5.8 RWG基底関数を用いたポテンシャル積分について

 RWG基底関数を用いたベクトルポテンシャルおよびスカラポテンシャルにおいて,観測点と波源が一致する特異点を含めた積分について説明する

D. R. Wilton, S. M. Rao, A. W. Glisson, D. H. Schaubert, O. M. Al-Bundak, and C. M. Butler, “Potential integrals for uniform and linear source distributions on polygonal and polyhedral domains,” IEEE Trans. Antennas Propagat., vol.32, no.3, pp.276-281 (1984).

 三角形領域Tqおける電流3成分(i=1,2,3)から領域Tpの中心点(位置ベクトルrp(c))への寄与をまとめて考えると, これらの積分は次のようになる. (1)Apq,i=μ4πTq(lq,i2Aqρq,i)ejkRpRpdS      (i=1,2,3)(2)Φpq,i=14πjωϵTq(lq,iAq)ejkRpRpdS      (i=1,2,3) ここで, (3)Rp=|rp(c)r|(4)ρq,i=±(rvq,i)      (i=1,2,3) ただし,vq,iおよびlq,i (i=1,2,3)は,三角形領域Tqの頂点の位置ベクトルおよびその対辺の長さ, Aqはその面積を示す.また,上式の±の符号は,領域TqT(±)のどちらかで対応して決まる.
各辺ii=1,2,3)に関する計算に用いる変数の定義
簡単のため,i=1を考え,観測点を一般化してrとおく.また,Tqの符号は(+)について考え,各変数の添字を略すとベクトルポテンシャルAは, (5)A=μ4πl2ATρm(+)ejkRRdS 上式の積分項 I を,次のような項に分けて計算していく. I=Tρm(+)ejkRRdS=T(ρρv)ejkRRdS(6)=T(ρρ)ejkRRdS+(ρρv)TejkRRdS ただし,ρρρvは, 観測点の位置ベクトルr,電流源の位置ベクトルr, 共有する辺に対向する三角形の頂点vm(+)を各々面Sに投影したベクトルを示す.
RWG基底関数に関わる変数の定義
さらに, (7)ejkRR=(ejkRR1R)+1R(8)limR0(ejkRR1R)=jk を考慮して, I=T(ρρ)ejkR1RdS+TρρRdS(9)+(ρρv)TejkR1RdS+(ρρv)TdSR 上式の第1項および第3項は特異点を持たないため,容易に数値積分できる.

3角形領域の積分について

 まず,三角形領域Tqにおける波源の位置ベクトルrは, (10)r=vq,1+ξq(vq,2vq,1)+ηq(vq,3vq,1)     (0ξq,ηq1) 簡単のため,添字qは省略して, r=v1+ξ(v2v1)+η(v3v1)     (0ξ,η1)(11)=(1ξη)v1+ξv2+ηv3 これより,面積要素dSは, dS=|rξ×rη|dξdη=|(v2v1)×(v3v1)|dξdη(12)=2Aqdξdη よって,三角形領域Tqの積分は,次のような2重積分の形で表される. (13)Tqg(r)dS=2Aqξ=01η=01ξg((1ξη)v1+ξv2+ηv3)dηdξ
3角形領域の面積分に関わる変数の定義

特異点を含む積分について

 式(9)の第2項および第4項の積分I2I4 (14)I2=TρρRdS,      I4=TdSR については,周回積分への変換と特異点のふるまいを考慮した積分を行う.まず,準備として,導体面に沿う2次元演算子 s を作用させたときの計算を行う. (15)P=Pupρρ(16)P=|ρρ|(17)R=|rr|=|dn+ρρ|=|dnPup|=d2+P2(18)sR=RPup=PRup=PR=ρρR これより,積分I2に対して,特異点P=0の点を含む微小領域をsϵとして,次のように領域sϵとそれ以外に分けて積分し,それから極限を求める. I2=SρρRdS(19)=limsϵ0SsϵsRdS+limsϵ0sϵρρRdS また, (20)RP=d2+P2P=d2P2+1 P(RP)=P(d2P2+1)(21)=d2P3Pd2+P2=d2P21R s(RPuρ)=sRPuρ+RPsuρ=P(RP)+RP1P=d2P21R+RP2(22)=d2+R2P2R=P2P2R=1R 同様にして,積分I4も特異点P=0の点を含む微小領域をsϵとして, I4=TdSR(23)=limsϵ0Ssϵs(RPP2)dS+limsϵ0sϵdSR と分けて考えることにする.

