IPEの果樹園2020

今週のReview

7/13-18

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政治的自由 ・・・アメリカ連銀 ・・・パンデミックと市民 ・・・アメリカ政治の批判 ・・・アメリカのいない世界

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 政治的自由

FT July 6, 2020

Why Hong Kong cannot be another Singapore

Gideon Rachman

かつてシンガポールの大臣が話していた。シンガポールも反対派を巧妙に苦しめる。しかし、「われわれが使うのは歯科医の道具だ。中国では、大型のハンマーを使う。」

香港のビジネス・エリートは、香港が世界の偉大なビジネス・センターであり続けることを願っている。彼らは、社会争乱と抗議デモの1年が無政府状態寸前にまで至っていた、という。今では、北京が秩序を回復し、香港はビジネスに戻ることができる、と。

北京を支持する人びとがモデルとしてしばしば示すのは、シンガポールである。たとえば、ビジネス界から立法院議員になっているMichael Tienは、国家安全法の4つの言葉、分離、政府転覆、テロ、外国勢力との共謀、を明確に避けて、それ以外は何でもすればよい、と語った。ダンスも、乗馬もできるし、技術革新も、貿易もできる。

確かに、シンガポールも「部分的な自由」しかない体制に分類されている。しかし、外部から見て、その司法システムは不偏不党で、効率的である。小さな都市国家としてシンガポールは、外部の良好な意見が、生きるために必要なことを知っている。リー・クアンユーは傑出したイギリスの弁護士であった。司法における西側の伝統を尊重した。

香港は違うだろう。香港は、だれもその振る舞いを正すことなどない、巨大な国家の一部である。もし香港が中華人民共和国のために犠牲になるべきなら、中国共産党がそれを決めるのだが、習近平はためらうことなく行動する。それは、法の支配ではなく、中国共産党の支配である。習自身が、「中国は、立憲主義、権力の分割、司法の独立性といった西側の進路を取らない」と述べた。

中国は、香港が繁栄するダイナミックな都市であることを好むだろう。しかし北京は、香港を無政府状態から救出することを決めた。それは、かつてベトナム戦争でアメリカの軍人が語ったといわれる言葉を思い出させる。「われわれは村を救出するために、破壊する必要があった。」

PS Jul 8, 2020

The Political Logic of China’s Strategic Mistakes

MINXIN PEI

香港の国家安全法施行は北京の一連の失策を示す。金融センターの未来を損ない、住民たちは自由を守る決意を固めた人びとの抵抗で、ますます不安定化するだろう。西側との関係もさらに悪化する。

これは習近平という1人の人間に権力を集中し過ぎた結果、十分な検討もしないまま、劣悪な決定に至ったものだ、と考えたくなる。その解釈は間違いではないが、より重要な理由を見逃している。それは、中国共産党(CPC)の世界観だ。

CPCは世界をジャングルとみている。それは1921-49年、非常に困難な流血の内戦を経た政党が、世界はホッブズ的な戦争状態であり、長期の生存を保つのは生の暴力だけだ、と確信したからだ。勢力均衡が不利になっている状態では、狡猾さと警戒心によって生き延びた。

1984年の中英共同声明は、国際法を信用したのではなく、中国の弱さを認めたものだった。その後、中国が優位になる勢力均衡のシフトにつれて、共同声明を破るつもりになっていた。しかも香港の反政府派を弾圧することは、南シナ海の人工島建設など、他の紛争でも優位に立つ意味がある。

CPCの世界観は、また、権力者の強欲を皮肉な形で前提している。西側政府は、単なる資本家たちの利益を代弁しているだけだ。人権や民主主義と言っても、彼らが中国市場を失うような行動は取ることができない。資本家たちが中国市場で多くの利益を上げているのだから、と考えた。こうした冷笑主義的な判断が、香港を制圧する背景にある。

これまでの西側の制裁は、中国政府に再考を促すほど、信用も実質もともなわない程度の制裁だった。中国の強硬な外交に対して、西側の外交が黙認を続けたことが、CPCのホッブズ的世界観を活性化してしまった。

