IPEの果樹園2020
今週のReview
5/25-30
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コロナ対策による財政赤字と債務 ・・・トランプとコロナと分断 ・・・パンデミックに勝利した中国 ・・・労働の脱商品化と民主化 ・・・憲法裁判所と仏独共同声明 ・・・政府の権力拡大
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● コロナ対策による財政赤字と債務
FT May 16, 2020
Paying for the Covid-19 pandemic will be painful
Willem Buiter
いつかはパンデミックが終わる。財政赤字は支払う必要がある。それは現代貨幣理論MMTで魔法のように消すことはできない。
アメリカ連邦政府の赤字は、今年、3.8兆ドルに達するだろう。GDPの19%である。2021年は2.1兆ドルになるだろう。連邦政府の債務は、今年末までに、GDPの100%を超えるだろう。それでも、議会の民主党はさらに3兆ドルの支出案を推進している。
これをどうやって支払うのか? 第2次世界大戦後は、高い実質成長率、高いインフレ率、金融抑圧が、それを行った。今回、それらは期待できないだろう。パンデミック後の成長率は下がるだろう。
政府は実質金利を実質GDPの成長率よりも持続的に低く維持できると考えてはならない。グローバルな貯蓄・投資バランスの予測によれば、実質金利は上昇する。
インフレ圧力を生まない財政赤字の貨幣化を政府は大規模に進めることができる、政府債務は返済しない、というのは、現代貨幣理論MMTの「ワンダーランド」である。
したがって、われわれは財政を持続可能な状態に戻さねばならない、ということだ。パンデミックで急増する政府債務と中央銀行の融資の多くを、われわれは償却するか、ほとんど無価値の公的資産に対する請求権に転換するだろう。
それでも残るものは、政府支出の削減や増税、というおなじみの手段である。その割合は各国の政治情勢、制度、文化によって異なる。たとえば、GDPに占める政府支出の割合は、アイルランド25%、US38%、フランス56%である。
アメリカは、その腐食した福祉国家の基礎をパンデミックにさらした。国民の半数には、雇用と結びつけた医療保険しかない。失業保険の申請もギャップが大きく、しかも支給は遅れる。弱者、脆弱な人びと、不幸な事情に対して、保護策はさまざまな失敗に終わっている。
多くの先進経済がパンデミックから抜け出すとき、まったく異なる政治システムになっている、と私は思う。もっと累進的で、富裕税や相続税を含む、税制改革が、ラディカルに推進されるだろう。パンデミックの前に、ピケティの本(Capital and Ideology)が示す改革案は政治的に不可能だ、と思った。今は、わからない。
● トランプとコロナと分断
FT May 14, 2020
The racial reality of America’s pandemic
Edward Luce
セミオートマチックのライフルで武装した男たちの集団が、黒人で、アメリカの首都の議事堂に向かって移動していると想像してみればよい。彼らが警察官に止められずに、あるいは、もっと悪いことが起きずに、階段までたどり着く可能性はほとんどない。しかし、数日ごとに、白人の抗議集団がまさにそれをしている。彼らはしばしば建物に武器を持って入ることまでするが、止める者はいない。
大規模ロックダウンの中で起きる生死の問題ほど、アメリカ人の肌の色による違いを緩和するものはないはずだった。
しかし、コロナウイルスは違いを強めている。そこには、アメリカのパンデミックが示すジム・クロウ的現実の2つの面がある。1つは死だ。アフリカ系アメリカ人は、その人口比よりもはるかに高い比率で死亡している。多くの死者を出している州で、そうなっている。
それは職業を反映している。黒人とヒスパニックは、白人よりも多く、エッセンシャル・ワークに従事している。ワシントンDCの、私の家がある地区で、ごみを収集し、配達し、郵便を運ぶのは黒人かヒスパニックだ。彼らは多くの都市に住み、しかも貧しい。コロナウイルスで重症化しやすい既往症を持つ人が多い。
食肉の加工場もそうだ。労働者の多数がヒスパニックだ。アメリカ人の3分の2は、専門家が安全だと言うまで、ロックダウンの解除に反対だ。しかし、他の3分の1はロックダウン解除を求めており、その5%は職を失った黒人だ。70%は、今も仕事に就いている白人だ。
