IPEの果樹園2020

今週のReview

6/8-13

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香港と米中対立 ・・・パンデミックの株高 ・・・アメリカの人種差別 ・・・暴力によって築かれた秩序 ・・・仏独のハミルトン・モーメント

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 香港と米中対立

NYT May 27, 2020

Will President Trump Stand With Hong Kong?

By The Editorial Board

習近平は以前から香港の自由を「西側のトゲ」と呼んで嫌っていた。世界がコロナウイルスのパンデミック対策に追われ、アメリカとの関係は悪化したままで、3000人の代議士が集まる機会に、国家安全法を提案して香港の自由を弾圧することにしたのだ。

この衝突と結末は、台湾や近隣諸国の将来にとって重要な意味を持っている。しかし、問題はトランプの姿勢だ。彼はどこまで戦う気があるのか。

中国経済と軍事力の強大化に伴い、習近平はリスクを恐れなくなっている。

中国の香港統治は、住民の激しい、大規模な抵抗にあってきた。2014年の雨傘運動、そして、この1年間続いているデモンストレーションだ。それは世界中の自由な生活を支持する人々から、称賛と支援を集めてきた。北京と香港行政長官キャリー・ラムは、戦術的に後退する姿勢を取った。

しかし、それは長く続くものではなかった。記者会見で、ラムは新法制を香港人の権利を損なわない、と説明した。誰がそんな言葉を信じるか。彼女のオーウェル風言語では、自由を安全保障の破壊という意味で考えている。

人民代表大会が決議しても、具体的な法制には時間がかかる。アメリカやイギリス、日本、オーストラリア、ヨーロッパ諸国は、香港市民を支持するキャンペーンを行うべきだ。

ポンペオは、香港に対する優遇措置を廃止する、と明確に示したが、それは北京にもわかっていたことであり、しかも、香港住民や、アメリカその他の外国企業が香港で活動するのを損なうことだ。トランプは、コロナウイルス問題で制裁を唱えており、香港問題で制裁を追加して報復合戦をしたくはないようだ。

問題は、トランプ自身である。トランプは香港問題に関心がない。多くのツイートを書くが、香港については、最近、何も書いていない。2014年の雨傘運動で、明らかなツイートが1つあった。「オバマ大統領は香港の抗議デモに関わるな。自分の国にたっぷり問題があるだろう。」 そう書いたのだ。

激しい弾圧が始まれば、トランプは手を出さずにはいられない。もし習近平が香港問題を片づけたら、同様に、台湾や南シナ海にも支配を拡大するだろう。


 パンデミックの株高

FP MAY 29, 2020

Why Are Stocks Soaring in the Middle of a Pandemic?

醜悪なほどの対称的な姿である。パンデミックは世界経済をシャット・ダウンして、膨大な数の労働者たちが自宅待機、解雇、遠隔ではないと取り残された。ほとんどのビジネスの将来は悲惨なまでに不確実だ。しかし、アメリカの株価指数は上がり続けている。バブル期に匹敵する上昇だ。

専門家たちに尋ねた。市場は何を意味するのか? 社会や経済は長期的にどうなるのか?

Diane Swonk ・・・主要な株価指数を決めるのは、かつてないほど、少数の会社である。経済全体の状態は反映していない。指数は主にハイテク企業、しかも、パンデミックを回避する位置にあるか、むしろこれによって利益を受ける企業である。

アメリカ連銀が金融市場のメルトダウンを防ぐために攻撃的に介入した。新興市場を逃げ出した投資家は、S&P500インデックスに嵐を回避できる安全な港を見たのだ。US株価は大きく下落しないだろう、と。

旧い基準で投資していることが懸念される。COVID-19はもっと巨大な、長期の課題であるのに。企業倒産が続く中で、バラ色のシナリオは崩れる。

David Rosenberg ・・・すべては流動性の供給が生じた株価上昇である。ワクチン開発も、ロックダウン解除も、経済の縮小が終わったことでもない。すべては連銀にかかっている。

Mohamed A. El-Erian ・・・メイン・ストリートとウォール・ストリートは、まったく違う星にある。株式市場が連銀に頼るほど、経済は高成長や雇用をもたらすものではなくなる。

