IPEの果樹園2019

今週のReview

9/2-7

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簡易版

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 G7サミットは時代遅れだ

FP AUGUST 22, 2019

The G-7 Is Dead. Long Live Jackson Hole.

BY MICHAEL HIRSH

フランス、Biarritzに集まったG7サミットは、始まる前からなんでも決まっていた。共同声明も出ない。マクロンは、それを簡単に説明した。トランプ大統領が合意しないだろう、と。

伝統的なG7声明は、保護主義に反対し、気候変動への対策を求める。しかし、トランプは保護政策が大好きで、気候変動を認めていない。トランプの新保護主義は仲間のジョンソンをG7に迎えた。ジョンソンは独仏に望むような取引をしてもらえないだろう。しかし、マクロンとメルケルも、財政刺激策やBrexitの条件を合意できない。

だから市場はBiarritzに注目しない。むしろ、ワイオミングのジャクソン・ホールに注目する。世界の主要な中央銀行家が集まって、金利や景気対策を話し合う。アメリカ連銀のJerome PowellECBMario DraghiIMFChristine Lagardeは、強力な同盟者だった。

しかし、問題は、ジャクソン・ホールで世界経済の救済を話し合う中央銀行家たちが、Biarritzで戦う政治家たちを放置できないことだ。Biarritzの政治家たちは世界経済のほぼ半分と各国の予算を統括しており、ジャクソン・ホールの人びとはそれを動かせない。政治家たちは共通政策にも共同声明にも合意しない。トランプは多方面で貿易戦争を繰り返す。ドイツは財政緊縮を求めすぎる。

G7サミットで最大の話題は、トランプがロシアの参加を求めることだ。しかし、それは世界経済に影響しない。

The Guardian, Fri 23 Aug 2019

The Guardian view on the global economy: opportunities wasted

Editorial

FT August 23, 2019

Global recycling crisis should be a wake-up call

The Guardian, Mon 26 Aug 2019

Biarritz was an empty charade. The G7 is a relic of a bygone age

Simon Tisdall

BiarritzG7サミットは、幸いにも、終幕を迎えた。残念ながら、その話の中身はあまりにも少なく、あいまいな希望でしかない。世界で最も裕福な諸国の大統領や首相たちが、記念撮影に興じ、魅力的な「バスクの伝統的な焼き方」のクロワッサンを賞味した。アマゾンの熱帯雨林は言うまでもなく、世界中で紛争や熱波が手の付けられない状態である。それは最低の成果しかないサミットである。すなわち、昨年の失敗を繰り返さなかった、というだけだ。

サミットというものが、今とは異なる、遠い時代に属している。たとえば、そのころ、アメリカ大統領は尊敬されていた。多国間の外交が機能していた。戦後の国際主義的なビジョンがナショナリストのデマによって混乱していなかった。もし西側の民主主義諸国が何かに合意すれば、それが実現するチャンスはかなりあった。こうした時代は過ぎ去った。

トランプだけがブラックホールなのではない。アンゲラ・メルメルは2021年に引退する。2016年以来、アメリカが指導力を失ったところで、特にヨーロッパで、メルケルがそれを引き継ぐようなこともなかった。彼女の慎重な、カネを惜しむアプローチは、あまりにもしばしば、マクロンの大規模な改革の理想を抑えることに向かった。

かつてドイツ首相は、イギリスを加えることでヨーロッパの意見は重みと気迫を加えると自信をもって言えた。たとえば、国内の反政府勢力を弾圧し、ウクライナやシリアで国際法を無視するウラジミール・プーチンに対してだ。しかしボリス・ジョンソンは、ロシアのG7再参加を支持し、困難な問題に指導力を示すどころではない。ジョンソンの「トランプを喜ばせる」政策は、いかに急速にイギリスが沈没しているかを示す。

