IPEの果樹園2019
今週のReview
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世界と中国の景気後退 ・・・Brexitの泥沼 ・・・ヨーロッパ:ナショナリズムと愛国心 ・・・ディープな技術変化 ・・・米中対立の深化 ・・・北朝鮮と日本の核武装 ・・・ニュー・ディール ・・・アメリカの過剰拡大 ・・・再び、国際秩序の誕生
[長いReview]
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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign
Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project
Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 世界と中国の景気後退
NYT
Jan. 24, 2019
The Sum of Some Global Fears
By Paul Krugman
先の世界経済危機の細部は複雑だが、大きな、単純な原因が1つあった。住宅価格と債務膨張のバブルが、アメリカにもヨーロッパにも、あったことだ。それがデフレを生じたとき、世界経済は縮小した。
2001年の景気後退にも1つの原因があった。ハイテク株と投資のバブルが破裂したのだ。
しかし、1990-91年の不況は複雑だった。たとえば、S&Lの破たん、オフィス・ビルの建設過剰、冷戦終結による軍事支出削減。
次の契機後退もそうだ。単一の原因ではなく、いくつかの問題がミックスされて生じるだろう。1.中国、2.ヨーロッパ、3.米中貿易戦争、4.アメリカ政府閉鎖。
しかも、それに対する金融政策・財政政策の対応の余地は限られている。最後に、効果的な国際協調の可能性は少ない。
FP
JANUARY 25, 2019
Just How Much Is China’s Economy Slowing?
BY KEITH JOHNSON
中国の経済に何が起きているのか? 13兆ドルの経済は、中国共産党の支配や、習近平の権力だけでなく、世界1の貿易相手国として、世界経済に重要な意味を持っている。
中国政府は国有銀行のネットワークで融資を増やすことができる。しかし、市場改革は後退し、効率の低下する国有企業の拡大が目立つので、債務の膨張は続かないだろう。
PS Jan
28, 2019
Why China Must Save Less
ZHANG JUN
PS
Jan 30, 2019
The Sorry State of the World Economy
KAUSHIK BASU
経済の見通しは暗い。世界銀行の予測は先進経済の2020年の成長率を1.6%に下方修正した。その副題“Darkening Skies”が不安を示している。
ドイツ、中国、インド、インドネシア、アフリカ。たとえ新興市場には高い成長を示す国があっても、世界経済は、経済的な連結状態と政治的なバルカン化との間で行き詰まっている。金融政策、財政政策、通商政策の間で、世界は政策をさらに協調させる必要がある。しかし、そのような数少ない協調が復活するより、特に、アメリカのトランプ大統領のように、主要先進経済は協調への指導力を失っている。
FT
February 1, 2019
Do not underestimate the risk of an iron curtain in tech supply
chains
Gillian Tett
● Brexitの泥沼
The
Guardian, Fri 25 Jan 2019
The ‘will of the people’ on Brexit was not fixed for all time in
June 2016
Jonathan Freedland
The
Guardian, Fri 25 Jan 2019
A second referendum could destroy public trust in politics
Ian Lavery
これほど大きな不平等と不正義を正すこともなく、議会は今もBrexitの泥沼にいる。
UKのEU離脱を推進した運動の苛烈さは、3年近くたっても、この国とさまざまなコミュニティを分断したままだ。しかし、Brexitがこれほどの怒りを生み出し続けるのは、余りにも長い間、コミュニティの人々が政治家たちによって沈黙させられてきたと感じたからだ。政治家階級はそれをしばしば当然のこととみなしてきたし、経済システムは人々の利益に反するものだった。
イギリスは、2016年の投票でEU離脱派に屈するよりずっと前に、この国を蹂躙した緊縮策、貧困、投資不足に屈していた。20世紀の最後の数年間、多くの諸都市と町村が、彼らの繁栄を支えていた産業の消滅を観た。
これらのコミュニティでは、壊滅的な経済ショックについての警告が愚弄された。こうした警鐘の多くは1980年代の不況以来、存在している。1990年代後半と2000年代の初めに、労働党政権は公共サービスと人々のために投資をおこなった。しかし、残念だが、その構造は変わらなかった。
