締約国が通報する軍事的状況の要請するところに従って行動する。

第九条 利益保護国の代理

紛争当事国が利益保護国の活動による利益を受けない場合又は当該利益を受けなくなった場合には、中立国は、第四条に定める手続に従って行われる文化財管理官の任命に関する利益保護国の任務を遂行するよう要請されることがある。このようにして任命された文化財管理官は、必要な場合には、この施行規則に定める利益保護国の代表の任務を査察員に委任する。

第十条 費用

文化財管理官、査察員及び専門家の報酬並びにこれらの者に係る費用については、これらの者の派遣先の国が負担する。利益保護国の代表の報酬及び当該代表に係る費用については、利益保護国と当該利益保護国が利益を保護する国との間で合意するところによる。

第二章 特別の保護

第十一条 臨時の避難施設

1 いずれの締約国も、武力紛争の間において、予見されなかった事情のため臨時の避難施設を設置することとなり、かつ、当該臨時の避難施設を特別の保護の下に置くことを希望する場合には、その旨を自国に派遣された文化財管理官に直ちに通報する。

2 文化財管理官は、予見されなかった事情及び臨時の避難施設に収容される文化財の重要性によりこのような措置が正当化されると認める場合には、条約第十六条に規定する特殊標章を当該臨時の避難施設に表示することを締約国に認めることができる。文化財管理官は、そのような決定を関係する利益保護国の代表に遅滞なく通報するものとし、当該代表は、特殊標章を直ちに撤去することを三十日の期間内に命ずることができる。

3 文化財管理官は、臨時の避難施設が条約第八条に定める条件を満たしていると認める場合において、関係する利益保護国の代表が同意を表明したときは直ちに、又は当該代表のいずれも反対することなく2に規定する三十日の期間が満了したときは、当該臨時の避難施設を特別の保護の下にある文化財の国際登録簿に登録するよう国際連合教育科学文化機関事務局長に要請する。

第十二条 特別の保護の下にある文化財の国際登録簿

1 「特別の保護の下にある文化財の国際登録簿」(以下「国際登録簿」という。)を作成する。

2 国際連合教育科学文化機関事務局長は、国際登録簿を維持する。同事務局長は、その写しを国際連合事務総長及び締約国に送付する。

3 国際登録簿は、締約国の国名ごとに区分する。それぞれの区分は、「避難施設」、「記念工作物集中地区」及び「その他の不動産の文化財」の表題を付した三つの段落に細分する。国際連合教育科学文化機関事務局長は、それぞれの区分に含まれるべき内容について詳細を定める。

第十三条 登録の申請

1 いずれの締約国も、国際連合教育科学文化機関事務局長に対し、自国の領域内に所在する特定の避難施設、記念工作物集中地区又はその他の不動産の文化財を国際登録簿に登録するための申請書を提出することができる。この申請書は、これらの文化財の所在地に関する記述を含むものとし、当該文化財が条約第八条の規定に合致するものであることを証明する。

2 占領が行われる場合には、占領国が1の申請を行うことができる。

3 国際連合教育科学文化機関事務局長は、遅滞なく、登録の申請書の写しを各締約国に送付する。

第十四条 異議

1 いずれの締約国も、国際連合教育科学文化機関事務局長にあてた書簡により、国際登録簿への文化財の登録について異議を申し立てることができる。この書簡は、同事務局長が登録の申請書の写しを送付した日から四箇月以内に同事務局長により受領されなければならない。

2 1の異議には、その理由を明示するものとし、次の(a)又は(b)のいずれかに限り、正当な理由と認められる。

(a) その財産が文化財でないこと。

(b) その財産が条約第八条に定める条件を満たしていないこと。

3 国際連合教育科学文化機関事務局長は、遅滞なく、異議の書簡の写しを締約国に送付する。同事務局長は、必要な場合には、記念工作物、芸術的・歴史的遺跡及び考古学上の発掘に関する国際委員会、及び適当と認める場合には、能力を有する他の団体又は個人の助言を求める。

4 国際連合教育科学文化機関事務局長又は登録の申請を行った締約国は、異議を申し立てた締約国に対し、その異議を撤回させるため、必要と認める申入れを行うことができる。

