5.6 2次計画法による指向性合成
2次計画法
1次元波源分布をフーリエ級数などの多項式で展開したとき,電界指向性は各項のフーリエ逆変換とその展開係数の線型結合で求められる.
また,開口能率は展開係数に関する2次式の逆数に比例するので,開口能率を最大にするためには,展開係数に関する2次式を最小化すればよい.
このとき,指向性は展開係数に関する1次式で表される.
このような関係ゆえ,2次計画法(quadratic programming, QP)$^\dagger$を用いれば,
1次式で表される指向性(例えば,サイドローブレベル,交差偏波成分など)を制約条件とし,2次式で表される評価関数を最小にするように展開係数を最適化することができる
$\dagger$ 2次計画法の参考文献は次のとおり.
IMSL Fortran ライブラリ ユーザーガイド Math v7.0, p.8-126.
IMSL ルーチン QPROG/DQPROG は,一般線形統合/不等号拘束式に従う凸型2次計画(QP)問題に対するGoldfarbとIdnani(1983年)の双対QPアルゴリズムのM. J. D. Powellの手法.
茨木 俊秀,福島 雅夫,"FORTRAN77最適化プログラミング," 第4章,岩波書店(1991).
MATLAB(optimization toolkit)の関数quadprog
PythonのSciPyの関数 scipy.optimize.minimize
ここでは,まずサイドローブレベルのみを制約条件とし,開口能率が最大となる展開係数$a_n$を求める方法について説明する.
最小化する評価関数(目的関数,objective function)は $a_n$ の関数として,
\begin{gather}
F(a_1, a_2, \cdots, a_N) = \sum_{n=1}^N a_n^2
\end{gather}
最適化変数 $a_n$ を要素とする列ベクトルを $\VECi{a}$ とすると,次のような2次形式で表される(肩文字 $t$ は転置を示す).
\begin{gather}
\min _{(\VECi{a})} F(\VECi{a})
= \frac{1}{2} \ \VECi{a}^t \big[ H \big] \VECi{a}
+ \VECi{c}^t \VECi{a}
\end{gather}
ただし,
$\VECi{a}$:変数 $a_n$($n=1,2, \cdots , N$)を要素とする$N$次元列ベクトル
$\VECi{a}^t$:列ベクトル $\VECi{a}$ の転置
$\big[ H \big]$:2次の項(second-order term)の係数からなる$N \times N$対称行列
$\VECi{c}$:1次の項(first-order term)の係数からなる$N$次元列ベクトル
$\VECi{c}^t$:列ベクトル $\VECi{c}$ の転置
1次元波源分布がフーリエ級数展開されている場合,
\begin{align}
&[H] = 2[U]
\\
&\VECi{c}=(0)
\end{align}
ただし,$[U]$は$N$行$N$列の単位行列,
$(0)$は要素が全てゼロの$N$次元の列ベクトルを示す.
一方,制約条件は,
等式制約条件:$g(0)=1$,正規化条件を用いた場合,$a_0=1$.
