IPEの果樹園2020

今週のReview

8/17-22

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レバノンとアメリカ ・・・人種差別と原爆投下 ・・・コロナウイルス対策 ・・・中国指導部の柔軟性 ・・・ポピュリストたちの競演 ・・・ベラルーシの大統領選挙と抗議デモ ・・・ドル安の意味 ・・・カマラ・ハリスの副大統領候補指名

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 レバノンとアメリカ

NYT Aug. 7, 2020

Beirut on the Potomac

By Roger Cohen

爆発する社会は、すでにその内部で腐敗が広がっている。1914年のオーストリア=ハンガリー帝国も、オスマン帝国もそうだった。現代では、2750トンの爆発物を貯蔵していたために爆発したベイルートの港。そして、トランプ大統領が軽視する中で、490万人以上が感染し、16500人が死亡した病原体もそうだ。

レバノンが芯まで腐っていることは、もはやだれでも知っている。アメリカの悪意ある政府が、ポトマック河畔のベイルートだ、というのも明らかになった。

NYT Aug. 9, 2020

Beirut’s Blast Is a Warning for America

By Thomas L. Friedman

レバノン人は、異常な雹(ヒョウ)が降ったときでも、その説明を求めた。「あなたはシリアがやったと思うか?」

レバノン社会は、そして、ますますアメリカ社会も、何でも、天気でさえ、政治によって理解する。レバノンではすべてのパワーが、憲法によって、またインフォーマルに、非常に注意深く、キリスト教徒とイスラム教徒など、政治的な諸集団の間で均衡するように分割される。

それは、高度に多様な社会で、内戦への衝動を抑えるために、安定性を確保するシステムであるが、その代償は説明責任の欠如、汚職、ガバナンスの劣悪さ、相互不信である。異常な大爆発の後、人びとが最初に問うのは、何が起きたか、ではなく、だれがやったか、だれにとって有利なことか、であった。

アメリカは、レバノンや他の中東諸国のようになってきた。それは2つの点でいえる。第1に、政治的な違いが、もっと深くなり、政党から宗派、部族の対立のように、権力をめざすゼロサムの争いになっている。第2に、すべてが政治的になる。気候変動も、エネルギー政策も、パンデミックの最中に着けるマスクでもそうだ。

健全な政治が栄えるためには、政治的争いの外に参照基準が求められる。真実や、共通の善がそうだ。「すべてが政治的になるとき、政治は死滅する。」

トランプと同じ非リベラルなポピュリストたち、Bibi Netanyahu in Israel, Jair Bolsonaro in Brazil, Viktor Orban in Hungary, Recep Tayyip Erdogan in Turkey and Vladimir Putin in Russiaは、事実や共通の善を守る者たちを貶め、破壊するように工作する。人びとに向けた彼らのメッセージとは、「私を信じなさい。私の言葉、私の決断が正しい。」 ここはジャングルだ。私を批判する者たちは殺し屋だ。私だけが、あなたを殺し屋たちから守ってやれる。支配か、死か。

もしあなたがベイルートの抗議デモの声を聴いたら、多くの人々は共通の善を実現する政府を切望していることがわかるはずだ。アメリカもそうだ。

トランプはアメリカを分断した。もし彼が11月に敗北しても、彼が好況の善を優先することはない。静かに選挙の夜を迎えることはない。

神聖なものや共通の善が失われたら、社会は崩壊する。レバノン、シリア、イエメン、リビア、イラクがそうだ。イスラエルとアメリカも、ゆっくりとそうなりつつある。


 人種差別と原爆投下

The Guardian, Sun 9 Aug 2020

Don't let the victors define morality – Hiroshima was always indefensible

Kenan Malik

「もしわれわれが戦争に負けたら、われわれは皆、戦争犯罪を告発されるだろう。」と、Curtis LeMayは、アメリカが原子爆弾で広島と長崎を消滅させたことについて19458月に述べた。

