IPEの果樹園2019

今週のReview

3/18-23

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アメリカの社会主義 ・・・Brexit後の政治と妥協 ・・・独仏のヨーロッパ ・・・多国籍企業とグローバル税制 ・・・ブロック経済 ・・・金融政策の模索 ・・・アメリカの製造業 ・・・ニュージーランドの大量殺人

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 アメリカの社会主義

NYT March 8, 2019

Socialism and the 2020 American Election

By Roger Cohen

ヨーロッパでは社会主義、もしくは、福祉国家は日常である。それは高失業という代価をともなったが、市場と共存できる。21世紀の選挙は、アメリカでも社会主義を問うだろう。

不平等とマージナル化が進むなら、それは金融のグローバリゼーションがもたらす経済の副産物だったが、社会主義が中心テーマになるのは避けられない。

PS Mar 11, 2019

Market Concentration Is Threatening the US Economy

JOSEPH E. STIGLITZ

アメリカ経済の低成長と不平等には多くの要因がある。しかし、それらのさらに基礎にある問題は、市場の集中度が高まったことだ。支配的な企業は顧客や労働者を搾取し、彼らの交渉力や法的保護を弱めている。CEOが重役たちは高給をとって、賃金や投資に支出しない。

PS Mar 11, 2019

The Case for a Bold Economics

DANI RODRIK

ケインズはFDルーズベルトの経済学を重視しなかったが、ニュー・ディール政策には共感を示した。しかし、それは支配的な経済学に反しており、指導的エコノミストたちには否定された。たとえば、ドルと金とのリンクを切ることは、混乱と不確実さを意味した。

今、再び大恐慌に相当するほど深刻な不況を経験した世界で、新しい、実験的な政策に、経済学は積極的な支持を与えるだろうか? 「包括的な成長モデル」を模索する運動が始まっている。

FT March 13, 2019

Ardent US capitalists should embrace ‘socialism’

Janan Ganesh

「リベラリズム」が大きな政府を意味し、「ネオコンザーバティブ(新保守主義)」が冒険主義的外交を意味するような国では、もう1つの抽象的な言葉が切り刻まれてきた。アメリカ政治における「社会主義」へのここ数か月に行われた攻撃は、残念なことだ。

その言葉にいくらか温かい民主党員たちであれ、その言葉を唾棄すべきものとみなす共和党員たちであれ、「社会主義」とは、ヨーロッパ人が社会民主主義(あるいはキリスト教民主主主義)に対する意味と、異なる何かを意味している。再分配の財政移転、国民医療保険、強力な労働組合、こういったものにも、革命に反対するように、信条の問題として反対する。しかし、デンマークは指令経済では決してない。

こう考えてみればよい。資本家たちが共和党の大統領候補ではなく、2020年に、民主党の候補を支持し、当選させるべきだ。しかも十分に左派的な人物であっても。結局、市場システムは1930年代以来、いかなる時よりも、強いストレス下にある。1つの対応は、大衆の不満には何も与えないことだ。しかし、より賢明な対応は、怒りを鎮めるために、プラグマティックな妥協を示すことだ。

ドナルド・トランプは、第2のアプローチで選挙に勝ち、政権を取ってからは第1の、しかし幻想にくるんだ、アプローチに変えた。トランプは、共和党の正統的な見解を破壊した政策を、少なくとも国内政策に関しては、共和主義の色を付けて掲げるだろう。

もしそれが右派の自由市場システムを救済する計画であるとしたら、資本家たちは左派と組んで改革を進めるべきだ。それは、より潤沢な給付を行う福祉国家であり、この10年間の資産膨張によって得た富への課税で実現される。自由市場を支持する候補が戦術的に勝っても、それは戦略的に危険である。低税率や規制緩和の短期的な利益を受ければ、それは、すでにシステムが公平さを欠くことに疑念を持っている有権者に一層の幻滅をもたらす。資本家たちが最優先すべきことは、共和党の勝利ではない。資本主義に対する国民の支持を得ることだ。

エリザベス・ウォレン上院議員を考えてみよ。彼女の罪は何か? 資産に課税する。金融を規制する。当然、銀行家ならこうした政策を恐れる。しかし、こうした改革が実現しなかった場合、有権者に高まる怒りを、もっと恐れるべきだ。

ウォレン女史は「私は根っからの資本主義者だ」と言う。彼女は経済に、より少なくではなく、より多くの競争を求める。もし資本家たちが彼女の4年ないし8年の政権を最悪だと思うなら、彼らは想像力を欠いている。

穏健な改革によって資本主義を維持するのだ。それは矛盾ではない。共和党は、その市場に対する信条が過剰であるなら、危険である。

PS Mar 13, 2019

What’s Wrong with Contemporary Capitalism?

