IPEの果樹園2019

今週のReview

8/5-10

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簡易版

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ECBの追加の金融緩和

FT July 26, 2019

ECB purchases of equity would be a dangerous step

Merryn Somerset Webb

BlackRockの重役Rick RiederECBに、通貨を発行して株式を購入することを強く要請した。

この発言はそれほど注目されなかったが、新しいことではない。日本銀行は、自国の株式を何年も購入してきたからだ。日銀は、市場で取引されている株式投資信託の約75%を所有してしまった。上場企業の40%について、日銀が上位10人の大口所有者に入る。

ECBの姿勢も信じがたいほど緩和に傾いている。2兆ユーロを超える量的緩和、マイナス金利、果てしない低利融資と、フォワード・ガイダンス。市場はそれに慣れてしまった。木曜日のECB会合で、金利が今の水準、さらに低い水準に維持されるだけでなく、新しいパッケージとして、資産購入の新しい規模と構成を選択肢として提示することを話し合った、という。

しかし、QEの上限が迫っている。ドイツは予算黒字を続けて国債を供給せず、ECBQEのためには国による国債購入の構成を偏りなく行うことができない。このルールを変えるのは非常にむつかしい。

ECBが通貨を発行して株式を買うのは、その意味で、可能な選択肢である。株式購入は、過去10年の極端な低金利政策に対する補償にもなる。ドイツの貯蓄者はマイナス金利によって貯蓄を減らしたが、もし株式市場にバブルが生じれば、いくらかよくなったと感じるだろう。それは、アメリカが示すように、資産効果が働いて、直ちに消費を増やす。

何が懸念なのか? 第1に、世界最大の資産運用会社であるBlackRockが、中央銀行に株価の上昇を求めることだ。それは彼らの利益になるというだけでなく、うまく機能しないだろう。日本がそうだった。(すでに株を所有している者にとって)株価を上げることは理解できるが、その他の者には何の助けになるのか?

われわれの感覚は過去10年にわたる、ますます極端な金融緩和によって鈍っている。ECBが通貨を発行して企業を公的所有にするのであれば、それは資本主義を救済する唯一の方法が国有化である、という意味になる。イギリスの野党指導者、ジェレミー・コービンは「人民のQE」や公益事業(電気・ガス・水道)の国有化を主張している。それがBlackRockが言うなら、平気なのか?

中央銀行のバズーカはうまくいっていない。

PS Jul 26, 2019

Lagarde’s ECB Checklist

STEFAN GERLACH

SPIEGEL ONLINE 07/29/2019

Challenges for New ECB Head

Will Christine Lagarde Pursue Tighter Monetary Policy?

By Tim Bartz, Martin Hesse and Christian Reiermann

PS Jul 30, 2019

The End of ECB Restraint

HANS-WERNER SINN

多くの、出来の悪いエコノミストたちの期待が確認された。ECBがユーロ圏のインフレーションを起こす決意をした。

われわれはマーストリヒト条約を思い出すべきだ。それは、ECBは、単一の、交渉のよりがない目標として、安定した物価を維持する、と定めている。すなわち、文字通りに取れば、目標のインフレ率はゼロである。これは他の中央銀行の権限と大きく異なっている。

インフレ率が急速に低下した南欧諸国ではバブルが生じた。ECB政策会議は、インフレーションを抑える制限的な金融政策を行うことなど全く考えることなく、競争力を失う国や、ドイツのように経済が減速し、停滞に陥る国のことも考えなかった。

その後、ユーロ危機が生じたのだ。インフレ率は急落し、ECBはゼロ・インフレを目標にしたはずが、突然、方針を転換した。「2%より低いが、それに近いインフレ」を目指す、とドラギはテレビ・カメラの前でも述べ、それがECBの使命である、という。

ECBが新しい拡大的な金融政策を採ることについて、その正当化に、ドラギは何度もユーロ圏の製造業が急速に悪化していることを挙げた。彼の主要な焦点はドイツだ。ドイツ製造業は2018年夏から不況にあるからだ。