議会がBrexitの混乱に制約されている間、この国の極端な貧困に対する対策はおろそかになっている。国連の報告によれば、1400万人、国民の5人に1人が貧困状態にあり、子供の貧困率は、2022年までに、40%に達すると予測されている。
労働党議員たちは、国民投票の結果を受け入れるという公約によって選出されたことを忘れてはならない。労働党は、異なる合意が可能である、と信じている。雇用、労働者の権利、環境と消費者の保護が、われわれとEUによる将来の交渉の中心である。
われわれは、有権者がすでに決めたことを再投票することが、正しい答えを示すとは思わない。それは市民と議会代表との関係に深刻なダメージを与えるだろう。
ラディカルな、再分配を求める労働党政権が、この国とコミュニティの答えであって、分断を煽る国民投票を繰り返すことではない。2度目の国民投票の結果も同じものであるだろうし、真の変化を求めるこの国の要求にこたえるものではない。
The
Guardian, Fri 25 Jan 2019
If Brexit Britain wants Europe to listen, it must learn to speak
European
Timothy Garton Ash
イギリスの論争には飽きた、という声もあるが、ヨーロッパ市民たちは近隣諸国で起きていることに注意しているだろう。イギリス議会の政治家たちがそれを知っているだろうか、と思う。
フランスとドイツの指導者はアーヘンで新しい協力条約に署名した。フランスのマクロン大統領は、「黄色いベスト」運動への支持の高まりに衝撃を受けて、「国民的論争」を開始した。ポーランドは、親ヨーロッパのGdańsk市長が殺害された事件についてさえ団結できない、国民の深い分裂状態を示している。
これらの混乱を反映し、5月の欧州議会選挙に向けた運動が活発化している。ヨーロッパの未来は基本的に2つの異なるビジョン、1つはハンガリーのオルバンやイタリアのサルヴィーニが指導する、保守的、ナショナリストの運動、もう1つは、マクロンとメルケルのアーヘン協約に代表される、リベラルな、国際主義的なビジョンである。オルバンやサルヴィーニは、EUを離脱しようとするのではなく、EUを操縦しようとしている。それはUKの将来だけでなく、ヨーロッパの将来も決めるのだ。
われわれがヨーロッパに何を求めるのか、明確に告げる必要がある。メイが示した「ノー・ディールか延期か」という選択には、明らかに、延期しか責任ある答えはない。議会が毎週火曜日にBrexitの論争を指導する。50条による離脱期限の延期を求める。この2つの修正が必要だ。
UKがEUにとどまることを真に願う人々もヨーロッパにいる。例えば、メルケルの後継者であるAKK(Annegret
Kramp-Karrenbauer)がそうだ。われわれは離脱期限を7月1日まで伸ばすことを求める。それは新しい欧州議会の制約としないためだ。UK議会はもっとソフトな合意案を目指す、ということを政治的に表明する。その後、EUの最高ポストが決まり、ドイツではおそらくAKKが首相に就く。われわれが去るべきか決める、EUの姿が明確になる。
私は3R(国民投票、残留、改革)を支持する。Brexit離脱ではなく、われわれがEUの全体的枠組みに何を求めるのか、主張するべきだ。多くの親ヨーロッパ議員がいるにもかかわらず、その発言はあまりにも小さい。「EUが改革すれば、われわれは残る」ではなく、「われわれは残らねばならない。だから、われわれはEUが存続し、繁栄する改革を、一緒に推進する」と願うのだ。
FT
January 26, 2019
Brexit is about sovereignty and parliament must respect that
Noel Malcolm
FT
January 26, 2019
Delay Brexit and make time to consult the public
Gordon Brown
PS Jan
28, 2019
Brexit Sweat and Tears
CHRIS PATTEN
アメリカとイギリスの政治状況は異なっている。確かに、イギリスのBrexitを支持した者には、貿易によって失われる製造業で失業した者たちが多かっただろう。移民や政治的エスタブリシュメントに対する反感はアメリカと似ている。しかし、それだけではない。ロンドン以外に住む、高齢者が離脱派に多かった。第2次世界大戦後、イギリスのナショナリズムだ。
大英帝国の時代は終わったのに、イギリス国民はそれを受け入れたがらない。保守党の支持者、イングランドの高齢者は特にそうだ。保守党は、ますます離脱を強硬に主張し、ますます支持者を減らす、という悪循環に入った。あらゆる民主的反対を無視して、一時的に議会を閉鎖しても、離脱するべきだ、と主張し始めている。
メイ首相は、国民に、イギリスがEUの単一市場や諸外国の法律・規制を必要としていることを説得するべきだ。
PS Jan
28, 2019
Can a “No-Deal” Brexit Be Avoided?
