IPEの果樹園2020

今週のReview

12/28-1/2

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WTOとバイデン ・・・ブレグジットの通商合意 ・・・中央銀行と気候変動 ・・・中国と民主制 ・・・バイデンの外交・安全保障 ・・・US財務省の将来 ・・・アラブの春を回顧する ・・・ポピュリズムと民主主義再考 ・・・トランプの脅威とは ・・・現代奴隷制 ・・・MMTを恐れるな

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 WTOとバイデン

NYT Dec. 17, 2020

The W.T.O. Is Having a Midlife Crisis

By Farah Stockman

WTOを人にたとえれば、ビジネススーツを着たまま昼から酒を飲んでいる男だ。何が間違っていたのかな、と考えている。彼は大成功を遂げたはずだった。

WTO1995年に創設されたとき、国際貿易のルールを定め、国家間の紛争を裁定する機関として支持されていた。他の国際機関と違って、その紛争処理メカニズムは広く活用され、しかも、強制力があった。ある国がルール違反であるというWTOの判決が出たら、犠牲になっていた国は損害を取り戻すための報復関税を認められた。たとえアメリカでも上級委員会の7人の判断に従った。

しかし今、WTOの成果はすべて失われた。米中という2大国が貿易戦争を始めて、ルールを破っている。だれも上級委員会を恐れない。旧委員の任期が切れても、新しい委員は任命されない。事務総長は不満を強めて、任期を終えず、1年早く辞任した。

トランプが新委員を任命しなかった。しかし、その前からWTOは苦しんでいた。1990年代には非常に高い評価を得ていた自由市場が、急速に信用されなくなったからだ。制約のない資本主義が全ての人の生活を改善する、というのは幻想だった。

WTOの持つパワーが問題になった。「自由貿易」をじゃまする国内法や制度を、蜘蛛の巣のように打ち払ったからだ。国際的な通商を守ることが、気候変動や労働者の権利よりも優先された。

WTOのルールは偏っていた。WTOは伝統的な貿易の分野を超えて、さまざまな問題に介入した。それは閉ざしたドアの向こうで企業が政府に働きかけたからだ。自分たちに有利なルールに書き変えるためだ。国際銀行は金融規制を緩和し、医薬品業界は特許の有効期間を延長し、巨大農業ビジネスは遺伝子組み換え食品の輸入禁止措置を撤廃させた。

WTOが中国の補助金を黙認したことは、ますます現実を無視したものになった。

世界経済はパンデミックに苦しみ、将来の気候変動が危機をもたらす恐れがある。酒場で酔いつぶれているWTOを救出するために、ジョー・バイデン次期大統領が駆け寄るべきだろうか。新しい事務総長の任命を支持し、上級委員会の委員を任命すればそれでよいのか。

それはまだ待つべきだ。世界は国際貿易のルールを変えるチャンスを手にしている。気候変動や不平等にも取り組むべきだ。世界中に、グリーン・エネルギーへの戦略的投資を促す補助金を出す国がある。バイデンが唱える、アメリカ復活のための国産品購入奨励も、WTOルール違反だ。

加盟諸国は正面から問題を議論してルールを変えるべきだ。それは企業の利益に従うのではなく、庶民の求めに応じる姿勢を優先することだろう。新政権がKatherine Taiを通商代表にしたのは良い兆候だ。彼女は長年、企業とアメリカ社会の利益とのバランスを取ることに従事してきた。


 ブレグジットの通商合意

PS Dec 18, 2020

Brexit and the Brussels Effect

PAUL DE GRAUWE

ブレグジット後の通商関係について、EUとの交渉では、イギリス政府が完全な主権を要求して延長してきた。将来に、イギリスは安全性、環境、衛生、労働者の権利、イギリス企業への補助金、すべてを欧州委員会の干渉なしに、決定するという。

それはいい。EU域内市場のルールから離れる権利を主張することは、主権の意味に含まれている。問題は、イギリス政府がEU域内市場へのUKのアクセスを、独自のルールで維持しようとすることだ。たとえば、自分たちのチキン加工に関する衛生ルールを適用し、そのチキンを異なるルールがあるEU市場で売る。EUの主権は無視する。

