5 多電子系に対する近似法
水素以外の原子は複数の電子を持っている。
多電子系を考える上での問題点は,電子間相互作用を考慮に入れなければならないというところにある。
Schrdinger 方程式の変数分離を可能にするには,電子間相互作用を無視するか,電子の感じる有効ポテンシャルを一電子の座標のみで表すような近似が必要である。
(副読本 pp. 95〜102)
5.1 つじつまのあう場の方法self consistent field
N 電子系で,ハミルトニアンが次のような形に書ければ, Schrdinger 方程式は変数分離可能
Uj(rj) は j 番目の電子が感じる有効ポテンシャルで,原子核及び自分以外の全ての電子との相互作用を平均化し,自分自身の座標 rj のみに依存する形にしてある。
Hartree は,この有効ポテンシャルの計算法として,次のような手順を考えた。
- j に適当な形を仮定。
- j 番目の電子に対するポテンシャル Uj を,核の電荷と j 以外の電子の i から計算。
- Uj から jを再計算
- 全ての電子について Ui と i とを計算。
- 全ての Ui に変化が見られなくなるまで, 2〜4 を繰り返し計算。
このようにして求めたポテンシャルをつじつまの合う場(自己無撞着場)とよぶ。のちに, Fock が電子スピンを考慮するために改良した。
演習問題
- He 原子を Hartree-Fock 的に考察する。 U1(r1) に対する第 1近似は
で与えられる。ただし 1s は水素類似イオンの 1s 軌道の波動関数である。 U1(r1) は具体的にどのような形をしているか。
- 原子の真の核電荷 Z と有効核電荷 Z'の差 Z -Z'は遮蔽定数 s と呼ばれる。 s は次の Slater の規則によって簡便に計算できる。
- 電子 i に対する電子 j による遮蔽を sij とすれば,電子 i に対するトータルの遮蔽 si は
- 原子中の電子を括弧のグループに分ける。左から右へ行くに従って外側とみなす。
(1s), (2s, 2p), (3s, 3p), (3d), (4s, 4p), (4d), (4f), (5s, 5p), (5d)
- i より j が外側なら sij = 0
- i と j が同じグループなら sij = 1/3
- i より j が内側なら sij = 1
これに基づいて, H から Ar までの原子の最外殻電子に対する有効核電荷を求めよ。