IPEの果樹園2020
今週のReview
11/23-28
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敗北宣言の無い選挙 ・・・インフレの時代 ・・・パンデミックと完全雇用 ・・・IMF主任エコノミスト ・・・ボリス・ジョンソン ・・・バイデンの「民主主義サミット」
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 敗北宣言の無い選挙
The Guardian, Fri 13 Nov 2020
This is no conventional coup. Trump is paving the way for a 'virtual Confederacy'
Jonathan Freedland
トランプの行動は、嘲笑するべきか、それとも、恐怖に震えるべきか? 彼が先週、選挙は盗まれた、と主張したことで、彼は権力を手放さず、民主的に選ばれた後継者に反対してクーデタを起こす気なのか?
木曜日、国土安全保障省が、先週の選挙は「アメリカ史上で最も安全な選挙だった」と宣言した。不正選挙の証拠は存在しない、と。トランプの弁護士たちも、法廷から笑って追い出された。
すべてにおいて、恐怖ではなく、嘲笑が起きている。1月20日にジョー・バイデンが宣誓するまで、くつろいで過ごせばよい。しかし、ときおり恐怖が入り込む。
例えば、なぜトランプは、エスパー国防長官を含めて、国防省の非軍人幹部を解任したのか? そして、国防省や諜報機関で、それらのポストを忠誠心が異常に強い人物で埋めたのか?
トランプは騒ぎを起こそうと計画している、と私の情報源は述べた。どんな騒ぎか? アフガニスタンから米軍をすべて撤退させる。あるいは、イランとの軍事衝突を計画している。
トランプの狙いは、クーデタではないが、大きなものだろう。たとえば、トランプが選挙結果を受け入れないのは、権力を維持して、支持者たちの悲嘆を強め、次の行動に向けるためだ。それは、Fox Newsに対抗する新しいメディア、トランプTVを立ち上げる。あるいは、2024年の大統領選挙に立候補する。
そうだとしても、安心できない。一握りの共和党議員を除いて、すべてがトランプを支持している。彼の憤慨を恐れるだけでなく、彼が共和党の候補者たちに重要だからだ。それはもちろん、1月に行われるジョージア州の上院議員選挙を含む。共和党の上院支配がかかっている。だから共和党の幹部も、民主党は選挙結果を操作した、という証拠の無い主張を容認する。
トランプと彼の支持者たちは決してあきらめないだろう。そしてトランプは「亡命政権」の大統領になる。合法的な、投票で選ばれた政府に敵対し、議会にも同盟者がおり、ソーシャルメディアで宣伝し、彼らの悲嘆と失われた大義というロマンスを刺激する。それは新しい、バーチャルな「アメリカ連合国(南軍)」である。
トランプの支援者たちがフィラデルフィアやデトロイトで不正な投票があったというとき、リスナーにはメッセージが届く。それらは黒人の、腐敗した町だ。黒人どもにアメリカ合衆国の大統領を決める資格はない、ということだ。オバマがその出版間近の回顧録に書いているように、これらは共和党の周辺部に潜む「暗黒の精神」だ。
これは映画で観るようなクーデタではない。しかし、笑い飛ばすべきではない。トランプはしばしば愚かなことを言うが、それは冗談ではない。
NYT Nov. 13, 2020
The Apocalyptic Politics of the Populist Right
By Ivan Krastev
2016年、ドナルド・トランプが大統領選挙に勝利したことは、ヨーロッパの右派ポピュリストたちの多くにとって決定的な瞬間であった。それは彼らにとっての1989年であった。すなわち、ベルリンの壁が崩壊して、リベラリズムが止めることのできない、勝利の感覚に変わったときだ。ハンガリーからイギリスまで、右派ポピュリストたちは、もしトランプがアメリカで大統領になれるなら、未来は彼らのものである。
2020年、トランプの敗北は、もっと暗いビジョンに向けた引き金を引くだろう。
国務長官を含むようだが、共和党の多数派に囲まれて、証拠もないまま、トランプは最近の投票結果を拒んだ。敗北宣言はしない、と明確に表明した。この行動は感傷的に見えるかもしれないが、そうではない。トランプは大統領の地位を失うだろうが、人民の意思を無視するという彼の決断は、アメリカを超えた意味を持つ。
先週の土曜日、メディアがバイデンの勝利を伝えたとき、ヨーロッパの右翼の放送局は選挙が終わっていない、と主張した。マクロンやメルケルは新政に祝意を伝えたが、ハンガリーのオルバン首相やポーランドのドゥダ大統領はまだ待っている。