LeMayは情熱的なリベラルではない。第2次世界大戦末期の日本攻撃を監督した空軍幹部で、核爆弾の使用も勝利のために受け入れた。20年後なら、ベトナム戦争では「アメリカがやつらを爆撃で石器時代にもどす」と述べただろう。しかし彼は正直に、アメリカが勝利したから、戦争犯罪を免れた、と認めた。

原爆投下の直後から、その正当化できない攻撃を正当化することが始まった。アメリカが勝利するのに、原爆投下は必要なかった。

原子爆弾は、1943年には使用可能であった。その標的は、常に、日本人であると予想された。歴史家ジョン・ダワーが書いたように、日米双方が「人種戦争」とみなしたことで、太平洋戦争は特に野蛮なものになった。西側外交官たちはいつも日本人を「モンキー」、「黄色いチビ奴隷」と呼んでいた。ドイツ人も野蛮だが、同じヨーロッパ人で、白人である。

日本人のすべてが正当な戦闘目標であった。

BLM(黒人の命はたいせつだ)が奴隷制や帝国の歴史を公然と批判しているが、広島と長崎については歴史を忘れてしまっている。歴史を欠くのは勝者かもしれないが、道義の問題を決めるのが勝者だけであってはならない。


 中東の社会的緊張状態

The Guardian, Sun 9 Aug 2020

Global power games could blow the whole Middle East apart

Simon Tisdall

大規模な爆発がベイルートの中心部を破壊した。それは多くの中東諸国家が崩壊していることを暗示している。

問題は、すべての脆弱な国家が崩壊するまでに、いくつの衝撃が必要か、ということだ。改革への希望を示した「アラブの春」が暴力と反革命で潰されてから10年を経て、地域の緊張は再び高まり、沸点を超えつつある。

1943年、フランスの委任統治が終わって独立したレバノン共和国は、すでに生存の危機に陥っていた。住民の安全、食糧、雇用を提供できず、国境を守れず、債務を支払えない。それを破綻国家とするなら、レバノンは破綻国家である。

この国のガバナンスは、分派闘争、宗派対立、汚職、民主的な説明の欠如によって空虚なものである。爆発はその産物であった。しかも、外国勢力の介入がはなはだしい。

1975-1990年の内戦は、分断と、イスラエル軍、シリア軍による占領を残した。パレスチナとシリアからの難民が大量に流入するのに対処する方法がない。その経済状態は諸外国の好意、もしくは私利私欲にかかっている。

権力を分かち持つ指導者たちは、専門的な技量ではなく、信念の告白によって立場を示すことが重要だ。アメリカ、サウジアラビア、そしてシーア派の武装集団であるヒズボラだ。

レバノンは、イスラエル軍とイスラム武装勢力との衝突によって破壊された。諸外国の介入はますます激しくなっている。奇妙にも、それを加速させたのは最大の介入者であるアメリカが徐々に離脱し、その真空を諸外国が奪い合うことだった。

2017年、スンニー派のSaad Hariri首相はサウジアラビアで誘拐され、辞任を強いられた。新首相Mustafa al-Kadhimiは、アメリカの軍事介入の遺産と、イラン、トルコ、湾岸諸国の地域権力争いを切り捨てたいと奮闘する。宗派争い、アメリカとイラン、イラクの民主体制の失敗、アメリカによる制裁、クルド人の支配地域、エルドアンの介入、イラン、シリア、リビアに介入するオスマントルコのスルタンに似た邪悪な権力欲。

レバノンとイラクが示すのは中東地域の巨大な泥沼状態だ。シリアにおけるウラジミール・プーチンの賭けが成功するか、それはなおわからない。リビアでは、ロシア・エジプト・サウジアラビア・UAEと、トルコ・カタール・イスラム武装勢力が、果てしない闘争を続けている。