GORDON BROWN
FP
JANUARY 30, 2019
As Brexit Looms, the Rock Is in a Hard Place
BY MARK NAYLER
PS
Jan 31, 2019
The EU Needs a Brexit Endgame
JEAN PISANI-FERRY
● ヨーロッパ:ナショナリズムと愛国心
The
Guardian, Fri 25 Jan 2019
Fight for Europe – or the wreckers will destroy it
NYT
Jan. 25, 2019
Why I Am a European Patriot
By Roger Cohen
ボスニアの戦争を取材したとき、著名なサラエボの俳優Nermin Tulicと知り合った。1992年6月10日、彼はセルビアの迫撃砲で両足を失った。
彼は怒り狂った。自分の足を見ないように頼んだ。半分はセルビア人である妻を、どうしたらよいか悩んだ。病院のベッドで、死ねばよかったと願った。その床で彼の妻は2人目の娘を生んだ。
彼の父の言葉だけが、彼に生きる意志を与えた。「たとえ片隅に座っているだけでも、子供には父親が必要だ。」
私はヨーロッパの愛国者だ。なぜならナショナリズムがその町をいかに破壊したかを知ったから。ナショナリズムは、自己憐憫と攻撃性によって、過去の幻想の名において現在を変え、あらゆる意味で栄光とはほど遠い、あいまいな未来に変えようとする。暴力をはらむ、恐怖の操作、それは大規模な幻滅の演習だ。私は全身全霊でそれを憎む。
1995年、フランスの元大統領、ミッテランが考えたように、偏見が滅ぼされねばならず、さもなければナショナリズムが支配するだろう。彼は、「ナショナリズムとは戦争を意味する」と述べた。
ほぼ四半世紀を経て、ナショナリズムは広まっている。アメリカの大統領は公言する。「私が何者かって? 私はナショナリストだ。いいか、わかるよな。ナショナリストだ。」
ハンガリーからフランスまで、ポーランドからイギリスまで、ナショナリストたちがEUへの侮辱を撒き散らし、その解体を目指す。
私はヨーロッパの愛国者だ。私は叔父の戦争日誌を読んだ。彼は南アフリカの第6装甲師団に属した。1944年7月21日、イタリアのMonte Cassinoに着いた。「なんと哀れなCassinoだ。恐怖と廃墟と荒廃は信じられないほどである。道路は砕かれて積み上げられ、地雷、仕掛け爆弾、墓がいたるところにある。迫撃砲弾の巨大な穴、クレーターはねばねばした汚物、建物のがれきで埋まっている。何とも書くことができない。亡霊と影が沈黙の情景をなす。この人類最悪の瞬間を写真にとって、それをすべての学校の教室で回覧すべきだ。」
私はヨーロッパの愛国者だ。私はドイツに住んで、ヨーロッパの思想が戦後ドイツの復興をもたらすのを観たからだ。イタリアに住んで、戦後イタリアが共産主義の誘惑に従うのは間違いであるとEUが示したのを観た。ベルギーに住んで、NATOとEUが、ヨーロッパの一体性と自由を形成するのを観た。イギリスに住んで、ヨーロッパが脱帝国のイギリスが自我を開放するのを観た。最近は、その小イングランド主義が何をもたらすかも観た。バルカン地方に住んで、10万人が死んだヨーロッパの戦争を描いた。叔父は、「つまらない、ドブネズミのような暮らし」を棄てて、私がノルマンディーの墓地を訪ねたときに観た若いアメリカ人たちとともに、この大陸を救うためにヨーロッパにやってきた。私はヨーロッパの愛国者だ。なぜなら私はユダヤ人だから。
私はヨーロッパの愛国者であり、アメリカの愛国者でもある。私は同時にいくつもの場所にいる。西側を結ぶきずなは、自由、である。愛国主義とナショナリズムとの関係は、尊厳と野蛮さの関係に等しい。ナショナリズムが戦争を意味するように、法に対する侮辱は野蛮をもたらす。
Milan Kunderaを含む作家たちが宣言した。「100年前に2度、ヨーロッパを自殺から救い出した2大同盟国が、1つはドーバー海峡の、もう1つは大西洋の向こうから、ヨーロッパを否定した。ヨーロッパ大陸は、ますます執拗なクレムリンからの介入に脆弱となり、われわれの目の前で、ヨーロッパという思想が分裂しつつある。われわれはそれを守るために闘うか、あるいは、ポピュリズムの波によって死滅するだろう。」
PS Jan
28, 2019
How Europe’s Populists Can Win by Losing
MARK LEONARD
PS
Jan 30, 2019
Why Brexit Will Damage Europe
SIGMAR GABRIEL
PS
Jan 30, 2019
The Fatal Flaw of Central Europe’s Illiberal Democracies
PIROSKA NAGY-MOHACSI
● ダボス
FT
January 25, 2019
Seeds of doubt sown among the elite on the slopes of Davos
Roula Khalaf
FT
January 28, 2019
Davos 2019: No more heroes for the global elite
Gideon Rachman
誰にでもヒーローが必要だ。たとえダボスの超資産家たちであっても。しかし、「グローバル・エリート」たちには、今、熱狂やアイデアが欠けている。
PS
Jan 30, 2019
Reimagining Davos
MOHAMED A. EL-ERIAN
● ユーロ生誕20年
PS Jan
25, 2019
The Euro’s First 20 Years
JEFFREY FRANKEL
ユーロ圏は「最適通貨圏」ではなく、景気循環は一致していない。それゆえ、ECBはバブルや経済の過熱を生じてきた。加盟国は、その景気変動にふさわしい金融政策がとれない。また、加盟諸国間で、経常収支の不均衡が増大した。特に、ギリシャ危機が示したように、ユーロ圏内の財政緊縮策の強制は、ギリシャの不況を増幅した。
ユーロ圏がその失敗から学ぶなら、優れた共通通貨になるだろう。
PS
Jan 31, 2019
The Threat of a Eurozone Recession
LUCREZIA REICHLIN
PS
Jan 31, 2019
Three Lessons from QE in Europe
STEFAN GERLACH
● コンゴの民主主義
NYT
Jan. 26, 2019
‘This Is Our Land’
By Michael J. Kavanagh
豊富な地下資源は、コンゴ国民を豊かにしなかった。彼らは今後の土地をほとんど支配していない。富裕層は政府を買収し、この国の若い民主主義を破壊した。胴とコバルトのブームは今後のGDPを増大させたが、国民の1人当たり所得は世界の最低水準にとどまっている。
● ボーダー
NYT Jan.