急速なV字回復や、連銀が繰り返し救済のために流動性を供給するなら、この株価上昇は正しいことになる。しかし、長期的な包括的成長モデル、持続可能性、本来の金融安定性、社会によって広く支持された株式市場にはつながらない。生産性は上昇しないし、高成長や雇用創出が持続することはない。

ウォール・ストリートは繁栄し、メイン・ストリートは苦しむ。所得、資産、機会の不平等はすでに大きいが、さらに拡大する。

Adam Posen ・・・株価全体の動きに意味があるとしたら、それはGDPの一部が利潤として上場企業の株価に反映されるからだ。しかし、今の株価は醜く歪んでいる。

企業の利潤は市民の福祉や経済全体の状態と何の関係もない。すべては政治と技術変化がもたらした再分配である。規制緩和や規制を守らないことで、成長しないのに利潤が増え、労働者と消費者は市場支配力を失った。インターネット経済のネットワーク効果が少数の企業に利潤をもたらし、中小企業や新興企業は衰退した。

パンデミックがこれらを強めたのだ。これを変える方法は、課税と規制である。

Eduardo Porter ・・・すべては連銀が資産をあらゆる購入し続けるということに賭けているだけだ。とんでもないリスクの高い賭けである。

Trevor Jackson ・・・かつて、インフレーションは社会的平和の代償と言われた。その後、「大いなる安定」が起きた。1980年代後半から2007年まで、インフレが低下し、労働組合は解体し、融資は豊富に行われ、共産主義の脅威はなくなった。

2008年以降、中央銀行は再びインフレを創り出そうとしている。ただし資産価格だけだ。労働者は長期の失業と賃金の停滞に耐えている。社会的平和を得るのに、資本にはふんだんに支払い、他方、労働者はほとんど何ももらえない。こうした矛盾が10年も続いて、今年、さらに強まった。これは、永久に続くものではない。


 アメリカの人種差別

NYT May 29, 2020

America Is a Tinderbox

By Michelle Goldberg

この2カ月半のアメリカは、ディストピア映画のモンタージュを観るようだった。パンデミックに襲われ、ニューヨーク市の医療体制が崩壊した。アメリカ経済がフリーズし、失業者が急増した。フードバンクに並ぶ自動車の列が何マイルも続く。ロックダウンに反対する重武装の抗議活動が全土に観られた。誰も思いもしなかったことだが、ウイルスの死者は10万人を超えた。

ミネアポリスの警察官がGeorge Floydという名の黒人を、膝で喉を押さえつけていた映像が出た。彼は死ぬ前に、息ができない、と訴えていたが、それは2014年にニューヨークの警察官に殺害されたEric Garnerの最後の言葉と共鳴した。その事件はthe Black Lives Matter movement運動の起点となった。Floydの死は、その数日前に、ランニング中に、彼を見つけた3人のジョージアの男たちが追跡して殺害した黒人の若者Ahmaud Arberyを思い起こさせた。

その直後は、大統領とそのBlue Lives Matterもおとなしくしていた。しかし、木曜日になって、殺害にかかわった警察官を告発するかどうかまだ決めていない、という発表があって、ミネアポリスの騒乱が再発し、憤慨する人びとが警察管区で放火した。これに対してトランプはツイートし、「殺し屋ども」とよび、軍隊の暴力で脅した。“When the looting starts, the shooting starts.”

トランプは知らないのか、それは1960年代に実際に使われたGeorge Wallaceの人種差別的な発言だった。

トランプの大統領就任は右派の暴力が放つ衝撃と一致する。アメリカ全土が沸騰し、無秩序に傾いている。再び、「長い、暑い夏」が始まるのかもしれない。

われわれの大統領はカオスを避けることに関心がない。彼はアメリカが完全な内戦状態になることも、まったくOK、と明確に示している。

The Guardian, Mon 1 Jun 2020

As the George Floyd protests continue, let's be clear where the violence is coming from

Rebecca Solnit

「暴力」という言葉がアメリカ諸都市の出来事を描くために使われた。それゆえ、だれが暴力的なのか、暴力とは何か、明確にすることが重要である。ものを破壊することと、人間を害することとは、根本的に異なる。そして少数の例外を除いて、アメリカに広がった今回の騒乱における人間を害する行為の、事実上、すべては警察によって与えられた。

