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IPEの風 3/23/09

近所のイオンに買い物に行きました。午前中で人は少なかったですが、その商品と価格の多様さに目を瞠ります。掃除機でも、洗濯機でも、冷暖房エアコン、IH調理器、小型炊飯器、机や寝具、・・・食料品コーナーには驚くほど多彩で便利な冷凍食品が並びます。

これから一人暮らしを始める学生や新入社員には、まるで手軽なおもちゃ箱のような世界です。しかし、短期・不定期の職業を求めて、住居を転々と変わる単身の労働者にとっては、この世界がもっと違って見えるでしょう。

深刻な不況を回避するには、もっと消費し、雇用を増やす? あるいは、資源の枯渇や温暖化を想えば、もっと質の高い商品を100年間使い続ける方が良いでしょう。

世界不況で売り上げが減り、雇用も消費も急速に減っているはずです。一方で、これほど便利で多様な世界を創り出す能力が蓄積されているのに、他方で、ますます多くの人が安定した職を失い、子供を産み、育てるために家族で一緒に暮らすこともかなわない。これは経済システムの矛盾だ、と、何も経済学者でなくても、正気の観察者なら思うはずです。スミス、リカード、マルクス、ケインズ、シュンペーター。現代の矛盾と真実にも形を与え、誰か展望を示してほしいです。

10年ほど前、インドや中国は金融自由化を慎重に進めていました。通貨危機に遭ったマレーシアの資本規制と為替レート固定化(切下げ)は非難され、日本のアジア通貨基金も葬られ、香港の株式市場介入が慨嘆されて、その後、アルゼンチンはIMFよりデフォルトを選びました。しかし今、それらは、アメリカやイギリスが急速に規模を拡大して行っていることです。また、アイスランドやアイルランド、東ヨーロッパで起きていることと似ています。

グローバリゼーションの制度的な条件は、小国の発展や社会統合のためだけでなく,大国間の対立や帝国主義的な拡大を防ぐために必要です.

私はいつも思います。金融システムの再建には、過去のバブルによって利益を得た者が負担しなければならない、という原理を掲げてほしい、と。政治的な合意を得る上で、正当かつ健全な、分配に関する原則は重要です。

それは実行できないことでしょうか? ボーナスの制限や富裕層への課税で、オバマは一部実行しつつあります。そして、金融ビジネスの報酬メカニズムを転換し、リスクの高い商品を示すグローバルな登記制度や情報公開の徹底、タックス・ヘイブンの廃止、証券市場の金融革新を厳しく監視する機関設立、といったヨーロッパの主張にも、それは現れています。

「バブルで利益を得た者に不良債権の処理費用を(最も多く)負担させる」というのは、“Bad Bank”の提案に近いでしょう。また、処理コストを抑制するために、「銀行国有化」や「債券の組み換え・減額・株式化」「長期的保有」などを組み合わせるのは、“スウェーデン・モデル”です。

また、日本が派遣労働者の失業問題に対処し、中国は農村部の消費を刺激し始めたように、銀行救済より、むしろ失業保険や最低賃金、生活水準の維持を重視する方向に転換することも重要です。経営参加とは別に、短期雇用を再編に利用するのではなく、技術革新や企業再編をめぐる長期的な関与、労働移動に関しても、労働者の権利や発言を強化することが重要でしょう。

そして、もう一つ。銀行救済においては、なによりも、社会が望ましいと認める基準を与え、過去ではなく、将来の時点で処理の経過を判断するのが良いでしょう。不良債権処理と企業再建を銀行自身に競わせるべきです。損失を処理できない、あるいは、融資を減らすだけで企業を再建できない銀行を公的資金で救済するなら、納税者は政府を罰するでしょう。そのような銀行は整理します。しかし、雇用を新しく生み出すためになら、銀行救済や再編は支持されるはずです。

「前向きの再編に公的資金や保証を与える」というのは、“Good Bank”の提案に近いのです。

多くの論説が繰り返し指摘しているように、市場が秩序正しく整理できないなら、政府が金融システムを健全化する必要があります。経営陣を交代させるかどうかも含めて、事前の検査や「テスト」ではなく、事後に(将来のある時点で、あるいは定期的に)、企業を再建し雇用を創出した成果を長期的に比較して、救済する銀行と公的資金の投入を決めることです。

ガイトナーの提案でも、不良債権、「有毒」証券の正しい購入価格が決められません。銀行が支払い不能かどうかは、事後的にしか分からないのです。

新入生と一緒に、ロナルド・ドーアを読もうと思います。最初に『学歴社会』を紹介し、受験競争や大学に入った自分たちの存在が社会の一部であることを考えます.そして不況・低成長と雇用難の日本で,彼らが大量失業の時代に生きるのであれば,『働くということ』と『誰のための会社にするか』を一緒に読み、議論してもらいます。最後に、『貿易摩擦の社会学』を紹介して、彼らにも国際的な合意や制度の意味を考えてほしいのです。

アイスランドの最初のホテルで、午後2時に約束があった日、部屋にいると、掃除する若い(そして、少しやつれた)女性労働者が知らずに入ってきました。彼女は大変に恐縮し、何度も詫びて、清掃道具やベッド・シーツが並んだ荷台の前で手を合わせました。髪の黒い、ポーランド人ではないか、と悲しく思いながら、私は戸を閉めました。

世界中で働く勤勉なポーランド人労働者が、この不況で仕事を失うかもしれません。とどまることも、帰国することも、彼らにとって厳しい選択です。しかし彼らの苦労は必ず実って、いつか、その息子や娘たちは、ヨーロッパで最も優れた工業力や技術力を持つ大国となったポーランドと、父母たちの苦労を誇りに思うでしょう。経済危機においても、ドイツやフランスではなく、ポーランドが救済策を示し、ヨーロッパが進む道を示してほしい、という声を聞くのです。

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