IPEの果樹園2020
今週のReview
12/21-26
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独占禁止規制と不労所得体制 ・・・インドの農民デモ ・・・魔術的ブレグジット ・・・バイデン政権の誕生 ・・・中国の一帯一路 ・・・「権力」への強い信念 ・・・2021年市場予想 ・・・パンデミックの政策ミックス ・・・欧州理事会の決断 ・・・2025年の仕事場 ・・・効率性の経済学とその死
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 独占禁止規制と不労所得体制
FT December 11, 2020
Big Tech faces its Standard Oil moment
アメリカの独占禁止規制がスタンダードオイルを分割したのは100年以上前だ。アメリカの石油精製を90%も支配する産業帝国になっていた。今、アメリカの規制当局はハイテク大企業がそうなったと観ている。彼らが支配する市場は、石油ではなく、現代経済の血液である、データだ。連邦取引委員会FTCと48人の司法長官がFacebookを訴えた。
その主要な内容は、Facebookが自社にとって脅威となるWhatsAppとInstagramを買収したことだ。この訴訟は難しい。2012年と2014年に、FTCはこれらの買収を承認した。また、買収を拒むことが競争を促し、消費者の利益になることを論証しなければならない。
FacebookやGoogleのようなハイテクのプラットフォームが強めるパワーを制限するように規制当局が行動するのは正しい。彼らの影響力は、仕事や生活がデジタル化する中で、ますます強まるばかりだ。Amazonと合わせて、これら3社は世界のオンライン広告の70%以上を支配する。技術革新を阻み、信仰の競争企業を買収する、そういう懸念から規制当局が支配的企業のパワーに注目するのは当然だ。
アメリカより先に、EUやUKもプラットフォームについて新しいルールを導入する予定だ。欧州委員会は来週、利用者が4500万人以上の「超巨大プラットフォーム」を対象に規制強化する。これによりFacebookなどは、サイトの掲載内容が法に違反しないかチェックする責任が要求され、非合法な内容を修正していることを当局とデータ共有することになる。
訴訟は何年もかかるだろうが、彼らの行動を抑止する。これは、デジタル経済の本質に影響するものだ。彼らのサービスはほとんどが無料であり、消費者は価格上昇を知らず、大企業の提供するサービスに依存し、感謝している。プラットフォームは、自分たちの革新や成功が罰せられている、と主張する。
新しい規制が目標とするのは、次世代の競争企業が育つことである。
The Guardian, Sun 13 Dec 2020
As Airbnb's shares go through the roof, we need to challenge the Big Tech monopoly
Will Hutton
労働者たちが、その苦しみについて外国人や移民、EUを責めて、ボリス・ジョンソンやドナルド・トランプの広める救済幻想に向けて祈るのを許すより、政治家たちは彼らの悲嘆の本当の源泉を特定し、是正するべきではなかったか? だからあのようないびつな政治家たちが支持を集めたのだ。
アメリカとイギリスは、特に、組織された略奪の経済システムを創り出した。その結果は、低所得で不安定な職場の広がりだ。この30年間、われわれは “rentier” 地主・不労所得(金利生活者)資本主義の興隆を目撃してきた。それは、新技術によって不当に大きな利潤を得る、保有し、所有することが、リスクを創り、リスクを取るうえで、莫大な特権をもたらす資本主義だ。国民所得に占める利潤のシェアは増大し、賃金のシェアは減少し、仕事はますます短期の契約によって組織されるようになった。作ることや革新することの動機は失われ、生産性上昇率が低下してきた。
先週、変化への最初の兆候が示された。旧秩序への声援として、Airbnbの株式が公開された初日に倍増した。小規模な家主が部屋を提供するプラットフォームである。その前日には、連邦取引委員会がFacebookを訴えた。InstagramとWhatsAppのような競争相手の企業を買収したことを問題視した。
