松田 度
同志社大学 歴史資料館 調査研究員
同志社大学 大学院 博士課程後期
最終更新日 2003年11月17日
考古学という学問は、これまですべてを平面・立面という2D(2次元)の世界で議論を展開していました。しかし、このような情勢に対し、現在新たな研究法の提案がなされつつあります。これからお話しする事柄も、それにまつわるエピソードです。
昨年度から、各地で3D(3次元)レーザースキャナーを用いた遺跡情報のデジタル資料化についての議論が盛んになりつつあります。遺跡情報を3Dのデジタル資料として活用するために、はたしてレーザースキャナーはどれほどの有用性をもつのでしょうか。そこでまず、レーザーによるデジタル資料化について考えてみましょう。
昨年、同志社大学が実施した大学会館地点の調査でも、室町時代の石敷きを3Dデータ化しようと試みました(発掘物語2 第17回参照)。ところが、取得したデータ量が大きすぎて、コンピュータ上での操作が困難でした。やはり、正確に緻密にデータを取得するだけでなく、対象の大きさや、使用目的によって、計測する点群データの数量を調整する必要がある、ということを実感しました。
レーザーによる計測データは、ランダムに対象物にむかってとばされた点群データの集合としてコンピュータに表示されます。 この計測法は、計測者によって表現方法が若干異なる手書きの計測と比べても、物自体をより正確に把握することができるといえます。また、写真計測で用いるオルソ画像(2方向以上から撮影した2つ以上の写真の合成画像。写真自体がもつゆがみを補正したもの)のように、奥行きがあるほど不明瞭な部分が生じる、といった問題点もありません。このレーザー計測は、現時点で考えられるもっとも客観的な計測方法といえるでしょう。
また、写真計測と比較した場合、レーザー計測の有効性として、事故現場・工事現場などでの計測データ(崩れそうな石垣が一週間で何ミリ動いたかなど)を取得する際の速効性もあげられます。また、地形測量の際、木の葉の隙間をぬって地面までレーザーを到達させることで、上空などからの撮影で写真計測では分かりにくい、森林地帯などのグランドレベルの計測にも有用性を発揮できます。ただし、この場合、膨大な点群データが所得されるため、先に述べたコンピュータ上での操作での困難さが生じます。
情報の大きい遺跡・遺構に対し、出土品のような小さなものについては、面積のうえでも少ない点群データで、より正確に情報を取得することができます。たとえば手書き実測は難しいが重要品なのでぜひ資料化したい、といった場合に効果を発揮するでしょう。
まず、1台のレーザースキャナーの前に資料を置いて、計測します。1回のショットの計測が終了すれば、左右前後裏と展開させて、数面のショットを計測。コンピュータの画面にショットごとの点群データが表示されます。次にそれぞれのショットの形状が重なる部分を肉眼で判断し、データを回転させながら画面上で合成。こうしてひとつの3D化された資料ができあがります。レーザー計測の限界点としては、光の反射・吸収率によって計測対象の色調の違いや影の部分が、微妙に凹凸として反映されてしまうことがあげられますが、この光の反射・吸収率を生かして、レーザーの精度や、感度・ドットの大きさ、表示形式を調整することで、色彩の違い、もののもつ質感(磁器・須恵器と土師器の違い)や、染付文様もきれいに表現できます。
形状を計測するだけではなく、もののもつ質感や、色彩の差異なども、ある程度レーザー計測によってデータ化できる、という点は、今後このレーザー測量を出土品に応用するうえで、注目すべき点といえます。
この話は出土品に限りません。たとえば、国宝などの重要資料については、私たち自身手にとって見る機会もほとんどありませんが、これを将来、様々な文化財のデジタル記録化に有効な手段として活用できれば、家にいながら、パソコンで国宝の3Dデータを扱うことも可能になるでしょう。同様に、この技術が進展すれば、失われつつある故郷の風景もまた、3D化で保存しようという波が押し寄せてくるかもしれません。これから注目されるデジタル資料化の道のひとつです。
今後、このような手法の重要性とその成果を、本学を始めとする教育・研究機関での研究を通じて、皆さんにお伝えできればと思います。