6.9 ビームモードのホーンアンテナへの応用

1次ホーンおよび鏡面上のビームモードのパラメータ

 反射鏡アンテナの一次放射器として用いるホーンアンテナ(開口径Dh,長さL=Rh) の設計に対して,近傍界が考慮できるビームモードは非常に有用である. ホーンの開口面分布をビームモード展開すればビーム半径 ωh および波面の曲率半径 Rh が求められ,開口面からビームウエストまでの距離 zh およびビームウエストにおけるビーム半径 ω0 が決まる.
ホーンに対するビームモード・パラメータ

基本ビームモード

 基本ビームモード m=1n=0 のビームモード関数 e¯1,0 は, e¯1,0=2ωL0,0(2ρ2ω2)ej(tan1vkR¯ρ2)(1)=2ωe(ρω)2ej(tan1vkR¯ρ2) ビームウエスト位置は z=0 であり, ω|z=0=ω0R¯|z=0v|z=0=0 より,ビームウエストでのビームモード関数 (2)e¯1,0|z=0=2ω0e(ρω0)2 ピーク値で規格化すると, (3)e¯1,0e¯1,0|z=0,ρ=0=ω0ωe(ρω)2ej(tan1vkR¯ρ2)e~1,0(4)|e~1,0|2=(ω0ω)2e2(ρω)2=11+v2e2(ρω)2

鏡面上のビーム半径

 基本ビームモードを開口径 D の反射鏡に照射したときのエッジレベルを Le [dB], このときのビーム半径を ω とすると, (5)10Le20=e(D2ω)2(6)log1010Le20=log10e(D2ω)2(7)Le20=(D2ω)2log10e(8)ω2=(D2)220log10eLe(D2)28.69Le よって,ビーム半径 ω は, (9)ω=D28.69Le

ホーンアンテナ

 ホーンの開口径 Dh,ホーン開口面での波面の曲率半径 Rhは,ホーン開口面でのビーム半径を ωh, 開口面からビームウエストまでの距離をzhとすると (Rhzhより,ホーンのビームウエスト位置はホーン内部にある), (10)Dh=2ωhΩ0(11)Rh=zh(1+1vh2) ここで, (12)ωh=ω01+vh2(13)vh=2kω02zh また,ω0はビームウエストにおけるビーム半径を示し, (14)ω0=ω1+v2(15)v=2kω02z ただし,ω は鏡面上のビーム半径, z は鏡面からビームウエストまでの距離を示す.反射鏡に照射されるビームモードの波面の曲率半径を R¯ とすると, (16)z=zh+d=R¯1+1v2 パラメータ v を変形すると, v=2kω02z=2k1+v2ω2R¯1+1v2=2R¯kω2(1+v2)v21+v2(17)=2R¯kω2v2 よって, v=kω22R¯=2πλω22R¯(18)=πω2λR¯ ただし,反射鏡の焦点距離は f=R¯ とする. ビームウエストでのビーム半径 ω0 を消去すると,ホーンの開口径 Dh は, Dh=2Ω0ω01+vh2(19)=2Ω0ω1+vh21+v2 また,ビームウエストから鏡面までの距離は zh+d ゆえ, v=2kω02(zh+d)(20)vh=2kω02zh これより, (21)zh+d=vvhzh=R¯1+1v2=R¯v2v2+1 ホーンの軸長(電気長)Lは,ホーン開口面での波面の曲率半径Rhに等しく, 鏡面での波面の曲率中心を鏡面の焦点と一致させて,焦点距離fr=R¯より, L=Rh=zh(1+1vh2)=vhvR¯v2v2+1vh2+1vh2(22)=frv1+v21+vh2vh また, (23)zh=vhvvhd より, zh+d=vhvvhd+d=vvvhd=R¯1+1v2vvh=vd1+1v2R¯=dR¯(v+1v)vh=vdR¯(v+1v)(24)=vdfr(v+1v) ここで, v=kω22R¯=2πλω22R¯(25)=πω2λR¯=πω2λfr