各集団は、ドナルド・トランプの話を違う意味で聴いている。トランプは、武装民兵集団のように、ミシガンの「解放」を求める。しかし、アフリカ系アメリカ人は、それが不便さを取り去ることを、黒人の命よりも重視している、という意味で聞いている。カリフォルニアのスーパースター企業家イーロン・マスクが工場を再開したのも、そういう意味だ。
アメリカにおけるパンデミックの第2の意味は、ソーシャル・ディスタンシングの実施だ。逮捕されるのは黒人が多い。監獄は、隔離されたクルーズ船のようになっている。
良いニュースは、多くのアメリカ人が意味のあるガイドラインに従っていることだ。少数派が解除を求めても、多くの人は従わない。悪いニュースは、多くのアメリカ人が自宅にとどまっていることはできないことだ。小切手の郵送も、追加支援策も、これ以上はないだろう。
したがって、ロックダウン解除の論争は人種問題となっている。トランプの再選戦略も関係している。この数日間、トランプは、バラク・オバマをパンチバッグにしてきた。オバマを、ワクチンを開発していなかった、と攻撃する。オバマはアメリカ史上「最悪の犯罪者」だと攻撃する。どんな犯罪か、と訊かれて、トランプは「犯罪が何かはわかっているだろう」と答えるだけだ。オバマが法を犯していないことは皆が知っている。しかし、問題は別にある。「お前の言っている犯罪じゃないさ。人々に訊いてみろよ。」
トランプの話は、それを聴く側によって意味が違う。こうしてCOVID-19も人種的なギャップを拡大する。
● パンデミックに勝利した中国
FP MAY 14, 2020
Xi Jinping Is a ‘Good Emperor’
BY ERIC LI
上海の生活と仕事は、徐々に、正常に戻っている。仲間と私は職場に戻った。レストランもバーも再開した。中国最大の自転車シェア企業Hellobikeは、私も投資しているが、利用者が70%回復した、と報告している。
悪夢は去った。中国は、まさにこのとき、正しい指導者を得て、幸いだった。
中国人民の政治制度に対する信頼は厚い。一党支配の権威主義体制であるという話からは、大衆の信頼は得られないはずだ。しかし、この認識は支配的だが、わきに置くべきだ。自然がもたらした猛威に対して、現実は無視できない。
1月23日、中国政府は武漢に、そして湖北省全体に、ロックダウンを命じた。5600万人の人口を擁する土地で、史上最大の防疫隔離だった。2日後、チベットを除く全国で、衛生非常事態が宣言され、7億6000万人の都市住民が自宅待機になった。必要不可欠の外出だけが許され、マスクが義務付けられた。当時、全国の感染者数と死者数は、571人と17人であった。
中国全土がその手段の大きさに驚いた。一夜にして、2400万人の上海で、交通渋滞の道路から、人も自動車も消えた。最初は、1週間、せいぜい2週間と思った。しかし、それは延期された。
数億人がこの命令を受け入れたことに、私は驚いた。これほど大規模な、多くの人が参加するロックダウンを維持するのは、自発的な参加によるしかない。人びとが彼らを守る政治制度の能力を高度に信頼しているときだけ、その命令に従うのだ。それを、中国の治安システムによる強制と考えるのは間違っている。
政府は国民に向けて、広く、積極的にコミュニケーションを行った。毎日、新しいデータを公表し、テレビで政府の専門家が説明した。また、中国の市民社会が活性化し、見事に反応した。文化大革命が終わってから最悪のトラウマで、中国人民の怒りが噴出した、と2月初めのソーシャル・メディアからは見られた。しかし、それは中国のチェルノブイリにも、アラブの春にもならなかった。
中央政府が行動を呼びかけたとき、国は団結した。50万人のボランティアが武漢の最前線に来て、健康と命の危険にさらされても、医療、隔離、配達に従事した。全国で200万人がボランティアに登録した。治安、アクセス、体温など、24時間の検査体制、高齢者など、脆弱な人びと生活保護。14億人のすべてについて、すべての通り、すべての居住区、すべての村で行った。
トップ・ダウンで政府はパンデミックに対する「人民の戦争」を呼びかけたが、それはボトム・アップだった。国家の能力はますます市場に依拠するようになっている。政府は確かに10日で1000床の新しい病院を建設した。しかし、それを動かすのは国中から集まった医師と看護師だった。多くは国家に雇用され、国政の病院で働く者たちだった。病院やマスクを供給したのは国有企業だった。政府はまた、危機の経済的衝撃を緩和するために行動した。雇用を継続する企業に賃金を支払った。