5 平時において登録の申請を行った締約国がその登録が行われる前に武力紛争に巻き込まれた場合には、国際連合教育科学文化機関事務局長は、申し立てられることのある又は申し立てられた異議が承認され、撤回され、又は無効なものとされるまでの間有効なものとして、直ちに、当該申請に係る文化財を国際登録簿に暫定的に登録する。

6 国際連合教育科学文化機関事務局長が、異議の書簡を受領した日から六箇月の期間内に、異議を申し立てた締約国から当該異議を撤回した旨の通報を受領しない場合には、登録の申請を行った締約国は、7に定める手続に従って仲裁を要請することができる。

7 仲裁の要請は、国際連合教育科学文化機関事務局長が異議の書簡を受領した日の後一年を経過した後は、行ってはならない。双方の紛争当事国は、それぞれ一人の仲裁人を任命する。一の登録の申請に対し二以上の異議が申し立てられた場合には、異議を申し立てた締約国は、合意により、一人の仲裁人を任命する。これらの二人の仲裁人は、第一条に規定する国際的な名簿から裁判長となる仲裁人を選定する。当該二人の仲裁人が裁判長となる仲裁人の選定について合意することができないときは、裁判長となる仲裁人の任命を国際司法裁判所長に要請するものとし、この場合には、裁判長となる仲裁人は必ずしも当該国際的な名簿から選定されることを要しない。このようにして構成された仲裁裁判所は、当該仲裁裁判所の手続を自ら定める。当該仲裁裁判所が行う決定については、異議を申し立てることができない。

8 各締約国は、自国が当事者である紛争が生じたときはいつでも、7に定める仲裁手続の適用を希望しないことを宣言することができる。この場合には、登録の申請に対する異議は、国際連合教育科学文化機関事務局長により締約国に送付される。この異議は、投票する締約国が三分の二以上の多数による議決で決定する場合にのみ、承認される。投票は、同事務局長が条約第二十七条の規定により自己に与えられた権限に基づいて会合を招集することが不可欠であると認める場合を除くほか、通信によって行う。同事務局長は、通信による投票を行うこととする場合には、締約国に対し、封印した書簡により、同事務局長による要請が行われた日から六箇月以内に自国の票を送付するよう要請する。

第十五条 登録

1 国際連合教育科学文化機関事務局長は、前条1に規定する期間内に異議を受領しなかった場合には、登録の申請が行われた文化財について、一連の番号を各物件に付して国際登録簿に登録されるようにしなければならない。

2 異議が申し立てられた場合には、前条5の規定の適用を妨げることなく、国際連合教育科学文化機関事務局長は、当該異議が撤回されたとき又は同条7若しくは8に定める手続により承認されなかったときにのみ、文化財を国際登録簿に登録する。

3 第十一条3の規定を適用する場合には、国際連合教育科学文化機関事務局長は、文化財管理官の要請により、文化財を国際登録簿に登録する。

4 国際連合教育科学文化機関事務局長は、国際登録簿への各登録に係る認証謄本を、国際連合事務総長、締約国並びに登録を申請している国の要請がある場合には条約第三十条及び第三十二条に規定する他のすべての国に遅滞なく送付する。登録は、当該認証謄本の発送の後三十日で効力を生ずる。

第十六条 取消し

1 国際連合教育科学文化機関事務局長は、次のいずれかの場合には、いかなる文化財の登録も取り消されるようにしなければならない。

(a) 当該文化財が領域内に所在する締約国の要請がある場合

(b) 登録を申請した締約国が条約を廃棄し、かつ、その廃棄が効力を生じた場合

(c) 第十四条5に定める特別な場合において、同条7又は8に定める手続により異議が承認されたとき。

2 国際連合教育科学文化機関事務局長は、登録の取消しに係る認証謄本を国際連合事務総長及び国際登録簿への登録に係る謄本を受領したすべての国に遅滞なく送付する。登録の取消しは、当該認証謄本の発送の後三十日で効力を生ずる。

第三章 文化財の輸送

第十七条 特別な取扱いを受けるための手続

1 条約第十二条1に規定する要請は、文化財管理官に対して行う。要請書には、要請の基礎となる理由を記載し、並びに移動する物件の概数及び重要性、要請の時点における当該物件の所在地及び当該時点において予定されている移動先、使用する輸送手段、移動の経路、移動の予定日その他の関連情報を明記する。