石油によって混乱が過激化する中で、旧植民地支配勢力、イギリス・フランス・イタリアは傍観している。彼らの引いた国境線は、抑圧者、略奪者の新しい世代に変わった。その利己的な動機や残酷さは同じである。

たとえベイルートが破片を拾い集めても、さらに多くの爆発と事態の崩壊が待っている。


 コロナウイルス対策

FT August 10, 2020

The right way to restructure after Covid

世界中で感染拡大を抑えるためにビジネスがシャットダウンしたことで、企業の売り上げが大幅に減少した。政府はさまざまな方法でこれを支えている。しかし、経済的困難を株主、経営者、被雇用者の間で分かち合う。そういう時期が来るだろう。賢明な経営指導者は、こうした困難な決断から逃げることなく、注意深く進めて、危機を利用したとはみなされない。

既に最も深刻な状態にある民間航空各社は、他の部門への警告である。スタッフを大量に削減し、賃金を引き下げる計画を進める。企業経営は幻想に頼れない。ヘッジ・ファンドのBridgewaterは、2021年末に企業の売り上げは15兆ドルから20兆ドルも減る、と予測している。

明確に焦点を絞って、長期の未来を捉える必要がある。経営者は労働者に要求するだけで済まない。自分たちの報酬や、配当、株式の買戻しで、投資家に与える報酬も維持できない。「解雇して再雇用」という脅迫は憤慨を生じた。航空産業の救済において、UK政府は余剰を切り捨てて「社会的責任」を果たすよう求めた。

産業再編成に失敗すると一層の政府介入や労働者保護を求める声が高まる。パンデミックを乗り越える経営者は、広範な社会的支持を必要としている。株主の利益だけを優先すれば、それは金融危機後に非難されたように、損失は社会に押し付け、利潤は自分たちのものにする、という受け止め方が広がる。

損失が生じて債務が膨張すれば、企業は積極的に行動するか、破産処理、もしくは、株主・債権者と再交渉する。コロナウイルスのパンデミック後に繁栄する企業は、早期に、正しく再編するはずだ。

FT August 13, 2020

City centres need government support to recover

Sadiq Khan

COVID-19は、第2次世界大戦以来、最も大規模に、われわれの社会の基礎を変化させる可能性がある。1980年代にマーガレット・サッチャーのイギリスが、鉱山業や製造業に依拠する各地のコミュニティーを破壊したように。パンデミックはもっと多くの経済の諸部門を、数か月のうちに、破壊してしまった。

われわれはサッチャーの失敗から学ばねばならない。政府は人々や企業が自分で立ち直るまで放置するべきではない。もしそんなことをすれば、失業、世代間の不平等、社会の分断が悪化してしまうだろう。われわれが1980年代に知ったことだ。

ロンドン市の調査は、経済回復の最大の障害が感染への不安である、と示している。回答者の半分が、感染していないとしても、外出や外食を控える、と答えた。感染者が減って、より小さな集団で、マスクをすることが、正常な活動を回復するうえで重要だ、と。

人びとは政府の乏しい情報発信に不安を感じている。メッセージが混乱し、正しい決断に失敗した。ロックダウンは遅すぎたし、「検査・追跡・隔離」のシステムは十分に機能していない。イングランド北部のレスターが行ったローカルなロックダウンは不十分だった。

私は市長として、ビジネスや文化制度を維持するために、人びとが安全に外出できるよう何でもするだろう。小売業や接待、娯楽産業への税率免除を来年まで延長する。創造的な文化活動は自営業が多い。彼らは必要な支援を得ていない。もっと的を絞った行動をしなければ、ビジネスの閉鎖と失業が増える。

多くの人々は家賃やローンが支払えない。われわれにはもっと多くの、高い給与と高いスキルを要する職場、グリーン経済が必要である。未来の経済を正しく政府が描くべきだ。それは勝手に生じるものではない。

近視眼的な、1980年代の失策を再現してはならない。未来は、すべての者にとって、もっと豊かで、公平な、環境的に持続可能なものである。そのために今こそ行動しなければならない。