サミットが何気なくわれわれに教えたのは、多国間の国際協力が、そして、ルールに依拠した国際秩序、という童話が、G7G20でシンボルとされてきたけれど、その最後を迎えたということだ。21世紀の新興諸国は、特に中国を筆頭に、どの国も、他国民のルールに従うつもりはない。

ヨーロッパでも、その他の土地でも、右翼と、ポピュリスト的ナショナリズムが広まって、中道派のコンセンサスを動揺させている。それは特に、あたりあのサルヴィーニであり、Brexitである。それは2008年の金融危機後に、西側民主主義が信認を失ったことによる。緊縮策を強いたこと。富と信頼のギャップを拡大したこと。多国間の国際協調は、トランプのアメリカによって何重にも裏切られた。

G7が終わったと分かっても、それに代わるものがない。われわれの時代のパラドックスは、世界がますます緊密に結びついているのに、共通の目的を達成する共同行動のための政治的手段がますます無効になっていることだ。

来年のG7はアメリカの主催で行われる。トランプがこれを再選キャンペーンに利用するのは間違いない。誰が、どのように、世界を支配するのか? 支配する世界はあるのか?


 日韓関係悪化と安全保障

NYT Aug. 22, 2019

Japan, South Korea and a Rupture on the Pacific Rim

By The Editorial Board

NYT Aug. 23, 2019

Japan and South Korea Stop Playing Nice

By E. Tammy Kim

私は数え切れないほど多くのツイートや論評を読んだ。アメリカのアジアにおける緊密な同盟諸国である日本と韓国は、北朝鮮と中国を封じ込めるために、意見の違いはあっても、それを棚上げするべきだ、と。

しかし、問題はもっと前から準備されたものだ。

日本が韓国政府との間で通商・安全保障の紛争を激化させた根源は、日本の安倍首相が、植民地時代の犠牲者に対する賠償を韓国人が要求し続けることに怒ったからだ。韓国人が独島(竹島)を領土として主張することに怒ったからだ。日本が最近の北朝鮮との首脳会談から排除されていることに怒ったからだ。日本の先の世代は何も間違ったことをしなかった、第2次世界大戦後の「平和憲法」はアメリカによって押し付けられた、日本は大規模な常備軍を禁止されているが、これを破棄するべきだ、という彼の世界観を広めるためだ。

韓国人は、過去と現在に関するこうした見解を、根本的に受け入れられない。

FT August 27, 2019

Japan Inc wakes up to investor activism in its own backyard

Kana Inagaki in Tokyo

FT August 29, 2019

Japan-South Korea tensions challenge postwar order

Yoichi Funabashi

明らかに、日韓両国はもはや、信頼に値する、同じ考えを持った国とは互いを見ていない。現在の混乱状態の始点は、昨年、韓国の最高裁判所が日本企業2社に対して、第2次世界大戦中の強制労働に服した韓国人への賠償を命じたことだ。

日本は、問題がすでに日韓の条約によって解決されたものだ、と主張した。最高裁の決定はパンドラの箱を開けた。それがもたらす討伐論争は、北東アジアの平和と安全保障、戦後秩序を根本的に破壊する。

ワシントンは危機の重大さを評価しそこなった。日韓米の指導者たちが心にとどめておくべき点が3つある。

1.日本政府は、グローバル・サプライ・チェーンの維持に自国の利益と責任があることを理解しなければならない。半導体部品の販売に関する正当な懸念があるとしても、輸出管理は公平かつ透明な形で行わねばならない。日韓が半導体生産で示す市場支配は高めるべきで、損なってはならない。中国はこの重要な分野で市場に足場を築こうとするだろう。日本は韓国を、ライヴァルではなく、パートナーとして認めるべきだ。

2.韓国政府は、自国の裁判所の決定と国際法(1951年、サンフランシスコ条約、1965年、日韓国交正常化条約)との間で適切なバランスを見出さねばならない。戦後の条約は、第1次世界大戦後にドイツに賠償を求めたヴェルサイユ条約の反省から、将来の請求権を放棄することに合意した。将来の報復の連鎖が危険なものになる恐れから、それを避けたのだ。2000年、アメリカ最高裁判所は、日本で労働を強制された捕虜たちの賠償請求をやめさせた。