中国共産党はパンデミック対策の先頭に立ち、習近平は({悪い皇帝}になると批判されていたが)「良い皇帝」として、国民からの信頼を高めたのだ。
● 労働の脱商品化と民主化
The Guardian, Fri 15 May 2020
Humans are not resources. Coronavirus shows why we must democratise work
Nancy Fraser, Susan Neiman , Chantal Mouffe, Saskia Sassen, Jan-Werner Müller, Dani Rodrik, Thomas Piketty, Gabriel Zucman, Ha-Joon Chang, and many others
働く人々は単なる「資源」ではない。これは現在の危機が示す教訓である。病人を治療し、食事や投薬、その他の必要不可欠なものを届ける仕事、ごみを収集し清掃し、食料品店で棚に商品を並べ、レジを打つ仕事、人びとがパンデミックの中でも暮らせるのは、労働が商品以上のものであることを証明している。
人びとの健康や脆弱な者への介護は、市場によって統治することのみで実現できない。人びとの生命や職場の将来に関する意思決定に、雇用されている人々が参加すること、すなわち、会社を民主化することが重要だ。
労働を脱商品化することで、すなわち、すべての人々に有益な雇用を集団的に保障することで、すべての市民に尊厳を持てるような戦略的転換を実現できる。私たちの集団的な力を高めて、自分の生命とともに地球を守り、パンデミック、環境の危機に対処できる。
毎朝、外出禁止の生活が始められるのは、夜間、特に非白人コミュニティーや移民たち、インフォーマル経済の労働者たちがわれわれのために働いてくれるからだ。彼らの仕事が持つ重要さは、「エッセンシャル・ワーカーズ」という短い言葉に表現されている。それは1つの基本的事実を表現する。資本主義は常に、彼ら、目に見えない労働者たちを、「人的資源」と呼んできた。しかし、人間は他の多くの資源の中の1つではない。労働投資家がいなければ、生産も、サービスも、ビジネスも成り立たない。
彼らは会社にとって不可欠な存在である。しかし、職場の統治からは排除されている。企業や政府はまさに資本投資家による独占状態だ。危機に直面して、会社や社会が全体として、雇用されている人々の貢献を認めるには、民主化することだ。2つの世界大戦が、社会に対する女性たちの貢献を認めて参政権を与えたように。
ヨーロッパには労働評議会があって、会社に代表も出している。しかし、代表の声は弱く、執行部は株主が選ぶ。資本蓄積を進めるばかりで、環境破壊を加速した。それゆえ労働評議会の権限を強化し、執行部と同じ権限を与え、二重の多数決を求めるべきだ。
市場メカニズムだけに、われわれのコミュニティーが深い影響を受ける選択をゆだねることはできない。今まで、職場や医療サービス部門も利潤を優先して決めてきた。パンデミックは、それが正しくないことを教えている。戦略的、集団的な必要が、そこでは考慮されていないからだ。商品として扱ってはならないものがある。それに反対する危険なイデオロギーが支配してきた。
労働の脱商品化は、ある種の部門を「自由市場の法則」から救い出す。すべての人が貢献し、そこに属する人々の尊厳を高める。世界人権宣言の第23条が、すべての者に、働く権利、職業選択の自由、公正で良好な労働条件、失業に対する保護を求めている。
2008年の金融危機後に犯した間違いを繰り返してはならない。当時は、公的債務が膨張しても、債務者に何も見返りの条件を付けなかった。現在の危機で、政府がビジネスを救済するなら、民主主義の基本的条件を要求するべきだ。環境基準や、組織内部の民主主義を実現するべきだ。労働に投資する者は、資本に投資する者と、同等の重要性を持つ。
われわれはもうだまされない。資本投資家に任せていては、労働投資家の尊厳は守れない。環境破壊とも闘えない。会社を民主化し、労働を脱商品化し、人間を資源とみなすことをやめて、生命と地球を維持することを同時に目指すときだ。
NYT May 18, 2020
We Are Not Enemies. We Are Essential Workers.
