IPEの果樹園2019

今週のReview

2/11-16

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Brexitをもたらした政治的妄想 ・・・ヴェルサイユ条約と支配者たちの失敗 ・・・ユーロとグローバルな準備通貨 ・・・ベネズエラの平和的な政権移行 ・・・中国はアジアの秩序を支配しない ・・・ポピュリズムの循環が始まった ・・・良い仕事を増やすには

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 Brexitをもたらした政治的妄想

The Guardian, Fri 1 Feb 2019

So, poorer Brexiters voted to be worse off? There’s nothing wrong in that

Gary Younge

リベラル派は、もし人が、政策や情勢の変化から利益を受けることを拒むとしたら、それは間違った情報を与えられた、そのことを知らなかった、愚かで、ナイーブな、露骨に誘導されたからだ、と考える。貧しいアメリカ人が医療保険の提供に反対してデモをしたり、EUから利益を受けている者たちがEU離脱を支持して投票したりすると、それは彼らが混乱と詐欺に陥っている、と思う。

Brexitを考えるとき、われわれは2つのことを知っている。1つ、貧しい人々はイギリスがEUを離脱すると、特に、合意なしに離脱すると、最も深刻なダメージを受ける。もう1つ、貧しい人々ほど、Brexitを支持した。

これではまるで崖から飛び降りるレミングの群れのようだ。このような国民投票はうまくいかない。

こんなことが起きるのは、離脱に投票した者が「崖を飛び降りる」と思わないからだ。最近の世論調査で、きわめて多くの人が、Brexitを金融破たんや炭鉱ストライキほど深刻な危機ではない、と信じていた。言い換えれば、人々は事態が悪化することを理解しない。何とかやっていける程度であろう、と考える。それは、安定しか知らない者たちの自己満足である。事態が悪化して、手遅れになってからしか、正しい投票はできない。

また有権者たちは、単に物質的な利益のために投票したのではなかった。彼らがもっと重要だと考えるものを求めたのだ。残留を支持した人々は、離脱派が「主権」について与えている重要な意味を、過小評価した。離脱派の2番目に重視したのが(1番目の移民問題にかなり近い)、UKは自分のルールを決める、ということだった。

人々が主権にこだわっているのは、イギリスの、特にイングランドの人々が、この国が何であったか、何になりえた、なりえるか、と考えるからだ。かつて独立した、難攻不落であった島が、その自律性を失って、顔のない官僚たちのごった煮によって支配されるようになった、という話を、自分たちでするようになった。その話はどこからともなく現れたのではない。フォークランド紛争や、ニュー・レイバーの選挙戦で使ったブルドッグFritzまで、政治家たちが共謀して創り出したものだ。

このような話を長く聴き続けると、人々はこう言う。Brexitで「あなたの工場が閉鎖されるかもしれない」と問うと、「私の工場ではない。『彼ら』は何年もイギリスで工場を閉鎖し続けてきた」と。「ここは私の国であり、『彼ら』がめちゃくちゃにするのを私は望まない。」 こうした話に出てくる「彼ら」の中身は変化する。移民であったり、ブリュッセルであったり、外国企業であるだろう。それが「われわれ」ではないと、「われわれ」だけがわかる。

私はこの話が大きな間違いを犯していると思う。なぜなら、こうした話の思い描く過去は神話であるから。戦争を挑発する人々は、同盟諸国なしに勝利できなかった、ということを都合よく忘れている。帝国を描く人々は、野蛮な支配無しにそれが維持できなかったことを都合よく忘れる。そして、現在について鈍感だ。国家は成長し、国境は移動し、アイデンティは発展する。われわれの王室はドイツ人だ。われわれはインド料理を好む。イギリスで生まれる赤ん坊に最も多く付けられる名前はムハンマドだ。未来については幻想にふける。われわれの政治的な主権は、だれにとってもそうだが、ブリュッセルではなく、もっぱら国際資本によって制約されている。あなたはこの制約に対して離脱を投票できない。EUから出たわれわれは、単に国際資本に対する力を減らすだけで、より独立するわけではない。

ここで語られない話はもっと切実だ。もし合意なしに離脱すれば、野菜が不足し、ポンドは投げ売られる。われわれの課題は、もっと良い話をすることだ。その話は、彼らを含む、われわれすべての未来である。そして究極において、「彼ら」と「われわれ」が「私たち」になる。

FT February 2, 2019

The EU has no incentive to blink on the Irish border question

Kevin O’Rourke

The Guardian, Sat 2 Feb 2019

North to south, the seeds of division in Brexit Britain were sown long ago

Ian Jack

The Guardian, Sun 3 Feb 2019

One day, a second people’s vote will bring us back into the EU. But when?