しかし、トランプは違うだろう。トランプと彼のタカ派的外交チームは、ジャングルの法しか信用せず、生の軍事力を敵に対して行使することを恐れない。その意味で、まさに北京と等しい。

CPCは、初めて生存に対する脅威に直面するだろう。


 アメリカ連銀

FT July 4, 2020

The Fed is rightly wary of embarking on yield curve control

Michael Mackenzie

アメリカ連銀は、マイナス金利という考えを避けて、政府債券市場への介入を考えている。

それは短期金利を抑えるだけでなく、長期の債券に対して市場介入し、利回りを抑える政策、イースド・カーブ・コントロールだ。

その潜在的な有益さは、投資家が金融引き締めを恐れる状況になっても、金融緩和を続けられることだ。しかし問題は、日銀が試みたように、インフレを起こす効果はないこと。また、明確な出口戦略がないことだ。

政府が巨額の赤字を出すときに、こうした政策を採れば、独立性が失われる。しかも、ドル急落を予想する者がいるように、外国の債券保有者にドル建資産保有の魅力を失わせる意味があり、パンデミックに重ねて、金融危機を招くことは避けたい。


 パンデミックと市民

FT July 6, 2020

‘Democracy will fail if we don’t think as citizens’

Martin Wolf in London

民主主義を実現するのは市民である。安定した所得と雇用が空洞化し、「取り残された」と不満を感じる人が増えると、民主主義はポピュリストに乗っ取られる。

西側のリベラルな民主主義は、戦後の2つの時期を経てきた。1945-1970年の「社会民主主義」期、もしくは、アメリカの「ニューディール」コンセンサスが、1970年代の高インフレを経て、1980年頃に転換し、「サッチャー=レーガン」コンセンサスに代わった。

世界金融危機で、自由市場イデオロギーはダメージを受けた。しかし、西側においてはどこでも、金融システムを救済し、旧体制が復活した。金融規制を強化し、緊縮財政を続けたが、その過程で、ポピュリスト的なナショナリズムが広まった。保護主義と二国間主義(国際協力の否定)、社会保障やインフラ再建を約束したドナルド・トランプが当選した(約束は守らない)。ボリス・ジョンソンも、貧しい地域を底上げし、F.D. ルーズベルトのニューディールを掲げて、ブレグジット後のイギリスを指導する。

コロナウイルス危機は、政府への回帰を、一層強烈に推し進めた。戦後の第2期、「サッチャー=レーガン」コンセンサスは終わったのだ。

政治、社会、経済は、何を軸に変化するのか? それは市民である。この概念はギリシャ・ローマ時代にさかのぼる。アリストテレスが考えたように、人は政治的な生き物だ。民主主義において、人びとは、消費者、労働者、ビジネスの所有者、貯蓄者、投資家ではない。われわれは市民である。それは、共有された企画に関与する絆(きずな、紐帯)を意味する。

現代世界で、市民権には3つの側面がある。1.民主的な政治的・法的な制度、開かれた議論、(異なる価値への)寛容さに対する忠誠、2.充足した生活を送るすべての仲間とその能力に対する配慮、3.市民と市民的な諸制度が繁栄するような経済を創り出すという願い。

そして、安定した立憲的民主主義の必要条件は、繁栄する中産階級(所得分配の中位の人びと)である。それが失われれば、国家は富裕層の支配体制や、独裁者に向かう。中産階級の空洞化、「絶望死」が懸念されている。

2次世界大戦で破壊された諸国では、平等主義が力を持っていた。国内経済の管理と貿易の自由化に、政府が積極的な役割を担った。

新しいグローバリゼーションの時代は、顕著な成果を上げた。グローバルな貧困減少と平等化、技術移転が起きた。ソビエトの共産主義が崩壊し、民主主義の理想が広がった。しかし、その弱点も明らかだ。所得や資産の分配は不平等化し、労働市場は「弾力的」だが「不確実」になった。社会的移動性は低下し、「自助努力」の文化は、社会・政治的不安定化を強めた。自分や子どもたちの生活が悪化するという予想は、不公平さを強く意識させた。

