IPEの果樹園2019

今週のReview

9/16-21

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ボリスの強硬策 ・・・米中貿易戦争 ・・・ステークホルダー資本主義 ・・・アメリカの若者たちは決意した ・・・ポピュリズムはピークを越えたか? ・・・北朝鮮がトランプに送るシグナル ・・・「日本化」への正しい処方箋

長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ボリスの強硬策

NYT Sept. 6, 2019

Boris Johnson’s Do-or-Die Debacle

By Roger Cohen

彼は警告されていた。もし合意なきBrexitを阻止する法案に賛成したら、ボリス・ジョンソンの保守党内で、政治キャリアはおしまいだぞ、と。しかし、他は20人の保守党議員とともに、法案に賛成し、党を除名された。党内の経歴を積むより、国益を優先したのだ。「合意なしの離脱は破滅である。」と彼は言う。ボリスの計画はイギリスを脱線させるものだ。

ボリスは、自分が「人民」を代表している、と言うが、まったく間違っている。彼は保守党の92000人余りによって選出されただけだ。彼らのほとんどは国民の中の極端な集団である。ボリスとは、倨傲の代名詞だ。

ジョンソンの醜さは、自分なら、イギリスが1031日にEUを離脱できる、と考えることだ。何十年も積み上げたイギリス政治を破棄する行動である。一気に、製造業のサプライチェーンが破壊され、空港、港、病院が大混乱になる。イギリスの連邦制も解体しかねない。

しかし、2016年の国民投票で人民がそれを決めたのだ、と彼は言う。いや、違う。彼らが支持したのは、円滑な、秩序ある離脱である。ジョンソンたちがそう約束したものだ。

追い詰められたジョンソンは、1015日に選挙を望んだ。しかし、野党によってその動議が否決された。彼は「人民対議会」という選挙運動を展開し、ハードBrexitのメッセージによってファラージのBrexit党から支持者を奪い返そうとした。それは危険な賭けである。スコットランドの保守党議員を失った。

1つだけ、ジョンソンが正しいのは、選挙が必要だ、ということだ。しかし、このダウニング街10番地に住む誇大妄想狂は、そのウィットと魅力をまき散らすものの、道徳的な均衡を捨て去り、内輪の仲間を除いて、すべての者の信頼を失った。

イギリスにとって最善の結果は、数か月の離脱期限延期と、11月の総選挙であろう。脅されるなら、イギリス人は反発する。保守党を除名された21人は、ヒーローである。

トランプの支配する国に、21人の気骨ある共和党員はいないのか?

FT September 9, 2019

Boris Johnson’s Britain is a test case for strongman politics

Gideon Rachman

アメリカのトランプ, ブラジルのボルソナーラ, フィリピンのドゥテルテ, トルコのエルドアン, インドのモディ, ハンガリーのオルバン、そしてイギリスのボリス・ジョンソンBoris Johnsonも、「強権指導者」のリストに名を連ねた。ジョンソンは、違う性格を売り物にしてきたはずだ。何が彼を、ドゥテルテやエルドアンのような殺し屋と共通する指導者にしたのか?

強権指導者の好む行動はよく知られている。法を曲げる、そして破る。忠誠を示さない公務員を辞めさせる。人種や性別に関する「政治的に正しくない」発言で支持者を煽る。リベラルの優れた点を侮辱し、それを正当化するために、自分たちを、腐敗し、庶民を無視した政治家たちに反対する、人民の代表だと主張する。

イギリスのエリートの多くは、こうした戦術がブラジルやハンガリーで、アメリカでさえ、通用するかもしれないが、「ここでは通用しない」と考える。

しかし、穏健な姿勢やフェアプレイの尊重は、しばしば考えられるほど強くない。ある調査によれば、「イギリスには、ルールを破るような強い指導者が必要だ」という主張に、54%が賛成し、反対はわずか23%であった。

最近、ジョンソンは繰り返しルールを破る意志を示した。民主的な手続きを封じるために、議会の開始を延期した。それを指摘した下院議長を辞めさせようとしている。彼の離脱計画に反対する法案を支持した21人の保守党議員を除名した。選挙になれば、ジョンソンは「議会対人民」のキャンペーンをするだろう。