完全な主権を持った2つの集団・国が通商条約を結ぶ場合、第1に、各国はその領土内のルールを独自に作る。すべての企業は、EU企業も、UKで商品を売るときUKのルールに従う。逆もそうする。第2に、各集団・国は独自にルールの実行方法を決める。制裁するか、どのような制裁にするか、独自に決める。

完全な主権を持つ集団・国の間で、通商条約は容易に合意でき、実行されるだろう。特別なルールや規制を決める合同委員会は不要である。そんな仕組みは複雑で、時間ばかりかかる。

将来は、完全な主権国家の間のより簡単な交渉モデルになるだろう。そのルールには、EU市場が世界最大であることから、非対称的な歩み寄りが現れる。いわゆる、「ブリュッセル効果」である。

UK企業が、自国のルールをEU市場のルールに合わせるように強く求めるだろう。UK市場は比較的小さく、UK企業にとってEU市場がどうしても欠かせない。他方で、EU企業は、それほどUK市場を失うことを恐れないからだ、

対照的な圧力により、UKの法律はEUの法律に近づくはずだ。今すぐではなく、次第にそうなる。現在のUK政府はこの圧力を抑え込むことに決めているが、それはますますUK企業の競争力を損なうだろう。遅かれ早かれ、UK政府もそれを認めるしかない。

EUUKの交渉はしばしば感情的に悪化するが、厳格な主権に依拠するなら、合意は容易である。UKの法律がEUに従うのは、今、強制する問題ではない。市場の作用に従うだけだ。

The Guardian, Thu 24 Dec 2020

At long last we have a Brexit deal – and it's as bad as you thought

Tom Kibasi

ボリス・ジョンソンはいつも取引を歓喜とともに伝える。それは彼の勝利の瞬間だった。反EUのイギリス政治がピークに達した。右派の新聞は書きたてる。

しかし国民は無関心だ。政府のいい加減なパンデミック対策に苦しんでいる。勝利を叫ぶブレグジット強硬派の楽観論は、冷たく、暗い、じめじめした、いつもの冬の日でしかない。

世界最大の市場圏から出るという考えは、過大なエゴと自己顕示に満ちた中年の男たちが魚(漁業権)をめぐる議論をするうちに溶解する。いつものように狂気に満ちており、困惑させられる。

この国の政治とメディアが示すのは、ブレグジットが常に、現状を破壊する、という誘惑であったことだ。

この取引は薄い膜でしかない。イギリスが優位を持つ(金融、情報など)サービスに関して、EU諸国に売ることは困難になるだろう。イギリス人はEU諸国において、自由に旅行し、働き、居住する権利を失う。財の輸出に関税や規制はないけれど、EU規制に関する源泉国や申告書に従うため、数十年を経て初めて、チェックを受ける。

政府は規制の自律した権限を求めて激しく闘った。それはイギリスが現状の重力圏から離脱するための速度を必要とするからだ、と。しかし、そんな話は幻想である。イギリスの生産者は輸出のためにEU規制を満たすことを必要とする。イギリスが独自の規制を設けるほど、国際競争力を損なうだろう。

ここ数日の港における混乱状態が示すように、たとえこの合意が円滑に実施されても、成長率を2%も下げ、インフレ率を3.5%上げる、と推定されている。イギリスへの外国投資は減るだろう。

この結果はジョンソンが選択したものだ。2016年の国民投票から生じた避けがたいものではない。人びとが支持したのは、経済協力を終わらせることではなく、それを異なる政治的基礎の上に据えること、主権をブリュッセルにプールするのではなく、より明確に、厳格に、議会に据えることである。

ジョンソンの取引は、全国の貧しいコミュニティ、衰退する製造業にとって、特にイングランド北部と中部にとって厳しいものだ。労働党がこうした取引を支持することは理解できない。政府案に反対することは「合意なしの離脱」を意味する、というのは間違いだ。期限というのは政治家たちが決めたもので、政治的意志があれば延長可能である。良い合意を妨げているのは、EUではなく、保守党のイデオロギーだ。