「いかさまの資本主義」。金融ビジネスの肥大化、株主価値の最大化。市場競争は失われ、税金を支払わない企業が増えた。多国籍企業は、そのための法律や制度を創り出す。外国人・移民や中国からの輸入を攻撃するが、もっと重要なことは技術革新だ。新しい職業とそれが求める大都市の高度知識労働者が富裕化し、取り残された製造業労働者が窮乏する。

金融危機後の成長減速で、トランプやジョンソンは、「取り残された」人びとの怨嗟と保守連合とを結びつけた。それは、旧労働者階級が、都市の大卒の有権者やマイノリティーの有権者に依拠するようになった左派政党から離反したことも意味する。

コロナウイルス危機は5つの効果を生じている。1.経済活動の急停止、特に、若者への負担増。2.女性・未熟練労働者の負担増。3.不平等化の加速。4.財政赤字とその後の負担問題。5.国家のパワーと資源の重要性。

市民を重視する改革は、市民でない者を無視するわけではない。保護主義でもない。環境など、グローバルな協力、他国の市民に対する配慮をともなう。

しかし、市民は、教育を受ける権利、病気など、さまざまな障害や不安からの経済保障、労働者の保護、組合を組織する集団的権利を持っている。市民や企業は、社会を維持する十分な税金を支払う。

政府機関は、富裕層だけでなく、すべての市民の声を聴くべきだ。活力ある中産階級を増やし、すべての者のセーフティーネットを築くべきだ。人種、エスニック、信仰、ジェンダーが何であれ、市民は公平に扱われる権利がある。誰が自国にきて働き、市民権を得るのか、市民が決定する。

民主主義の中で、われわれは市民として考え、行動する。そうしないなら、民主主義は敗北する。

FP JULY 6, 2020

Defund the Bankers

BY LEAH DOWNEY

コロナウイルス危機がアメリカ経済のすべてを変える、と思われている。アナリストや評論家は、パンデミック後の経済がどうなるかを議論している。

国家はインフラを創る。道路や橋のような物理的インフラもあるが、投票制度のような政治的インフラ、警察のような社会的インフラもある。インフラがあることで、市民たちは相互に交流・交換できる。BLM(黒人の命は重要だ)運動の画期的な点は、アメリカ人の間に反人種差別を広めただけではない。アメリカがそのインフラを改革するように求めたことだ。

警察は、社会的インフラの中でも特別なパイプラインだ。ホームレス、家庭内暴力、迷子の猫、遺失物など、何でも解決するよう求める。それは社会的な安定性に役立つ。アメリカ連銀と同じように、保存することで、安定性を維持する。

BLM運動の、警察の解体、というアイデアは、この点を変えようとした。アメリカの、この人種差別的システムに依拠し、それを保存する社会インフラを解体し、新しい社会インフラに代替する。それは保存するのではなく、われわれの社会を改善するような形で市民を促すパイプラインだ。警察の解体は、そのパワーと責任を、より適切な、より効果的な他の人々によって行使される。すなわち、ソーシャル・ワーカー、メンタルヘルス機関、教育者、雇用促進機関、などだ。

BLM運動がアメリカ経済に与える教訓は、その金融政策を動かすインフラが私的な金融機関によって支配されている問題だ。それはコロナウイルス対策にも表れている。連銀は金融システムを守るために、資金を経済に押し込み、なんでもやった。債券市場で買い手になり、銀行が融資をするように促した。それは不可避的に、債券を売買する金融機関を豊かにする行動であった。

アメリカの人種差別問題に対して異なるインフラを求める答は、連銀に対しても当てはまる。アメリカのビジネス、非営利機関、州・地方政府に投資する、全国規模の新しい投資機関を考えるべきだろう。この投資銀行は、黒人所有のビジネスや、環境ビジネス、労働者を重視した雇用関係を育てるビジネスに、優先的に投資するだろう。