ANGUS DEATON

突如、資本主義の病状が明らかになっている。社会主義のウィルスが若者たちの間に広まっている。改革論と資本主義の否定が重なり合い、従来の左右の違いはナンセンスになった。

インド準備銀行の元総裁であるラジャンRaghuram G. Rajanが新著(The Third Pillar: How Markets and the State Leave Community Behind)で、現代資本主義の癌は、「リヴァイアサン」(国家)の失敗でも、「ビヒモス」(市場)の失敗でもなく、コミュニティーの失敗である。コミュニティーがもはやどちらの怪物も抑制できなくなっているからだ、と主張している。

1970年代以来、成長の趨勢は衰退してきた。その間ずっと、政府には、戦後のパラダイムを回復するという約束以外に、アイデアがなかった。それはたいてい、より多くの債務だった。

戦後の社会民主主義が成功したことは、市場を弱め、国家への市場の圧力を失わせた。ラジャンによれば、こうした2つの弱体化により、ヨーロッパでもアメリカでも、情報通信革命ICTが庶民に対する脅威となることを是正する力を失わせたのだ。労働者たちが混乱に対処するのを助けずに、企業は株主や経営者を豊かにするために、被雇用者の脆弱性を利用した。

家計所得の中間値がおおむね停滞しているのに、増大する富がますます富裕層に集中したことが、資本主義を顕著に不公平なものにして、人々の支持を失わせた。

ラジャンは、成長を高めることと、ICT革命が我々に希望を与えるように、コミュニティーを回復することを求める。しかし、そのような能力主義社会が、少数のエリートによる支配と、地方の文化の消滅であるという点では、私は解決策にならない、と思う。

NYT March 13, 2019

Antitrust Returns to American Politics

By Tim Wu

NYT March 15, 2019

Capitalism Needs Elizabeth Warren

By David Leonhardt


 Brexit後の政治と妥協

FT March 10, 2019

Norway shows the UK a better way to Brexit

Wolfgang Münchau

The Guardian, Mon 11 Mar 2019

Think the Commonwealth can save Brexit Britain? That’s utter delusion

Kevin Rudd

FP MARCH 11, 2019

Theresa May’s Last Dash for a Deal

BY OWEN MATTHEWS

The Guardian, Tue 12 Mar 2019

Britain is trapped in the purposeless austerity that gave us Brexit

Aditya Chakrabortty

銀行危機からBrexit投票まで、その時期の政治指導者は、ゴードン・ブラウンとエド・ボールでも、オズボーンとキャメロンでも、政治的に可能な分野をできるだけ狭くすることに努力した。そして彼らは不可能なことを約束することが得意な政治家たちに放逐されたのだ。ボリス・ジョンソンとそのみじめな宣伝バスを、リーアム・フォックスと通商条約交渉の大行列を、そして、もちろん、バックストップの女王、テリーザ・メイを思い出すべきだ。

この時代の最大の不満は、こうした政治家の階級が、Brexitの政治ショーを演じるばかりで、多数の国民を貧しくする巧妙な仕掛けを放置し、イギリスの他の場所を無視したことだ。経済学は1990年代と21世紀の最初の10年を「偉大なる平穏the Great Moderation」と呼んだが、実際は、銀行危機とその後の政治危機を準備していたのだ。

The Guardian, Wed 13 Mar 2019

Britain’s reality right now: we have no functioning government

Jonathan Freedland

The Guardian, Wed 13 Mar 2019

The middle ground is our only route out of this Brexit abyss

Owen Jones

Brexitの妥協を見出すことは難問だ。国民投票は、結局、僅差で離脱を決めたのだ。その時以来、政治的けいれんがイギリスの民主主義と社会的枠組みを破り捨てた。EUからの「合意なしの離脱」が深刻な経済コストなしにできる、と納得できる考えを示したものは誰もいない。それゆえ、合理的なアプローチは、可能な限りこの国の統一のために、経済的ダメージを最小化し、妥協することだ。