ブレグジット合意のために保守党に多数を与えたことで、ジョンソンは歓喜の「リセット」を迎えた。労働党はこの粗末な取引に反対せよ。


 中国と民主制

FP DECEMBER 18, 2020

China Is Gnawing at Democracy’s Roots Worldwide

BY VIJAY GOKHALE

政治システムとして民主制は、1900年、多くの王制の間の異常なケースであったが、帝国、ファシズム、共産主義の流れを断って、20世紀の終わりには支配的になった。

1989年、ロシアと東欧で権威主義体制が崩壊するのを観て、中国は同じ失敗を繰り返さないように慎重にこれを研究した。中国共産党が出した結論は、ソ連が世界の変化に帝王できなかったこと、そして、さらに重要なことは、その歴史的かつイデオロギー的な経験を捨てたことだった。中国共産党は、30年間の経済的成功と、特にコロナウイルス危機ではアメリカが世界の指導力を失う中、社会主義経済の高い回復力を示した。彼らはまた、そのことが彼らの政治システムが優れていることの証明と考える。

総書記になって以来、習近平は共産党にイデオロギー闘争への準備を要求してきた。ソ連の実験が失敗してから、中国指導部は共産主義イデオロギーを輸出することはやめたが、政治システムとしての民主主義を損なうことで、中国共産党がその選択肢にした。

中国は静かに、資本主義の根元を破壊する。河川が堤防を侵食するように。


 US財務省の将来

FP DECEMBER 18, 2020

Trump Leaves Biden Administration a Parting Gift in Currency Wars

BY JOSEPH W. SULLIVAN

今週、アメリカ財務省がベトナムとスイスを通貨操作国と指定したことは、かつてないことであり、関係者の警戒感を高めた。これまで、トランプ政権が指定したのは中国だけだったからだ。しかも、すぐに指定をやめた。

2015年、トランプは大統領就任の初日に、中国を通貨操作国に指定した。アメリカに対する防疫黒字を減らすことが目的であり、その手段の1つであった。

財務省は3つの基準によりベトナムとスイスを通貨操作国と指定した。1)アメリカに対する巨額の貿易黒字、2)巨額の経常収支黒字、3)通貨価値を人工的に低く抑えるための外国為替市場への介入。

通貨操作国に対する攻撃を意図した制度を設けているアメリカが、これらの基準を満たす国を無視するなら、制度を破棄することになるだろう。特に、第3の基準を満たすのはベトナムとスイスだけである。

しかし、ベトナムの対米黒字は、アメリカが中国に対して関税を引き上げたことが原因となっている。また、スイスの場合は、パンデミックによって生じた不安と混乱に、投資家たちが安全な資産であるスイスの通貨・資産を買った。スイス・フランの増加を放置すればデフレの悪循環を強める恐れがある。

財務省はこうした事情に同情的であり、しかも、アメリカ自身が赤字を減らすドル安を歓迎するかもしれない。それは他国から同様の批判を招くだろう。通貨操作国に対する批判と、それに代わる政策や構造改革の要求は、それらが政府にとって容易に実行できるわけではないことを知っている。

しかし、イエレン次期財務長官は、財務省の「高度な2国間関与」体制を温存するのが望ましい選択だろう。財務省の基準はオバマ政権から継承されたものだ。


 2021年の予想

FT December 19, 2020

Talk of a global economic reset must not ignore grim realities

Adam Tooze

V字回復を期待する? しかし、それはワクチンのVだ。早期の回復は望めない。

たった1つの改善だけで大きく期待するのは間違いだ。大量接種をしても、パンデミック以前の問題は解決しない。

イギリスではブレグジットとロックダウンが重なった。世界の貧しい人々には飢餓が広がる。政府債務の規模は戦争以来の水準だ。

急速な成長が債務を解消してくれるとは思えない。インフレも起きない。日本のように、ヨーロッパにもデフレが迫っている。他方で、インフレがなければ、金融・財政政策に新しい地湧が与えられる。

ケインズが第2次世界大戦後の福祉国家に道を開いたように、財政緊縮策を説く旧式の経済学を押し戻すには政治が必要だ。人工通貨の発行者は政府自身である。遊休資金は銀行の預金に集まり、支出に向かう兆候がない。