幸い、イギリスの民主的な制度は他国に比べて頑健であり、政治家たちには勇気がある。そしてジョンソンは無能だ。

しかし、ジョンソンが絶望的になって無謀になり、側近の戦略家Dominic Cummingsがルールの破壊を加速する懸念は残っている。彼らは、有権者の多くが手続きを重視せず、議会に人気がないことを、知っている。選挙になれば、彼らは強権指導者のすべての戦術を駆使するだろう。リベラリズム文化を破棄し、法と秩序を強調し、移民問題や「文化戦争」を煽る。

皮肉なことに、ジョンソンはイギリスの民主主義と議会を、チャーチルに倣って、かつて大いに称賛していた。今や、カミングが尊敬しているのはオットー・フォン・ビスマルクである。ビスマルクのもっとも有名な発言は、「時代の重要問題は議論や多数決で決まるのではなく・・・鉄と血で決まるのだ。」である。

イギリスの政治システムがそれを阻止することができたら、それは世界の民主主義にとって有益だ。


 米中貿易戦争

NYT Sept. 5, 2019

Trumpism Is Bad for Business

By Paul Krugman

日がたつほど、トランプの貿易戦争は「良い」ものでも、「簡単に勝つ」ものでもないことがはっきりしてきた。アメリカ経済の多くにとって打撃である。農場は破産に直面し、製造業はさらに縮小し、消費者は委縮し、その理由は、関税が価格を上げるという(正しい)不安である。

トランプは批判者に応える。・・・私のせいではない。お前たちのせいだ。潰れるのは、経営が下手で、弱いからだ。

2016年の大統領選挙に勝利したとき、トランプはビジネスにとって良いことだろう、と投資家の多くは考えた。実際、彼は企業の大規模減税をもたらした。そのほとんどは配当と株式買戻し(株価引き上げ)に使われて、労働者は何も得ていない。

減税を除けば、トランプのしたことはビジネスに悪いことばかりだ。特に、生産的なビジネスにとって悪い。大統領の気分があっちこっちへ変わるのに合わせて、企業は投資計画を変えることができない。貿易戦争も、環境政策もそうだ。

公平に見て、ある種のビジネスはトランプの下で繁栄しているだろう。それは長期的なビジネスではなく、儲けたら逃げる、という戦略のビジネスだ。繁栄しているのは、採掘産業、不動産投機、学歴を売る大学。

言い換えれば、詐欺的なビジネスの繁忙期だ。こんなビジネスが栄えてほしいとわれわれは望んでいない。アメリカ経済をトランプ大学のようにしてしまうことを、アメリカを再び偉大にする、とは決して言わない。

NYT Sept. 10, 2019

Huawei Has a Plan to Help End Its War With Trump

By Thomas L. Friedman

北京、深圳、香港で1週間インタビューした。米中貿易紛争について強く感じたことがある。1つは、アメリカ企業に対する中国の障壁を撤廃する交渉。もう1つは、ファーウェイをどうするか、である。

中国側は、アメリカの求める障壁をすべて撤廃しないだろう。トランプは気まぐれで、「勝利」にこだわり、まともな交渉ができない。先延ばしすることだ、と考えている。

ファーウェイについては、中国の製品が、次第に、シャツや家電のように表面的な製品から、通信技術のような深く生活に浸透する製品に変わってきた。

私は、ファーウェイの危機を解消するべきだと思う。もしそれができないなら、われわれは2つの技術世界に、デジタルなベルリンの壁の中に、住むことになる。

そこで私は、ファーウェイの創立者でCEORen Zhengfeiから、インタビュー申し出があったことを喜んで受けた。

Renは私に、アメリカはファーウェイに対する非合理的なアプローチを改めれば、対話を再開する、と述べた。アメリカの司法省と議論したい、と強調した。

ファーウェイは、5G技術をアメリカの企業と共有してもよい、と述べた。そうすれば、米中央の間にバランスが取れるだろう。

これは平和の呼びかけである。

アメリカはファーウェイをブラックリストに載せて、1119日から実行される。アメリカ企業はファーウェイと取引を禁止されるし、外国企業も制裁を受ける。GoogleAndroidも、MicrosoftWindowsも、Intelの半導体も、ファーウェイは使用できなくなる。アメリカ企業にとっても大きな損害だ。

Microsoftの会長Brad Smithは、この禁止措置を当局に質した、という。しかし、帰ってきた答は、「まあ、われわれが知っていることをあなたが知ったら、同意するでしょう」であった。「それはいい。あなたが知っていることをすべて示してほしい。答えは自分で考えるから。」


 ステークホルダー資本主義

FT September 6, 2019

Does capitalism need saving from itself?