不等式制約条件:$-\epsilon \leq g(u) \leq \epsilon$
($u_s \leq u \leq u_m$)
ただし,$\epsilon(>0)$ はサイドローブレベル,
$u_s$ は主ビームより広角で,かつ第1サイドローブレベルまでの方向とし,
$u_m$ はある程度のサイドローブ数を含む角度までとるようにする.また,対称な波源分布を考え,
指向性関数 $g(u)$ は,
\begin{gather}
g(u) = \phi_0(u) + \sum_{n=1}^N a_n \phi_n(u)
\end{gather}
ここで,
\begin{eqnarray}
\phi_0(u) &=& \frac{\sin u}{u}
\nonumber \\
&=& \mbox{sinc} \left( \frac{u}{\pi} \right)
\nonumber \\
&=& \mbox{sinc} \left( \frac{D}{\lambda} \sin \theta \right)
\\
\phi_n(u) &=& \frac{\sin (u-n\pi)}{u-n\pi} + \frac{\sin (u+n\pi)}{u+n\pi}
\nonumber \\
&=& \mbox{sinc} \left( \frac{u}{\pi}-n \right) + \mbox{sinc} \left( \frac{u}{\pi}+n \right)
\nonumber \\
&=& \frac{\sin u }{u} \cdot \frac{2(-1)^n u^2}{u^2-(n\pi)^2}
\nonumber \\
&=& \mbox{sinc} \left( \frac{u}{\pi} \right) \cdot \frac{2(-1)^n u^2}{u^2-(n\pi)^2}
\ \
(n=1,2, \cdots, N)
\end{eqnarray}
これより,不等式制約条件(inequality constraints)は
(例えば,MATLAB(optimization toolkit)の関数 quadprog),
\begin{gather}
\big[ A_{ineq} \big] \VECi{a} \leq \VECi{b}_{ineq}
\end{gather}
ここで,
\begin{gather}
\big[ A_{ineq} \big] =
\begin{pmatrix}
[A'_s] \\ -[A'_s]
\end{pmatrix}, \ \ \ \ \
\VECi{b}_{ineq} =
\begin{pmatrix}
-\VECi{\phi} \\ \VECi{\phi} \\
\end{pmatrix}
+ \epsilon
\begin{pmatrix}
\VECi{I}'_s \\ \VECi{I}'_s \\
\end{pmatrix}
\end{gather}
いま,$u_s \leq u_i^{(s)} < u_m$の範囲のサンプル点を
$u_i^{(s)} \ (i=1,2, \cdots, N_s)$とすると,列ベクトル$\VECi{\phi}$は,
\begin{gather}
\VECi{\phi}=
\begin{pmatrix}
\phi_0(u_1^{(s)}) & \phi_0(u_2^{(s)}) & \cdots & \phi_0(u_{N_s}^{(s)}) \\
\end{pmatrix}^t
\end{gather}
また,$\VECi{I}'_s$ は$N_s$列の要素が全て1とする列ベクトルを示し,
\begin{gather}
\VECi{I}'_s=
\begin{pmatrix}
1 & 1 & \cdots & 1 \\
\end{pmatrix}^t
\end{gather}
行列$[A'_s]$はサンプル点$u_i^{(s)} \ (i=1,2, \cdots, N_s)$における計算より,
$N_s$行$N$列で表され次のようになる(右辺の肩文字 $t$ は転置を示す).
\begin{gather}
[A'_s] =
\begin{pmatrix}
\phi_1(u_1^{(s)}) & \phi_1(u_2^{(s)}) & \cdots \ & \phi_1(u_{N_s}^{(s)}) \\
\phi_2(u_1^{(s)}) & \phi_2(u_2^{(s)}) & \cdots \ & \phi_2(u_{N_s}^{(s)}) \\
\vdots & \vdots & & \vdots \\
\phi_N(u_1^{(s)}) & \phi_N(u_2^{(s)}) & \cdots \ & \phi_N(u_{N_s}^{(s)}) \\
\end{pmatrix}^t
\end{gather}