それはまた、人びとに深く浸透している、多様な通信ビジネスについて、何十億もの個人データを利用して、その利潤を膨張させ、レント(地代・不労所得)に転化している。それは西側メディアのビジネスモデルを破壊し、多くの職場だけでなく、民主主義にも深刻な破壊的影響を及ぼしている。解き放たれた不労所得体制の成立だ。
19世紀には、こうした不労所得資本主義がはっきりと認識されていた。他者の生活から奪い取って、中産階級の株主や家主・地主に与える経済システムである。J.M.ケインズは「金利生活者の安楽死」を提唱した。彼は、もし国家が完全雇用を保証できれば、不労所得階級の資本が経済条件を決定するパワーは大幅に失われる、と考えたのだ。
しかし、彼が正しいように見えた戦後の時期を過ぎて、リバタリアンの経済学が、右翼の政治家、利己的な企業によって支持された。彼らは資本主義が、いかなる規制も介入もないとき、最も効果的に働く、と主張した。旧い思想が再現された。競争、生産、革新ではなく、独占的な地位による資産を活用することだ。それが今や、デジタル・プラットフォームによって強化された。
イギリスはヨーロッパでもっともプラットフォームが多い国である。不労所得資本主義はますます猛威を振るっている。数少ない、自動車産業のような、製造業は外国からの投資であった。しかし、イギリス国内向けの投資は、2016年以降、減った。EU市場へのアクセスがなくなれば、将来はもっと減るだろう。かつて保守党の強みであったビジネスとの親密な関係は、今や、不労所得資本家との関係になった。
ブレグジットがわれわれの集団的な未来を質に入れた。世界の他の場所と同様、われわれも新旧の略奪者たちの餌食となって、その災厄に目覚める。
● インドの農民デモ
PS Dec 11, 2020
Farmers vs. the Indian State
JAYATI GHOSH
インドの首都が200万人以上の農民に占領された。抗議活動は2週間前に始まった。デリーの冬はひどく寒い。彼らは道路を占拠している。コロナウイルスを恐れず、数か月漕ぎが続くことに備えて食糧を持参した。
政府は、憲法で保障された重大な関係者である農民に相談することもなく、3つの法律を急いで整備した。それが直接のきっかけである。政府は、エコシステム、選択の自由、効率、透明性、自由化の有利さを説く。
農民たちはそれを全く信じていない。インド農業が略奪的な企業による商品化によって破壊される、と恐れている。小規模の、限界的な農民が最もひどい影響を受ける。
2014年、ナレンドラ・モディは、農民に支持されて首相になった。農民たちの所得を倍増させると約束したのだ。しかし、その約束は守れず、農産物価格は上がらなかった。インド経済の需要が落ち込んで、農産物価格が下がっている。政府は十分な財政刺激策を取らない。
農民たちは、欠陥はあるが、公的な食糧買取制度を支持している。市場の猛威から彼らを守る最後の砦である。エコシステムや土壌の肥沃さにも関心が強い。しかし、政府は化学肥料に頼り、河川を汚した。気候変動も土壌を脅かす。
農民たちの抗議活動を、政府は無視した。誤解であり、野党に騙されている、と主張した。その後、シークの農民を「反ナショナリスト」、「テロリスト」と非難した。平和的な抗議活動を野蛮な方法で弾圧した。主流のメディアやSNSは毛民たちを侮辱し、その要求をバカにした。
政府は農民たちが次第に消えると思っている。特に、この寒さの中では。
しかし、それは自己満足でしかない。インドの労働者の半分、人口の3分の2は農業に従事している。農民たちの決意は固く、人びとは彼らを支持している。
● パンデミックで債務不履行
PS Dec 11, 2020
The Debt Dogs that Didn’t Bark
BARRY EICHENGREEN
3月にCOVID-19が広まったとき、新興市場、発展途上諸国が最も厳しい影響を受ける、と恐れられた。経済的には、パンデミックが商品輸出、移民送金、観光業を大きく減らした。金融危機、債務のデフォルトの大波が起きると思われた。
