附属書I 識別に関する規則
第一条 総則
1 この附属書の識別に関する規則により、諸条約及びこの議定書の関連規定を実施する。この規則は、諸条約及びこの議定書によって保護される要員、物品、組織、輸送手段及び施設の識別を容易にすることを目的とする。
2 識別に関する規則それ自体は、保護を受ける権利を設定するものではない。保護を受ける権利は、諸条約及びこの議定書の関連規定によって規律される。
3 権限のある当局は、諸条約及びこの議定書の関連規定に従うことを条件として、いつでも、特殊標章及び特殊信号の使用、表示、照明及び探知可能性について定めることができる。
4 締約国、特に紛争当事者は、いつでも、識別可能性を向上させ及びこの分野における技術の進歩を十分に利用する追加的な又は他の信号、方法又はシステムについて合意するよう求められる。
第一章 身分証明書
第二条 軍の医療要員以外の常時の医療要員及び軍の宗教要員以外の常時の宗教要員の身分証明書
1 議定書第十八条3に規定する軍の医療要員以外の常時の医療要員及び軍の宗教要員以外の常時の宗教要員の身分証明書は、次の要件を満たすべきである。
(a) 特殊標章を付し、かつ、ポケットに入る大きさのものであること。
(b) できる限り耐久性のあるものであること。
(c) 自国語又は公用語及び適当な場合には関連地域の現地の言語で書かれていること。
(d) 氏名、生年月日(生年月日が明らかでないときは、身分証明書の発給時の年齢)及び所持者の識別のための番号がある場合にはその番号が記載されていること。
(e) 所持者がいかなる資格において諸条約及びこの議定書の保護を受ける権利を有するかが記載されていること。
(f) 所持者の写真及び署名若しくは拇(ぼ)印又はその双方が付されていること。
(g) 権限のある当局の印章が押され、及び当該当局の署名が付されていること。
(h) 身分証明書の発給年月日及び有効期間の満了日が記載されていること。
(i) 可能な限り、身分証明書の裏面に所持者の血液型が記載されていること。
2 身分証明書は、締約国の領域を通じて同一の形式のものとし、また、できる限り、すべての紛争当事者について同様の形式のものとする。紛争当事者は、第一図に示す単一の言語によるひな型に倣うことができる。紛争当事者は、敵対行為の開始に際し、その使用するひな型が第一図に示すものと異なる場合には、当該ひな型の見本を相互に送付する。身分証明書は、可能な場合には、二通作成するものとし、そのうちの一通は、発給当局が保管する。当該発給当局は、発給した身分証明書の管理を行うべきである。
3 いかなる場合においても、軍の医療要員以外の常時の医療要員及び軍の宗教要員以外の常時の宗教要員は、その身分証明書を奪われない。身分証明書を紛失した場合には、その複本の発給を受ける権利を有する。
第三条 軍の医療要員以外の臨時の医療要員及び軍の宗教要員以外の臨時の宗教要員の身分証明書
1 軍の医療要員以外の臨時の医療要員及び軍の宗教要員以外の臨時の宗教要員の身分証明書は、可能な限り、前条に規定する身分証明書と同様のものとすべきである。紛争当事者は、第一図に示すひな型に倣うことができる。
2 軍の医療要員以外の臨時の医療要員及び軍の宗教要員以外の臨時の宗教要員は、前条に規定する身分証明書と同様の身分証明書の発給を受けることができない場合には、これらの者が臨時の要員としての任務を遂行していることを証明し並びにその任務を遂行している期間及び特殊標章を使用する権利を可能な限り記載する証明書であって、権限のある当局が署名するものの発給を受けることができる。この証明書は、所持者の氏名、生年月日(生年月日が明らかでないときは、証明書の発給時の年齢)、任務及び識別のための番号がある場合にはその番号を記載すべきである。当該証明書には、所持者の署名若しくは拇(ぼ)印又はその双方を付する。