By Yasin Kakande
最近、私は訪問医療介護の長い1日を終えて、自宅に向けて運転していた。そのとき、警察車両が後ろに来て、停止するようライトを点滅した。午後10時の道路は、ほとんど無人である。私は自動車を路肩に停めながら、動悸が打つのを感じた。
私はウガンダから来た黒人で、不安だった。マサチューセッツ州の知事が、外出時間を午後9時まで、と宣言したばかりだった。警官が私の車に近づくまで、耐えがたいほど長い3分の間に、私は、なぜ停められたか、何が起きるのか、考えようとした。
窓ガラスに近づいた警官は、たった1つだけ質問した。「エッセンシャル・ワーカーなのか?」 私はすぐに、そうだ、と答えた。彼は、私の免許証を見ることもなく、行ってもよいと手を振った。私の肌の色が、彼の知りたいすべてのことを知らせたからだ。
多くの黒人が、アメリカで、コロナウイルス・パンデミックの最前線にいる。介護施設、医療の専門スタッフ、食料品店、配達業者。そして地方においては、多数の正規許可書を持たない移民労働者たちが、畑で、工場で、社会の食物連鎖の機能を担う倉庫で、働いている。
公衆衛生危機が終わったあと、私たちは移民たちが不可欠な労働者であることを認める政治的意志を見出すのか? あるいは、ポピュリスト政治家たちが復活し、移民たちを危険な犯罪者、雇用を奪うために来た、税金で運営される公共福祉を食い物にする寄生者だ、と再び攻撃するのだろうか?
私の弟Wahabは、介護施設で働く、資格を持った看護師だ。彼はますます多くの介護される者が陽性となり、死者も増えるのを見てきた。弟は死者のために祈った。1年以上も介護し、深い絆を持つ人がいたからだ。彼はウガンダでレントゲン技師として卒業し、働いていた。これほど多くの患者の死を見たことはなかった。
ついに、彼も陽性の判定を受けた。彼とともに、一緒に住む私も、2週間の隔離期間を過ごした。隔離期間中、今までになく頻繁に職場から症状について診察や注意を受けた。今までにない、皮肉なことだ、と彼は言った。その後、彼は職場に戻った。
私たちを、敵や社会の寄生虫とみなす者が多いことに、私は絶望する。パンデミックの危機でエッセンシャルとみなされた産業や職場でも、私たちの姿が見えると、そう攻撃される。
私たちは、共感に基づく、現実的で、まともな改革を実現する政治的な意志を必要とする。私たちの多くが生活するために賃金を得ることを妨げている障壁を緩和し、減らし、究極的には廃棄するためだ。
私や私の弟のような移民は、あなたたちと同じように、働いて、家族を養いたい。そのためにここに来た。エッセンシャル・ワーカーとして、私たちは誇りを持っている。アメリカの労働者たちを代表して、すべての者のために所得の平等や経済的公平さに向けて一緒に闘えるなら、もっと大きな誇りを持つだろう。
● 憲法裁判所と仏独共同声明
PS May 15, 2020
The EU’s Nullification Crisis
DANIEL GROS
ドイツの連邦憲法裁判所Federal Constitutional Court (GCC)の最近の判決は、ユーロ圏に深い裂け目を開いた。3カ月以内に、ECBの債券購入が物価の安定性を維持するための「正当な」手段である、という十分な説明をGCCが受け取らない限り、ドイツ連銀はECBのPublic Sector Purchase Program (PSPP)公的部門債券購入プログラムに参加することを禁止される。
しかし、心配はいらない。ECBはすでに何度も公表している。それがドイツの裁判官達に不十分だとみなされるのは、彼らが中央銀行の債券購入を財政政策におよぶという難しい問題に長くこだわってきたからだ。エコノミストならだれでも知っているように、すべての金融政策は財政に影響を及ぼす。中央銀行が「非伝統的」政策を行ってきたことで、金融政策と財政政策の境界はさらにあいまいになった。
問題は、法律家があいまいさを極度に嫌うことだ。EUの機能に関する条約によれば、ECBが金融政策に関してのみ権限を持ち、財政政策の権限は加盟諸国が排他的に保有している。この分業は、欧州連合司法裁判所(CJEU)がそれを判定することを意味する。
こうした「権限」(管轄権)の論争は、すべての連邦制に共通して存在する。アメリカも同様の論争を1830年代に経験した。当時のアメリカ合衆国は、現在のEUよりも成立してからの年数が短かった。
草創期のアメリカでは、連邦政府の経済に関する権限は通商政策に限られていた。なぜなら関税が歳入の主な源泉だったからだ。1812年の戦争の後、議会は新しい歳入を必要とし、1820年代後半、関税引き上げを決めた。しかし、そこには北部の織物などの製造業を、当時の超大国であるイギリスの工業から保護する狙いもあった。
綿花を輸出する南部諸州はこれに反対し、関税が一部の州の産業政策として利用されている、と主張した。反対派のパンフレットは、現在のGCCの主張とよく似ている。
