Ⅰ. 歴史学・信長権力・正倉院
織田信長と蘭奢待截香、正倉院宝物をめぐる権力と象徴資本の文脈を理解するための文献である。
新書
金子 拓『織田信長〈天下人〉の実像』講談社現代新書, 2014年.
一般読者向けに信長像を再構成した入門書であるが、朝廷・正倉院と結びつく信長の自己演出も簡潔に理解できる。
歴史論文
和田 軍一「らんじゃたい」『日本歴史』335号, 1976年.
蘭奢待の沿革、切り取りの記録、伝承の整理を行った古典的研究であり、史料に基づいた基礎情報を得るのに適している。
通史・概説
杉本 一樹『正倉院』中公新書, 2008年.
正倉院宝物全体の歴史的位置づけを概観する入門書である。蘭奢待を、天平文化・国家的記憶の中で捉え直す際の基盤となる。
連歌と香道
濱崎 加奈子『香道の美学ーその成立と王権・連歌』思文閣出版, 2017年.
香道成立に至る過程とその美学を、「王権」と「連歌」の切り口から解き明かす書である。
Ⅱ. 香木・沈香・伽羅・香文化史
沈香・伽羅・聞香の歴史、日本における香木需要と文化的意味を体系的に理解するための文献である。
基幹文献
松原 睦『香の文化史―日本における沈香需要の歴史〔第2版〕』雄山閣, 2020年 ほか.
平安貴族から近世武家社会に至るまでの沈香需要と香文化を通史的に論じる。伽羅・蘭奢待・権力者の香利用を理解するための中心的参考文献である。
Web 解説
「香木の歴史とは?日本と東南アジアの交流が育んだ香木文化」だるまや骨董品店ウェブサイト.
学術論文ではないが、東南アジア起源の沈香が日本の宗教・宮廷文化に取り込まれる流れを概説し、海域ネットワークのイメージを掴む手がかりとなる。
Ⅲ. 蘭奢待に関する個別解説・事典項目
事典項目(日本語)
「蘭奢待」Wikipedia 日本語版.
正倉院宝物としての基本情報、足利将軍・織田信長・明治天皇などによる截香の記録を素早く確認するための導入的情報源である。
事典項目(英語)
“Ranjatai” Wikipedia English Edition.
英語圏向けに蘭奢待を紹介する項目であり、国際的文脈で蘭奢待を位置づける際の基本的説明文として利用できる。
オンライン記事
金子 拓「織田信長も切り取った蘭奢待、14年ぶりに公開」中央公論オンライン.
最新の公開状況とともに、信長の蘭奢待截香の政治的意味をコンパクトに解説する記事であり、研究会参加者向けの導入資料として有用である。
IV. 利用の手引き
研究会・授業・ワークショップ等で本リストを用いる場合は、
Ⅰ(歴史学)で権力と象徴資本の枠組みを押さえ、Ⅱ(香文化史)で香木の基盤知識を補い、
Ⅳ(自然科学)を用いて、学際的な議論へ展開されたい。