アメリカは全国民のための銀行システムを持つべきだ。家計の4分の1は銀行を利用していないか、銀行口座を持たない。経済資源へのアクセスが民営化されている。金融政策が、すべてのアメリカ国民が保有する公的な銀行口座を通じて作用するなら、それは変わるだろう。

アメリカの奴隷解放を祝うジュンティーンスに、パウエル連銀議長は演説した。・・・国民的な議論が続いている。平等は、教育、労働、経済的機会へのアクセスを含むものである。私は、キング牧師の演説を思い出す。それは連銀から数ブロック離れた場所で行われた。その演説のタイトルは、「仕事と自由を求めるワシントン行進」であった。

問題は、現代の経済インフラが既存の経済制度を保存すること、その制度において社会の一群の人びとが排除されていることだ。アメリカの警察も、金融政策も、既存の制度を保存するために存在し、進歩を妨げる。それは保存すべき良い部分があるけれど、腐敗した過去を残す未来を、完璧と認めるべきではない。改革のためのインフラが必要だ。

PS Jul 8, 2020

The Call of the Tribal

ANDRÉS VELASCO

政治家はなせ政策を選択するのか? 有権者はなぜ政治家を支持するのか? 有権者は、自分と同じ原則を持つ政治家を支持する、という説明や、自分の経済的利益、その他の利益を守ってくれる政治家を支持する、と考えるのが普通だ。

しかし、それは現代の政治、特に、アメリカの保守派を説明できない。

財政赤字を考えてみよ。2008年の後半、当選したバラク・オバマ次期大統領は議会に1.8兆ドルの刺激策を求めたかった。しかし、反対を予想して1.2兆ドルに縮小して要求し、結局、議会が認めたのは7870億ドルだった。この財政刺激策を、アメリカの保守派は一致して攻撃した。

しかし、20203月、コロナウイルス危機でドナルド・トランプが2.2兆ドルの支援策を求めたとき、上院では反対なしで、すべての共和党員がそれを支持した。今や、共和党の誰1人、政府の支援策や、膨張する財政赤字に反対しない。なぜか?

おそらく、パンデミックの支援策は共和党の法案であり、共和党の大統領が署名したからだ。

政治家たちはますます腐敗し、悪質になったのか。嘘つきで、人をだますことをためらわない。しかし、事実は、有権者が政治家の言うことを気にしなくなったのだ。政治家が反対のことを言っても、それが自分たちの政治家であれば、つまり、自分と同じ部族に属していると認めるなら、支持することを変えない。

有権者たちは指導者を信頼する。同じ価値観を持ち、十分な情報を持てば同じ決断をする、と思えるからだ。在任中に姿勢を変えても、何か理由があるのだ、と考える。「分断された政治状況では、無能さよりも、チームを変わることを嫌う。」

アメリカでもどこでも、政治はますます部族的になった。


 アメリカ政治の批判

FP JULY 4, 2020

To Fight Inequality, the United States Needs an FDR. Can Biden Deliver?

BY ROBERT KUTTNER

民営化を過度に進めたアメリカ経済は、コロナウイルス危機で一層深刻な犠牲を支払った。ネオリベラリズム、規制緩和、サプライサイドの減税策、ハイパー・グローバリゼーション、市場原理主義といったイデオロギーの破滅的な結果が明らかになった。

1970年代から、ニューディール改革を放棄して新しいネオリベラルな正統派を採用したのは共和党だけではない。多くの民主党議員がこれを支持したのだ。規制緩和はレーガンではなく、ジミー・カーターのときに始まった。民主党のビル・クリントンと、ルービン、サマーズの経済顧問が始動した。そのチームはオバマ政権にも引き継がれた。

