IPEの果樹園2019
今週のReview
8/19-24
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簡易版
[長いReview]
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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy,
The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate,
SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● Brexitとナショナリスト戦略
The Guardian, Sat 10 Aug 2019
The very idea of a united kingdom is being
torn apart by toxic nationalism
Gordon Brown
EUとの再交渉、債務支払いの拒否は、ジョンソン政権が約束する愚かで、真実を無視したスタイルで、愛国心に訴える。国民医療保険に資金が増えるとか、警察官を2万人増やすとか、彼のインタビューは、政権が国益ではなく、破壊的、ポピュリスト、ナショナリストのイデオロギーによって動くことを隠すことはできない。
ジョンソンはUKの各地を訪問するが、この世界で最も成功した多民族国家を彼が破壊することは明白だ。その4つのナショナリズム(スコットランド、アイルランド、イングランド、そしてウェールズ)を1つにまとめるような強力な目的を示せない。
わずか3週間で、イングランド・ナショナリズムは強まり、保守党は「議会」を「人民の敵」とする形で選挙キャンペーンを始めている。
FP AUGUST 10, 2019
Can Boris Johnson’s Brexit Guru Banish
Nativist Populism From British Politics?
BY SAHIL
HANDA
FT August 11, 2019
Deliberative democracy is just what politics
needs
The Guardian, Tue 13 Aug 2019
Of course the US supports a no deal – it
makes a minnow out of Britain
Gaby
Hinsliff
FT August 13, 2019
Bet on the Brexiters until Remainers show
unity
Robert
Shrimsley
この国が、今や、Brexitを実行することだけに焦点を絞った人々により動かされていることを実感した。彼らは、合意がなくても離脱すると決意している。
それは瀬戸際作戦以上のものだ。当面のビジネスを健全に維持するため、あなたなら、「ベルリン空輸」を求めるかもしれない。しかし彼らの戦略は違う。自分に火をつけることを悪いアイデアと思うことはない。なぜなら燃え上がる毛布に身を包んでいるのだから。
彼らに反対する残留派、ソフトBrexit派は、対照的に、なお、優先順位を争い続けて、分裂状態である。政治的な重さはまるでない。各政党は、合意なき離脱を阻止する以上に、政治におけるセクシズム、スコットランド独立、コービン政権への反発や期待において、大きく異なっている。
FT August 15, 2019
Jeremy Corbyn’s Brexit offer puts pressure
on the Lib Dems
Robert
Shrimsley
FP AUGUST 15, 2019
Boris Johnson Needs a Second Referendum to
Stay in Power
BY JAMES
GRANT
● 世界金融不安とIMFトップ人事
FT August 11, 2019
The new IMF head should not be dictated by
the tired, old, EU order
John
Taylor
IMFが介入すべき次の金融不安はどこで生じるか、どのような改善策を取るべきか、予測するのは容易でない。しかし、超金融緩和と金融市場における債務依存の時期を経た後で、IMFの助言と資源を求める声は強めるだろう。
国際貿易や投資が脅かされ、世界の最強諸国が政策対立を深めるとき、当然、IMFがより重要な、正直な仲介者、条件整備役を果たすよう求められる。特定のブロックや国の利益より、世界全体の利益を優先して主張することが必要である。
動揺する貿易や投資を支持する国際機関として、また、グローバリゼーションに反対する人々の正当な懸念に応える機関として、その権限は再編されるべきだ。
ヨーロッパはIMF専務理事の候補としてKristalina Georgievaを挙げた。現在のラガルドがECB総裁に転出するためだ。しかし、Georgieva女史がポストに必要な能力を最も備えた候補とは言えない。ヨーロッパからトップを出す、というIMFの特権を廃止するべきだ。有識者による国際選考委員会が決めた候補リストをもとに、理事会の投票で決めることが望ましい。
PS Aug 14, 2019
The IMF’s Latest Victims
JAYATI
GHOSH
● EUはサルヴィーニを恐れるべきか?
