IPEの果樹園2019

今週のReview

9/23-28

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大英帝国を失い、UKを解体するナショナリズム ・・・富裕層と環境破壊 ・・・ポピュリズムとメリトクラシー ・・・香港のネット革命と政治的妥協 ・・・技術革新と分配問題 ・・・中東の大渦巻き ・・・不労所得資本主義の興亡 ・・・大都市の繁栄と地方の怨嗟 ・・・オバマの大失敗

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 大英帝国を失い、UKを解体するナショナリズム

PS Sep 17, 2019

Back to Little England?

EDOARDO CAMPANELLA

歴史家たちは、Brexitを戦後のリベラルな国際秩序を一掃したナショナリズムの決定的瞬間と描くかもしれない。しかし、それはブリティッシュ・ナショナリズムではない点で、もっと複雑だ。逆に、ブリティッシュ・ナショナリズムはUK解体へ向かう。

北米、カリブ海域から、その後のインド、東南アジアまで、イングランド人は海外帝国を築く前に、ブリティッシュ諸島の南部や北西部で、内陸帝国を築いた。したがって「外部の帝国」がUKの異なるアイデンティティを共通のブリティッシュ・アイデンティティに収れんする一方で、「内部の帝国」は際立ってイングランド人の帝国だった。

何世紀にもわたり、帝国は富を生み出し、原材料を供給し、ブリティッシュ諸島の住民たちに世界中に散らばるプロフェッショナルな職業を提供してきた。その「文明化」の使命は、ある種の集団的な感覚を作り出すだけでなく、絶えることのない民主的・経済的な進歩の物語、を生み出した。

しかし、アイデンティティの融合はつねに不完全だった。

帝国が解体したときから、ブリテンをつなぐ紐帯も崩壊した。突如、イングランド人がブリテンを意味するようになった。2つの帝国の中核にあるイングランド人は、いつも、エスニックなイングリッシュ・ナショナリズムを抑制していた。それは統一と安定のためであり、自分たちが抑圧者とみなされないためだった。

しかし、彼らは「帝国人」である。そのナショナル・アイデンティティは、もしそんなものがあるとすれば、帝国の使命に固く結び付いている。第2次世界大戦中に、アメリカのF.D.ルーズベルト大統領はそう理解していた。「ブリティッシュは世界の至るところで土地を収奪した。あたかもそれが岩か砂州のように。」と彼はチャーチルに述べた。「400年におよぶ略奪者の本能をその血に受け継いでいる。」

ブリティッシュの栄光ある帝国の歴史は、常に、ヨーロッパの統合プロジェクトへの疑いを刺激した。UKは、ヨーロッパの(独仏の)帝国による植民地化を許すべきではない、と。ボリス・ジョンソンの「グローバル・ブリテン」戦略は、過去の帝国を再建する約束だ。

しかし、好戦的なイングランド人は理解していない。ブリティッシュ帝国の滅亡は、彼らのナショナル・アイデンティティを強め、自立を求めるだけでなく、そのようなイングランド人の政治的領土回復運動に対する防衛の意味で、スコットランド人、ウェールズ人、アイルランド人はEUを目指すだろう。

BrexitUK解体の引き金を引く。


 富裕層と環境破壊

The Guardian, Thu 19 Sep 2019

For the sake of life on Earth, we must put a limit on wealth

George Monbiot

莫大な富は、自動的に、莫大な環境への負荷をもたらす。それは富を所有する者の意図とは関係ない。超富裕層というのは、ほぼその定義において、環境の大規模破壊者である。

数週間前に、プライベート・エアポートの労働者から、私は手紙を受け取った。彼は毎日、Global 7000ジェットやGulfstream G650、さらにはBoeing 737が、たった1人の乗客で空港を飛び立つのを見る。その多くはロシアやアメリカに向かう。Boeing 737174人を乗せるジェット機だ。空港で25000リットルの燃料を給油される。アフリカの小さな都市なら1年間の使用量だ。

所得は、環境に対する負荷について、もっとも重要な決定要因である。余分の金があったら、環境問題を意識する人なら、ダイエットするだろう。肉を食べずに、オーガニックの野菜を食べる。しかし、移動・輸送の燃料や、消費する住宅のエネルギー、その他の材料には関心がない。


 ポピュリズムとメリトクラシー

PS Sep 13, 2019

The Meritocracy Muddle

ERIC POSNER

「エリート」とは誰のことか? 「庶民」とか? それは地方に住んで、信仰心の篤い、保守的な人か? 「専門家」とは、「エリート」とどう違うのか?