PS Jun 3, 2020

Another Long, Hot Summer in America

IAN BURUMA

アメリカは1968年の夏を再現するのか? そのとき、アフリカ系アメリカ人の住むインナーシティが燃え、若者たちが催涙ガスを浴び、拘束され、しばしば暴動鎮圧警官や国家警備隊に激しく殴打されるのを、世界は観た。

当時の市民的騒乱の結果が、今年の後半にも再現されることを、アメリカのリベラルは恐れる。共和党の大統領候補リチャード・ニクソンが、「サイレント・マジョリティー(静かな多数派)」、「ノン・シャウター(絶叫しない者)」、「抗議デモの不参加者」に、力によって法と秩序を回復する、と約束して当選したのだ。廃墟となった、ほとんどアフリカ系アメリカ人が住む都市部は連邦資金が枯渇し、ますます孤立して、白人の郊外地区では住民が多くの銃を買った。そして警察は、まるで軍の部隊のように、武装を強化した。

アフリカ系アメリカ人の大統領が2期、ホワイトハウスにいたけれど、黒人たちの状態を改善することはできず、ある面ではさらに悪くなった。COVID-19がアフリカ系アメリカ人を襲い、貯蓄もなく、リスクの高い仕事に出るしかなかったことで、彼らの怒りが高まった。しばしば医療サービスもなく、看護師などの「エッセンシャル・ワーカー」として働いたのだ。グローバルな不況が来ても、彼らには何のクッションもない。

1968年の抗議デモは、人種間の不平等だけでなく、ベトナム戦争への反対であった。リンドン・B・ジョンソン大統領は、その無謀な、野蛮な戦争をエスカレートさせた責任者だった。アフリカ系アメリカ人の生活を改善する市民権法案を通過させたのは民主党員だが、そのことで南部の多くの白人有権者は民主党から共和党支持に変わり、右傾化した。

ニクソンが敵対した「デモ参加者」とは、黒人だけでなく、彼らが不道徳とみなす戦争で戦うことを強いられるのに抵抗した白人の若者たちだった。ロバート・F・ケネディーは戦争を終わらせると約束し、アフリカ系アメリカ人の不安をなだめるために燃えているゲットーを訪れた大統領候補であったが、キングが暗殺された2か月後に、殺害された。

ニクソンが勝利した一因は、民主党の候補者Hubert Humphreyハンフリーが、穏健な主流派民主党員であったため、ベトナム戦争を非難しなかったことだ。ジョー・バイデンは同じ失敗を犯さないかもしれない。彼は抗議デモに明確な共感を示している。

トランプは、COVID-19をもたらしたわけではないが、その対策に失敗した。また、制度的な人種差別と騒乱を起こしたわけでもないが、有色の移民たちを侮辱して、巧妙に人種差別を広めた。白人至上主義者たちを「すてきな人たち」と呼んで、また、黒人の抗議デモ参加者を「殺し屋ども」と呼んで、保守派の武装デモを奨励し、ガードマンや警察官が最悪の暴行におよぶのを励ました。そして、「いい子ぶるのはやめておけ」と、うなったのだ。

極右集団には、「人種戦争」が始まる、と期待する声が出始めた。トランプは彼らの暴力的な熱狂を鎮めることなど決してしなかった。

もちろん、これは支持基盤を強化するものだろう。重要な問題は、2016年には彼に投票したが、彼の熱狂的な支持者ではない人たち、郊外に住む白人の女性や、中西部のブルーカラー労働者たち、南部の高齢者たちが、今、何を考えているか、である。

多くのアメリカ人は大統領の暴言や感情的な過激さに、明らかに恐怖を感じている。しかし、それを打ち消すほど、暴力的な社会争乱に不安を感じるのだろうか? 歳月を経て染みこんだ人種的偏見が、しばしば語られることも、知られることもないまま、白人への粗悪な攻撃に対する間違った防衛策として、トランプに投票させるのか?