しかし、そのような妥協に至る中間地帯は、切り刻まれ、焼き尽くされ、双方からじゅうたん爆撃されてきた。

イギリスの右派と右派メディアは決定的な役割を担った。多年にわたって保守党の機関とその宣伝紙は、デイヴィッド・キャメロンも含めて、移民を悪者にし、賃金の停滞でも、住宅危機でも、社会問題のスケープゴートにしてきた。それらは彼らの権力が生み出したものだ。ジョージ・オズボーンのイデオロギーによる財政緊縮計画は失敗した。

保守党のBrexit推進派は、不可能な約束と懲りない移民たたきを合わせて、自分たちのキャンペーンで展開した。そんな約束が守れないことがはっきりすると、彼らは2つの話に転換した。1つは、栄光あるBrexit革命がずるがしこい政治エリートたちによって阻まれた。裏切りだ。また、EUとの戦いは不十分で、交渉が弱腰だ。そして、メイ自身が「合意なしの離脱は離脱しないことよりも素晴らしい」と機械的に繰り返し、党機関紙がばらまかれた。その結果は、有権者の怒りと幻滅を強めたのだ。国民の3分の1以上が、合意なしの離脱による自爆の悪夢を支持している。

しかし、Brexitに反対する側の考察も必要だ。残留派のキャンペーンは離脱派の心をつかむことに失敗した。少数の例外を除いて、彼らは、意識的かそうでないかは別にして、Brexitに投票した者を、無知な、間違いを教えられた、偏見に固まった、だまされやすい群衆、とみなすメッセージを広めた。

残留派は、正しく、Brexitに至る社会的危機を指摘したが、それがBrexit支持の人々を怒らせた。なぜなら、投票結果は無意味だ、ということだから。ソフトな形でも、すべてのBrexitが経済的な破滅とみなされた。しかし、私のような残留派にとっては、Brexitがないことを望むが、分断線はソフトなBrexitと合意なしのBrexitとの間にある。

ハードな残留派には、彼らにとっての裏切り説がある。人に自由移動を廃止することが正しいとは思っていなかったが、移民を攻撃する論調に追随していた。50条による申請の政府方針を支持した。妥協案を見出す試みが、離脱と残留の激しい対立で阻まれた。労働党が2度目の国民投票を支持すれば、UKIPと保守党に支持基盤を奪われた。

しかし、政治はレッド・ラインを超えて妥協を見出す意志を持つべきだ。双方の憤慨、文化戦争、はなはだしい不正義、そういったもので対立を煽るのではなく、貿易相手との関係を悪化させないように、52%と48%の両方に犠牲を求めるべきだ。たとえ保守党を分裂させるとしても、メイは労働党に協力を求めるべきだ。

双方の冷笑的、自滅的な理由で、妥協の見通しは大きく損なわれてきた。しかし、イギリスを深淵から引き離すには、それが最大の希望なのだ。

The Guardian, Wed 13 Mar 2019

Parliament is betraying voters, but a clean Brexit is the best option

John Redwood

SPIEGEL ONLINE 03/13/2019

Flirting with Disaster

Brexit Vote Moves Britain Closer to the Brink

By Jörg Schindler

FP MARCH 13, 2019

Britain Looks Into the Trade Abyss

BY KEITH JOHNSON

FP MARCH 13, 2019

Brexiteers Never Wanted Brexit to Begin With

BY STEPHEN PADUANO

The Guardian, Thu 14 Mar 2019

With Brexit now on hold, there’s only one option left: compromise

Simon Jenkins

延期を求めれば、EUは問うだろう。なぜ2年半を費やしてもUKは合意できないのか? その答えは、メイ首相が自分で決めたレッド・ラインをあきらめないからだ。保守党内の右派を融和することに時間を費やしている。

意味のある妥協案は明らかだ。ソフトBrexitである。それは様々な呼び名で議論されている。共通市場2.0、ノルウェー、関税同盟、EEA。イギリスはEU離脱後もヨーロッパとの広域経済圏にとどまる。アイルランドの境界問題は解決できる。

The Guardian, Thu 14 Mar 2019

Theresa May has finally got the Brexiters where she wants them

Jonathan Freedland

FT March 14, 2019

Greece maps the long way back to a Brexit deal

Philip Stephens

Grexitギリシャのユーロ圏離脱は、もし実行されれば悪夢だったが、すでに鎮火した。コモン・センスと政治指導力により、ギリシャは経済を安定化し、政府の機能を回復した。他方、イギリスは政治を破壊した以外の何物も得ていない。