 中国指導部の柔軟性

FT August 10, 2020

China: The Bubble That Never Pops, by Thomas Orlik

Thomas Hale

習近平の一帯一路イニシアチブが2013年に始まったが、主に2つの批判を受けてきた。1つは、これは、アメリカが衰退するときに、新興市場に影響を拡大する新植民地主義である。もう1つは、典型的には過剰に拡大したプロジェクトであり、中国によるゴーストタウンと無意味な橋を建設するだけだ、と。

この本は、こうした矛盾した見解を合わせて持ち続ける中国批評を「中国肺炎」とよぶ。中国は今にも崩壊する、と言いながら、中国が世界を支配する、と恐れている。そして、中国の最近の経済史を細かく整理して、支配的な中国論にやんわり反論する。

この本は中国の改革の歴史を分割する。すなわち、・・・1976年、毛沢東の死没後、循環が始まった。・・・ケ小平による改革開放。・・・1989年、天安門の弾圧から、1997年、アジア金融危機まで。・・・2001年、WTO加盟後の改革。

今は第4の改革の末期である。それは2008年の金融危機に対して不況を緩和するための大規模なインフラ投資で始まった。これらの歴史が示すのは、中国の指導部が危機を回避する高い能力である。

著者はそれを「後発性の優位」とみなす。20世紀において、中国は他の主要諸国から驚くべき程度で遅れた経済から改革を始め、それゆえ多くの上昇する余地があった。同時に、政策担当者たちは、批判する者たちが思う以上に、想像力と柔軟性に富んでいたのだ。

残されたままの改革は多い。中国階級と政治的自由、国家による経済管理、不動産価格のバブル。しかし、中国はレーニン主義的な国家である。派閥争いに迷走することなく(少なくとも表面的には)速やかに政策転換する力がある。

中国モデルをイデオロギー的に解釈することを拒んで、危機とその対応の歴史を重視する。問題は、政府が情報を統制することで問題に気付くのが遅れることだろう。

中国を運営する諸個人の主要な目的は、安定性の維持である。


 ポピュリストたちの競演

FT August 10, 2020

Modi and Erdogan thrive on divisive identity politics

Gideon Rachman

先週、インドのナレンドラ・モディはAyodhyaにおけるヒンドゥー寺院再建を「何世紀も待った」と述べた。トルコのエルドアンはイスタンブールのthe Hagia Sophiaをモスクに改修して祈りを始める前に、われわれの最大の夢がかなった、と述べた。

これはヒンドゥー教徒とイスラム教徒の「文明の衝突」を思わせるイベントだが、そうではない。2人の指導者はむしろそっくりだ。自分たちを民族の繁栄が復活する時代の指導者として印象付ける。近代国家の偉大な創設者たちを無視し、表現の自由、司法の独立など、リベラルな規範を破棄してしまう。

こうした大げさな宗教行事は、彼らを支持する保守的な基盤を勇気づけ、彼らが嫌う都市のエリートを黙らせる。

しかし、インドとトルコの変化はグローバルな趨勢の一部でもある。リベラルなユニバーサリズムを壊して、アイデンティティー政治が広まっている。中国、ロシア、アメリカ、ヨーロッパで、異なる物語によって、同じ事態が進む。コロナウイルスと経済不況は、指導者たちにとってのアイデンティティー政治の魅力を強める。

彼らは「内部の敵」に焦点をあてるが、外に対してもタフな姿勢を好む。エルドアンはリビア、シリアの戦争に軍を送り、モディは選挙前にパキスタンの武装勢力を空爆させた。国内の政治的支持を高める彼らの言動は、内外における紛争激化に向かう。