Will Hutton

FT February 3, 2019

How to play a winning Brexit game

Wolfgang Münchau

FT February 4, 2019

MPs must compromise on a Brexit deal or tear the country apart

Lisa Nandy

The Guardian, Tue 5 Feb 2019

We all want Brexit closure – but May’s deal won’t supply it

Tony Blair

Brexitの混乱を終わらせるべきだ。メイの政府方針も、コービンの野党案も、その違いは失われた。それはソフトBrexitだ。

イギリス政府のBrexitをめぐる混乱は、内政においても、外交においても、イギリスの評価を大きく損なった。双方が妥協できないなら、議会が決めるだろう。

PS Feb 5, 2019

How EU Leaders Can Prevent a No-Deal Brexit

ANATOLE KALETSKY

PS Feb 6, 2019

The UK’s Suicidal Tendencies

IAN BURUMA

ほとんどのイギリス政治家は、Brexit後の関係について合意なしにEUを離脱した場合、それがイギリスに甚大なダメージを与える、とよく知っている。彼らはスリープウォーカー(夢遊病者)ではない。彼らはしっかりと目を開いているのだ。

合意なしにEU離脱する衝撃を無視するのは、少数の狂ったイデオローグだけだ。右派の好戦的な夢想家たち。左派のネオ・トロツキストたち。ジェレミー・コービンもそうだ。破滅により、イギリス人民はついに真の社会主義を求めるだろう、と思うらしい。

国民的な自殺行為という劇的な衝動は、確かに普通ではないが、前例のないことではない。1941年、日本がアメリカとの壊滅的な戦争に向かったのも、その例である。イギリスは戦争するわけではない。当時、日本の民主主義は、軍部や権威主義的な国家の支配によって、大幅に窒息していた。しかし、類似性は明らかだ。

ファシスト的なイデオローグに鼓舞された、中間的な士官クラスが、少数、西側との戦争を望む少数の軍国主義的強硬派であった。将軍や提督を含む、多くの政治家たちは、軍事的にも工業的にも顕著に優れた大国と衝突することは、狂気の沙汰だと知っていた。しかし、彼らはそれを阻止する能力も、意志も持たなかった。狂信的なスローガンを、信じていないのに、オウムのように繰り返した。それはメイがBrexit強硬派に迎合するのに似ている。

真珠湾攻撃の主な戦略家であった山本五十六は、ハーヴァード大学で学んだインテリで、アメリカをよく知っていた。戦争に反対したが、交渉が成功するとは思わず、任務として、作戦を立てた。近衛文麿は首相であったが、息子はプリンストン大学の学生であった。アメリカとの戦争を回避しようとしてアメリカとの交渉を重ね、日本の強硬派に不可能な譲歩を要求されたが、軟弱で、それを拒むことができなかった。結局。アメリカは交渉に倦み、日本は多数の死者と国家の破滅に至る。イギリスの離脱交渉に似て、アメリカは日本が何を望んでいるのか、わからなかった。

真珠湾攻撃を知った日本人の最初の反応は、一種の安堵であった。これではっきりした。日本にも、独自の愛国精神があり、栄光ある孤立を求める気分があった。西側の帝国主義者たちと戦う方が、中国人を服従させるために虐殺するより、少なくとも、名誉あることだった。合意なしのBrexitを実行すれば、似たような効果があるだろう。

1930年代、40年代の日本のような厳しい検閲はないが、イギリスの多くの新聞も日本の戦時報道並に好戦的であった。反EUのプロパガンダが何十年も行われ、多くのイギリス人にハードBrexitを受け入れるような条件があった。悪いことは何でも、外国人のせいにした。

しかし、真珠湾攻撃後の楽観と同じように、幻想が消えるのは早いだろう。イギリスの諸都市は爆撃されないし、イギリスが侵略されることも、征服されることもない。だれも死なないと思う。しかし、イギリスの影響力は大きく減少し、経済は縮小し、多くの人の生活水準が低下する。Brexit強硬派たちBoris Johnson, Nigel Farage, and Jacob Rees-Moggは、恐らく、快適に過ごす。彼らを責めるだけでは何の意味もない。こうなるとよく知っていながら、阻止するために何もしなかった、そのような人々こそ恥じるべきだ。

FT February 7, 2019

Hello Brexiters, and welcome to your special place in hell

Robert Shrimsley

SPIEGEL ONLINE 02/07/2019

Interview with Kenneth Clarke on Brexit

'We Can't Carry On Being So Insane'

Interview Conducted By Jörg Schindler

FT February 8, 2019

The Brexit delusion of creating ‘Singapore upon Thames’

Martin Wolf

2か月以内に、UKは合意なしのEU離脱に向かうのだろうか? そうなったら何が起きるのか? Brexit推進派は、災厄の責めをEUに負わせて、UKはシンガポールのように発展できる、と主張する。彼らは1つだけ正しいことを言っている。シンガポールの示した経済的成功だ。しかし、そこは自由放任の楽園ではない。逆に、ハード・ワーク、強制的な貯蓄、(比較的に善良な)権威主義体制によって、その成功はもたらされた。

イギリスの旧植民地であるシンガポールは、1980年、1人当たり実質GDPでイギリスに並んだ。2018年までに、それはイギリスの2倍以上に達している。IMFによれば、カタール、マカオ、ルクセンブルクに次いで、世界第4位だ。