26, 2019
The Real Wall Isn’t at the Border
By Atossa Araxia Abrahamian
● NATO
NYT Jan.
26, 2019
Saving NATO
アメリカがNATOを離脱する、という考えは超現実主義的である。法学者たちはトランプ大統領が一方的に条約を離脱できる、と考える。しかし、NATOは別である。
● 日本の鉄道民営化
FT
January 28, 2019
Rail privatisation: the UK looks for secrets of Japan’s
success
Robin Harding in Tokyo
● ディープな技術変化
FT
January 28, 2019
Preparing for the D-Day of technological change will be vital
John Thornhill
NYT
Jan. 29, 2019
Warning! Everything Is Going Deep: ‘The Age of Surveillance
Capitalism’
By Thomas L. Friedman
2019年の言葉は、「ディープ」になるだろう。
デジタル化、連結性、ビッグ・データ、人工知能が発達して、われわれがかつて経験したことのない「深い」場所へ、「深い」パワーへ、到達するだろう。すなわち、deep learning, deep insights, deep surveillance, deep facial recognition,
deep voice recognition, deep automation and deep artificial mindsがますます議論されている。
人工知能のDeepMindは、囲碁のAIプログラムAlphaGoを開発したチームが、人間の経験から学ぶだけでなく、人間以上に複雑なゲームをこなすだろう。そこではもはや人間から学ぶことさえ必要ない。自分自身で学ぶのだ。
今や「ヴァーチャル・エージェント」は、銀行、クレジットカード、保険会社との会話を学習し、機械が非機械よりも多くの質問に応答できる。もちろん、非機械には「人間」が含まれる。もうすぐ、自動化システムは機械としての自己認識を得て、非常に人間に近くなるだろう。
悪者たちがこうした新しい機会を利用すれば、何が起きるだろうか? 人の顔や声を完璧に偽造できるだろう。そして、YouTubeに動画を投稿する。人種差別的な言葉を発し、あるいは、アメリカ大統領がロシアを核攻撃する、と宣言する。銀行の支配人があなたの祖母に電話して、1万ドルをスイスの銀行口座に振り込むように命令する。
Harvard Business SchoolのShoshana Zuboffは新著 “The Age of Surveillance
Capital” を書いた。そこでは、金融市場における未来の行動を予測して利益を上げることができる、サーベイランス資本家が現れる。
新しい時代が求める「ディープ・トラスト」、「ディープ・ロイヤルティー」は容易に形成できないだろう。それには時間がかかる。
● 米中対立の深化
FT
January 28, 2019
The State Strikes Back, by Nicholas Lardy
Review by Gabriel Wildau
PS Jan
29, 2019
When Will China Achieve Quality Growth?