FT August 11, 2019
Threats to European integration are
mounting
Wolfgang
Münchau
欧州委員会のトップに選出されたUrsula
von der Leyenは、来年の夏から、ヨーロッパの将来に関する会議を開くと約束した。そこでは、加盟国の投票権、将来の拡大、欧州議会選挙の統一候補者リスト、が議論されるだろう。
しかし、過去10年間で最悪の出来事、ユーロ危機とその反省は話し合われない。北部ヨーロッパでは、ユーロ危機の処理は成功した、という声も聴く。
EUは10年という長期の危機から最近ようやく脱したが、次の不況、グローバルな通貨戦争、自動車産業の技術変化、合意なきBrexit、イタリア政府危機に直面しつつある。
EUは次の金融危機で悪循環に入る危険が高い。私は今なお、ユーロ圏の理想的な金融システムが、課税と支出の強い権限と、政府債務の相互化したユーロ債をもつ、通貨同盟だと考える。しかし、改革できないユーロ圏は支持できない。
南欧諸国で破滅的な緊縮財政を強いられた経験の後、統合論は弱まった。しかし、離脱論者は答えるべきだ。改革が不可能だと、どの時点で決断するのか? 経済が悪化する中で、EUの外にいるほうが耐えられるのか? EU財政ルールを逃れれば、雇用と成長は実現できるのか?
EUが本当に危機に入るのは、合理的な、イデオロギーによらない、統合反対論が強まるときである。財政ルールと、安定性と成長のための協定は、ユーロ圏の原罪だ。たとえ修正されたとはいえ、それがEU内の経済乖離、投資の抑制、不況を強める政策につながった。ダメージをもたらすBrexitと違い、よりよい財政政策のルールに向けて離脱する国には、利益を得る可能性がある。
すなわち、ユーロ圏を離脱して、予算赤字がGDPの3%以下というマーストリヒト条約の制限を解除する。持続可能な投資ルールを定める。それは景気後退期に財政刺激策を認めるものだ。中央銀行はアメリカ連銀の2つの目標に従う。物価と雇用の安定化である。中央銀行が資産購入や銀行の救済を制限されることはない。それこそサルヴィーニが考えることだろう。
ヨーロッパ統合の真の脅威はサルヴィーニではなく、ジョン・メイナード・ケインズのように、有権者たちが事実の変化に従い考えを変えることだ。EUはそれを嫌うが。
FT August 12, 2019
Italians wait for the real Matteo Salvini
to reveal himself
Bill
Emmott
FT August 15, 2019
A dysfunctional coalition in Italy is
thankfully dead
● 日韓対立激化と歴史的情念
FP AUGUST 11, 2019
Shinzo Abe’s Dream Will Never Come True
BY
WILLIAM SPOSATO
NYT Aug. 12, 2019
Where the Cold War Never Ended
By Ian
Buruma
もし世界が合理的であれば、韓国と日本は親友であるだろう。その文化と言語は密接に結び付き、その交易は深く絡み合っている。東アジアで(台湾とともに)唯一の民主主義諸国が、北朝鮮や中国に対抗する必要があるからだ。
しかし、世界はそれほど合理的でない。この東アジアにおけるアメリカの同盟諸国は、経済や歴史をめぐる紛争を激化させている。韓国の最高裁が植民地支配下の強制労働に対する補償を日本企業に求める判決を出した。日本政府は、1965年の日韓基本条約で解決済みだ、と抗議した。安倍首相は、先月、韓国にとって死活的な物品の輸出を規制して報復した。安全保障を理由に挙げたが、それを信じる者はいない。
多くの歴史問題が争いになったが、これはその最新のケースである。謝罪の誠意、歴史教科書の記述、従軍慰安婦に対する日本軍の責任。
日本は、韓国よりも中国から遠く、海によって分けられている。しかし、韓国は中国を無視できなかった。多くの供物を納め、中国を優れた文明、支配的政治システムとして認めてきた。
20世紀の初め、韓国には中国に接近する者、ロシアに接近する者、日本に接近する者がいた。1910年に日本帝国が韓国を併合すると、韓国のエリートは、望みのない抵抗と協力との選択、に直面した。多くのエリートは協力を選択したが、それは近代化を進めるためでもあった。