2 文化財管理官は、適当と認める意見を聴取した後1の移動を正当と認める場合には、当該移動を実施するために予定されている措置につき、関係する利益保護国の代表と協議する。文化財管理官は、この協議の後、関係する紛争当事国に対し、当該移動について通報(すべての有用な情報を含むもの)を行う。

3 文化財管理官は、要請書に記載された文化財のみが移動されること及び当該文化財の輸送が承認された方法によって行われ、かつ、特殊標章を表示していることを確認する一人又は二人以上の査察員を任命する。査察員は、目的地まで当該文化財に同行する。

第十八条 国外への輸送

特別の保護の下における移動が他の国の領域に向けて行われる場合には、当該移動は、条約第十二条の規定及び前条の規定に加え、次の(a)から(d)までの規定によっても規律される。

(a) 文化財が当該他の国の領域内に所在する間、当該他の国は、当該文化財の受寄者とするものとし、当該文化財について、同等の重要性を有する自国の文化財に対する場合と同程度の注意をもって管理を行う。

(b) 受寄者たる国は、紛争が終了した場合にのみ文化財を返還する。返還は、その返還が要請された日から六箇月以内に行う。

(c) 各種の移動の業務を行うに際し、文化財が当該他の国の領域内にある場合には、当該文化財は、寄託者及び受寄者のいずれによっても、没収され、又は処分されてはならない。ただし、当該文化財の安全のために必要とされる場合には、受寄者は、寄託者の同意を得て、この条に定める条件に従い、当該文化財を第三国の領域に輸送することができる。

(d) 特別の保護に係る要請書には、自国の領域に向けて文化財が移動される国がこの条の規定を受諾していることを明記する。

第十九条 占領地域

他の締約国の領域を占領している締約国が文化財を当該領域内の他の場所にある避難施設に移動する場合には、第十七条に定める手続に従うことができないときであっても、その移動は、条約第四条に規定する横領には該当しないものとする。ただし、文化財管理官が、通常の管理者と協議した後、当該移動が諸事情により必要とされていることを書面で証明することを条件とする。

第四章 特殊標章

第二十条 標章の取付け

1 特殊標章の配置及び特殊標章の視認性の程度は、締約国の権限のある当局の裁量にゆだねられる。特殊標章は、旗又は腕章に表示することができ、また、物件上に描き、又は他の適切な形態で表示することができる。

2 もっとも、特殊標章は、武力紛争に際しては、条約第十二条及び第十三条に定める場合には、一層完全な表示を行うことを妨げることなく、昼間において上空及び地上から明確に視認することができるよう輸送車両の上に配置する。特殊標章は、次の条件を満たすものとし、地上から視認することができるものでなければならない。

(a) 特別の保護の下にある記念工作物集中地区については、その外縁を明確に示すために十分な一定の間隔で配置すること。

(b) 特別の保護の下にあるその他の不動産の文化財については、その入口に配置すること。

第二十一条 要員の識別

1 条約第十七条2(b)及び(c)に規定する者は、権限のある当局が発給し、かつ、その印章を押した腕章であって特殊標章を表示したものを着用することができる。

2 1に規定する者は、特殊標章を表示した特別の身分証明書を携帯する。この身分証明書には、少なくとも所持者の氏名、生年月日、組織上の名称又は階級及び職務を記載する。この身分証明書には、所持者の写真及び署名若しくは指紋又はその双方を表示するものとし、権限のある当局の浮出印を押す。

3 締約国は、この施行規則に例として附属するひな型に倣って、自国の身分証明書の様式を作成する。締約国は、自国が使用する様式の見本を相互に送付する。身分証明書は、可能な場合には、少なくとも二通作成するものとし、そのうちの一通は、これを発行した国が保管する。

4 1に規定する者は、正当な理由なくして、身分証明書を奪われず、また、腕章を着用する権利をはく奪されない。

表面身分証明書文化財の保護に従事する要員用姓名生年月日組織上の名称又は階級職務発行年月日証明書番号上記の者は、千九百五十四年五月十四日の武力紛争の際の文化財の保護に関するハーグ条約の規定に基づき、この証明書を所持する。

裏面所持者の写真所持者の署名若しくは指紋又はその双方この証明書を発給する当局の浮出印身長眼の色頭髪の色その他の特徴

(右条約の英文)〔省略〕