アメリカには古くからポピュリズムがあった。建国過程で、新しい憲法に反対する人たちは、それがイギリスの貴族制に代わる、アメリカの貴族制を築くものだ、と商人やプランターのエリートたちを批判した。アンドリュー・ジャクソンは、ポピュリストたちの不満に依拠して、1828年に大統領になった。

アメリカ建国者たちは、政治権力をエリートたちの手にとどめるシステムを設計した。すなわち、上院を州の政治経験がある者に、大統領選挙と地域社会の指導者たち(選挙人団)に、下院のみを直接選挙によって、しかし、当時は裕福な白人男性だけだった。法廷は教育あるジェントルマンが務めた。数十年後に、現代の政党が現れたが、それは経験ある政治指導者、弁護士、富裕層、ジャーナリストなどが、ゲートキーパーとして、有権者の選択を慎重に制限した。

その後、200年を経て、上院や大統領選挙にも、システムの民主化が進んだ。しかし、人びとがエリートに対して持つ不満は続いた。人びとが政府に求める要求が増え、政府がますます複雑になると、官僚が経済・政治生活の多くの分野を支配するようになったからだ。

もっぱら農業による経済が、高度な分業と資本を使用する経済に代わったことで、システムは管理者エリート、そして高度に訓練された専門家、によって支配されるようになった。20世紀になると、こうしたエリートたちは、その政治的地位や専門性を高めた。そして、ますます大学が供給する修了証書を必要とするようになった。

専門家による支配は、ポピュリストたちを刺激し、爆発力を増した。ポピュリストが権力を握ったいくつかの国では、専門家たちへの反感が、農民たちの糾弾によって知識人を強制収容所に送った。

根本的問題は、専門家たちが、庶民の理解していない、選択したわけでもないルールに、従わせる点である。同意を得ない要求には、民主主義の原則を否定するものがある。

しかもわれわれは、専門家たちが本当に公共の利益、と彼らが主張するものを実現しているのか、そうではなく、彼ら自身の利益を実現しているのか、という正当な疑問を持つ。専門家たちを疑う多くの否定的なケースを、彼らは供給した。ベトナム戦争、ウォーターゲート事件、1970年代のスタグフレーション、イラン・コントラ事件、クリントンの弾劾裁判、イラク戦争、金融危機、ウォール街の救済。過去半世紀に、人びとは繰り返し、政治家や政府高官が彼らに常習的に嘘をつく、ということを学んだ。それは致命的な失敗を隠し、狭隘な私的利益をもたらす政策を偽るためだった。


 香港のネット革命と政治的妥協

NYT Sept. 17, 2019

Hong Kong’s Protests Could Be Another Social Media Revolution That Ends in Failure

By Thomas L. Friedman

香港のデモは、現代の民主主義を問う意味で、注目されている。自由を求める人々を、たとえ最も強力な専制国家によっても、弾圧できない。Twitterの時代には、すべての者が指導者になり、追従者になり、広報官や批評家になれる。妥協はほとんど不可能だ。

しかし、要求を100%実現する抗議活動はない。特に香港ではそうだ。そこには事実上、1国に3つのシステムがある。1.主権を握る北京政府がある。2.北京を支持する保守的な香港人がいる。イギリス植民地から継承した部分的な民主主義を受け入れている。3.都市に住む、完全な民主主義を望む、インターネットに精通した、街頭で抗議デモに参加する若者たちがいる。

唯一の可能な結果は、それらが妥協することだ。Alex Lothe South China Morning Post)はその論説で、指導部なければ、取引ができない、と書いた。「われわれのソーシャルメディアが動かす革命は、例外なく、争乱をもたらすが、イスタンブールでも、カイロで、革命は失敗に終わった。」

私の考えでは、ソーシャル・ネットワークは権威主義体制を壊れやすくする(Egypt, Jordan, Turkey and Russia)。しかしまた、権威主義体制の支配をさらに効果的にする(中国)。また、「真実の終わり」、「妥協の終わり」により、民主主義を統治不可能にする(America, Brexit and Hong Kong)。