しかし、二流市民にとどめられ、日本人になるため固有の文化や言語を否定された経験は、韓国人が日本を指導者として認めず、両国の関係を今なお損なっている。
同じ服従と協力の歴史は、韓国の国内政治にも有害な影響を及ぼし続けている。朴正煕は権威主義的指導者として、過去を過ぎたことにするため1965年の日韓基本条約に署名したが、日本への指導的協力者であった。彼は日本帝国軍人であったし、日本の右翼政治家たちから友人とみなされた。岸信介もその1人だ。安倍は、戦後の最もナショナリスティックな政治家に属するが、岸の孫である。
韓国の左派は、日本に協力した保守派のエリートたちを決して許さなかった。彼らは、日本とも、朴のような右翼権威主義者とも、闘ったことを誇りとしている。日本支配下の協力者たちが保守政党を創った。元大統領で、汚職により投獄された朴槿恵は、朴正煕の娘である。
現大統領のムンジェイン(文在寅)は左派に属しており、1965年の条約に縛られないと考えている。それは単なる反日感情ではなく、安倍が、強制労働の使用にかかわった岸の孫であること、その協力者たちに対する憎悪、も関係あるだろう。
安倍もまた、彼の祖父がなしえなかった、憲法改正の願いを実現することを望んできた。敗戦後の憲法はアメリカが1946年に書いたもので、軍事力の行使を禁止している。多くの日本人は、その公式の平和主義を歓迎し、岸の試みに反対したのだ。
軍事力行使を可能にする憲法改正は、安倍を支持する好戦的な右派の願いだけではない。かつて副大統領のころ、リチャード・ニクソンが日本の平和主義を転換させ、共産主義者と戦う軍事強国にしようと考えた。
東アジアの冷戦秩序は安定していた。しかし、まもなく変化するはずだ。それは中国がより威圧的になってきたからだが、トランプ大統領が日米安保条約を「良い取引」とは思っていないからでもある。今や、トランプは気まぐれに、同盟諸国の通商条件についても脅し始めた。
もし世界が合理的であれば、日本は韓国、台湾、東南アジアと同盟して、中国に対抗するだろう。しかし、歴史的情念が支配する世界では、アメリカが軍事的に後退すると、韓国は中国に接近するだろう。他方、日本は憲法を改正し、おそらく核武装にも至り、海に隔てられたまま、信頼できない外の強国を排除した平和を維持しよう、と願うのかもしれない。
それは過去にあった。しかし、今、そのような戦略に頼るのは愚かである。
● 恐怖の夏
FT August 12, 2019
Braced for the global downturn
Rana
Foroohar
嵐の前の静けさだ。先週の市場が動揺したのは、米中貿易紛争が通貨戦争になるのを恐れたからではない。アメリカ連銀が行った7月の金利引き下げも景気後退を防ぐことはできない、とわかったからだ。世界中で、多くの指標がそれを示している。
ダウが趨勢から130%も乖離したのは、1906年以来、わずか20カ月しかない。今もそうだ。「アメリカの株価は、150年間の記録の中で、2番目に高い。」・・・「価格は下落するに違いない。」
株価が暴落するかどうか、と考えるのではなく、なぜまだ起きないのか、と私は考える。多くの市場参加者は心配している。14兆ドルもマイナスの利回りで債券が保有されているのは、その証拠である。損をしてでも「安全」もしくは「債券」を買うのは、もっと大きな損失を回避するためだ。人びとは、世界がその深いところで間違っている、とわかっている。
先週まで、市場は3つのことを無視していた。1.米中間で通商問題のディールは成立しない。双方はディールを求めているが、中国は対等なパートナーとしてでなければディールしない。ドナルド・トランプは、心理的に、これを受け入れられない。彼の全キャリアが、ディールには敵を粉砕することが必要だ、と示している。
トランプが中国を通貨操作国に分類すると、その直後に、人民元が下落するのを許された。もしアメリカ大統領が中国に、公正な取引ではなく、強硬な条件を呑まそうとすれば、中国はアメリカ市場を暴落させる、と示したのだ。
要するに、ツキディデスの罠、は現実に存在する。米中は今や、世界経済と政治とを改造するような、多分野での冷戦を始めている。これに対して、連銀は10年間もプランAで対処してきたが、失敗だった。プランBはない。金の需要が高まり、現金保有が増えている。