この不安定な均衡状態で、パンデミックから抜け出す多くの政府投資が必要だ。破滅的な緊縮策ではなく、困窮する人々を救済し、グリーン・エコノミーに移行するべきだ。


 アラブの春を回顧する

The Guardian, Mon 21 Dec 2020

The Arab spring wasn't in vain. Next time will be different

Nesrine Malik

チュニジアで、当時、数週間続く抗議活動をあなたが見ていたら、この蜂起は何か違うと感じただろう。アラブ世界の各世帯に共鳴するものがあった。道義的な憤慨の強さと、新しい、興奮をもたらすや駆動力を、抗議が示していた。

今、人びとはアラブの春とよぶが、そういう展開を私は決して想像できなかった。平和的な抗議活動がアラブの独裁者を1人倒した。それはかつてなかったものだ。誰にも、それがなんであるか、わからなかった。

10年経って、「アラブの春」は、自由化の破れた夢と同じ意味になっている。その初期の歓喜と楽観主義が満たした数か月を、思い出すことは苦痛だ。生涯で初めて、われわれアラブ人は権力を握ったと感じた。

多くの勇敢な行動があった。抗議に参加する前、友人に電話して、両親の電話番号を残した。再び帰れないかもしれないからだ。あなたが犠牲者の家族をなぐさめると、彼らの両親は嘆かず、臆していないことを知っただろう。彼らの子どもたちの死は、決して無益なことではない、と確信していたからだ。

それでも、今、アラブ世界を見渡せば、革命はどこにもない。まるで何も起きなかったようだ。リビアやシリアのように、カオスと内戦に突入するか、エジプトのように、以前にもまして暗く、抑圧的な独裁体制がある。

生き延びた者は語りたがらず、語るとしても、困惑し、若者のナイーブさや無思慮を軽蔑する。タハリール広場の革命以後、女性運動を指導するHafsa Halawaは、自分を責めている、と語った。自分たちが直面している課題の大きさを過小評価していた、と。「われわれは挫折した。それは、抗議運動から政治的動物になるよう求める、激しい圧力を受けたからだ。」

問題は、革命の成功に必要な勢力を欠いていたことだ。独裁体制は、民主主義を根絶やしにした。専制体制の数十年が大地に塩をまいたのだ。反対政党は存在せず、カリスマ的指導者はおらず、政治的論争の領域はなかった。メディアの生命圏、知識人たちのスペースが存在しなかった。

それは有機的な、人びとがパワーを吹き込んだ運動であった。指導者もイデオロギーもない。アラブの春があれほどショッキングな歴史的勢力となった、まさにその事実が、革命そのものを食い尽くした。権力の真空状態に革命が呑み込まれたのだ。

エジプトの冷酷な警察国家は、いかに小さな違反も許さない。しかし、軍も秘密警察も、決して革命の前には戻れない。たとえ10年前よりも事態が悪化しているとしても、優位は人民の側にある。革命は起きうる。それは起きたのだから。それがどのようなものか、われわれは知っている。次の革命では応じるだろう。


 ポピュリズムと民主主義再考

FP DECEMBER 21, 2020

How to (Finally) Defeat Populism

BY JOHN AUSTIN, JEFFREY ANDERSON, BRIAN HANSON

2020年のアメリカ大統領選挙で、ジョー・バイデンは中西部に「青い壁」を再建できたことが分かった。それは白人労働者階級が2016年にドナルド・トランプを支持した地帯だ。

しかし、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンでバイデンが僅差で勝ったのは、都市部の反トランプ、特に、黒人がかつてない高い投票率を示したからだ。困窮する製造業コミュニティで白人労働者階級はトランプ主義をむしろ強めた。彼らのコミュニティが荒廃していくことに憤慨し、自分たちの経済的な見通しに不安を強め、これから起きる社会変化に不快さを感じる有権者たちが、トランプのノスタルジー、ナショナリズム、ネイティビズムに魅せられた。

世界中のラストベルト(赤さび地帯)に似た地域で、ポピュリズムが充満している。ナショナリズムや排外主義の政治運動は西側民主主義の権力構造に近づけない、と長く前提されていた。しかし、2016年、ブレグジット推進派が勝利したことですべてが変わった。US大統領選挙におけるトランプの勝利は、それをさらに超える衝撃となった。