Gillian Tett in New York

「私は資本主義を信じている。金融システムを信じている。」 リプトンは、ロックフェラー・センター・クラブで、ランチをとりながら語った。町を見下ろす、マンハッタンのパワー・ブローカーが食事に来る場所だ。

彼はアメリカのエスタブリッシュメントと何十年も闘ってきた。1979年に書いた論説で、企業幹部や投資家は、株主の短期的利益ではなく、被雇用者や取引相手、コミュニティのような「ステークホルダー」の長期的利益を実現するべきだ、と主張した。

しかし先月、アメリカの企業幹部たちが「企業の目的に関する声明」を集団で発表した。JPモルガンの会長Jamie Dimonが指導するビジネス・ラウンドテーブルthe Business Roundtableである。「すべてのステークホルダーに、その価値を実現すると約束する。」

社会活動家や環境保護運動家は歓迎した。しかし、憤慨するエコノミストや投資家もいた。右派は自由市場資本主義を破壊する、と非難した。サンダースなど、左派の政治家は、そのけた外れの高給に比べて、偽善であると責めた。

アメリカのエスタブリッシュメントは資本主義を疑っているのか? ウォール街はリプトンに同意したのか? 成長、ポピュリズムに、どんな影響があるか? リプトンは、「ステークホルダーは資本主義を救済する。もし今、行動しなければ、50年後に資本主義は存在しないだろう。」と言う。

「カンパニー」という言葉の起源を思い出す。それは、バランス・シートや利潤マージンではなく、12世紀のフランス語compagnieから来ていた。「社会、友人関係、親密さ、兵士たちの集団」、さらにラテン語のcompanio、「あなたと同じパンを食べる者」の意味だ。商業は、言い換えれば、その起源において、社会的紐帯と同じだった。

18世紀に、アダム・スミスが「見えざる手」に関して論じたが、彼は『国富論』と『道徳感情論』とに矛盾を観なかった。

しかし20世紀になって、カンパニーの意味が変わった。リプトンの宿敵、ノーベル経済学賞を取ったミルトン・フリードマンが現れたのだ。1962年の本、『資本主義と自由』で、カンパニーは大衆や社会に「社会的責任」を何も持たず、株主に対してだけ責任を負う、と述べた。

政治においては、ロナルド・レーガンとマーガレット・サッチャーがフリードマンの指導を受け入れ、過激な自由市場政策を採った。英米の経営陣は株主への配当に注目し始めた。大学では、Eugene Famaのようなエコノミストが、自由企業を成長と価値の唯一のエンジンとみなした。

ウォール街の、金融家、弁護士、コンサルタントの軍団が、この新しいパラダイムに乗って、株式を管理するビジネスをブームにした。新しい年金基金や投資信託が生まれた。弱い企業の株式を奪って、価値を絞り出した。フリードマンの旗の下に乗っ取り屋が活躍する様子を、アダム・スミスは墓の中で苦しんで観たはずだ。

19791月、American ExpressMcGraw Hillを買収しようとした。それを阻止してリプトンは経歴を築いた。大不況の時代、1931年に彼はニュージャージーで生まれた。乗っ取り屋に狙われた企業に助言してきた。今も彼は、握手してスタッフを雇い、一緒にランチを食べ、ウォール街では大きな差のない給与を支払う。「金銭がここで働く理由ではない。」

企業は、突然、自分たちの価値をどうやって測るか、注意し始めた。なぜか? 1つは、2008年の金融危機が、制約されない自由市場の確信を破壊したからだ。また、企業も投資家も、環境破壊のリスクを考慮し始めた。しかし第3に、政治的理由がある。危機はアメリカ企業や政治のエリートに対する大衆の不満を解放した。景気が回復すれば、それは収まると思っていたが、逆だった。回復にもかかわらず、不満は強まった。

移民やグローバリゼーションが嫌われて、ドナルド・トランプが現れた。しかし、企業幹部も自分たちの地位が脆弱になったと感じている。データが示すように、株主がもっぱら得て、投資家や企業幹部に対して、労働の報酬は失われている。平均的な労働者の給与に対して、重役の給与は1978年に29.7倍だったが、2007年には345.9倍になった。企業の利潤はブームであったが、労働のシェアは下がり続けた。