民主的政治は国民的な治療の期間を持つ。それは国民の投票を許し、未来についての彼らの不安を表明させる。同時に彼らは、選挙が終われば、すべてが正常に戻ると保証される。それゆえ政治家やニュース・メディアが選挙を転換点とみなすことは当然だ。次の世代にとって、その国の運命を決めるものだから。しかし選挙が終われば、民主主義は敗者に次の選挙をめざすように求める。それこそが間違いなく、再び、最も重要な選挙になるだろう。
敗北を認めないことで、トランプは右派のポピュリストたちに1つのメッセージを送る。次の選挙はまったく重要ではない。もし今日負けるなら、明日の勝利はないのだ。
それはトランプの個性の問題ではない。アメリカ内外の支持者たちには、もっと深い理由がある。それは、西側世界に広がる右派ポピュリストの抱く世紀末的な心情を反映しているのだ。
この瞬間に彼らが賭けるものの大きさを理解することが重要だ。人びとは何か月もパンデミックの大量死の中をさまよった。世界経済は激しく混乱している。政治の有毒化した状況は末期症状を呈している。トランプのパンデミック対策における失敗がその炎をさらに強めている。
右派はもう1つの未来の恐怖を合わせて広める。世代間の分断がもたらす深刻なペシミズムだ。25歳以下の若者たちはトランプを支持しなかった。同様の傾向はヨーロッパにもみられる。右派の支持者は高齢者層だ。それは、将来の有権者である移民が流入してくるという恐怖によって強められた。
この人口の変化が持つ恐怖を、トランプは誰よりもよく計算していた。「これは共和党が勝利できる最後の選挙だ。なぜなら国境を越えて人々が流入してくるからだ。非合法な移民もやってくる。彼らは合法化されるだろう。・・・そして投票する。」 ヨーロッパのポピュリストたちすべてが、トランプの人口論的不安に共鳴する。
アルバニアでは、共産主義が崩壊した後、過去30年に、9回の議会選挙があった。負けた政党が敗北を認めたのは3回だけであった。多くの場合、反対派は選挙結果を受け入れず、支持者たちを街頭デモに出るよう促した。敗北を受け入れるように強いたのは、通常、アメリカ大使館であった。
アメリカ人には、この「アルバニア型解決」は利用できない。敗者はホワイトハウスにいるからだ。その解決の仕方は、世界の民主主義の未来を決める。
The Guardian, Sun 15 Nov 2020
US poll chaos is a boon for the enemies of democracy the whole world over
Simon Tisdall
アメリカが選挙と自己満足的な論争を続けて消えている間も、世界は回転を止めなかった。
しかし、ワシントンの混乱が長引くほど、世界におけるアメリカの評価は損なわれる。アメリカに頼る諸国や人びとは不幸を強いられ、民主主義や自由の旗を掲げる西側の同盟も衰退する。
たとえば、イスラエル軍は、アメリカ大統領選挙の投票日に、占領下のヨルダン川西岸の村Khirbet Humsaで、ほとんど女性と子供ばかりのパレスチナ人74人を破壊した。西岸地区の破壊のペースは今年になって速まったが、それはトランプによって原則として支持された、ヨルダン渓谷の国土への併合を準備している可能性がある。
この事件はメディアの注目を集めたが、モザンビークの北部におけるサッカー場の虐殺はそうではなかった。これも投票日に行われた。アメリカ人が開票作業を進める間、イスラム国の過激派が50人以上の首を切り落とした後、Cabo Delgado地区の村人たちは犠牲者を数えていた。
45万人が住居を捨てて避難民となり、2000人が殺害された。そこは極度の貧困が存在するとともに、価値の高い、西側が支配する天然ガスや鉱物の豊富な地区で、主にムスリムの反政府活動が激しくなっていたからだ。中国、アメリカ、イギリスの企業が進出している。
バイデンとトランプの闘いが終わらず、不確実性と不安定性が高まっており、様々な問題で国際協調を妨げている。
中国はこの機会を利用して、先週、香港の立法院から反対派の議員を追放した。北京は、どこであれ、民主的な考え、開放的な社会、自由な言論を許さない、と注意した。彼らは、アメリカが重要なレベルにおよぶ形で反対することはない、と正しく計算しているのだ。
パレスチナの農民、モザンビークの漁民、カブールの学生が、アメリカ大統領の無節操な嘘や無責任さに対して大きな代償を支払った。世界の民主主義もそうだ。
FT November 16, 2020
America’s other identity divide — class