それは、この夏がどれほど荒れるかによって決まるだろう。合理的に考えて、このおぞましい政権を次の4年間も権力にとどめることはあり得ない。しかし、恐怖は理性の最悪の敵である。

NYT June 3, 2020

George Floyd and Derek Chauvin Might as Well Have Lived on Different Planets

By Myron Orfield and Will Stancil

多くの隔離された都市と同じように、George Floydと、その殺害容疑で逮捕された警察官Derek Chauvinとは、まるで違う世界で育った。対立を深める2つのアメリカでは、その境界において、同じ悲劇が起きるのを待っている。

1960年代、70年代には、ミネアポリスはアメリカでもっとも人種的統合が進んだ地域の1つだった。都市の隔離は、注意深くデザインされた「フェアシェア」計画の結果であった。それは地域内のすべての自治区に「アフォーダブル・ハウス(低所得者用住宅)」を建設し、アメリカ主要都市で起きたような、郊外から低所得者を締め出すことを防止した。学校を強制的に統合する計画も進めた。

しかし時が経つうちに、両計画は特殊利益の圧力を受け、また、より政治的な問題の少ない計画に代わっていった。新しいアプローチは、学校の隔離を亡くすよりも、隔離された学校の改善に焦点をあてた。貧困地区の改善を、人種的な居住の隔離状態はそのままで推進した。しかし、その結果は居住と教育とを合わせて隔離することになった。

今、ミネアポリスは、教育、所得、雇用の、黒人・白人間格差がアメリカで最も大きい。人種間で隔離した地区はうまく行かない、ということだ。政治的、経済的に不安定で、互いに協力できず、理解しなくなった。偏見が強められ、人種間のボーダーを超えなくなった。人種差別が、警察にも、その他の政治気候や行政においても広まった。

平等な社会を放棄したミネアポリスの選択は、今、その代償を支払いつつある。


 暴力によって築かれた秩序

NYT May 29, 2020

The ‘Liberal World Order’ Was Built With Blood

By Vincent Bevins

「アメリカの指導力」が失われると、人びとはパニックになる。そう思うのかもしれない。アメリカのヘゲモニーが揺らいでいる、と。

しかし、冷戦終結でワシントンが勝利し、アメリカやヨーロッパ諸国はグローバル化する世界の勝者、受益者であった。多くの人々はもっと違うことを感じている。

私はこの3年間、冷戦の敗者たちとともに過ごした。今のグローバルな秩序を築くために、生活を破壊された人たちだ。ワシントンが冷戦で同盟を組んだ者たちは、彼らと敵対した人たちを、大量殺戮する計画を実行した。私はその犠牲者や生き残りにインタビューしてきた。アメリカのパワーの本質、そして、その将来を理解するには、パリの経営陣やワシントンのシンクタンクと同様に、こうした人々の経験が重要だ。

Winarsoの国はその重要な例である。1965年と1966年、アメリカ政府はおよそ100万人のインドネシア市民を殺害する計画を支援した。これは冷戦の最も重要な転換点であった。しかし、それは英語圏でほとんど忘れ去られた。まさに、それほど成功したのだ。アメリカの兵士は1人も死んでいない。もう1つ、自然な形で、アメリカの軌道に落ちた国があっただけ、のように見えた。

しかし、そうではなかった。アメリカが支援する軍部は、ワシントンが10年にわたって敵視したインドネシアの左派が、蜂起に失敗したことを弾圧の理由に使った。そして、その国を支配した。最近、公開された国務省の極秘資料が示すように、アメリカはこの大量殺戮を支援し、物資(武器)を与え、殺害を奨励し、犯人たちに褒美を与えた。

これは最初ではなかった。1954年、グアテマラ。1963年、イラク。アメリカは殺害リストを渡していた。しかし、1965年のインドネシアこそ、20世紀の反共暴力が示す頂点であった。彼らは、中国とソ連を除いて、世界最大の共産党、人気のあった非武装のインドネシア共産党を抹殺した。そして非同盟運動の創設者で、反帝国主義を明確に唱えていたスカルノ大統領を倒し、右派の独裁者となるスハルト将軍を立てた。スハルトはすぐにアメリカが最も重視する冷戦の同盟者になった。

これがグローバルな反共産主義運動における顕著な勝利であったために、世界中の極右集団が「ジャカルタ」モデルから着想を得たし、その武力行使をまねた。極右集団は、アメリカ政府と国境を越えて移動する反共組織に支援された。これに対して、左派も過激化し、武装した。彼らは、たとえ民主的な社会主義をめざす試みでも、殺害されると確信したからだ。