 ベラルーシの大統領選挙と抗議デモ

PS Aug 11, 2020

The Struggle for Belarus

SŁAWOMIR SIERAKOWSKI

ベラルーシの反政府指導者たちは、週末の選挙について偽装された結果を告げられることは、あらかじめわかっていた。彼らは3つの原則を採用した。彼らの抗議デモは完全に平和的に行われねばならない。彼らのデモは目的を達成するまで続けられねばならない。彼らの目標は明確に特定されねばならない。その目標は、自由な選挙と、民主的体制の再建を含む。

警察や軍が弾圧のために動き始めた。しかし、目標を達成するまで、人びとは毎晩7時に広場に集まって平和的なデモを続けるだろう。

PS Aug 12, 2020

Peaceful Protests and Polish Bullets in Belarus

SŁAWOMIR SIERAKOWSKI

警察の態度は昨夜と違った。私は何とかデモ隊の前面に出た。治安部隊に対して人びとは背を向けて対峙した。ルカシェンコ大統領が偽装選挙による「勝利」を発表したことに続いて、デモが始まった。警察は警棒と盾に代えて、長身の銃を構えた。

治安部隊が単にある地域からデモ隊を排除することを目標にしていないことは明らかであった。彼らは、殴打し、傷つけ、威圧して、デモ隊を服従させることが意図されていた。デモ隊は分散し、それでも治安部隊が彼らを追跡し、銃撃し、拘束した。彼らは住民への見せしめにしたのだ。

朝までに、すべての痕跡は消されていたが、私は多数の空砲ONS-2000を発見した。それはポーランドのFAM Pionki製だ。

野蛮な独裁者は26年間もベラルーシを支配してきたが、EUは制裁を科している。しかし、国民に発砲する中に込められた弾は、EU加盟国のポーランドが作った。ポーランドの大統領や外相がルカシェンコを非難するとしても、その言葉は信用できない。


 ドル安の意味

FT August 11, 2020

There is plenty of life yet in the US dollar

Dominic Bunning

最近数か月、ドルの価値が急激に下がった。しかし、それは続かないだろう。多くの要因が関係している。

多くのアナリストと投資家が指摘するのは、景気循環的要因だ。アメリカの成長回復、低金利、連銀のバランス・シート拡大に関する期待が後退した。

2四半期のユーロ圏の成長はアメリカ以上に大きな減速であった。コロナウイルスの感染数が変化するのは予測できない。

債権の利回りが、ユーロよりドルで大きく低下した。それはCOVID-19の危機を受けて連銀が金利を下げたからだ。ユーロ圏はすでにマイナス金利であるために下げることができなかった。投資家たちはユーロ圏の回復を期待した。

しかし、利回りの低下を理由に、一層のドル安が続くとは予想できない。

インフレ率を調整すると、ドルの実質利回りがマイナスであることに注目する投資家もいる。さまざまな構造的要因も議論される。財政と経常収支の双子の赤字、準備通貨としての地位の低下。しかし、これらは数十年も議論されている。

ドル安が進むという投資家は、自分たちの尻尾を追っているように見える。


 カマラ・ハリスの副大統領候補指名

NYT Aug. 11, 2020

Kamala Harris Is the Future, So Mike Pence May Well Be History

By Frank Bruni

私はすでにその討論を夢見ている。マイク・ペンスとカマラ・ハリスとの副大統領候補討論だ。

ペンスは髪も頬も白い。その態度は彼のワイシャツよりも硬く糊付けされている。笑顔はしかめ面のようだ。彼はトランプ政権を代表する以上に、キリスト教右派を代表する。彼のアメリカは、半ば(過去の)記憶、半ば神話である。

ハリスは、より若く、黒く、上気している。彼女は2大政党で大統領選挙に登場する4人目の女性だ。非白人の女性は初めてだ。平等な機会と平等な正義に向けて、それにふさわしい発展を遂げるアメリカを代表する。

彼女の目の前で、ペンスは、人種差別主義者で性差別に染まった大統領を擁護する。ハリスは、そのような態度が、彼女のような黒人女性にどのように感じられるか、話すだろう。それは異なる視点がぶつかる普通の意味ではなく、生活体験の衝突だ。

