IPEの果樹園2019
今週のReview
12/30-1/4
*****************************
簡易版
[長いReview]
******************************
主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy,
The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● インドの民主主義の危機
FT December 20, 2019
Democracy in India is on the brink
Nilanjana
Roy
FT December 22, 2019
India is at risk of sliding into a second
Emergency
● ポピュリズム
VOX 20 December 2019
Economic causes of populism: Important,
marginally important, or important on the margin
Yotam
Margalit
VoxEU(CEPR’s policy portal)にポピュリズム論が連載されている。
グローバリゼーションによる経済的な不安や失業が、投票行動の差を説明できるのか? 52%が離脱を支持することを説明するには、不十分である。トランプ支持者を、中国からの輸入の急増で説明することにも同じ問題が残る。移民に関しても、それが経済変化によって起きたと説明できる場合でも、投票行動を説明するにはその影響は小さすぎる。
もっと大きな社会・経済変化を考慮しなければならない。その意味で、文化的な説明は重要だ。高等教育の機会、都市化、地方の疲弊、エスニックな多様性の増大。こうした変化は、伝統的な価値の破壊とともに、怨嗟の感覚を生んだ。グローバリゼーションと移民は、文化的、人工的な脅威を強めと理解できる。
その意味で、福祉政策や再訓練など、経済対策だけでは不十分である。移民の文化的な統合を促す政策、地域の再興、社会的なコミュニティーを再生する投資が重要だ。
FT December 21, 2019
Populists should beware the power of
capitals
FT December 22, 2019
Austerity, not the populists, destroyed
Europe’s centre ground
Wolfgang
Münchau
ヨーロッパの主要諸国が陥っている政治の混乱は、ポピュリズムがもたらしたものではない。主要政党、政治家たちが、国民に対して優れた方針を示さなかったからだ。リベラルな民主主義は自己破壊の歴史を歩んだ。
● 米中貿易戦争
PS Dec 20, 2019
Why the US-China Trade War Could
Re-escalate
ANNE O.
KRUEGER
中国は、多国間の開放型貿易システムの下で成長を実現した。しかし、アメリカのトランプ政権はそれを破壊しようとしている。一時的な和解があっても、米中貿易戦争が解決することはない。
PS Dec 23, 2019
Trump Will Make China Great Again
NOURIEL
ROUBINI
米中は競争的な新時代に入った。その結末は、戦略を築くトランプ政権の能力に大きくかかっているが、それこそ懸念の中心にある。
西側の旧コンセンサスは、その中身がないことを明瞭に示した。中国をWTOに加盟させて、より開放的な社会、自由で公平な経済に導く、というものだった。習近平体制の下で、中国はオーウェル型の監視国家を強化し、国家資本主義を推進し続けている。
この冷戦型世界は何に導くのか? 「管理型の戦略的競争」。米中の「共存・作戦」。「関与とデタント」というアメリカの対中政策。
● AIやロボットの普及
PS Dec 20, 2019
Economic Possibilities for Ourselves
ROBERT
SKIDELSKY
AIやロボットの普及は、私たちを労働から解放するのか? それとも、大量失業の時代が来るのか?労働節約的な技術の普及とそれに関する不安は、産業革命の時代にさかのぼる。
完全雇用だけが目標ではない。働くためだけに多くの時間を費やす人生を取り戻す可能性もある。
● 英米政治の構造的再編
NYT Dec. 21, 2019
Is the Big Shake-Up in Britain Coming to
the U.S.?