エリザベス女王の新時代、「グローバル・ブリテン」を描く保守党内の強硬派か、1970年代の社会主義を親EUの反対派が多数いる労働党の反EU党首コービンか。

イギリスに時間を与えてほしい。総選挙も、国民投票も、するかもしれない。それは苦痛の多い、長い過程だ。50条の期限を延期し続ける中で、転機が来る。イギリスは救済に値しない、とEUは思うかもしれない。しかし、ギリシャの時もそうではなかったか。

FT March 15, 2019

Brexit delay but Theresa May is still fighting for her deal

Robert Shrimsley

FT March 15, 2019

Politics is failing on Brexit but economics has been on the money

Chris Giles

FT March 15, 2019

Brexit has become a Monty Pythonesque joke

Camilla Cavendish

私はもともと、ノルウェー案がよい、と思っていた。

しかし、なぜこんなに問題がこじれたのか? 329日の離脱期限までに、電話をとって、50条に従う期限をやめる、と言うのだ。それを、民主主義に対する裏切りだ、という者も多いだろう。しかし、1740万人が支持したことと、この国が得るものとの間にある大きな亀裂を見れば、仕切り直しが必要だ。

NYT March 15, 2019

Brexit, Act IV, Scene I

By Roger Cohen

NYT March 15, 2019

Dissecting the Dreams of Brexit Britain

By James Meek

FT March 16, 2019

Boris Johnson and a speech to rewrite himself into the Brexit history books

Robert Shrimsley


 独仏のヨーロッパ

FT March 10, 2019

Emmanuel Macron is on a slippery slope towards ‘democratic despotism’

Gaspard Koenig

FT March 11, 2019

Germany and the European Union: Europe’s Reluctant Hegemon?

Tony Barber

ドイツはその過去との関係に苦闘してきた。1933-45年のナチ時代をどう見るべきか? それにかかわって、1871年のドイツ統一から後の、ドイツ社会と国家をどう見るべきか? 第1次世界大戦、そして、1918年以降の、欠陥を持ったワイマール共和国をどう見るべきか?

西ドイツ、ボン政権の共和国を、そのもっとも繁栄した、平和な時代として評価することができる。しかし、それは西ドイツのアイデンティティーとして、国内秩序の安定性と、ヨーロッパ統合の中心として国際秩序を見る、いかなる強いナショナリズムも拒む時代であった。2つの重要な問題がある。ドイツはヨーロッパの覇権国になったのか? ドイツの国内政治はその役割を阻むのか、支持するのか?

FT March 11, 2019

Ukraine and the shifting balance of power

Nick Butler

FP MARCH 11, 2019

Germany’s Cold War Enemies May Become Partners

BY EMILY SCHULTHEIS

FT March 12, 2019

A conservative German response to Macron’s EU vision

FP MARCH 12, 2019

The EU’s Next Big Election Is Heading for Disaster

BY JAMES TRAUB


 多国籍企業とグローバル税制

FT March 11, 2019

An overhaul of the international tax system can wait no longer

Christine Lagarde

巨大な多国籍企業はわずかな税金しか払っていない、という人々の不満は、緊急行動を求める政治的な声になっている。税に対する新しいアプローチが必要な理由がある。多国籍企業による税回避が容易であること、また、30年間も法人税率が低下してきたことは、国際システムの信頼性を損なっている。

現状は、特に、所得の低い諸国にとって有害だ。彼らが経済成長を高め、貧困を減らし、国連の2030持続可能な発展の目標を達成するために必要な歳入を、奪っているからだ。

長い間、先進諸国が企業に対する国際課税のルールを作ってきた。しかし、企業に課税する以外の手段を持っていない発展途上諸国こそ、課税競争や利潤移転の危険にさらされている。IMFの分析では、OECD諸国ではない国々で、年間約2000億ドルが失われている。それはGDP1.3%に等しい。

