伝送特性の計測誤差
測定誤差の要因
伝送特性を測定するとき,次のような誤差がある.
システマティック誤差:
測定系の理想値からのずれ(不完全性)の誤差のことで,校正によって除去できる.
ランダム誤差:
雑音,ケーブルのまがりの変化,コネクタの取り付け等の再現性のない誤差はランダムに生じるため,校正によって除去できない.
ドリフト誤差:
温度変動等によるシステム状態の変化による誤差のことで,再校正すれば除去できる.
スカラー誤差補正
振幅測定による周波数レスポンス誤差の補正をスカラー誤差補正と呼び,次のような方法がある.
伝送測定:スルー(入出力ポートを直接接続)の測定値で正規化
反射測定:ショート(あるいはオープン)を取り付けた測定値で正規化
ベクトル誤差補正
振幅・位相を測定して演算処理することによって,システマティック誤差を除去でき,被測定素子(DUT: device under test)のSパラメータを高精度に求めることができる.
これをディエンベッディング (de-embedding)という.このような誤差は標準器を用いて計測評価され,校正,あるいはキャリブレーション (calibration)と呼ばれ,次のような方法がある.
反射測定:1ポート校正
反射・伝送測定:フル2ポート校正
その他:TRL校正など
1ポート校正
SOL校正:短絡器(Short),開放器(Open),負荷(Load)
左右対称TM校正:スルー(Through),整合(Match)
2ポート校正
SOLT校正:短絡器(Short),開放器(Open),負荷(Load),スルー(Through)
TRL校正:スルー(Through),反射器(Reflect),伝送線路(Line)
TLS校正:スルー(Through),伝送線路(Line),短絡器(Short)
ネットワークアナライザの基本構成
高周波回路素子のSパラメータ等の周波数応答の測定によく用いられている計測装置がネットワークアナライザであり,
主な構成は次のとおりである.
スイーパ:周波数掃引信号源
Sパラメータ・テストセット:反射・透過を分離するスイッチ,電力分配器,方向性結合器等
レシーバ:信号の検波
計算処理部:校正など
このように一つの装置としてまとめられているのでベクトル誤差補正が行い易い.
誤差回路
測定ポート1,2内部に誤差回路(error box, error adapter)を考える.散乱行列は,
誤差回路とDUTの縦続接続
散乱行列要素を,
とおき,各々,Rマトリクスに変換すると,
ここで,
ネットワークアナライザの測定値の散乱行列を,
とすると,Rマトリクス
は次のようになる.
ディエンベッディング
この測定値のRマトリクスは,誤差回路,,被測定素子のを用いて次のように計算できる.
これより,被測定素子のRマトリクスは,
したがって,被測定素子の散乱行列が次のようにして得られる.
前のページに戻る
「目次」ページに戻る