国内市場の小さい都市国家として、シンガポールの将来は外国の多国籍企業やスキルを吸収することにかかっている。自由貿易のほかに選択肢はない。しかし、自由貿易は自由放任ではない。シンガポールは新産業を育成したし、今も政府投資信託であるTemasekを通じて、株式の多くを政府が保有している。

シンガポールは急速に成長するアジアの優れた立地を利用し、高水準の労働力と低い税率で国際ビジネスのハブの頂点となってきた。しかも、ASEANを通じた地域の統合化に積極的に参加した。シンガポールが世界に示すモデルとして決定的な点は、1つの高度な統治能力を持つ政権党が、独立後の国家の歴史を通じて、支配し続けたことだ。

シンガポールの高成長を説明するのは、その高い投資率だ。2008-2018年のGDP28%を投資した。UKはわずか17%である。シンガポールの貯蓄率は、47%という驚異的な水準だが、多国籍企業の影響を除いた場合でも、約30%である。UK12%でしかない。

政府は、55歳まで、労働者、被雇用者に、賃金・給与の37%を政府積立金に納めるよう強制している。人々はそれによって住宅を購入し、医療費や年金を支払われる。シンガポール型の福祉国家である。また、財政黒字を積み上げてきた。シンガポールの対外純資産は、2017年、GDP340%に達した。

これがBrexit後のイギリスなのか? UKはグローバル・ビジネスのベースになるどころか、それを爆破することに忙しい。もっとも重要な地域的貿易枠組みへのアクセスを確保するどころか、何の合意もなしに離脱しつつある。シンガポールは560万人の都市国家だが、UKは地理的、社会的、政治的に多様な、6600万人の民主的国家だ。低税率と規制緩和しかアイデアの無い者たちにUKの未来を委ねることはできない。

貯蓄率や投資率を引き上げ、インフラを改善し、教育水準を高める上で、シンガポールから学ぶことは多いだろう。しかし、関税と規制を廃止し、税率を下げるだけで繁栄が共有できる、というのは、Brexit推進派の妄想である。


 超富裕層への課税

FT February 1, 2019

The super-rich are an easy target for tax

Tim Harford

The Guardian, Sat 2 Feb 2019

Forget philanthropy. The super-rich should be paying proper taxes

Nick Cohen


 ヴェルサイユ条約と支配者たちの失敗

PS Feb 1, 2019

The Ghosts of Versailles

HAROLD JAMES

1次世界大戦を終わらせたパリの平和協定は、一般に、国際協調や民主主義の促進がいかに失敗するか、という例として記憶されている。

1919年、ウッドロー・ウィルソン大統領は、世界の専制支配体制を破壊して自ドク的な平和を作ろうとしたが、それは過大な願望であった。しかし、彼が始めた国際介入のコンセンサスはアメリカ外交の伝統になった。ドナルド・トランプ大統領はその伝統を破棄すると主張したが、シリアへの空爆を命じ、ベネズエラの反政府指導者を大統領として承認した。

パリの和平プロセスが失敗した理由は、その目標が高すぎたことだ。民主的な願いがすべて、戦争の勝利によって実現するわけではなかった。特に、人々は戦争のコストを敗戦国に支払わせることを願った。

2019年でも、急激な技術革新とグローバリゼーションがもたらす諸問題に、受け入れ可能な解決策が示されていない。各国はグローバリゼーションによる詐欺を異なる物語で説明し、非難すべき「悪者」を発明した。たとえば、トランプ政権にとっては中国の不公正貿易、ドイツの過剰な黒字、発展途上国への援助、などだ。

和平プロセスが失敗した第2の理由は、クレメンソー、ロイド・ジョージ、ウィルソンといった指導者たちの無能さ、あるいは、ふさわしくない性格である。クレメンソーは生粋のナショナリストであったし、ロイド・ジョージは逆に無原則、柔軟な姿勢で任務をこなした。ウィルソンの巨大な目標は彼の政治的交渉力を超えていたし、健康上の問題があった。1つの教訓として、世界の指導者たちの身体と精神の健全さは監視されるべきだ。特に、アメリカ大統領の決断に関して。

2019年の指導者たちもその性格が問題である。トランプとイギリスのメイ首相とは、その性格が正反対であるが、2人とも専門家たちの助言を無視し、その国の政治システムに深刻な打撃を与えた。フランスのマクロン大統領はしばしば政治経験の不足を問われるが、ドイツのメルケル首相は、時代遅れの現状維持に長けていることが問題だ。

和平プロセスが失敗した第3の理由は、おそらく、最も重要なものだ。大きすぎる目標、欠陥のある指導者たちの和平会議は、公然と非難された。当時のもっとも洗練された人物の1人、J.M.ケインズも『平和の経済的帰結』を書いた。ケインズは参加者たちの欠陥をよく知っていた。しかし、その教訓は、過剰な非難が生産的な結果をもたらさないことだ。政治指導者たちの前進に必要なものは、論争ではなく説得だ。1944-45年の再建において、ケインズは姿勢を変えた。複雑な再建計画を練って、舞台の背後で助言した。