3.アメリカ政府は、同盟諸国に対して、一貫した政策を示し、維持しなければならない。トランプ大統領は、繰り返し、日本や韓国との安全保障条約の価値を疑う発言を行った。両国は、米軍が北東アジアから撤退することに不安を覚えた。冷戦終結時にも、この問題が議論されたが、元国防省高官でハーヴァード大学教授のジョセフ・ナイは、「安全保障は酸素のようなものだ」と、その維持を力説した。

酸素が失われつつある今、アジアは呼吸が苦しくなっている。指導力、外交、そして、深呼吸が必要だ。


 金融政策の限界とドル体制

FT August 23, 2019

Central banks have lost much of their clout

Adair Turner

Jackson Holeの今年のテーマは「金融政策の挑戦」だった。金利の引き下げや明確なフォワード・ガイダンスが話題である。

不確実さの高まる中、彼らの言葉はますます注意深く分析される。実際は、中央銀行だけでできることは何もないのだが。

2008年の金融危機行、長期、短期の金利が非常に低くなった。さらに金利を下げても、実物経済には効果がないだろう。マイナス金利に進めば、銀行の収益や融資を妨げて、むしろ成長を損なう。

それにもかかわらず、金融関連で出る山のような論評は金融政策の微細な変化を議論している。そして中央銀行家たちも、いまなお、市場との効果的な情報交換に執着している。なぜか?

2つの要因があるだろう。1.消費者や企業には関係ないような、わずかな金利の変化も、資産管理、マクロ・ヘッジファンド、投資銀行家、その投資人には重要なのだ。

彼らは中央銀行家が出す「混じり合った情報」を嫌う。投機の潜在的な利益を損失に変えるかもしれないからだ。

金融緩和は、もしそれが通貨価値の減価を導くなら、重要な刺激策になる。しかし、これはゼロサム・ゲームだ。トランプ大統領はドル安を望むが、それを誘導すれば、中国は同様に人民元を減価させるだろう。為替レートで両方が刺激を受けることはない。

2.もし金融政策が無効になれば、次はどうすればよいのか? その不安がある。財政政策が求められるが、これ以上の財政赤字を出すには中央銀行の融資がいる。それは中央銀行の独立性を脅かす。

しかし、すでに世界経済の成長は大規模な中央銀行の融資による財政赤字に頼っている。2017年、トランプが行った大型減税も、2015-2019年に、財政赤字のGDP比を2.8%から6%に高めた中国政府も、日本銀行による巨額の国債購入を前提した日本政府の赤字も。ドイツの財政健全化は、財政赤字を拡大する諸国への輸出に頼っている。

単独で行動しても、中央銀行には重大な差をもたらさない。

PS Aug 23, 2019

Whither Central Banking?

LAWRENCE H. SUMMERS, ANNA STANSBURY

中央銀行家たちの慢心は危険である。かつての原則は間違いだった。中央銀行は、必ずしも常に、金融政策でインフレを創りだすことはできない。ヨーロッパや日本の流動性供給は、ブラックホールになっている。

ますます「長期停滞」の姿が示されている。総需要を減らす諸力が作用しているのだ。金利を下げても、記入政策の効果はないし、逆効果にもなる。長期停滞に対して、金融緩和するのは間違いだ。政府が需要を増やす必要がある。

FT August 24, 2019

Mark Carney calls for global monetary system to replace the dollar

Chris Giles in London

イングランド銀行のカーニーMark Carney総裁は、アメリカ・ドルに依存した世界は維持できないだろうし、多くの、もっとグローバルな通貨に依拠した、国際通貨・金融システムに代える必要がある、とJackson Holeで講演した。