さまざまなステークホルダー資本主義が模索されている。

しかしThe Council of Institutional InvestorsCII)はthe Business Roundtableに警告した。「(経営者が)誰に対しても責任を負うというのは、だれにも責任を負わないことだ。」 シカゴ大学の経済学教授Luigi Zingalesも、自信過剰の企業幹部による「危険な権力行使」につながると批判する。

イギリス労働党のコービン党首は、最近提案した“Inclusive Ownership Fund”で、大企業の株式を労働者に与えるよう求めた。アメリカでも、民主党大統領候補の1人、ウォレンElizabeth Warrenが、労働者に有利な企業の再編を主張している。

論争の帰結は見えない。


 北朝鮮がトランプに送るシグナル

PS Sep 10, 2019

Trump’s North Korean Appeasement

CHRISTOPHER R. HILL

シンガポールのサミット以来、トランプはその直感に従って、金正恩の説明を受け入れた。「フリーズとフリーズの交換」だ。北朝鮮は核と弾道ミサイルの開発を凍結する。アメリカは、カネのかかる、米韓合同軍事演習を凍結する。トランプは米韓の同盟関係を弱めることを気にしなかった。

トランプは、ニューヨークの不動産業者風に考える。北朝鮮は経済の回復を求めている、と。

ジョン・ボルトンがいるから、北朝鮮はアメリカの軍事行動を懸念する、というキムの説明を受け入れた。トランプはキムの慢性的な不信を緩和する。そして、彼のおじさんのような関係を維持する。

彼らに共通するのは、より広い外交関係の構築には関心がないことだ。6か国協議は死んだままだ。

北朝鮮が近距離のミサイルを発射し続けている意味は明らかだ。われわれは202011月の前に、お前にとっての問題を起こす力がある、ということだ。

トランプは、自分の北朝鮮政策を「戦略的忍耐」と見せたがっている。しかし、そうではない。これは宥和政策である。それがうまくいくかどうか、見守ることにしよう。202011月まで、まだ時間がある。


 「日本化」への正しい処方箋

FT September 10, 2019

Why aggressive monetary easing is pushing on a string

Richard Koo

「日本化“Japanisation”」の恐怖が再び大西洋の両岸で強まり、追加の金融緩和を求めている。低成長と低インフレが1990年から日本で続き、西側では2008年から続く。貸し手ではなく、借り手がいなくなったからだ。借りる意欲がないとき、金融政策は機能しない。

1990年にバブルが破裂し、不動産価格が90%も下落した。不動産を購入する者の健全さ、その担保能力が破壊された。

ゼロ金利でも、マイナス金利でも、借り手は過剰な債務を減らすために返済した。それが終わるのに20年を要したのだ。

家計や財務を健全化するのは、個々の家族や企業の絶対条件だった。皆が返済するとき、借り手は消滅し、経済は大幅に縮小する。経済水準が維持されるには、誰かが借り入れて支出する必要があった。

貸し出されない貯蓄は所得の流れから漏れ出す。経済がデフレ・スパイラルに入り、バランス・シート不況とよばれた。アメリカの大不況では、1929-1933年に、名目GDP46%失われた。

1990年以降、日本は大不況期のアメリカと比べて、GDP比で3倍も大きなバランス・シートのダメージを受けた。しかし日本のGDPは、名目でも、実質でも、バブルのピーク時を下回ったことがない。失業率も5.5%を超えなかった。

それは、民間部門の過剰貯蓄に対して、政府が借り入れて支出したからだ。今、日本の失業率は2.3%であり、民間部門のバランス・シートは完全に回復した。しかし、債務を返済する悪夢の経験があるため、民間部門は借り入れない。1930年代に債務を返済したアメリカ人も、死ぬまで借り入れを拒否した。この債務のトラウマは、西側のバランス・シート回復後も続くだろう。

政府は最後の借り手として経済を維持するべきだ。バーナンキもイエレンも、これを理解していた。しかし、他の中央銀行や政府は違う。

バランス・シート不況の時代に中央銀行が政府の赤字を融資することは問題ではない。自国通貨建で固定所得をもたらす資産に投資する必要がある、年金基金やその他の金融機関がある。「日本化」の正しい処方箋は、民間部門の借り入れが始まって、金融政策が機能し始めるまで、政府が最後の借り手としての役割を果たすことだ。

将来世代の負担にならないよう、独立の委員会を設置して、国債利回りを超えるような社会的利回りの公共事業を発掘するのが良いだろう。バランス・シート不況では、気候変動の破局を回避するためのような、非常に長期的な投資も、現在の低下した国債利回りに比べて、収益をもたらす。

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The Economist August 31st 2019

Democracy’s enemy within

Security in Asia: Slight club

Hungary: The entanglement of powers

The RBI’s reserves: Ravaged Bank of India?