バイデンは77歳。ハリスは55歳。バイデンは東海岸。ハリスは西海岸。バイデンは、他の大統領・副大統領候補者たちの多くと同じく、男性。ハリスは女性。

彼女は、敏捷にして苛烈である。そのことをバイデンは候補者争いで思い知った。同じことを、Jeff Sessions(元司法長官), Brett Kavanaugh(最高裁判事) and William Barr(司法長官)は上院公聴会で知ったはずだ。

NYT Aug. 13, 2020

Trump’s Racist, Statist Suburban Dream

By Paul Krugman

保守派はにせの戦争が好きだ。クリスマス戦争、石炭戦争、覚えているだろうか?

今度、トランプの選挙陣営が必死で攻撃の材料を探し回って、われわれが多くを聞くのは「郊外戦争」である。

バイデン=ハリス政権ができれば、確かに、1968the Fair Housing Actを実現するオバマ時代の努力を再現し、おそらく拡大するだろう。それはアメリカの歴史で政治権力が人種的不平等を創り出し、強化してきたことを是正するためだ。

トランプが郊外都市の理想的生活スタイルとよぶものは、単に起きたことではなく、政府が政策で創り出したことだった。第2次世界大戦後の住宅建設ブームで、政府は莫大な補助金を2つの政府機関(連邦住宅局FHA、復員軍人局VA)を通じて支給した。

この補助金は住宅所有者だけでなく、フレッド・トランプのような不動産開発業者の利益になった。この男はのちに黒人居住者への差別で告発され、その息子はアメリカ大統領になった。

この補助金は、白人だけに利用でき、黒人は排除されていたのだ。FHAは白人コミュニティーを優遇しただけでなく、それを創り出した。不動産価値を維持するため、という理由で、厳格な人種隔離が推進された。

1950年代、60年代は、普通の労働者にも相対的に良い報酬が支払われ、郊外住宅は相対的に安かった。多くのアメリカ人が住宅で富を築くことができた。その後、そうした機会は閉ざされた。賃金は停滞し、住宅価格が上昇したが、黒人家族は住宅による利益を受ける機会がなかった。

トランプの「郊外都市の生活スタイル」は、政府が白人のために創った「壁の街a walled village」であり、他者が入ろうとするとゲートで締め出す。

個人の選択と自由市場がアメリカを、このように隔離された、不平等な社会にしたのではない。差別は国家介入の政策であり、人びとの自由を否定する政治権力の行使であった。BLM運動が多くの白人に示したように、肌の色によらず、だれもが法の前で平等に扱われる社会への道はまだ遠い。

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The Economist July 25th 2020

Free money

Collective debt: Europe pulls together

A new era of economics: Starting over again

Care homes: No place like home

Shadow banking: Putting the capital to capitalism

Digital currencies: Bips and bytes

(コメント) 株価急落とともに始まった、異常な通貨供給、債務保証、財政赤字の想像を超える拡大、しかも、そのすべてを正統的なエコノミストやIMFなど国際機関が一致して支持する、という逆転した世界。

どのような明確な説明や問題提起があるのか? 注意して読んだつもりですが、納得できるものは見つかりません。これをサッチャーがケインズ主義を倒した事件と類似する、マクロ経済学の転換と観るのか。私はむしろ、ソ連崩壊後の各共和国が、競ってルーブルを印刷した時代、に近いように思います。

さらに世界金融危機によるQEやマイナス金利状態が、コロナウイルス危機と重なって、めちゃくちゃな金融緩和や国家介入を支持し始めたと思います。銀行から債券市場への金融システムの変異を、いったんは規制したはずですが、もはや改革の見通しは立たず、こんな状態は持続可能ではありません。