しかし、金融政策や財政政策でユーロ圏の景気拡大を図ることは、今日、グローバルに展開する製造業にとって助けにならないだろう。しかも、ユーロ圏の内需は強い。多くの国では建設ブームが続き、サービス需要は強く、賃金が急速に上昇している。追加の刺激策は、コストを引き上げ、国際市場の競争激化と国内の賃金上昇に直面している企業を、さらに苦しめるだろう。それは非貿易財部門が安価な融資で拡大することが貿易財部門を苦しめる、いわゆるオランダ病と同じ問題だ。

ドイツの製造業を金融緩和の理由に持ち出すのは間違っている。産業が必要とするのは競争力を高める技術革新である。特に、こうした不安定な国際環境ではそうだ。それを考えるのは、中央銀行や国際機関で支配的なニュー・ケインズ主義ではない。

ヨーロッパは構造政策を必要としている。すなわち、ゾンビ企業を維持する政策や、新しい住宅バブルを刺激する政策、さらなる金融緩和で政府債務を積み増す政策ではなく、市場の力を自由化することだ。

ECBは、新しい戦いを唱えるが、そのあまりにも冒険的な政策は、ヨーロッパの経済システムを弱め、持続できないものにする。

PS Aug 1, 2019

ECB Loosening Is Not Enough

LUCREZIA REICHLIN


 世界経済の減速

FT July 26, 2019

The global economic momentum is slowing

FT July 26, 2019

Why US bond yields could be going the way of Germany and Japan

Bob Michele


 米中G2の公共財破壊

PS Jul 26, 2019

The G-Minus-2 Threat

ARVIND SUBRAMANIAN, JOSH FELMAN

1980年代から2000年代にかけて、世界はイデオロギーと経済において収れんしつつあった。そのように考えられた。西側The Westとその他の世界The Restとは、開放型のリベラルな秩序が繁栄に至る最善の道だと合意した。

しかし今、このイデオロギーは崩壊しつつある。世界経済はその悪影響に苦しんでいる。

20年間の「黄金時代」は貿易を拡大するハイパー・グローバリゼーションであった。経済的な収れんの時代であった。多くの発展途上諸国、特に中国の台頭は、近代的な、効率的な、輸出向けの工場を建てる運動の代表であった。

それはアメリカによって創り出された世界であった。1930年代の混乱と第2次世界大戦が、新しい集団意識を形成した。アメリカはブレトンウッズ体制に集約される、重要な、3つのグローバル公共財を供給した。IMFの緊急融資、世界銀行の長期融資、GATTの市場開放である。それはアメリカが疑いの余地なく覇権国である、G1世界であった。

しかし、中国の成功と、アメリカの不満、そして「裏切られた」感覚は強まった。特に世界金融危機の後だ。アメリカのエリートたちは、中国が通貨操作、知的財産の窃盗・スパイ、強制的な技術移転でアメリカをだました、と感じている。中国はますます国家主義に向かい、政治的反対派を弾圧している。

この合意を欠いたG2世界は、イデオロギー的、経済的な収れんを失った。「黄金時代」は、気候変動やAIの普及に脅かされつつある。米中は、C.P.Kindlebergerが指導国の責任として求めた、開放市場というグローバル公共財を供給するより、その逆を進めている。

もしアメリカが多国間の貿易ルールを破壊し、国際移民を妨げるなら、発展途上諸国はその輸出による開発戦略を制限される。財を輸入することも、移民を受け入れることも拒むなら、彼らの発展は行き詰まるだろう。

また中国にも、その支配を拡大する「ソフト・パワー」が欠けている。特に、発展途上諸国が必要とする解放された市場を、中国は提供しない。むしろ、さらに経済的な自律化を進めている。主要な公共財を担うグローバル・システムを利用するだけでは、保護主義的な姿勢を維持することは、世界に有益な支配をもたらす覇権国となりえない。