長期的には、IMFが多極型システムを構築して「ゲームを変える」ことができる。彼は、1月末にイングランド銀行総裁を退任するが、IMF専務理事のポストに就く支持を欧米から得ていない。この講演で、グローバル経済に過剰なパワーを持つドルに関する問題を指摘した。それは、新興市場経済や発展途上諸国にアピールするはずだ。

アメリカは世界貿易の10%、世界GDP15%しか占めていないが、ドルは貿易取引の半分、世界の証券発行の3分の2で使用されている。それゆえアメリカと取引しない諸国にとってもドルは重要で、その結果、潜在的な資本逃避の自己保険としてドルを準備し、過剰貯蓄とグローバルな低成長が生じる。

各国の金融政策やグローバル・リスクへの対応は、このシステムに組みこまれた潜在的な波及効果である。アメリカがさらに小さくなれば、このようなシステムは機能しない。

中期的には、すべての国がドル建のホット・マネー依存から抜け出そうとするから、IMFは資本逃避を処理するファンドを設けるべきだ。「IMFに資源をプールし、コストは189か国で分担する。」 今後、10年間でIMF3倍の、3兆ドルにする。

長期的には、多極型のグローバル経済を創ることが正解だ、とカーニーは言う。中国の人民元がドルに挑戦するのを待つ必要はない。

そのためには、グローバル電子通貨を発行する。それは「合成されたヘゲモニー通貨である。・・・中央銀行のデジタル通貨ネットワークによって供給される。」 そうなれば、今のように、アメリカの衝撃が世界中に波及することもなくなる。

FT AUGUST 24, 2019

Donald Trump’s war on the Federal Reserve

Edward Luce

かわいそうなジェイ・パウエル。彼をアメリカ連銀議長に指名した男は、パウエルが、中国の習近平主席より、アメリカにとって深刻な敵ではないか、と疑っている。

長期的には、連銀の制度はトランプの攻撃を生き残るだろう。しかし、毎日、トランプのテレビ・オーディションに並ぶ、アメリカ連銀議長の席を望む無原則な候補者たちの中から、誰かがパウエルに交代することは、まったくありそうなことだ。2022年に任期が終わるより前に、大統領が議長をやめさせる権限はないが、この大統領は普通ではない。

今週の初めころ、トランプは彼を称賛する者からのツイートを引用した。「神の国の王様(the King of Israel)」と、トランプを称えたからだ。しかし、聖書の研究者たちは思い出すだろう。悪名高いKing Herodは、彼に仕えた者たちの頭を、大皿に載せて食べるのを好んだ。

SPIEGEL ONLINE 08/24/2019

Tough Times for German Savers

Who's Responsible for Eurozone's Negative Interest Rates?

Interview Conducted By Stefan Kaiser

FT August 26, 2019

Central bankers rethink everything at Jackson Hole

Brendan Greeley in Jackson Hole

The Guardian, Tue 27 Aug 2019

The IMF is hurting countries it claims to help

Mark Weisbrot

FT August 29, 2019

Central banks can no longer afford to act in isolation

Megan Greene


 リベラルな国際秩序

FT August 23, 2019

I dumped Donald Trump to save the liberal world order

Anthony Scaramucci

NYT Aug. 23, 2019

Trump’s Greenland Plan Shows He Has No Idea How American Power Works

By Daniel Immerwahr


 タックス・ヘイブン

SPIEGEL ONLINE 08/23/2019

Nervous About Trump

EU Fearful of Including U.S. on Tax-Haven List

By Peter Müller

アメリカもタックス・ヘイブンの定義に当てはまる。しかし、ブリュッセルのEU職員たちは、企業の課税回避を許す諸国の「ブラックリスト」に載せ、公に非難することをためらった。トランプのひどい言動を考慮して、ヨーロッパとの関係がこれ以上悪化するのを避けたのだ。

それは歴史的な瞬間になるはずだった。初めて、ヨーロッパの財務大臣たちが一致して、タックス・ヘイブンを公然と非難するブラックリストを示す計画だったから。しかし、それは1年半前のことだ。