表面裏面(この証明書を発給する国及び当局の名を記載するための余白)軍の要員以外の要員用医療宗教医療宗教常時の臨時の氏名生年月日(又は年齢)識別のための番号がある場合にはその番号この証明書の所持者は、次の資格において、千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約及び千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書T)によって保護される。発給年月日発給当局の署名証明書番号有効期間の満了日第1図身分証明書のひな型(様式横74ミリメートル、縦105ミリメートル)身分証明書身長その他の特徴又は情報眼の色頭髪の色所持者の写真印章所持者の署名若しくは拇印又はその双方ぼ
第二章 特殊標章
第四条 形状
特殊標章(白地に赤色)は、状況に応じて適当な大きさとする。締約国は、十字、新月又はライオン及び太陽(注)の形状について、第二図に示すひな型に倣うことができる。
第2図白地に赤色の特殊標章
注 いずれの国も、千九百八十年以降ライオン及び太陽の標章を使用していない。
第五条 使用
1 特殊標章は、できる限り様々な方向から及び遠方から(特に空から)識別されることができるよう、可能な限り、平面若しくは旗に又は地形に応じた他の適当な方法によって表示する。
2 夜間又は可視度が減少したときは、特殊標章は、点灯し又は照明することができる。
3 特殊標章は、探知に関する技術的な方法によってこれを識別することができるようにする材料で作ることができる。赤色の部分は、特に赤外線機器による識別を容易にするため、黒色の下塗りの上に塗るべきである。
4 戦場で任務を遂行する医療要員及び宗教要員は、特殊標章を付した帽子及び衣服をできる限り着用する。
第三章 特殊信号
第六条 使用
1 医療組織又は医療用輸送手段は、この章に規定するすべての特殊信号を使用することができる。
2 特殊信号については、専ら医療組織又は医療用輸送手段が使用することができるものとし、他のいかなる目的にも使用してはならない。ただし、発光信号の使用については、この限りでない(3参照)。
3 青色のせん光灯の使用を医療用車両並びに医療用船舶及び医療用舟艇の識別の目的に限定する紛争当事者間の特別の合意が存在しない場合には、他の車両、船舶及び舟艇は、青色のせん光灯の使用を禁止されない。
4 時間的余裕がないこと又はその特性から特殊標章を付することができない臨時の医療用航空機は、この章において認められた特殊信号を使用することができる。
第七条 発光信号
1 国際民間航空機関(ICAO)の耐空性に関する技術手引書(文書第九〇五一号)に定義する青色のせん光灯から成る発光信号については、医療用航空機の識別に使用するために設定する。他のいかなる航空機も、この信号を使用してはならない。青色のせん光灯を使用する医療用航空機は、発光信号ができる限り様々な方向から識別されることができるよう、必要に応じてそのせん光灯を表示すべきである。
2 諸条約及びこの議定書によって保護される船舶は、国際海事機関(IMO)の国際信号書第十四章4の規定に従い、あらゆる方向から識別されることができる一又は二以上の青色のせん光灯を表示すべきである。
3 医療用車両は、できる限り遠方から識別されることができる一又は二以上の青色のせん光灯を表示すべきである。他の色のせん光灯を使用する締約国、特に紛争当事者は、これを通報すべきである。
4 望ましい青色は、その色度が国際照明委員会(ICI)の色度図の次の方程式によって定義される境界の内側にあるときに得られる。
緑色の境界 y=0.065+0.805x
白色の境界 y=0.400−x
紫色の境界 x=0.133+0.600y
青色灯の望ましいせん光の頻度は、一分間に六十回から百回までとする。
第八条 無線信号
1 無線信号は、国際電気通信連合(ITU)の無線通信規則(同規則第四十条及び第N四十条)に規定する緊急信号及び特殊信号から成る。
2 無線による通報は、1に規定する緊急信号及び特殊信号を前置するものとし、この目的のために無線通信規則に定める周波数により、適当な間隔を置いて、英語で送信する。無線による通報は、関係する医療用輸送手段に関する次の情報を伝達する。