明らかに、われわれは国際課税を再考するべきだ。

IMFは、3つの基準を示した。1.課税競争と利潤移転に対策を示す。2.改革に向けた法律と行政を整備する。3.低諸国国の利益を十分に反映する。

国際課税の仕組みを全面的に見直す緊急性は、ハイテクとデジタルに依拠する高利潤ビジネスモデルが登場したことで強まっている。こうした企業は、特許やソフトウェアのような、価値を評価しにくい無形資産に依拠している。彼らはまた、どこかの国に物質的に依拠する必要がない。国際税制の時代遅れとなった前提は明らかだ。すなわち、第1に、所得と利潤は物質的な所在地に関係している。第2に、複雑な多国籍企業内の取引を客観的な市場の基準で評価する。

どのように改革すべきか? 2つのアイデアが議論されている。

1に、ミニマム・タックス制だ。1つは、外国に投資する企業に対して、利潤を移転することで課税を回避する余地を減らすアプローチである。利潤がどこで生じたものであれ、多国籍企業の本国に課税を認める。これによって課税競争を抑える。もう1つのアプローチは、還流する投資について、低所得国に、国境を超える支払いにミニマム源泉徴収税を認める。たとえば、子会社が特許使用料を外国企業に支払う場合だ。後者については、外国投資の誘致と課税とがトレード・オフになる。

2に、企業が活動する国において、通常の利潤に対する課税と、それを除く、残された利潤に、関係するすべての諸国間で分割するシステムだ。これが「残余利潤配分」システムである。通常の利潤を超える部分についてどのように配分するか、国際協定が必要だろう。それは国際システムの一部になる。価値を創造した国と、サービスの市場となる国とが、配分の基本である。

IMFは、世界のほぼすべての国が加盟する機関として、課税による経済的インパクトを示し、発展途上国の問題にも焦点を当てる。IMFを通じて、より効果的で、効率的な国際システムを設計できるだろう。

PS Feb 13, 2019

How Can We Tax Footloose Multinationals?

JOSEPH E. STIGLITZ

グローバリゼーションへの攻撃は近年増えているが、間違ったものもある。しかし、多国籍企業の課税回避を批判するのは正しい。

Appleは課税回避のスターになった。数百人しか働かないアイルランドの法人が利潤を得た形にして、その利潤に対して0.005%しか課税しない、という協定を政府と結んでいたのだ。Apple, Google, Starbucksは、企業の社会的責任を主張するが、公平な額の納税を行うことはその第1歩であるはずだ。もしだれでもこれらの企業と同じことができるなら、社会は機能しないだろう。インターネットも含めて、十分な公共投資は行えない。

多年にわたり、多国籍企業は課税の「底辺への競争」を促してきた。トランプ大統領の2017年減税もそうだ。それは1年間の熱気を生んだ後、急速に冷めて、債務の山が残った。

デジタル経済は、政府の課税による資金調達能力を奪い、国際社会に疑念を生じている。移転価格の考え方では、生産の各段階で、国内の適正価格と比較する。しかし生産物が、未完成な状態で、何度も国境を超えるグローバル化した経済で、そんなことは不可能だ。知的財産や無形資産の扱いは、問題を悪化させる。

それゆえアメリカ国内では、はるか以前に、移転価格のシステムを放棄した。企業の総利潤に対して、各州は、売り上げ、雇用、資本に応じて帰属を配分する。そのような移行がグローバルなレベルでも必要だ。

最終の販売に依拠すれば発展した諸国に有利であり、発展途上国は歳入を失う。そのような処理はデジタル取引には適当だが、製造業や他の部門では、もっと雇用を重視するべきだ。雇用に関して、政府が自国内の雇用を企業に求めることを懸念する場合、グローバル最低法人税がその正しい対策である。アメリカとEUが合意すれば、他国も追随するだろう。

政治は重要だ。多国籍企業の圧力に応じて、彼らの課税回避を許すようなシステムを支持する国が表れる。また、他国の影響を変える水に、自国の財政赤字解消を優先する国もあるだろう。OECDG20のイニシアティブで包括的な課税システムを導くべきだ。