2次計画法による最適化($N=1$)
利得最大でサイドローブ$-35$dB以下にする指向性合成($D=10 \lambda$,$N=1$)
2次計画法による最適化($N=2$)
利得最大でサイドローブ$-35$dB以下にする指向性合成($D=10 \lambda$,$N=2$)
2次計画法による最適化($N=3$)
利得最大でサイドローブ$-35$dB以下にする指向性合成($D=10 \lambda$,$N=3$)
2次計画法による最適化($N=5$)
利得最大でサイドローブ$-35$dB以下にする指向性合成($D=10 \lambda$,$N=5$)
2次計画法による最適化($N=9$)
利得最大でサイドローブ$-35$dB以下にする指向性合成($D=10 \lambda$,$N=9$)
2次計画法によって最適化した展開係数$a_n \ (n=1,2, \cdots, N)$(ただし,$a_0 =1$)
サイドローブレベル$-35$ dB
\begin{array}{c|rrrrr}
\hline
N+1 & 2 & 3 & 4 & 6 & 10\\
\hline
a_1 & 0.3694 & 0.3471 & 0.3383 & 0.3346 & 0.3252 \\
a_2 & - & -0.0163 & -0.0148 & -0.0143 & -0.0131 \\
a_3 & - & - & 0.0032 & 0.0022 & -0.0001 \\
a_4 & - & - & - & 0.0019 & 0.0049 \\
a_5 & - & - & - & -0.0025 & -0.0067 \\
a_6 & - & - & - & - & 0.0072 \\
a_7 & - & - & - & - & -0.0069 \\
a_8 & - & - & - & - & 0.0060 \\
a_9 & - & - & - & - & -0.0042 \\
\hline
開口能率 \eta_i [\%] & 78.56 & 80.55 & 81.34 & 81.67 & 82.49 \\
\hline
\end{array}
2次計画法によるビーム成形
成形ビームの場合,制約条件は,
等式制約条件: $g(u_e)=1$
不等式制約条件: $g(u) \geq 1$ ($0 \leq u \leq u_e$)
ここで,
\begin{gather}
u_e = \frac{\pi D}{\lambda} \sin \theta_e
\end{gather}
ただし,
カバレッジは $0 \leq u \leq u_e$,
$\theta_e$ は利得を高くしたいカバレッジ端(edge of coverage, EOC)方向を示す.また,指向性関数
$g(u)$ は正規化していないため,
$a_0$ も最適化変数として扱う.対称な波源分布よる電界指向性 $g(u)$ は,
\begin{eqnarray}
g(u) &=& a_0 \phi_0(u) + \sum_{n=1}^N a_n \phi_n(u)
\nonumber \\
&=& \sum_{n=0}^N a_n \phi_n(u)
\end{eqnarray}
これより,まず等式制約条件(equality constraints)
\begin{gather}
\big[ A_{eq} \big] \VECi{a} = \VECi{b}_{eq}
\end{gather}
における行列$\big[ A_{eq} \big]$および列ベクトル$\VECi{b}_{eq}$は,
\begin{align}
&\big[ A_{eq} \big]=
\begin{pmatrix}
\phi_0(u_e) & \phi_1(u_e) & \cdots \ & \phi_N(u_e) \\
\end{pmatrix}
\\
&\VECi{b}_{eq}=
\begin{pmatrix}
1 \\
\end{pmatrix}
\end{align}
最適化変数は(要素数は$N+1$),
\begin{gather}
\VECi{a} =
\begin{pmatrix}
a_0 & a_1 & \cdots \ & a_N \\
\end{pmatrix}^t
\end{gather}
また,不等式制約条件(inequality constraints)
\begin{gather}
\big[ A_{ineq} \big] \VECi{a} \leq \VECi{b}_{ineq}
\end{gather}
は,主ビームの条件より,
\begin{align}
&\big[ A_{ineq} \big] =-[A_c]
\\
&\VECi{b}_{ineq} =-\VECi{I}_c
\end{align}
ただし,$\VECi{I}_c$は$N_c$列の要素が全て1となる列ベクトルを示す.
