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IPEの種 10/23/2006

金正日の核実験を火星人襲来にたとえたのは,たまたま,H.G.ウェルズの『宇宙戦争』を読んでいたからでした.

かつて,こんなジョークがありました.香港のイギリス支配を終わらせるために,中国は一発の銃声も必要としない.では,何が必要か? 北京から電話すれば良い.(イギリス政府に対する電話一本で香港を解放できる.)

東欧から,ベルリンの壁,ついにはソビエト連邦にまで及んだ,共産主義体制からの民衆離脱は,投票や発言の機会を失った結果,まさに,足によって選択したものでした.北朝鮮に対しても,こうした選択は有効です.もし中国や韓国が国境を開放し,避難民を積極的に受け入れると宣言したら,金正日の体制は数日で消滅する,と思います.

しかし,北朝鮮の消滅や半島の統一が容易だ,というつもりはありません.軍備拡大や戦争と同様に,体制転換や民主化,革命も,魔法の杖ではないからです.

ここにさまざまな論説を紹介していますが,私は講義で,北朝鮮に対する正しい制裁方法や,日本の核武装論・国民皆兵論,を主張するわけではありません.本当に具体的な事情を知った者が正しい選択を主張し,転換に関わる直接の主体だけが本来の論争を導くべきだ,と思います.私が彼らに間接的に提供したいと願っているのは,具体的な経験や恐怖,期待を形にする豊かな想像力です.現実のさまざまな可能性は,想像力によって阻まれ,あるいは,広がります.

手嶋龍一氏の『1991年 日本の敗北』を読んでいます.日本の対外政策を転換した事件として,1985年のプラザ合意や1997年のアジア通貨危機と同様に,あるいはそれ以上に,1991年の湾岸戦争がありました.海部内閣の下で「国連平和協力法案」は成立せず,日本は130億ドルの財政支援を行いましたが,アメリカからもクウェートからも感謝されませんでした.国際社会で屈辱的な扱いを受けた,と繰り返し言及されています.

・・・「五十万のイラク軍が国境付近に集結し,緊張が高まってもなお,クウェートの支配階級は,南仏リビエラの高級リゾート・ホテルやスイス山岳地帯の豪華なロッジでヴァカンスを楽しみ,国に帰る気配すら見せなかった.」 アメリカ国民は,やり場のない怒りをホワイトハウスに突きつけた.「クウェート王族のために,なぜわれわれの息子が砂漠で戦い,血を流さなければならないのか?

・・・アメリカの政府と議会は,中東の石油に最も依存する日本に同じ憤懣を投げ返した.「自分の経済的利害だけを専らにし,世界秩序の維持にはなんら責任を果たそうとしない,わが同盟国日本は『極東のクウェート』ではないのか?」

交渉に登場する人物は印象的です.冒頭で遭遇するのはホワイトハウスの報道官,「カンザス州の貧しい農家の生まれで,地元紙の記者やアパラチアの小さな町の広報マンを経て現在の地位に昇りつめた」フィッツウォーターです.他にも,モルモン教徒のスコウクロフト大統領補佐官.かつて大本営参謀にいた瀬島龍三.あるいは,英国空軍士官学校,アラバマ州の空軍大学を経て,ジョンズ・ホプキンス大学SAISで国際関係論をも学んだサウジアラビア空軍のパイロット,ファハド国王の甥でもあるバンダル王子.

バンダルは述べたそうです.「サダム・フセインは必ずイスラエルに攻撃を仕掛けてくる.・・・問題は,フセインがどのタイミングを選んでイスラエルを攻撃してくるかだ.」 そのとき,多国籍軍とイラクの戦闘が既に開かれていた場合,ユダヤ人たちを説得できる.しかし,真っ先にスカッド・ミサイルをイスラエルに撃ち込んでしまえば,フセインは「アラブの大儀」を掲げて,アラブ急進派を糾合できる.「湾岸戦争の性格を根底から変えてしまう.」

同様に,国境開放によって体制の死を予感したとき,もし金正日が真っ先に日本を標的にミサイルを撃ち込んだらどうなるか? と私は想像しました.厭戦気分のアメリカ,反米・反日感情の強い韓国,若者の反日感情に翻弄される中国,プーチン=資源独裁のロシアは,どう動くのか? 国連安保理のイギリスやフランスも国内に政治不安を抱えています.そして日本では「世論が危険な風を孕み」,社会の底から「不健全なナショナリズム」が燃え上がる・・・?

もし朝鮮半島の統一が平和的に実現すれば,日本は変わらない? むしろグローバリゼーションによる社会変化が加速するはずです.そして,ドイツやアメリカ,イギリスで起きているように,ゲイ(同性愛者)の市長や,億万長者の若い起業家,全身をヴェールで覆ったムスリムの女性たちが日本の代表的な地位に就く時代が来ます.もちろん,それまでに何度か,火星人襲来のようなパニックが起きるでしょう.一発の銃声もなく,日本が変わります.

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