香港が前回の抗議活動を始めたのは、2014831日に、北京の妥協案を拒んだ後だった。北京は香港に、指導者を選ぶ声を拡大する、と決定したのだ。1200人の選挙人委員会が行政長官を決めていた(今もそうだ)。委員会は、北京に忠実な、保守的な農民、ビジネスマン、漁民から成る。しかし北京は、委員会が候補者リストのみ決めて、その中から香港人が選挙を行うことを提案したのだ。

それは驚くほどの妥協ではないが、香港の民主主義を発展させる候補を選ぶことができただろう。提案を拒否し、2カ月にわたって香港各地を占拠した「雨傘革命」は、「11票」「制限なし」の完全な民主主義を求めた。

しかし、冷静な頭では、圧倒的なパワーを持つ北京に対して、妥協は有効な選択肢であったと思う。


 技術革新と分配問題

The Guardian, Sun 15 Sep 2019

The Guardian view on the future of work: share out the benefits

Editorial

カリフォルニア州は、グローバル化した世界でも十分な規模を持つ、数少ない経済圏だ。これまでも自動車の安全性や排出規制で先行したケースがあった。カリフォルニア州はまた、ギグエコノミーが誕生した場所である。労働法やその他の規制を回避する、アルゴリズムに支配された経済である。州議会は、こうした契約労働者の搾取を許さない姿勢を示した。

PS Sep 18, 2019

The Economic Consequences of Automation

ROBERT SKIDELSKY

技術革新が、雇用を減らすのか、増やすのか、明確な答えはない。エコノミストは、短期的には減らすが、長期的には成長を高めて、雇用を増やす、と考える。しかし、それは抽象的な議論だ。

生産工程の革新は、労働を消滅させる。リカード、マルクス、ヒックスは、異なる答えを考えた。答えは、技術革新の性格、生産要素への需要、労働と資本のバランス、に依存する。


 中東の大渦巻き

FT September 17, 2019

When Donald Trump discovered the real Middle East

Roula Khalaf

われわれを傷つけるなら、お前の友人を傷つける。それがイランの戦略だった。その目的は、アメリカがイランの制裁を課し、石油輸出を禁止するなら、その痛みは地域に広がる。他国も輸出させない。

サウジ王室の重要施設を攻撃したことは、これまでのルールを破った。影響は世界の石油供給を5%減らし、石油価格は10%上昇した。1990年、サダム・フセインのクウェート侵攻を思い出すだろう。

攻撃を行ったのが、イエメンのフーシ派か、イラクの拠点か、イランからか、まだわからない。それにもかかわらず、イランの責任が明白であり、限度を超えたものだった。

しかし、危機は予測できたことだ。トランプは中東で何を自分がしているのか、わかっていない。自分は取引によって、オバマを超える好条件で合意する、と信じた。しかし、イランの体制には耐えられない圧力であり、イランは防衛のために攻撃に向かい、多くの武装勢力を周辺諸国に持っている。

それはまた、リヤドの失敗であった。4年におよぶイエメンへの軍事攻撃は、フーシ派勢力を抑え込めなかった。当初、イランの影響などなかったイエメンで、今では明確な支援を受けている。

すでに解任されたジョン・ボルトンは、圧力によってイランの体制が崩壊するか、アメリカ軍が侵攻することを目指しただろう。トランプは、脅迫しても戦争せず、イラン政府が彼に屈すると考えた。しかし、イランはトランプの望む条件では交渉しない。

アメリカがイランを攻撃すれば、サウジアラビアはさらに攻撃を受ける。

制御不可能な中東の紛争を、トランプは再選キャンペーンに利用しようとした。歴史を学ばず、細部を知らない、そんなトランプが、中東で危機を起こすことがいかに容易で、それを制御し、ましてや終結させることがいかに難しいか、発見しつつある。


 不労所得資本主義の興亡

FT September 18, 2019

Martin Wolf: why rigged capitalism is damaging liberal democracy

Martin Wolf

アメリカの経営者たちは「ステークホルダーの利益を企業の目的にする」という声明を出した。

確かに、何かが間違っている。昨年、As Jason Furman and Peter Orszagは論文に書いた。「1948-1973年、アメリカにおける家計所得の中央値は年3%で増加した。子供たちが両親の諸遠くを超えるチャンスは96%あった。しかし、1973年以降は、年0.3%の増加でしかなく、その結果、子供たちの28%は良心の所得より低くなった。」