しかし、大波は来なかった。シャーロック・ホームズの吠えなかった犬のように、この沈黙の意味は何か。特に、アフリカでは、若年層が多いたこと、過去の感染症に対応した医療システムを人々が信頼したこと、中国の回復が商品需要を高めたこと。
金融では、驚くほど安定的な状態である。アメリカの10年国債利回りが1%以下で、ドルの減価が予想される。金融危機の古典的兆候を示すタイでも、政府が1.35%で債券を発行できた。
ワクチンが普及し、アメリカ連銀が超低金利を続けることで、2021年の世界経済の成長は回復するかもしれない。しかし、輸出が伸びない、移民からの送金が減った諸国は債務を支払えなくなるだろう。IIFによれば、2021年に満期となる債務は7兆ドルに近い。
G20は低所得の73か国に対してDebt Service Suspension Initiative (DSSI)を合意した。政府債券の返済を1年半延期できる仕組みだ。2国間では最大の債権国である中国も参加した。
しかし、DSSIは不十分だ。利払いの延期や免除はわずかである。対象国は格付け機関を恐れている。特に、民間債権者がこうした諸国を避ける。
G20諸国は、返済猶予した資金を民間債権者への支払に充てないよう、その意図を明確にした。しかし、民間債権者側は全く譲歩していない。歴史的に、民間債務が組換や免除を行うのは、すべてを失うより半分でも得られるほうが良いと、債権者たちが確信したときだけだ。
何ができるのか? 国連安保理は、サダム・フセインが失脚したとき、イラクの資産を守った。同様に、低所得国の資産を民間債権者から守れないか。2003年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、イラクに関する大統領令を裁判所に発令した。バイデン大統領もできないか。
多くの難問を抱える政府が、機関投資家と対決するだけの政治資本を残しているか、疑わしい。
PS Dec 17, 2020
Hamilton Beats MMT
TODD G. BUCHHOLZ
ミュージカルで人気を得ているが、アレクサンダー・ハミルトンは愚か者だったのか? MMTはそう考えるようだ。国債を返済するなんて。破棄するべきだ、と。
そんなはずはないが、MMTは現実に実行されているように見える。超低金利で、紙幣を印刷し続ける。それでいいのだ。インフレになったら、やめればよい。
COVID-19の対策や、将来の医療・社会保障に関して、債務が増えることが予想されている。「自分たちの貨幣であり、債務なのだから」と言うが、そうだろうか。アメリカの債務は3分の1が外国人に対するものだ。1兆1000億ドルの債券は中国が保有する。
「われわれ」とは誰のことか。インフレや債務不履行で損失を強いられるのは、支出によって利益を得た者ではないだろう。
古代ギリシャでも債務危機はあった。紀元前4世紀、デロス神殿の建設にともなう債務だ。1793年には、ルイ16世が債権者をなだめたが斬首刑にされた。1920年代のワイマール共和国はハイパーインフレーションに陥った。チリ、ペルー、ジンバブエ、アルゼンチン、ベネズエラ。
それは「先進経済」ではないからか。1970年代、UKは「ヨーロッパの病人」だった。爆発するインフレと通貨価値の下落に苦しんだ。1976年、労働党のキャラハン首相は、IMFに救済融資を頼んだ。
MMTはこうした例を挙げても気にしない。日本を見ろ、という。しかし、日本人はMMTを信じないし、実行しているつもりもない。日本は、第1に、債務の90%を自国内で持つ。第2に、消費税を引き上げ、高齢者への給付を抑制した。MMTの主張とは違う点だ。
日本をまねたい国はない。20年間、経済停滞を経験した国だ。1%に達しない成長率。GDPに対する民間投資の割合は減った。優秀な企業も育たない。
MMTの幻想より、ハミルトンの賢明さを子どもたちは歌う。
● 魔術的ブレグジット
The Guardian, Sun 13 Dec 2020
This Brexit disaster has been brewing in the Conservative party for 30 years