 ブロック経済

FT March 11, 2019

The US, China and the return of a two-bloc world

Gideon Rachman

PS Mar 12, 2019

How to Lose Friends and Impoverish People

ANNE O. KRUEGER

FP MARCH 13, 2019

India is Trump’s Next Target in the Trade War

BY ARVIND PANAGARIYA

PS Mar 14, 2019

The High Costs of the New Cold War

MINXIN PEI

PS Mar 14, 2019

The Dangerous Absurdity of America’s Trade Wars

JEFFREY D. SACHS

ドン・キホーテは風車と戦ったが、ドナルド・トランプは貿易赤字と戦う。どちらの戦いも愚かであるが、少なくとも、ドン・キホーテには理想があった。

先週、アメリカの財・サービスの貿易赤字が、6210億ドルに増大した、と発表された。カナダ、メキシコ、ヨーロッパ、中国とのタフな交渉によって、赤字を減らすというトランプの約束は守られなかった。トランプは、アメリカの貿易赤字が相手国の不公正な貿易慣行によるものだ、と信じている。

しかし、貿易赤字は他国の貿易慣行を示すものではなく、トランプの交渉で変わるものでもない。それはマクロ経済的な不均衡を示している。貿易赤字を決めるのは、通商政策ではなく、国内貯蓄と国内投資の差である。

貿易赤字を増やした最も重要な要因は、トランプによる減税だ。トランプはキメラ(幻想)を求めて、世界経済は不安定化し、アメリカと他の主要経済との関係は悪化した。アメリカの指導力に対する敬意は大幅に失われた。

トランプの通商政策は、中国を封じ込める間違った試みであるだけでなく、ヨーロッパの弱体化をもたらすものだ。国民国家間で深まるゼロサム型の闘争、ネオコンザーバティブの世界観が、安全保障政策に反映されている。

こうした好戦性とパラノイアは、アメリカ政治の長い伝統の中にあった。それは果てしない国際紛争に導き、トランプとその協力者たちが自由にふるまう領域を広げる。

VOX 14 March 2019

Mars or Mercury redux: The geopolitics of bilateral trade agreements

Barry Eichengreen, Arnaud Mehl, Livia Chiţu


 インドの通商問題

FT March 11, 2019

India: Narendra Modi faces a rural backlash as election looms

Amy Kazmin in Ujjain, Madhya Pradesh


 金融政策の模索

PS Mar 11, 2019

The Challenge of Monetary Independence

ANDRÉS VELASCO

FT March 13, 2019

Monetary policy has run its course

Martin Wolf

なぜ金利はこれほど低いのか? 「長期停滞」論はそれを説明するか? この低金利は、次の不況が来た時に金融政策の限界となるか? 他の政策を試すべきか?

金融政策の論争がどうなるかは、まったく、予想がつかない。サマーズの長期停滞論が再論されている。しかし、それに反対する意見として、デフレにおいても金融政策が機能する、というBISやリチャード・クーの「バランス・シート・デフレーション」論がある。

PS Mar 15, 2019

The Fed Should Buy Recession Insurance

J. BRADFORD DELONG

PS Mar 15, 2019

Modern Monetary Realism

JAMES K. GALBRAITH


 アメリカの製造業

NYT March 11, 2019

Is There a Future for Good Manufacturing Jobs in the U.S.?

By Moshe Z. Marvit and Andrew Stettner


 独裁者

NYT March 11, 2019

If Stalin Had a Smartphone

By David Brooks

FP MARCH 11, 2019

The Evolution of the Strongman

BY ERICA FRANTZ


 アメリカ社会の分裂と外交

FP MARCH 11, 2019

America’s Polarization Is a Foreign Policy Problem, Too

BY STEPHEN M. WALT


 ニュージーランドの大量殺人

The Guardian, Wed 13 Mar 2019

These gaffes expose British politics’ real issue with race

Gary Younge

The Guardian, Fri 15 Mar 2019

New Zealand felt removed from the global voices of hatred. No longer

Elle Hunt

The Guardian, Fri 15 Mar 2019

The Guardian view on the Christchurch attacks: extremism’s rising danger

Editorial

NYT March 15, 2019

The Roots of the Christchurch Massacre

By Wajahat Ali

FT March 16, 2019

The rise of the far-right has been ignored for too long


 財政刺激策

FT March 14, 2019

Europe must learn to love fiscal stimulus

Reza Moghadam


 ベトナム

YaleGlobal, Thursday, March 14, 2019

Vietnam – Globalized Party-State

Börje Ljunggren


 スーパースター企業

FT March 15, 2019

Superstar companies lose their lustre

Tim Harford


 ヨーロッパのポピュリスト

PS Mar 15, 2019

What Europe’s Populist Right Is Getting Right

MITCHELL A. ORENSTEIN

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The Economist March 2nd 2019