何が違うのか? ブラックリストにはいくつか根本的な欠陥がある。EU加盟諸国は1つも載っていない。ルクセンブルク、マルタ、オランダは、しばしば、低い税率で企業を誘致しているにもかかわらず。


 不平等とグローバルな金融市場

PS Aug 23, 2019

The Unsustainability of Inequality

JAMES K. GALBRAITH

かつて第三世界と結び付けたような不平等が、今や、世界中に一般化している。第一世界は貧しくなったわけではないが、はるかに不平等になった。

興味深いパターンがある。国内の不平等の時期を経る変動が、諸国間の変動とよく似ていることだ。もちろん、これは驚くことではない。貧しい国の人びとは貧しく、豊かな国の人びとは豊かだから。グローバル経済の中では、人々の間の不平等が、諸国間の不平等と、類似のパターンで変化する。

しかし、以前はそうではなかった。1つのパターンが見えるのは1970年代からだ。それまでは、国内の不平等がゆっくりと縮小していた。1973年、不平等が急増し、その後、緩やかに減少する。貧しい国、貧しい人々にとって、1970年代は成長と進歩の時代であった。

転換点は1981年だった。世界中で2000年まで不平等が増大した。ラテンアメリカ、アフリカ、そしてソ連崩壊、東欧、最後に、アジアの経済自由化は1997年の金融危機に至った。グローバルな不平等には、世界経済における債務者と債権者の関係が反映されている。

2次世界大戦後のブレトンウッズ体制の下では、安定性が支配していた。しかし1971年、アメリカがドルと金の交換を否定した後、1973年、石油危機と国際商品のブームがラテンアメリカ諸国などへの銀行融資を増やした。しかし1981年。アメリカが金融政策を転換し、金利は22%まで上昇した。発展途上諸国は返済できず、緊縮策を強いられ、工業化戦略も放棄した。

2つの重要な要素を考えるべきだ。1つは、経済を支える構造であり、もう1つは、融資によるブームとバストがその構造におよぼす効果、である。

ブームとバストのグローバルな影響は、それに抵抗する能力に応じて、各国と人びとに及ぶ。強力な制度を持つ国は独立性を維持し、問題を最善の形で処理する。グローバル勢力に抵抗できない国は自分たちを守れず、周期的に蹂躙される。それは、例えば、中国とメキシコだ。

経済的不平等はミクロ経済学の労働市場によって観るべきではない。もっぱらマクロ経済の現象であり、グローバルな金融を規制することで改善できる。データが示すように、小国・開放型の国は、為替レートの変動に脆弱である。増価によるオランダ病や、金融危機に苦しむ。

グローバルな金融規制は豊かな諸国の政府が決めているため、巨大な金融機関や中央銀行の権限に縛られる。経済の持続可能性、その基本条件である経済的不平等を減らすには、それを目指すグローバルな金融秩序が必要だ。

NYT Aug. 26, 2019

The American Economy Is Creating a National Identity Crisis

By Tim Wu


 カシミール

FP AUGUST 23, 2019

Kashmiris Won’t Stay Silent Forever

BY SOUMYA SHANKAR


 リーマンブラザーズ倒産

FP AUGUST 23, 2019

What the 2008 Financial Crisis Can Teach Us Today

BY JONATHAN SCHLEFER

アメリカの金融当局は、2007-2009年の金融危機を大恐慌の再現にすることを回避した。それは、連銀議長のBen Bernanke; 財務長官のHenry Paulson; ニューヨーク連銀総裁で、オバマ政権の財務長官となったTimothy Geithnerである。

また、2008915日、月曜日に、投資銀行のLehman Brothersを彼らは倒産させた。彼らはそうする必要がなかったし、それを回避していたら、危機が最悪の事態になることを最初に時点で阻止できただろう。