Blue-collar workers: Reflecting back

Germany’s negative interest rates: Dear prudence

Free exchange: Meeting of minds

(コメント) 民主的な制度を利用して権力を握り,議会の多数を握り,重要なポストを支配し,次第に制度を作り変え,事実上の独裁体制を築く.それは貧しい発展途上諸国でしばしばみられる,弱い資本主義,もしくは,新生の独立国家の話だった.しかし,ハンガリーのオルバンは成功した,と紹介されている.

そして,東欧のような,共産主義体制の腐敗や政治的デマゴギーの経験がない,他のヨーロッパ諸国でも,イギリスでも,アメリカでも,同様の政治が広まっている.若者たちは国外に逃げるしかない,と記事は警告している.

中央銀行の異常な金融緩和,ポピュリスト政治家の介入,預金者たちの不安,貨幣や金融システムへの信頼が破壊される時代には,大きな反動がともなう,とわかっているのに.なぜ止めなかったか.

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IPEの想像力 9/16/19

香港,サウジアラビア,イエメン,ソロモン諸島,イスラエル、アマゾン森林火災、・・・

国際政治の変動は何に向かっているのか、安定した秩序を目指す動きであるなら、それを非難する理由はない。気候変動をもたらす化石燃料から人類が離脱し、グローバルなパワー・シフトと、それに合った秩序再編が旧秩序の支配層を脅かすのは、軋轢を生じて当然であると思うから。

戦争や暴力を用いることなく、たとえ紛争を避けられないとしても、異なる形で交渉を継続し、新しいバランスと調整のためのメカニズムを合意することが望ましい。

グローバリゼーションや金融危機について、政治経済秩序に関する根本的な不満、異議が生じたのは、それらが富や豊かさ、生活の満足をもたらすものではない、とはっきり示された事件にもかかわらず、政治が秩序やルールを積極的に変えなかったからです。

たとえ分野によっては、自由貿易や国際分業による利益があるとしても、むしろ生産技術を移転・普及させることが本当の豊かさをもたらすメカニズムであったでしょう。つまり教育や研修、ときには、直接投資として、知識と技術を移転するのです。

しかし、そのような分野が多国籍企業や金融ビジネスに支配される理由になる、とは思えません。学校や研修施設があれば、インドやアフリカへ、国際協力によって移転されるでしょう。

国際通貨・金融システムが、もっと安定した為替レートとその調整メカニズムを備えていれば、そして、短期で、異常なデリバティブ取引のもたらす収入を、そのまま個々の企業やトレーダーの所得にしてしまうような「自由化」がなければ、生産技術の長期的な移転は、もっとわずかな利益で貯蓄の国際移転と地域的な完全雇用を実現できたでしょう。

金融危機やケインズに関するスキデルスキー、伊東光晴、ロナルド・ドーア、キンドルバーガー、民主主義に関するロバート・ダールの本を読みながら、そう思いました。

あたかも金融取引が莫大な「富」を社会にもたらすかのように、資本を吸収し、銀行システムを侵食し、政治を翻弄し、巨額のボーナスと浪費文化を正当化する時代は、エリートたちに退場を求める声となって、紛争がこれからも続くでしょう。

しかし、気候変動は続き、台風の被災者は電気のない暗闇で雨漏りを心配し、原発再稼働を主張しつつ、原発事故の汚染水を大阪湾で廃棄するとか、ますます中東からの石油輸入に依存することで、ホルムズ海峡に自衛隊を派遣するのか、日銀の異常な金融緩和政策をさらに続けるのか、・・・政治の姿が、こうした怒りの声を受け止めたとは思えない。

人びとの沈黙は、デモクラシーのバージョン・アップを訴えます。

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