Modi’s dangerous moment

The Trump-Kim summit: Walk on down

Britain and European Union: More Haste, less speed

Michael Cohen: His turn in the barrel

Water: Thirsty planet

Central banking in America: Food for thought

(コメント) インドとパキスタンが、特にモディ首相の選挙前の強硬姿勢が、南アジアの核戦争の危機を呼び込むことが恐れられています。最悪の核危機は、韓国経済や中国の安全保障に頼る(と期待できる)北朝鮮から起きるのではありません。

Brexitの行方に関する議会の採決は、記事によっても、やはり判然としません。むしろ、マイケル・コーエンが、議会証言で、トランプを最悪の人間であると断言したことが面白いです。

水の特集は、読みませんでした。拾い読みして、なるほど、という指摘がないのです。むしろ、世界に貨幣をどんどん注ぎ入れた中央銀行の、次の行動をどうやって説明するのか、世界の主要銀行は頭をひねっているわけです。アメリカ連銀は、フードバンクを運営する女性にも、金融政策を見直すヒントを求めたことが、彼らの悩みの深さを示すものとして感動的です。

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IPEの想像力 3/18/19

「衰えゆく地方選」、「細る 民主主義の基盤」朝日新聞2019317日を読みました。

地方の首長や議員を決める選挙で、無投票や大差が増えているのです。投票率も下がっています。「無投票は小さな町村で深刻だ。」 2015-18年、5000人以下の264町村の議員選で、36%(96町村)が無投票だった。その「89%が中山間地にあり、10年間の人口減少率が平均15%に上る。」 候補者が減り、定数が減り、市町村合併が進む。なるほど、まさに民主主義の危機、政治の終焉なのだ、と実感します。

定数を満たせない地方議会が増えている。人口が減少する。首長は多選と高齢化が進む。投票率が低下する。

この分析に協力した河村和徳准教授のコメントには、「東京、大阪、愛知に誕生した首長率いる地域政党は、多くの新顔候補を立てた。」と、いわば「ポピュリズムの効用」を認めます。

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主要政党が分裂することも、首長支援型の地域政党が誕生することも、政治が生き延びる模索でしょう。どれほど人口が減少し、産業が衰退しても、高齢化しても、政治を語り、政治を担う者がいれば、民主主義の学校が機能すると思います。

そこで思いました。1つは、若者が政治を介して地方に入ること。もう1つは、外国からの出稼ぎ労働者や移民を積極的に受け入れること。

Brexit後の秩序再編は、こうして日本にも及ぶのです。

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同じ紙面を繰ると、平成経済インタビュー「買い手が強い時代 価格より質」、がありました。セブン・イレブンを展開した鈴木敏文氏です。戦後のアメリカ型「チェーンストア理論」が流行したことをふりかえり、世の中の変化についていけなかった、と指摘します。大量仕入れ、安価、大量販売というやり方では、流行が急速に変わることで利益を出せなくなったのです。

人気商品は、だんだん売れるようになって、徐々に減っていく「富士山型」から、一気に売れて、まったく売れなくなる「茶筒型」に変わり、今では、その期間が非常に短い「ペンシル型」になった、ということです。「今業績が良い小売企業は、自社開発製品を売っている会社です。・・・問屋から他社と同じ商品を仕入れて販売すれば、価格勝負の値下げ競争にはまってしまう」。

ダイエーや百貨店の激変、コンビニの急増は、日本経済が停滞している、という漠然とした印象を打ち壊します。

鈴木氏は、アマゾンを恐れる必要はない、と主張します。インターネット通販ではない、店舗型の小売りは見直される、というのです。質を求める流れ、人々人とのふれ合いを求める消費者が出てくるから。

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「今は規制緩和が進み、必要な資金も集めやすくなりました。誰でもセンスと努力があれば、大成功する可能性があります。」

その意味では、鈴木氏はBrexitに反対する側です。現代を「本当に幸せな時代」と呼び、「日本有数の富豪になったソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が代表例」として挙げられます。

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「細る民主主義」と、「買い手が強い」「本当に幸せな時代」。その両方に住む私たちの目指す政治経済秩序を、あなたは何だと思いますか? 次の選挙で、候補者たちの主張をよく聞いてみたいです。いや。あなたが無投票の村へ行って、政治や経済に貢献する話を読みたいです。

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