ドイツのAfD、フランスのナショナル・ラリー(元ナショナル・フロント)とマリーヌ・ル・ペン、イタリアのリーグ(元北部同盟)と5つ星運動。2020年のアメリカ大統領選挙では、さらに分断が明白になった。バイデン支持者は教育や生活が良好な、活気ある地域の人々だ。他方、トランプ支持者が住むのは地方の内陸部、中西部の衰退する工業地帯であった。

「オールド・エコノミー」のコミュニティが新しい経済機会を見出した場合、その住民の態度も変化することは研究が示している。コミュニティが将来を楽観できるなら、思慮に富む、寛容な、前向きの心理が促される。こうした地域の変化は偶然に起きるのではない。政府や民間の指導者たちが経済を変えようとする意図的な行動の産物である。

すでにUS・ヨーロッパの紐帯が復活する兆しがある。ポピュリズムに代わるものを見出す統合的な作業を進めるべきだ。それは従来の貿易と安全保障に限らない。西側の諸政府はCOVID-19危機に直面して重要なサプライチェーンを再考し始めている。「同盟内産業配置」アプローチを取るべきだ。民主主義的な価値と戦略的利益を共有する諸国が経済的パートナーシップを組む。

同盟諸国内で産業を再配置することが、特に、医療や食糧、通信機器に関してラストベルトの製造業を復活させることにつながる。それは戦後の復興を組織したマーシャル・プランの精神だ。

FT December 23, 2020

The fading light of liberal democracy

Martin Wolf

民主主義は衰退している。それを経済と結びつけて考えるのは当然だ。

Branko Milanovicによれば、資本主義経済は目覚ましい成功を収めたが、その政治システムは2つある。USの「リベラル」モデルと、中国の「政治」モデルだ。しかし、それは過度の単純化である。第3に、デマゴギー的な権威主義型資本主義モデルがある。

それは共産主義の崩壊したロシア、脆弱な民主主義体制であったブラジルやトルコで生まれた。中国の官僚支配型権威主義体制に似ているが、権力は個人的なもので、制度化されていない。腐敗したギャング政治、支配者に忠誠を誓う追随者や仲間、そして、支配者の家族が権力を握る。トランプがアメリカに樹立することを願ったのはこれである。

アメリカが示した重要なことは、第1に、裁判所を含めて、アメリカの諸制度は選挙結果を翻す試みを退けた。第2に、共和党の多数が選挙結果は操作されたという嘘を否定した。ただし、この4年間、共和党指導部はその指導者に、最後の瞬間まで、完全に服従し続けたのだ。

これは偶然ではない。政治経済におよぶ「プルート=ポピュリスト」戦略の必然的結果である。トランプは、共和党の政治資金提供者たちが求めた戦略目標、減税と規制緩和、が生みだした。彼らは文化やアイデンティティに焦点をあてることで、有権者たちに、その経済的利益に反する投票をするよう信じさせる必要があった。この戦略は成功した。そして、今後も続くだろう。資金提供者たちは、彼らが創り出したデマゴギーを広める悪魔たちを操縦できると、間違って、信じている。

支配的なシステムのいずれも機能しない。資本主義は革新的だが、社会、政治、環境における深刻な問題を抱えている。リベラルな民主主義は、その芯まで腐食が進んでいる。権威主義型の政治モデルはさらにひどいものだ。

トランプは敬称であったが、富裕層がそれから学んだとは思えない。


 トランプの脅威とは

NYT Dec. 22, 2020

Will Trump Force Principled Conservatives to Start Their Own Party? I Hope So

By Thomas L. Friedman

ドナルド・トランプがホワイトハウスを出るとき、共和党がトランプの支配を逃れることは可能か?

