イラク戦争の法的正当化は可能か?
|
|
はじめに
|
安全保障理事会の許可があるかどうか明確でないまま(あるいは許可無く)実施されたイラクへの攻撃は、さまざまな批判を招いた。国際法や国連を無視した単独行動であるという批判にはもっともなものがあるが、イギリスやアメリカは、全く国際法や国連を無視して行動していた訳ではない。両国の見解によれば、イラクへの攻撃は、まさに国際法に従って、国連の枠内で実施されたということになる。
筆者はイラクへの攻撃が国際法上合法であったと主張するものではないが、議論を深める目的で、イギリスとアメリカによる攻撃の法的正当化理由を紹介しておく。 |
「イギリス軍は、アメリカ軍およびオーストラリア軍と協働して、2003年3月20日にイラクにおいて軍事行動を開始したことを報告する・・・。軍事行動は継続中である。
この行動は、イラクによる国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)および国際原子力機関(IAEA)に対する長年にわたる非協力、ならびに安保理がイラクに課した軍縮の義務をイラクが履行していないという安保理の認定(決議678(1990)、687(1991)および1441(2002)を含む)の結果によるものである。決議1441(2002)において、安保理は、イラクによる大量破壊兵器の保有は国際の平和と安全に対する脅威であること、イラクが軍縮を行わないことで義務に明確に違反していること、その結果イラクは1991年の停戦の際に安保理が決議687(1991)で課した停戦条件の深刻に違反していることを繰り返し述べた。軍事行動は、イラクによる決議遵守を確保するために他に残された手段がないことが明らかになって始めて開始された。 この行動の目的は、安保理が課した軍縮の義務をイラクが遵守することを確保することにある。すべての軍事行動はこの目的を達成するために必要な最低限の措置に限定される。作戦は、国際武力紛争法に則って実施される。攻撃目標は文民の被害を避けるために慎重に選定される。・・・」 |
|
「多国籍軍(Coalition forces)は、イラクに置いて軍事行動を開始した。この作戦はイラクが決議1441(2002)を含むいくつかの安保理決議により課された軍縮の義務に深刻に違反し続けていることから必要となった。作戦は大規模なものであり、これによりイラクの義務履行を確保することができるだろう。作戦遂行に当たって、われわれは文民の被害を避けるために全ての合理的な予防措置をとる。
この行動は、既存の安保理決議(決議678(1990)および687(1991)を含む)によって許可されたものだ。決議687(1991)は、イラクにいくつかの義務を課したが、その中でも最も重要なものが徹底的な軍縮の義務である。これは停戦の条件だった。一貫して認められ理解されている見解によると、イラクのこれらの義務に対する深刻な違反は、停戦の根拠を失わせ、決議678(1990)の武力行使の権限を復活させる。これが多国籍軍による過去の武力行使の根拠になってきたし、安保理もこれを認めてきた。例えば、イラクによる決議687(1991)の深刻な違反をうけて、事務総長は1993年1月の公式声明で、多国籍軍は決議678(1990)によって武力行使の権限を与えられたと認めている。 イラクは、決議1441(2002)で安保理が認めたように、決議687(1991)の下での軍縮の義務に深刻に違反し続けている。国連憲章第7章の下で行動し、安保理は全会一致で、イラクが義務に深刻に違反してきたこと、および違反し続けていることを決定し、イラクに対するこのような義務違反を続けることにより重大な結果に直面するであろうという繰り返しなされた警告を想起している。さらに決議1441(2002)は、イラクに義務に従う「最後の機会」を与えた。しかし、大量破壊兵器計画の全ての側面について正確、全面的かつ完全な開示を行い、決議に従いまたは決議の実施に全面的に協力するべき同決議の下での義務にイラクが違反することは、さらなる深刻な違反に該当することを、決議1441(2002)は明確に認めている。 イラク政府は決議1441(2002)による最後の機会を利用しないと決定し、明らかにさらなる違反を行っている。イラクの深刻な違反を踏まえると、停戦の前提が失われ、決議678(1990)の下で武力行使は許可される。 イラクは、長期間にわたって、イラクが軍縮し、大量破壊兵器とそれに関連する計画に対する全面的査察を認める義務を遂行するよう促す外交交渉または経済制裁などの平和的手段に応じるのを拒否してきた。多国籍軍の今回の行動は、これに対する適切な対応である。こうした措置は、イラクの及ぼす脅威から米国および国際社会を防衛し、地域の国際平和と安全を回復するために必要なのである。これ以上対応を遅らせても、違法で脅威となる振る舞いをイラクが続けるのを許すに過ぎなかったであろう。・・・」 |
|
コメント
|
1. 米英の法的正当化根拠は「安保理決議678(1990)で許可されている」というもの
国内向けの説明では、イラクとテロリストとの関係も持ち出されていたが、安保理での公式の釈明では、武力行使は決議678(1990)により許可されているという点に限定されている。したがって「さらなるテロの危険」を根拠にした「先制的」自衛が法的に許容されるかという問題はひとまず検討する必要はない。 決議1441(2002)の読み方に焦点が集まったが、武力行使のそもそもの根拠は決議678(1990)にあるとされた。余談であるが、イギリス政府の公式見解に大きな影響を及ぼしたLSEのグリーンウッド教授は、決議1441(2002)採択「前」の2002年10月末にロンドンで行われた講演会で、すでにこの決議678(1990)根拠説を唱えていた(筆者聴取)。決議1441(2002)は、決議687(1991)の大量破壊兵器廃棄義務をイラクが果たしていないことを認めているが、英米の考え方では、この決議が「義務に深刻に違反している」と強い言葉で認定したことのみで、決議678(1990)と687(1991)に基づく武力行使の合法性が客観的に確認されたことになり、決議1441(2002)13項の「イラクが義務に引き続き違反すると重大な結果に直面するであろう」という文言が武力行使の許可であるのかどうかは重要な問題ではないことになる。 2. 決議678の射程 |
参考資料
|