もちろん、チャーチルとルーズベルトは、ロイド・ジョージとウィルソンよりもずっと優れていた。しかし、彼らに欠陥があったときも、ケインズは苦しい時代に指導者の弱点を非難することのコストを学んだ。2019年も、指導者たちの性格にとらわれ過ぎて、問題の解決を見失ってはならない。


 ユーロとグローバルな準備通貨

VOX 01 February 2019

The euro: From monetary independence to monetary sovereignty

Lourdes Acedo Montoya, Marco Buti

PS Feb 6, 2019

The Mirage of a Global Euro

DANIEL GROS

ユーロが誕生して20年経つが、ドルに対抗する第2のグローバルな準備通貨になる、という希望は実現しなかった。

ユーロの利益は、単一通貨圏の外にも、ユーロの使用が拡大することから生じる。しかし、通貨発行の経済学は変化した。マイナス金利の時代に、通貨を発行する利益はない。むしろ、金利の高いドルで資産を保有する方が利益になる。ジスカール・デスタンがフランスの財務大臣であったとき、ドルの「途方もない特権」と呼んだ利益は、債務国アメリカの話だ。ユーロ圏は債権を保有する側である。

アンカー通貨になる利益も、ユーロにとっては疑わしい。幸い、ユーロに通貨価値を固定している国は小さな国ばかりだ。もし中国が、ドルではなくユーロに、人民元の価値を固定したら、中国の通貨当局はユーロとドルの為替レート決定に影響するだろう。ユーロがアンカー通貨になれば、そのコントロールを失うことになる。

確かに、アメリカはドルを通じて国境を超えた制裁を行使する。イランとの取引があるヨーロッパ企業は、その制裁によって苦しむだろう。しかし、それはアメリカの外交・軍事的なパワーに負うものだ。たとえユーロがグローバルな金融で重要な役割を果たしても、アメリカはハード・パワーを支配し続けるだろう。

グローバルな準備通貨になることは、世界経済に対する依存が少ない国にとって意味がある。GDP4分の1も財・サービスの貿易に依存するユーロ圏は、アメリカと違って、その条件を満たさない。さらに、ユーロ圏が世界経済に占める割合は、20年前の25%から15%に下がった。

この割合が今後も低下するとしても、それが生活水準の低下を意味するとは限らない。日本経済の世界GDPに占める割合は、この20年間で半減した。しかし生活水準は、たとえ緩やかでも、上昇し続けてきた。

グローバルな準備通貨になる夢が実現しなかったことは、良いことである。ユーロ圏は、追加の負担なしに、多くの課題を解決することができる。


 核軍拡の危険

NYT Feb. 1, 2019

Welcome to the New Age of Nuclear Instability

By Rachel Bronson

SPIEGEL ONLINE 02/05/2019

Arms Race

Will Europe Be Victim of Nuclear Power Plays?

By DER SPIEGEL Staff


 コンゴ民主共和国

FP FEBRUARY 1, 2019

How Washington Got on Board With Congo’s Rigged Election

BY ROBBIE GRAMER, JEFCOATE O'DONNELL


 プーチンとはどんな人物か?

FP FEBRUARY 1, 2019

What Putin Really Wants in Syria

BY DMITRIY FROLOVSKIY

NYT Feb. 4, 2019

The Putin I Knew; the Putin I Know

By Franz J. Sedelmayer


 ベネズエラの平和的な政権移行

FT February 2, 2019

Battle for Venezuela: will the opposition’s bold gamble pay off?

John Paul Rathbone and Gideon Long

NYT Feb. 2, 2019

An Urgent Call for Compromise in Venezuela

By Francisco Rodríguez and Jeffrey D. Sachs

アメリカと、ラテンアメリカのいくつかの政府が、ベネズエラ国会議長Juan Guaidóの政府に石油収入の支配権を認めた。これはベネズエラ軍との危険なチキンゲームに入ったことを意味する。マドゥロNicolás Maduro大統領を棄てるか、経済を破壊するか、というゲームだ。そのメッセージは明白だ。・・・体制転換せよ。さもなければ、破滅だ。

このアプローチが成功するには多くの前提がある。軍は立場を変える。マドゥロは国民の支持を得られない。海外の同盟諸国、中国、キューバ、ロシアは関心を示さず、政府を支援しない。体制崩壊後の問題は処理できる。

しかし、これらは間違っているかもしれない。そして、アメリカが行った体制転換の歴史は非常に劣悪なものだ。アフガニスタン、イラク、シリア、リビア。介入後の混乱が続いている。ベネズエラがそうではない、という保証は何もない。

われわれは異なるアプローチを求める。平和的な、交渉による権力の移行だ。何よりも、ベネズエラ人民がマドゥロと反政府派の権力闘争の犠牲にならない、また、その外部の支援者たちの争いの犠牲にならないことが重要だ。

PS Feb 4, 2019

Venezuela Shatters the Myth of Non-Intervention

ANDRÉS VELASCO

FT February 5, 2019

A broad diplomatic front is needed to address Venezuela’s crisis

NYT Feb. 5, 2019

A Geopolitical Showdown in Venezuela Will Only Make Things Worse

By Alejandro Velasco

FP FEBRUARY 6, 2019

Recognizing Juan Guaidó as Venezuela’s Leader Isn’t a Coup. It’s an Embrace of Democracy.