少数の人々は非常に裕福になったが、何千万人もの人々が貧しくなった。不平等が広まり、アメリカの中産階級は経済的な安全を失った。

ジョー・バイデンが勝利しても、資本主義の方向を転換することは非常にむつかしいだろう。第1に、累進的な税制だ。抜け穴をふさぐ。多くの規制や独占禁止法を強化するべきだ。エリザベス・ウォレン上院議員は、富裕税を提案しただけでなく、既存の銀行のビジネス・モデルを解体する法案を提出してきた。

改革は、底辺の労働者たちの報酬を引き上げるべきだ。ギグ・エコノミー、契約労働、フリーランスの地位と交渉力を、法によって強化する必要がある。ハイテクのプラットファーマーの市場独占力を解体する。

通商自由化を転換し、1944年のブレトン・ウッズ体制のように、資本規制や、労働基準による輸入制限の権利を各国に認める。医療保険や学費に巨額の債務が発生する仕組みを変えるべきだ。労働者が容易に入居できる住宅の建設を促進する。

コロナウイルスのパンデミックは、人種間の不平等だけでなく、中産階級の脆弱さを明らかにした。アメリカ経済を改革するように求める運動が広がっている。政府は、なんでもありの資本主義や極端なグローバリゼーションを押しとどめる役割を求められている。

ドナルド・トランプの次の大統領は、その力を試される。


 アメリカのいない世界

FP JULY 4, 2020

Welcome to the Post-Leader World

BY OONA HATHAWAY, SCOTT J. SHAPIRO

414日、アメリカに予算の10%を頼っているWHOに対して、トランプ大統領は資金提供を止めるよう命じた。その10日後、アメリカはCOVID-19のパンデミックに対してワクチンを開発・生産・供給するグローバルな計画に参加しない、と発表した。WHOからの完全な脱退も示唆している。他方、米中の対立は、国連安保理を機能停止にした。

コロナウイルス危機は、アメリカが世界の指導的国家である役割を放棄したことを明確にした。リアリストの覇権安定論によれば、開放的な、リベラルな世界経済は、他の諸国を圧倒し、指導する能力と意志とを持つ国が存在するとき成立する、と考える。Richard Haassが最近書いたように、世界は大国間の対立激化、核兵器の拡散、脆弱な国家、難民の増大、ナショナリズムの蔓延に向かうのか。

必ずしもそうではない。危機はグローバルな秩序を、少数の諸国から成るクラブの、より対等なシステムに変える機会でもある。グローバルな諸問題に、独立した、グローバルな複数のクラブを組織して対処できるだろう。

グローバルなクラブによるガバナンスでは、諸国家が自発的に同盟に参加して、加盟による利益を得るかどうか選択する。加盟した場合、諸国は一定の条件を満たすことに同意する。ルールを破る国は、その利益を加盟諸国から与えられない。

1985年、イギリス南極調査隊が、地球のオゾン層に巨大な穴があることを報告して世界に衝撃を与えた。その10年前にクロロフルオロカーボン(CFCs)がオゾン層を破壊する可能性を予測していた。1987年、モントリオール議定書が成立し、CFCsの消費を減らし、さらに、クラブ内だけでCFCs生産の要素を販売することに合意した。クラブに属さなければ、加盟国と売買できないことで、クラブへの参加を促す仕組みであった。

30年を経て、世界からCFCsは消滅し、オゾン層の穴は拡大を止めた。2070年までに回復するだろう。モントリオール議定書が成功したのは、オゾン層を守るのではなく、CFCsをクラブ財として規制したからだ。

エコノミストは財を区別し、私的財を競合的で排除できる財、公共財を競合的でなく排除もできない財として、区別した。公共財として、きれいな空気は利用できるし、排除できない。料金を払う者もいない。1965年、J. ブキャナンが、競合しないが排除できる財を「クラブ財」として区別した。たとえば、スイミング・プールは、利用者を限定できるから、料金を取って運営し、建設できる。