John Harris
イギリスの政治は、サッチャーが示した革命を、保守党の右派が継承した形で、ブレグジットとその後の革命を煽動した。自分たちがイギリスに負わせる災難を理解しないまま、破壊的な選択肢を推進する。
混乱をもたらす愚かさと傲慢は、保守党とそのチアリーダーであるメディアが、交渉決裂をEUの復讐と非難する姿勢につながる。しかし、ブレグジットの歴史を理解するには、40年間の保守党の変身を見なければならない。保守党は、注意深く、リスクを避ける政党から、不安定な政治性慮億に変わった。
1988年にブルージュでマーガレット・サッチャーが行った演説は、「ヨーロッパ複合権力体制の中枢」に権力を集中することを警告し、現代の保守党内欧州懐疑派を出現させた。
サッチャーは、その自由市場思想と熱狂的ナショナリズムによって保守党を転換した。彼女にとってこの2つは矛盾しなかった。「われわれは『保守的な』政党ではない。革新と自由、この国を新しい方向に導き、国家の威信を高め、新しい意味の指導力を発揮する、・・・そういう政党は保守的ではない。」
右派強硬派は2つのまったく異なるイデオロギーに立脚する。ブレグジット強硬派は、経済リベラリズムとナショナリズムというまったく異なる方向を同時に信奉した。それは「ハイパー」とか「ウルトラ」という言葉によって右派の中道派、リベラルな幹部を破壊するためだ。
彼らは破壊に執着したが、何も創り出さない。複雑な現実に直面して、革命はなす術を知らない。何も失うことがない、というブレグジットを支持した人々は、多くの失業や賃金切り下げに直面するだろう。しかし、政治家たちはそれを言わない。「愛国心」には高い代償が支払われる。
● 中国の一帯一路
FT December 12, 2020
China pulls back from the world: rethinking Xi’s ‘project of the century’
James Kynge in Hong Kong and Jonathan Wheatley in London
「一帯一路」イニシアティブが始まって、まだそれほど経たないが、急激に融資額が減少した。習近平は北京で130か国におよぶインフラ建設とそのための1兆ドルの融資を約束した。それは第2次世界大戦後の欧州復興のためにアメリカが提供した額の8倍だ。
しかし、中国による対外融資の、最初の債務危機になろうとしている。これは「台頭する大国としての学習過程である。」
歴史的に、インフラ投資ブームの多くは破裂した。中国がそれを回避するには、債務を組み替える再交渉を柔軟に行う能力による。政治的な融資を支持することは、ベネズエラがその例だが、決して成功しない。しかも、危機は双方向に作用し、中国の金融システムに戻ってくる。
● 「権力」への強い信念
PS Dec 14, 2020
Trump’s Right-Wing Rainbow Coalition
YASHENG HUANG
大統領としてトランプは、人種差別、性差別、同性愛者攻撃、外国人攻撃、イスラム教徒攻撃の主張を繰り返した。しかも、それを政策として実行した。それにもかかわらず7400万人のアメリカ人は彼に投票したのだ。
トランプは彼自身の「虹の同盟」を結成したのだ。それはバイデン次期大統領の「虹の同盟」よりも、盲目で、忠誠心が高い。そこにおいては、マイノリティーのトランプ支持者と白人至上主義者が協力している。
米中貿易戦争は農産物の輸出を妨げ、アメリカの地方経済に打撃を与えた。しかし、地方の農業州でトランプの支持率は高い。中国からの移民の第1世代には熱烈な支持者がいる。
ここに観られるのは「権力」への強い信念だ。それは倫理観や宗教、性的アイデンティティーよりも強い。有権者たちは権力を信奉し、強力な指導者を待望する。彼らの選んだ指導者がすることなら何でも支持する。ある点では権力によって支配されている白人の女性が、人種差別的に黒人を支配し、移民攻撃では移民たちを支配することを喜ぶ。
それは右派的な権威主義である。個人的な特性と「権威主義的な個性」とがマッチする。
● 2021年市場予想
PS Dec 14, 2020
Bull or Bear in 2021?