(a) 呼出符号その他の認められた識別方法
(b) 位置
(c) 輸送手段の数及び種類
(d) 予定の経路
(e) 適当な場合には、予定所要時間並びに出発及び到着の予定時刻
(f) その他の情報(例えば、飛行高度、保護無線周波数、使用言語並びに二次監視レーダーのモード及び符号)
3 締約国及び紛争当事者は、1及び2に規定する通信並びに議定書第二十二条、第二十三条及び第二十五条から第三十一条までに規定する通信を容易にするため、合意に基づき又は単独で、これらの通信のために自国が使用することを選択した周波数を国際電気通信条約に附属する無線通信規則の周波数割当て表に従って指定し、及び公表することができる。これらの周波数は、世界無線通信主管庁会議が承認する手続に従って国際電気通信連合に通報する。
第九条 電子的な識別
1 千九百四十四年十二月七日の国際民間航空に関するシカゴ条約第十附属書(随時改正されたもの)に規定する二次監視レーダー・システムは、医療用航空機の進路を識別し及び追跡するために使用することができる。締約国及び紛争当事者は、合意に基づき又は単独で、国際民間航空機関が勧告する手続に従い、専ら医療用航空機による使用に限定される二次監視レーダーのモード及び符号を設定する。
2 保護される医療用輸送手段は、識別され及び自己の位置が確認されるよう、標準的な航空用のレーダー・トランスポンダ又は海上における捜索及び救助のためのレーダー・トランスポンダを使用することができる。
保護される医療用輸送手段は、当該医療用輸送手段に設置されたレーダー・トランスポンダが例えばモード三又はモードAに対して発信する符号により、二次監視レーダーを装備する他の船舶又は航空機によって識別されるようにすべきである。
医療用輸送手段のトランスポンダが発信する符号は、権限のある当局によって当該医療用輸送手段に割り当てられるべきであり、また、すべての紛争当事者に通報されるべきである。
3 医療用輸送手段は、当該医療用輸送手段が発信する適当な水中音波信号により、潜水艦によって識別されるようにすべきである。
水中音波信号は、適当な音波周波数(例えば五キロヘルツ)のモールスで発信される単一の集合YYYを前置する船舶の呼出符号(又は医療用輸送手段のその他の認められた識別方法)から成る。
このような水中音波識別信号の使用を希望する紛争当事者は、できる限り速やかに関係締約国に対し当該水中音波識別信号を通報するものとし、病院船の使用を通報するときは、使用する周波数を確認する。
4 紛争当事者は、当該紛争当事者間の特別の合意により、医療用車両並びに医療用船舶及び医療用舟艇の識別のための同様の電子的なシステムを当該紛争当事者による使用のために設定することができる。
第四章 通信
第十条 無線通信
1 議定書第二十二条、第二十三条及び第二十五条から第三十一条までの規定に従ってとられる手続の適用に当たり、医療組織及び医療用輸送手段による適当な無線通信は、第八条に規定する緊急信号及び特殊信号を前置することができる。
2 国際電気通信連合の無線通信規則第四十条(第二節第三二〇九号)及び第N四十条(第三節第三二一四号)に規定する医療用輸送手段は、また、移動衛星業務に関する国際電気通信連合の無線通信規則第三十七条、第N三十七条及び第五十九条の規定に従い、衛星システムによる通信を発信することができる。
第十一条 国際的な符号の使用
医療組織及び医療用輸送手段は、また、国際電気通信連合、国際民間航空機関及び国際海事機関が定める符号及び信号を使用することができる。これらの符号及び信号は、これらの機関が定める基準、方式及び手続に従って使用される。
第十二条 他の通信手段
双方向の無線通信が不可能な場合には、国際海事機関が採択した国際信号書又は千九百四十四年十二月七日の国際民間航空に関するシカゴ条約の適当な附属書(随時改正されたもの)に定める信号を使用することができる。
第十三条 飛行計画
議定書第二十九条に規定する飛行計画に関する合意及び通報は、可能な限り国際民間航空機関が定める手続に従って行われる。