グローバルな財を守り、生産する最善の方法は、それを直接に規制するのではなく、クラブを組織して、グローバルな財を守り、生産することだ。クラブに参加する利益を知ることで、参加国が増える。コロナウイルスのワクチン開発・生産もそうだ。

パンデミックにおいて、諸国が資源をプールしてワクチンを開発・生産することが最も望ましい。各国は事前に異なるタイプを分担して試験することができる。ワクチンの成分やその知識はだれでも利用でき、それを排除できない公共財である。しかし、ワクチン生産はクラブ財である。十分な供給体制を築くには、巨大な、特化した生産設備が必要だ。

検査結果によって効果が確認され、生産するワクチンが決まる前に、有望な候補の生産設備に投資しておくため、クラブを組織する。加盟諸国は、どこからでも、決まったワクチン生産を即座に始めることができるだろう。非加盟国はワクチン生産の準備に困難な時期を経て、供給が遅れる。

安全保障、サイバー攻撃、気候変動、優れたアイデアがあれば、クラブを組織して協力に合意できる。覇権国は必要ない。公衆衛生もそうだ。

クラブは合意を形成することでパワーを発揮する。加盟する国が増えればパワーが強化される。指導する覇権国が機能しないときは、多国間の協力システムを築くチャンスである。

The Guardian, Sun 5 Jul 2020

Weak, divided, incompetent... the west is unfit to challenge Xi’s bid for global hegemony

Simon Tisdall

リアリストのスティーブン・ウォルトはトランプ政権を批判する。習近平や中国を特異な隔世の国家や指導者とみなすことは間違っている。サダム・フセインやイランの宗教指導者と同じように観ることは、アメリカ外交の役に立たない。現実はもっと複雑だ。

北京の行動を理解しなければならない。そのうえで、自国へのダメージを制限すること。自国に害悪が及ぶ行動を抑制し、相互の利益に関心を向けることが重要だ。

しかし、西側はその組織や指導力を失い、中国に対して十分な対応が取れない。北京から見れば、世界には中国が指導力を発揮できる地域が拡大している。国連や「ルールに依拠した国際秩序」について、ドナルド・トランプは強く反発している。

中国の行動を抑制するものはない。習近平は生きているうちに「中国の時代」を実現する、と約束した。その期限は、2035年である。

PS Jul 6, 2020

American Exceptionalism Strikes Out

J. BRADFORD DELONG

アメリカは世界の指導的国家になったが、だれもその真似だけはしたくない理由であった。

グローバル・ノース(富裕な北側)では、COV-191日の感染者数が5000人に1人に減っている。新規感染者に対して、直ちに関係者を検査し、追跡し、隔離する。この手順により、多くの国の再生産数は1を切り、感染は終息に向かう。

ヨーロッパ、アジア、その他、世界では多くの人々がソーシャル・ディスタンシングとマスクの必要を認めている。こうした予防を「自由」への攻撃とは考えない。予防を社会常識として守るところでは、COV-19の死亡率が1000人に1人、第1次世界大戦後のスペイン風邪の10分の1に抑えられている。

そこでは比較的早い経済の回復が期待できる。市場は人々によって、人びとのために作られることを、政府は思い出す。公衆衛生の緊急事態に対処した後、経済を完全雇用に戻すことが最優先課題である。緊縮策への警告や財政均衡主義を無視せよ。

グローバル・サウス(貧しい南側)のパンデミックは危険な状態のまま残っている。シンガポールの移民労働者が居住する地域からコロナウイルスが広がったことは、グローバル・ノースの多くの人に恐怖を与えた。ウイルスと闘う財源がなく、経済的な負担を緩和できない国では、経済を再開するしかない。本格的な支援がなければ、貧しい国の債務が膨張する。

アメリカはどうか。6月半ばから新規感染者数が全国で倍増した。大統領は、単に検査数を増やしたからだ、と言うが、それは間違いだ。陽性率は上昇しているからだ。新規感染者数が、アリゾナはニューヨークのピーク時と並び、フロリダ、テキサスがそれを追って増加している。

