8: 回転運動の量子論

剛体の重心の周りの回転を量子力学的に考察する。

8.1 角運動量演算子

前節で見たように,古典的な角運動量は次のように書ける。

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これの類推から,量子力学的な角運動量の演算子は次のようになるはずである。

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角運動量の 2 乗については

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(演算子は掛け算ではなく, 2 回はたらかせることに注意する)

この演算子は,極座標を用いて書き直すことができる。

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8.2 Schrdinger 方程式

古典的に,回転運動のエネルギー Er

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であることを思えば,回転エネルギーの演算子は次のようになる。
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これの固有値方程式を書くと次のようになる。
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この式は,実はポテンシャルが原点からの距離 r のみの関数である場合に
三次元の Schrdinger 方程式を極座標で表 し,動径部分と角度部分を変数分離した場合の角度部分の方程式に他ならない。

ここでさらに波動関数が変数分離できるとする

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上の式に代入して両辺を Y (h,f) で割り, h の部分と f の部分に分ける
変数分離の定数を m2 と置くと
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8.3 Φ(φ) に関する方程式

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一次独立な解のみを考えることにすると
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f は角度変数なので P は周期 2p の周期境界条件を満たさなければならない
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従って

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m を磁気量子数という

規格化定数 A は

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従って
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8.4 Θ(θ) に関する方程式

N を規格化定数として, Q(h) = NP(h) と置くことにする

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変数変換する
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この方程式の解は c = l(l + 1) ただし l = 0,1,2,...として次のようになる。(Legendre 多項式)

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Pl0(z) は l 次の多項式なので, l 階微分までが値を持つ
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規格化定数 N は次のように決める

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8.5 波動関数

規格化された波動関数

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はじめのいくつかについて,具体的に書き下す
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図の上で、マウスの左ボタンを押しながらぐるぐる動かせます。

8.6 エネルギー準位

回転エネルギーは,量子数 l だけで決まる。通常は l のかわりに J (回転量子数)で表す

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(2J + 1) 重に縮退している。

8.7 方向の量子化

量子数 m は何を表しているのか。
m は角運動量の z 成分に比例する。これは,回転軸が任意の方向をとれるわけではないことを表している。
ただし,角運動量の z が確定した値を持てば, x, y 成分は不確定性原理によって,確定した値を持たない。

演習問題

  1. 原点の周りを回転する一粒子の軌道運動について。
    1. 原点の周りの古典的な角運動量を粒子の質量と運動量とで表せ。
    2. 角運動量演算子の x, y, z 成分,^
l x, ^l y, ^l z をデカルト座標で表せ。
    3. 二つの演算子の交換子は次のように定義される。
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      ^l x, ^l y, ^l z の考えうる組み合わせについて交換子を求めよ。
    4. 角運動量の 2 乗の演算子^l 2 をデカルト座標で表せ。
    5. ^l 2^l x, ^l y, ^l z と交換子を求めよ。
  2. 原点の周りを回転する一粒子の軌道運動について。
    1. 角運動量演算子を極座標で表せ。
    2. 角運動量の 2 乗の演算子は極座標でどのように書けるか。
    3. 運動エネルギー演算子を極座標で表したとき,角度部分が角運動量の 2 乗の演算子の定数倍であることを示せ。
  3. 原点のまわりの古典的な軌道角運動量ベクトルは L = r × p で与えられる。ただし r は位置ベクトル, p は運動量ベクトルである。
    1. 量子力学的な角運動量演算子の x, y, z 成分をデカルト座標を用いて表せ。
    2. 同じのもを極座標を用いて表せ。
    3. 角運動量の 2 乗の演算子を極座標で表せ。
    4. Y l,m(h,f) は角運動量の z 成分の演算子の固有関数である。固有値は何か。
    5. Y l,m(h,f) は角運動量の 2 乗の演算子の固有関数である。固有値は何か。
  4. 回転運動に対する Schrdinger 方程式を極座標で変数分離したときの, P(f) に対する方程式について。
    1. 以下の 4 つの関数は全てこの方程式の解であることを示せ。
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    2. 4 つの関数の中で,直交する組はどれか。直交しない組はどれか。
    3. 4 つの関数の中で,角運動量の z 成分の演算子の固有関数であるものはどれか。
    4. 4 つの関数を規格化し,それぞれについて角運動量 z 成分の期待値を求めよ。
  5. Y 11 と Y 20 とが実際に回転運動に対する Schrdinger 方程式を満足することを示せ。
  6. Y l,m(h,f) において,角運動量ベクトルが z 軸となす角度を求めよ。
  7. m が等しくて l が異なる 2 つの Legendre 陪多項式について。
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    上の式に Plm をかけて z を -1 から 1 まで積分したものから,
    下の式に Pkm をかけて z を -1 から 1 まで積分したものを差し引くと, Legendre 陪多項式の直交性が証明出来る。確認せよ。