「アメリカの民間部門はあまりにも多くの債務を抱えているから、借り入れコストを下げても需要が増えるということにはならない。」 1935年に、連銀総裁だったMarriner Ecclesは、金融緩和しても需要が増えない状態を、「弦を押す」と表現した。今もそうだ。
より多くの債務で、債務問題を解決することはできない。大統領の失策から生じるダメージを抑えるために、連銀は行動した。しかし、それは成長をもたらさない。お金がぐるぐる回っているだけで、いつか、金融市場と実物経済は収れんしなければならない。
その時が来た、と思う。投資計画は延期され、住宅は売れ残り、アメリカの消費者は、クレジット・カードの残高も、自動車の燃料消費も減らしている。こんなことは普通じゃない。まるで夏休みのど真ん中に入ったようだ。
恐怖の夏だ。
PS Aug 13, 2019
Trump’s One-Way Economy
JIM
O'NEILL
NYT Aug. 15, 2019
How World Leaders Ruined the Global Economy
By
Steven Rattner
あまりにも多くの政治指導者が愚かな政策を採用する世界に、われわれは住んでいる。
アメリカの貿易戦争、イギリスのBrexit、インドのイスラム教徒弾圧、中国の先端技術分野における国家独占戦略。
● 非リベラリな民主主義
FT August 12, 2019
Moscow, Hong Kong and the liberalism of the
streets
Gideon
Rachman
ロシア大統領、ウラジミール・プーチンは、リベラリズムは時代遅れだ、と述べた。そうかもしれない。私は最近、モスクワと香港を訪問した。
その規模は全く異なる。しかし、どちらの都市でも、若者たちの勇気に衝撃を受けた。彼らの行動には指導者がいない。非常に弾力的な組織が生まれている。
警察による弾圧は、たとえ短期的に鎮圧できても、逆効果である。人びとが偽物の民主主義に対する強い憤慨は、両者においてよく似ている。
非リベラリな民主主義を利用する、という権威主義体制の指導者こそ、時代遅れであろう。
PS Aug 12, 2019
A Tiananmen Solution in Hong Kong?
MINXIN
PEI
FT August 13, 2019
Hong Kong’s future hangs by a thread
Jamil
Anderlini
一国2制度は、共産党による乗っ取りは起きない、少なくとも50年間、基本的自由を守り、権力の異常は象徴的なものだ、と保証するためだった。
しかし、振り返れば、サッチャーと鄧小平が合意した1984年は、中国の開放度がピークに達した時だった。1980年代の実験は、1989年の天安門事件で野蛮な形の終わりを迎えた。経済改革は数年後に再開されたが、政治改革は永久に延期された。2012年に習近平が権力を握ると、もっと権威主義的なガバナンスが確立された。
しかし、本土からの土地・住宅投資や観光客の増加に、住環境が悪化した香港住民の不満は強まった。抗議デモにおいて、まったく姿を見せなかったのは香港の富豪たちだ。彼らは忠誠の見返りに本土の有利な投資機会を得た。香港のエリートや市民を黙らせることを期待されていた。
イギリスの植民地統治に似た形で、香港の統治を現地の少数のエリートにゆだねる方式は成功しなかった。
1967年、イギリスの植民地であった香港のデモは爆破テロに及び、51人の死者と5000人以上の逮捕者を出した。暴力が終わったのは、当時の周恩来首相が、植民地における共産主義者のアジテーションをやめるように求めたときだ。
今の香港には、デモを止めるような政治指導者がいない。
NYT Aug. 13, 2019
The Battle for Hong Kong Is Being Fought in
Sydney and Vancouver
By
Louisa Lim
FT August 14, 2019
A military crackdown in Hong Kong would be
a tragic error
FP AUGUST 14, 2019
Can Hong Kong’s Protests Survive?
BY JAMES
PALMER
FP AUGUST 14, 2019
How Close Is Hong Kong to a Second
Tiananmen?