Rana Foroohar
人種は、しばしば、アメリカ政治の中心問題である。しかし、2020年の大統領選挙では、階級が論点になった。おそらく、投票に関しては、人種以上に重要であった。
ドナルド・トランプは小さな町や地方における多数の票を得たが、ジョー・バイデンはUS経済の70%を占めるコミュニティーで多数を得た。住む場所がどこであれ、もし経済成長の中に住むなら、その人々はおそらくバイデンに投票しただろう。
アメリカに関して重要なことは、第1に、富とパワーが少数の場所に集まっていることだ。2007年以来、雇用の増加の3分の2以上が25の都市と地域ハブに集中していた。
「スーパースター都市」への集中はグローバルな傾向である。それはまた、最も才能豊かな若者たちが少数の都市に集まり、地価が上昇して、そのことがだれでもスーパースター・クラブに入ることをむつかしくする、という循環を生じる。社会的、経済的な梯子は外され、取り残された人々の怒りが生じ、デマゴーグたちの挑発に弱くなる。
ヒラリー・クリントンは、トランプ支持者を「嘆かわしい人々」と述べたとき、致命的な失敗を犯した。バラク・オバマは、かつて、中西部の労働者たちを「銃と宗教にしがみつく」、「苦渋の」人々とみなした。しかし、バイデンはこれらの土地に共感と敬意を示し、賢明にも敵の姿勢を変えた。
言葉は重要である。そして、ギャップを埋めるさまざまな投資を行うべきだ。
FP NOVEMBER 17, 2020
Trump Is in Denial—and America Is Unsafe
BY STEPHEN M. WALT
アメリカが地球上で唯一の国家であれば、トランプが妄想に駆られても、無駄な法廷闘争を続けても、バイデンへの政権移行を拒んでも、安全保障関係の官僚トップを11時間で解任するような子供じみたことをしても、悲劇的な欠陥を持った人間の悪あがきとして書き残せばよいだろう。あと2カ月の辛抱だ。
しかし、現実はそうではない。さらに、世界は「一極秩序」でもなくなっている。
● インフレの時代
FT November 18, 2020
Why inflation could be on the way back
Martin Wolf
予想もしない高インフレの時代になるのか? このような考えを多くの者は否定する。しかし、そう警告する本がある。現在の財政・金融の飽食時代は、「多くの戦争の後がそうであったように、インフレーションの高波になるだろう。2021年に5%、あるいは、10%にも達する見込みが高いだろう。」 そんなことが起きたら、すべてが変わる。
この予想は、Charles Goodhart and Manoj Pradhanの新著(The Great Demographic Reversal)が示すものだ。世界経済はレジーム転換に向かうだろう。前の転換は1980年代に起きた。40年前の変化とは、インフレ抑制に向けた強い願いよりも、グローバリゼーションと中国の世界市場統合であった。低インフレと相互依存の増大という時代は、今、終わりつつある。
1980年代、90年代には、中国、旧ソ連圏、発展途上諸国が市場を開放した。ウルグアイ・ラウンドが合意に達し、WTOが生まれた。中国は2001年にWTOに加盟し、国際的な経済統合が貿易だけでなく直接投資で進んだ。貿易財の生産にグローバルな労働供給が大きく増加した。出生率が低下しても若者の人口はまだ多く、、女性も労働市場に参加した。
これらにより、高所得国における労働者の市場パワーは低下した。GDPに占める利潤のシェアが増え、国内の不平等は上昇、グローバルな不平等は下降した。「貯蓄過剰」、インフレ圧力の低下、実質金利も低下した。その結果、債務依存が高まった。
今、これらがすべて逆転する、と彼らは予想する。グローバリゼーションは攻撃され、高齢化が労働力供給を制約し、財政緊縮を求める。相対的な、消費者に比べた生産者の減少も、インフレ圧力になる。労働者の市場パワーも回復してインフレ圧力に加わる。
それは、政府と非金融ビジネス部門の債務依存を前提すれば、大きな政策ジレンマである。インフレ抑制のために中央銀行が金利を引き上げる。低成長、高金利の世界で、政府は財政赤字を削減する。もしそうせずに、紙幣を増刷すれば、インフレが加速する。あるいは、それを恐れるなら財政が破綻する。1970年代か、もっと悪い状態になる。
世界経済が直面する2つの構造的変化がその困難を増すだろう。すなわち、高齢化と、グローバリゼーションの衰退だ。しかし、われわれは世界経済がどうなっているのか、ほとんど理解していない。