BY IRWIN COTLER, BRANDON SILVER


 インドの改革

NYT Feb. 2, 2019

Casting Their Votes by Voting Their Caste

By Ruchir Sharma

インドの地方において、政治は今も、カーストに強く支配されている。

FT February 4, 2019

A rare wedding hints at upward mobility for India’s Dalits

Amy Kazmin

FT February 4, 2019

India puts the squeeze on Walmart and Amazon

FT February 6, 2019

India will rise, regardless of its politics

Martin Wolf

FT February 7, 2019

Universal basic income in India is a tantalisingly close prospect

Arvind Subramanian

生体認証によるIDが実現すれば、インドの貧困層に対してベーシック・ユニバーサル・インカムUBIを提供できる。それはインドの初代首相、ネルー以来の夢であった。

1991年、インドが社会主義的な過去を離れて市場改革を始めたとき、当時のマンモハン・シン蔵相はビクトル・ユゴーの「いかなる力も、その時代の思想を止めることはできない」という言葉を引いた。UBIがそうである、と言っても、決して誇張ではないだろう。


 反トラスト

FT February 3, 2019

America’s new antitrust agenda

Rana Foroohar

NYT Feb. 3, 2019

Schumer and Sanders: Limit Corporate Stock Buybacks

By Chuck Schumer and Bernie Sanders

FT February 8, 2019

The EU is leading the way in antitrust policy


 中国はアジアの秩序を支配しない

FP FEBRUARY 3, 2019

China Couldn’t Dominate Asia if It Wanted to

BY PARAG KHANNA

中国はアメリカを世界で唯一の超大国という地位から追い出すだろう、と広く考えられている。しかし、米中間で何が起きるとしても、世界は単一の支配秩序にはならないだろう。アメリカも、中国も、単独で支配することはない。

アメリカはそれを望まず、その能力もない。世界の他の多くの諸国もアメリカの覇権にもどることを望まない。中国についても同じだ。グローバルにアメリカと代わることはおろか、アジアでも一方的に地域を支配することはないだろう。

こうした理解の仕方は、ヨーロッパの過去200年にだけ依拠した、間違った歴史・理論である。世界を、摩擦のないテーブルで行う、アメリカと中国とのリスク・ゲームとみなしている。しかし、世界の秩序は狭隘なヨーロッパの権力争いと何も似ていない。ヨーロッパには、小さな地域を共有する、文化や宗教の共通した多くの社会があり、互いに征服されることを恐れている。

アジアは、13世紀のモンゴル帝国を例外として、有史以来すべての時代に多極的な秩序が支配した。征服地を拡大するよりも、むしろそれぞれが生活することを許した。シルク・ロードの時代にも、通商と文化交流が規範であり、制服ではなかった。アジアの地理と歴史は、中国の拡大がドミノのように支配秩序を拡大することを許さない。

一帯一路イニシアティブも、ソ連崩壊後の周辺地域に対するインフラ投資に始まる、攻撃的であると同時に、防御的な戦略であった。中国は、世界最大の財の輸出入国となり、いわゆるマラッカ・トラップを回避する必要を感じていた。

中国の拡大が止められないほどの圧倒的な勢力に見えても、アジアでさえ、中国が彼らの重大な利益を犯すなら抵抗する、ロシア、イラン、インドのような、文明圏を築いた諸国家が存在する。中国は360度を敵に包囲されるような行動を望まない。中国は、侵略するより、アラブ、トルコ、日本、ヨーロッパの勢力に侵略された歴史がある。ロシアとベトナムでは拡大を阻まれた。

中国の行動を、植民地化として、表面的に理解するのは間違いだ。現代世界には、抑止と主権、民主主義と透明性、といった中国が事態を容易に支配できないような、制度と勢力が存在する。一帯一路は、かつて英語や統治システムを広めた東インド会社がそうであったように、各地の抵抗する勢力を育てるだろう。

多極的世界では、地政学的な競争は避けられないが、それがインフラ投資による競争の形を取る限り、むしろ相互に補完的である。大国は、各地の潜在的な同盟国やパートナーにサービスを提供することで競うのだ。各地の経済は整備され、投資の格付けは改善される。そして、ますます多くの国際投資を集めることができる。

北京のインフラ投資における攻勢がどのような結果をもたらすか、それを予測するのはまだ早い。中国のビジネスマンや外交官は、言葉を学ぶが、人類学を学ばない。その土地の文化で判断することができないだろう。同盟相手を買収し、債務を再交渉し、あるいは、反動を生じている。アメリカ、ヨーロッパ、日本、インドは、他国が中毒の債務の罠に陥るのを防ぎたいなら、彼らが投資すればよい。