JIM O'NEILL
2021年の株式市場を予想する。
強気を支持する点は、金融・財政政策による支持が続くこと。特に、アメリカではジョー・バイデンが就任し、拡大策が追加される。国際協調によるポスト・パンデミックの回復に向けて、「必要なことは何でもやる」。医療サービス、気候変動対策の緊急性が高まった。ワクチン開発と接種の実施が進む。
弱気を支持する点は、特に、アメリカの株価は安くない。3つの力が調整を促す。1.ハイテクや「ステイ・ホーム」の株から通常の株へ変化する。2.規制当局。3.インフレ再登場の兆し。
潜在的な脅威。軍事衝突。ワクチン接種体制の失敗。ドル価値の下落。しかし、ドル安は商品市場を上昇させ、新興市場にはプラス。
全体として、私は強気だ。
FT December 16, 2020
Why it is foolish to bet on a dollar crash
Barry Eichengreen
ドルは3月半ばから約10%下落した。2021年に、さらに20%の下落を予測する者もいる。
それは4つの議論から成る。1.安全資産として、不確実さの高めるときに資金が集まる。しかし、ワクチン接種が始まった。しかし、これは市場が織り込み済みだ。
2.アメリカ連銀による金融緩和が続く。他の中央銀行は行っていない。しかし、ECBはユーロ高を抑える措置を検討している。
3.アメリカの双子の赤字が強まる。資金流入を促すためにドル安が必要だ。これは金融危機前にも言われたが、間違いだった。政府の赤字は増えるが、民間の貯蓄が増える。ロックダウン、不安から保守的な貯蓄に傾く。大型投資の計画も、パンデミックの終息まで延期される。
4.アメリカのヘゲモニーが終わり、地政学的な不安が増す。しかし、バイデンはそれを回復するだろうし、中国はそれを確立する準備がない。香港が示すように、人民元が外国の投資家を引き寄せることはないだろう。
ドル安が続くという予想はばかげている。
● パンデミックの政策ミックス
VOX 15 December 2020
Stronger together? The policy mix strikes back
Elga Bartsch, Agnès Bénassy-Quéré, Giancarlo Corsetti, Xavier Debrun
公的部門と民間部門における高水準の債務、最低レベルの金利水準。これらがマクロ経済や金融の不安定性、COVID-19のパンデミックが示す正常から外れる危機に対して、経済を脆弱にしている。
不確実さと不安から家計の警戒心による高い貯蓄率は、企業による投資の減退とともに、経済成長を減速させ、均衡利子率をゼロもしくはマネスに低下させる。
通常の金融政策や財政政策だけでは、経済の大幅な縮小から人びとを守れない。金融政策と財政政策が協力に一致した行動を取らねばならない。21世紀のマクロ経済政策をどのように考えるべきか?