Goodhart and Pradhanが正しいのかもしれない。投資よりも貯蓄が急速に減少して、貯蓄過剰が貯蓄不足に変わり、実質金利が上昇する。しかし、そうではなく、低成長と、資本財の相対価格下落が続き、企業は利潤を維持して、高所得国の投資を超え続けるかもしれない。その場合、需要は弱く、実質金利が長期にわたって低いままで、民間部門の債務超過状態も続く。
1965年に、戦後のケインズ主義がもうすぐ終わるとは誰も想像しなかったように、世界は大きな変化の中にある。
FT November 20, 2020
Artificial intelligence is reshaping finance
Gillian Tett
先週、BarclaysのクレジットカードとAmazonが、切れ目のないショッピングと支払サービスのシステムをドイツで提供するという合意を発表した。それはAmazonの貪欲さとBarclaysの戦略を示す点で注目されるべきだ。
銀行とハイテク企業とはビッグデータとAIを金融に利用する方法に関して激しく競争している。それは、本質として、AIが信用供与の可否を決め、また、AIが顧客の次に求めているものを予測する、ということだ。
Alibabaのジャック・マーは、この点で最先端を切り拓いてきた。理論的に、それは、イングランド銀行の前総裁Mark Carneyが「金融の民主化」とよんだものだ。AIなどの革新を通じて、金融業は顧客に、「より多くの選択、よりターゲットを絞ったサービス、より激しい価格競争」を提供する。
しかし、そこには潜在的なコストがある。AIの意思決定に、人種差別など、バイアスが入る。プライヴァシー・リスク、ますます競争的な優位が少数の企業に集中する、金融業に多様性が失われる。
最大の問題は、不明瞭さだ。AIの学習に関する正しい理解を得ることは困難で、専門家に任せることは、より広い社会的コストを見失う危険がある。
だからAntグループのIPOに北京はストップ・ボタンを押した。
技術革新の魔神をもとの壺に戻すことは難しい。それが莫大な利益をもたらすなら、さらにそうだ。2008年の金融危機が、AIのスピードと規模で再発することが予想される。今すぐに、中央銀行を中心として、金融サービスの情報監視と規制の枠組みを拡大するべきだろう。
● パンデミックと完全雇用
PS Nov 13, 2020
Job Creation Is the New Game in Town
GORDON BROWN, ROBERT SKIDELSKY
アメリカのバイデン政権が準備している7000億ドルの製造業と革新への投資、2兆ドルの「バイデン・ニューディール」、あるいは、ドイツが節約志向を放棄して、7500億ユーロのEU復興基金に賛成したことに比べて、UK政府の対応は遅れている。
25歳以下の100万人の若者が、イギリスで職も教育・訓練も得ていない、とわれわれは推定する。政府の雇用創出計画Kickstartでは、2020年末までに10万人しか職に就けないだろう。
公共部門が雇用の最初の手段になる必要がある。受け身の失業対策ではなく、カール・マルクスが「失業者たちの予備軍」とよんだものに代えて、政府の雇用と職業訓練の供給ストックを財政政策が提供するべきだ。それを景気変動に応じて増減させる。
われわれがUKの政策立案者たちに求めるのは、ケインズやF.D.ルーズベルトの完全雇用実現をめざした精神の復活である。パンデミックの危機が去っても、失業の危機は残る。30年でなく10年であっても、成長の失われた時代を引きするために、今、行動するべきだ。
FT November 15, 2020
Democracies that failed the Covid test will struggle on climate change
Gavyn Davies
アジアに比べて欧米のパンデミック対策には深刻な限界があった。それは、気候変動に対する将来の行動にも大きな問題を示唆している。短期的な感染予防と経済コストのトレード・オフは、長期的には同じものとなる。初期の対策決定の遅れが、感染爆発と経済崩壊に至る。
民主的な政府は人びとの反発を恐れて厳しい対策の決定を遅らせる。指数関数的に被害が拡大する場合、長期の結果は、初期の行動にかかっている。気候変動は、パンデミックよりも、さらに影響や対策の効果は遅れ、はるかに長期に拡大する。
個人の経済的自由を重視するリバタリアンの思想は、英米の行動をさらに遅らせた。経済について、外部性や国境による効果の制約は避けられない。
しかも、気候変動にワクチンのような解決策はない。
● IMF主任エコノミスト
FT November 19, 2020