1970年代初め、チリで、右翼のテロ集団は社会主義者の家に「ジャカルタ」と書いて、同じように殺されるぞ、と脅迫した。1973年、CIAが支援したクーデタのあと、彼らは殺された。


 仏独のハミルトン・モーメント

PS Jun 1, 2020

The Prehistory of Merkel’s Latest Coup

HAROLD JAMES

アンゲラ・メルケルは、その首相としての長い在任期間中に、何度も驚くような決定を示した。2010年、ギリシャ救済融資にIMFを参加させた。2011年、ドイツは原子力発電所を閉鎖した。2015年、100万人のシリア難民に国境を開いた。そして今、5000億ユーロの統合復興基金に合意した。

アメリカが独立してまだ初期の時代に、財務長官ハミルトンは、独立戦争で生じた各州の債務を連邦政府の債務と「みなす」べきだ、と主張した。この債務の相互化は、緊急事態を解決するために必要であり、論争に勝利した。

10年前のユーロ危機から、連邦制を求める声はあった。すでにロシアと中国のEU加盟諸国に対する分断的介入、UKの離脱、トランプによるNATO解体への圧力、など、EUは危機を重ねてきた。しかし、現在のコロナウイルス危機は2つの理由で異なっている。第1に、グローバルな対策が欠かせない。第2に、ガバナンスの能力が問われている。実際、USUK、ブラジルが最悪の感染数と死者数を示すのは、無能で、イデオロギー的で、国際協調を拒む政府のせいである。

国民国家は正しい対策を示せない。それは、イタリアが19世紀にナショナリズムを創出したことに似ている。ビスマルク以前、今のドイツは多数の小国に分かれていた。各集団はローカル・アイデンティティーを強く持っていたが、拡大する市場、貿易、通信・輸送の新形態に対応できなかった。それは「魂の調和」ではなく、「純粋にビジネスの問題」だった。

1648年、ウェストファリア条約以前は30004000の独立した領邦が存在した。その数は18世紀までに300400に減少し、1815年以後、すべてがドイツ連邦に参加した。19世紀末には、ドイツ語圏に3つの国家しか存在しなかった。ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、スイス連邦である。

19世紀の国民国家は「鉄と血」でできた。今、新しい政治構造が「医療と経済政策」から生まれつつある。

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The Economist May 23rd 2020

Seize the moment

After lockdowns: The cure and the disease

India’s economy: Lockdown and out

Arms control: Be afraid, America

The extreme right: A boog’s life

The African School of Economics: Lessons from Leonard

Peak London: The wheel turns

Covid-19 and global poverty: The great reversal

Taxing carbon: The contentious and correct option

(コメント) Leonard Wantchekonは、プリンストン大学教授である。Benin(ベナン共和国:アフリカ西部のいわゆる「奴隷海岸」にある国)の中心部のZagnanadoに生まれた。奴隷貿易と人間への低い「信頼」とが関係あると示した彼の論文は、最も多く引用された経済論文の上位1%に入る。アフリカを研究する高等機関はアフリカにない。そこで彼はベナンにアフリカ経済大学the African School of EconomicsASE)を創設した。

Wantchekonの冒険はこれで終わりではなかった。大学入学後、彼はベナンの独裁者Mathieu Kerekou に反対する活動家になった。1985年に逮捕されるまで、彼は5年間も逃亡生活を送った。1年半後、彼は看守をだまして脱獄した。国境を越えてナイジェリアへ逃れ、象牙海岸を経て、カナダの難民となった。彼は研究に戻って、ノーベル経済学賞受賞者Roger Myersonの指導を受け、Northwestern大学でPh.Dを得た。

Wantchekonはアフリカ政治への強い関心を持ち続けている。軍閥政治が民主主義に転換する条件に関する研究を書いた。候補者たちがタウンホールでの討論会に参加すると、有権者は買収によってではなく、健康や教育に関する公約によって投票する。彼はイデオロギーよりも実証を好む。アルバニアへの旅行が、社会主義に関する彼の期待を失わせた。