By Matthew
Goodwin and Eric Kaufmann
イギリスはこの9年間で8度の選挙を行った。4度の総選挙、2度の国民投票(スコットランド独立、EU離脱)、2度の欧州議会選挙である。それは世界で最も古い、最も安定した民主主義体制を、攪拌と変化の時代に向かわせた。
経済問題だけでなく、文化の問題が英米の政治を再編している。イギリスでは、2大政党ではなく、より広範な2つのブロックが形成されてきた。左派ブロックは、労働党、自由民主党、グリーンである。右派ブロックは、保守党、もっと右派のイギリス国民党BNP、UKIPもしくは最近のBrexit党である。
ボリス・ジョンソンと保守党は、「赤い壁」とよばれる、ミッドランドとイングランド北部の炭鉱・工場地帯、その有権者から得票することに成功した。それは、これまで労働党の地盤であり、民主党にとってのアメリカ中西部に等しい。
Brexit国民投票における離脱支持を示すのは、特に、移民問題であった。コービンは左派への支持を得られなかった。エスニックの多様化がもたらすさまざまな問題が、移民を明確に規制する保守党の支持につながった。それが、次のトランプ再選にも決定的な要因になる。そして、極右の増大を恐れる保守派は、労働者に有利な公共支出を増やすだろう。
FT December 25, 2019
Partisanship sates Americans’ lust for
belonging
Janan
Ganesh
● 気候変動が民主主義を変える
FP DECEMBER 21, 2019
There’s Only One Way for Democracies to
Save the Planet
BY JAMES
TRAUB
2016年、オランダの中道右派政権はパリ協定に署名した。強い支持ではなかったが。EUが気候変動の抑制ルールを決めるべきだと考えていたが、それは実現しなかった。政府は次第にポルダー・モデルを支持し始めた。それは、水面下に暮らすオランダ人が、堤防の決壊を防ぐために重ねた集団的努力を示す。
他の諸国はオランダのような、協力の伝統、政治文化、制度を共有していない。個人主義的で、敵対的な、アメリカのような社会が、将来、オランダ型の友愛精神を持つことは期待できない。
しかし、避けることができない障害に直面するとき、国民文化も変わるしかない。気候変動は、オランダが戦後にポルダー・モデルを築いたように、世界の民主主義諸国を変えるだろう。それはアメリカのようなリベラルな民主主義にも、中国の資本主義的な、同時に、全体主義的なモデルにも、生存の危機を感じさせる。気候変動に関するリアリストの発想が、より参加型の、分権型の、そして部族主義的でない、民主主義を普及させる。
PS Dec 26, 2019
Negotiating While the World Burns
ADAIR
TURNER
● アメリカ産業
FT December 22, 2019
America’s competitiveness problem
Rana
Foroohar
● ジョンソンの保守党政権
FT December 23, 2019
Boris Johnson faces a battle to save the
union
Bronwen
Maddox
PS Dec 23, 2019
King Boris’s First Test
ANATOLE
KALETSKY
The Guardian, Tue 24 Dec 2019
The populist right fought a dirty culture
war. Labour failed to fight back
Rachel
Shabi
● 反政府デモの年
FT December 23, 2019
Year in a word: Be water
Jamil
Anderlini
FT December 23, 2019
2019: the year of street protest
Gideon
Rachman
1848,
1917, 1968, 1989。歴史において街頭デモが重要な年はあった。2019年もそうだ。
抗議運動の地理的な拡大は、政府をパニックに追い込んだものだけで、Hong Kong, India, Chile, Bolivia, Ecuador,
Colombia, Spain, France, the Czech Republic, Russia, Malta, Algeria, Iraq,
Iran, Lebanon and Sudan。そのリストはまだまだ続く。
しかし、この世界的現象を1つのロジックで説明することはむつかしい。
ソーシャルメディアによる指導者のいない革命は、成功するために必要な戦略的組織化を欠いている。
● バミューダ
FT December 23, 2019
Bermuda’s status as safe harbour for insurers
under threat
Oliver
Ralph in Hamilton, Bermuda
1970年代、80年代に、アメリカの緩やかな規制の下で、バミューダ海域の島に集まった保険会社は、環境の変化に追われつつある。
● 東京オリンピックの経費
FT December 23, 2019
Japan is wondering if the Olympics are
really worth it
Leo
Lewis
東京オリンピックの経費が膨れ上がっている。その効果に疑問を示す者も増えた。1500億円、という政府の見積もりに比べて、今では、1兆円を超えると考えられる。
わずか数週間のオリンピック開催は、その支出に見合う価値があるか?