サウスカロライナ州では反対派の主張が広く支持され、州議会は職員に関税法の適用をやめるように命じ、その後、廃止を宣言した。GCCがドイツ連銀にECBの債券購入を禁止するという脅しも、これと同じである。
アメリカの場合、危機は政治的妥協によって解決する。双方が、公然と対立することは利益にならない、と理解したからだ(その後、南北戦争はそれを証明したのだが)。関税はわずかに下げられ、サウスカロライナが勝利を宣言し、同時に、勝ち目のない戦いを避けた(他の州は追随しなかった)。南部諸州に広がる不満を理解し、連邦政府(とくに北部諸州)はその圧力を緩和するようになった。
A.O. ハーシュマンの有名な用語法、発言・退出・忠誠、はしばしば最初の2つだけで議論されるが、それは間違いだ。ハーシュマンがいつもすぐに注意したように、発言と退出の選択は、忠誠を抜きに理解できない。
ドイツ政府は、ヨーロッパ統合という政治プロジェクトへの忠誠を問われるだろう。そして、その答えは1830年代にサウスカロライナが知ったように、GCCが戦っても「オウンゴール(自殺点)」でしかない、ということだ。
FP MAY 20, 2020
Are the Germans Edging Closer to True Fiscal Union?
BY KEITH JOHNSON
今週の仏独共同声明「コロナウイルス危機からの欧州復興イニシアチブ」は、弱った経済を助けるための5000億ユーロを計画している。問題は、オーストリア、オランダなどの反対を説得することだ。
重要なことは、フランスとともにドイツが、倹約家の北欧諸国が、ドイツに指導されて、過去には反対し続けた、一種の財政統合にEUを近づけることだ。欧州委員会への提案で、債務であるが、その後に譲渡(免除)する、というのは、南欧諸国が求めてきた債務負担の共有や、「コロナボンド」の発行ではないが、その方向に進むものだ。EUがタブーとしてきた財政移転に近づく。
仏独の提案は、全欧型の医療支援を含めて、さまざまなアイデアを取り込んだ。グリーン・エコノミー、デジテル化の加速を狙っている。また、中国や、非ヨーロッパの投資が戦略的部門に入ることを厳しく規制する。しかし、その核心は「復興基金」であり、欧州委員会が巨額の資金を市場から調達して、再建の必要な部門や地域に支援金を譲与する。
スペイン、イタリアなど、南欧諸国は、全欧型債務、もしくは「コロナボンド」を求めていた。しかし、債務の少ない北欧諸国は、オランダだけでなくドイツも、その考えを拒否した。そのことで南欧諸国は北欧に憤慨し、ヨーロッパ統合そのものを嫌いつつある。
ドイツの決断にとって、その憲法裁判所がECBの債券購入に法的な反対を表明したことは重要だ。ヨーロッパ最大の金融機関がパンデミック対策に使えなくなるリスクがある。それは南北対立をさらに過激化するだろう。メルケルは、このドイツの司法を是正するために、フランスの提案に合意したのだ。
目の前にヨーロッパ全体の崩壊の危機がある。これは短期的に最大の脅威である。同時に、メルケルはドイツの利益を考えている。ドイツはヨーロッパ最大の経済で、共通通貨、単一市場から大きな利益を得ている。長期的にそれを護ることは、短期的に倹約志向のドイツ有権者を怒らせるとしても、メルケルの戦略的視点では正しいことだ。彼女は、国民に支持されなくても、政治家として高い見地から、ドイツの国益を実現するつもりだ。
PS May 21, 2020
Europe’s Hamiltonian Moment
ANATOLE KALETSKY
5000億ユーロの欧州復興基金を呼びかける新しい仏独の提案は、コロナウイルスがもたらす最も重要な歴史的成果になるだろう。ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領との合意は、将来、EUの「ハミルトン・モーメント」として記憶されるかもしれない。1790年、アレクサンダー・ハミルトンとトマス・ジェファーソンとが公的債務に関して合意したが、それはアメリカを、ほとんど中央政府を持たない連盟から、本物の政治的な連邦制に変わることを助けた。
EUは、EUとして、EUの税収によって保証された債券を発行しれ、復興基金を調達する。各国政府からの資金を使うのではない。おそらくメルケルは、ドイツの世論が反対している、政府が共同で保証する「コロナボンド」を避けたのだろう。ドイツの税金がイタリアやスペインの債務返済に使用されることは、政治的に紛糾し、憲法違反にもなるからだ。
第2に、EUが債券を発行することは、政治家たちが避けてきた、財政的連邦制に向かうものだ。EUは新しい税収を必要とする。メルケルとマクロンは、欧州委員会の予算額をGDPの1.2%から2%に増やすよう提案した。それは激しい論争とロビー活動につながる。