ホーンアンテナの位相中心

 開口面から距離d離れた観測点におけるビームモードの波面の曲率半径 R¯ は,ビームウエストから観測点までの距離 zh+d を用いて次のようになる. (26)R¯=(zh+d)(1+1v2) ここで, (27)v=2kω02(zh+d) ホーンアンテナの位相中心は鏡面上の波面の曲率中心と一致させるため, ホーン開口面から位相中心(つまり波面の曲率中心)までの距離 Lc は, Lc=R¯d=(zh+d)(1+1v2)d=(zh+d)(1+1{2kω02(zh+d)}2)d=(zh+d){1+k2ω044(zh+d)2}d=(zh+d)4(zh+d)2+k2ω044(zh+d)2d(28)=4(zh+d)2+k2ω044(zh+d)d4(zh+d) さらに変形するため,k2ω04 について計算する.まず, (29)ω0=ωh1+vh2(30)vh=kωh22Rh より,ωhを消去すると, (31)vh=kω02(1+vh2)2Rhkω02=2Rh1+vh2vh=2Rh1+1vh21vh=2RhvhzhRh(32)=2zhvh(33)zh=Rh1+1vh2(34)k2ω04=4zh2vh2 ここで, (35)1+1vh2=Rhzh(36)vh2=1Rhzh1=zhRhzh これより, (37)k2ω04=4zh2Rhzhzh=4zh(Rhzh) これを用いると, Lc=4(zh2+2zhd+d2)+4zh(Rhzh)4(zhd+d2)4(zh+d)=zhd+zhRhzh+d(38)=zhRh+dzh+d 特別な場合として,

軸長が最小となる最適1次ホーン

 1次ホーンの軸長(電気長)L,すなわちホーン開口面の波面の曲率半径 Rh は,式(22)に示すように vh の関数であり, 極値の条件は, (39)dRhdvh=0 つまり, dRhdvh=R¯v1+v2ddvh(1+vh2vh)=R¯v1+v22vh2(1+vh2)vh2(40)=R¯v1+v2vh21vh2=0 したがって,vh2=1. 開き角が正のホーンを考えれば,vh=1.このとき Rh は最小となる. これより,軸長最小の最適1次ホーンの開口径 Dh,min,軸長Rh,min は, Dh,min=Dh|vh=1=2Ω0ω1+11+v2(41)=2Ω0ω21+v2Rh,min=Rh|vh=1=R¯v1+v21+11(42)=2R¯v1+v2 ホーン開口面における位相遅れの大きさを表すパラメータ t は, t=Dh28Rhλ=(2ωhΩ0)28Rhλ=ωh2Ω022Rhλ(43)=Ω02vh2π これより, (44)vh=2πtΩ02 軸長が最小となる最適1次ホーンの t パラメータは, vh=1 より, tRmin=t|vh=1=Ω022πvh|vh=1(45)=Ω022π ただし,Ω0 はモードによって決まる定数であり,基本ビームモード(ガウス分布)の電力が最大となる条件で Ω0 を求めると このときの t パラメータtRminは, (46)tRmin={0.384(コルゲートモード)0.270(TE11モード) ビームウエストでのビーム半径,ホーン開口面からビームウエストまでの距離は, (47)ω0|vh=1=ωh1+vh2|vh=1=ωh2(48)zh|vh=1=Rh,min1+1vh2|vh=1=Rh,min2(23)より,ホーン開口面から鏡面までの距離は, d|vh=1=vvhvhzh|vh=1=(v1)zh|vh=1(49)=(v1)Rh,min2 ここで, (50)v=kω22R¯ ホーン開口面から位相中心までの距離は, Lc|vh=1=zhRh,min+dzh+d|vh=1(51)=1+vvRh,min2 このとき,ホーン開口面でのビーム半径ωhは, (52)ωh=Dh,min2Ω0
軸長が最小となる最適1次ホーンの例および電力分布

最適円錐ホーン(ホーン単体の軸長最小の条件)

 ホーンアンテナ単体で最適円錐ホーンの条件を求めよう. vh=πωh2λRh(53)=πω02λRh(1+vh2)(54)ω02=λRhπvh1+vh2 これより, (55)ω0=λRhπvh1+vh2 軸長 Rh が一定のとき,最大利得を得る条件を求めればよい.これは,ビームウエストでのビーム半径 ω0 が最大となるときで, (56)dω0dvh=0 よって, dω0dvh=λRhπddvh(vh1+vh2)12=0(57)(1+vh2vh)121vh2(1+vh2)2=0 これより,vh=1 のとき,ビーム半径ω0が最大となる.これは軸長が最小となる最適1次ホーンと同じ条件である. いま,ホーンの開口径 Dh が与えられれば,ホーン開口面でのビーム半径 ωh は, (58)ωh=Dh2Ω0 最適円錐ホーンの条件vh=1 より,ホーン開口面での波面の曲率半径Rhは, (59)vh=πωh2λRh=1(60)Rh=πωh2λ=L なお, 開口面法によって求めた最適円錐ホーンのt パラメータの値は, (61)t={0.49(コルゲートモード)0.39(TE11モード) 両者の差異は,高次のビームモードによる影響などによるものである

蛭子井貴,片木孝至,"一次放射器としての最適円錐ホーン," 信学全大,746(1984)