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IPEの想像力 8/17/20

The Economistの表紙は、工場か発電所のような、あるいは、大型コンバインのようなマシンが、ラッパのような管から大量の紙幣を噴出し続けています。

コロナウイルス危機では、世界金融危機によって根本的な見直しを必要としていた資本主義システムが、ますます合理性も、正統性もない、未知の領域に踏み込みつつあるようです。中央銀行や政府も、ウイルス感染の恐怖によって、こうした緊急手段を永久に正当化できる、とは、まさか考えてはいないはずです。

確かに、これまで資本主義は、マクロ経済学と技術革新により市民社会の発展する条件、その資源や安定性を確保することに成功していました。地域と時代によって、大きな差はあるでしょうが。それが深刻な異常を示し始めたのは、金融の証券化やインターネットの市場独占が問題だと思います。

かつて(ちょっと誇張ですが)、ポール・ボルカーがATM以外の金融革新をなくてもよいもの、と断じたように、私はスマホやインターネットが無くても、一向にかまいません。社会の豊かさや満足を測る、今とは異なるさまざまな基準が、各地のコミュニティーで追求される方が好ましいでしょう。

派遣など、非正規雇用の労働者が、コロナウイルス危機で職を失い、ホームレスになったケースをニュースが紹介していました。多くの若者が思うような仕事に就けないとしたら、その人だけでなく、社会にとって大きな損失です。

必要な支援が、必要な人に、届いていない。ホームレスを支援するNGOの代表は訴えます。

あの20万円は、だれに対して支払われ、何に支出されたのか? 私が紹介したのはNYTのコラムでした。コラムを書いた女性はNYに住み、社会保障の提供されないアメリカにおける貧しい労働者について、コロナで彼女の家政婦が仕事を失った今、自分が得る政府支給の小切手を渡したい、と書いたのです。

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これまでさんざん財政赤字を気にしてきた日本政府が、将来の社会・経済モデルについて何も説明することなく、莫大な赤字をコロナウイルス対策として承認したのは、民主主義の失敗だと思います。

議会は、コロナウイルス対策の財政赤字が何を意味するのか、積極的に論争しなければなりません。そのとき、次の2つは欠かせません。

1つは、グリーン・ニュー・ディールです。化石燃料の利用をやめて、再生可能エネルギーに転換する。そもそも、エネルギー消費を大幅に減らす。地域や地球の生態系を護り、回復を助けるように、人間の活動を制限することは、積極的な投資と雇用、新しい地域社会の建設として、若者たちの情熱を集め、社会的な資源を市場が活用する、競争と参加のフロンティアになるでしょう。

その方が人間らしい、幸せな生活だ、と思うからです。ネットのゲームや都市の喧騒より、一人でキャンプする楽しみを求める若者が増えているとしたら、彼・彼女もきっと集まってくれるはずです。

もう1つは、高齢者介護のイノベーションです。The Economistの記事は、豊かな諸国で、コロナウイルスの犠牲者が老人介護ホームに集中している事態を契機に、ホームの見直しが進んでいくと予想します。

家より素晴らしいホームはない。大きな施設より小さな施設が、多くのスタッフより、ハイテクを駆使した少数スタッフが、新しいホームのモデルです。老人は、たとえ認知症が進んでも、単に健康や安全であるより、幸せで、元気を回復できる家に住みたいでしょう。

小さなホームでは、老人たちがなるべく自分で、助け合って生活します。オランダでは、学生や若者たちと生活スペースを共有する仕組みになっています。仲間がいること、手助けできること。老人たちも、スタッフも、友情を育てられること。

ミシシッピ州のthe Green Houseでは、居住者がベーコンやシナモン、コーヒーのにおいで目覚めます。伝統的な介護ホームでは老人の食欲が落ちる。しかし、そこでは人々がもっと食べて、もっと歩いて、もっと話し始めるのです。

資本主義やグローバリゼーションを改革して、こうした目標を実現するための豊富な資源と社会組織を、効果的に生み出せるかもしれません。

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