周回積分への変換

 式(23)の第1項はP=0の点を除いた積分であり,次のようにガウスの2次元発散定理により周回積分に変換できる. limϵ0Ssϵs(RPP2)dS=limϵ0CcϵRPP2du(24)=CRP2(Pu)dl+limϵ0cϵRP(upu)dl ただし,周回積分路Cは面Sの周辺, cϵは面sϵの周辺の各々閉じた経路を示す.また,ベクトル線積分要素 du(=udl)の方向は,面Ssϵ上で積分路Ccϵの法線方向にとる.上式の第1項は,積分路Cが3角形領域の辺iに沿う直線の積分路Liとなるので, (25)CRP2(Pu)dl=i(P(0)ui)LiRP2dl ここで, (26)P2=(P(0))2+l2(27)R2=d2+(P(0))2+l2=d2+P2 より, RP2=RP2RR=P2+d2P2R=1R+d2P2R(28)=1d2+(P(0))2+l2+d2{(P(0))2+l2}2d2+(P(0))2+l2i(積分路Li)の両端の座標成分をl=li(),li(+)とすると, LiRP2dl=Li(1R+d2P2R)dl=li()li(+)dld2+(Pi(0))2+l2(29)+d2li()li(+)dl{(Pi(0))2+l2}d2+(Pi(0))2+l2
iに沿う線積分に関わる変数の定義(i=1のとき)
上式は,置換積分(tx+x2+a2)より得られる不定積分公式(積分定数Cは省略) (30)dxx2+a2=ln|x+x2+a2| を用い, (31)Ri(±)=d2+(Pi(0))2+(li(±))2 とおいて,式(29)の第1項は, li()li(+)dld2+(Pi(0))2+l2=[ln|l+d2+(Pi(0))2+l2|]li()li(+)=ln|li(+)+d2+(Pi(0))2+(li(+))2|ln|li()+d2+(Pi(0))2+(li())2|=ln|li(+)+Ri(+)|ln|li()+Ri()|(32)=ln|li(+)+Ri(+)li()+Ri()| また,置換積分(|q|xpx2+p2+q2 tant)より得られる不定積分公式(積分定数Cは省略) (33)dx(x2+p2)x2+p2+q2=1|pq|tan1(|q|xpx2+p2+q2) を用いると,式(29)の第2項は, d2l=li()li(+)dl{(Pi(0))2+l2}d2+(Pi(0))2+l2=d2Pi(0)|d|[tan1(|d| lPi(0)d2+(Pi(0))2+l2)]l=li()li(+)(34)=|d|Pi(0){tan1(|d|li(+)Pi(0)Ri(+))tan1(|d|li()Pi(0)Ri())} 積分路cϵにおいては,upu=1dl=PdϕR=d2+ϵ2より, limϵ0cϵRP(upu)dl=limϵ00αRP(1)Pdϕ=limϵ0(R)0αdϕ=limϵ0d2+ϵ2α(35)=α|d|  一方,式(23)I4の第2項は,P=0の点を座標原点にしたローカルな極座標系を考え,積分範囲sϵを半径ϵ,平面角α [rad]の円形領域にとり, td2+P2の置換積分を実行すると,次のようになる. limϵ0sϵdSR=limϵ0ϕ=0αP=0ϵPdPdϕd2+P2=limϵ0[ϕ]0α1tdt2=limϵ0α[t]=limϵ0α[d2+P2]0ϵ(36)=limϵ0α(d2+ϵ2|d|)=0 よって, I4=TdSR=α|d|+i(uP0,iui)[Pi(0)ln|li(+)+Ri(+)li()+Ri()|(37)+|d|{tan1(|d|li(+)Pi(0)Ri(+))tan1(|d|li()Pi(0)Ri())}] ただし, (38)α=i(uP0,iui){tan1(li(+)Pi(0))tan1(li()Pi(0))} また, (39)βtan1li(±)Pi(0)(40)γtan1|d|li(±)Pi(0)Ri(±) とおき,正接の加法定理 (41)tan(βγ)=tanβtanγ1+tanβtanγ を用いると, (42)(li(±))2=(Pi(±))2(Pi(0))2(43)(Pi(±))2=(Ri(±))2|d|2(44)(Pi(0))2=(Ri(0))2|d|2 より,次の関係が得られる(導出省略). tan1(li(±)Pi(0))tan1(|d|li(±)Pi(0)Ri(±))(45)=tan1(Pi(0)li(±)(Ri(0))2+|d|Ri(±)) これより, I4=TdSR=i(uP0,iui)[Pi(0)ln|li(+)+Ri(+)li()+Ri()||d|{tan1(Pi(0)li(+)(Ri(0))2+|d|Ri(+))(46)tan1(Pi(0)li()(Ri(0))2+|d|Ri())}]  一方,積分I2についても,式(19)の第1項は2次元勾配定理より,周回積分(積分路Cおよびcϵ)に変換でき,第2項はI4の計算と同様にしてゼロになる(導出省略).よって, I2=limsϵ0SsϵsRdS=limϵ0CcϵRudl=iuiLiRdl+limϵ0cϵRudl(47)=iuili()li(+)d2+(Pi(0))2+l2 dl+limϵ0R0αuϵdϕ 上式の第2項はゼロ, 第1項は置換積分(tx+x2+a2)より得られる不定積分公式(積分定数Cは省略) (48)x2+a2 dx=12(xx2+a2+a2ln|x+x2+a2|) より, I2=iui12[ld2+(Pi(0))2+l2+{d2+(Pi(0))2}ln|l+d2+(Pi(0))2+l2|]li()li(+)=12iui[{l(+)Ri(+)+(Ri(0))2ln|li(+)+Ri(+)|}{l()Ri()+(Ri(0))2ln|li()+Ri()|}](49)=12iui{(Ri(0))2ln|li(+)+Ri(+)li()+Ri()|+li(+)Ri(+)li()Ri()}