ANDREW SHENG, XIAO GENG
FT January
30, 2019
The challenge of one world, two systems
Martin Wolf
米中の対立が深刻さを増した。3つのニュースがそれを示した。ファーウェイに反対するキャンペーン。ドイツの産業連盟BDIが中国との関係をシステム間競争とみなした。ジョージ・ソロスが習近平を開かれた社会に対する最も危険な敵とみなした。
確かに中国は友ではない。しかし、冷戦が始まった、と断言するのは正しくない。中国は、かつてのソ連と違って、市場経済を受け入れている。異なるイデオロギーを広めていない。改革を進め、世界市場への依存を高めてきた。
中国は敵でもあるが、友でもある。もっと成熟した見方を取るべきだ。中国民衆が、西側は彼らがよりよい生活を手に入れることを阻止するつもりだ、と思えば、敵対関係は底なしの、終わりのないものになる。
現代において、孤立して繁栄する国は存在しない。相互依存した世界において、協力する必要がある。アメリカは、2国間でパワーを誇示してはならない。世界市場が公正に統治されていることを示し、日本などの同盟諸国と協力して、中国がルールに従うよう求めるべきだ。
FT
January 31, 2019
Distress test: beware China’s $3tn of troubled debt
Henny Sender
● 北朝鮮と日本の核武装
FP
JANUARY 28, 2019
In Trump’s World, Nukes Are Self-Defense
BY WILLIAM SPOSATO
核武装した北朝鮮に対峙し、表面的には同盟国である韓国との関係が悪化する中で、ワシントンの行動は予測不可能であるとき、日本政府はその防衛力を一気に高めて、戦後の多くのタブーを捨て去りつつある。核兵器の禁止も、日本が本物の軍隊を手に入れるときに、同時に放棄するのだろうか? それは極端かもしれないが、急速に変わるアジアの安全保障環境の中で、日本はますます孤立しつつある。
核戦争の時代が始まって以来、日本はアメリカの核の傘の下で安心できた。日米安保条約は世界最強の防衛同盟だ、と双方の関係者は自慢した。アメリカの占領体制下で書かれた戦後の日本国憲法は、軍事力の行使だけでなく保有を禁止した。それと交換に、日本は国内に米軍基地を配置し、それが東アジアの中枢に軍事力を置くアメリカの計画を助けたのだ。
この同盟は堅持されるはずだった。ドナルド・トランプがアメリカ大統領になるまでは。トランプは何でも交渉のテーブルに並べる。しかも、彼の頭は1980年代の日米貿易摩擦に染まっている。
米朝首脳会談で、トランプは金正恩を持ち上げ、合意の成果を自慢した。日本にとって、問題は安全保障にもたらす意味である。アメリカが非核化を唱えるとき、それは日本海の反対側でも非核化を意味するのか?
日本は唯一の被爆国として、非核3原則を示してきた。核兵器を、持たず、作らず、持ち込ませず、という政策だ。しかし、トランプがシンガポールから帰って、アメリカはもう安全だ、と宣言したとき、日本政府は危険を自覚しただろう。米朝の合意は、北朝鮮の短距離ミサイルに関して何も語らず、しかも、その非核化は進んでいない。
キムにとって、朝鮮半島の非核化が意味するのは、米韓軍事同盟が破棄される、ということだ。日本はその近接性により、韓国の防衛を日米軍事同盟の礎石と考えている。北朝鮮は、それは彼らにとっても同じことだ、と主張するだろう。
2017年5月に大統領に就任して以来、韓国のムンジェイン大統領は息つく間もない速さで北の脅威を下げてきた。3度の首脳会談を経て、非武装地帯の周囲において軍事力を削減し、アメリカが制裁を解除するや否や、北に金融・経済支援を提供した。しかし、韓国がピョンヤンとの関係改善を進めるほど、日韓関係は悪化した。
韓国から見れば、日本が隣国でさえなければ、すべてはうまく行ったはずだ。戦時下の強制売春制度について論争が続き、日本の戦時産業における強制労働でも韓国最高裁は賠償を求めた。キムは、1970年代、80年代の日本人拉致問題について、ピョンヤンも戦時強制労働を取り上げる、と警告した。
これらは共謀したものか? 統一韓国は南北の夢であるが、日本から見れば、統一後は一切の核兵器を保有しない、という韓国の約束が重要である。日本の専門家は、最悪の場合、統一韓国は北朝鮮の核兵器を継承し、日本だけが地域で唯一、核を持たない大国になる、と懸念する。「もしそうなれば、日本は多大な資金と貴重な資源を無駄にして、核兵器の獲得を強いられる。」
こうした不確実な事態は日本のタカ派に追い風となる。憲法が明白に否定したにもかかわらず、日本はすでに世界の中でも先進的な軍隊を保有し、戦略的大国の1つである。安倍首相は、第2次世界大戦を経験しない最初の日本の首相となったが、新しい政府予算では防衛費を記録的な規模まで増大させた。それに反対する声はほとんどなかった。
日本の軍備増強は、アメリカが安保条約に従い、日本を防衛するために軍事力を置く、という保証のために必要だ、と防衛問題の専門家は考える。それは時に「ドゴール・ドクトリン」と呼ばれる。フランスのドゴール大統領が、アメリカの主要都市が攻撃されるリスクを冒して、アメリカ軍はヨーロッパを防衛するのだろうか? と問うたからだ。米軍が韓国や日本から撤退することになれば、「アジアは任せるよ、中国が取ればいいさ」と、ワシントンは言っているに等しい。
技術的には、日本が核武装するのはかなり容易であろう。日本は原子力発電所から出る47トンのプルトニウムを貯蔵しており、それは原子爆弾6000個に相当する。日本の世論や中国の反対があっても、情勢が変化すれば国民の意識が急速に変わるかもしれない。核武装には、もっとシンプルな答えがある。「日本がアメリカから核兵器を買えばよい。」「アメリカは日本に核兵器を売ることで資金と影響力を手に入れる。」 あるいは、「もしアメリカが売らなければ、日本はフランスから買うだろう。」
FT January
29, 2019
Carlos Ghosn’s treatment is a stain on ‘liberal’ Japan
Philippe Riès
1日に8時間も尋問することが「リベラル」なのか? 週に7日間、弁護士もつけずに、同じ質問を何十回も繰り返すことが? 同じ被告に対する異なる年の「容疑」を使って、保釈されるときに、再逮捕することが「リベラル」なのか?