なぜ経済は人々に所得をもたらさないのか? それは不労所得rentier資本主義が登場したからだ。「レント」(地代・不労所得)とは、財・サービス・土地・労働の供給を促す以上に高い報酬を意味する。市場や政治力が、特権的な個人や企業にすべての人々からレントを吸い取ることを許している。

技術は大学卒業者に依存し、不平等を拡大した。高所得者の上位1%が占める税込所得の割合は、1980年の11%から、2014年の20%に上昇した。それは、スキルに偏った技術変化、グローバリゼーション、特に、中国との貿易、移民の流入によって説明できない。不平等を決めるのは、国内制度や政策の違いである。それらの影響はむしろ小さく、成長や財政にプラスである。

金融の果たした役割は重要である。金融自由化は、癌のように、転移した。金融部門は、自分たち自身で、信用、所得、しばしば幻想でしかない利潤をもたらした。BISStephen Cecchetti and Enisse Kharroubi2015年に書いた。「金融の発展は、ある点までは良いことだが、それを超えると、成長を損ない、全体的な生産性上昇を妨げる。」

企業の経営者の報酬もそうだ。Deborah Hargreavesによれば、UKにおいて、平均的な企業重役の報酬は平均的な労働者の、1998年に48倍から、2016年には129倍になった。アメリカでは、1980年の42倍から、2017年の347倍になった。報酬を株価に連動させることは、経営者たちに株価を引き上げる強い動機を与えた。そして彼らは、収益を操作し、借り入れによって株を買い戻した。どちらも企業の価値を高めることはない。

さらに根本的な問題は、競争が失われたことだ。アメリカで市場の集中化が進んだ証拠がある。企業の独占利潤が増え、異なる企業では同じスキルでも労働者の報酬を増やした。その理由の一部は、「勝者総取り」市場の性格があるだろう。ネットワーク外部性を利用できる、限界コストがゼロのプラットフォーム企業(Facebook, Google, Amazon, Alibaba and Tencent)はその典型だ。

地理的な集積にもネットワーク外部性が働く。ロンドン、ニューヨーク、カリフォルニア湾岸など、成功する大都市には強力なフィードバック・ループがあり、才能ある人々を集めて高報酬をもたらした。他方で、取り残された街のビジネスや住民は苦しんだ。

独占利潤は政策の結果でもあった。株主価値の最大化、という主張は、非常に複雑な問題を過度に単純化した。レント・シーキングは、課税回避のあからさまな試みを激化させた。安全保障、法体系、インフラ、教育、社会・政治的安定性など、公共財を企業は享受しているが、税金を逃れる最高の地位を得た。課税競争、税源の浸食、利潤の海外移転。その結果、各国の税率は低下し、企業は知的財産をタックス・ヘイブンに移して、債務による税の免除を利用した。

Brad Setserによれば、アメリカ企業が小さなタックス・ヘイブン(Bermuda, the British Caribbean, Ireland, Luxembourg, Netherlands, Singapore and Switzerland)で申告する利潤は、6大経済圏(China, France, Germany, India, Italy and Japan)で上げる利潤の7倍もある。トランプはこれに何も対策を示さない。

企業のロビー活動は、普通の市民の利益を圧倒している。西側経済の中で、いくらか所得分配がラテンアメリカに似てきたところでは、政治もラテンアメリカのようになってきた。必要な改革を唱える新しいポピュリストもいれば、外国人を攻撃する、少数者のための資本主義を促す者もいる。

利益は分かち合うものだ、という人々の正当な信念を実現する、ダイナミックな資本主義が必要だ。


 大都市の繁栄と地方の怨嗟

FP SEPTEMBER 18, 2019

The West Has a Resentment Epidemic

BY ROBERTO STEFAN FOA, JONATHAN WILMOT

ミネソタ州は、何十年も、下院・上院・大統領選挙で民主党候補を支持してきた。1984年、ロナルド・レーガンが大差で再選されたときでも、ミネソタは元民主党の上院議員、ウォルター・モンデールを支持した。