おそらく合意は、国境を越える経済活動に対する全欧型課税になるだろう。たとえば、炭素排出、金融取引、デジタル取引に対する課税だ。それがコロナウイルス危機の復興基金だけでなく、たとえば、貧しい東欧諸国を支援する「連帯基金」や、UK離脱による約100億ユーロの財源不足を補填するために使用される。
第3に、メルケル=マクロン合意は、EUが借り入れによって活動を強化することを許すものだ。現在のほぼゼロ金利とトリプルAの資格を利用すれば、EUのわずかな歳入でも、レバレッジの可能性は莫大である。スペイン政府とジョージ・ソロスが提案したように、イギリスやUSのコンソル債のように、償還期限のない永久債を発行してもよい。年25億ユーロの利払いで、5000億ユーロを調達できるだろう。
今年は5000億ユーロの復興基金を調達し、その後、デジタル包括基金として1兆ユーロを、またその後に、輸送電化基金を2兆ユーロ、包括的な気候変動基金を3兆ユーロ。こうしてヨーロッパの経済・政治的な条件が根本的に転換する。
これら3つの要点を残して合意できれば、EUは「ハミルトン・モーメント」を実現する。
● 政府の権力拡大
FP MAY 16, 2020
How the Coronavirus Pandemic Will Permanently Expand Government Powers
STEPHEN M. WALT・・・世界中の政府が、コロナウイルス対策で、市民の日常生活をかつてない規模で管理し始めている。民主主義国家も独裁国家も、同様に、国境を閉鎖し、外出を禁止し、経済活動を停止し、検査、追跡、監視を行っている。より迅速で厳格な行動を取った政府が成功した。
新しい日常に慣れるよう命じられている。政治的機会主義と次のパンデミックが起きる恐怖は、多くの政府に新しい強権体制を維持させるだろう。いつもは公衆衛生に限定されるはずの個人情報が、コロナウイルス危機後の世界では、そうではない。ビッグ・ブラザーの監視社会になるだろう。
ROBERT D. KAPLAN・・・人びとは、保護を求めて、大きな政府を受け入れる。医療サービスなどの整備に、高率の税金を負担する。それは、史上かつてない再分配国家である。個人の監視、情報とプライバシー、巨額の政府債務、パンデミックによる米中対立の悪化で、軍事支出も増加する。
医療その他の専門家たちが大きな政府で重要な役割を占めるが、それはポピュリストたちの怒りを強める。アメリカは他国との協調を好まず、各地の国民国家が強化される。われわれの生活は今まで以上に規制されるだろう。
Robert Muggah ・・・国民国家の政府はパンデミック対策に失敗している。権力の再分割で、地方政府が強化されるだろう。
伝染病のあと、都市へのインフラ投資による解決を求めるだろう。コレラの流行後は、都市の下水システムに投資した。コロナウイルスでは、感染者の追跡、自己隔離を確認する、高度な監視システムに投資する。
KUMI NAIDOO・・・パンデミック後の世界は、われわれを冒しているアフルエンザに気付くことから始まる。過剰に消費して、自分の成功や幸せを顕示する病気だ。もっと平等な世界を築くためには、GDPで経済を評価するのは間違いだ。
COVID-19はラディカルな生産と分配の再考が必要であることを教えている。健康で、平和で、繁栄する社会に向けて、食料やその他の必需品を再分配することだろう。ローカルな、分散型の所有、社会的な財とサービスを共同で創り出す方向に進むべきだ。
政府は、その軍産複合体を利用し、市民たちが民主的プロセスに参加することを妨げている。
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The Economist May 9th 2020
A dangerous gap
Supply chains and the pandemic: The food miracle
Food security: The tables not yet turned
Social security: Socialism’s precariat
America vs China: Superpowered insults
International banking: Parallel universe
Russia: Journalists are revolting
Charlemagne: All Europe’s a stage
Finance in India: Bright spot
Gig workers unite: All worked up
(コメント) 莫大な予算措置は、莫大な詐欺的給付や請求、債務の累積が起きる。政治家と産業界が癒着して、救済融資や補助金が悪用される。ギグワーカーの条件を改善する予算はあるのか?