「自白することだ。ここではだれもが自白する。」と、尋問者は叫ぶ。スターリンの影に生きたプラハを描く1970年の映画のシーンだ。そして日本でも、有罪率は99.9%である。そのほとんどが自白によって成立している。
FT January
30, 2019
Japan Display’s brief success is familiar national champion’s tale
Kana Inagaki in Tokyo
● ニュー・ディール
NYT Jan.
28, 2019
Elizabeth Warren Does Teddy Roosevelt
By Paul Krugman
The
Guardian, Thu 31 Jan 2019
The left must be bold and back a green new deal
Larry Elliott
PS
Jan 31, 2019
A Green New Deal for Europe
MASSIMILIANO SANTINI, FABRIZIO
TASSINARI
● アフリカの経済統合
PS Jan
29, 2019
Reaping the Benefits of African Economic Integration
CÉLESTIN MONGA
● 貿易と米中対立
PS Jan
29, 2019
There Is No Sino-American Trade War
MARTIN FELDSTEIN
これは貿易戦争ではない。中国による技術の強制的な移転、政府の関わるサイバー犯罪を止めさせるための交渉手段である。
FP
JANUARY 30, 2019
Understanding Trump’s Trade War
BY DOUGLAS IRWIN
● 人口減少
PS Jan
29, 2019
Two Cheers for Population Decline
ADAIR TURNER
● イタリアの警告
PS Jan
29, 2019
An Italian Warning for France
DOMINIQUE MOISI
● アメリカの過剰拡大
NYT Jan.
29, 2019
The Trump Doctrine
By Ross Douthat
FP JANUARY
29, 2019
America Has a Commitment Problem
BY STEPHEN M. WALT
一握りのネオコンや好戦的イデオローグを例外として、アメリカが過剰に拡大したというコンセンサスが広く存在すると私は思う。アメリカは今も2つの戦争を続け、史上かつてないほど多くの国に対して、条約で防衛を約束している。この状況をどうするべきか、何の合意もないが、アメリカのグローバルな指導力が失われれば世界は野蛮な状態に呑み込まれると考える者たちでさえ、調整の必要は認めている。
興味深い問題は、なぜ国家は過剰に拡大するのか? である。私はこう考える。
1.圧倒的なパワーが過剰拡大を正当化する。しばしば、そのパワーを自分たちの優れた価値や計メイサの結果と思いがちだ。
2.国内で競争する利益集団が主張する異なる外交政策の妥協として、過剰拡大に至る。
3.政治システムが外国の利益を代表する者に浸透される。
4.外交政策の信認を重視するにつれて、他者に自国の行動を約束することが過剰拡大に至る。
5.サンク(埋没)コスト問題がある。6.十字軍的な、普遍的価値を提唱する。7.新しい介入によって利益を受けると信じる者たちがいる。8.不安定なフロンティアに平和を求める。
FT
January 30, 2019
America’s policy on Europe takes a nationalist turn
Constanze Stelzenmüller
PS
Jan 31, 2019
Five Lessons from the US Government Shutdown
SIMON JOHNSON
● ベネズエラへの介入
SPIEGEL
ONLINE 01/29/2019
Risk of a 'Caribbean Syria'
All Eyes on the Army in Venezuela Power Struggle
By Jens Glüsing
FP
JANUARY 30, 2019
U.S. Intervention Could Be Maduro’s Lifeline
BY LINDSEY A. O'ROURKE
● ソーシャルメディア
NYT Jan.
