7.9 点波源アレーの最大利得

エルミート形式の放射電力

 スカラ波動方程式(scalar wave equation)を考えると,放射電力はエルミート形式(Hermitian form)となる. これを説明するため,波源を ρ として,次のヘルムホルツ方程式(Helmholtz equation)を満たす仮想的なスカラーフィールド(scalar field)ψを考える. (1)(2+k2)ψ=4πjkρ ただし,k(=2π/λ)は波数を示す.境界条件(boundary condition)として,無限遠での放射条件(radiation condition at infinity)を用いると,よく知られた次の積分が得られる. (2)ψ=ρejkRjkRdτLρ ただし,Rは波源の点からフィールドの観測点までの距離, L は作用素を示す.波源によって放射された電力Pは,次のようになることが知られている. P=(ρψdτ)=ρ,ψ=ρ,Lρ(3)=12(ρ,Lρ+ρ,Lρ) ここで, Lf,g=g,Lf=τg(τ)(τf(τ)ejkRjkRdτ)dτ=τf(τ)(τg(τ)ejkRjkRdτ)dτ(4)=f,Lg より,Lは自己共役 (self-adjoint)である.作用素 L について, Lf,g=f,Lg であれば, L は自己共役 (self-adjoint) であるという. 同様にして, (5)Lf,g=f,Lg が成り立ち,Lも自己共役である.よって, (6)Lρ,ρ=ρ,Lρ(7)Lρ,ρ=ρ,Lρ これより,放射電力(radiated power)Pは次のようにエルミート形式(Hermitian form)となる. P=12(ρ,Lρ+ρ,Lρ)=12ρ,(L+L)ρ=ρ,( L)ρ=ρ,( L)ρ=(ρ,( L)ρ)(8)=P ただし,( L)は作用素(operator)であり,次式となる. ( L)ρ=12(L+L)ρ(9)=ρsinkRkRdτ 放射電力は正ゆえ,( L)は正値作用素 (positive definite operator) である.

アレーアンテナの遠方界

 スカラ・ヘルムホルツ方程式(scalar Helmholtz equation)を満足するスカラフィールド(scalar field) ψ として,点波源からなるN素子アレーを考える. I1,I2,,IN を点波源の複素励振(complex excitation)の係数, r1,r2,,rN をアレー素子の位置ベクトルとする. アレーによるフィールドを求める点(観測点)の位置ベクトルを r0 とすると,この点でのアレーによるフィールドは, Inを係数として式(2)を重ね合わせれば求めることができる.

 いま,波源ρは点波源ゆえ,インパルス波源(impulsive sources)の和として扱えばよいので, 次のようにクロネッカのデルタ記号δ(rrn)を用いて計算すると, ψ=Lρ=L{n=1NInδ(rrn)}={n=1NInδ(rrn)}ejk|r0r|jk|r0r|dτ=n=1NInδ(rrn)ejk|r0r|jk|r0r|dτ(10)=n=1NInejk|r0rn|jk|r0rn| 実部は, (11) (ψ)=n=1NInsink|r0rn|k|r0rn| 観測点r0が十分遠方の場合(全てのrnより十分大きい), |r0rn|=(r0rn)(r0rn)=r022r0rn+rn2=r0(12r0rnr02+rn2r02)12(12)r0(1r0rnr02) 位置ベクトル r0rn とのなす角を ζn とおき, (13)r0rn=r0rncosζn これより, |r0rn|r0(1r0rncosζnr02)(14)=r0rncosζn(r0) よって, (15)ejk|r0rn|ejkr0ejkrncosζn したがって,遠方界表示(far-field expression)は次のようになる. ψ=n=1NInejk|r0rn|jk|r0rn|(16)ejkr0jkr0n=1NInejkrncosζn 放射電力Pは式(8)によって与えられ,点波源の場合,次のようになる. P=m=1NImδ(rrm),n=1NInsink|rrn|k|rrn|=m=1NImδ(rrm)n=1NInsink|rrn|k|rrn|dτ(17)=m=1Nn=1NImInsink|rmrn|k|rmrn| ここで, (18)Bmnsink|rmrn|k|rmrn| とおくと, Bmn=Bnm ゆえ, [B] はエルミート行列(Hermitian matrix)である.また, P は, P=m=1Nn=1NImInBmn=(I1  I2    IN)(B11B12B1NB21B22B2NBN1BN2BNN)(I1I2IN)=IT[B]I=IT[B]TI=IT[B]I=(IT[B]I)(19)=P よって,Pはエルミート2次形式(Hermitian quadratic form)である.

放射強度

 単位立体角当たりの電力密度(power density per unit solid angle)を放射強度(radiation intensity)という. スカラ関数ψより放射強度Prは, (20)Pr=14π|kr0ψ|2(16)より, Pr=14π|kr0ejkr0jkr0n=1NInejkrncosζn|2(21)=14π|n=1NInejkrncosζn|2 行列表示に変形して, n=1NInejkrncosζn=(ejkr1cosζ1  ejkr2cosζ2    ejkrNcosζN)(I1I2IN)(22)=χTI ここで, (23)χT(ejkr1cosζ1  ejkr2cosζ2    ejkrNcosζN) これより, Pr=14π|χTI|2=14π(χTI)(χTI)=14πITχχTI(24)=14πIT[A]I ここで, (25)[A]χχT(A11A12A1NA21A22A2NAN1AN2ANN) 正方行列(square matrix) [A] の行列要素 Amn は, (26)Amn=ejk(rncosζnrmcosζm) したがって,放射強度Prは, Pr=14πm=1Nn=1NImInAmn(27)=14πm=1Nn=1NImInejk(rncosζnrmcosζm)

アンテナ利得

 アンテナ利得(antenna gain)G は, (28)G=4πPrP=IT[A]IIT[B]I 極値条件より,最大利得は次式の固有値の最大値Gとなる. (29)[A]I=G[B]I 先に示したように, [A]=χχT のケースより, (30)χχTI=G[B]I この固有値もまたゼロではなく,最大利得 Gmax は, (31)Gmax=IT(m)χχTI(m)IT(m)[B]I(m) ここで, (32)C=IT(m)χIT(m)[B]I(m) とおくと, IT(m)[B]I(m)=IT(m)χC[B]I(m)=χC(33) I(m)=[B]1χC これより, Gmax は, Gmax=CχTI(m)=CχT[B]1χC(34)=χT[B]1χ 行列形式で表すと, Gmax=(ejkr1cosζ1  ejkr2cosζ2    ejkrNcosζN)(35)(B11B12B1NB21B22B2NBN1BN2BNN)1(ejkr1cosζ1ejkr2cosζ2ejkrNcosζN) このような最大利得について,これまで,ブロードサイド・リニアアレー,エンドファイアーアレー,円形アレーについて適用されている.