私は予言したい。もしトランプがジョー・バイデンの大統領就任を承認しないなら、そして彼の極端な行動に忠誠を求めるなら、共和党は完全に分裂するだろう。共和党の原則に従う者と、無原則にトランプを支持する者だ。トランプは、アメリカの最大の願いを実現してくれる。原則に従う新しい共和党の誕生だ。

もしサンタが私の声を聴いているなら、私にクリスマスのプレゼントをください。

想像してほしい。バイデンの中道左派民主党と、原則に従う中道右派の共和党が、インフラ投資、移民、オバマケア、気候変動に関する協議を始める。いかなる前進も阻むトランプはいない。

ありえない願望だ。そう思うのだろうか? 私が中東地域の記者として学んだことの1つは、過激派に関して唯一だけ確かなことがある。それは、彼らが止まるということを知らない、という点だ。最後に、彼らは崖を飛び降りる。人びとを道連れにして。

ドナルド・トランプは政治的過激派だ。警告のラインを無視する。しかし、毎日、彼のすることを見れば、そのパワーが失われているとわかる。彼の周りには、ますます原則を無視した共和党議員だけが集まる。彼らはトランプの妄想を好み、マイケル・フリンのように、トランプが敗北した州で戒厳令を発するようなネオファシストの提案をする。

それゆえ緊張状態は限界を超えるだろう。トランプがホワイトハウスを出てからも、それは確実に悪化し続ける。彼の支持基盤を維持するような極端なことを話す必要があるからだ。今や完全に陰謀論と混じり合っている。トランプから離れる、原則に従う共和党員たちへの攻撃も激しくなる。

過激派を止めることはできない。原則に従う共和党員である元CIA職員で、下院の共和党政策責任者であったEvan McMullinは述べた。・・・われわれは党の外に知的、政治的な拠り所を築かねばならない。他のアメリカ人とともにトランプの遺産を破棄する。

トランプがマーラ・ラーゴの王様となって毒を吐き続けるなら、そのときこそ共和党は「もう十分だ」と言うだろう。


 MMTを恐れるな

PS Dec 23, 2020

Who’s Afraid of MMT?

JAMES K. GALBRAITH

経済学は、専門用語の羅列ではなく、平易な言葉で主張できる。ケインズ的な伝統に立つMMTを、中央銀行家たちは罵倒した。例えば最近では、元インド準備銀行総裁Raghuram G. Rajanラジャンと元イングランド銀行総裁Mervyn Kingキングである。

キングはMMTを低コストで「紙幣を印刷する」ための理論だ、と軽蔑した。それは昔から試されたことだ、と。その結果は、ローマの皇帝たち、ヘンリー8世、ワイマール共和国、そして、現代のジンバブエとベネズエラに至る。

しかし、2020年の春になって、さらに例が加わった。COVID-19の経済崩壊に直面して、アメリカは22000億ドルを新規発行して国民にばら撒いた。人びとがもっと支出することで、生産と雇用の水準を高めるためだ。キングがこれを知ったらなんと言うのか?

キングとラジャンは、MMTがモダンではなく、新しいものではない、と非難した。しかしMMTの「Modern現代」とは、ケインズが『貨幣論』(1930)に書いたことに、正確に従うものだ。すなわち、国民国家は、法に従って貨幣を定義する特権を有する。

キングやラジャンとは対照的に、MMTは政策論ではなく、ケインズの貨幣論の系譜に属する理論である。「現代の」政府と中央銀行は、互いに対照的なバランス・シートを通じて機能する。ケルトンは、これ以上にない平易な英語で書いている。政府の赤字は、民間部門の黒字である。

発展した主権国家において、経済政策の適切な目標は、完全雇用の実現である。中央銀行家たちは恐れるけれど、MMTは、良い経済学が人気のある、平易な、民主的学問であることの好例だ。

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The Economist December 5th 2020

Belarus: The colours of terror

Health care: Alive and kicking

The Taiwanese economy: Tiger balm

Inequality in India: Compounding

Housing in Hong Kong: Phew, no democrats

Burundi and Tanzania

Belarus: A new country struggles to be born

The National Health Service: Unleashed

The modern household: Nuclear retreat

Ping An: Metamorphosis

(コメント) 国民に対して、あからさまに暴力を振るう政権が生き延びることは、今も世界中にあるようです。市場を介して、極端に富が集中し、貧困層が増え、技術革新が普及する過程が著しい不平等を強いることも。

広大な領土を統治するために政府が強化されても、中国やインドは、民主主義や貧困の問題を解決するために、ベラルーシやブルンジとよく似た表情を各地で再現しています。

独裁と民主主義は、今も、闘い続けています。もし2020年の終わりに魔法を破る呪文をマーヤが知ったら、2つ、彼女にお願いしたいです。・・・パンデミックと、米中対立を消してやる!