インフラ投資は、中国だけでなく、アジア諸国の相互の関係を強化する。それは支配国家の存在しない、アジアの多極的なシルク・ロード型秩序に回帰することだ。アジアの歴史は絶え間ない「グレート・ゲーム」をもたらすが、大きな寛容さを求める。アジアは他に次国家が支配するには大きすぎるのだ。

PS Feb 5, 2019

The Coming China Shock

ARVIND SUBRAMANIAN, JOSH FELMAN

FT February 6, 2019

Beijing wary of warnings from the past as it hits ‘18%’ mark

Lucy Hornby

PS Feb 7, 2019

China’s Difficult Balancing Act

GENE FRIEDA


 ポピュリズムの循環が始まった

FT February 4, 2019

The Trump era could last 30 years

Gideon Rachman

2016年の2つの政治的混乱、イギリスのBrexitと、アメリカ大統領選挙におけるトランプ当選、が起きてから、ずっと論争がある。これは一時的な逸脱なのか、あるいは、新しい時代の始まりなのか?

未来の歴史家たちは、2016年を新しいサイクルの始まった年とみなすかもしれない。しかも、そのサイクルはおよそ30年続く。世界のポピュリストたちの多くがトランプ大統領を称賛している。他方、Brexitの混乱は、追随して離脱する国を生まなかったが、その背景にある混乱はヨーロッパに広がっている。フランスの「黄色いベスト」や、ドイツの議会に勢力を増したAfDがそうだ。

過去のサイクルから見て、「ポピュリストの時代」は30年続くだろう。2つの時代を認めることが可能だ。1つは、1945-1975年、福祉国家とケインズ主義的需要管理による高成長が、西側全体に広がった時代である。それは国際的な冷戦と重なっていた。

1970年代半ばに、イギリスの「スタグフレーション」、アメリカのカーター大統領が認めた国民的「倦怠」が起きた。そして新しい時代、その批判家たちが「ネオリベラル」と呼ぶ時代が、1979年のマーガレット・サッチャー、1980年のロナルド・レーガンの選挙で始まった。

それはグローバル・シフトでもあった。1978年には、中国で鄧小平が権力を握り、市場に依拠する「改革開放」政策を開始した。1980年にはポーランドで連帯が結成され、ヨーロッパの共産主義体制に亀裂が生じ始めた。グローバル化する資本主義の基礎が登場しつつあった。

「ネオリベラルの時代」は2008年の世界金融危機で信用を失った。新しいイデオロギーが現れる前の、不確実な数年を経て、2016年、Brexitとトランプの事件が起きたのだ。

1つの時代が30年続くのは、追随者とオーバーシュートのサイクルが起きるからである。新しい政治運動や指導者が成功し、オーラを発するとき、世界に模倣者たちが現れる。それはイデオロギー的な運動を進める新しいアイデアを発見する。しかし、運動が拡大し、加速する中で、オーバーシュートに至る。レーガン主義的な低税率と規制緩和は、結局、金融規制の過剰な緩和と金融危機に至った。

ただしポピュリストの運動が続くには、彼らが選挙で勝利するだけでなく、現実に成果を示す必要がある。最初の30年には生活水準の上昇があったし、レーガン=サッチャーの時代には新しい成長モデルと冷戦の勝利があった。

成果を示せなければ、新しい時代は早期に死滅するかもしれない。

PS Feb 4, 2019

Is the “Populist” Tide Retreating?

JOSEPH S. NYE

FT February 5, 2019

Trump’s State of the Union: five things to watch

Demetri Sevastopulo and Sam Fleming in Washington

FT February 7, 2019

Only the UK leads America in its rush to kakistocracy

Edward Luce

FT February 7, 2019

Trump and Brexit have ended up remarkably similar. Here’s why

Simon Kuper

この2つのポピュリスト的なプロジェクトは、よく似た結果を迎えている。それらは2016年に、よく似た宣伝によって成功し、今や、同様に機能しないことが示されている。

2つの事件とも、国境の解放に対する不満を煽って、隣国に対する強固な障壁を再建すると宣伝した。両者とも貿易戦争を吹聴した。そしてどちらも、何ら、そのような法案を可決していない。

現代のポピュリズムにはさまざまな運動があるが、アングロサクソン型の2つの運動は特別な性格を帯びている。それは超大国の国民が抱く裏切られた感覚から発する復讐劇であり、冒険主義的な資本主義が加わっている。トランプ=Brexit型の統治の思想は、さまざまな権力の姿勢に明らかだ。

頑丈維持よりも破壊せよ。ただし、その結果は破壊してみないと分からない。・・・影響に満ちた過去を再建する。だから、詳しい行動計画は必要ない。・・・論争は必要ない。敵は無視するか、処罰せよ。・・・反対する者は革命の裏切りだ。・・・閣僚には経験も専門知識も必要ない。何人代わっても関係ない。・・・政府が日々の行政を処理しなくなっても気にするな。どうせ、重要ではないのだから。・・・外国に友人は要らない。・・・メキシコでもアイルランドでも、隣国を非難し、弱めることが過去の栄光を示す。