われわれは、2つの覇権国家がKindlebergerの求めたグローバル公共財の供給で協力する姿勢とは、まったく逆の、マイナスG2世界の住人となる。

米中両国は発展途上諸国からの質問に答えるべきだ。


 米中新冷戦

PS Jul 26, 2019

China’s Long View

STEPHEN S. ROACH

FP JULY 29, 2019

Yesterday’s Cold War Shows How to Beat China Today

BY STEPHEN M. WALT

米中の新「冷戦」を説く者が増えている。しかし、私は2つの歴史状況を単純に比較することには反対だ。しかし、それは歴史を分析して現在の政策決定に生かす姿勢を否定するものではない。

なぜアメリカは最終的にソ連に勝利したのか? 勝利をもたらした優位とは何であり、アメリカの指導者たちはそれをどのように生かしたのか? 冷戦初期の経験は、今後、アメリカが中国に対して優位を維持するうえで助けになるか?

冷戦から得られる5つの重要な教訓を示す。ドナルド・トランプ大統領は、その11つを無視し、アメリカの優位を損なっている。

1.正しい同盟諸国を選ぶこと。・・・アメリカが冷戦い勝利したのは、それがソ連型の計画経済より、市場に依拠する経済の方が、より大きく、多様で、効率的であったからだ。特に、アメリカの主要な同盟諸国は、ソ連の同盟諸国に比べて、はるかに強力で豊かであった。すなわち、西ヨーロッパと日本だ。ジョージ・ケナンの封じ込め戦略は、「工業諸国の中軸」をソ連の手の外側で、西側として組織し、支配することであった。

トランプ政権は違う。その外交は、国際的なパートナーシップを管理するうえでしてはならないこと、を列挙する教科書となっている。TPPを離脱し、アジアにおける戦略的な地位を損ない、中国に容易な勢力拡大を可能にした。貿易戦争はだれの利益にもならず、特に、アジアの同盟諸国を苦しめ、気まぐれなやり方で、北朝鮮を取り込むことにも失敗している。

トランプがヨーロッパに自分たちの防衛に対するより大きな責任を求めるのは、確かに、大きなメリットがある。しかし、指導者たちを侮辱し、貿易戦争で脅し、EUを攻撃するのは間違いだ。

2.科学・技術・教育に多くの投資をする。

3.より大きな市場開放、情報の透明性、説明責任は、アメリカの優位にとって重要であった。

4.ソ連が周辺地帯で資源を消耗することを黙認した。発展途上世界でソ連が、見せかけのマルクス主義・社会主義体制を支援したのは失敗だった。

5.同盟諸国の政治的尊厳や経済発展を許容した。

FT July 30, 2019

How to tame China’s rogue state capitalism

Sherman Katz


 ボリス・ジョンソン

FT July 27, 2019

Boris Johnson, Brussels and the battle for Brexit

George Parker in London and Alex Barker in Brussels

NYT July 27, 2019

Winston Churchill Would Despise Boris Johnson

By Ian Buruma

ウィンストン・チャーチルの亡霊は、今も、ワシントンやロンドンにさまよい出るが、ボリス・ジョンソンは、Brexit後のイギリスの地位を誇張して国民を迷わせる。

大英帝国の擁護者であったチャーチルが、アメリカとの特別な関係を築いたのは、母親がアメリカ人であり、「英語を話す諸国民」に強い信念を持っていた上、ナチ・ドイツと戦うにはアメリカの支援が不可欠であった死活的条件を認めていたからだ。

ジョンソンのそれは、懐古趣味の政治的利用でしかない。

FT July 28, 2019

The EU must prepare for a no-deal Brexit

Wolfgang Münchau

FT July 28, 2019

Boris Johnson isn’t Donald Trump, he’s Ronald Reagan

Frank Luntz

ボリス・ジョンソンを攻撃する政治家やジャーナリストたちが、最近、繰り返す言葉は、ジョンソンが単なるイギリスのドナルド・トランプだ、というものだ。

しかし、それは比較すれば全く違うと分かるだろう。ジョンソンは、イギリスのロナルド・レーガンである。時代を表現する雄弁家だ。

FP JULY 29, 2019

Will Brexit Be the End of the United Kingdom?

