5.4 線状導体の散乱問題(点整合法)

 線状導体の散乱問題に対して,まず,点整合法を取り上げ説明する

Roger F. Harrington, “Field Computation by Moment Methods,” Chapter 4. Wire antennas and scatters, Wiley-IEEE Press (1993).

差分近似

 面電流J,および面電荷密度σを用いて,散乱電界Esは次式で与えられる. (1)Es=jωAΦ ここで,Aはベクトルポテンシャル,Φはスカラポテンシャルを示し, (2)A=μSJ(r)G0(r,r)dS(3)Φ=1ϵSσ(r)G0(r,r)dS ただし,G0(r,r)は自由空間の3次元スカラグリーン関数を示し, (4)G0(r,r)=ejk|rr|4π|rr| また,連続の式は, (5)J=jωσ 散乱体が完全導体の場合,入射電界をEi,導体表面の法線ベクトルをnとおくと,導体表面S上の境界条件は次のようになる. (6)n×(Ei+Es)=0     (on S)  いま,導体が十分細い場合を考え,次のような細線近似を行う. これらの近似は,ハレンの積分方程式の定式化において用いたものである.これより, (7)A=μlI(l)ulG0 dl(8)Φ=1ϵlσ(l)G0 dl また, σ=Jjω=1jω(I(l)ul)(9)=1jωIl を用いて散乱電界Esが求められる. また,境界条件より,電界の軸方向成分については, Eiul=Esul(10)=(jωAΦ)ul     (on S) ここで,EiAl成分を各々Ei,lAlとおくと, (11)Ei,l=jωAlΦl     (on S) 線状導体を微小長の素子に分割し,微分を差分近似(中心差分)すると, (12)Φ(m)Φ(m+)Φ(m)Δlm ただし,Δlmm番目の導体素子の長さ,mはその導体素子の中心,m±はおよび両端の位置に各々対応する. これより,m番目の微小導体中心における値は次のようになる. (13)Ei,l(m)jωAl(m)Φ(m+)Φ(m)Δlm     on (m番目の素子)(14)A(m)μnI(n)ΔlnG0(rm,rn) dln m番目の微小導体の両端m±において, (15)Φ(m±)1ϵnσ(n±)Δln±G0(rm±,rn±) dln± ここで,n番目の微小導体の両端n±の電荷密度σ(n±)は,式(9)を差分近似して, (16)σ(n+)1jωI(n+1)I(n)Δln+(17)σ(n)1jωI(n)I(n1)Δln  まず,次の積分を実行しよう. (18)ψ(n,m)1ΔlnΔlnG0(rm,rn) dln ここで,n番目の微小素子の中心を原点,素子の軸方向をz軸にとるローカルな円筒座標系(ρ,ϕ,z)を考えると,位置ベクトルrnの点の座標は(0,0,z)となる. 一方,m番目の微小素子のrm(観測点)の座標を(ρm,ϕm,zm)とすると,mnのとき, Rm=|rmrn|=ρm2+(zmz)2(19)=ρm2+zm22zmz+z2 ここで,原点からrmまでの距離をR0mとおくと, (20)R0m=ρm2+zm2 より, Rm=R0m22zmz+z2=R0m1+2zmz+z2R0m2R0m(1+122zmzR0m2)(21)=R0mzmR0mz これより, ψ(n,m)=1ΔlnΔlnejkRm4πRm dz(22)1ΔlnejkR0m4πR0mΔlnejkzmR0mz dz 積分項について, ΔlnejkzmR0mz dz=[ejkzmR0mzjkzmR0m]z=Δln2Δln2=1jkzmR0m(ejkzmR0mΔln2ejkzmR0mΔln2)(23)=Δlnsin(kzmR0mΔln2)kzmR0mΔln2 よって, ψ(n,m)ejkR0m4πR0msin(kzmR0mΔln2)kzmR0mΔln2(24)ejkR0m4πR0m   (mn)  次に,m=nのとき,(ρm,ϕm,zm)=(a,ϕn,0).また,Rn=a2+z2のとき, (25)ejkRn1jkRn で近似すると, ψ(n,n)=1ΔlnΔlnejkRn4πRn dz=14πΔlnΔln1jkRnRn dz(26)=14πΔln(ΔlndzRnjkΔlndz) 上式の第1項の積分は,Δnaのとき, ΔlndzRn=Δln2Δln2dza2+z2=[log|z+z2+a2|]Δln2Δln2=2log|Δln2a+(Δln2a)2+1 |(27)2log(Δlna) よって, ψ(n,n)14πΔln{2log(Δlna)jkΔln}(28)=log(Δlna)2πΔlnjk4π  また, Φ(m+)1ϵn{1jωI(n+1)I(n)Δln+}Δln+G0(rm+,rn+) dln+=1jωϵn=1N{I(n+1)I(n)}ψ(n+,m+)=1jωϵn=1N{I(n)ψ((n1)+,m+)I(n)ψ(n+,m+)}(29)=1jωϵn=1NI(n){ψ(n,m+)+ψ(n+,m+)} 同様にして, (30)Φ(m)1jωϵn=1NI(n){ψ(n,m)+ψ(n+,m)} また, A(m)μnI(n)ul,nΔlnG0(rm,rn) dln(31)=μnI(n)Δlnψ(n,m) ただし, ΔlnΔlnul,n. これより,A(m)の素子に沿う成分Al(m)は, (32)Al(m)=μnI(n)Δlnul,mψ(n,m) よって,式(13)に代入すると, Ei,l(m)=1Δlmn[jωμΔlnΔlmψ(n,m)+1jωϵ{ψ(n+,m+)ψ(n,m+)(33)ψ(n+,m)+ψ(n,m)}]I(n) ここで, (34)VmEi,l(m)ΔlmzmnjωμΔlnΔlmψ(n,m)+1jωϵ{ψ(n+,m+)ψ(n,m+)(35)ψ(n+,m)+ψ(n,m)} とおくと, (36)Vm=nzmnI(n)     (m=1,2,) 行列表示すると, (37)V=[Z]I よって, (38)I=[Z]1V=[Y]V ただし, (39)[Y]=[Z]1