それには3つの源泉がある。1) 政策ミックスの読み直し。2) 過去30年間の先進経済に関する実証。3) 過去の巨大危機のエピソード。
政策ミックスについて古典から学ぶべきだ。ティンバーゲンによれば、多くの政策目標に対して、独立した多くの政策手段が必要である。相互の作用についても知る必要がある。マンデルによれば、効果的な政策の割り当てが重要だ。トービンによれば、政策ミックスとして総需要を決める。異なる組み合わせが、長期的に、成長、対外均衡、財政の持続性に意味を持つ。
さらに、新古典派革命によれば、政策の要素が信用されなければ政策ミックスは効果的に作用しないから、制度化するべきだ。
1986-2019年の先進経済に関する実証によれば、金融政策と財政政策が景気の平準化に成功したケースはあまりない。しばしば逆方向を向いていた。特に、政治的要因が働く財政政策が、債務の制約があるとき、そうだった。
危機においては、金融政策と財政政策の当局が正しく内部化され、互いの政策スペースにおける効果を監視するときだけ、政策ミックスが成功した。金融政策が財政政策にスペースを与えるには、1)借り入れコスト抑える、2)政府債務に補償を与える、という2つが重要だ。
財政当局は、中央銀行が金融政策の結果として保有する資産に大きな損失を生じ、資本を減らし、あるいは、不足した場合に、これを保護することが重要だ。それが非伝統的な手段を取る中央銀行の独立性と信用を高めることになる。
金融政策と財政政策の補完関係は、一時的なものであって、恒久化できない。インフレ期待の管理や財政の持続可能性に関して、問題を生じる。この一時的な体制からの離脱は、長期の困難な過程であるだろう。市場がそれを疑うなら、困難な事態が生じる。
COVID-19によるパンデミックは、金融政策と財政政策が補完的に、しかも国際協調として行動するチャンスであり、そうすることで、均衡利子率の低下にも対抗することになるだろう。同様に、気候変動など、投資に対するグローバルな不確実さを取り除くことは、均衡利子率を高める。
金融政策と財政政策の補完が正しく行われ、赤字の貨幣化ではなく、構造改革や生産的投資を促して、将来の財政黒字で回復することが重要だ。
● 欧州理事会の決断
FT December 16, 2020
Latest EU summit has the potential to be momentous
Martin Sandbu
先週の欧州理事会は大盛会だった。EU指導者たちが打開すべき重要問題は、共通債で資金調達する復興基金、その基金を利用する条件に「法の支配」を入れることへのハンガリーとポーランドの反対、2030年までの炭素排出量削減目標の法制化、東地中海におけるトルコの軍事的挑発に対する制裁、そして、ブレグジットである。
ハンガリーとポーランドは、政治的理由で排除されないと約束された。法の支配は裁判所で争うことになる。炭素排出量の削減は、ハンガリーが石炭に依存していることで不当に大きな負担を負わないと確認した。
しかし、こうしたいわゆる「ブリュッセル式のごまかし」は、サミットの重要さと関係ない、とEUウォッチャーたちは考える。2020年の重大決定とは、仏独が推進したコロナウイルス危機からの回復が弱い諸国に対して巨額の交付金を、支給すると決めたことだ。「法の支配」がその「最終ハードル」になる。
ヨーロッパにおけるドイツの位置が変化した。もはや北ではなく、センターだ。欧州委員会に金融市場から資金調達することを認め、将来のEU課税にも道を開く。それは政治的に極めて重要だ。
また他の論者は、1988年のハノーバーで開催された欧州理事会と「同じ感覚」を覚えた、という。そのサミットは、単一市場と、ドロール委員長によるユーロの設計を認めた。
「法の支配」に関する妥協は、予算案を解放するために認めた「合意しないことの合意」である。彼ら自身がだましたのだ。もはや欧州委員会や法廷ではなく、欧州理事会で争うしかない。各国の指導者はEU統一の基本的価値と国家イメージとを根本的な「緊張」状態に置くことになる。
2020年の春と夏に、EUは地政学的な孤立を経験した。中国の「マスク外交」に対してどう対応するか。アメリカはコロナウイルス危機を抑えられない。さらに、ブレグジットが実現した。「EUは、規制のための政治から、政治権力に進化した。」
しかも、こうした変化はドイツが議長国の時期に、メルケルによって行われた。
● 2025年の仕事場
FT December 16, 2020
Life in 2025: what will the future look like?
2025年に、われわれはどのように働いているのだろうか? より弾力的で、包括的な働き方になっているのか、より野蛮で、バラバラで、不確実な働き方になっているのか?