彼らが行った金融システムの救済は信じがたいほど広かった。20093月までに、連銀はアメリカのGDPの半分を超える77700億ドルを使って、金融機関の救済、暴落した金融資産、その他の投げ売り資産の購入を行った。議会もまた財務省が有毒資産を購入するために7000億ドルの支出を認めた。それは、特に、ファニーメーとフレディーマック、AIG、大規模銀行JPMorgan Chase, Bank of America, Citigroup, Wells Fargo, Goldman Sachs, and Morgan Stanleyを救済した。しかし、リーマンは救済しなかったのだ。

彼らはその本(Firefighting: The Financial Crisis and Its Lessons)で、リーマンを救済する法的な権限がなかった、と主張した。しかし、それは穴だらけの話で、間違っていた。

リーマンの資本不足は2000億ドルほどであっただろう、彼らは主張している。しかし、買収しようという銀行はなかった。バークレイ銀行が、4000億ドルの損失を回避可能なら、買収したいと提案したが、イギリスの金融監督が許さなかった。

運命の週末を前に、木曜日、ポールソンが新聞に文書をリークした。リーマンは政府の支援を受けない、というものだ。バーナンキとガイトナーは、それを交渉のための脅しだった、と言い訳する。しかし、もしリーマンを救済するのであれば、そんなものは無意味だ。週末をかけて、政府はリーマンを救済プログラムから心中に外した。モルガンやゴールドマンサックスは即座に許可された。

政治圧力の影響は明らかだ。リーマンが倒産するまで、彼らに対して銀行救済をすべきではないという圧力が強かった。民主党議員も、共和党議員も、NYTWSJも。しかし、リーマン倒産後は、巨大金融機関の倒産がもたらす損害の大きさを彼らが実感した。危機を回避することに政治的な関与が固まった。

銀行救済に対する住宅債務者の不満が激しかった。2010年のドッド=フランク法は、連銀の救済に関する権限を削減し、政治化した。それは次の危機を回避するとき、連銀の行動を制約するだろう。

NYT Aug. 24, 2019

Blame Economists for the Mess We’re In

By Binyamin Appelbaum


 ボリス・ジョンソンの議会閉鎖

The Guardian, Sun 25 Aug 2019

So used are we to a borderless Europe we’re not ready for the coming shock

Kevin O’Rourke

合意なきBrexitは国境管理の復活を意味する。ジョンソン首相は、それを知りながら、何も起きない、と声明を発した。

彼の前提は、あたかも国境に何もないことが、通常であるというものだ。それは間違っている。世界中の国家が国境管理を行うことに合意しており、離脱派が例に挙げるケース(ノルウェーとスウェーデン、カナダとアメリカ、など)でも国境管理は存在するのだ。

ジョンソンは、UKは何もしないから、国境管理は再現せず、もし再現するとしたら、それはEUのせいだ、と非難するわけだ。国境管理がもたらす多大の時間の浪費、遅れ、費用増大を恐れているからだ。

主権国家間で何の物理的な障壁も、国境管理もないというのは、EUの内部で達成された大きな成功である。

PS Aug 26, 2019

I Am Not Boris

YANIS VAROUFAKIS

FT August 27, 2019

No-deal Brexit is more likely than ever

Bronwen Maddox

FP AUGUST 27, 2019

Northern Irish Politics Are Broken

BY JONATHAN GORVETT

The Guardian, Wed 28 Aug 2019

A civil war state of mind now threatens our democracy

Polly Toynbee

イギリスは破綻国家になり、「バナナ共和国」になり、ボリス・ジョンソン「独裁」になる。

The Guardian, Wed 28 Aug 2019

The Guardian view on proroguing parliament: an affront to democracy

Editorial

FT August 28, 2019

Boris Johnson’s move to prorogue parliament is forcing the hands of no-deal Brexit opponents

Robert Shrimsley

NYT Aug. 28, 2019

Did Boris Johnson Just Break Parliament?