第十四条 医療用航空機の要撃のための信号及び手続
飛行中の医療用航空機が医療用航空機であることを確認するため又は議定書第三十条及び第三十一条の規定に従い当該飛行中の医療用航空機に着陸するよう求めるため要撃用航空機が使用される場合には、要撃用航空機及び医療用航空機は、千九百四十四年十二月七日の国際民間航空に関するシカゴ条約第二附属書(随時改正されたもの)に定める視覚又は無線による要撃のための標準的な手続を使用すべきである。
第五章 文民保護
第十五条 身分証明書
1 議定書第六十六条3に規定する文民保護の要員の身分証明書は、この附属書の第二条の関連規定によって規律される。
2 文民保護の要員の身分証明書は、第三図に示すひな型に倣うことができる。
3 文民保護の要員が軽量の個人用の武器を携行することを認められる場合には、身分証明書にその旨を記載すべきである。
表面裏面(この証明書を発給する国及び当局の名を記載するための余白)文民保護の要員用氏名生年月日(又は年齢)識別のための番号がある場合にはその番号この証明書の所持者は、次の資格において、千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約及び千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書T)によって保護される。発給年月日発給当局の署名証明書番号有効期間の満了日第3図文民保護の要員用の身分証明書のひな型(様式横74ミリメートル、縦105ミリメートル)身分証明書身長その他の特徴又は情報武器眼の色頭髪の色所持者の写真印章所持者の署名若しくは拇印又はその双方ぼ
第十六条 国際的な特殊標章
1 議定書第六十六条4に規定する文民保護の国際的な特殊標章は、オレンジ色地に青色の正三角形とする。ひな型については、第四図に示す。
第4図オレンジ色地に青色の三角形
2 文民保護の国際的な特殊標章については、次の条件を満たすことが望ましい。
(a) 青色の三角形を旗、腕章又は制服に付する場合には、その三角形の下地は、オレンジ色の旗、腕章又は制服とすること。
(b) 三角形の一の角が垂直に上を向いていること。
(c) 三角形のいずれの角もオレンジ色地の縁に接していないこと。
3 国際的な特殊標章は、状況に応じて適当な大きさとする。この特殊標章は、できる限り様々な方向から及び遠方から識別されることができるよう、可能な限り、平面又は旗に表示する。文民保護の要員は、権限のある当局の指示に従って、国際的な特殊標章を付した帽子及び衣服をできる限り着用する。夜間又は可視度が減少したときは、この特殊標章は、点灯し又は照明することができる。また、この特殊標章は、探知に関する技術的な方法によってこれを識別することができるようにする材料で作ることができる。
第六章 危険な力を内蔵する工作物及び施設
第十七条 国際的な特別の標章
1 議定書第五十六条7に規定する危険な力を内蔵する工作物及び施設のための国際的な特別の標章は、第五図に示すように、一列に並べられた同一の大きさの三個の明るいオレンジ色の円から成るものとし、それぞれの円の間隔は、一半径とする。
2 国際的な特別の標章は、状況に応じて適当な大きさとする。広範囲の面に表示する場合には、状況に応じて適当な数だけ繰り返し表示することができる。この標章は、できる限り様々な方向から及び遠方から識別されることができるよう、可能な限り、平面又は旗に表示する。
3 国際的な特別の標章を旗に表示する場合には、標章の外縁とこれに隣接する旗の辺との間の距離は、円の一半径とする。旗は、白地の長方形とする。
4 夜間又は可視度が減少したときは、国際的な特別の標章は、点灯し又は照明することができる。また、この標章は、探知に関する技術的な方法によってこれを識別することができるようにする材料で作ることができる。
第5図危険な力を内蔵する工作物及び施設のための国際的な特別の標章
附属書U 職業上の危険な任務に従事する報道関係者のための身分証明書
略