COVID-19によって、「ハイブリッド」な仕事の良さが実感された。週に1日か2日は自宅で働く。専門職の女性は、キャリアと子育てとの両立が容易になった。
女性の評価にギャップがある状態は是正され、発展途上諸国の有能な人材も豊かな世界の企業に就職できる。
しかし、強力な政策が施行されないと、2025年には、もっと悪い状態が広まっているだろう。高失業率が、すでに弱い交渉力の若者や低熟練労働者をさらに苦しめる。企業は高報酬の中核労働者を維持するだけで、ブルーカラーでもホワイトカラーでも、ますます一時雇用型の、フリーランスの雇用契約を増やすだろう。
若者たちには失業がふつうにみられるだろう。雇用者は、彼らに訓練も、昇進も、年金も提供しない。彼らが極度に憤慨するとしても無理はない。
Yukio Ishizuka ・・・日本型雇用は消滅し、成長減速と、労働人口の減少に合わせて、新しいタイプの企業が活躍し始めている。
Gillian Tett ・・・人工知能AIが世界の金融ビジネスを変形しているだろう。この新しい分野を征服することに向けて、企業も地域も競争する。中国はすでにその指導的な地位にあり、アメリカと日本が追い上げる。もっとも激しい競争は銀行の間ではなく、銀行とハイテク企業との間に起きる。良い点も、悪い点も、多くありそうだからこそ、だれがこれを規制し、何を求めるのか。
● 効率性の経済学とその死
PS Dec 17, 2020
The End of Efficiency
ROBERT SKIDELSKY
経済学は、「節約economizing」の学問だ。最小の時間と努力で、最大の満足を得る。希少な資源を節約することを「効率」として測る。「効率性」は最高の目標だ。なぜなら、それは生活費用を安くするから。安価なことは、高い生活水準を意味する。
リカードの貿易理論が称賛されるのも、現代の先進諸国が労働生産性で悩むのも、同じ理由である。
しかし、その風潮に変化が起きた。Googleのデータベースによれば、本や雑誌に現れる言葉は、1982年以来、「効率」や「生産性」が急速に減少して、「回復力」や「持続可能性」が増えた。
この変化には3つの要因が働いている。1) このままでは人類が地球の資源を使い尽くすだろう。2) COVID-19の危機がサプライチェーンの脆弱さを教えた。3) グローバリゼーションや自動化による効率性は、雇用の安定性や持続可能性を脅かす。
ケインズがヤン・ティンバーゲンに有名な質問をした。「未来を過去の統計の関数で決める、と前提するのですか? 期待や、信用状態は、未来とどう関係するのですか? 発明、政府、労働問題、戦争、地震、金融危機のような、数値化されない要素をどうするのですか?」
世界人口と資源の問題、技術進歩と社会の適応能力。そもそも、リスクを管理するうえで「効率的」であると前提される金融システムが、定期的に崩壊を繰り返すような資本主義的政治経済は、持続可能なのか?
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The Economist November 28th 2020
The resilience of democracy
The right kind of discipline
Bullets before the ballot: The Ugandan state shoots scores of citizens dead
Africa’s do-or-die boat people: West Africans are dying trying to reach the Canary Islands
A clash over cash: Jerome Powell and Steven Mnuchin are at odds over emergency loans
Free exchange: Why it is misleading to blame financial imbalances on a saving glut
(コメント) 民主主義の衰退に関して、アイデンティティー政治を問題にする。民主主義は社会対立の問題を解決するはずだったが、今は、アイデンティティーや生活の仕方に関する紛争を政治的に解決不可能にする。覇権と民主主義の関係も問題になる。
しかし、人びとは各地で民主主義を求めて闘ってきた。誰が権力を握るかを投票で決める。ウガンダでは、ボビー・ワインが逮捕されて、街に抗議運動が広がった。軍・警察が弾圧し、多くの死者を出している。ヨーロッパに向かうアフリカからの難民も続く。
アメリカの新旧財務長官の対立。バーナンキ連銀議長の「過剰貯蓄」論は間違いだ、という紹介を読みました。