BY JONATHAN GORVETT

FT July 31, 2019

Optimism alone will not be enough to make Brexit succeed

Roula Khalaf


 ヒンドゥー・ナショナリズム

FP JULY 27, 2019

India Faces a Looming Disaster

BY SUMIT GANGULY, JAI SHANKAR PRASAD

ヒンドゥー・ナショナリズムを広めて勝利した選挙の後、モディとBJPの支配は政治・社会的な危機を準備する。

FT July 29, 2019

Narendra Modi has the support to build on his bold first term

Gaurav Dalmia

PS Jul 30, 2019

Populism Takes Asia

LEE JONG-WHA

YaleGlobal, Tuesday, July 30, 2019

Stress in Indo-US Engagement?

Harsh V Pant and Paras Ratna


 香港の抗議活動

The Guardian, Sun 28 Jul 2019

It’s as if Hong Kong is now unmoored, so fast have the old ways unravelled

Louisa Lim and Ilaria Maria Sala

最近、地下鉄の駅で起きた事件は1980年代のギャング映画のような暴力を示した。竹の棒や金属の武器を手にした白シャツを着た者たちが全員を殴打したのだ。警察への要請が2400件も寄せられたのに、不思議にも、だれも来なかった。そして45人が病院に運ばれたのだ。

返答を拒む香港政庁の姿勢は、若者たちの民主化デモが激化することを意味するだろう。

FT July 29, 2019

Hong Kong is a flashpoint in the new cold war

Gideon Rachman

香港は、中国の台頭とグローバリゼーションを象徴する場所だった。しかし、ポピュリストが政治を動かし、グローバリゼーションが後退する時代の象徴になるかもしれない。

北京は、香港の政治統治が成功することを重視しており、人民解放軍の導入を抑えている。まだ生還を続け、学生たちが秋になって大学へ戻ることを待つようだ。しかし、今、その行動は激化しつつある。

PS Jul 29, 2019

Self-Harm in Hong Kong

ANDREW SHENG, XIAO GENG

FP JULY 29, 2019

How China Lost Hong Kong

BY ANTONY DAPIRAN

FP JULY 29, 2019

Beijing Is Weaponizing Nationalism Against Hong Kongers

BY ANDREAS FULDA

FT July 31, 2019

Dealing with Hong Kong’s unrest


 Libraによるホットマネー

FT July 28, 2019

Facebook’s Libra and the scourge of hot money

Rana Foroohar

超金融緩和の10年と、Libraのような暗号通貨の普及が意味するのは、ホットマネーが地球規模に大量移動する時代である。

北京大学教授のMichael Pettisは、Libraでは貯蓄が移動可能な、ペナルティーがない場所へ向かい、最も生産的な場所に向かうことはないだろう、と書いた。金融システムは、すでに、新しい、生産的投資に向けて資金を動かすことなく、既存資産を売買している、と他の研究も指摘する。

FT August 1, 2019

To succeed, Libra must prove itself in the Indian market

Huw van Steenis


 金融政策の限界と追加緩和

FT July 28, 2019

Global policy adjusts to the surprising effects of trade wars

Gavyn Davies

2018年末の時点で、トランプの貿易戦争は、欧米企業に大きな影響を与えない、とアメリカ連銀、ECBは見ていた。金融政策の正常化(金利引き上げ)を続けたのだ。他方、中国経済の影響は悲観された。

しかし、数か月後に、その判断は変わった。中国経済は成長を続け、サプライチェーンの混乱も飽きなかった。対照的に、欧米の投資は、貿易戦争の不確実性によって抑制された。ヨーロッパでは景気後退のリスクが高まっている。ECBは、金融政策の限界を意識し、「日本化」を懸念している。