FP DECEMBER 24, 2019
Shinzo Abe Can’t Afford to Rest on His
Laurels
BY
WILLIAM SPOSATO
● アルゼンチンの希望
PS Dec 23, 2019
Argentina’s Bright Young Hope
JOSEPH
E. STIGLITZ
● 金融危機への脆弱性
PS Dec 23, 2019
The Crisis of 2020
STEPHEN
S. ROACH
世界経済の脆弱性があることは、次の金融危機を深刻なものにする。実物経済の不均衡、金融資産の価格高騰、金融政策の迷走は、その意味で、非常に危険である。
問題は、この低インフレ時代にまったく適合しない中央銀行のインフレ目標政策である。目標を下回る限り金融拡大を続けて、金融秩序の安定性を破壊し続ける。
● クリスマスの貧困家庭
NYT Dec. 22, 2019
Remembering the Poor on Christmas
By Charles M. Blow
1975年のクリスマスが数週間に近づいていたが、私の母はむつかしい選択に迷っていた。結婚生活をあきらめて、去るべきか。
私の父は暴力を振るうことはなかったが、親切でもなかった。酔っ払いで、放浪癖があった。
母は、私たち兄弟を連れて家を出た。最年長の兄は13歳、私は5歳だった。
私の曽祖父母は、私の大叔父が読むことも書くこともできなかったために、生涯、面倒を見た。しかし、曽祖父が亡くなったために、だれか介護する人が必要だった。
祖母は、曽祖父母が所有していた家に、大叔父ととも住んでいた。私の母は家がなく、こうして2つの問題を解決するために、祖母に迎え入れられた。
ほとんど空っぽの家で、私たちは立っていた。祖母から電話があったのはクリスマス・イブだった。
私たちは家を飛び出して、寒い、静かな夜を自転車で走った。
クリスマスツリーはあったが、なにも目立つものはなかった。私たちは貧しかったのだ。
私の母は豚肉の処理工場で働き、鶏肉の解体ラインで働いた。そして高校で事務の補助として雇われた。夜学のコースを修了して、ようやく、教師の職を得た。
しかし、その給与だけで、私たち兄弟や老母を養うのはむつかしかった。私たちは苦労して、自分たちのおもちゃを、引っ越す家族のガレージ・セールで買うか、町のごみ置き場から集めた。
母は、賢く、勤勉な女性だった。庭を耕し、豚と子牛を飼った。私たちは貧しかったが、飢えることはなかった。私は、母が私たちの寒さを防ぐために編み物をし、また母が買い物のためにクーポンを集め、2週間分の買い物をするのを観て育った。
クリスマスには、私の家族のような人々を思い出してほしい。貧しい、人生を転換する、苦難を乗り越える、分解した家族のこと。懸命に働くが、なかなか前進しない。
経済が好調なときは、貧困層が見えない。クリスマスの消費フィーバーで、私たちが贈り物に散財しているときも、食べるものや薬がない、貧しい人もいる。
貧困はアメリカで減ってきたが、決して消滅していない。センサスによれば、2018年にアメリカで3810万人の貧困層が暮らしており、そのうちの1190万人は18歳以下の子どもだ。
しかも、貧困は人種によって顕著に偏っている。黒人の20.8%が貧困層だが、ヒスパニックを除く白人の8.1%、アジア系の10.1%、ヒスパニックの17.6%が貧困層である。
民主党の大統領指名を争う木曜日の討論会で、37歳のPete
Buttigiegは「政治では、貧困層ではなく、中産階級に向けて話しているが、この国の貧困について話すべきだ」と発言した。
そう、クリスマスこそ、貧しい人々のことを思い出すときだ。
The Guardian, Tue 24 Dec 2019
Trump's holiday menu: handouts for
billionaires, hunger for the poor
Bernie
Sanders and Rashida Tlaib
NYT Dec. 23, 2019
The Cruelty of a Trump Christmas
By Paul
Krugman
NYT Dec. 25, 2019
The Forgotten Story of Christmas 1918
By Mary
Elisabeth Cox
● 世界を変えた50人
FT December 24, 2019
Fifty people who shaped the decade
日本人で挙げられたのは、黒田東彦だけです。
● 中東世界の秩序
FP DECEMBER 24, 2019
The United States Can Offer the People of
Lebanon and Iraq Something Tehran Can’t
BY
DENNIS ROSS, DANA STROUL
NYT Dec. 25, 2019
A Century Ago, the Modern Middle East Was
Born
By Ted
Widmer
● 監視社会
NYT Dec. 25, 2019
Giving the Gift of Surveillance
By Alex
Kingsbury
PS Dec 26, 2019
How Truth Survived 2019
CHRIS
PATTEN
● ユーロ圏改革
FT December 26, 2019
Eurozone reform deadlock reflects deep
malaise over integration
Tony Barber
● マルクスは正しい?
PS Dec 26, 2019
Was Marx Right?
ANDRÉS
VELASCO, LUIS FELIPE CÉSPEDES
マルクスの考えたような資本主義体制の強制的な破壊を逃れるには、政府が改革によって資本主義の性格を変えることだ。
********************************
The Economist December 14th 2019
On trial
Hindu chauvinism: Undermining India’s secular constitution
The spying business: The digital dogs of war
Chaguan: Caught in the middle
Free exchange: Mighty maker power dangers
(コメント) 民主党は、弾劾審査における証人喚問や記録の公開を大統領が妨害することに対して、裁判所で争うべきだった、と記事は主張します。それは共和党議員を大統領の側につくべきか、強い圧力にさらす。民主党は選挙によって決着をつけることを、また、民主党議員たちの次の再選機会を高めることを最優先しているのかもしれないが、それでは民主主義を破壊する行為に加担するだけだ。
ヒンドゥー至上主義と憲法改正、スパイ技術の輸出、中国における都市と農村の社会的分断、競争力の高いグローバルIT企業の独占を、世界は放置するべきか?