\begin{gather}
\VECi{I}_c=
\begin{pmatrix}
1 & 1 & \cdots \ \\
\end{pmatrix}^t
\end{gather}
行列$[A_c]$は,$0 \leq u_i^{(c)} < u_e$の範囲の点を
$u_i^{(c)} \ (i=1,2, \cdots, N_c)$とすると,
\begin{gather}
[A_c] =
\begin{pmatrix}
\phi_0(u_1^{(c)}) & \phi_0(u_2^{(c)}) & \cdots \ & \phi_0(u_{N_c}^{(c)}) \\
\phi_1(u_1^{(c)}) & \phi_1(u_2^{(c)}) & \cdots \ & \phi_1(u_{N_c}^{(c)}) \\
\vdots & \vdots & & \vdots \\
\phi_N(u_1^{(c)}) & \phi_N(u_2^{(c)}) & \cdots \ & \phi_N(u_{N_c}^{(c)}) \\
\end{pmatrix}^t
\end{gather}
この場合も所定のサイロドーブレベル $\epsilon$ 以下にすることが可能で,
不等式制約条件: $-\epsilon \leq g(u) \leq \epsilon$ ($u_s \leq u \leq u_m$)
ただし,$\epsilon(>0)$はサイドローブレベル,$u_s$は主ビームより広角で,かつ第1サイドローブレベルまでの方向とする.よって,
\begin{gather}
\big[ A_{ineq} \big] =
\begin{pmatrix}
-[A_c] \\ [A_s] \\ -[A_s]
\end{pmatrix}, \ \ \ \ \
\VECi{b}_{ineq} =
\begin{pmatrix}
-\VECi{I}_c \\ \epsilon \VECi{I}_s \\ \epsilon \VECi{I}_s \\
\end{pmatrix}
\end{gather}
行列$[A_s]$ はサンプル点 $u_i^{(s)} \ (i=0,1,2, \cdots, N_s)$における計算より,
$N_s$行$(N+1)$列で表され次のようになる.
\begin{gather}
[A_s] =
\begin{pmatrix}
\phi_0(u_1^{(s)}) & \phi_0(u_2^{(s)}) & \cdots \ & \phi_0(u_{N_s}^{(s)}) \\
\phi_1(u_1^{(s)}) & \phi_1(u_2^{(s)}) & \cdots \ & \phi_1(u_{N_s}^{(s)}) \\
\vdots & \vdots & & \vdots \\
\phi_N(u_1^{(s)}) & \phi_N(u_2^{(s)}) & \cdots \ & \phi_N(u_{N_s}^{(s)}) \\
\end{pmatrix}^t
\end{gather}
また,$\VECi{I}_{s}$ は $N_{s}$列の要素が全て1となる列ベクトルを示す.
\begin{gather}
\VECi{I}_{s}=
\begin{pmatrix}
1 & 1 & \cdots \ \\
\end{pmatrix}^t
\end{gather}
2次計画法による成形ビーム($\theta_e=20^\circ$)
2次計画法による成形ビームの指向性合成($D=10 \lambda$,$N=9$,$\theta_e=20^\circ$)
成形ビーム($\theta_e=20^\circ$,サイドローブ$-20$dB以下)
2次計画法による指向性合成($D=10 \lambda$,$\theta_e=20^\circ$,サイドローブ$-20$dB以下)
成形ビーム($\theta_e=20^\circ$,サイドローブ$-25$dB以下)
2次計画法による指向性合成($D=10 \lambda$,$\theta_e=20^\circ$,サイドローブ$-25$dB以下)
成形ビーム($\theta_e=20^\circ$,サイドローブ$-30$dB以下)
2次計画法による指向性合成($D=10 \lambda$,$\theta_e=20^\circ$,サイドローブ$-30$dB以下)
成形ビーム($\theta_e=20^\circ$,サイドローブ$-35$dB以下)
2次計画法による指向性合成($D=10 \lambda$,$\theta_e=20^\circ$,サイドローブ$-35$dB以下)
成形ビーム($\theta_e=15^\circ$,サイドローブ$-35$dB以下)
2次計画法による指向性合成($D=10 \lambda$,$\theta_e=15^\circ$,サイドローブ$-35$dB以下)
成形ビーム($\theta_e=10^\circ$,サイドローブ$-35$dB以下)
2次計画法による指向性合成($D=10 \lambda$,$\theta_e=10^\circ$,サイドローブ$-35$dB以下)
成形ビーム($\theta_e=5^\circ$,サイドローブ$-35$dB以下)
2次計画法による指向性合成($D=10 \lambda$,$\theta_e=5^\circ$,サイドローブ$-35$dB以下)
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