 債務累積と危機回避

PS Feb 4, 2019

A Second Chance to Fix Finance

BERTRAND BADRÉ , LAURENCE DAZIANO

PS Feb 5, 2019

Financial Stability in Abnormal Times

KENNETH ROGOFF

PS Feb 7, 2019

Debt Derangement Syndrome

J. BRADFORD DELONG

FT February 8, 2019

America faces a battle to find buyers for its bonds

Gillian Tett


 世界銀行次期総裁

FT February 5, 2019

Whoever runs the World Bank needs a plan for emerging markets

Robert Zoellick

FP FEBRUARY 5, 2019

Will David Malpass Run the World Bank or Ruin It?

BY KEITH JOHNSON

FT February 6, 2019

What the next president of the World Bank should do

Paul Romer

FT February 7, 2019

US makes a poor choice for World Bank chief

PS Feb 7, 2019

End the US Stranglehold on the World Bank

JESSE GRIFFITHS

FT February 8, 2019

What I would do as the next president of the World Bank

David Malpass


 日本は上昇しつつあるか?

PS Feb 6, 2019

Is Japan’s Sun Rising?

JIM O'NEILL

日本は上昇しつつあるのか? 先進諸国の中でも、日本の1人当たり実質成長率と政治的安定性は際立っている。日はまた昇るのか?

日本の名目成長率が、この10年間で、1.1%でしかないのは事実だ。しかし、それは人口が減少し、労働力が減少しているからだ。日本は資本のパフォーマンスを高めることに成功した。

外国人労働者の受け入れにも取り組んでいる。その歩みは遅すぎると批判されてきたが、欧米における移民に対する激しい反発を観れば、日本の選択は正しかったかもしれない。

椅子取りゲームのように後退し続けていた日本の以前の首相に比べて、安倍首相の任期の長さは重要だ。アベノミクスの成果も、1人当たり実質成長率の上昇を背景に、デフレの終息に向けた条件が現れている。

ただし、日本銀行によるQE20年に及び、その出口戦略も見えない。これほど大規模に債券市場に介入し続けたことで、日銀がQEを終われば何が起きるのか、予測できない。国債価格や株価が下落するだろう(金利は高騰する)。

安倍首相が中国やロシアとの関係を維持した経験は、今後、もしよい結果を示すなら、イギリスや西側にとって参考になるはずだ。

FP FEBRUARY 7, 2019

Japan’s Scientific Whaling Ruse Is Over

BY RUSSELL FIELDING


 良い仕事を増やすには

PS Feb 7, 2019

The Good Jobs Challenge

DANI RODRIK

包括的な経済的繁栄を実現するモデルが求められているが、その中心となるのは十分な「良い仕事」を創り出すことだ。良い職場が不足すると、成長の利益は少数者に集中してしまい、政治エリートの信頼が損なわれる。多くの国で、現在、権威主義的な、あるいは、ネイティビストの反動が強まっている。

良い仕事とは、明らかに、その国の発展水準によって異なるが、安全な労働環境、集団交渉の権利、恣意的な解雇の規制、といった労働者の保護が確立された、安定したフォーマルな部門である。それは少なくとも、その国の基準で、住居、食事、移動、教育、その他の家族の出費といくらかの貯蓄を残す、十分な所得のある中産階級を意味する。

大企業は労働者を、賃金、自律性、責任で優遇する。それが転職率の低下、勤労精神、高い生産性という形で利益をもたらすからだ。MITZeynep Tonが、長年、主張してきたように、「良い仕事」を提供する戦略は、労働者だけでなく、企業にも有利なのだ。

しかし、問題が構造的な性格のものであれば、企業が独自に対処することはできない。すなわち、発展した諸国でも、発展途上諸国でも、生産構造と労働者の構造との間でミスマッチが拡大しているのだ。生産はますますスキル集約的になっているが、労働者の大部分はいまだに低熟練である。

技術革新とグローバリゼーションが、このギャップを拡大している。製造業もサービスも、急速に自動化・デジタル化されている。機械による労働者の代替が進むことに加えて、グローバルな貿易・投資、特に、グローバル・バリュー・チェーンが世界中で生産技術を同質化していく。貧しい諸国でも、スキルや資本が集約的な技術を採用しなければ、このグローバル・バリュー・チェーンに参加できないのだ。

その結果、世界の二重経済化が強まっている。すなわち、先進部門と、低生産性部門である。二重化は開発された諸国でも発展途上諸国でも進んでおり、不平等、排除、政治の分極化が問題である。

その対策は3つだ。1.労働者たちのスキル習得を促す。2.企業が低スキルの労働者たちを雇用し続ける。3.政府が、労働集約的な零細企業による雇用を支援する。改革の焦点が、もっと良い仕事の維持・供給に変わるためには、経済で支配的なスキルの構成を変えるべきである。


 大国が行動しないのはなぜか?