FT July 29, 2019

The White House and the Fed must learn to talk to each other

Glenn Hubbard

NYT July 29, 2019

Why We Should Fear Easy Money

By Ruchir Sharma

金融市場もメディアもこぞって、世界金融危機以来、最初の、連銀の金利引き下げを歓迎した。すでにインフレ修正後の金利水準は1%の半分でしかなく、借り入れコストはゼロに近いが、それでも一層の金融緩和が成長を維持する、というのだ。

「デフレーション」という言葉は、かつて有益な、技術革新によりコストが下がることから、物価の下落を意味した。しかし、1930年代や最近の日本の経験はその意味を悪いものに変えた。

1990年代初めに住宅と株のバブルが破裂した後、日本は需要が減少し、物価が下落した。消費者は購入を延期し、経済は減速した。日本の金融政策は対応が遅かったと批判されたが、2008年の金融危機以後、西側経済に同じような脅威が現れたとき、アメリカ連銀は率先して金融緩和を行った。

しかし、アメリカ経済の回復は以前に比べて遅く、インフレも2%に達していない。金融市場はすでに実物経済の3倍の金融緩和を呑み込んでいる。こうした状況で追加の金融緩和を行うことは、連銀が回避したい金融市場の崩壊、景気後退を招くことになるだろう。

日本の経験が示す重要な教訓は、中央銀行が通貨を供給することはできるが、その使い道は決められない、ということだ。また、Bernie Sanders and Alexandria Ocasio-Cortezのようなリベラル派は野心的な社会プログラムの財源を金融緩和に求めているが、それが誰の利益になるかを説明していない。金融緩和の10年で利益を得たのは、富裕層、独占企業、赤字企業であった。

FT July 31, 2019

Trump unsettles markets by taking aim at Fed and China

James Politi in Washington and Colby Smith in New York

PS Jul 31, 2019

Central Banks Are the Fall Guys

RAGHURAM G. RAJAN

FP AUGUST 1, 2019

The Global Economy Lives in Wonderland Now

BY ADAM TOOZE

金融政策を正常化する合意は、その後、崩壊し、日銀が世界標準となった。製造業の急速に減速し、投資家は国債に逃げ場を求め、金融市場はけいれんを繰り返している。

トランプは1つだけ正しい。アメリカ連銀だけが行動しているのではない、という意味だ。中国の人民銀行は、1ドルに対して7人民元を割っても放置して、刺激策にする意思を明確にした。ECBもラディカルな金融緩和の選択肢を探している。日銀に従って、株式を購入するかもしれない。

トランプの貿易戦争によって揺れる景気は、中国による通貨戦争を迎えてどう反応するのか。

アメリカが好景気にもかかわらず賃金の上昇もインフレも起きないことを、労働組合の解体や、大企業への集中によって説明する意見に加えて、公式党名を疑い、「産業予備軍」の存在を指摘する者もいる。

もはや金融政策の甲賀は限界に達したとわれわれは学んだ。しかし、財政政策も富裕層の利益に制約されている。すくなくとも、低利融資が利用できる世界では、政府が教育や研究開発、エネルギー転換に支出する可能性を考えるべきだ。


 大戦略は要らない

FP JULY 28, 2019

AMERICA DOESN’T NEED A GRAND STRATEGY

BY MICHAEL FUCHS

2014年、シリアは分裂し、ロシアはウクライナを侵略し、アメリカ大統領であるオバマの外交に関する批判が強まった。おそらく、なぜオバマはこれらの複雑な問題を解決しないのか、という問われることに不満を抱いた大統領とその顧問たちは、政府の外交方針を「愚かなことをしない」“don’t do stupid stuff”という言葉で表現した。NYTThomas Friedmanは、これを「オバマ・ドクトリン」と呼んだ。