30, 2019
The BuzzFeed Layoffs as Democratic Emergency
By Farhad Manjoo
● 再び、国際秩序の誕生
FP
JANUARY 30, 2019
Everything You Know About Global Order Is Wrong
BY ADAM TOOZE
Klaus Schwabはthe World Economic Forumの主催者として、今年のダボスをグローバリゼーション4.0に向けた集団的設計に充てよう、と宣言した。こうした呼びかけは、「新しいブレトンウッズ」として繰り返されてきた。
アメリカのヘゲモニーは、J.M.ケインズを筆頭に、エコノミストたちの官僚が設計した包括的モデルとして、IMFと世界銀行を設立した。ワシントンの賢明な指導の下で、混沌と化したヨーロッパも平和的な統合に向けて復興した。・・・しかし、その話は間違っている。重要なことだが、国際秩序の誕生は、その利益を和解させるために世界の指導者たちが集団的に努力した成果だ、という暗黙の前提は、誤解である。秩序は、パワー(軍事力)と物理的な制約に関する露骨な計算によって決まった。
ブレトンウッズ会議は、何より、総力戦に向けた大規模な動員を図る戦時同盟の会合であった。それは、1944年7月、ノルマンディー上陸作戦とソ連による東部戦線の反攻に続くものだった。戦時下の会談は差異を小さくしたし、その目的は各国の経済を結び付けることだった。組み立てるブロックとなったのは、集権化された、国家の管理する戦時経済であった。それは政府間交渉であって、ビジネスマンでも銀行家でもなく、彼らはアメリカ財務省の力で連合軍の費用を支払ったのだ。
ブレトンウッズ体制の通貨観は、金に固定されたドルと、固定レートで各通貨の完全な交換性を保証する、というものだった。この条件は厳しく、ヨーロッパでもっとも戦災の少なかったイギリスでさえ、1947年、ポンドのドルとの交換性回復に失敗し、為替管理と輸入割当を再導入した。自由貿易のグランド・デザインであったハバナ憲章も国際貿易機構ITOもアメリカ議会で拒まれた。
現在とブレトンウッズとを結びつけて考えるのは、何よりIMFと世界銀行が存在するからだが、その制度の名前だけで、連続するものはない。すでに1946年4月には、両機関からソ連が欠席していた。冷戦はブレトンウッズ体制の基である国連を機能不全とし、代わってアメリカの覇権による北大西洋を軸とする秩序が現れた。
リベラルな秩序の現実は、多かれ少なかれ戦時統制の無計画な継続だった。長期投資を除く、ほとんどの国際資本移動は禁止されていた。貿易の自由化も遅かった。関税引き下げが交渉されたのは、戦後20年を経て、1960年代のケネディ・ラウンドからだった。ドイツと日本が巨大な貿易黒字を出して為替レート制度に圧力を生じた。それはロンドンに、アメリカ財務省とイギリス通貨当局の黙認で、ウォール街に金融抑圧の逃げ道として、1960年代のユーロダラー市場という規制緩和を生んだ。
1960年代後半には、まだ10歳でしかないが、ブレトンウッズ体制の命脈は尽きていた。デフレ圧力に直面したアメリカのR.ニクソン大統領が、経済ナショナリズムに方針転換した。ドル価値を下落させ、貿易不均衡が解消するのを促した。われわれの秩序が生まれた場所は、もしあるとすれば、1945年ではなく、1970年代の初め、人工通貨と変動相場制の黎明期であるだろう。それは賢明な集団的合意によるものではなく、カオスから、すなわち、世界金融秩序の保証をアメリカが一方的に拒んだことから生まれた。
為替レートの不安定さは西側世界のインフレがかつてない高水準に達するのを促した。それは今や、バーナンキが「偉大なる安定化」と呼んだ市場によるインフレ鎮静化に終わったが、その危機を最初に抑える試みは、市場革命ではなくコーポラティズムだった。政府、労働組合、雇用主が直接交渉によって物価と賃金の悪循環を止めようとしたのだ。しかし、経済への政治介入が強まり、民主的な統治不能、が議論された。
解決策は、アメリカ連銀議長であったP.ボルカーが回想録で明白に述べているように、連銀の荒っぽい強制であった。ボルカーが一方的に金利を引き上げ、ドル高、脱工業化、そして失業者の増大によって、労働者の組織は粉砕され、インフレ圧力も収まった。
1980年代の市場革命を経ても、まだ世界は、共産主義、資本主義、第3世界、という3つに分断されていた。この分断を乗り越えたのは、何よりも権力政治(軍事力)であって、交渉ではなかった。ダボスの群衆が称賛するのは、1945年の戦後秩序ではなく、冷戦後の秩序、西側の勝利の瞬間である。ブレトンウッズとインフレ鎮静化の後、ワシントン・コンセンサスの時代が来た。しかし、それは以前と同様に、権力政治の産物であった。国内では労働組合を抑え込み、海外ではソ連が崩壊し、北京の支配体制は中国を世界経済に組み込むことに合意した。
2008年以降、新しい秩序が、内的な機能不全、国内政治の反対派、成長の収斂がもたらした地政学的なパワー・シフトにより迫られている。歴史が何か示すとしたら、新しい秩序は、自分たちの取り分を得ると決意した関係者たちの争奪戦で決まる、ということだ。問題は、西側がそれを受け入れる覚悟があるのか、である。
The
Guardian, Thu 31 Jan 2019