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IPEの想像力 12/21/20
金融グローバリゼーションが後退する世界に現れる秩序は何だろうか、と問われたら、それを<社会主義>や<共同体主義>と私たちはよぶのでしょう。
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超金融緩和と財政赤字の急増が、経済の大幅な落ち込みを回避するうえで必要だとしても、金融市場のバブルを生じて次の金融危機を準備している、という危険な状態に変わりありません。
仕事がある者にとって、所得からの消費は減り、急速に貯蓄が増えることで、市場が縮小しています。非正規の雇用は急激に切り落とされて、政府の支援は不十分です。企業はコロナウイルスの鎮静化が予想できず、消費抑制で利潤も期待できないため、投資することを恐れます。
政府は大規模な公共投資によって、貯蓄を吸い上げ、積極的に社会の改善を唱え、インフラや共通資本の充実として、貧困対策・公的雇用保障・教育研究体制の充実として、パンデミック後の世界を描くときです。
しかもそれは、プラザ合意とルーブル合意とを、同時に、G20で、習=バイデン=メルケル/マクロンが推進するような試みです。
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気候変動リスクを金融機関の評価に反映する、という議論はパンデミックの前から主張されていました。
かつて、債務危機から約10年を経て、ラテンアメリカが緊縮策から抜け出すメニューをアメリカのブレイディー財務長官は提案しました。債務の株式化を重視した世界銀行(国際金融公社)や投資銀行・証券会社は、「新興市場」と名づけて債券を売り、民間資本を流し込んだのです。
ドル建ての政府投資信託として、クローズド・エンド型のカントリー・ファンドが期待されました。しかし、さらにグローバリゼーションとバブルが重なって、さまざまな投資信託、インデックス投資、成長ファンドが現れたと思います。
英米から世界に広がった資金循環が絶えると、2008年の金融危機と同様、パンデミックでも、大幅な金融緩和だけでなく、発展途上国の返済猶予や一部免除と、将来の成長からの返済を組み込んだ債務の組み換えが必要になります。
G20が低所得の73か国に対して合意したDebt Service Suspension Initiative (DSSI)を拡大するだけでなく、民間金融市場に協力させる枠組みが求められます。政府(有権者の税金)が免除した分を民間債権者が奪わないようにするためです。アフリカ諸国の債務を組み替えるためのIMFによるSDR発行も、同様の趣旨で、提唱されています。
中国は、トランプ政権が終わっても、米中貿易戦争やパンデミックの教訓を忘れません。「一帯一路」構想から転換し、パリ・クラブに参加するでしょう。中国の台頭と国際秩序が交差する、最初の債務危機です。
MMT風の米中欧・債務管理体制、国家管理資本主義が、ハイパーインフレーションやグローバルな債務危機にならない、実体経済の健全な成長を回復する方針、それが実行されるメカニズムをめぐり、各地のガバナンスは競争します。
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ワークライフバランスや「働き方改革」は、政府が推進すると、偽善的な、意味の分からないスローガンになります。非正規労働者の増加や所得格差が明白な時代に、法人税率引き下げを決めて、なぜワークライフバランスというのか? 国際的な評価を気にするから? 男女平等・参画やダイバーシティ、生活保護、ハローワークなど、オーウェルの政治言語辞典を増やすばかりです。
資本主義システムは、私的所有権と資本調達市場という仕組みによって拡大し、膨張し続けました。おそらく、今の制度において貯蓄と投資・雇用を組み合わせる限り、社会的なコストは、その有益さをとっくに超えてしまったのです。
もっと、たとえば社会企業家への出資や、農村市場経済への参加が、投機的な債券・株式市場に代わって、人びとの貯蓄を利用できる仕組みがあれば、私たちはそれに投資するでしょう。長期的で、安定した収益と、リスクのある投資でも社会的に有意義なことが十分にチェックされるなら、私たちはそれらを自分なりに選んでポートフォリオを形成します。
あるいは株価上昇に熱狂し、再びバブルと好景気、その破裂によって苦しむのを待っているのは、まだ危機や戦争が足りないのでしょう。
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