しかし2016年、予想外にも、大統領選挙運動において、ドナルド・トランプへの支持が高まったのだ。最終的に、トランプは87の郡部で78を取った。クリントンが僅差で勝利したのは、最大都市のミネアポリスで票を得たからだ。

ミネアポリスは、トランプ支持者の郡部に取り囲まれたリベラリズムの孤島のようになっていることに、進歩的な人びとは気づいた。どの方向に自動車を走らせても、100マイルの向こうまでトランプ支持者の郡部である。もっと走っても、そうだろう。

郡部ごとの投票結果を分析すれば、1つの事実が明白である。進歩的なアメリカ人は、東部と西部の沿岸に散らばって、諸都市の群島をなしている。

コスモポリタンな都市と、経済的周辺との格差は、西側に広がる新しい社会階級の分断となった。人びとの住む場所が、ますます、その信念や価値観、帰属意識を決める新しい要因となっている。2016年のEU帰属を決めるイギリスの投票も、2017年のフランス大統領選挙も、それを示した。

グローバル・エコノミーの変化が、空間的に、新技術、グローバリゼーション、リベラルな価値観をもたらし、進歩的な都市民の有権者を創った。他方で、そのアイデンティティや経済的な繁栄を、かつてないほど脅かされている、取り残された人びとも創った。地方の小さな町はもともと文化的に保守的であったが、この分断状態は経済や富の不平等が生み出した怨嗟によるものだ。

なぜ政治的混乱は、10年前、世界金融危機の頂点ではなく、今になって起きたのか? それは、この10年間に各地域で起きたことを観ればわかる。

危機はコスモポリタンな都市部を一時的に後退させた。しかし、その金融部門は政府の巨額の資金で救済された。そのことは緊縮財政に苦しみ続ける、工業を失った地域の窮状を鮮明に示した。裕福な、コスモポリタンな諸都市は前進し、周辺はさらに、もっと後ろへ追いやられた。

政府が周辺の地方を無視していることで、物質的な窮状に不正義の感覚が加わり、ポピュリスト的怨嗟が燃え上がった。繁栄する諸都市が救済されたのに、もっと貧しい地方は多くの支出削減で死につつある。政府の財政緊縮策は、地方予算をカットし、地方における投資を枯渇させた。

アメリカで、当時のオバマ政権において、財務長官だったガイトナーの政策がそうだ。トランプが、海外で支出するのをやめて、アメリカのインフラ再建を始めると約束したとき、民主党の支持基盤で多くの支持者が現れたのは当然だった。そこは穴だらけの道路、ぼろぼろの橋しかない、かつて共和党を支持したことのない土地だった。

UKでは、キャメロン首相とオズボーン蔵相の保守党政権が、地方の怨嗟を引き付ける完璧な避雷針となった。イートン校、オックスフォード大学を出た、ロンドンではノッティング・ヒルの排他的な高級住宅地に住むエリートであった。彼らは首都のコスモポリタンなエリートたちの利益を代表し、限界集落や郡部の予算を削った。

たとえル・ペンが敗北しても、黄色いベスト運動が現れた。UKIPは崩壊したが、Brexit党が復活して欧州議会選挙で支持された。トランプが再選される可能性は半々だが、彼がいなくなっても、その支持者たちは残る。

ポピュリズムに対抗するより、その源泉に注意を向けるべきだ。成熟したアプローチを採って、ポピュリスト的な憤慨を生み出すメカニズムを解消し、武装解除することである。ボリス・ジョンソン首相も、黄色いベスト運動と対話した後のマクロンも、トランプ大統領も、地方住民の負担を減らし、地域経済の復興を約束し、投資し始めた。

グリーン・ニュー・ディールは進歩派たちの幻とみなされているが、超党派で取り組むプロジェクトになりうる。道路、鉄道、都市を再建し、アメリカの忘れられた後背地と、繁栄する、進歩的な沿岸部とを再統合することだ。

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The Economist September 7th 2019