これらの州では、人びとがトランプに同調し、パンデミックを否定する。検査数を減らせば、新聞がこれほど騒がなければ、不安は沈静化して、経済が好調さを取り戻すだろう。インフルエンザの流行と変わらない、と彼らは信じている。

COV-19の患者に対する治療法が急速に改善しつつある。もし多くの死者が社会から見えなくなり、なぜなら家族以外に社会的なつながりの少ない高齢者に集中しているから、われわれは日常を取り戻す。要するに、アメリカ人は銃による4万人の死者、交通事故による4万人の死者を、毎年、観ている。COV-19の死亡率が、脆弱な人びとを隔離し、治療法、抗生物質で低下して、1%ではなく、0.5%、さらに025%にまで低下すれば、わずか60万人の死者で集団免疫が達成されるだろう。それは8か月間で可能であり、その場合、1日当たりわずか2000人の死者でしかない。

「わずか!」

パンデミックはアメリカ例外主義が正しいことを証明した。ただし、他の国が回避しなければならない世界のケースとして際立っている、という意味だ。

FT July 9, 2020

The humbling of the Anglo-American world

Edward Luce

ロナルド・レーガンとマーガレット・サッチャーがソ連の崩壊を早めた1980年代を再認識する必要がある。英米のCOV-19対策がこれほどお粗末であったのは、冷戦に勝利したという慢心に由来する部分があるからだ。それは、世界から何も学ぶことなどない、という信念だ。

スウェーデンを例外として、大陸ヨーロッパは5月に感染拡大を抑えることに成功した。東アジアのほとんどの国がすでに4月にそれを達成した。

しかしアメリカでは、感染者の増大が止まらない。アメリカの半分がコロナウイルスと闘うことも放棄してしまった。イギリスはようやく6月に拡大を抑えたが、死亡率は世界で2番目の高さである。

英米の国家ブランドは数世紀にわたって高められた。その自尊心は、非英語圏の、ドイツ、フランス、日本、イタリアの民主主義国に比べてリスクを取ることに貪欲だ。後者の民主主義は、敗戦、占領、革命、破綻の生々しい記憶を持っている。同じ英語圏でも、オーストラリアとニュージーランドは、比較的若い国であり、最近、母国イングランドへの文化的服従を払しょくした。カナダは、アメリカではないことに、自負がある。

500年の歴史が、英米両国民に、自分たちは常に勝利する国だ、と信じさせた。世界が彼らをどのように見ているか、その悲しみとあざけりの気持ちを理解しなかった。

感染予防を早期に解除したのは、スタンフォード大学の「マシュマロ・テスト」に失敗したことに等しい。それは、5歳児に、マシュマロを今すぐ1個食べるか、数分後に2個食べるか、と選択させるテストだ。多くの子どもはすぐに1個食べた。誘惑に負けなかった子供たちを追跡調査すると、成長してから成功した者がずっと多かった。パンデミックの経済でも同じだろう。

英米は、あたかもロックダウンと経済成長とはトレードオフであるかのように行動している。現実には、忍耐にこそ優位がある。公衆衛生と経済成長とは補完的なのだ。ロックダウンが効果的なほど、確実に経済を再開できる。

ドナルド・トランプは学校を再開するように命じ、検査や追跡、ソーシャル・ディスタンシングの有益さを否定する。

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The Economist June 27th 2020

The next catastrophe

Human rights in Xinjiang: Walk on by

The course of covid-19: Unhappy medium

Bello: Lessons from history

Corruption in Congo: Laughing all the way to the slammer

Labour’s leader: Starmer’s army

Chinese manufacturing: The world’s factory

(コメント) コロナウイルスによって破壊されていく経済や社会が何に至るのか、その疑問に答えることは難しいようです。Eスポーツが繁栄する? 不動産市場が変わる? 広告産業が変わる? その指導者だけでなく労働党が変わる? 世界の工場として中国は、変わらない?