封じ込め戦略が成功して、冷戦に勝利した後、アメリカは新しい大戦略を探してきたが、無駄であった。政策担当者たち、政権の顧問たちにとって、世界におけるアメリカの役割を包括するビジョンを示すことには大きな魅力がある。

しかし、その模索は間違いに至ることがあるし、危険な作業でもある。複雑な世界を過度に単純化し、非生産的な政策を正当化することにもなる。「アメリカ・ファースト」や「テロとの戦い」のように、ナショナリスティックな支持を求めるケースがそれを示した。

今、アメリカは大戦略を必要としていない。アメリカの指導者は、優先目標を確定し、そのそれぞれについて戦略を決めるべきだ。クリントンは民主主義の普及を、ジョージ・W・ブッシュはテロとの世界戦争を、ドナルド・トランプはアメリカ・ファーストを推進し、あるものは他のものよりも成功したが、いずれもアメリカの利害の全体を捉えることには失敗した。


 プエルトリコ

PS Jul 29, 2019

The Many Roots of Puerto Rico’s Crisis

ANNE O. KRUEGER


 Kポップ

FP JULY 30, 2019

K-Pop’s Big China Problem

BY LAUREN TEIXEIRA


 スーダンとAU

PS Jul 31, 2019

Success in Sudan

PAUL MULINDWA


 アメリカの成長と大統領選挙

PS Jul 31, 2019

Economic Growth and the US Presidential Election

SIMON JOHNSON


 アジアの安定性は終わった

FP JULY 31, 2019

Putin and Xi’s Buddy Act Could Blow Up East Asia

BY KATIE STALLARD-BLANCHETTE

FP JULY 31, 2019

The Asian Century Is Over

BY MICHAEL AUSLIN

アジアの世紀は続かない。繁栄と安全保障の条件が失われつつある。先週、アジアの主要な4大国が、日本海もしくは東海の上空で衝突する寸前であった。

中国経済の急速な減速から、香港における民主化の街頭要求活動、日本と韓国との間の冷戦、これらのダイナミズムが地域の平和と繁栄を終わらせる。


 トランプはデジタル課税に反対する

FP JULY 31, 2019

Why Is Trump Seeing Red Over France’s ‘Google Tax’?

BY KEITH JOHNSON


 中規模都市の成長

PS Aug 1, 2019

What About Rochester?

KENNETH ROGOFF

雇用を生み出すエンジンは今も都市である。これは発展途上諸国でいえることだが、開発諸国ではどうか?

かつてRochesterはアメリカで最も裕福な都市の1つであり、Eastman Kodak, Xerox, and Bausch and Lombが本社を置いていた。その後、残念ながら、技術革新とグローバル競争(特に日本企業)によって縮小した。

中規模都市の活性化は雇用と成長のために重要だ。科学・技術研究の連邦予算を地方の中規模都市に割り当てる。デジタル企業に対しても、独占禁止法の適用を厳格化する。無料の、高水準のオンライン教育を充実させる。


 対中追加関税

FT August 2, 2019

Trump to hit $300bn in Chinese goods with 10% tariff

James Politi and Demetri Sevastopulo in Washington and Colby Smith in New York

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The Economist July 20th 2019

The next 50 years in space

Business in America: Soaring stockmarkets, peaking profits

Export controls in Asia: History wars

Democracy in Japan: Yawning in the face of danger

Wages in Australia: Sun, surf and bonzer pay

Investment migrants: Golden parachutes

China’s slowing economy: Get used to it

Sterling: Global Britain

(コメント) 宇宙開発が、特に、大国間の軍拡競争に、民間企業の開発競争が加わって、この先、50年間で劇的に変化する、という予想です。・・・どうかな? 私は気候変動やエネルギー転換、移民問題と人口減少に対応するなら、人類は宇宙開発に浪費しない、と思います。

オーストラリアは世界で一番高い最低賃金を提示します。多くの団体交渉で、最低賃金にいくらプラスするか、という形の合意をする。それゆえ、最低賃金を変更することは民間市場に効果的に波及します。それは賢明なやり方かもしれません。