******************************
IPEの想像力 12/30/19
日本賞は、教育番組のための国際コンクールです。ピアノやギターのコンクールではないし、世界の高額所得者番付や、企業の時価総額や売上高のランキングでもない。GDPや温暖化ガス排出量、軍事支出や核弾頭の数でもない。優れた教育コンテンツを競って世界に広める、という企画はいいなと思いました。
サイバー戦争が懸念されています。The Economistの記事は、西側企業が非民主的国家に対して、武器だけでなく、監視や情報操作のためのソフトを輸出することについても、統一的な規制を強化するべきだ、と主張しています。
もう1つの日本賞として、武器(特に、核兵器や化学兵器)を無効にする技術や政策、国際条約を推進した人たちの活動をたたえてはどうでしょうか。
核兵器の保有によって特別な外交上の地位や安全保障を得られるのであれば、それを持つ国と持たない国との間で、紛争に関する平和的交渉は妨げられます。核兵器の小型化や精密化を進めるのではなく、核兵器やミサイル攻撃の無効化を、直接、推進する方がよいでしょう。(核兵器を起爆することができる仕組みを相互が保有すること、国際安全保障の専門委員会と外交部会が合意するとき、これを行使できることは、核保有そのものを抑制するのではないか。)
インターネットの遮断やウイルス攻撃を、すでに、監視型の専制国家が行っています。ネットやコンピューター、GPSに依存した戦争は、自動的な停戦合意のプロセスを関係諸国に求めるため、こうした情報セキュリティの諸手段を和平交渉のために使えるかもしれません。(停戦の条件として、仲裁する国際会議の判断で、戦争破壊の停止権原を行使できないか。)
そう。・・・もし核ミサイルを発射しても、それが自国に戻ってくるなら、・・・戦争でインターネットやGPSが使用できなくなるなら、外交が優先されるかもしれません。
****
北朝鮮が異例の長時間に及ぶ党中央委員会を開き、攻撃的な措置に向けた重大な決定を行う、と報道されています。何を決めるのか?
もしこれが恐怖映画なら、Mr.金正恩は、トランプ大統領が反撃の決断を抑制する、ぎりぎりの脅迫をする。アメリカ本土に弾道ミサイルがとどくのは危険すぎる。しかし、方向を変えたり、高度を変えたりして、アメリカ本土の都市を核攻撃できる、と能力を誇示することは、あるかもしれない。
しかし問題は、Mr.金正恩にとって満足できるほど、アメリカが大きな取引で譲歩するまでに至らないことだ。アメリカ政府が、朝鮮半島について何か行動しなければならない、と決断するとしたら、それは、韓国に対してミサイルを大規模に発射することだ、とMr.金正恩は考える。
確かに北朝鮮は、これまでも、民間航空機をテロで撃墜し、韓国軍の哨戒艇を撃沈し、金正男(金正恩の兄)を暗殺した。正男の弟も追跡している。
テロの水準では、ソウルに近い韓国軍の拠点にミサイルを撃ち込むとしても、以前の米韓の反応と大きく変わることはない。
そこでとどまるべきではない、とMr.金正恩は決断する。次元を超えた攻撃的な措置、として、日本に対して、国土の一部に弾道ミサイルを着弾させ、破壊力をその国民に示すことだ。核弾頭を搭載していない弾道ミサイルを発射し、次の核攻撃を示唆して威嚇する。
この映画では、第2部において、日本政府と自衛隊の対応は混乱を極め、国内世論が急速に戦争の危機へ、そして憲法「改正」へ向けて動きだす。さらに、国の内外から、さまざまな発言とソーシャルメディアの過激な主張が混じり合い、トランプ大統領の言動にも憤慨し、既存の政治的枠組みが崩壊し始める。核武装論や日米安保条約破棄、自衛力の確立を訴える新右派勢力による政界再編が起きる。
それは、ロシアや中国、政治団体、兵器産業などによる情報操作、フェイクニュース、メッセージ拡散ロボットの成果でもある。
****
東アジアに安全保障の穴があります。(関係諸国が協力しない限り、北朝鮮はこれを利用し続ける。) 香港や台湾と同じように、北朝鮮の国際秩序への統合化にも、中国が重要な役割を担います。
戦争を回避し、日本が平和と繁栄を築くアイデアを求めます。アジアも、中国も、変化し続けることを、深く理解し、ともに貢献できる秩序を描くようなアイデアです。
大みそかの晩ごはんに、ぶり大根を炊いて、NHKを観ていたら、障害のある子供たちが集まって「パプリカ」を演奏していました。曲も、歌詞も、踊っている子供たちも、映像と音に現れる以上に、何か、自分たちを衝き動かす静かな感動を覚えます。
******************************