A-7 古典的 Hamiltonian

A-7.1 Lagrangian

話を簡単にするため,質量 m の質点 1 つが,ポテンシャルエネルギー V (x,y,z) の空間中にある場合を考える。粒子にかかる力 F はポテンシャルのみで決まる。

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ここで, Lagrangian L を次のように定義する。

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ドットは時間微分を表す。よってx = vx である。この関数 L を使えば, Newton の運動方程式 F = ma は次のように書き直すことができる。
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y, z についても同様に書ける。この方程式を Lagrange の方程式という。

この方程式の意味するところを,一次元で説明する。
時刻 t1 に x1 にあった粒子が時刻 t2 に x2 にあるとする。では,途中の時間ではどのような道筋をたどるのか。
それは,次の積分 I が極小になるような道筋である。

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これは Hamilton の原理と呼ばれる。 Lagrange の方程式は,この Hamilton の原理と数学的に同等である。

A-7.2 正準方程式

さて, Lagrangian L は,一次元でいえば x とx = vx とが独立変数であるような関数である。よって, L の全微分dL は

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であるが, px = mx とすれば
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なので,書き直して
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L の代わりに, x と px とが独立変数であるような関数 H を考えよう。それは次のようにすれば作れる。

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ところで,
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だから,二つの式を比べると次の二つの方程式が導かれる。
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このような,形をした方程式の組を正準方程式といい,正準方程式を満たす変数の組(この場合 x と px)は,互いに正準共役であるという。
また, H は Hamiltonian という。ここで考えているような例の場合, H は全エネルギーに他ならない。
正準方程式を用いた Hamilton 形式の解析力学は,それ自体が便利だということは特にないが,量子力学が形成される上で,重要な役割を果たした。

A-7.3 極座標による Hamiltonian

座標変換を施しても,新しい変数 qr と pr とが正準方程式を満たすように変換することができる。このような変数変換を正準変換という。例えば,ポテンシャルエネルギーが原点からの距離 r のみで決まるような場合,極座標を使うのが 便利だが,その場合の Hamiltonian は次のように書ける。

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ただし
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r と prh と phf と pf がそれぞれ正準方程式を満たすことはすぐに示すことができる。

この Hamiltonian は f に依存しない。このような場合 f循環座標であるという。

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だから pf が一定であることがすぐに解る。

A-7.4 エネルギーと時間

今までの議論では,時間 t は,他の変数(座標と運動量)とは別に,特別な扱いを受けている。
それをやめるにはどうすればよいか。
では,エネルギーも座標と運動量で決まる Hamiltonian ではなく, E というエネルギーが独立変数であるとする。
そして,次のような新しい関数 F を定義する。

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この関数を使って正準方程式を作る。座標と運動量に関しては
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であり,今までと全く同じである。時間 t に注目すると
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であり, t と-E とが共役変数であるような正準方程式ができる。このような意味で,エネルギーと時間は共役であると考えられる

演習問題

  1. Hamilton の原理から Lagrange の方程式を導け。
  2. y と px とが共役でないことを示せ。
  3. ポテンシャルが原点からの距離 r だけで決まる場合,デカルト座標の表示から出発して,極座標による Hamiltonian の表示を導け。
  4. r と pr とが共役であることを示せ。 h と phf と pf の場合も示せ。
  5. 量子力学で,運動量の演算子は共役な変数での偏微分を用いて^pと書ける。
    これとの類推でいえば,エネルギーの演算子Ê はどのように書けると考えられるか。