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IPEの想像力 8/5/19

アメリカでは、白人至上主義、ヘイトクライムによる銃の乱射。日本では、原発の並ぶ土地の下で大きな地震、海岸には津波の懸念。米中の貿易戦争に通貨戦争が加わって、株式市場も安全保障上の基本条件も、顕著に動揺し始めています。

日本の参議院選挙が、何か、遠い記憶になったような、夏の余興に終わったような印象があるのは、その直前に火を噴いた日韓政治対立が激化して政治を独占しているからでしょう。全英オープンにおける渋野日向子の優勝や、安倍内閣が「ホワイト国から韓国を除外する」という閣議決定、トランプの中国に対する追加の関税引き上げ、株価の下落に幻惑されて、朝のテレビに映る原爆慰霊碑を観ても、それが何の行事なのか思いつきませんでした。

86日は、広島の原爆投下を記念する日なのです。『この世界の片隅で』を数日前に観ました。

日本の選挙における投票率は低下傾向が続き、消費税引き上げ、年金問題、憲法改正、いずれも論戦は十分に行われないまま、候補者の氏名を連呼する選挙カーが無人の街を走りまわる。今、与党や政府が勝利したというのは、何か、政治システムに大きな間違いがあると思います。

The Economistが日韓関係の悪化に、緊密な経済関係を悪用するトランプのやり方と共通するものを観ています。記事は、日本政府が、1965年の日韓基本条約で解決したはずの日本企業に対する賠償請求権を韓国の最高裁が認め、資産の差し押さえを支持したことから、日本政府は激怒し、韓国への輸出規制を行い、半導体生産に大きな打撃を与えると脅した、という理解です。それが正しい説明です。

記事は、韓国の半導体がグローバル・サプライチェーンに果たす重要な役割、また、日本企業にとっても有害であることを指摘して、日本によるアジアのサプライチェーン破壊を嘆いています。この日韓関係の紛争激化は、トランプ政権のアジア政策や、紛争を持ち込まれるWTOの試金石にもなります。そして、どちらも、ほぼ成果はないのでしょう。

私が異臭を感じたのは、影響はないか、と尋ねられた日本企業が、そろって「精査している」とか、影響はないと言わないまでも、政府の方針を微塵も批判しなかったときです。本当に、そう思っているのか? 圧力や、忖度か?

その後、いつも観るようなニュース解説や討論番組は、日本政府の不細工な、内部矛盾?した説明(これは徴用工判決への対抗措置ではない)を是認し、ときには外交として当然と支持し、ときには(除外は)まじめで、有能な、日本官僚の手続きであり、その正統性、普通さを強調して、韓国の(愚劣で、政治的な)反日ナショナリズムに、日本の対応の正しさ、まじめさを主張し始めました。

「表現の不自由展・その後」が中止されたというニュースにも、中国で表現の自由が許されないことを批判する芸術家のニュースを読むときと共通する、しかし、これまで感じたことのない、窒息や威圧を感じました。「ガソリン携行缶を持って」という脅迫文は、京都アニメーションの事件をニュースが繰り返すことに重ねて、この国の神経戦の異様さも感じます。

確かに、アメリカのように、戦闘用の銃を持って学校やショッピングセンター、教会に現れ、市民に乱射することは、あまりにもひどいことです。しかし、香港でも、ロシアでもなく、日本こそ、沈黙を強いられる人が多い国、沈黙を破る人がいない国ではないか? と感じます。

それは学校やニュース、企業、官僚、政治家たちの仲間意識において、異議を唱えるより、沈黙を賛美し、同調と秩序を強いる文化によるのでしょう。

安倍首相は、広島で美辞麗句を繰り返し、他方で、日韓基本条約を守らない韓国が悪い、と断言しました。韓国がこの条約を破棄して見直しを交渉する局面へ、紛争の水準を高めたのです。日本にとってのBrexitかもしれません。

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