Gita Gopinath: ‘Fiscal policy plays an essential role in recovery’
Martin Sandbu
IMFは危機の産物である。戦後のグローバルな資本移動を安定化するために生まれた。人びとがIMFを不要とみなして廃止を考えたときにはいつも、新しい危機が起きて、この唯一の金融消防士を舞台の中心に呼び戻した。
IMF主任エコノミストのGita Gopinathゴピナート女史にインタビューした。世界経済は、少なくとも3つのグローバルな危機に直面している。1つは、コロナウイルス・パンデミックと経済崩壊である。2つ目は、低成長と不平等による人びとの不満の広がりがある。3つには、破滅的な気候変動が近づいてくる。
ゴピナートは、スマートな国家による賢明な金融・財政政策と規制によって、パンデミックと気候変動に対処できる、と考える。不平等やグローバリゼーションに関しても、IMFは1980年代、90年代の「ワシントン・コンセンサス」から、今や、はるかに遠い位置に来た。
Martin Sandbu: われわれは流動性の罠にある、とあなたはFTに書いた。財政政策を使うべきだ、と。パンデミック対策に失敗するリスクはないか?
Gita Gopinath:パンデミックと経済崩壊に、流動性を供給し、金融緩和したのは正しかった。しかし、流動性の罠になれば、もっと財政政策を使うべきだ。十分な貯蓄がある。重要なのは、多くの雇用をもたらす、正しいプロジェクトに支出することだ。
MS:「ワシントン・コンセンサス」から遠く離れたものだ、というIMF評価は正しいか?
CG:すべての債務増大が、破滅の種を蒔く、というような悪いことではない。しかしそれは、われわれが債務の増大を懸念しない、という意味ではない。雇用を増やし、財政的にも健全な、良い公共投資がある。金利が長期的に低水準であるなら、また民間部門が不確実さを恐れて投資できないなら、そのような良い投資を実行するべきだ。
MS:具体的には?
CG: パンデミック対策や気候変動対策は、財政的な余裕のある諸国にとって、同時に景気や雇用を改善する、よいことだ。不平等の対策として、低所得の家計に支援を与えることも含まれる。
しかし、自動化・機械化が雇用を失わせている。
MS:グローバリゼーションは不平等を拡大していないのか?
CG:グローバリゼーションについては人びとの感じ方が異なる。機械化には合意がある。旧い職場に頼らず、生涯教育と、新しい雇用や職の生まれる場所へ移動するのが正しい。それを助ける公共投資は有益だ。しかし、エコノミストが考える以上に、移動は容易でない。地域的な不平等の解消が重要だ。貧しい地域や家計を支援することも重要だ。
パンデミックの制御と世界経済の成長回復が実現すれば、グローバリゼーションの逆転は起きないだろう。WTOには改革のための合意が必要だ。IMFは、新興諸国や発展途上諸国が変動レート制だけで金融政策の自律性を得られないことを理解している。IMFはそのための「最後の貸し手」である。
● ボリス・ジョンソン
FT November 16, 2020
Boris Johnson has secured a questionable legacy
Martin Wolf
将来の歴史家たちはボリス・ジョンソンをUKの重要な政治家の一人とみなすだろう。良くも悪くも、この国に重要な影響を与えた点で、アトリーやサッチャーに、大きく劣るものではない。
ジョンソンの最も重要な遺産は「Brexitを成し遂げた」ことだ。そして離脱後のEUとの関係を転換した。おそらく、ジョンソンがいなければBrexitは起きなかっただろう。ファラージやキャメロンもその大きな役割を担ったが。ジョンソンはこの国をウルトラハードBrexitの「通商条約で合意なし」という姿にした。
それでもUKは力強く繁栄する、と彼は言う。「オーストラリア」で行こう、と。しかし、オーストラリアは、2019年の財輸出の3%をEUにしただけだ。UKは46%であり、まったく違う。
政府自身が、「通商条約で合意なし」では、EUの加盟国であった場合に比べて、15年間でGDPが8%減少する、と予測している。合意しない理由である論争点は不合理だ。1つは、漁業。もう1つは競争のための「均等な条件」である。漁業の付加価値はUK経済のたった0.04%しかない。
アイルランドに関するEUとの合意は、それを取りやめる法律を作った。自分で約束を破るのは、悪い以上に、愚劣である。ジョンソンは、これを避けられない痛みと言い、EUの怠慢と言う。それは国際政治で選挙に勝っても、EUとの関係を際限なく悪化させる。
