16 共役π 電子系〜単純 Hückel 法〜
分子軌道法の簡単かつきわめて有用な応用に,共役 電子系に対する Hückel 法がある。
共役 電子系とは,一重結合と二重結合が交互に現れるような系である。(副読本 pp. 142〜162)
16.1 n 個の原子からなる系に対するLCAO 近似(復習)
LCAO 分子軌道
エネルギー期待値
書き換えると i=1n j=1nci*cjSij = i=1n j=1nci*cjHij
変分法によって が最小になる ci の組を求める
ck について微分し,それがゼロになる ci の組を求める方程式をたてる
ここでSij = Sji および Hij = Hji の関係を利用すると次のようになる
連立方程式の形に書くと
全ての ci がゼロという解にならないような が必要 → 永年方程式
が求められたら,先の連立方程式と規格化条件とから ci を求める
16.2 共役 π 電子系に対する単純Hückel 法
共役二重結合系の炭素鎖を対象とする。よって,骨格を構成する要素は全て同種原子である。
仮定として, 結合と 結合とを全く独立に取り扱う。その中で, 電子系のみに着目する。つまり,原子軌道として p 軌道のみを考慮する。
Hii = とおく(全ての i で同じ値)
Sii = 1 である(規格化条件)
近似その 1 i j のとき Sij = 0
近似その 2 i j のときで i と j との間に結合が
|
|
n 個の原子軌道から n 個の MO が出来る。
基底状態では,エネルギーの低い MO から順に 2 個づつの 電子が占有。
電子間反撥を無視した場合の全 電子エネルギー E
r 原子上の 電子密度 qr
r 原子と s 原子の間の結合次数 prs
単純 Hückel 法は,近似は粗いが,簡単な計算でいろいろな情報が得られる
16.3 エチレン
sp2 混成軌道は C-C の 結合と C-H 結合に使われ, p 軌道は 結合に使われる。炭素 1 と 2 の p 軌道の波動関数を1, 2 とする
分子軌道
従ってc1, c2 を求める連立方程式は
永年方程式
解
2 - 1 = 0
=
1 から直ちにエネルギー準位が判る
これを連立方程式に代入し,さらに規格化条件に注意すれば
< 0 であるから, = -1 の方が基底状態である。
電子は 2 個なので,基底状態の MO に二つの電子が入る
MO 法による水素分子と酷似している。
16.4 ブタジエン
永年方程式
電子は 4 個有るので,一番下と下から 2 番目の準位に二つづつの電子が入る
もしも2 重結合が局在化していたら全 電子エネルギーはエチレン 2 個分の 4( + )
非局在化エネルギー Delocalization Energy (DE) は 0.472
演習問題
- 共役 電子系に対する単純 Hückel 法とはどのような近似法か説明せよ。
- エチレンの 電子について,単純 Hückel 法を用いて考察する。
- MO のエネルギーと規格化された波動関数を求めよ。
- MO はどのように占有されるか。
- 全 電子エネルギーを求めよ。
- ブタジエンの 電子について,単純 Hückel 法を用いて考察する。
- MO のエネルギーと規格化された波動関数を求めよ。
- 各 MO の節の数を求めよ。
- MO はどのように占有されるか。
- 全 電子エネルギーを求めよ。
- 非局在化エネルギーを求めよ。
- 各炭素原子の 電子密度を求めよ。
- 各結合の次数を求めよ。
- シクロブタジエンの 電子について,単純 Hückel 法を用いて次の関数及び量を求めよ。
MO のエネルギーと規格化された波動関数。全 電子エネルギー。非局在化エネルギー。各炭素原子の 電子密度。各結合の次数。
- アリルラジカル C3H5.は,炭素 3 つが直線的に 2 重結合でつながったラジカル(不対電子を持つ化学種)である。
単純 Hückel 法を用いて次の関数及び量を求めよ。
MO のエネルギーと規格化された波動関数。全 電子エネルギー。非局在化エネルギー。各炭素原子の 電子密度。各結合の次数。
- ベンゼンの 電子について,単純 Hückel 法を用いて次の関数及び量を求めよ。
MO のエネルギーと規格化された波動関数。全 電子エネルギー。非局在化エネルギー。各炭素原子の 電子密度。各結合の次数。
- 単純 Hückel 法を用いて, H3+ は線形に結合した方が安定か,三角形の環状になった方が安定か予測せよ。
H3 , H3- についても同様の計算を行え。