Assad’s hollow victory

The European Central Bank: Parting gifts

Argentina: A superclassic crisis

AI and war: Mind control

Banyan: Forward to the past

The future of the right: The People’s Revolutionary Conservative Front

Bagehot: Into the upside down

(コメント) 金融危機後の世界は、逆立ちしたままスケートするように、素晴らしいのか、危険なのか、その両方の評価と混乱を生じています。

アサドは権力を維持し、自国を破壊して、多くの難民と外国の支配下にあります。ECBのドラギ総裁が、退任する前に、もう1つのサプライズを実行するのかどうか。アルゼンチンは、超古典的な新興国の国際金融危機を再現しています。AIが決める戦争について、あるいは、長い内戦を終えた軍事指導者の政治的な逸脱と破壊について、中東や南アジアだけでなく、イギリスの議会も盛大に暴走する姿を世界にアピールしています。

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IPEの想像力 9/23/19

いつも月曜日、母と夕食をとり、そのあと、百名山のテレビ番組を観てから、自宅に帰ります。野鳥や高山植物を観て、ゆっくり登山することが楽しいと思うのは、都市で、時間に追われ、人とのつきあいにストレスを感じるからでしょう。

平和と繁栄を共有できるのか?

サウジアラビアの石油処理施設がドローンによる攻撃で破壊された。それは世界の石油供給を5%減らした。イエメンの反政府軍が攻撃を認め、内戦の終結を求める声明を出した。

安倍首相は国連総会で演説し、石油市場を人質にとる行為だ、と非難した。しかし、トランプ大統領にも言うべきではないのか? イラン核合意を破棄し、経済制裁を強めて、イランの体制崩壊を促した。ホルムズ海峡の防衛に、日本も軍を派遣するよう求めている。

巨額のミサイル防衛システムや戦闘機を購入したサウジアラビアが、はるかに安価なドローンによって石油施設に致命的打撃を受けた。給水パイプラインも狙われた。同じことは日本にも起きるだろう。イージス・アショアで、原発に対するドローン攻撃は防げない。

戦争を終える、というのは、1に、イエメン政府が軍事力を独占することだ。武装勢力は国家の権威に置き換えられる。国連が、武装解除を監視する、と国連特使は書いている。対立する政治党派が包括的にパートナーシップを組む。意見の相違は、軍事力ではなく、政治で解決する。政府は、交易の安全、海域の安全保障を確立する歴史的な責任を果たす。国家の将来を決めるのは、イエメン国民とその指導者だけである。

しかし、トランプも、ボリス・ジョンソンも、政治がうまくいかないことを示している。何が、これほど異常な指導者を生んだのか?  ROBERTO STEFAN FOAJONATHAN WILMOTは、グローバリゼーションと世界都市の関係に注目する。コスモポリタンな都市と、経済的周辺との格差は、西側に広がる新しい社会階級の分断となった。「人びとの住む場所が、ますます、その信念や価値観、帰属意識を決める新しい要因となっている。2016年のEU帰属を決めるイギリスの投票も、2017年のフランス大統領選挙も、それを示した。」

グローバリゼーションは、世界中の新興諸国において成長と分配を有利にしただけでなく、旧工業地域を衰退状態に追い込んだ。経済学が無責任な形で「証明」した金融市場の効率性や投資の国際的配分は、金融ビジネスや企業家の超富裕層を生みだす「不労所得資本主義」であった。

金融危機にもかかわらず、むしろ、金融危機になったからこそ、「大恐慌の再現」を恐れて、これほどいびつな、間違った社会政治秩序を救済し、再生させた。それが緊縮政策や地方への無関心、切り捨てを感じる人々に「怨嗟」と「怒り」を広め、ポピュリストたちに沃野を与えた。「社会民主主義」や「福祉国家」が復活し、「グリーン・ニュー・ディール」が支持を集めるのは当然である。

アメリカ軍が高度な兵器で武装すればするほど、貧しい国の政治をゆがめ、首都の利権が汚職と内戦、伝統的支配者たちのナショナリズムによる抵抗へ向かわせる。イエメン内戦は拡大し、アフガニスタンの和平交渉は失敗し、コロンビアの合意も崩れつつある。

外国から来て日本で働く労働者たちが、著しい不平等や不当な扱いを受けているのではないか。労働市場が、派遣や非正規の雇用を増やす中で、十分な食事の世話を受けられない子供たちが増えているのではないか。精一杯働いても、安定した暮らしが得られない、子供たちに成功の機会が失われている。国内でも世界でも、都市以外の、辺境の社会が衰退することを「市場」によって推進する時代は、逆転し始めた。

あるいは、平和も繁栄も、ポピュリズムに食い尽くされる。

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