こうした政府の姿勢に、スコットランドの独立を求めるSNPは勢いを得た。ジョンソンが便乗したイングランド・ナショナリズムは、イングランドとスコットランドとの同盟崩壊につながる。
ジョンソンのポピュリズムは既存の制度や原則を攻撃した。それらには改革すべき問題もあったが、彼は、保守主義に期待される慎重さとは無縁な、混乱と事態の悪化を招いた。有能な統治に向かう、真摯な政治家ではなかった。ジョンソンが破壊した多くのものは、もはや取り戻せないだろう。
FT November 18, 2020
Boris Johnson: Now is the time to plan our green recovery
Boris Johnson
ゆっくりと、しかし確実に、人類はウイルスとの闘いにおいて優勢になりつつある。数週間、そして数か月で、良い薬、検査、ワクチンが届くだろう。
今や、高度なスキルを要する職場とともに、グリーン・リカバリーを始めるときだ。この国を、クリーンで、グリーンで、さらに美しくする。
この10ポイント計画は、UKをグリーン技術・、金融の世界1のセンターにして、長期的な経済成長の基礎を創造する。
1) 2030年までに、海上風力発電を増やして、UKは風力エネルギーのサウジアラビアになる。
2) 水素エネルギーに5億ポンドを投資して、水をエネルギーに変える。
3) 小型・モジュラー原子炉により、新しい原発計画を推進する。
電気自動車、クリーン公共輸送、炭素排出ゼロ飛行機、住宅、病院、学校のグリーン化、炭素の固定・貯蔵技術、自然界による炭素吸収、新技術の商品化。
● バイデンの「民主主義サミット」
FT November 19, 2020
Biden’s dilemma on global democracy
Edward Luce
アメリカの体制が変わったことを、グローバルな民主主義の再確立として祝福する以上に良い方法はない、とバイデンは考えているようだ。就任から100日以内に、「民主主義サミット」を主宰する計画を進めている。
しかし、その戦略は内外に問題を生じるだろう。民主主義の拡大を語った最後の大統領はG.W.ブッシュである。彼は2003年のイラク戦争で、その目標を左派からも右派からも非難された。オバマが民主党の大統領候補に指名されたのは、彼がイラク戦争に反対し、ヒラリーは支持票を入れたからだった。
トランプが2016年の選挙で共和党支持者から評価されたのは、イラクなど、世界中で戦争した歴史を否定したからだった。もし将来の歴史家が21世紀の初期の政治を描けば、民主主義を大きく破壊したのは、トランプではなく、ブッシュだと書くだろう。
バイデンの「民主主義サミット」は2つの前提に立っている。世界はなおアメリカを民主主義の模範と観ている。また、民主主義のクラブは効果的に協力できる。しかし、バイデンの勝利は、その評価を回復するには遠いものだ。また、ハンガリーやポーランドだけでなく、世界最大の非リベラルな民主主義国であるモディのインドをどうするのか。
バイデンオクラブの本当の目的は、西側とますますイデオロギー的な対立を強める中国に、西側が集団として対抗することだ。そのためには、インドの支持が欠かせない。モディがインドのイスラム教徒を第2市民として抑圧しても、非難するのは控えるだろう。
NATOの目的についての巧みな表現を利用して、Ben Judah and Erik BrattbergはForeign Policyにバイデンの民主主義連合について書いた。それは、「中国をけん制しつつ、インドを仲間にして、アメリカが混乱する時期にも安定的であるように」という目的で形成されるクラブである、と。
実際、その枠組みが何であれ、バイデンの最重要な目標は、アメリカにおける民主主義の回復である。
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The Economist October 31st 2020
Green Innovation: Breaking through
Furlough schemes: The zombification of Britain
Argentina: A harvest of grievance
Brazil: Each race,a new race
Guinea: Ballots and bloodshed
Italy: Rich pickings
Nagorno-Karabakh: The wheel turns, this time
The yuan: Caveat victor
Europe’s public finances: The fiscal questions