FP FEBRUARY 7, 2019

Why Some Countries Are Pathologically Shy

BY STEPHEN M. WALT

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The Economist January 26th 2019

Slowbalization

Venezuela: Removing Maduro

Slowbalization: The global list

Defending Taiwan: Dire strait

Foxconn in Wisconsin: Makers and Takers

(コメント) グローバリゼーションが解体される過程はどのように進むのか? 米中間で貿易が減少すると、サプライ・チェーンが解体され、長期的な投資が減少します。政府や企業の金融状態は悪化し、世界経済に減速の不安が強まっています。しかし、減速や解体は、グローバリゼーションの問題を解決するわけではありません。

ベネズエラの政治体制は経済を崩壊させ、国民はハイパーインフレーションに苦しみ、難民を大規模に生み、石油生産は減少、国会議長がマドゥロの退陣を求めています。コンゴ民主共和国の間違った大統領選挙結果とともに、注目を集めます。

台湾は、習近平の軍事的威嚇と挑発行動に対して、どのように対抗できるのか? ウィスコンシン州に台湾企業Foxconnの大規模投資を誘致する葛藤が紹介されています。

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IPEの想像力 2/11/19

「悪夢のような民主党政権」という発言は、安倍首相の政治姿勢や信念を表現するものです。岡田元副総理は、発言の撤回や謝罪を求めましたが、それは必要ないでしょう。真っ向から反撃するべきです。

安倍首相は、政権の評価を何によって下すのか、自分の信念としてだけでなく、国民に向けた説得が必要だと思います。もし東日本大震災や福島原発事故のことを指すとすれば、それらは「悪夢」という言葉で私が最初に思い浮かべることでしたが、民主党政権が決めた政策や制度の失敗ではありません。

なるほど、自民党の常識からすれば、「悪夢」が、多くあったかもしれません。アメリカよりも中国との外交関係を重視したり、政府支出の分配方法を根本から変えようとしたり、事業仕分けや高速道路の無料化、ダム建設の見直し、といった「社会実験」を提案・実行したり、沖縄問題、在日米軍・普天間基地の移設を白紙に戻して議論したり、消費税よりも社会保障に関する考え方を転換しようとしたり・・・。

政治は自分たちで変えることができる、というダイナミズムを示す試みであったはずです。

しかし、自民党を解体して、民主党政権を実現した鳩山・小沢らの党内権力闘争が、「悪夢」を生んだと私は思います。民主党政権や、2大政党制という、既存の日本政治システムからの飛躍を、彼らも望んだわけですが、それは民主党を一定の保守的な野党に、そして、政権交代可能な2つの中道・与=野党に変えるため、有権者の希望を虚脱に変えたからです。権力の暗部を切るだけの、明確なメッセージを持った優れた指導者を欠いた、と思うのです。

そして、北朝鮮のミサイル問題、尖閣諸島の漁船拿捕や最終的な国有化について、米軍の核兵器持ち込みと日本の非核3原則についても、国民的な議論を深めるべきだった、と思います。

しかし、それを「悪夢」と呼び、封印することは間違いです。むしろ、それこそが政治の条件なのです。

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NHKかんさい熱視線を観ました。ベトナムからの留学生が、長時間労働を続けて、脳溢血で死亡しました。家賃2万円の部屋に住み、家族のために毎月10万円を仕送りしていた、と番組は紹介します。

彼女は自分の夢を実現することなく、日本で暮らした日々が「悪夢」で終わりました。もし夢がかなうとしたら、それはどのような日本だったか? 政治が問われることです。

留学生たちは日本で働きながら、しかも日本語や知識、技能を身につけ、日本社会の慣習やコミュニケーションのスキルを高めることができる。それは、かつて日本で定時制高校が、貧しい、働きながら学ぶ人々に提供した姿に近いでしょう。

そして、外国人も十分な賃金を得られれば、学業と両立する程度のアルバイトで生活費を得て、家族にも仕送りができると思います。アルバイトや非正規の労働者が、正規労働者と違う、非常に低い賃金を支払われていることが問題なのです。そんな職場が労働力を求めて、多くの外国人を雇用します。

法律としての厳格な執行だけでなく、労使の双方から意見を聞く労働監督官、労働組合の横断的な組織や交渉力、住民、マスメディア、SNSを介した告発や投稿が広がることで、長時間労働を受け入れないような社会規範が確立されます。

また、苦学する留学生たちを、地域組織や教育機関が助け、社会的給付や奨学金のメカニズムを整備すべきです。職場のネットワークを通じて、社会に包摂し、根付かせる姿勢が必要です。私は、一時的な滞在であっても、それが非常に重要だと思います。

その結果、定住化や国籍の取得も、出稼ぎや移民の過程として、日本に住む外国人に開かれるでしょう。なぜなら、受け入れ社会は、彼らとともに、長期的な繁栄の条件を全体として高めるからです。

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