BY JUDE
BLANCHETTE
FT August 15, 2019
America is failing the Hong Kong test
Edward
Luce
ドナルド・トランプ大統領は、香港の抗議デモを「暴動」と呼び、中国が鎮圧したがっている、と述べた。つまり、北京が弾圧しても、ワシントンは反対しない、というメッセージを送ったのだ。Wilbur Ross商務長官は、香港を中国の内政問題とした。「われわれに何ができるのか? 香港に侵攻する?」 と彼は問いかけた。
トランプ外交の図式は簡単だ。何もしないか、戦争するか。しかし、戦争が不可能なとき、外交が重要になる。
● アメリカの銀行と欧日の銀行
FT August 12, 2019
US banks hope to avoid the fate of those in
Europe
Rob
Armstrong
アメリカの銀行は、経済や金融の日本化やヨーロッパかを生き残れるか?
● 民主主義の動揺
PS Aug 12, 2019
Democracies in Danger
NGAIRE
WOODS
3つの不安な事件が目立っている。
1.政治家たちが「公共の広場」を脅かす。市民たちが議論し、抗議デモをし、暴力を恐れずに討論できることを、危険な状態にしている。
インドで、市民の権利を守る集団は、モディとその与党BJPが暴徒に「免罪となる環境」を与えている、と非難している。アメリカで、トランプの人種差別的ツイートが同じことをしており、特に有色の民主党女性議員たちを標的にしている。UKのBrexit投票期間中、Facebook利用者は、EU残留はトルコからの移民の波にUKが蹂躙される、という宣伝の標的となった。
2.民主的選挙で権力を得た指導者は、独立した制度やチェック・アンド・バランスを攻撃する。
3.世界中で、民主的な権力が人格化され、個人に帰属されている。
● トランプ政権と固定レート制
PS Aug 12, 2019
America’s Superpower Panic
J.
BRADFORD DELONG
PS Aug 12, 2019
Trump’s Cross of Gold
BARRY EICHENGREEN
ドナルド・トランプ大統領がシェルトンJudy Sheltonを連銀理事に指名した。なぜか? トランプの選挙運動に初期から助言して、信頼されている? 「低金利信奉者」である? 頼りにならない連銀から金融政策を切り離すために、金本位制を提唱している?
すべて的外れである。本当の理由は、シェルトンが固定為替レートを支持していることだ。貿易戦争に勝利するため、政権は、通貨操作国に対して脅す必要がある。
トランプのチームは、貿易赤字を圧縮し、国内製造業の競争力を高めたい。そのために、関税を引き上げて輸入品の価格を高くすることだ、と考えている。しかし、10%の関税引き上げも、外国通貨がドルに対して10%減価すれば、輸入品の価格は上がらない。
しかし、外国が何もしなくても、アメリカが関税を引き上げればドルは強くなる。彼らの通貨が減価するだろう。経常収支はアメリカの貯蓄と投資の差で決まり、関税は関係ない。したがって、内外の相対価格は変わらず、為替レートが変化して関税の効果を消してしまう。
つまり、トランプ・チームは、外国の政策を変えて、その通貨価値を変えないように求めている。それが、彼らの言う「通貨操作」を終わらせる、ということだ。
シェルトンは、昨年、新しいブレトンウッズを求めた。「諸国の通貨が安定する一貫したメカニズム」を確立する、と。しかし、そのために国際会議は必要ない。トランプはそれが大嫌いだ。19世紀の金本位制と同じようにすればよい。指導的大国、当時はイギリス、が一方的に自国通貨の価値を金で固定する。他国はイギリスの優位を観て、それに従った。
この話には多くの間違いがある。第1に、他国は、金本位制であろうがなんであろうが、通貨価値を安定化したがらない。彼らは経済状況に応じて金融政策を変えるべきだと考えており、そのためには為替レートが変動する。
第2に、金はもはや通貨価値の安定したアンカーではない。金のドル価格は、2009年900ドルから、2011年1900ドルに上昇し、今は1500ドルだ。もし金本位制なら、2009-2019年に物価が半減し、破滅的なデフレを経験したはずだ。
19世紀の金本位制では、物価がそれほど変動しなかった。それは金鉱山や金の保蔵と非貨幣化が、物価変動を緩和したからだ。金価格が上昇すれば金の採掘が増え、下落すれば非貨幣化する。しかし今、金鉱山は世界GDPに比べてずっと小さな役割しか果たさない。
今、金価格が大きく変動するのは、金融取引が不安定なせいだ、と言うかもしれない。しかし、それは無駄だ。金本位制は中央銀行の「最後の貸し手」を制限し、金融危機が頻発する。
金本位制や固定為替レートは、トランプ・チームの答えにならない。
FT August 15, 2019
This is a currency war Donald Trump was
never going to win
Megan
Greene
アメリカは一方的にドルを安くすることができない。通貨戦争には勝てないのだ。
● マイナスの所得税
NYT Aug. 12, 2019
It’s 2043. We Need a New American Dream for
the A.I. Revolution.