ASELSEthe London School of Economics)にちなんだ名称だ。100人ほどの学生が、年間2400ドルで学ぶ。しかし、Princeton大学も姉妹校の1つだ。ASEではルソーやマディソンも読む。「脱植民地化」ではなく、人類の知性に貢献することが目的である。「怒れ。同時に、思慮深くなければならない。」

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IPEの想像力 6/8/20

アフリカにコロナウイルスの感染が拡大するとき、貧しいインフラと財政基盤で、何ができるのか? ロックダウン、PCR検査と追跡、隔離、自宅待機や経済不況に対する財政支援は不可能です。人工呼吸器どころか、手を洗うためのきれいな水もない。ソーシャル・ディスタンスより、食料の配給がなければ社会不安が高まる。

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コロナウイルス危機のもたらす社会経済的なショックから、次第に、もっと長期的な変化について考えるように、だれもが求められる時期になりました。

外国人観光客や東京オリンピックを、まるで日本経済復活の大事業のように宣伝してきた人びとは、何と愚かなことだったか、と反省すべきです。「観光資源」を開発し、サービス部門として旅館や歓楽街が雇用を増やすことが、ましてや、巨大な賭博場や不動産バブルを起こすことが、日本の新しい時代や「成長モデル」などと主張したのは間違いでした。この際、すべてやめるべきです。

必要なことは、金融政策でも、財政政策でもない。

ミクロ経済学でも、マクロ経済学でもない。

ケインジアンでも、マネタリストでもない。

サプライ・サイドでもない。莫大な債務は、ゼロ金利やマイナス金利ではなく、環境インフラ整備、地方都市への移住と住宅建設など、積極的なリフレ政策、そして富裕税、資本規制によって、安定的に解消されるでしょう。

構造主義なら、少し近いかもしれない。いつでも遮断できるような、緩やかなつながりの、自律型コミュニティーに向けて、既存の経済が大きく転換する中で、人びとが勇気をもって新事業に挑戦できるように。しかも、それが次の時代の望ましい社会の在り方であると信じる目標を、国民が議論し、一人ひとりの真剣な試みを助けるような仕組みを示すことでしょう。

既存の所得水準を維持するために、巨大な豪華クルーズ船が、再び利益を生むまで融資するべきなのか? 「夜の街」の歓楽街や接待サービス業が失業する期間に所得を補償し、回復を待つより、他の分野で働くような機会を与えるほうがよいでしょう。外国人ではなく、自国民が旅行を楽しめる所得と休暇を実現するときだけ、観光は豊かさの成果になるのです。

週末には、ぎっしりお客が入って、楽しく大いに飲み食いしてもらった飲食店が、2割ほどのお客で、最後は、次々に閉店するまで、緩やかに時間をかけることで需要と雇用を維持する政策が正しいのか? 居酒屋よりも、定食屋の方が正解だ、と私も思います。都市再編の中で地区の食堂やフードコートが現れ、あるいは、人びとが移住する新興都市に飲食店を移転する方が、パンデミックに強い社会になるでしょう。

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グローバリゼーションは終わり、新しい時代のグローバルな社会化・平等化が起きると思います。

アフリカではコロナウイルスの感染が及ばない地域を早期に隔離し、彼らの生活に資する産業活動・雇用をもたらす必要があるでしょう。ウイルスから安全な土地で、日本企業が開発区を設け、縫製業や食料生産、情報処理産業が形成される時代になるかもしれません。人の移動よりも、感染リスクを遮断した財貨や情報が、新しい産業圏や情報圏の連鎖を移動するのです。

あるいは、感染していないことを明確に検査したアジアの出稼ぎ労働者を、小集団で各地に迎え入れ、日本の農村や新興都市の建設に参加してもらうのがよいでしょう。遠隔で現地の希望者を集め、日本語や日本文化など、さまざまな条件を審査し、受け入れ地域が責任をもって選考します。それは出稼ぎも可能ですが、実績を積み重ねれば、定住化へのプロセスとして明確に受け入れ意思を表明する地域が増えるでしょう。

地球の各地に、住宅・医療・雇用を重視した新しい福祉政体が、さまざまな消費や娯楽、輸送やヒエラルキーを意識的に破棄して、3割、4割、小さくなったGDPで誕生する。そして貧しい土地では、急速に所得が伸びるのです。

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