By Martha Gill

FP AUGUST 28, 2019

King Johnson vs. Parliament

BY GARVAN WALSHE

800年前、King Johnはマグナ・カルタに署名を強いられた。君主は法を無視できない。議会の民主主義を尊重する、ということだ。今、国民に選出されない首相は、選出された議員たちを無視しつつある。キング・ジョンソンと議会の戦いは、キング・ジョンに勝るはずがない。

The Guardian, Thu 29 Aug 2019

The Guardian view on Johnson v parliament: an unelective dictatorship

Editorial

FT August 29, 2019

Boris Johnson’s Brexit prorogation is constitutional cheating

David Allen Green

PS Aug 29, 2019

Will Boris Johnson’s Political Coup Succeed?

ANATOLE KALETSKY

議会を閉鎖し、ジョンソンは自由な権限で、EUとの交渉に臨み、彼らから何か譲歩を得ることに機会を見出す。合意なきBrexitによるコストを避けることはEUも同じ意見だから。

FT August 30, 2019

Parliament and the people must accept what they have voted for

Bernard Jenkin

FT August 30, 2019

The British economy is not ready for Brexit

Chris Giles


 ドイツとECB

FT August 26, 2019

Germany and the ECB should do a deal on economic stimulus

Melvyn Krauss


 株主利益だけの追求を転換する

PS Aug 26, 2019

The End of Shareholder Primacy?

MICHAEL SPENCE

PS Aug 26, 2019

Why America’s CEOs Have Turned Against Shareholders

KATHARINA PISTOR

PS Aug 27, 2019

Is Stakeholder Capitalism Really Back?

JOSEPH E. STIGLITZ

FT August 28, 2019

Are companies right to abandon the shareholder-first mantra?

Sarah Kaplan and Geoff Owen


 グリーンランド

NYT Aug. 26, 2019

Tom Cotton: We Should Buy Greenland

By Tom Cotton

FP AUGUST 26, 2019

Greenland Is the Center of the World

BY LAURIE GARRETT


 香港

YaleGlobal, Tuesday, August 27, 2019

When Will China Move on Hong Kong?

Mike Chinoy

PS Aug 27, 2019

Hong Kong’s Real Problem Is Inequality

ANDREW SHENG, XIAO GENG

香港人が抗議デモで示す怒りをもたらしたのは、生活に及ぶ不平等の拡大である。香港政庁は、彼らの不満に対して、その解決策を示す政治的責任を果たさねばならない。中国政府の強硬派が、独立を拒むとしても、弾圧を主張するのは間違いだ。

FT August 29, 2019

Hong Kong’s leaders must respond to the people’s protest   

Nathan Law


 米中対立

PS Aug 27, 2019

Flailing at China

STEPHEN S. ROACH

NYT Aug. 27, 2019

How Trump and Xi Can Both Win Their Trade War

By Thomas L. Friedman

FP AUGUST 27, 2019

Will Trump Break the Yuan?

BY SALVATORE BABONES

FT August 28, 2019

A renminbi ‘weapon’ that is liable to backfire

David Lubin

PS Aug 28, 2019

Could a US Recession End the Trade War?

SHANG-JIN WEI

FT August 29, 2019

China’s renminbi and the global ring of fire

Paul Hodges and Daniël de Blocq van Scheltinga

PS Aug 29, 2019

More Than a Trade War

KOICHI HAMADA

米中がツキディデスの罠にあるとしても、対立は回避できる。


 東西ドイツの統合化

FT August 29, 2019

Lingering divide: why east and west Germany are drifting apart

Tobias Buck in Lenzen

東西ドイツの統合化はどのように進んだか?