The World Bank and IMF are in crisis. It's time to push a radical
new vision
David Adler and Yanis Varoufakis
● タリバンとの和平
FP JANUARY
31, 2019
It’s Time to Trust the Taliban
BY ANATOL LIEVEN
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The Economist January 19th 2019
The mother of all messes
France and Germany: Engine trouble
Arms control: terminators
Banyan: Island dean
Charlemagne: Beware the bio-populists
Brexit and Parliament: The Noses have it
Bagehot: The great rescrambling
Chinese debt: So bad it’s good
Buttonwood: The Albert call
Free exchange: Debtor alive
(コメント) Brexitがもたらした大混乱は、議会制民主主義の模範として尊敬されてきたはずのイギリスの威信を粉砕しました。Brexitがイギリスをこれほど破たんさせたのは、そもそもの基本概念を否定してしまったからでしょう。国家主権とは何か? 民主主義とは何か? Brexit以後、これらの言葉は、何一つ、優れた、明確な答えを示すモデルではなくなりました。
The Economistは、少なくとも時計を止めるように求めます。合意なき離脱は避けるべきだから。そして、議会が答えを見いだせないのであれば、総選挙を、そして、新しい代表たちが答えを見いだせず、国民に問うべきだと認めるなら、2度目の国民投票をも支持します。
なぜ議会は妥協を見いだせないのか? 記事は5つの要因を挙げます。1.Brexitそのものの複雑ださ。離脱派が主張したような簡単な過程ではない。2.イギリスの民主主義には憲法がなく、国民投票が明確に定義されていない。3.妥協を目指すより、論争が対立の激化に向かった。4.主要政党内、特に、保守党内が分裂した。5.メイ首相自身の政治スタイル、政治的選択が、対立を過熱させる、間違いだった。
では、どうなるのか? イギリスは保守党が分裂した1850年代に似てきた、というわけです。保守党も労働党も、さまざまな分派に解体し、その間で連立政権が何度も組み替えられるのではないか? それは、イギリス政治そのものの基本的枠組みが変わって、安定するまで続く。
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IPEの想像力 2/4/19
The EconomistのButtonwood:
The Albert callとFree exchange: Debtor aliveは、もしかすると意図して、世界化した資本主義システムの先端で生きる人々の抱く不安と安堵を紹介しています。
1つは、資本市場の「氷河期」が来る、という警告です。悲観シナリオのスペシャリスト、Albert Edwardsが以前から資本市場、そして、グローバル資本主義システムが崩壊する過程を具体的に描いていました。その起源にあるのは、中央銀行家たちの過剰な貨幣供給です。アラン・グリーンスパンのマイナスに近い超金融緩和に始まって、世界の資本市場はQEの貨幣にあふれています。その結果は、日本が示す債務累積とデフレ、長期金利はますます下落し、債券価格が上昇する状態です。
今やQEの逆転が始まったために、債券市場の動揺はアメリカの株価を下落させ、中国の債務依存型成長をくじき、EUを憎むイタリアの若者たちがユーロ解体を求めます。貯蓄家たちは現金や金を求め、富裕層をさらに豊かにしたQEに対して高まる政治的反発は、左派政権による人民のためのQEや、巨額の減税策を示すでしょう。その財源は中央銀行による貨幣化です。
しかし、日本でわかったように、利潤を挙げる企業だけがまともな投資先である、と。
もう1つは、債務の増大を恐れるエコノミストたちの常識を否定する動きです。もはや、債務が返済されるしかないことを前提した緊縮策は支持されません。債務は、決して危険なものではなく、むしろ、成長率が利子率を超えている限りはその水準を無視してよいのです。増税さえも必要ない、むしろ財政再建は好ましくなかった、と。
極端な場合、金融抑圧、すなわち、債務は政府によって解消されます。資本移動を禁止し、低金利を強いて、政府は資金調達できるからです。そのコストは確かにあるものの、歴史的な経験は、これによる経済・財政状態の改善を排除しません。むしろ、政治家たちは財政赤字を、自分たちの無策の言い訳にしたのではないか?
QEの「うさん臭さ」は消えることなく、そもそも資本主義システムが投資家の「合意的な」判断や、資本市場の「効率的な」資源配分、を前提することに、はっきりと疑問をぶつけること。さまざまな決定の実際の政治的含意や、誰にとっての正義や意味なのか、真剣に議論すること。
そういう時代をわたしたちは拓いている、と思います。
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