By Baobao Zhang
長く、アメリカの労働者たちは、機会の平等に依拠する「アメリカン・ドリーム」を信じてきた。苦しい仕事を通じて、まともな暮らしが手に入る。それは第2次世界大戦後、労働組合が組織する工場労働者として、高校卒業だけで実現できたことだ。しかし、1970年代後半から、グローバリゼーションや機械化が進んだ。
現在の不平等を解決するために、マイナスの所得税を導入しよう。それは平均所得の半分を切ったら機能する。財源は、祭富裕層の限界税率を挙げ、相続税、炭素税で得る。不要になる貧困対策をやめる。
多くの有権者は、社会給付をそんなに増やすことが可能か、疑うだろう。中国を観ればよい。AIの指導国として、製造業の労働者が職を失うと分かっているから、そのための社会政策を拡大している。
FT August 13, 2019
Merging with AI would be suicide for the
human mind
Susan
Schneider
● 通貨操作国
FT August 13, 2019
Currency manipulation charges against China
are unfounded
Liu
Guoqiang
● アルゼンチン
FT August 13, 2019
Argentina needs a long-term economic plan
FT August 14, 2019
Argentina’s political rivals must face up
to urgent economic realities
Hector
Torres
● 移民送金
PS Aug 13, 2019
Global Money for the Poor
CAMILA
VILLARD DURAN
● カシミールの自治権剥奪
FP AUGUST 13, 2019
The World Is Reaping the Chaos the British
Empire Sowed
BY AMY
HAWKINS
The Guardian, Wed 14 Aug 2019
India’s illegal power grab is turning Kashmir
into a colony
Mirza
Waheed
カシミールは、インド憲法で保障された自治権を、誰も、何も議論もしないまま、剥奪された。人びとは交通も、通信も、遮断されている。
カシミールはどうなるのか? ジャーナリストは一言、パレスチナ、と答えた。ヒンドゥー・ナショナリズムの帝国が支配する植民地だ。
FT August 14, 2019
India’s clampdown in Kashmir reflects
international disorder
David Gardner
ドナルド・トランプ大統領の間違ったシグナルは、インドとパキスタンの核戦争の危機をさらに高めるだろう。
PS Aug 14, 2019
Tilting at More than Windmills in South
Asia
RICHARD
N. HAASS
NYT Aug. 15, 2019
The Silence Is the Loudest Sound
By Arundhati
Roy
● 米中露3国関係
NYT Aug. 13, 2019
Trump and Xi Sittin’ in a Tree
By
Thomas L. Friedman
PS Aug 14, 2019
When Leninists Overreach
NINA L.
KHRUSHCHEVA
● アフリカ
FT August 14, 2019
Zimbabwe’s economic crisis has reached a
breaking point
David
Pilling
FT August 16, 2019
Sudan’s perilous journey towards a better
state
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The Economist August 3rd 2019
The Federal Reserve and emerging markets: An opportunity
Digital payments: The dash from cash
Charlemagne: Streets ahead
No-deal planning: Boris’s game of chicken
Bagehot: Long live the Tory revolution!