ウイグル人の「再教育」施設への収容、ラテンアメリカにおける軍隊とポピュリズムに冒された政治体制、コンゴ《民主共和国》の政治腐敗と裁判、など、ウイルスに対する免疫があるのは、ろくでもないものばかりです。

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IPEの想像力 7/13/20

ニュースを観ていました。

・・・この水害で、彼女の会社の機械設備が全部ダメになったことを、社長としての責任を引き受け、前の水害から立ち直るために過ごしてきた長い苦しい日々が、借金を返す見通しも、従業員たちの賃金を支払うめどもいっしょに、泥水の濁流で流れ去ったことを、涙を流して報道記者に語る女性がいました。・・・

コロナ危機は、違った顔を示すのでしょうか。たとえば、日本の財政赤字をさらに異次元に変えるショックとなりそうです。コロナウイルスのおかげで、政府は国債発行を、日銀は金融緩和政策の拡大を、話題としては批判されずに済みそうです。そして今度もまた、世界はようやく日本に追いついてきた、というのでしょうか。

朝日新聞で、伊藤裕香子・津坂直樹「際限なき借金大国」2020/7/20を、またGoogleで見つけた楽天証券のサイトで、鈴木卓実「借金経済とコロナ税:日本国債の格下げ、財政不安って何?」2020/7/6 を読みました。

日本政府の予算赤字は昨年の100兆円規模から一気に1.6倍へ増える。増税なしの支援策積み増しで、国債発行高が急増する。ドイツやアメリカに比べて、財源論議がない。なぜか?

少子高齢化が他の欧米諸国よりも深刻だ。医療や介護に関して政府の支出が増えることは将来にわたって避けられない。財源を議論したら支援はできなくなる、と先回りしたのではないか。

日銀のデフレ脱却目標は、何か、異なる考え方に転換すべきだろう。しかし、これも正直な議論は何も出てこない。

これまで医療、年金、介護について、何度も国民に議論を促して合意形成を図ったはずではないか。財政ルールの形骸化を避ける与野党合意だけでも、せめて、確認したらどうか、と記事は求めています。今や日銀が政府の施策を批判し、協力できる独立した投資機関設立を議論してもよいと思います。

外国投資家に頼ったギリシャはどうなったのか。金融危機で資本が流出すると、ECBはギリシャのための中央銀行ではなく、むしろ財政緊縮策を求めました。外国投資家に債券を売るために、社会保障の削減が求められることは、いかにも理不尽です。

コロナショックで、大企業や大銀行には潤沢な資金が流入するかもしれません。しかし、中小企業、非正規労働者、フリーランス、ひとり親、さまざまな生活スタイルで、生きることに苦労する人たちにも、支援は届いているのか?

国債格付けの引き下げ、外資系金融機関の入札について、鈴木氏は触れます。日本政府は国債の返済能力を投資家たちに示す必要があるのです。コロナ増税か? ゼロ金利脱出はいつか? 確かに銀行業の正常な機能は、マイナス金利では考えられません。しかし、日銀の政策は政府の国債発行に縛られています。

財政再建と成長の見通しは、人口が減少し、ますます高齢化する日本について、何も語られていない。金融緩和だけに頼った株価上昇の見直しがあるのは当然です。

旧産業の水準が「元に戻る」日は、本当は、来ないのかもしれません。AIとロボットの普及が、多くの産業で雇用を消滅させる、と不安を広めていたことを思い出します。コロナウイルスとリモート・ワークの時代は、どこに、どのような雇用を生み出すのか? だれも積極的な投資を示せないままです。

Go Toキャンペーンの目指す「日本経済の姿」は、旅館とホテル、居酒屋と外食チェーンが並ぶ、地方都市の幹線道路と観光地だけで「成長」を観る、歪んだものです。中国からの観光客やオリンピックを期待する政治家たちの貧しい構想力に、日銀が際限なく資金提供することこそ、ウイルスの感染爆発で最初に滅ぶ国の真骨頂です。

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