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The Economist August 17th 2019

Markets in an Age of Anxiety

Civil liberties: Speak up

Rising seas: A world without beaches

Free speech: The new sensors

Free exchange: Into the woods

(コメント) 世界不況に向かうのか。日本だけでなく、世界中が低金利で、デフレに向かっている。しかし、The Economistの記事は不況を懸念すべきではない、と考えます。消費には過剰な傾向が見られないから。雇用が増え、賃金が増え、消費が増える。それは健全な拡大だ。

それと同時に、日韓関係の悪化も含めて、世界には不安な事件が多すぎる。もしこうした懸念材料が不況に向かうなら、3つのシグナルが反応する。ドル。米中貿易交渉。アメリカの債券利回り。

アメリカでも中国でもインドでも、言論の自由、表現の自由は、急速に脅かされている。

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IPEの想像力 9/2/19

香港の反政府デモが激しい衝突を繰り返す中で、中国からの直接的な鎮圧介入があるのか、不安が高まっている。香港の若者が北京に逆らうことなど無意味だと思わず、住民たちも彼らを支持する姿勢には、これが最後の対決だ、これに負けたら香港は終わる、という決死の覚悟を観る。

米中貿易紛争の継続、主要中央銀行による異常な金融政策の維持は、痛みを発する地域、経済混乱・危機がおよぶ人々に、香港のような強い不安と緊張を高めつつあると思う。

異常な政策が長期にわたって維持されるのは、言論の自由が弾圧され、民主主義や議会が機能しない世界が広がっているからではないか。対立する人びとは異論を受け入れず、特殊な利益とパワーに依拠して争う。政治は反対派を締め出し、暴力的に弾圧し、投獄し、殺害する。

言論の自由を得るのはむつかしく、容易に失われる。

The Economistの記事によれば、エチオピアの改革を実現した、リベラルな指導者Abiy Ahmedも、言論の自由を制限し始めた。彼は多数のジャーナリストを釈放し、ウェブサイト、ブログ、衛星テレビを自由化した。しかし、独裁者の弾圧がなくなったとき、エスニックな暴力が刺激され、ソーシャル・メディアはエスニック・クレンジングを叫ぶ。すでに300万人近い難民が発生した。

インドの例も挙げている。与党BJPを批判するジャーナリストたちは、ソーシャル・メディアでヒンドゥー・ナショナリストたちから多くの脅迫を受ける。もし女性であれば、それはレイプも含む。レポーターたちはしばしば “doxxed” となり、その家族の写真、電話番号が流出し、他の誰かが攻撃するように挑発する。

ときには、ジャーナリストへの最悪の脅迫が実行され、ジャーナリストたちすべてへの警告とされる。2017年、ヒンドゥー・ナショナリズムをしばしば攻撃していた編集者が自宅前で銃殺された。BJP支持者たちはそれを祝った。殺害の実行犯が警察に述べたことによれば、教唆者が彼に、信仰のために実行せよと命じた。

ロシアのモスクワ議会選挙でも、アメリカの大学キャンパスでも、反対意見を持つ者たちは討論する機会もなく、互いを強く敵視する。もはや議論の余地はない。彼らは沈黙する。そして罵倒し、暴行におよぶ。政府や与党が主要メディアのスポンサーになり、積極的に広告を展開する。独立したメディアは、政府系メディアとの競争に勝てない。

若者たちの多くは民主主義を支持しない。自由な言論は窒息する。トランプ大統領はアメリカ連銀議長の首を飛ばす準備に入ったようだ。貿易戦争から通貨戦争に及んでも、米中政府は合意を示さず、それに対してG7は全く無力である。

ドルに依拠したブレトンウッズⅡが終わると、だれの目にも明らかになってきた。しかし、次はどうなるのか? イングランド銀行のカーニー総裁が示す「グローバル・デジタル通貨」とIMFを利用した多元的国際通貨制度が、いよいよ始まることも期待される。

しかし、言論の自由なしに、だれが、どのようにルールを決め、支配するのか? 「かわいそうな、ジェイ・パウエル」で、ルースは、自分に仕えた者たちの首をはね、大皿の載せて食べた王様の話を思い出す。あるいは、ボリス・ジョンソンは議会を閉鎖し、マグナ・カルタを書き直す。

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