市場の不安に乗じて禁輸措置が始まる。特に、食料不安だ。世界の食糧供給システムが、ますます国際的な市場メカニズムを駆使した微妙なバランスを、円滑に、常時、達成するような状態は、いつまで続くのか?
アメリカと中国はパンデミックやWHO、ワクチンにも、あさましいほどの自国優先主義を示す。それは、貿易だけでなく金融や通貨システムにも及ぶ。国際通貨のパラレル・ワールドが避けがたい未来になった。インドのデジタル通貨決済もそうだ。
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IPEの想像力 5/25/20
森法務大臣は、カルロス・ゴーンが日本の司法システムを厳しく批判し、レバノンへ脱出した事件について、日本の司法を代表して、何かを主張する機会があった。しかし、中身のない、心に響くもののない、表面的なことばしかなかった。
もし彼女が、アメリカの白人警察官による黒人殺害を、司法システムのトップにある者として、意見を述べるような質問を受けたら、どう答えたのか? あるいは、デモ隊と警官隊との激しい衝突を、香港の司法システムのトップにある者として、解決する責任があるとしたら、北京による国家安全法の導入についてメディアを通して香港住民にどう説明したのか?
私は、日本政府の大臣が、恐ろしく能力を欠いた、その地位に値しない者たちではないか、という不安を感じます。大臣というのは、こんな人たちでよいのか? この人物の下で、国家の法体系や、死刑をふくむ法の執行が担われてよいのか?
もしこれが安倍首相という政治家のために行動する、彼とその関係者を護る者だから、選ばれたのであれば、それは、確かにアメリカのバー司法長官や、香港のキャリー・ラム行政長官も、そうかもしれないが、法秩序を崩壊させる重大な失敗・失策である、と断罪されるべきだ。
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香港が独立することはない、と私は思いました。中国がそれを認めない。
しかし、小さな可能性があるかもしれない。
もしアメリカが香港の自由を守ると約束し、それに応えて市民たちが行政長官と立法会を直接選挙で決めるために占拠し、北京からの介入を排除したら、それは1つの都市の内戦状態になる。市民たちの代表が北京と対峙するために、アメリカと台湾は、「ベルリン空輸」のように、「香港空輸」を続けて、交渉を支援するでしょう。
その背後には、アメリカと西側諸国が強い政治的な関与を示すだけでなく、軍事衝突を回避するように説得する、インドやロシア、トルコなど、地域の大国が北京に交渉による解決を求める必要があるでしょう。
アメリカと中国の指導者が、大局的に、地域と国際社会の秩序と繁栄の条件を築く合意を示すなら、そして、何より香港市民が、その新しい合意によって香港の自治や経済活動が、中国の主権の下でも永久に保障されると確信するなら、香港は新しい基本法と市長、市議会を、自分たちの投票によって支持するでしょう。
周庭女史が国家安全法について、「この法律が決まれば、私たちは死に、香港も死ぬだろう」と述べたとき、誇張された言葉のように私は感じました。しかし、北京は本当に「香港が死ぬ」ことを決めたのかもしれない。香港という都市が消滅し、住民たちが1人も残らない状態を、それで中国の秩序は安定する、と考えるのではないか。
国家安全法の報復に、香港に対する優遇策を撤廃するトランプは、まるで意味も分からないまま、それに手を貸している。香港は、北京とトランプによって絞殺された、と言えるでしょう。
森法務大臣や、彼女を大臣にした安倍首相は、この香港の死を止めるために、内外に向けて発言し、自国や他国の指導者たちと協議して、解決策を示すべきだ、と私は思います。国家の最高執政府にポストを占めるというのは、そういう政治家でなければならない、と思わないのか。
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