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IPEの想像力 12/28/20

年賀状を書いているとき、気の利いた俳句を使おうとして、奇妙なことに気付きました。雀の俳句がいくつもある。しかし、最近、雀の声を聴かないな。・・・そう思ったのです。

なぜだろう?

子どものころはスズメをよく見ました。歳を取って、自分が難聴になったからか。雀が餌をさがすような田んぼや畑がなくなったのかもしれない。あるいは、・・・何か、もっと違う理由で、雀は消えたのか。

まるで何かが吸い取って、消し去ったみたいに。これは「沈黙の春」かもしれない。農薬か、大気汚染、気候変動、新しい化学物質の影響、放射能・・・ と思いました。恐ろしい気がします。

町に増えるのは、大きなカラスばかりだ。・・・カラスとか猫に、喰われたのか?

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金融ビジネスと医療サービスにおいて、インターネットを介したリモート、デジタル化、ビッグデータ、AIが発達することが予想されます。

コロナウイルスに感染する恐れから、さまざまな病に罹っても、私たちは病院に行くことができません。医師や看護師も過重労働に倒れてしまうほどの緊迫した状態が続きます。

ワクチンの製造が遺伝子組み換えによって加速した、と聞きます。遺伝子解析の技術が向上し、さらに、その遺伝子情報を世界中の研究者に公開している、というのは画期的だと思いました。変異種が次々に現れても、その感染力や致死率、治療法、後遺症について、人類が協力して研究し、立ち向かうことに、パンデミックの終息を期待します。

しかし、それだけではない、もっと私たちの生活を変える社会の変化が起きている、と知りました。

私たちは病気になっても、病院に行かず、リモートで診察を受け、薬を届けてもらえる。診察は画像や体温など、基礎的な情報だけでなく、より高度なデータの計測がスマホで可能になるでしょう。

さらに、そのようなデータと診断、投薬と治療後の評価がデータとして蓄積され、病気の予防や薬の開発、治療の改善を加速します。医師や薬剤師の役割は大きく転換し、スマホの利用を補助する簡易な役割や、高度なハイテク技術者、遺伝子レベルの解析、病気や生活圏を再編する社会学者などに吸収されていきます。

医療や金融ビジネスが政治的なネットワークを支配していないからか、中国の革新と変貌は圧倒的だ、という記事(”Ping An: Metamorphosis,” The Economist December 5th 2020)を驚きながら読みます。

・・・この会社はPeter Maによって設立された。深圳の国営企業の小さな部門で、企業のボスたちに労働者への補償金を支払う保険を売っていた。1988年に、分離独立する。2000年の最初の10年で、生命・不動産保険業における中国最大企業の1つになった。香港上海銀行HSBCから投資を受ける。現在、その市場評価額は15000億元(2360億ドル)である。今では、HSBCの最大の投資家の1つである。

Ping Anの強さは、第1に、ソーシャルメディアのユーザーとして利用者を集めるプラットフォーム型の展開方法。豊富なアプリを登録者に無料で提供する。第2に、利用者に豊富な金融サービス商品を提供するとともに、銀行などの金融商品を仲介販売する。第3に、圧倒的なハイテク商品の開発能力。11万人を超える開発チームを持つ。

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パンデミックの中で、ロックダウンやソーシャル・ディスタンスを求められて、都市のアメニティだけでなく、個人主義や、夫婦だけの世帯が、大きな転換期に入ったのかもしれません。

都市での密集した生活から、多くのサービスや雇用が「規模の経済」やネットワークによって生じました。人びとはますます個人主義的な幸福を追求できたし、婚姻や性別の束縛から解放され、子育てに関する核家族だけが残って、個人の消費を最大限に楽しむことが奨励されました。

しかし、密集による感染を恐れ、田舎の親の家に避難した人たちは、家族と暮らす楽しみやリモート就業になれ、大都市の時間と空間を切り詰めた生活に戻らないかもしれません。

多くの雀が死んだ次は、医院や薬局が消滅し、銀行、保険会社、証券会社もスマホのアプリに変換され、西洋の個人主義、核家族、メガロポリス、・・・あるいは、香港、台湾、日本人が消滅する。

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