Ungovernable democracies: Coalitions of chaos
Free exchange: Close calls
(コメント) アマゾンの熱帯雨林、コンゴのエボラ熱、シンガポール=香港=中国の記事も読みましたが、ほかの記事に驚きました。
アメリカ連銀が金利を下げたことは、新興市場が改革と成長を推進する機会になる、収れんの可能性は終わっていない、という中身です。
それは楽観的な意見です。中枢諸国がバブルを生じて景気後退に向かうとき、投資を新興市場の開発によって持続したい、と願うのは、ラディカル地理学者のハーヴェイが指摘した「空間的回避」、もしくは、習近平の「一帯一路」と同じでしょう。いまさらアメリカ連銀や日銀が、それに期待するとしたら、・・・どうかな?
民主主義の統治不能について、あるいは、イギリス保守党のバークよりルソーに走った過激主義を、考察する記事が面白いです。ボリスのチキン・ゲームが明確にシナリオを整理します。
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IPEの想像力 8/19/19
カシミールと香港。その土地を支配するインドと中国。人類の多数を擁する超巨大国家が、「1国2制度」を廃止する危険な瞬間に入るのでしょうか?
The Economistの記事が願った(あるいは、祈った)ように、インドと中国は、カシミールや香港の武力制圧ではなく、自分たちの市場を生かして、社会制度の改革を通じた高成長と平等社会の実現により、Brexitとトランプに代わる国際秩序を示すときです。
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株価が下落し続ければ、そして、世界の景気が深刻な不況に向かえば、ポピュリストたちの政策は失敗であり、Brexitやトランプを支持したことは間違っていた、と人々は理解するだろう。
私は、最初、そう考えることにしていました。民主主義と資本主義とは親和的だ、と思ってしまう、リベラリズムの支持者は、政治が経済変動を通じて正しい選択をした者に、生き残る可能性を高めるはずではないか?
しかし、2016年から3年が経とうとする今でも、Brexitとトランプは健在です。また、それを支持する勢力は後悔しているように見えず、反対派が、目立って好ましい、有効な対案を掲げて、政治の新しいフロンティアを開いているようにも見えません。
この政治経済秩序を支える異常な金融緩和が、私は恐ろしい、と思うのです。
何が起きているのか、何を実現したいのか、中央銀行や経済政策を決める専門的な知識を持つ人々は、現実を、もはや理解できなくなったように思います。彼・彼女たちの意見が一致せず、あいまいになれば、それを決めるのは権力者の強い意向、もしくは、個性です。
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女子学生の中に勉学に励む姿勢を観ます。外国に住んで、自分より子供たちの方が急速に現地の言葉を吸収するのも見ました。ダイナミックな力を社会的に支援し、組織する可能性は、まだまだあるでしょう。
基本に返るなら、革新的投資をもっと起こすことです。リベラリズムの社会的な活気を信じて、もっと個々の新しい試みを見つけ出し、それを妨げる不当な介入や障害を取り除くことで、投資を誘発し、連動する姿を期待します。
社会的に望ましいことを、個人が、利益を出して実現する機会を、政府と市場は用意できるはずです。
The Economistにヨーロッパ政治の考察Charlemagne: Streets aheadが載っています。ここで読んだのは、ポスト自動車時代の都市、アントワープの姿です。
ヨーロッパの(そして日本の)諸都市は、アメリカと違って、拡大するスペースがなく、曲がりくねった細い道が、都市の歴史的景観・住環境でした。しかし、戦後の都市計画は、自動車中心のアメリカ都市に魅了(そして呪縛)され、道路を拡幅し、駐車スペースを得るために街並みを破壊しました。
今、ヨーロッパは市街地を、自動車ではなく、自転車やスクーター、散策する人にふさわしい環境へ改造(回復)しているようです。市政府も、自動車の制限速度を低くし、乗り入れ禁止地区を拡大し、ノー・カー・デイを設けます。
歩行者だけの街路にカフェやレストランがテーブルを広げ、駐車スペースより広場や街路樹が優先されます。
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日本でも、福島原発の廃炉作業は何兆円も「投資」して、それでも安全な廃炉過程を示すには至っていません。汚染水だけでも、さらに貯蔵タンクを積み増す「計画」というのは、社会にとって何も生み出さない「投資」です。
もしその財源で、日本の地熱エネルギーを開発していたら、ホルムズ海峡の安全保障や、アメリカとイランの対立にも、積極的な外交を示せたでしょう。
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