(コメント) まだ世界の工業エネルギーの85%は化石燃料から得ている。政府はさまざまな形で介入するべきだ。他方、イギリスの有給休暇を延長することは、本来、市場で企業が淘汰される過程を封印してしまう。ビジネスの新陳代謝も、技術の採用も、労働者の新規部門への移動も、妨げられる。そして、企業も、経済全体も、「ゾンビ化」する、と警告します。
アルゼンチン、ブラジル、ギニア、その他の複合的な危機がパンデミックで生じます。イタリアは富裕層をフラット・タックスで誘致しており、中国の人民元に対する市場介入は隠蔽された形になっている、と記事は警戒します。EUの財政基準をめぐる論争は、パンデミックと復興基金によって再出発です。
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IPEの想像力 11/23/20
「Go To トラベル」キャンペーンについて、政府は批判されています。もっと始めるときから、政策の効果をよく考えるべきだ、と。
感染ルートが明確になるまで詳しく検査され、制御された状態なら、レストランや食堂、ホテル、旅館、旅行業を支援するために、利用者を通じて補助金を給付する、というのは、良いアイデアでした。官庁が選別するのではなく、消費者による選択が公平な競争を刺激するからです。
ロックダウンは、感染拡大が急激に進む(と予測される)初期に、感染者をできるだけ絞り込んで、十分な期間、強制力と支援策を組み合わせて行うなら、重要な、効果的手段でしょう。
しかし、ロックダウンは嫌だ、Go To キャンペーンは好まれている、というのは、説明になりません。小さな旅館や食堂も、公平に補助を得られたのか? 旅行できる余裕のある人々だけに補助金が利用でき、そもそも旅行どころではない貧しい家庭には、恩恵がないではないか?
接触をともなうサービス業は、密集を避けて、十分な対策を採るしかありません。それができない限り、閉店や廃業を要請し、雇用の転換を支援することです。
その場合でも、もっと需要を分散する仕組みにすれば、持続的に行えたはずです。感染者が出た地域を早期に除外し、キャンペーンの実施地域や時期、対象地域を、いくつかに分けて分散するべきでした。3連休に、嵐山のもみじを東京などからも多くの人が見に来る、というのは、予想できた、避けるべきことでした。
年末年始の休暇を伸ばすより、休暇の時期や移動を分散する仕組みを考えてほしいです。
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金融緩和と株価上昇についても、同じことを思います。金融機関や株式市場を通じて流動性を増やすことが金融システムを安定化するというのであれば、その副作用として、バブルや債務累積のリスクが生じ、金融資産の保有による富の増大を少数の富裕層に与えることを、政府は防ぐべきでしょう。
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移民政策について、初めて、画期的な研究を読んだ、と思いました。ポール・コリアーの『エクソダス:移民は世界どう変えつつあるのか』。
エクソダス。ディアスポラ。ディアスポラの規模。先住人口への吸収率。
これらの概念を駆使して、「移民の動学」を描きます。ん~。面白いです。
そして、単に移民と先住人口の対立ではなく、移民が流出する側に残る人々の利益も考慮して、望ましい移民政策、あるいは、移民政策の評価に必要な視点を考えます。
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香港では、黄之鋒(Joshua Wong)、周庭、林朗彦が収監されました。「香港衆志」(デモシスト)の指導者たちです。
中国政府は、トランプがアメリカの民主主義や国際的役割を否定し、分断を広めているときに、黄之鋒たちを投獄しました。私は、かつてのソ連邦が崩壊する時期を描いた名著、デイヴィッド・レムニック『レーニンの墓:ソ連帝国最後の日々』を読み返したいと思いました。
100万人の抗議デモの前で民主主義を説いた黄之鋒のような英雄を、中国は投獄してしまうのか、ということに、権力者の独善で監視社会に変わる暗黒の時代を想い、暗澹とします。『中華帝国最後の日々』が来たのです。
しかし、中国の指導層は賢明にも、これまで多くの危機や問題を解決し、自ら変態を繰り返してきたから、これほどの繁栄と社会変化の中でも、権力を維持できたのではないか。黄之鋒が、新しい中国の指導者として改革に熱弁をふるう未来も、きっとあるはずです。
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